弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原告の請求は、いずれもこれを棄却する。
     訴訟費用は、原告の負担とする。
         事    実
 原告代理人は、「(一)被告が原告の申立てた大分県教育委員会の委員の当選に
関する異議について、昭和二十四年八月二十三日にたしな決定を取消す。(二)昭
和二十三年十月五日に行われた大分県教育委員会の委員の選挙におけるaの当選は
無効であること及び原告が右当選人であることを確定する。(三)被告はaに対す
る当選手続(告知告示等)を取消し、原告に対して右手続をすること。(四)若し
右(二)、(三)項が理由がないとすれば、被告は原告の右委員繰上当選の手続を
すること。(五)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原
因として、
 一、 大分県教育委員会の委員(以下教育委員という。)の選挙は昭和二十三年
十月五日に行われたが当時選挙人の推薦によつて候補者とたつたのはb、c、d、
e、f、g、hi、j、a及び原告の十一名であつたが、jは候補者を辞退し結局
残りの十名について撰挙が行われた。その結果選挙会において、選挙長は得票数の
最も多い順にb、g、f、d、eびaの六名を当選人と決定し被告はこれに基き当
選告知及び告示をして同人等の教育委員就職を見るに至つたが、当時原告は次点者
とされたのであつた。然るに右六名の中aは大日本赤誠会o支部長として同会の有
力分子であつたという明確な証拠のため昭和二十二年勅令第一号第七条の二により
中央公職適否審査委員会の審査の結査、連合国総司令部発日本政府宛昭和二十一年
一月四日附覚書附属書A号罷免及び排除すべき種類O項該当者(以下覚書該当者と
いう。)として仮指定を受け、内閣総理大臣は昭和二十二年十一月三十日官報号外
にこれを掲載公告した。元来覚書該当指定、仮指定は同年閣令内務省令第一号第五
条第一項によつて原則として本人に対する通知によつて効力を生ずるのであるが、
同項但書によつて仮指定は住所を知ることができない者に対しては官報に掲載する
ことによつて効力を生ずることとなつている。aに対して右通知があつたか否かは
不明であるがaは終戦後東京都o区k町l番地の住所を引掲げて本籍地大分県下毛
郡m村に帰つていて、東京の寄留はまだそのまゝにして復本籍の手続をしていない
し、昭和二十二年十一月三十日の官報号外仮指定の記載にも、総理庁の該当者名簿
にも、「東京」となつているから恐らく住所不明として官報に掲載されたものと考
える。aに対し仮指定の通知があつたもめとすれば勿論若しなかつたとしても上述
のようだ事情であれば、官報に掲載された以上仮指定の効力は当然発生していると
いわなければならない。尤も右官報にはa「けん」一の「けん」は「健」となつて
いて「にんべん」があるのに本人には「にんべん」がたいのであるから右官報の掲
載が果して仮指定としての効力をもつかどうかとの疑はあるかも知れない。然し後
述のように右官報の掲載と本人とは同一であるのであるからこの程度の誤記はその
同一性を害するものとはいい得ないと思う。元来仮指定は本人に通知することによ
つて効力を生するもので、これは本人に知らしめる趣旨と解するから本人がこれを
知り得る状態に置くことが必要であると同時にその程度で十分である。従つて通知
に代わる官照の掲載も本人がこれを知り得る程度にされてあればそれで十分である
とせねばならない。aがnと記載されてあつても大日本赤誠会支部長と記載されて
いる以上本人はこれが自己を指すものであることを知るに十分である。殊に仮指定
は明確だ証拠によつてするのであるから本人が該当者であることを知らない筈はな
いので右程度の誤記によつて自分とは知らなかつたといい得ることはできないと思
う。況んや覚書該当指定はその性質上中央公職適否審査委員会の認定があれば、た
るべく速かにすべきものであるから前述のような些細な誤記で効力を生じないと解
するのは失当といわざるを得ない。すなわち、本件の場合においてはその同一性は
あるものとして仮指定は有効と解するを妥当と信する、そこでaは結局同年十一月
三十日に有効に仮指定を受けたことになるのであるが同人はこれに対して前示勅令
第一号第七条の三第一項による異議の申立をしなかつたので同条第四項によつて同
年十一月三十一日には覚書該当者として指定を受けたもの(以下覚書指定者とい
う。)とみなされるに至つたのである。そうすると同人は教育委員候補者の推薦届
出のたされた昭和二十三年九月には既に覚書指定者と与なされていたのであるから
公選による公職の候補者たる教育委員の候補者には絶対になり得なかつたのであ
る。(なおaに関しては本件発生後昭和二十四年九月七日官報号外の掲載で改めて
大日本赤誠会o支部長、大日本青年党o支部長であつたとの理由で覚書該当指定者
