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平成17年(行ケ)第10559号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成18年3月30日
判決
原告三洋電機株式会社
同訴訟代理人弁理士森下賢樹
同三木友由
被告特許庁長官
中嶋誠
同指定代理人片岡栄一
同山田洋一
同小池正彦
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2001-18699号事件について平成17年5月24日に
した審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成6年11月29日,発明の名称を「データ処理方法およびデー
タ処理装置」とする特許出願(特願平6-295019号,以下「本願」とい
う)をしたが,特許庁は,平成13年9月18日,本願について拒絶査定を。
した。
そこで,原告は,平成13年10月18日,拒絶査定不服審判の請求をした
が(不服2001-18699号,特許庁は,平成17年5月24日「本),
件審判の請求は,成り立たない」との審決(以下「本件審決」という)を。。
し,その謄本は,同年6月7日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本願に係る明細書(平成15年7月22日付け手続補正後のもの。以下「本
願明細書」という)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発。
明を「本願発明」という。。)
「ビデオストリームのユーザ領域であって,ストリームのなかのMPEGMPEG
()ヘッダ,またはピクチャーヘッダに対応付けられGOPGroupOfPictures
た領域に記録されたユーザデータを分離し,ピクチャーデータと合成して再生
するデータ処理方法」。
3本件審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平6-225
219号公報(甲4,以下「引用例1」という)及び「ポイント図解式最。
新教科書(株式会社アスキー,1994年8月1日発行)113~1MPEG」
15頁(甲5,以下「引用例2」という)に記載された発明に基づいて,当。
業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規
定により特許を受けることができない,というものである。
本件審決が認定した本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点は,
次のとおりである。
(一致点)
ストリームのユーザ領域であって,ストリームのなかの領域にMPEGMPEG
記録されたユーザデータを分離し,ピクチャーデータと合成して再生するデー
タ処理方法。
(相違点a)
ストリームに関し,本願発明は「ビデオストリーム」をそのMPEGMPEG,
対象とするのに対し,引用例1に記載された発明においては,このことが特に
示されていない点。
(相違点b)
ユーザデータの記録領域に関し,本願発明においては,ストリームのMPEG
なかの「()ヘッダ,またはピクチャヘッダに対応付けGOPGroupOfPictures
られた領域」に記録されるものであるのに対し,引用例1に記載された発明に
おけるテキストデータ(ユーザデータ)は,ビットストリームの「ユーMPEG
ザデータ領域(ユーザ領域)に書き込まれるものであるが,ヘッダに対応付」
けられた領域であることについては特に示されていない点。
第3原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,本願発明と引用例1記載の発明との相違点を看過し(取消事由
1,また,相違点a,bについての判断を誤った(取消事由2,3)もので)
あり,これらの誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,
取り消されるべきである(なお,本件審決の認定した一致点は認める。。)
1取消事由1(相違点の看過)
本願発明では,ユーザデータ領域がMPEGビデオストリーム内の特定領域
にあるのに対し,引用例1記載の発明では,ユーザデータ領域がMPEGビデ
オストリームとは別のプライベートストリームにある点において,両者は明ら
かに異なるにもかかわらず,本件審決は,この相違点を看過したものである。
()すなわち,引用例1の図4の圧縮時(符号化時)において「動画像圧1,
縮回路113」がMPEGビデオエンコーダである場合,MPEGビデオス
トリームの生成は「動画像圧縮回路113」で完結する。一方,文字等のテ
キストデータは,この時点ではまだ容量が不明であり,それどころか,有無
