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裁判例


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平成15年(行ケ)第587号 審決取消請求事件
平成16年10月25日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 アイリスオーヤマ株式会社
 訴訟代理人弁護士 安江邦治,石川美津子,弁理士 羽切正治
 被 告 株式会社伸晃
 訴訟代理人弁理士 濱田俊明
     主    文
 特許庁が無効2003-35130号事件について平成15年11月18日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
 本判決においては,審決,本件発明の請求項等の記載や書証等を引用する場合を
含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。例えば,「または」
は「又は」,「および」は「及び」,「即ち」は「すなわち」,「共に」(副詞を
除く)は「ともに」と表記した。なお,「弯曲」は「湾曲」と表記した。
第1 原告の求めた裁判
 主文同旨の判決。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,被告を特許権者とする後記本件特許について,無効審判の請求
をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを
求めた事案である。
 1 特許庁における手続の経緯
(1) 本件特許
 特許権者:株式会社伸晃(被告)
 発明の名称:「置棚」
 特許出願日:平成9年12月25日(特願平9-368696号)
 設定登録日:平成14年10月11日
 特許番号:第3358173号
 (2) 無効審判手続
 審判請求日:平成15年4月8日(無効2003-35130号)
 審決日:平成15年11月18日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成15年11月28日(原告に対し)
 2 本件発明の要旨(以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発
明1」などという。)
 【請求項1】 左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自在な取
替棚を掛止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管を伸縮可能に挿通
してなるとともに,上記外管の伸縮方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面
に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に
対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,
所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止したことを特徴とする置棚。
【請求項2】 外管の内管挿通側の先端には,固定棚の外管支持部と当接する抜
止部を設け,外管の最大伸長を規制した請求項1記載の置棚。
【請求項3】 固定棚及び取替棚は,上下方向の通気孔を有する請求項1又は2
記載の置棚。 
 3 審決の理由の要点
 (1) 審決は,まず,原告が,証拠として,(a)特開平9-308532号公報
(審判甲1,本訴甲3。以下,本判決では,審決の引用する場合も含め,便宜上,
「引用例1」といい,これに記載された発明を「引用発明1」という。),(b)特開
平9-65937号公報(審判甲2,本訴甲4。以下,同様に,「引用例2」,
「引用発明2」という。),(c)実願昭51-47314号(実開昭52-1371
22号)のマイクロフイルム(審判甲3,本訴甲5。以下,前同様に,「引用例
3」,「引用発明3」という。)を提出し,本件発明1ないし3は,これらに記載
された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると主張した
ことを摘示した。
 その上で,審決は,引用例1ないし3の記載内容,周知慣用技術の証拠とされた
登録実用新案3004815号公報(審判甲6,本訴甲7),登録実用新案303
1710号公報(審判甲7,本訴甲8)の記載内容を認定した。
 (2) 審決は,本件発明1と引用発明1を対比し,一致点を次のとおり認定した。
 「引用発明1の『柱部材』,『伸縮パイプ材』,『基本板』,『外筒』,『内
筒』,『棚構造』は,本件発明1の『支脚』,『棚受用横桟』,『取替棚』,『外
管』,『内管』,『置棚』に相当するから,両者は,『左右の支脚間に前後に架橋
した棚受用横桟上に適宜着脱自在な取替棚を掛止してなる置棚において,上記棚受
用横桟は外管に内管を伸縮可能に挿通してなるとともに,所定枚数の取替棚を棚受
用横桟に掛止した置棚』である点で一致する。」
 (3) 審決は,本件発明1と引用発明1を対比し,相違点を次のとおり認定した。
 「本件発明1は,『外管の伸縮方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面に
設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対
して上記外管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所
定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止する』ものであるのに対し,引用発明1は,
固定棚を有しておらず,かつ取替棚は外管及び内管上に掛け止めされるものである
点で相違する。」
 (4) 審決は,上記相違点について,次のとおり判断した。
 「本件発明1の上記相違点に係る事項については,引用例2又は引用例3にも,
記載されていないし示唆もない。すなわち,引用例2には,左右の支脚(支持脚)
間に前後に架橋した棚受用横桟(棚受バー)上に着脱自在な取替棚(棚部材)を掛