とされたが大日本青年党に関して兎も角大日本赤誠会に関する限り結果無用の手続
をしたものと解する外はない。)
 (二) なお教育委員会は公職教職双方について適格者でなければならないので
ある関係上その候補者の推薦届出の場合は前掲昭和二十二年勅令第一号は附則第六
項(昭和二十三年八月十三日政令第二百二十八号)によつて教職適格確認書の写を
提出して公職に関する確認証の提出に代えることができたのであるが、aは教職適
格確認書を受くるとき昭和二十二年政令第六十二号第六条の調査表に大日本赤誠会
o支部長であつたことをかくして記載した上文部省の教職員適格審査委員会に提出
して文部大臣の確認書を得たのであるから右確認書は無効であつて延いて同人の立
候補も亦無効である。果してそうとすれば、同人についてなされた選挙長の当選人
決定も被告の地方自治法第五十九条第二項による告知告示その他一切の手続は取消
又は決定判決を俟つまでもなく当然無効であつて、同人は固より当選人となり得な
かつたのである。これに反して次点者とされた原告は当初から正当な当選人であつ
て、当然撰挙長によつて当選人と決定せられ被告によつて告知を受け告示せられ当
這を承諾すべき機会が与えられなければたらないのにかかわらず、今日まで選挙長
及び被告がその措置に出ないのは違法も甚しいといわ設ければならない。
 三、 (一)被告は、原告の異議の申立を期間経過の理由の下に却下した。成る
程地方自治法第六十六条第一項の規定によると当選の効力に関する異議は、同法第
五十九条第二項の告示の日から十四日以内に申立てなければならないと規定してあ
つて、本件選挙については、右期間は昭和二十三年十月二十二日であるから一応期
限が過ぎたかのように思われる。然しながら原告は地方自治法第二百五十六条第西
項によつて右申立が適法であることを主張する。すなわち、前掲官報号外にaがn
と掲載公告されてあつたことは前述の通りであつて、これが仮指定の効力を有する
ことも既に説明した通りであるが、aが大日本赤誠会o支部長として活動したのは
東京であり、原告は従前aを知らなかつたのみでなく遙かに東京を隔でた九州に在
住して来た関係上aの行動は全く知り得なかつたのであるから、右官報号外に掲載
されたnなるものが候補者となり当撰人となり就職したaであるというととを知る
に由なく、徒つてaが覚書指定者で当選人となり得たかつたことを知り得なかつた
のである。唯昭和二十四年六月頃aが病気を理由に教育委員を辞任した事実があ
り、噂によればその裏面に問題が伏在しているとのことであつたので、東京の方の
調査を人に依頼した結果昭和二十四年七月三十一日に至つて総理庁官房監査課編集
の公職追放に関する覚書該当者名簿(昭和二十四年二月二十五日刊行)を手に入れ
調査の結果、同名簿中a、大日本赤誠会o支部長なる記載があつて官報に出ている
nはaと同一人であること従つてaが覚書指定者で当選が無効であることを知つた
のであるが、たお、本件選挙の際被告が発行した選挙経歴公報中aの経歴に「o区
会議員」と出ている事実によつて同一人ということを確信した次第である。それで
遅滞なく同年八月二日に被告に対して異議の申立をしたのであるから原告としては
能う限り速かに手続をしたのであつて、前示第六十六条の期間内は勿論右八月二日
前には異議の申立をすることは到底不可能であつたのである。aが覚書指定者であ
つた事実は独り原告の与ではなく、本来その調査を職務とする教職員適格審査委員
会さえこれを看過し、教職適格確認書を出しているし又これを職責上調査しなけれ
ばならぬ義務のある這挙長、被告、大分県教育委員会すら今日まで知らなかつた位
であり、前示総理庁の名簿は非売品で単に関係方面に頒布されたに過ぎないから、
一般私人は通常これを閲覧する機会はたいのである。従つて一私人に過ぎない原告
が同年七月三十一日にこれを入手するまで右の事実を知らなかつたのは当然であつ
て、何等これを責むべき理由はない。畢竟原告の異議申立期間の徒過は官報に誤つ
て掲載公告した政府の責任であつて、原告の責任では断じてない。寧ろ期限徒過は
原告に取つては不可抗力ともいうべきである。このことは前述地方自治法第二百五
十六条第四項の規定にいわゆる容認すべき事由に該ると断じてよいと思う。従つて
本件異議の申立は適法であつてこれを却下した被告の決定は失当と考える。
 (二) 仮りに前項の理由がないとすれば、本件については地方自治法の適用が
なく行政事件訴訟特例法の適用によつて不当処分を知つてから六か月内に提訴し得
るものと思料する。覚書該当指定者は絶対公撰による公職の候補者になり得たいも
のである。すなわちかかる者は昭和二十一年一月四日附覚書によつて一切の公職か
ら罷免され又は排除されたければならなくなつた。而して罷免とは在職中のものを
解雇しその職に対する直接間接の影響及び参与を終止せしめることであり、又排除