すらも不明である。そのため,このようなデータを格納するユーザデータ領
域をMPEGビデオストリームの中に適切に確保することはできない。この
事情は,MPEGビデオストリームの中のいずれの部分についてもいえるこ
とであり,MPEGビデオストリーム中のGOP層やピクチャ層の中のユー
ザデータ領域も例外ではない。このため,続く「マルチプレクサ114」が
テキストデータを格納する場合,それは必然的にMPEGビデオストリーム
の外においてなされる。そして,それはプライベートストリームということ
にほかならない。
なお,圧縮画像を生成する際、想定される最大サイズのユーザデータ領域
を常にGOP層やピクチャ層に確保すれば,テキストデータをMPEGビデ
オストリームのGOP層やピクチャ層の中のユーザデータ領域に格納するこ
とを実現することができる。しかし、これでは,MPEGビットストリーム
のデータサイズが徒に大きくなるばかりで、明らかにデータ圧縮の趣旨に反
する。
()一方,復号時についていえば,引用例1の段落【0035】に「動画像2
伸長回路117にはMPEGデコーダを用いる」とある。仮にユーザデー。
タがMPEGビデオストリーム内の特定領域に格納されるとすれば,図4の
「動画像伸長回路117」でMPEGビデオストリームが解析され,特定領
域からテキストデータが抽出されるはずである。この場合,同図の「デマル
チプレクサ116(図中「マルチプレクサ116」と誤記されている)」。
の存在が無意味となる。したがって,ユーザデータは特定領域以外のユーザ
データ領域,つまり,プライベートストリームに格納されていることになる。
また,引用例1の段落【0032】にも「使用者が受取ったデータは,,
デマルチプレクサ116により,圧縮画像データとテキストデータに分離さ
れる。画像データは信号線120を通して動画像伸長回路117に送られる。
テキストデータは,信号線121を通して字幕スーパインポーザ118に送
られ,…」とある。ここでも,はっきりとMPEGビットストリームが「画
像データ」と「テキストデータ」に分離される旨が説明されており,もとも
とMPEGビデオストリーム(画像データ)とプライベートストリーム(テ
キストデータ)とが多重化されて生成されたMPEGビットストリームが,
もとのように分解されただけである。テキストデータがMPEGビデオスト
リームに組み込まれていたなどとは理解できない。
なお「ポイント図解式最新教科書(株式会社アスキー,19,」MPEG
94年8月1日発行,231~253頁。甲6。以下「甲6文献」とい
う)に「受信された多重ストリームは,DMUX(,分離。,Demultiplexer
部)でビデオ,オーディオなどの各個別のストリーム(データ列)部分を分
離して,それぞれの復号器に送る」とあるとおり(233頁8~9行,デ)
マルチプレクサ(DMUX,分離部)における分離の対象は,いずれもビデ
オストリーム,オーディオストリーム,プライベートストリーム等のストリ
ームを単位とする。MPEGシステムの基本構成上に構築された引用例1に
おいても当業者は当然そのように解釈するのであり,分離がMPEGビデオ
ストリーム内のユーザデータについてされると解釈するのは無理がある。
2取消事由2(相違点aの判断の誤り)
本件審決が相違点aに係る本願発明の構成を当業者が容易に想到することが
できたものである旨判断したのは,誤りである。
すなわち,引用例1記載の発明のユーザデータはプライベートストリームに
置かれるのであり,これをMPEGビデオストリームに置くのであれば,それ
を実現するためには別個の発明の創作を待たねばならない。なぜなら,①引用
例1記載の発明において,容量の不明なテキストデータのためのユーザデータ
領域をどのようにMPEGビデオストリーム内に確保するのか,その方法がど
こにも開示されていない,②引用例1記載の発明において,もしテキストデー
タがMPEGビデオストリームに組み込まれているなら「ストリーム単位で,
分ける」ことが役割のデマルチプレクサ116は,その通常の意味とは違う役
割を担うはずであるが,そのための構成はどこにも開示されていないからであ
る。
3取消事由3(相違点bの判断の誤り)
本件審決が相違点bに係る本願発明の構成を当業者が容易に想到することが
できたものである旨判断したのは,誤りである。
確かに,引用例2記載の発明には,本件審決が指摘するようなユーザデータ
領域が存在するが,仮に,ここに引用例1記載の発明でいうテキストデータを
置いたとしても,引用例1記載の発明にはそれを復号するための構成は示され
ておらず,これは別個の発明に属すべきことである。仮に「ユーザデータで,
あれば,ユーザデータ領域に置くことができる」という論法が発想としてあり
得るとしても,それを実現するための具体的な技術の実現には,単なる発想で