止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管(大径管)に内管(小径管)を伸
縮可能に挿通してなるものであることは記載されているが,引用例2記載の置棚も
固定棚を有しておらず,取替棚を固定棚の先端の支持部に対して摺動する外管に掛
止することは記載も示唆もない。また,引用例3には,複数本並列する小径パイプ
及び大径パイプを有する水切棚が記載されているが,パイプ自体を棚部材とするも
のであって,固定棚,取替棚を設けることは記載も示唆もない。また上記相違点に
ついては,周知例として提示された甲6又は甲7(判決注:本訴甲7又は甲8)に
も示されていない。
そして,本件発明1は,上記相違点に係る事項を含む全体として,左右の支脚間
に伸縮可能な横桟を設けた置棚において,固定棚は後方に取付けた支脚と横桟の外
管で水平状態に支持され,取替棚は横桟の外管のみで支持されるため,『ガタツキ
がなく,外管の径に見合って十分な積載荷重を確保することができる』等の明細書
記載の特有の作用効果を奏するものと認められる。
したがって,本件発明1は,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであるとすることはできない。」
 (5) 審決は,本件発明2,3について,次のとおり認定判断した。
 「本件発明2,3は,本件発明1の『置棚』を特定する事項をすべて含むもので
あるから,本件発明1が引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであるとすることができない以上,同様に,引用発明1ないし3
に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできな
い。」
 (6) 審決は,請求人(原告)の主張を排斥する理由として,次のとおり説示した。
 「本件発明の『固定棚』は,『その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌
入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して外管をその伸縮に応じて摺動
自在に挿通して水平に支持』されるものであり,支脚及び棚受け用横桟と連結され
ており,取り外すことのできないのものである。一方,引用例1に記載の棚構造
は,左右の支脚(柱部材1)を,左辺部材2・右辺部材3の後方部に設けた取付孔
(柱部材挿入用の筒部11)に嵌入するとともに,左辺部材2・右辺部材3に棚受
け用横桟(伸縮パイプ材4)を連結し,該棚受け用横桟上に,基本板6を連結した
伸縮棚板部5を載置するものであり,『伸縮棚板部5(基本板6,6)』は棚受け
用横桟に対し,着脱自在なものであるから,引用発明1が『固定棚』を備えている
とすることはできず,引用例1に『固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管
側の支脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその
伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持』する構成が開示されてい
るとすることもできない。」
第3 原告の主張(審決取消事由)の要点
 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)
 審決は,本件発明1及び引用発明1の認定を誤った結果,両者の相違点の認定
(前記第2,3(3))を誤った。
 (1) 審決の認定について
 審決は,上記相違点の認定において,本件発明1について,「外管の伸縮方向に
一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入する
とともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自
在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止す
る」ものであると認定し,かつ,原告の審判における主張を排斥する理由として,
「本件発明の『固定棚』は,『その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入
するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して外管をその伸縮に応じて摺動自
在に挿通して水平に支持』されるものであり,支脚及び棚受け用横桟と連結されて
おり,取り外すことのできないものである」と説示した(前記第2,3(6))。
 しかし,審決の上記認定は,誤ったものである。
 (2) 本件発明1の構成について
 本件明細書の記載(甲2の4欄5行~7行,4欄13行~14行,4欄48行~
49行,4欄9行~10行,5欄11行~12行)及び添付図面(甲2の図1)に
よれば,本件発明1の「固定棚」は,外枠と1枚又は複数枚の取替棚と同一の部材
が何らかの手段で結合されてなるものであり,外枠の裏面に設けられた取付孔3a
には左右の支脚1bが着脱自在又は固定的に組み付けられ,内管2bは,上記外枠
の嵌入孔3cに,支脚1a側の外枠に嵌入・固定された外管2aと水平になるよう
な高さに着脱自在又は固定的に組み付けられていることがわかる。
 すなわち,本件発明1の「固定棚」の具体的構成は,請求項の文言からは,固定
棚は,一定長を有する棚であって,その裏面には支脚を取り付ける取付孔があり,
その先端には外管を挿通する支持部があるという構成からなるものであることは理
解できるが,少なくとも,図1の嵌入孔3cは固定棚に存在するのか他の部材に存在
するのか,あるいは固定棚がどのような寸法・形状からなるものであるかは全く不
明である。そして,上記図1によれば,固定棚3は,その後方端の外枠に取替棚4
と同一の部材2枚分が結合してなるものであり,外管2aは固定棚3の前方側の外
管2aの端部にある外枠の嵌入孔に嵌入・固定されていることが示されている。ま
た,支脚1bは,請求項1に取付孔3aに嵌入するとの文言があり,この文言から
は,固定棚とは別の独立した部材であって,固定棚に着脱自在又は固定的に組み付
けられるものである,との解釈が生ずるのである。
 そうだとすると,審決の認定のように,「固定棚は,支脚及び棚受け用横桟と連