とは一切の公職に就かしめないことである。日本政府にとつてこれは絶対命令であ
るため、昭和二十二年勅令第一号が公布施行されその第三条により在職者は退職さ
せられ、二十日以内に退職しない場合には他の法令にかかわらず、二十一日目に失
職し又新に公職に就くととも総べて禁止され更に第六条により公選に上る公職の候
補者となることはできず、立候補中に指定があれば候補者を辞したものとみなされ
ることとなつた。かくして覚書該当者は外形上立候補しても何等効力はなく、従つ
てたとえ外形上当選人となり就職したとしてもこれは一切無効であつて委員にはた
り得ないのである。そもそも地方自治法第六十六条第一項第四項で異議申立期間や
出訴期間を極めて短く限定し同法第百二十八条で選挙や当撰に関する決定、裁決、
判決が確定するまで委員が職を失わないことを規定した所以は、選挙が全部又は一
部無効であつて、そのため当選人に異動を生ずる疑のある場合(選挙訴訟の対象)
とか当選決定の手続が違法であつて当選人とされたものがそうでなかつたのに就職
したとか、被這挙権がないために投票が無効であつて当選人とたり得たかつたもの
が、当選人とされ就職したとか、兼職禁止の規定に違反して就職したという疑のあ
る場合(当選訴訟の対象)にこれ等選挙又紘当選に関する争訴が起つたときは問題
とたつた委員の地位は不安定であつて或は委員とたり得なかつた者であるかも知れ
ない。この場合これ等の者が若し委員となり得なかつた者であるとすれば決定、裁
決、裁判などによつて委員たる身分を有するか否かが判明するまでに委員としてな
した行為は総べて無効となり、委員会の議事や選挙に参与しておれば議決や選挙は
当然無効とたる筈である。然しそれでは委員会の運営上多大の支障を来すので、で
きるだけ早急に一応委員の地位を確定せしめてその行為を有効ならしめ委員会の運
営に支障たからしめる趣旨である。然しなから覚書該当指定者は前述のように絶対
に立候補も就職もできないものであるからかようた者が立候補し当選人とたり就職
したような外形的事実があつたとしてもこれは当然無効であつて委員にはなれない
のである。右地方自治法の規定は覚書該当指定者が立候補するが如き場合は全然予
想していないのであつて、この場合は適用がないものと思料する。何故ならば若し
も覚書該当指定者が外形上委員となつて行動し議事に参与したとすれば、その行為
は無効であり、その議決は根本的に無効となり、右規定の委員の地位を早急に一応
確定せしめ委員会の運営に支障を来さないようにするという根本趣旨を没却し会の
運営を却つて破滅に導くこととなるからである。すなわち地方自治法第六十六条は
本件の場合には適用がないと解するのが至当である。而して覚書該当指定者が外形
的に候補者、当選人、委員とたつたときは、直ちにこれを排除すべきであるからそ
の事実が判明した以上一刻もそのまゝにして置くことはできない筈である。従つて
一般行政訴訟の許される範囲内においては何時でもこれを排除し得るものとしなけ
れぼたらない。行政訴訟事件特例法第五条によれば違法処分の事実を知つた時から
六か月内に提訴し得ることになつているところ、原告がこれを知つたのは昭和二十
四年七月三十日であることは前記の通りであるから本訴は出訴期間を徒過していた
い適法のものといわねばならない。尤もこのように解すれば選挙管理委員会に対す
る異議申立を経由せずして直ちに大分地方裁判所に提訴し得るものども考えられる
が、本訴の本質は結局当選の効力に関する訴訟であるから疑義はあるが、出訴期間
以外の点は右第六十六条の類推適用あるものとして異議申立を経由して本訴を貴庁
に提起した所以である。(若し出訴期間についての本項以外の原告の主張、すなわ
ち前記(一)項又は後記(四)項が理由がなく且つ本項の理由に従うとすれば大分
地方裁判所に提訴すべきものとの解釈を採られるたらば、右特例法第五条第三項所
定の期間の関係があるから大分地方裁判所に移送されんことを望む。)
 (三) 仮りに前項の理由がないとすれば、本件については、出訴期間の制限は
ないものと思料する。
 昭和二十二年勅令第一号は昭和二十一年一月四日附覚書に基くものであり、該覚
書は一九四五年九月二日の降伏文書に由来する至上命令であつて超憲法的性質を有
するのであるから、この点からもこの勅令第七条の二によつて覚書該当者と指定さ
れたとみなされた者が同令第六条の規定によつて公這による公職についての候補者
となり得ないとされた効力は絶対的なものであつて他の法令の規定によつてこれを
動かすことはできないのである。従つて他の単に被遁挙権のたい者が立候補して誤
つて当選就任した場合とは趣を異にし、他の場合であれば地方自治法第百二十八条
によつて一応(殊に異議申立又は訴訟の出訴期間経過のために)有効となる場合が
あり得るけれども、覚書該当者の場合はかかることはあり得ないのであつて当選は
当然無効であり、その無効は絶対的といわなければならない。或はいわん、選挙管
