弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鎌田久仁夫、同鎌田富雄、同鈴木正美、同田谷徹郎の上告理由第一点
ないし第四点について
 地方公共団体の議会の議員の定数配分を定めた条例の規定(以下「定数配分規定」
という。)そのものの違憲、違法を理由とする地方公共団体の議会の議員の選挙の
効力に関する訴訟が公職選挙法(以下「公選法」という。)二〇三条の規定による
訴訟として許されることは、当裁判所の判例(昭和四九年(行ツ)第七五号同五一
年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三頁、昭和五六年(行ツ)第五七号
同五八年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三頁、昭和五九年(行ツ)
第三三九号同六〇年七月一七日大法廷判決・裁判所時報九一一号一頁)の趣旨とす
るところであり(昭和五八年(行ツ)第一一五号同五九年五月一七日第一小法廷判
決・民集三八巻七号七二一頁参照)、被上告人選定者らの上告人に対する異議申出
及び本訴を適法とした原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所
論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第五点について
 本訴につき訴えの利益を欠くとの上告人の主張を排斥した原審の判断は、正当と
して是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自
の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
 同第六点ないし第八点について
 一 論旨は、要するに、千葉県議会議員の定数配分を定めた千葉県議会議員の選
挙区等に関する条例(昭和四九年千葉県条例第五五号。以下「本件条例」という。)
の規定(以下「本件定数配分規定」という。)が昭和五八年四月一〇日施行の千葉
県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)当時において公選法一五条七項の規
定に違反するものであつたとする原審の判断は、憲法一四条、九二条及び九三条並
びに公選法一五条七項及び二七一条二項の規定の解釈適用を誤り、又は審理不尽、
理由不備若しくは理由齟齬の違法がある、というのである。
 二 公選法一五条七項は「各選挙区において選挙すべき地方公共団体の議会の議
員の数は、人口に比例して、条例で定めなければならない。ただし、特別の事情が
あるときは、おおむね人口を基準とし、地域間の均衡を考慮して定めることができ
る。」と規定しており、地方公共団体の議会は、定数配分規定を定めるに当たり、
同項ただし書の規定を適用し、人口比例により算出される数に地域間の均衡を考慮
した修正を加えて選挙区別の定数を決定する裁量権を有することが明らかである。
そして、いかなる事情の存するときに右の修正を加えるべきか、また、どの程度の
修正を加えるべきかについて客観的基準が存するものでもないので、定数配分規定
が公選法一五条七項の規定に適合するかどうかについては、地方公共団体の議会の
具体的に定めるところがその裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかによ
つて決するほかはない。
 ところで、憲法一四条一項の規定は、地方公共団体の議会の議員を選挙する住民
の権利(九三条二項)につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず、その
選挙権の内容の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものと解すべきであり、
このことは前掲各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。そして、公選法一五条
七項は、憲法の右要請を受け、地方公共団体の議会の議員の定数配分につき、人口
比例を最も重要かつ基本的な基準とし、各選挙人の投票価値が平等であるべきこと
を強く要求しているものと解される。したがつて、定数配分規定の制定又はその改
正により具体的に決定された定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不
平等が存し、あるいは、その後の人口の変動により右不平等が生じ、それが地方公
共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮し得る諸般の要素をしんし
やくしてもなお一般的に合理性を有するものとは考えられない程度に達していると
きは、右のような不平等は、もはや地方公共団体の議会の合理的裁量の限界を超え
ているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、公選法
一五条七項違反と判断されざるを得ないものというべきである。
 もつとも、制定又は改正の当時適法であつた定数配分規定の下における選挙区間
の議員一人当たりの人口の格差が、その後の人口の変動によつて拡大し、公選法一
五条七項の選挙権の平等の要求に反する程度に至つた場合には、そのことによつて
直ちに当該定数配分規定の同項違反までもたらすものと解すべきではなく、人口の
変動の状態をも考慮して合理的期間内における是正が同項の規定上要求されている
にもかかわらずそれが行われないときに、初めて当該定数配分規定が同項の規定に
違反するものと断定すべきである。
 以上は、当裁判所の判例の示すところであり(前掲昭和五九年五月一七日第一小
法廷判決)、これを変更すべき理由はない。
 三 そこで、原審の適法に確定した事実に基づき、本件条例の制定及び改正の経
過並びに昭和五八年四月一〇日に行われた本件選挙当時における定数配分の状況に