結されており,取り外すことのできない」構成は,単に,上記の組み付け方法に由
来するにすぎない。
 なお,棚受け用横桟の外管2aは,固定棚の先端の支持部に対して,その伸縮に
応じて摺動自在に挿通しているのであるから,固定棚と外管2a,すなわち,棚受
け用横桟は,取り外し不能な状態で連結されているわけではない。
 また,「固定棚の先端の支持部」の構成は,本件明細書中において何ら特定され
ておらず,「固定棚を水平に支持」する機能は,固定棚の後方端に存在する外枠の
嵌入孔3cに嵌入された内管2bと固定棚の前方に存在する上記外枠の嵌入孔に嵌
入・固定された外管2aの高さとを調整することによって得られるものであって,
「固定棚の先端の支持部」の機能に由来するものではない。
 さらに,「固定棚の先端の支持部」の構成は,本件明細書中において何ら特定さ
れておらず,「外管2aをその伸縮に応じて摺動自在に挿通」するものであればよ
いのであるから,U字形あるいは逆U字形のものも含まれることになり,逆U字型
の「支持部」を想定した場合,本件発明1の取替棚4の鈎部4b及び引用発明1の
基本板6の両端部にある湾曲掛止部23と何ら異ならないことになる。
 (3) 引用発明1の構成及び本件発明1との対比について
 (a) 審決は,引用発明1が本件発明1のような「固定棚」を有していないことを
相違点として認定した。
 しかし,引用発明1には,本件発明1の「固定棚」が存在する。
 すなわち,引用例1(甲3)の記載及び図1,2によれば,引用発明1の左辺部
材2,柱部材1,筒部11,切欠き受部20,基本板6,伸縮パイプ材4の外筒1
5及び内筒16は,それぞれ,本件発明1の外枠(符番なし),支脚1b,取付孔
3a,嵌入孔3c,固定棚3又は取替棚4,外管2a及び内管2bに相当する部材
であるところ,引用発明1においては,右辺部材3(外枠)の内方側に開口する複
数の嵌合受部24に基本板6(取替棚)の突出部8,又は短突出部9が嵌め込ま
れ,また,一枚の基本板6(取替棚)の差込孔部10に他の基本板6(取替棚)の
櫛歯状突出部が差し込まれて結合されており,右辺部材3(外枠)の裏面に設けら
れた筒部11(取付孔3a)に左右の柱部材1(支脚1b)が着脱自在又は固定的
に組み付けられ,伸縮パイプ材4の内筒16(内管2b)の端部を右辺部材3(外
枠)の切欠き受部20(嵌入孔3c)に対し,左辺部材2(固定棚の前方側に存在
する外枠)の切欠き受部20(嵌入孔)に縣架・固定した外筒15(外管2a)の
端部との高さを調整して縣架・固定し,右辺部材3(外枠)の接合受部24に支持
固定された基本板6(固定棚3)を水平に支持している。
 したがって,引用発明1には,本件発明1の固定棚3と同一の構造を有する基本
板6が存在する。
 上記のように,基本板6の突出部8を右辺部材3の嵌合受部24に嵌め込んで支
持固定すれば,本件発明1の「外枠と1枚の取替棚4」からなる「固定棚3」と同
一の固定棚が形成されるのである。このようにして,右辺部材3と1枚又は複数枚
の基本板6が組み付けられて固定棚を構成している。
 また,右辺部材3(外枠)と柱部材1及び内筒16を固定すれば,審決が認定し
た「支脚及び棚受け用横桟(正確には,内管2b)と連結されており,取り外すこ
とのできない」本件発明1の固定棚と全く同一の固定棚が得られる。
 そして,上記のように,伸縮パイプ材4の外筒15に伸縮自在に挿通されている
内筒16が,右辺部材3の切欠き受部20(嵌入孔3c)に縣架・固定され,か
つ,基本板6が右辺部材3の嵌合受部24に嵌合固定されているのであるから,基
本板6は,内筒16の上方(基本板6と内筒16とは接触していない)に位置し,
その先端に位置する湾曲掛止部23は,その湾曲部内に外筒15を抱え込むように
挿通した状態にある。このような状態で伸縮パイプ材4が伸縮する場合,内筒16
は右辺部材3の切欠き受部20にその一端が固定されているために移動することは
できず,外筒15が摺動することによって伸縮パイプ材4の伸縮を可能とする。そ
の結果,外筒15は,右辺部材3に嵌合固定された固定棚を構成する基本板6の先
端にある湾曲掛止部23の湾曲内を摺動することになる。このように,固定棚を構
成する基本板6の先端の湾曲掛止部23は,外筒15を摺動自在に挿通する支持部
の機能を有する。
 (b) 審決は,また,引用発明1には,取替棚に相当する基本板が存在することは
認めたものの,取替棚が外管及び内管上に掛け止めされ,外管上に掛止するもので
ないことを相違点とする。
 しかし,引用発明1の基本板6の突出部8及び短突出部9を除去すれば,基本板
6は,本件発明1の取替棚4と何ら異なるところのない取替棚となる。また,引用
発明1においては,基本板6(固定棚3及び取替棚4)の湾曲掛止部23(鈎部4
b)は伸縮パイプ材4の外筒15(外管2a)上に掛止されており,したがって,
所定枚数の基本板6(取替棚4)は,外筒15(外管2a)上に掛止されている。
 引用例1の段落【0035】の「基本板6の枚数を増減することによって,より伸縮
調整範囲を広げることができ,設置スペースや整理する物品の量に対応した棚を設
けることができる。」との記載から,基本板6は,本件発明1における取替棚と同一
の機能及び作用を有する棚であることが理解できる。
 (c) 以上のとおり,審決の相違点の認定は誤っている。
 2 取消事由2(本件発明2,3と引用発明1との相違点の認定判断の誤り)
 審決は,上記のように誤った結果,本願発明2,3についても,認定判断を誤っ
た。
第4 被告の主張の要点
 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)に対して
 (1) 審決の認定について
 審決の認定は,誤りではない。
 (2) 本件発明1の構成について
原告は,本件発明1の構成について前記のとおり主張するが,誤りである。
 まず,本件明細書には「外枠」という技術用語は一切使用されていないばかり
か,「固定棚」が「複数枚の取替棚と同一の部材が何らかの手段で結合されて」い
るような記載も存在しない。すなわち,本件明細書では「固定棚」は,「外管2a
の伸縮方向に一定長を有する」ものであること,及び「固定棚3の長さを変更できる
ことはもちろんである」と記載されているが,「複数枚の取替棚を外枠と組み付け
て『固定棚』を構成している」ことを明示あるいは示唆している記載はない。ちな
