弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件申立てを却下する。
二 申立費用は申立人の負担とする。
       理   由
一 本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「緊急命令変更申立書」のとおりである。
 申立人の主張は、要するに、当庁平成六年(行ク)第四四号緊急命令申立事件の
決定(以下「本件緊急命令」という。)によって申立人が被申立人補助参加人A及
び同Bに支払うべきバックペイの金額及び期限が、右決定の文面自体からは読み取
ることができず、申立人において不測の損害を蒙る可能性が大きいというものであ
る。
二 そこで、まず、申立人が支払うべき金額の点について検討する。本件緊急命令
は、右Aに対して「平成元年九月二二日から原職に復帰するまでの間に同人が受け
るはずであった各賃金相当額(各一時金を含む。)から既に支給した額を控除した
額及びこれに各支払期日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合で算出した金
額を附加して」、右Bに対して「平成元年九月二二日から原職に復帰するまでの間
に同人が受けるはずであった各賃金相当額(各一時金を含む。)から既に支給した
額を控除した額及びこれに各支払期日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合
で算出した金額を附加して」それぞれ支払うことを命じているのであるから、右命
令の履行のためには、その支払うべき具体的な数額につき、申立人において、緊急
命令制度の趣旨に照らし、労働者の個人的被害、特に経済的被害を救済し、更に労
働組合の団結活動一般に対する侵害を除去、是正するために必要な範囲内で、定期
昇給を含めて相当と考えられる支払額を確定し、支払を行えば足りるというべきで
ある。このように考えると、申立人主張のように、本件緊急命令において金額を明
示しない限り申立人において不測の損害を蒙る可能性があるとはいえないから、金
額の点について本件緊急命令を変更する必要を認めない。
 なお、申立人は、昇給、昇格は使用者による発令(意思表示)があってはじめて
成就するものであるので、賃金請求権を認めることができず、本件緊急命令により
支払うべき金額は、昇給がなかったものとして、(但し、ベースアップはあるもの
として)計算した基本給与額を基礎とすべきであるとも主張する。しかし、民事
上、昇給分の賃金支払請求権の発生根拠として使用者による意思表示の有無が問題
となるのとは異なり、緊急命令における支払額の考慮に当たっては、使用者の不当
労働行為によって昇給の意思表示の機会が得られなかったことも緊急命令で救済す
べき個人的被害のうちに含まれるということができるから、本件緊急命令は、昇給
分の支払を除外する趣旨ではないことが明らかである。支払額の決定に当たって
は、申立人は、申立人の職員に一律に適用される昇給に関する内規ないし慣行を参
考にして、本件における支払額を確定するのが相当というべきである。
三 次に、履行期限の点について、申立人は、右のような検討を経て金額計算を行
うために必要な期間も含め、合理的な期間内に本件緊急命令の履行を行えば足りる
というべきであるから、申立人の主張のように履行期限を明示しない限り、申立人
において不測の損害を蒙る可能性があるということもできない。したがって、この
点についても、本件緊急命令を変更する必要は認められない。
四 よって、本件申立ては理由がないというべきであるから、これを却下すること
とし、主文のとおり決定する。
(裁判官 遠藤賢治 吉田肇 梅本圭一郎)
(別紙)
 緊急命令変更申立書
第一、申立の趣旨
 変更被申立人を申立人とし、変更申立人を被申立人とする、東京地方裁判所平成
六年(行ク)第四四号緊急命令申立事件について平成七年六月一三日付でなされた
決定につき、その金額ならびに履行期限を明示するよう、同決定を変更することを
申立てる。
第二、申立の理由
 右第一記載の決定は、別紙第一のとおりである。
 しかしながら、変更申立人が、右決定に違反するときは、労働組合法三二条によ
り違法日数により過料の制裁をうけることになるところ、次に述べる如く、その金
額、履行期限が右決定の文面自体から明確に読み取ることができず、かくては変更
申立人においては不測の損害を蒙る可能性が大である。すなわち、
(1) まず、金額面については、いわゆるバックペイの目的は、(イ)被解雇者
の個人的被害の救済と(ロ)組合活動一般に対する侵害の除去の二面があるが、そ
の直接の目的は右(イ)であり、右(ロ)は(イ)の実現を通じていわば間接的に
実現されるとされる。
 そして、解雇期間中の賃金請求権が肯定される場合には、その額は、当該労働者
が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額であ
るが、右金額を考慮するについてはベースアップは認められるべきであるが、昇
給、昇格は使用者による発令(意思表示)があってはじめて成就するものであるの
で、これを認めることは困難である。
(弘文堂刊、C著「労働法」(第三版)三八五頁一〇行ないし一六行)
 Aについては昭和五六年四月一日以降、Bについては、昭和五七年四月一日以
降、それぞれにつき昇給がなかったものとして(但し、ベースアップはあるものと
して)計算した場合の同人らが平成六年九月二二日から受けるはずであった各基本
給与額は別添第二のとおりであるので、両名に緊急命令により支払うべき金額は、
右を基礎とすべきであり、右命令もそのように変更されるべきである。
(2) 右バックペイの履行については、右(1)についての御庁の判断が出た後
早急に計算にとりかかることになるが、利子等計算に時間を要するので、その履行
期限を、御庁の右判断後二週間と明示するよう前記命令を変更すべきである。
別紙第一
       主   文
一 被申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする当庁平成六年(行ウ)第一
八六号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決の確定に至るまで、申立人が中労
委平成元年(不再)第九九号事件について発した命令によって維持するものとした
香労委昭和五六年(不)第二号、同五七年(不)第四号(一部)及び同六一年
(不)第一号(一部)併合事件について、香川県地方労働委員会がした平成元年九
月八日付命令のうち、
1 主文第2項のうち、被申立人が、
(一) 申立人補助参加人Aに対する昭和五六年三月三一日付休職処分がなかった
ものとして取り扱うこと
(二) 同人を原職に復帰させること
(三) 平成元年九月二二日から原職に復帰するまでの間に同人が受けるはずであ
った各賃金相当額(各一時金を含む。)から既に支給した額を控除した額及びこれ
に各支払期日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合で算出した金額を附加し
て支払うこと
2 主文第3項のうち、被申立人が、
(一) 申立人補助参加人Bに対する昭和五七年三月三一日付降職処分がなかった
ものとして取り扱うこと
(二) 同人を原職に復帰させること
(三) 平成元年九月二二日から原職に復帰するまでの間に同人が受けるはずであ
った各賃金相当額(各一時金を含む。)から既に支給した額を控除した額及びこれ
に各支払期日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合で算出した金額を附加し
て支払うこと
を命ずる部分に従わなければならない。
二 申立人のその余の申立てを却下する。
三 申立費用は被申立人の負担とする。
別表第2
<29868-001>

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