理委員会又は選挙長は適格確認書については実質的審査権かないから適格確認書の
提出がある以上立候補、当撰就任は前記第百二十八条によつて有効であると。然し
なから適格確認書は単に「覚書該当者でたいことを証明する書面」に過ぎないので
覚書該当者指定の効力そのものを左右するものではないから既に指定のおつた後の
確認書の如きは右指定の効力に何等影響はないからかかる理論は失当であること勿
論である。而してかかる当選無効の場合は出訴期間の制限は全くたく何時でも無効
確認を求め得るものと解すべく、従つて本訴は適法であり、この場合も出訴期間以
外は地方自治法の類推適用ありと解する。
 (四) 仮りに右(一)乃至(三)項の理由がないとしても本件において被告が
なした地方自治法第五十九条第二項によるaに関する告示は当然無効であつて当然
なさるべき原告に関する告示はまだなされていたりのであるから告示はなお完了し
ていないといわなければならない。然らば本件異議の申立は期間内になされたこと
となるのでこれを却下した被告の決定は失当である。
 (五) 仮りに本件において、選挙長、選挙管理委員会の手続が無効とはいいな
から現に形式上存在したためaが一応当選人となり、又は就任したものと解し得る
としてもaは地方自治法第五十七条によつて当選を失つたものか又は就任と同時に
欠員となつたものと解さなければならない。然らば同法第六十条第一項の期限前の
事故となるから教育委員会法第二十一条第一項又は第二項によつて次点者である原
告を繰上補充すべきものと信ずる。
 四、 一歩譲つて仮りにaは形式上当選人となり委員に就任したとしても昭和二
十四年六月中病気を理由として辞職した。辞職の事実がなくても昭和二十二年勅令
第一号第三条第二項によつて就任後二十一日目に職を失たので兎も角も欠員が坐じ
たこととなつた。これを地方自治法第六十条第一項の期限後に欠員が生したものと
してなお原告は教育委員会法第二十一条第二項後段の類推適用によつて当選人は選
ばるべきものであると信ずる。蓋し右第二十一条に期限の前と後とを区別し期限前
の場合は得票数の多い者から順次繰上補充すべきものとし期限後の場合はこれを厳
格にして教育委員会法第十九条第二項の適用を受けたもののみを繰上補充すること
としてあるのは、前者の場合は単に得票数が当選人に次いで多かつたというだけで
飽くまで落選人であつたのであるが、これを繰上補充するということは理論的のも
のではなく全く選挙の煩を省く便宜に出たものに過ぎないから繰上補充の機会を期
限前に限定したのであるが、これに反し右第十九条第二項の適用を受くる者は実質
上当選人と同一の資格を具備しているもので単にくじ運どいう偶然の事実で当選を
失つたに過ぎないものであるから右期限後においてもこれを繰上補充することとし
たのである。然るに原告の場合は真実正当な当選人であつて唯誤つて次点者とされ
たに過ぎないのであるから第十九条第二項の適用を受くるものよりも更に立派な資
格を具備しているといわなければならない。従つて期限後の今日と雖も第二十一条
第二項後段の類推適用(勿論解釈)によつて当然繰上補充を受くべき権利があると
確信するものである。よつてその前提としてaが当選人でなく、原告が当選人であ
つたことを確認される利益があると思料する。而して今日まで被告は右繰上当選の
措置に出ないため大分県教育委員会は教育委員会法第二十四条の当選人を定めるこ
とができないときと曲解し原告以外の者を補充委員に選任しようと策動している。
若しかかる違法行為が行わるるにおいては実に問題を紛糾する虞があるから急速に
適正な判決を求める次第であると陳述し、被告の答弁に対し、(一)地方自治法第
二百五十六条第四項に「容認すべき事由があると認めるとき」とは、この事由の認
定について無制限に選挙管理委員会等に自由裁量権を与えた趣旨ではなくて必ず客
観的な準則に従つた一定の限界があつてその限界内においてのみ裁量が許されるの
である。若しその限界を逸脱した場合は裁量権の超越であつて常に違法行為であ
る。従つてその当否は裁判所の審査の対象とならなければならない。(二)容訴す
べき事由を天災事変等に限るということは何等根拠はたい。その適用を別に制限し
ないから単に天災事変に限り適用すべきものということはできない。原告がaの覚
書該当者であることを覚知し得たかつたのは前記の通りであるが、なお、aは昭和
二十二年三月衆議院議員選挙に際して調査表に事実を隠して記載して公職適格確認
書を得て立候補した事実があり、かような事実から原告としてはaが覚書該当者と
いうことは夢想だにし得なかつたのでこれを知らなかつたため期間を徒過したこと
について社会通念上全く責任はないといわなければならない。(三)原告は被告の
主張するように法令施行の前後を主張しているのではない。右勅令第一号によつて
覚書該当者は絶対に立候補できないことになつているから地方自治法では覚書該当