みに,本件明細書に添付された図1を精査しても,固定棚3はその表面に模様とし
ての直線は配されているが,一部切断面から判断した場合には一体となっているこ
とが明らかである。よって,原告の主張は,本件明細書の記載を離れたものであ
る。
 また,支脚が外枠裏面の取付孔に,そして,内管が外枠の嵌入孔に,それぞれ着
脱自在又は固定的に組み付けられているという特定についても,明細書の記載を離
れた主張である。本件発明1ではこれらの構成要素が着脱自在であることは何ら必
須の要件ではなく,組み立てられた状態においてどのような作用効果を発揮するか
を重要としているのである。
 「本件発明1の固定棚は,支脚及び棚受け用横桟と連結されており,取り外すこ
とのできない」構成であるとの審決の認定は正当であり,この点についても「単に
組み付け方法に由来するにすぎない構成である」とする原告の主張は,本件発明1
の構成を誤って特定したことを前提とする主張である。
 「固定棚と外管,すなわち,棚受け用横桟が取り外し不能な状態で連結されてい
るわけではない」との原告の主張についても,本件発明1については,外管2aが
固定棚の先端の支持部に対して,伸縮に応じて摺動自在に挿通していることが必須
の構成要件であると判断することで十分であり,無理に取り外してそれぞれを部品
の状態に戻すようなことを想定する必要はない。
 さらに,原告は,「固定棚の先端の支持部」の構成が明細書中において何ら特定
されていないと主張するが,この点についても解釈を誤っている。本件請求項1の
記載によれば,支持部が外管を挿通して固定棚を水平に支持する作用を有すること
は明白である。
 また,原告は,支持部はU字形あるいは逆U字形のものも含まれると主張してい
るが,本件発明1は,支持部に対して外管を挿通するというものであり,「挿通」
とは,何かを「挿し通す」ことであり,「支持部」は外管を摺動自在に挿通する構
成であることは明らかである。原告の主張は,本件発明1の構成を無視するもので
ある。
 引用発明1の湾曲掛止部23は,伸縮パイプ材4を抱えるように引っ掛けるもの
であり,本件発明1の固定棚に存在する支持部のように外管を摺動自在に挿通する
構成ではない。つまり,引用例1には,本件発明1の固定棚の支持部は実体として
は何ら記載されておらず,これが存在するという原告の主張は,技術解釈を誤った
ものである。引用例1の湾曲掛部23は,伸縮パイプとの関係では基本板を伸縮パ
イプに掛止するものであり,本件発明1に照らし合わせると,取替棚を掛止すると
いう概念に相当する。本件発明1では,取替棚を掛止する構成と,固定棚の支持部
に外管を挿通する構成とは全く別個の構成であるが,原告は,単一構成である湾曲
掛部に相容れない2つの機能を持たせており,誤った理解に基づくものである。
 (3) 引用発明1の構成及び本件発明1との対比について
 原告は,引用発明1も本件発明1の「固定棚」と同一の構造を有する基本板6が
存在すると主張するが,前記のとおり,本件発明1では,固定棚が外枠と1枚の取替
棚からなるような特定はされていない。
 ところで,引用発明1では,基本板6同士も順次連結できるのであるから,連結
した複数の基本板は全て固定棚を構成することになり,本件発明1における取替棚
は存在しないことになって,原告の主張は,全体として矛盾することになる。
 取替棚については,引用例1では図6からも明らかなように基本板6は外管上に
も掛止するが,内管上にも掛止されることは避けられない構造である。原告は,基
本板6の突出部8及び短突出部9を除去すれば,基本板6は本件発明1の取替棚4
と異なるところはないと主張するが,このような構成は引用例1に記載されていな
い。引用例1における基本板では,突出部及び短突出部の存在は不可欠である。し
たがって,上記突出部及び短突出部につき,必要に応じて固定棚の場合には存在す
るとし,取替棚の場合には付加であるとして無視する手法は,先行技術の位置づ
け,あるいは公知技術の読み方を誤った解釈であるというべきである。
 上記のように,同一の構成である基本板6が一方では固定棚に該当し,他方では
構成を変えれば取替棚に該当するという解釈は,技術的に矛盾しており,引用例1
の引用手法を誤ったものである。
 相違点についての審決の認定には,違法はない。
 2 取消事由2(本件発明2,3と引用発明1との相違点の認定判断の誤り)に
対して
 本件発明2,3は,本件発明1をより具体的に限定したものであり,上述したよ
うに本件発明1についての審決における対比判断に違法がない以上,同様に本件発
明2,3についての審決の認定判断にも誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本件発明1と引用発明1との相違点の認定の誤り)について
 (1) 審決の認定について
 前記のとおり,審決は,本件発明1と引用発明1との相違点として,「本件発明
1は,『外管の伸縮方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔
に内管側の支脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管
をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替
棚を前後の外管上に掛止する』ものであるのに対し,引用発明1は,固定棚を有し
ておらず,かつ取替棚は外管及び内管上に掛け止めされるものである点で相違す
る。」と認定した。要するに,①引用発明1は,本件発明1における固定棚を有し
ないこと,②引用発明1も取替棚は有するものの,引用発明1の取替棚は,外管及
び内管上に掛け止めされるものであって,本件発明1の取替棚のように外管上に掛
止するものでないことを認定した。
 原告の主張は,引用発明1は上記のいずれをも具備しているのであって,審決
は,本件発明1及び引用発明1の認定を誤った結果,相違点の認定を誤ったという
ものである。以下,順次検討する。
 (2) 本件発明1の構成について
 (2-1) 本件請求項1を再掲すると次のとおりである。
 「左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自在な取替棚を掛止し
てなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管を伸縮可能に挿通してなるとと
もに,上記外管の伸縮方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付
孔に内管側の支脚を嵌入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外
管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取
替棚を前後の外管上に掛止したことを特徴とする置棚。」
 (2-2) 本件発明1の置棚の骨組構造について
 上記請求項1の記載及び本件明細書(甲2)の記載によれば,本件発明1に係る
置棚は,4本の支脚,1対の棚受用横桟(それぞれにつき外管に内管が伸縮可能に
挿通)及びこれらを結合する部材からなる骨組構造を有すること,そして,その横
桟上に棚部材が設けられる構成となっていることが認められる(内管側の支脚は,
固定棚の取付孔に嵌入されることが認められるが,外管及び外管側の支脚が嵌入さ
れる部材については,請求項にも本件明細書にも記載が見当たらないが,実施例で
ある図1によれば,同図の右端に外管及び外管側の支脚が嵌入される1つの部材が
記載されている。この部材を便宜,「右端部材」という。)。
 (2-3) 「固定棚」について
 (a) 固定棚に関する本件明細書(甲2)の記載としては,次のものがある。
 「【0011】3は,外管2aの伸縮方向に一定長を有する固定棚であって,その後
方に設けた取付孔3aに内管2b側の支脚1bを嵌入するとともに,前方に設けた
支持部3bに対して外管2aを摺動可能に挿通して,水平に支持したものである。
すなわち,当該固定棚3は,内管2b側の支脚1bから外管2aにかけて水平に支
持され,外管2aに対する支持部3bは当該外管2aの伸縮に応じて摺動自在に支
持されている。
 【0012】上記固定棚3において,内管2bの一端は嵌入孔3cに固定されてい
る。
 【0015】また,本実施形態では,固定棚3及び取付棚4の双方を外管2aのみで
支持することとしたので,両棚材3・4をガタツキなく,水平に支持することがで
きた。さらに,取付棚4を内管2bよりも径の大きい外管2aに載置するようにし
たので,棚材の積載荷重を十分なものとすることができた。
 【0016】なお,上記実施形態では,押入用の置棚について説明したが,適用しよ
うとする収納空間に応じて,外管2aの長さや,その伸縮範囲,すなわち固定棚3
の長さを変更できることはもちろんである。
 【0017】【発明の効果】以上説明したように,棚受用の横桟を伸縮自在に構成し
たので,収納空間の寸法に応じて置棚のサイズを調整できる。また,固定棚及び取
替棚を外管のみで支持することとしたため,ガタツキがなく,外管の径に見合って
十分な積載荷重を確保することができる。さらに,…固定棚の長さに応じて伸縮範
囲を設定することができるため,当該固定棚のみを数種類用意するだけで,あらゆ
る尺度寸法に適応する置棚を提供することができる。」
 (b) 以上の記載に照らせば,本件発明1に係る「固定棚」は,取替棚とは別の名
称とされていること,外管の伸縮方向に一定長を有すること,伸縮範囲を設定すべ
く長さの異なる数種類のものを用意することもできること(適用しようとする収納
空間に応じて,長さを変更できるとも記載されている。),内管側の支脚が嵌入さ
れるものであること,固定棚の先端の支持部に外管が伸縮に応じて摺動可能に挿通
されていること,このように摺動可能に挿通していることで,水平に支持されるこ
とが認められる。
 (2-4) 「取替棚」について
 (a) 取替棚に関する本件明細書(甲2)の記載としては,次のものがある。
 「【0013】4は取替棚であって,側壁4aに形成した鈎部4bにより上記外管2
a・2a間に掛止可能としたものである。なお,取替棚4は外管2aの伸縮程度に
応じて適宜枚数を掛止するものであり,その幅は特に限定されない。
 【0017】(判決注:上記のとおり。)」
 (b) 以上の記載に照らせば,本件発明1に係る「取替棚」は,伸縮可能な棚受用
横桟の外管上に(側壁4aに形成した鈎部4bにより)適宜着脱自在に掛止される
こと,幅は特に限定されないが,(外管2aの伸縮程度に応じて)適宜枚数が用い
られることが認められる。
 (2-5) 本件発明1に係る棚の水平支持について
 棚自体は,物をその上に載置するためのものであるから,技術常識に照らし,水
平姿勢に保持されているものと理解される。そして,左右の支脚間に前後に架橋さ
れた棚受用横桟の上で棚板が保持されることから,当該横桟は,水平に延びている
と考えるのが相当である。
 (3) 引用発明1の構成について
 (3-1) 甲3における請求項1の記載,実施の態様に係る段落【0009】ない
し【0018】の記載及び図面の記載によれば,引用例1(甲3)には,「左右の柱部
材1,1に前後に架橋した伸縮パイプ材4,4上に適宜着脱自在な基本板6を掛止
してなる置棚において,上記伸縮パイプ材4,4は外筒に内筒を伸縮可能に挿通し
てなり,左右の柱部材1,1を,左辺部材2・右辺部材3の後方部に設けた柱部材
挿入用の筒部11に嵌入するとともに,左辺部材2・右辺部材3に伸縮パイプ材
4,4を連結し,所定枚数の水切り窓部22を有する基本板6を二枚以上連結して
平面板状に形成した伸縮棚板部5を,前後の伸縮パイプ材4,4上に掛止した棚構
造。」との発明が記載されているものと認められる。
 (3-2) 「基本板」について
 (a) 引用例1には,上記の伸縮棚板部を構成する「基本板」に関する記載とし
て,次のものがある。
 「【0016】そして,この一の基本板6の櫛歯状突出部8…を,隣り合う他の基本
板6の差込孔部10…に,(図8に示す如く)差込深さ調整可能(スライド移動可
能)に差込み,基本板6を2枚以上順次連結して平面板状に伸縮棚板部5が形成さ
れている。
 【0017】また,基本板6の前後,つまり,平板部7前後部の両側面に湾曲鍔状の
湾曲掛止部23,23が設けられ,この湾曲掛止部23,23にて一対の伸縮パイ
プ材4,4を抱えるようにして引っ掛けて,伸縮棚板部5が載置状に支持されてい
る。
 【0023】また,図1と図2に示す如く,一対の伸縮パイプ材4,4に支持される
伸縮棚板部5は,その両端部である左右の基本板6,6の短突出部9…と突出部8