は足りず,新たな創作行為を要するものである。
第4被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。
1取消事由1(相違点の看過)について
引用例1の段落【0032】及び【0035】の記載から,次の各事項が理
解される。
a)動画像圧縮回路113としては,MPEGのエンコーダを用いることがで
きること。
b)MPEGのビットストリームには「ユーザデータ領域」が規定されてい,
ること。
c)上記「ユーザデータ領域」には,MPEGに準拠した上で任意のデータを
書き込むことができること。
d)マルチプレクサ114では,上記「ユーザデータ領域」にテキストデータ
を書き込む動作を行うこと。
e)デマルチプレクサ116では,入力されたMPEGビットストリームを圧
縮画像データとテキストデータに分離し,MPEGビットストリームの「ユー
ザデータ領域」からテキストデータを読み出して字幕スーパインポーザ118
に送ること。
f)動画像伸張回路117にはMPEGデコーダを用いること。
上記b,c,d)によれば,引用例1記載の発明におけるマルチプレク))
サ114は,MPEGのビットストリームに規定されている「ユーザデータ領
域」に,MPEGに準拠した上でテキストデータを書き込む動作をするものと
して理解されるべきである。
また,上記e)より,引用例1記載の発明におけるデマルチプレクサ116
は,入力されたMPEGビットストリームを圧縮画像データとテキストデータ
に分離し,MPEGビットストリームの「ユーザデータ領域」から読み出した
テキストデータを字幕スーパインポーザ118に送るものであると解される。
してみれば,引用例1には,本件審決が認定したように,テキストデータを
(プライベートストリームより上位の)MPEGビットストリームのユーザデ
ータ領域に書き込み,分離するという発明(技術思想)が明確に開示されてお
り,原告主張のようにプライベートストリームにのみ格納されていると断定す
ることは妥当でない。
2取消事由2,3(相違点a,bの判断の誤り)について
本件審決は,MPEGビデオストリームを含む上位概念であるMPEGビッ
トストリームに関する引用例1記載の発明において,処理対象が動画像データ
であることを考慮して,MPEGビットストリームとして,ユーザデータ領域
を備えるものであることが明らかなMPEGビデオストリームとすることは,
当業者が容易に想到できたと判断したもので,その判断に誤りはない。
仮に,原告が主張するように,引用例1記載の発明において,テキストデー
タ(ユーザデータ)が書き込まれる「ユーザデータ領域」が,MPEGビデオ
ストリームとは別のプライベートストリームにあると解し得たとしても,本件
審決の判断に何ら影響を与えるものではない。なぜならば,プライベートスト
リームは,本来,映像(ビデオデータ)や音声(オーディオデータ)など特定
の用途以外でユーザが任意のデータを格納することができるものであり,その
意味で「ユーザデータ領域」を有するものであるといえ,かつ,プライベート
ストリーム自体は,MPEGビットストリームの範疇に含まれることを考えれ
ば,プライベートストリームは「MPEGビットストリームのユーザ領域」と
いい得るからである。
第5当裁判所の判断
1取消事由1(相違点の看過)について
原告は,本願発明では,ユーザデータ領域がMPEGビデオストリーム内の
特定領域にあるのに対し,引用例1記載の発明では,ユーザデータ領域がMP
EGビデオストリームとは別のプライベートストリームにある点において,両
者は明らかに異なるにもかかわらず,本件審決は,この相違点を看過した旨主
張する。
()ユーザデータ領域について,引用例1(甲4)には次の記載がある。1
「0031】動画像データメモリ112に蓄積された動画像データは,動【
画像圧縮回路113で圧縮され,字幕テキストデータメモリ111に蓄積さ
れたテキストデータと,マルチプレクサ114で合成され,蓄積・伝送系1
15に送られる。ここで,蓄積・伝送系とは,テープやCD-ROMなどの
パッケージメディアや,ISDN,TV放送などの通信系であり,これらを
通じてデータが使用者のもとに届けられる。
【0032】使用者が受取ったデータは,デマルチプレクサ116により,
圧縮画像データとテキストデータに分離される。画像データは信号線120
を通して動画像伸長回路117に送られる。テキストデータは,信号線12
1を通して字幕スーパインポーザ118に送られ,ここでビットマップテキ
スト画像に展開され,動画像伸長回路17で伸長された動画像へ重畳される。
こうして得られた字幕付き動画像が表示器119により表示される」。
「0035】また,図4に示した動画像圧縮回路113としては,国際標【