ついて見ることとする。
 (一) 昭和四九年に制定された本件条例は、昭和四五年の国勢調査の結果に基づ
き、新たに選挙区の区割り及び各選挙区への議員定数配分を定めたものであるが、
制定当時の定数の配分は、公選法一五条二項の規定によるいわゆる強制合区の対象
たるべき海上郡及び匝瑳郡の区域を同法二七一条二項の規定により独立の選挙区(
以下「特例選挙区」という。)とした上これに各定数一を配分し、香取郡、山武郡、
長生郡及び夷隅郡の各選挙区に同法一五条七項ただし書を適用して人口比例によつ
た場合よりも一だけ多い定数を配分したほかは、ほぼ人口に比例したものであつた。
その結果昭和五〇年の選挙の際には、選挙区間における議員一人当たりの人口の較
差は、最大一対三・五五(以下、較差に関する数値は、すべて概算である。)を示
したが、特例選挙区である海上郡、匝瑳郡の二選挙区を除外し、その余の選挙区に
ついて見ると、その較差の最大は一対二・七六にとどまるものであつた。
 (二) その後、昭和五四年に行われた県議会議員選挙に際しては本件条例に改正
は加えられず、昭和五〇年の国勢調査の結果による人口に基づく右選挙当時の選挙
区間における議員一人当たり人口の較差は、最大一対五・六一を示し、特例選挙区
である海上郡、匝瑳郡の二選挙区を除いたその余の選挙区間について見ても、その
較差の最大は一対四・二三を示し、また、本件条例のその後の改正により新たに特
例選挙区とされた勝浦市選挙区を除外し、その余の選挙区間における議員一人当た
り人口の較差を見ても、最大一対三・九三を示していた。さらに、右選挙当時、人
口の多い選挙区の定数が人口の少ない選挙区の定数より少なくなつているというい
わゆる逆転現象も一部の選挙区間で見られた。
 (三) 右選挙ののち本件選挙までの間には、本件条例について、公選法一五条二
項の規定による強制合区の対象となることが明らかとなつた勝浦市選挙区を特例選
挙区とする等の改正がされたのみで、右のような投票価値の較差を解消ないし緩和
することを目的とする改正はされなかつた。そして、本件選挙当時において、選挙
区間における議員一人当たり人口の較差は、海上郡選挙区と我孫子市・a町選挙区
との間の一対六・四九を最大に、匝瑳郡選挙区と我孫子市・a町選挙区との間の右
較差も一対六・三三に達し、特例選挙区である海上郡、匝瑳郡及び勝浦市の三選挙
区を除外し、その余の選挙区間について見ても、その較差の最大は一対四・五八に
達するものであつた。また、いわゆる逆転現象も、山武郡(人口一〇万九六七六人、
定数三)及び香取郡(人口一一万〇二三〇人、定数三)の両選挙区と八千代市(人
口一三万四四七九人、定数一)及び我孫子市・a町(人口一三万四七六七人、定数
一)の両選挙区との間に存するような顕著な現象を始めとして、他にも一部の選挙
区間において見られた。そして、右逆転現象を生じている山武郡選挙区と我孫子市・
a町選挙区との間の議員一人当たりの人口較差は一対三・六九に、香取郡選挙区と
八千代市選挙区との間のそれでも一対三・六六に達することが計算上明らかである。
 四 本件選挙当時において選挙区間に存した右のような議員一人当たり人口の較
差は、本件条例制定後の人口の変動の結果にほかならないが、前記のとおり、選挙
区の人口と配分された定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされる地
方公共団体の議会の議員の選挙の制度において、右較差が示す選挙区間における投
票価値の不平等は、地方公共団体の議会において地域間の均衡を図るため通常考慮
し得る諸般の要素をしんしやくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは考え
られない程度に達していたというべきであり、これを正当化する特別の理由がない
限り、選挙区間における本件選挙当時の右投票価値の較差は、公選法一五条七項の
選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべきである。本件におい
て右特別の理由を見いだすことはできない。
 五 そして、本件定数配分規定の下における選挙区間の投票価値の較差は昭和五
〇年一〇月実施の国勢調査の結果が判明した時点において既に公選法一五条七項の
選挙権の平等の要求に反する程度に至つていたものというべく、右較差が将来更に
拡大するであろうことは記録によつて明らかな千葉県における各地域の人口変動の
経緯に照らし容易に推測することができたものというべきである。しかるに、千葉
県議会は、本件選挙までの間に右のような投票価値の較差を解消ないし緩和するこ
とを目的とする改正を行わず、右較差を放置したものであつて、公選法一五条七項
の規定上要求される合理的期間内における是正をしなかつたものというべく、した
がつて、本件定数配分規定は、本件選挙当時、同項の規定に違反するものであつた
と断定せざるを得ない。
 そして、定数配分規定は、その性質上不可分の一体をなすものと解すべきであり、
同項に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず、全体として違法の瑕疵を
帯びるものと解すべきである(前掲各大法廷判決参照)。
 六 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に公選
法一五条七項及び二七一条二項の規定の解釈の誤りその他所論の違法があるとする
ことはできない。所論違憲の主張はその実質において単なる法令違反の主張にすぎ
ないところ、原判決に法令違反がないことは右に述べたとおりである。論旨は、採
用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    矢   口   洪   一
            裁判官    高   島   益   郎

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