…とを,(上述の)左辺部材2の嵌合受部24…と右辺部材3の嵌合受部24…に嵌め
込んで支持固定されている。これによって,伸縮棚板部5が受ける重い荷重に対し
て,十分耐えることができる強度を得ることができる。また,伸縮棚板部5が,不
意に伸縮パイプ材4,4から外れたり,横ずれしないので,伸縮棚板部5が所望の
長さに維持される。かつ,上述のように全体左右長さを調節した基本板6…の寸法
と,左右辺部材2,3の間隔寸法の僅かの差を吸収できる。
 【0035】また,同じ形状の基本板6を利用することができるので,製作が容易で
ある。また,所定枚数の基本板6…からなる伸縮棚板部5にて伸縮調整可能である
が,基本板6の枚数を増減することによって,より伸縮調整範囲を広げることがで
き,より設置スペースや整理する物品の量に対応した棚を設けることができる。」
 (b) 上記記載に照らせば,引用発明1の基本板は,(A)2枚以上を順次相互に櫛
歯状突出部8を差込孔部10に差し込むことで一体化されて伸縮棚板部5を形成す
ること,(B)基本板6の相互間の差込深さを調整することで伸縮棚板部5の全長が調
整できること,(C)基本板6の両側面には湾曲鍔状の湾曲掛止部23,23が設けら
れており,伸縮パイプ材を抱えるようにしてに引っ掛けて,載置・支持されるこ
と,(D)柱部材1,1に固着された左辺部材2,右辺部材3に隣接する基本板6,6
は,短突出部9…あるいは突出部8…とを,左辺部材2の嵌合受部24…あるいは
右辺部材3の嵌合受部24…に嵌め込んで支持固定されていること,(E)基本板6を
同じ形状とすることで製作が容易となることが認められる。
 (3-3) なお,引用発明1の棚についても骨組構造を見ておくと,引用例1(甲
3)の記載によれば,伸縮パイプ材4と,これが架橋される左辺部材2と右辺部材
3,及びこれら左辺部材2,右辺部材3のそれぞれに挿入固定される柱部材1,1
(本件発明1の支脚に相当)とから骨組構造が形成されていることが認められる。
なお,上記甲3によれば,当該骨組構造上に伸縮棚板部5(基本板6を2枚以上順
次連結)が載置されるものであることも認められる。
 (4) 審決の相違点の認定の当否について
 (4-1) 審決は,一致点の認定として,「引用発明1の『柱部材』,『伸縮パイプ
材』,『基本板』,『外筒』,『内筒』,『棚構造』は,本件発明1の『支脚』,
『棚受用横桟』,『取替棚』,『外管』,『内管』,『置棚』に相当するから,両
者は,『左右の支脚間に前後に架橋した棚受用横桟上に適宜着脱自在な取替棚を掛
止してなる置棚において,上記棚受用横桟は外管に内管を伸縮可能に挿通してなる
とともに,所定枚数の取替棚を棚受用横桟に掛止した置棚』である点で一致す
る。」と説示するが,証拠(甲2,3)に照らし,相当として是認し得る(原告,
被告ともに争う趣旨ではない。)。
 (4-2) 引用発明1が本件発明1における固定棚を有するかについて
 (a) 本件明細書(甲2)によれば,本件発明1の実施例である図1においては,
内管が図面に向かって左側に,外管が右側にあり,固定棚は,左側部分に存在する
ことが認められる。一方,引用例1(甲3)によれば,引用発明1の実施例である
図1,2,6,10においては,本件発明1の図1とは左右が逆であり,内筒(本
件発明1の内管)が図面に向かって右側に,外筒(外管)が左側にあることが認め
られる(以下,図面における「左」「右」とは,図面に向かって「左」か「右」か
という意味で記載する。引用例1でも同様の意味で記載されている。)。
 そして,原告は,引用発明1において,右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6
が組み付けられて固定棚を構成していると主張する(引用例1の図2,6,10に
おいていえば,右辺部材3と,3枚ある基本板6のうちの右側と中央の2枚の基本
板6とで,固定棚を構成しているとの趣旨であると解される。)。
 (b) 検討するに,引用例1(甲3)の段落【0023】には,「伸縮棚板部5は,そ
の両端部である左右の基本板6,6の短突出部9…と突出部8…とを,(上述の)
左辺部材2の嵌合受部24…と右辺部材3の嵌合受部24…に嵌め込んで支持固定
されている。」と記載されており,右側の基本板6は,右辺部材3に支持固定され
ているというのであるから,基本板と右辺部材という別の部材とされてはいるが,
両者は一体化されているものと認められる。
 また,中央の基本板6と右側の基本板6との関係についてみると,引用例1(甲
3)の前記段落【0016】,【0017】に加え,段落【0018】ない
し【0022】,【0024】ないし【0027】の記載に照らせば,基本板の櫛歯状突出部8
を隣り合う他の基本板6の差込孔部10に差し込んで連結するものであり,その差
込みの深さは調整可能であるが,調整後は,その調整された位置関係を保持するも
のであることが認められる。
 そうすると,右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6は,上記のように,嵌め込
んで支持固定又は差し込んで連結することにより,一体化されているものといえる
(引用例1の図2,6,10においていえば,右辺部材3と,3枚ある基本板6の
うちの右側と中央の2枚の基本板6とが一体化されているといえる。)。
 (c) そこで,上記のように右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6という別の部
材を一体化したものが,本件発明1の「固定棚」といえるか否かを検討する。
 原告は,本件明細書(甲2)添付の図1によれば,本件発明1の固定棚は,後方
端(左側)の外枠に取替棚4と同一の部材2枚分が結合してなるものであると主張
する。上記図1をみると,固定棚3の幅が取替棚3枚分程度のものとして記載され
ており,この範囲で棚受用横桟2の伸縮が可能であること,固定棚3の表面に取替
棚相当の幅の位置に線が存在すること(取替棚3枚分程度のため線は2本)が認め
られる。しかし,図1においては,固定棚の切開断面は,棚の厚さが等しくなって
おり,線の部分の断面に側壁様のものは見当たらない。そうすると,図1の記載か
ら,直ちに,原告主張のような部材が結合してなるものであると認めることは困難
である。
 しかしながら,本件発明1の「固定棚」に関する前記請求項の記載及び本件明細