者が立候補する如き場合を全然予定しなかつたという主張をするのである。結局地
方自治法は右勅令の規定を排除できない。すなわち右勅令が地方自治法に優先すべ
きものであるとの見解に帰する。(四)原告は官報にnと誤記したことによつてa
と推定できるという主張ではない。nとあるはaその者を表わしているのであつて
かかる些少の誤記のために同一性を害するものではなく、これを覚知し得るa本人
に対しては当然効力を発生することを主張するものであると述べ、証拠として甲第
一乃至第十五号証(第六、第七号証は各一、二)を提出し、証人p、q、rの各証
言を援用し、乙各号証の成立を認めた。
 被告代理人は、まず本案前の申立として「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の
負担とする。」との判決を求め、その理由として、
 一、 大分県教育委員会の委員の選挙が昭和二十三年十月五日に行われたこと、
該選挙において訴外aが委員に当選したこと、原告が次点者となつたこと、当選の
告知告示が同年十月八日になされたこと従つて当選に対する異議申立期限が同月二
十二日であつたこと、原告が右期限経過後の昭和二十四年八月二日に異議申立をし
たこと、被告が同月二十三日に右異議の申立を期限経過後の現出で却下したこと、
及び原告が法定の期間内に本訴を提起したことはいずれもこれを認める。
 二、 而して原告は地方自治法第二百五十六条第四項により原告のなした異議申
立は適法であると主張するけれども右法条は「異議の申立は期限が経過した後にお
いても、容認すべき事由があると認めるときはなお、これを受理することができ
る。」と規定してあつて、その文意から容認すべき事由の存否の認定は異議申立を
管轄する行政庁の自由裁量に委したをのと解すべきである。
 三、 仮りに容認すべき事由の認定か自由裁量に属しないものとしても容認すべ
き事由とは天災事変その他不可抗力に基因して法定期間を経過した場合に限られる
ものと解すべきである。従つて原告がその主張の如き事実により昭和二十四年七月
三十一日に前記aが覚書該当者であることを知り得たとしても前記いずれの場合に
も該当したいから期限経過後の異議申立を適正たらしめることを得ない。又仮に容
認すべき事由を前記の如く厳格に解すべきものでなく、ゆとりあるものとしても選
挙は大分県において行われ原告は中津市にaは同市から余り遠距離でない下毛郡m
村に居住しており、なお、被告の発行した選挙経歴公報にはaは東京o区会議員を
していたことが記載されていたのであるから、その区会議員となるにつき如何なる
政党又は団体によつたのか、その選出せられた背後関係その他の経歴を調査し得べ
くその調査をなせば原告主張の如き資料を俟つまでもなく覚書該当者としての不適
格者なることを容易に知り得べかりしに原告はaが昭和二十四年六月教育委員を辞
するまで何等の調査をなさざりしことはその主張自体において明らかであるから自
己の懈怠により法定の異議期間を徒過したものといわなければならない。かかる場
合に被告において容認すべき事由がないと謁定し異議申立を却下したのは適法であ
つて毫も違法の点はない。
 四、 又当選告示の昭和二十三年十月八日から異議申立のあつた昭和二十四年八
月二日までにはaの教育委員の任期の約半ばに近き十一か月の日子を経過している
が、この点も亦容認すべからざる一事由であると思う。なおaは昭和二十四年六月
八日一身上の都合を理由に辞職の申出をなし、教育委員会は同月十四日に辞職を許
可したがその前よりaは覚書に該当する者で公職に就けない者であることが世評に
上り又後任の選任を巡り新聞紙に色々報這せられたのであるから、次点者であり最
も関心を持つている原告において調査すればaが覚書に該当する者であることを直
ちに知り得たのである。甲第四号証の選挙経歴公報に候補者aは東京o区会議員を
していたことが記載せられており且つ昭和二十二年十一月三十日の官報号外(資格
審査仮指定)に覚書該当者として仮指定を受けた者が各種団体に亘り多数掲載せら
れ、その中に大日本青年党o支部長n、大日本赤誠会o支部長nの名があつたので
あるから甲第一号証の覚書指定者名簿を俟つまでもなく官報によつて容易にnが覚
書の該当者であることを知り得べかりしにかかわらす、原告はnが教育委員を辞職
した六月十四日より本件異議申立をした八月二日に至るまで一か月半の日子を無為
に過したのであるから結局原告は自己の懈怠により適法に異議の申立をなさざりし
ことに帰するから被告が本件異議申立の期間経過が容認すべき事由に該当しないも
のと認定したのはこの点から見ても正当である。
 五、 なお原告においてなしたaに関する告示は当然無効であり当然なさるべき
原告に関する告示はまだなされていないのであるから告示はなお完了していない。