準の動画像圧縮方式であるMPEGのエンコーダを用いることができる。M
PEGのビットストリームには『ユーザデータ領域』が規定されており,M
PEGに準拠した上で一ピクチャごとに任意のデータを書込むことができる
ため,マルチプレクサ114では,この『ユーザデータ領域』にテキストデ
ータを書込むという動作を行う。デマルチプレクサ116では,MPEGビ
ットストリームの『ユーザデータ領域』からテキストデータを読出して字幕
スーパインポーザ118に送る。動画像伸長回路117にはMPEGデコー
ダを用いる」。
()本願の出願時において,次のMPEG関連技術が周知であったと認めら2
れる。
甲6文献の233頁の図11-2の(a)及びその説明,242頁の図1
1-12,243頁の表11-1等に示されるように,MPEGビットスト
リーム(データ列)は,MPEGビデオストリーム,MPEGオーディオス
トリーム,プライベートストリームから構成されるもので,これら3つのス
トリームの上位概念として捉えられるものであり,また,プライベートスト
リームには,ビデオやオーディオ以外のアプリケーションで使用するユーザ
データを付加することができる。
また,引用例2(甲5)に示されるように,MPEGビデオストリームは,
1シーケンスのデータとして,シーケンスデータ(Sデータ,GOP)
()データ(Gデータ,ピクチャーデータ(Pデータ)かGroupOfPictures)
ら構成され,また,MPEGビデオストリームには,ユーザデータ領域を設
けて,任意のGデータ又はPデータの間にユーザデータ(Uデータ)を挿入
することができる。なお,このことは,本願明細書(甲2)の段落【004
0】の記載からも明らかである。
()してみれば,MPEGビットストリームにユーザデータを記録(格納)3
する際には,上記()のとおり,下位階層のプライベートストリームを利用2
する方法と,下位階層のMPEGビデオストリームのユーザデータ領域を利
用する方法とが存在するところ,引用例1記載の発明のユーザデータ領域に
ついて,引用例1には,上記()のとおり,MPEGビットストリームのユ1
ーザデータ領域として規定されているのみで,下位階層のMPEGビデオス
トリーム又はプライベートストリームのいずれを利用するかについては,何
ら記載されていない。
したがって,引用例1記載の発明を,ユーザデータ領域がプライベートス
トリームにあるものに限定することはできないから,本件審決が,本願発明
と引用例1記載の発明との相違点として「MPEGストリームに関し,本,
願発明は『MPEGビデオストリーム』をその対象とするのに対し,引用,
例1に記載された発明においては,このことが特に示されていない点」を認
定したことは相当であり,原告の前記主張は採用することができない。
()アこの点に関し,原告は,まず,引用例1記載の発明において「動画4,
像圧縮回路113」がMPEGビデオエンコーダである場合,MPEGビ
デオストリームの生成は「動画像圧縮回路113」で完結する一方,文字
等のテキストデータは,この時点ではまだ容量が不明であるため,このよ
うなデータを格納するユーザデータ領域をMPEGビデオストリームの中
に適切に確保することはできないから,続く「マルチプレクサ114」が
テキストデータを格納する場合,それは必然的にプライベートストリーム
においてなされる旨主張する。
しかしながら,そもそも,原告自身,圧縮画像を生成する際,想定され
る最大サイズのユーザデータ領域をGOP層やピクチャ層に確保すれば,
テキストデータをMPEGビデオストリームに格納するためにマルチプレ
クサで合成することができることを自認しているところ,その際,テキス
トデータの容量をどの程度のものと想定するかは,単なる設計上の仕様の
問題にすぎないというべきである。原告は,想定される最大サイズのユー
ザデータ領域をGOP層やピクチャ層に確保することは,データ圧縮の趣
旨に反する旨主張するが,例えば,テキストデータの目的を,原画像のタ
イトルをテキストで表示させることに限定すれば,想定されるユーザデー
タ領域のサイズはそれ程大きなものを必要とせず,データ圧縮の趣旨に反
することにはならない。したがって,テキストデータの容量不明を理由と
して,引用例1記載の発明のユーザデータ領域が必然的にプライベートス
トリームにある旨の原告の上記主張は,失当である。
イまた,原告は,引用例1記載の発明において,仮にユーザデータがMP
EGビデオストリーム内の特定領域に格納されるとすれば「動画像伸長,
回路117(MPEGデコーダ)でMPEGビデオストリームが解析さ」
れ,特定領域からテキストデータが抽出されるはずであるが,そうすると,
「デマルチプレクサ116」の存在が無意味となるから,ユーザデータは
特定領域以外のユーザデータ領域,つまり,プライベートストリームに格