書の記載を検討すると,固定棚を複数部材から構成することを積極的に排除する記
載は認められず,かえって,段落【0016】には,「適用しようとする収納空間に応
じて,外管2aの長さや,その伸縮範囲,すなわち固定棚3の長さを変更できるこ
とはもちろんである。」とも記載されている。これらに照らせば,本件発明1にお
いては,「固定棚」につき,複数部材により構成して長さを変更することができる
ようにすること,すなわち伸縮範囲を変更可能な構成を採用することが排除されて
いるものとはいえない(なお,本件発明1の「外管の伸縮方向に一定長を有する」
との要件は,「長さを変更しない」との意味に解し得る余地はあるものの,上記段
落【0016】の記載からみれば,棚の長さの伸縮範囲を特定するところの「一定長さ
を有する」と解釈することもできるのであって,上記要件から複数部材を組み合わ
せて固定棚とするものを含まないということはできない。)。
 したがって,本件発明1の「固定棚」は,(一体成型されるなどした)単一の部
材からなるものに限定されてはいないというべきであって,前認定の引用発明1に
おける右辺部材3と1枚又は複数枚の基本板6の一体化されたもの(引用例1の図
2,6,10の例では,右辺部材3と右側及び中央の2枚の基本板6とが一体化さ
れたもの)も含まれるというべきである。
 (d) 次に,本件請求項1のいう「当該固定棚の先端の支持部に対して外管をその
伸縮に応じて摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し」との点について検討す
る。
 本件請求項1の記載によると,「固定棚」については,「上記外管の伸縮方向に
一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌入する
とともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて摺動自
在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止し
た」と記載されており,「固定棚」は「当該固定棚の先端の支持部に対して上記外
管をその伸縮に応じて摺動自在に挿通し」たことで,「水平に支持」されること
と,「所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止」されることが特定されているとい
うことができる。そして,その「摺動自在」の特定からみて,外管の伸縮に際して
「固定棚の先端の支持部」と「外管」とが接触状態を維持しているものであって,
これにより外管と固定棚の位置関係,特に高さ関係が保持されているものと認めら
れる。
 一方,引用例1(甲3)においては,基本板相互が結合されるものとして記載さ
れており,例えば,図2,6,10(基本板の櫛歯状突出部を隣の基本板の差込孔
部に深く差し込んだ図6の場合がより典型的である。)の場合,右側の基本板6に
おける湾曲掛止部23(図2,10には湾曲掛止部23の指示はないが,図6には
ある。)は,伸縮パイプ材4の内筒16の上方に位置するものであって,外筒15
に掛止するものではない。次に,図2,6,10の中央の基本板6は,前記突出部
8と差込孔部10との差込結合構成によって,右側の基本板6と一体化されている
ことから,右辺部材3とこれらの2枚の基本板6は,前記のとおり,全体として一
体の固定棚と呼び得るものである。そして,中央基本板6の湾曲掛止部23は,伸
縮パイプ材4の外筒15を抱えるように接している状態となっており(図1,4も
参照。),上記のように差込結合構成によって一体化されているのであるから,中
央基本板6の湾曲掛止部23で外筒15を抱えるように接している部分は,固定棚
の先端であるといえ,これに対して外筒15がその伸縮に応じて摺動自在となって
いることが認められる(図1,2,4,6,10)。
 「固定棚の先端の支持部」の形状については,本件明細書(甲2)に添付の図1
の図示(3b部分の断面)をみると,判然とはしないが,固定棚の先端部に円形の
孔が設けられ,外管がこの孔を通っているかのように見える。しかし,上記図1の
形状は,実施例の記載にすぎず,本件発明1の請求項の記載においては,その形状
について,「挿通して」とされている点を除き,何らの限定もされていない。ま
た,本件明細書の発明の詳細な説明欄における記載も同様である。そして,「挿
通」の意義について,本件明細書では,特に定義付けがされているわけではない。
そこで,「挿通して」すなわち「挿し通す」の語義についてみるに,「挿す」とい
う語は,「あるものを他のものの中にさしはさむ」との意味を有するものであり
(広辞苑第5版),「通す」の語を付加しても,この基本的な意味合いに変わりは
ない。すなわち,「挿通して」とは,「さしはさむ」ものであって,必ずしも,あ
るものの周囲を他のものによって完全に取り囲まれた状態で通す(本件に即してい
えば,円形の孔に通す)という意味に限定されるものではない。したがって,本件
発明1の「固定棚の先端の支持部」の形状も上記の意味のものであれば足りるとい
うべきである。
 そこで,引用発明1の基本板6の湾曲掛止部23をみると,引用例1(甲3)の
図1,2,4,6,10(特に図4)に見られるように,円形の一部が開放された
断面形状ではあるものの,外管の外面形状にすき間なく接するように断面が円を描
くように曲がった形状をし,基本板6の両側面にある各湾曲掛止部23により2本
の各外管を両側面から同時に抱えるようにして支えているのであって,その形状等
からして,湾曲掛止部23を通る外管は,湾曲掛止部との接触を維持したまま摺動
自在となっているものと認められる。そうすると,引用発明1の上記中央基本板6
の湾曲掛止部23は,固定棚の先端の支持部の形状としても,本件発明1の構成の
ものであるというべきである。そして,上記認定に照らせば,固定棚を「水平に支
持」したものであることも明らかである。
 (e) 以上によれば,引用発明1は,本件発明1における固定棚を有するものとい
うべきである。
 (4-3) 引用発明1が本件発明1における取替棚を有するかについて
 (a) 引用例1(甲3)の前記段落【0023】の記載によれば,基本板6は,その短
突出部9を左辺部材2の嵌合受部24に嵌め込んで支持固定されているのであるか