従つて本件異議申立は期間内になされたことになるのでこれを却下した被告の決定
は失当であると主張するけれども本案に対する答弁において明らかなる如くaに対
する当選の告示は無効ではないから期間内の異議申立であると認めることはできな
い。
 六、 以上叙述の如く原告の異議申立は期限経過後の不適法のものであるから原
告が法定期間内に本訴を提起しても異議申立が不適法である以上本訴も結局不適法
たるを免れない。よつて前記申立の如く訴却下の判決を求める次第である。
 七、 なお、原告は地方自治法の規定は覚書該当指定者が立候補するが如き場合
は全然予想していないのであつて同法第六十六条は本件の場合には適用かたいと解
することかできるから行政事件訴訟特例法によつて本件を大分地方裁判所に移送す
るとともできると主張するけれども地方自治法は公職に関する就職禁止退官退職等
に関する勅令に後れて制定せられたものであり、且つ本件は当選の効力を争う訴訟
であるから高等裁判所の管轄に属し、地方裁判所に裁判権はないといわなければた
らない。従つて右特例法に定める期間内の提訴であつても移送すべきではないと述
べ、
 本案について、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との
判決を求め、答弁として、
 一、 昭和二十三年十月五日に行われた大分県教育委員会委員の選挙に訴外aが
選挙人の推薦によりその候補者となり教職適格確認書の写を提出して同年九月三日
に推薦届出をしたこと、同年十月八日の選挙会において右aが当選人と決定せられ
即日被告が同人に対する当選の告知及び告示をしたこと、而して同人が即日当選を
承諾して教育委員に就任し昭和二十四年六月十三日に辞職したこと、昭和二十二年
十一月三十日の官報号外に大日本赤誠会o支部長nが覚書該当として仮指定があつ
た旨掲載せられたことはこれを認める。
 二、 nに対しては昭和二十四年八月十七日に内閣総理大臣が資格審査の結果先
になした非該当決定を取消し同人が元大日本赤誠会o支部長、元大日本青年党o支
郁長たりしことを該当事由として該当決定をなしその旨本人aに通知すると共に同
年九月七日の官報号外を以つて公告した。これによつて昭和二十二年十一月三十日
の官報号外を以つてnとしてなした仮指定がaに対して効力のないことは明らかで
ある。而して覚書該当者の指定、仮指定並びに非該当等の決定は昭和二十一年一月
四日附連合国最高司令官の覚書を履行するために同司令官の承認を得て設けられた
特別の機構並びに手続によつてなされるものであるから争ある場合は専ら右の機構
並びに手続によつてのみ決定せらるべきである。従つて該当、非該当を決定する権
限と責任を有する内閣総理大臣において前記の如き決定をなした以上nとしての仮
指定がaに対して効力があると認定することは裁判所においてもできないことと思
う。果してそうであるとすればaに対する覚書該当指定の効力は昭和二十四年八月
十七日又は同年九月七日に発生したものであるから原告の本訴請求は失当であると
いわなければならない。
 三、 原告は前記教育委員の候補者たるaと前項記載の仮指定を受けたnとは同
一人であつて氏名の記載に誤謬があつたとしてもその同一性を失うものではない、
従つて右官報の掲載によりaに対する仮指定の効力を生じた。然るに右aは適法の
期限内に異議の申立をしなかつたら昭和二十二年十二月三十一日に覚書該当者とし
て指定を受けたものとみなされるに至つたので公選による候補者たる教育委員会の
候補者には絶対になり得ないのであると主張するけれども、前記官報号外に掲載せ
られた氏名はnであり教育委員候補者たるaの氏名ではないからaとnが同一人で
あることはこれを否認する。仮に同一人であるとしてもかくの如く氏名を誤記して
官報に掲載せられたのであるからこれによつてaに対する仮指定の効力は生じな
い。昭和二十四年九月七日の官報号外においてaの非該当決定を取消し更に改めて
a(元大日本赤誠会o支部長、元大日本青年党o支部長)を覚書該当者と掲載せら
れたことによつても先きになした仮指定の効力が発生しなかつたことを立証し得る
と思う。覚書該当者の指定は公職に在る者及び公職に就かんとする者に対し罷免又
は排除の重大たる効果を生ずるものであるからその氏名の記載は正確なことを要す
る。従つて若しその氏名に誤謬があつた場合にはその指定の効力を生じな込と断定
すべきである。推定によつて指定の効力をたやすく是認するが如きことは許さるべ
きでたい。以上の理由により本件選挙当時右aは教育委員の候補者となり得たもの
である。
 四、 原告はaが推薦届出に当り提出した確認書は同人が文部省の教職員適格審
査委員会に提出した調査表に該当事由を記載せず事実を隠蔽して得たものであるか
ら右確認書は無効であり、延いては同人の立候補も亦無効である。従つて選挙長の
aに対する当選決定も被告のたした当選の告知告示その他一切の選挙手続は決定、