納されていることになる旨主張する。
しかしながら「動画像伸長回路117」がMPEGデコーダであって,
も,本来,デコーダは,その名称自体から明らかなように,復号する(伸
長する)機能を奏するものにすぎないから,該MPEGデコーダが,圧縮
された画像データ以外のユーザデータを分離抽出する機能を必ずしも有す
るとは限らない。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,失当
である。
ウさらに,原告は,引用例1の段落【0032】にも,はっきりとMPE
Gビットストリームが「画像データ」と「テキストデータ」に分離される
旨が説明されており,もともとMPEGビデオストリーム(画像データ)
とプライベートストリーム(テキストデータ)が多重化されて生成された
MPEGビットストリームがもとのように分解されただけであり,テキス
トデータがMPEGビデオストリームに組み込まれていたなどとは読めな
い旨主張する。
引用例1の段落【0032】には「使用者が受取ったデータは,デマ,
ルチプレクサ116により,圧縮画像データとテキストデータに分離され
る」との記載があるところ,上記「使用者が受取ったデータ」がMPE。
Gビットストリームを指すことは原告も自認している。そして,前記()2
のとおり,MPEGビットストリームは,MPEGビデオストリーム,プ
ライベートストリーム等を含む上位概念であり,また,ユーザデータを,
MPEGビデオストリームに持たせることも,プライベートストリームに
持たせることも,共に周知である。そうであれば,引用例1の上記記載か
らは,テキストデータがMPEGビデオストリームに組み込まれていると
も理解することができるから,原告の上記主張は失当である。
エまた,原告は,甲6文献に「受信された多重ストリームは,DMUX
(,分離部)でビデオ,オーディオなどの各個別のストリーDemultiplexer
ム(データ列)部分を分離して,それぞれの復号器に送る」とあるとおり,
デマルチプレクサにおける分離の対象は,いずれもビデオストリーム,オ
ーディオストリーム,プライベートストリーム等のストリームを単位とす
るのであるから,引用例1記載の発明において,分離がMPEGビデオス
トリーム内のユーザデータについてなされると解釈することはできない旨
主張する。
しかしながら,引用例1記載の発明において,デマルチプレクサ116
により分離される対象が,MPEGビデオストリーム,プライベートスト
リーム等を含む上位概念であるMPEGビットストリームであることは,
上記ウのとおりであるから,分離の対象がMPEGビデオストリームであ
る場合が排除されていないことは明らかである。そして,分離部(デマル
チプレクサ)における分離の対象は,その分離部に入力されるデータ列
(ストリーム)の内容(中身)によって変わるものであることも当然であ
る。そうであれば,その入力ストリームがユーザデータを含むMPEGビ
デオストリームであれば,そのユーザデータを分離の対象とすることも当
然想定されるところである。原告の指摘する甲6文献の記載は,分離部の
入力ストリームがビデオストリーム,オーディオストリーム等の多重スト
リームである場合に,それらが分離の対象となることを記載したものにす
ぎず,個々のストリーム内におけるユーザデータを分離の対象とするか否
かについては何ら触れていないから,上記判示と相反するものではない。
()以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。5
2取消事由2(相違点aの判断の誤り)について
原告は,本件審決が相違点aに係る本願発明の構成を当業者が容易に想到す
ることができたものである旨判断したのは,誤りである旨主張する。
()前記1()のとおり,MPEGビットストリームは,MPEGビデオスト12
リーム,プライベートストリーム等の3つのストリームから構成され,これ
ら3つのストリームの上位概念として捉えられるものであり,また,MPE
Gビットストリームにユーザデータを記録(格納)する際に,MPEGビデ
オストリームのユーザデータ領域を利用する方法があることは,本願出願時
に周知の技術事項であったものである。そして,本願発明と引用例1記載の
発明との一致点が「ストリームのユーザ領域であって,ストリMPEGMPEG
ームのなかの領域に記録されたユーザデータを分離し,ピクチャーデータと
合成して再生するデータ処理方法」であることは,当事者間に争いがない。
から,本願発明も引用例1記載の発明も,MPEGビットストリーム中に記
録されたユーザデータを,MPEGビットストリーム中から分離し,その後
でピクチャーデータと合成して再生(表示)するようにしたデータの処理方
法である点において,何ら相違するものではない。してみれば,そのユーザ