ら,引用例1においては,左辺部材2と一体化した左側の基本板6は,本件発明1
における前記右端部材(固定棚と反対側にある支脚及び外管を嵌入する部材)に相
当するものというべきもののようである。そうすると,引用例1(甲3)の図2,
6,10においては,前記のように,右辺部材3並びにこれに結合される右側及び
中央の2枚の基本板6が固定棚に相当するのであるから,本件発明1の取替棚に相
当する部材を想定し得ないことになりかねない。
 (b) しかしながら,上記の各図に示された構成は,引用発明1の1つの実施例に
すぎない。引用例1の請求項1に記載されているように,引用発明1は,基本板6
を2枚以上連結して平面板状に形成されるものであるから,図4,6,10に示さ
れた3枚の基本板からなる構成に限定解釈すべき理由はなく,4枚以上の基本板6
から構成される場合も想定することができる。また,基本板が4枚以上の構成を想
定し得る以上当然のことではあるが,引用発明1において,伸縮パイプ材4の外筒
(外管)の長さについての限定はない。そこで,図2,6,10のものにおいて,
外管を更に長いものとし,前記のように中央の基本板の湾曲掛止部23に外筒15
が摺動自在となっている状態のまま,中央の基本板と左側の基本板との間にさらに
1枚の基本板6(第4の基本板)が設けられた構成を引用発明1として想定し得
る。この場合,上記第4の基本板は,伸縮パイプ材4の外筒15の上に載置される
こととなる。
 (c) ところで,上記第4の基本板は,他の基本板と同様に上記の中央の基本板と
左側の基本板と差込結合されているものである。一方,本件発明1の取替棚は,
「所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止」されたものである。しかし,本件発明
1の取替棚の「掛止」がどのような構成をもって行われるかが明確には特定されて
いないことからすれば,掛け止めされていればよいのであり,第4の基本板のよう
に左右の基本板と差込結合され,湾曲掛止部23によって外管を抱えるような構成
を採ることを積極的に排除しているものとはいえない。そして,前判示の点に照ら
せば,第4の基本板(取替棚)と同様に,上記の中央の基本板と左側の基本板との
間に第5,第6というように,所定枚数の基本板(取替棚)を想定し得ることは明
らかである。なお,審決は,引用発明1の基本板が本件発明1の取替棚に相当し,
所定枚数の取替棚を棚受用横桟(伸縮パイプ材)に適宜着脱自在に掛止されたもの
である点で両発明が一致していると認定しており,当事者もこの点を争う趣旨では
ない。
 (d) そうすると,引用発明1においても,本件発明1の取替棚に相当する基本板
6が存在し,この所定枚数の取替棚を前後の外管上に掛止するものであるといえ
る。
 (4-4) 被告は,以上の点に関し,本件発明1では,取替棚を掛止する構成と,固
定棚の支持部に外管を挿通する構成とは全く別個の構成であるが,単一構成である
基本板の湾曲掛止部23に相容れない2つの機能を持たせることになり,誤りであ
ると主張する。
 しかしながら,本件発明1における「掛止」及び「挿通」については,前判示の
程度にしか具体化,明確化がされていないのであって(前記のとおり,実施例や図
1のものに限定されるものではない。),このような広い概念で規定された構成に
おいては,湾曲掛止部23が「掛止」,「挿通」のいずれの構成からも排除される
ものでないと解されることは,十分にあり得ることであって,誤りというべきもの
ではない。
 被告は,引用発明1における右辺部材と結合した基本板が固定棚であるとの原告
の主張によれば,基本板6同士も順次連結できるのであるから,連結した複数の基
本板は全て固定棚を構成することになり,本件発明1における取替棚は存在しない
ことになると主張し,さらに,同一の構成である基本板6が一方では固定棚に該当
し,他方では構成を変えれば取替棚に該当するという解釈は,技術的に矛盾すると
も主張する。
 しかし,組み立てられた構成同士を対比して,その備える機能からみて相当関係
にある部材を抽出すること自体は,問題のない判断手法である上,同じ部材であっ
ても,組み合わせ方や使用される部位等の事情によって機能が異なり得ることは自
然なことであって,上記のように,引用発明1において,本件発明1に係る固定棚
又は取替棚に相当する部材が存在することを認定したとしても,何ら矛盾するもの
ではない。
 その他,被告の前掲主張をすべて考慮しても,前判示の認定判断を変更すべきも
のとはいえない。
 (5) 以上によれば,審決が相違点として認定した「本件発明1は,『外管の伸縮
方向に一定長を有する固定棚は,その後方裏面に設けた取付孔に内管側の支脚を嵌
入するとともに,当該固定棚の先端の支持部に対して上記外管をその伸縮に応じて
摺動自在に挿通して該固定棚を水平に支持し,所定枚数の取替棚を前後の外管上に
掛止する』ものであるのに対し,引用発明1は,固定棚を有しておらず,かつ取替
棚は外管及び内管上に掛け止めされるものである点」というのは,相違点ではない
というべきであって,審決の認定は誤りである。
 2 取消事由2(本件発明2,3と引用発明1との相違点の認定判断の誤り)に
ついて
 本件発明2,3は,本件発明1をより具体的に限定したものであるが,審決は,
本件発明1が容易に発明をすることができたものであるとすることができない以
上,本件発明2,3についても同様であるとするものであって,専ら,本件発明1
に関する審決の前記認定判断を前提とするものである。
 しかし,本件発明1に関する審決の認定判断が誤りであることは前判示のとおり
であるから,本件発明2,3についての審決の認定判断についても誤りがあるとい
うべきである。 
 3 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由があるので,審決は,取消しを免
れない。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官      塚  原  朋  一
           裁判官      田  中  昌  利
           裁判官      佐  藤  達  文
※上記判決につき,平成16年11月10日付け更正決定あり。

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