裁決又は判決を俟つまでもなく当然無効であつて同人は固より当選人となり得なか
つたものであると主張するけれども調査表に不実記載がある場合にその調査表に基
いて交付せられた確認書と維も当然無効ではない。而して選挙長、選挙管理委員会
は確認書が無効のものであるかどうかについて実質的審査権を有しないのであるが
らaに対する選挙手続には何等の瑕疵はない。
 五、 前記第三項記載の如く仮指定は効力を生じなかつたのであるからaに対す
る覚書該当者としての指定の効力は改めて官報号外に掲載せられた昭和二十四年九
月七日に発生したものといわなければならない。而してその指定の効力はその以前
に遡及するものではないから選挙の行われた後に候補者たるaが覚書該当者として
指定を受けても遡つて被選挙無資格者となるものではない。従つてaを這挙会にお
いて当選人と決定したことは適法である。而して本件は当選の効力に関する異議の
訴訟であるから選挙会において当選決定のあつた以後に生じた事由を以つて当選の
無効を主張することは許されないのであるから、原告の本訴請求は失当たるを免れ
ない。従つて原裁決はこれを取消すべぎ限りでない。
 六、 覚書該当者と雖も指定なき以上公職を追放せられ又公職に就くことを禁止
せられるのでないことは前に述べた通りである。而してaは指定以前に教育委員に
当選し就任し且つ退職したのである。原告は教育委員会法第二十一条第二項後段の
類推適用により原告を繰上げ補充すべきものであるとし又aは地方自治法第五十七
条によつて当選を失つたものか又は就任と同時に欠員となつたものと解すべきであ
るから次点者たる原告を教育委員会法第二十一条第一項若しくは第二項によつて繰
上補充すべきものであると主張しているけれども、aは前述の如く指定以前に教育
委員を退職しその結果教育委員は欠員を生じたのであるから教育委員会法第二十一
条に該当したいので原告の主張は失当である。結局同法第二十四条により教育委員
会において補充委員を選任することが適法であると思料する。と述べ、証拠として
乙第一乃至第十三号証(第二、第三号は各一、二)を提出し、証人s、b、q、p
の各証言を援用し、甲第八号証は新聞紙であることは認めるもその内容は不知と述
べ、その余の甲各号証の成立を認めた。
         理    由
昭和二十三年十月五日に行われた大分県教育委員会の委員の選挙に訴外aが選挙人
の推薦によつてその候補者となり、教職適格確認書の写を提出して同年九月十三日
に推薦届出のなされたこと、同年十月八日の選挙会において右aが当選人と決定せ
られ即日被告が同人に対する当選の告知及び告示をしたこと。同人が即日当選を承
諾して教育委員に就任し昭和二十四年六月十三日に辞職したこと、原告が次点者と
なつたこと、当選に対する異議申立期間が昭和二十三年十月二十二日であり、原告
が右期限経過後の昭和二十四年八月二日に異議の申立をなし、被告が同月二十三日
に右異議の申立を期限経過後の理由で却下したことはいずれも当事者間に争のたい
ところである。
 然るに本件訴旨の要点は、(一)aは昭和二十二年十一月三十日官報号外をもつ
て覚書該当者の仮指定を受け同年十二月三十一日指定を受けたものとみなされるに
至つた者であること、(二)aは教育委員立候補に当り教職適格確認書を受くるに
際し調査表に大日本赤誠会o支部長であつたことをかくして記載提出し確認書を得
たのであるから確認書は無効であるととの二箇の理由により、aの立候補及び当選
を無効であると主張するものである。従つて若し(一)(二)の事実が認めらるゝ
とせば、aの教育委員の当選は当然無効であつて直ちにこれを排除して後任者を選
ぶ処置を講すべきであるから、その善後策につき如何なる法規により後任者を選ぶ
べきかの問題は暫く措いて、aの当這無効の請求自体については異議、出訴につい
ての期間の制限を受けないものと解するのが相当である。
 よつて被告が原告の異議の申立を期間経過の故をもつて却下したのは失当であつ
て、本訴を同一理由により不適法であるとなす被告の抗弁は理由がないから、進ん
で本案につきまず前示(一)(二)の点を検討することゝする。
 (一) まず、「n」に対する覚書該当者としての仮指定の効力について、
 昭和二十二年十一月三十日の官報号外に大日本赤誠会o支部長nが覚書該当者と
して仮指定があつた旨掲載せられたことは当事者間に争がない。而して原告は前記
事実の一部に記載の如く右仮指定は「a」を目ざしてなされたものであつて、同人
に対してその効力を生じていると主張するけれども、覚書該当者の指定又は仮指定
は公職に在る者又は公職に就こうとする者に対し罷免又は排除の重大た効果を生ず
るもので<要旨の1>あるから被指定者の表示は正確にその人を指示するものたるを
要する。然るに本件仮指定の表示は前記の如く単に大日本赤誠会o支部
長nと記載せられているのみで、他に本人を特定すべき記載がないのであるから右