データが記録(格納)されているデータストリームとして,MPEGビット
ストリームのうちのMPEGビデオストリームを採用する程度のことは,上
記周知の技術事項を考慮すれば,当業者が適宜に採用し得る設計事項にすぎ
ないというべきである。
したがって,本件審決が,相違点aについて,引用例1記載の発明のMP
EGストリームをMPEGビデオストリームとすることは当業者が容易に想
到できたと判断したことは相当であって,原告の上記主張は採用することが
できない。
()この点に関し,原告は,引用例1記載の発明において,①容量の不明な2
テキストデータのためのユーザデータ領域をどのようにMPEGビデオスト
リーム内に確保するのか,その方法がどこにも開示されておらず,②もしテ
キストデータがMPEGビデオストリームに組み込まれているなら「スト,
リーム単位で分ける」ことが役割のデマルチプレクサ116は,その通常の
意味とは違う役割を担うはずであるがそのための構成はどこにも開示されて
いないから,相違点aに係る本願発明の構成を想到することは容易ではない
旨主張する。
しかしながら,①については,圧縮画像を生成する際,想定される最大サ
イズのユーザデータ領域をGOP層やピクチャ層に確保すれば,テキストデ
ータをMPEGビデオストリームに格納するためにマルチプレクサで合成す
ることができるのであって,その際,テキストデータの容量をどの程度のも
のと想定するかは,単なる設計上の仕様の問題にすぎないことは,前記1
(4)アのとおりである。
また,②については,分離部(デマルチプレクサ)における分離の対象は,
その分離部に入力されるデータ列(ストリーム)の内容(中身)によって変
わり,その入力ストリームがユーザデータを含むMPEGビデオストリーム
であれば,そのユーザデータを分離の対象とすることも当然想定されるとこ
ろであることは,前記1()エのとおりであるから,デマルチプレクサ114
6を「ストリーム単位で分ける」機能を有するもののみに限定することはで
きない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
()以上のとおり,原告の取消事由2の主張も理由がない。3
3取消事由3(相違点bの判断の誤り)について
原告は,引用例2記載の発明のユーザデータ領域に,引用例1記載の発明で
いうテキストデータを置いたとしても,引用例1記載の発明にはそれを復号す
るための構成は示されていないから,本件審決が,相違点bに係る本願発明の
構成を当業者が容易に想到することができたものである旨判断したのは,誤り
である旨主張する。
()しかしながら,本願発明に係る請求項は,データの処理方法として,M1
PEGビデオストリームのユーザ領域に記録されたユーザデータを,該MP
EGビデオストリームから分離し,その後でピクチャーデータと合成して再
生(表示)するようにしたデータの処理方法を規定しているのみであって,
何らユーザデータの復号のための構成を規定していないから,引用例1記載
の発明にユーザデータの復号のための構成が示されていないからといって,
相違点bに係る本願発明の構成を当業者が容易に想到することができないと
いうことはできない。
2GroupOf()そして,引用例2には,MPEGストリーム中のGOP(
)層,ピクチャ層にユーザデータ領域(UD)を設けることが記載Pictures
されており,このGOP層,ピクチャ層のユーザデータ領域(UD)は,G
OPヘッダ,ピクチャヘッダに対応付けられた領域であるから,引用例2に
記載された発明を引用例1記載の発明に適用して,テキストデータ(ユーザ
データ)を書き込む際に,GOPヘッダ,ピクチャヘッダに対応付けられた
領域に記憶するようにすることは,当業者であれば容易に想到することがで
きたというべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
()以上のとおり,原告の取消事由3の主張も理由がない。3
4結論
以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,他に本件審決
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官三村量一
裁判官嶋末和秀
裁判官沖中康人は,転任のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官三村量一

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その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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