弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人Aに対する原判決を破棄する。
     同被告人に対する本件を福岡高等裁判所に差戻す。
     被告人B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、同J及び同K
の本件各上告を棄却する。
         理    由
 各被告人の弁護人田井健児の上告趣意について
 第一点及び第二点は違憲をいうけれども実質は事実誤認及び単なる法令違反の主
張、第三点及び第四点は単なる量刑不当の主張でいずれも刑訴四〇五条の上告理由
に当らない。
 しかし職権により調査するに、被告人Aに対する本件公職選挙法違反の公訴事実
について、第一審裁判所は公訴事実はこれを認めるに足る証明がないとして無罪の
判決を言渡した。これに対し右判決は事実を誤認したものであるとして検察官から
控訴の申立があり、原審は検察官の右控訴趣意を容れ、右第一審判決を破棄し、自
ら何ら事実の取調をすることなく、ただ訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証
拠のみによつて、直ちに公職選挙法違反の事実につき有罪の判決を言渡したもので
あることは、本件記録に徴し明らかである。
 しかし、本件の如く第一審判決が犯罪事実の存在を確定せず、犯罪の証明なしと
して無罪を言い渡した場合に、控訴裁判所が右判決を破棄し、何ら事実の取調をす
ることなく、訴訟記録及び第一審裁判所で取り調べた証拠だけで直ちに被告事件に
ついて犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、刑訴四〇〇条但書の許さ
ないところであることは、昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日言渡
大法廷判決の示すところである。従つて自ら何ら事実の取調をすることなくして被
告人Aに対する無罪の第一審判決を破棄して前記の如く直ちに有罪の言渡をした原
判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな訴訟手続の法令違反があり、これを破
棄しなければ著しく正義に反するものと認めなければならない。
 よつて被告人Aに対しては、刑訴四一一条一号四一三条、その他の被告人に対し
ては同四一四条三九六条により主文のとおり判決をする。
 この判決は裁判官池田克の刑訴四〇〇条但書の解釈に関する反対意見がある外裁
判官全員一致の意見によるものである。
 裁判官池田克の反対意見は、犯罪の証明なしとして無罪の言渡をした第一審判決
を破棄し、訴訟記録及び第一審裁判所において取り調べた証拠のみにより直ちに判
決することができるものと認め、被告人に対し、有罪の言渡をした原判決には何ら
違法はないとするものであつて昭和二七年(あ)第五八七七号同三一年九月二六日
言渡大法廷判決記載の同裁判官の反対意見及び前記大法廷判決記載の裁判官田中耕
太郎、同斎藤悠輔及び同本村善太郎の反対意見のとおりである。検察官 長部謹吾
出席
  昭和三一年一一月一六日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
 裁判官谷村唯一郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重

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