表示が本件の「a」で指示するものと解するのは無理である。殊に「a」に対して
は既に昭和二十二年三月村長立候補に際し非該当の決定を受けていたことが成立に
争のない甲第十号証により明らかであるから、公職適格確認の一般的性質及び効用
から見てもこの非該当決定を一見明瞭に覆すような正確な表示があるのでなければ
同人を指すものとはいえない。行政庁が「a」に対して昭和二十四年八月十七日先
になした非該当決定を取消し更に改めて同人が元大日本赤誠会o支部長、元大日本
青年党o支部長たりしことを該当事由として覚書該当決定をなし同年九月七比官報
号外をもつて公告したのは同一の見解に基くもので適法な処置であると思う(成立
に争のない乙第一号証、第二、三号証の一、二、第五号証参照)従つて「n」に対
して先になした仮指定はその効力を生しなかつたもめと認めるのが相当である。
 (二) 次に、aに対する教職適格確認の効力について、
 原告は、aが候補者推薦届出に当り提出した右確認書は同人が文部省の教職適格
審査委員会に提出した調査表に該当事由を記載せす事実を隠蔽して得たものである
から無効であると主張するけれども、非該当確認書を得るために提出した調査表に
事実をかくした記載があつても、右非核裔確認書は当然無効にはならないものと解
すべきである。(最高裁判所昭和二十三年(オ)第九号同年九月二十四日大法廷判
決参照)而して覚書該<要旨の2>当者と雖も指定なぎ以上公職を追放せられ又公職
に就くことを禁止せられるものではない。叙上説示の如く、「n」に対
する覚書該当者としての仮指定はその効力を生じなかつたのであるから、「a」に
対する覚書該当者としての指定の効力は改めて官報号外に掲載せられた昭和二十四
年九月七日に発生したものというべく、而もその指定の効力はそれ以前に遡及する
ものではないから、本件選挙後に当選人たるaが覚書該当者として指定を受けても
遡つて被選挙権を失うべきいわれはないので本件邂挙に際しaは教育委員の候補者
となり得たものであり、従つてその当選も亦有効であつて選挙会において同人を当
選人と決定し当選の告知及び告示をしたことは適法であるから原告の右(一)、
(二)の主張はいすれも失当であるといわなければならない。次に、原告法aが当
選人とたり委員に就任したとしても同人は地方自治法第五十七条によつて当選を失
つたものか又は就任と同時に欠員となつたものと解さなければならないから同法第
六十条第一項の期限前の事故となるので教育委員会法第二十一条第一項又は第二項
によつて次点者である原告を繰上補充すべきであると主張するけれども、前段の説
示によつて明らかなようにaは覚書該当者として指定された昭和二十四年九月七日
までは被撰挙権を失わなかつたのであるから、原告の右主張は到底夫当たるを免れ
ない。
 更に、原告はaが当選人となり委員に就任したとしても、同人は昭和二十四年六
月中に辞職した、辞職の事実がなくても昭和二十二年勅令第一号第三条第一項によ
つて、就任後二十一日目に職を失つたので欠員が生じたこととなつたがこれを地方
自治法第六十条第一項の期限後に欠員が生じたものとして、なお原告は教育委員会
法第二十一条第二項後段の類推適用によつて当選人に選ばるべきものであると主張
するので、この点について案ずるに、aが昭和二十三年十月八日に教育委員に就任
し昭和二十四年六月十三日に辞職したことは冒頭摘示の如く当事者間に争のたいと
ころである(同人が原告主張の如く昭和二十二年勅令第一号第三条第二項によつて
就任後二十一日目に職を失つた者でないことは前記の説示によつて明らかである)
から右辞職による欠員は教育委員会法第二十一条第二項後段にいわゆる期限経過後
に生じたものというべきも、原告が同法第十九条第二項の適用を受けた者であるこ
とを認めるに足る証拠はないのみならず、前に説示したとおりaは正当九当選人で
あり、原告は単に次点者に過ぎなかつたのであるから、原告主張の如き見解によつ
て右条項の類推適用により原告を当選人に繰上補充すべき理拠は存しない。従つて
原告の右主張はこれを採用し難い。
 なお、原告が本件につき被告のなした決定の取消を求める部分は、該決定が期間
経過を理由として却下した点においては失当であること前に説示したとおりである
が、本件においでは更に進んで右異議の実質的理由について判断しその失当なるこ
とを示しているのであるから、もはやさきの理由のみにより右決定の取消をする要
なきものというべきである。
 よつて原告の本訴請求は、すべて失当であるからこれを棄却すべぎものとし、訴
訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。
 (裁判長裁判官 小野謙次郎 裁判官 桑原国朝 裁判官 森田直記)

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