弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成27年10月27日宣告
窃盗被告事件
判決
主文
1被告人を懲役10月に処する。
2未決勾留日数中110日をその刑に算入する。
3訴訟費用中,鑑定人Aに支給した分は被告人の負担とする。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は,平成27年3月7日,神戸市a区bc丁目d番e号所在のfg店において,
同店店長B管理の牛乳1本等7点(販売価格合計1258円相当)を窃取したもの
である。
【証拠の標目】
(省略)
【累犯前科】
(省略)
【法令の適用】
・罰条刑法235条
・刑種の選択懲役刑を選択
・累犯加重(再犯)刑法56条1項,57条
・未決勾留日数の算入刑法21条
・訴訟費用(一部負担)刑事訴訟法181条1項本文(鑑定人Aに支給した分。
なお,同鑑定人に係る情状鑑定は便宜的に裁判所の鑑定
として実施したが,実質的には弁護人側の私的鑑定であ
り,その費用負担については弁護人側において了承して
いる〔弁護人作成の平成27年7月22日付け情状鑑定請
求書〕。)
【弁護人の主張に対する判断】
1弁護人は,被告人は罹患する摂食障害の影響で心神喪失又は心神耗弱状態で本
件犯行に及んだ可能性がある旨主張する。
2関係証拠によると,被告人は,大学在学中の平成15年頃から過食嘔吐を繰り
返すようになり,後に摂食障害と診断され,入院治療を受けるなどしたが治まら
ず,十数年にわたって被告人自身もその家族等周辺の者も悩まされ続けていたと
いうのであり,本件犯行当時,被告人が摂食障害に罹患していたことは容易に認
められ,またその程度もおよそ軽いものではなかったといえる。
そして,被告人が万引きで検挙されるようになったのは平成16年頃からであ
り,盗む対象も飲食物に限られるというのであるから,被告人が摂食障害に罹患
したことと万引きをするようになったこととの間に一定の関連性があることは明
らかである。
3そこで責任能力につき検討する。
被告人は,本件当時,一人暮らしをしながら医療事務の仕事をしており,犯行
当日も仕事に行き,その帰りに本件に及んだというもので,摂食障害の点を除け
ば,通常の社会人として生活していたといえる。
犯行状況等について,被告人は,過食嘔吐(吐き戻し)をする目的で,飲食物
を万引きするために本件被害店に赴き,店内を巡って好きな食品ですぐに食べら
れるようなものを選び,これらを持参したバッグの中に入れたり,手に持ったま
まやはり持参したハンドタオル(ハンカチ)を上にかけたりしてレジを通らずに
店外に持ち出したところで,犯行を現認していた私服警備員に声をかけられ,捕
まったと認められる。
被告人は,当初から万引きをするつもりで被害店に行き,商品を隠して店外に
持ち出すという万引きとしてはごくありふれた手口で犯行に及び,犯行後に特異
な言動があったとはうかがわれない。盗む商品を隠すという点だけをみても,被
告人が自己の行為の違法性を十分に認識していたことは明らかである。その犯行
状況等に責任能力に問題があることをうかがわせる事情は一切ない。
犯行動機について,被告人は,どうせ吐いてしまう食品に代金を払うのがもっ
たいなかったなどと述べており,そのような動機形成過程には摂食障害の影響が
強くうかがわれるものの,被告人が,大量の飲食物を毎日購入すれば生活が苦し
くなったと思うとも述べていることも併せれば,犯行動機それ自体は容易に了解
可能なものであるといえる。
また,犯行状況に関する被告人の供述からすれば,当時の被告人の意識は清明
で,記憶もよく保持されていると認められる。
4弁護人は,被告人は摂食障害の影響で,食物窃取に係る行動を制御する能力が
なかったか,その能力が著しく減退していたと主張する。
しかし,既に検討したとおり,被告人が自らの意思で主体的に判断して行動し
ていることは明らかであり,また,被告人自身,当公判廷において,お金がたく
さんあったら万引きはしないと思う,万引きが絶対に発覚する状況では万引きし
ない,スーパー等に行けば必ず万引きをするわけではなく,吐き戻しをせずにき
ちんと食事として摂るつもりの時は代金を払うことが多かったなどとも述べてお
り,被告人が,万引きをするかどうかを自己の意思でコントロールできない状態
であったとはうかがわれない。
5以上によれば,精神鑑定を実施するまでもなく,被告人の摂食障害が責任能力
に影響を及ぼすようなものではないことは明らかであり,本件犯行時に被告人が
完全責任能力を有していたことは優に認められ,これに合理的な疑いを容れる余
地はない。
【量刑の理由】
本件は営業中のスーパーでの万引き窃盗1件の事案である。
代金を支払いたくないという犯行動機自体に酌量の余地はなく,平成20年以降,
同様の万引き窃盗で罰金2回,懲役2回,計4回の有罪判決を受け,上記累犯前科
記載のとおり,執行猶予を取り消されて併せて相当期間服役した経験もあるのにま
たもや安易に及んだもので,本件犯情はこの種の事案としては悪質であるといわざ
るを得ない。
しかしながら,本件被害の程度が重大とはいえないことに加え,弁護人を通じて
被害弁償の申し入れをしていること,前記認定のとおり犯行動機形成過程には摂食
障害が強く影響していると認められること,父親が証人出廷し,今後とも被告人を
見捨てずに指導監督する旨述べていることに加え,被告人が,事実関係を率直に認
めると共に,今回実施した情状鑑定を通じて自己の問題点を見つめ直し,今回を最
後に更生をするという決意を新たにしていることも併せれば,主文の刑期が相当で
ある。
(求刑-懲役1年6月)
平成27年10月27日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判官畑口泰成

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