弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     長野地方裁判所伊那支部が昭和四十二年五月九日、同庁昭和三十四年
(ワ)第二八、第二九号の各解雇無効確認並びに給料請求事件についてなした各回
付は、いずれもこれを取消す。
         理    由
 本件各抗告の趣旨および抗告の理由は、いずれもその内容を等しくし末尾添付別
紙記載のとおりである。
 本件記録にそれぞれ編綴されている各回付書によれば、長野地方裁判所伊那支部
は、昭和四十二年五月九日、原告抗告人A、被告相手方間の同庁昭和三十四年
(ワ)第二八号、原告抗告人B、被告相手方間の同庁昭和三十四年(ワ)第二九号
の各解雇無効確認並びに給料請求事件(以下本件各事件という)を、いずれも長野
地方裁判所に回付したことを認めることができる。
 よつて案ずるに、地方裁判所の支部は本庁と一体をなして、一つの管轄裁判所を
構成するものであり、各支部につき「地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則(昭
和二十二年最高裁判所規則第十四号)」によつて、それぞれ管轄区域が定められて
いても、右管轄区域なるものは、土地管轄について民事訴訟法が規定する管轄単位
をなすものでないから、原告は、その訴を民事訴訟法の土地管轄の規定に違背する
ことなく地方裁判所の本庁又<要旨>は同一地方裁判所の支部中任意の支部に提起し
うるものである。ところで、右訴の提起により地方裁判所の本庁の各部又は
支部に訴訟は係属し、その訴訟を受理した部は訴訟法上の受訴裁判所となるので、
その部に係属した事件を他の部(本庁の他の部並びに支部を含む)に移すことは、
民事訴訟法のいわゆる「事件の移送」に該当するものではなく、同法の移送に関す
る規定の適用はないけれども、訴訟法上の受訴裁判所を変更するのであるから、受
訴裁判所は訴訟上の措置として、裁判(決定)をもつて、右変更をなすべきもので
ある。かような措置については、事件当事者双方に異議のない場合を除き、合議裁
判をすることのできない乙号支部において、事件を合議制の下に審理するを要する
ものと認めた場合、若しくは民事訴訟法第三十一条所定の如き必要ある場合、その
他正当の事由がある場合に限り、受訴裁判所を変更し得るものであり、濫りに他の
部に回送することは許されないものと解さなければならない。思うに当事者にとつ
て、裁判所が地域的に遠いか近いかは、その訴訟遂行上著しい利害関係を醸すもの
であることは明らかであつて、地方裁判所の本庁と支部又は支部相互間に上記規則
によつて、それぞれ管轄区域が定められた所以は本来国民に対する司法行政上の便
益供与に出たものに過ぎないとしても、確立された管轄区域によつて、一たん保護
されるに至つた国民の権利は、単なる事務取扱上の措置を理由に任意に剥奪されう
るがごときものと謂うを得ないものと考えなければならないからである(尤も、同
一地方裁判所の本庁内の一部から他部に回付することは裁判所の事務の都合上、決
定書を作成することなく行われているのが実情であるが、同一庁内の部への回付は
当事者に上述の如き利害関係はないので、当事者も異議なく、円滑に行われている
が、この場合の回付は訴訟上の決定の性質をもつているのである。)
 上記のように、原告が、その訴を民事訴訟法の土地管轄の規定に違背することな
く、地方裁判所の本庁又は同一地方裁判所の任意の支部に提起しうるものである結
果、被告は原告の右任意選択によつて或は本庁或は支部に応訴を余儀なくされ、そ
の為不当に著しい経済上の不利益を強いられることなしとしないとすれば、被告に
対して、当該訴訟事件を適正な支部なり本庁なりに回付の申立をなす権利(申立
権)を拒む理はない。この申立を却下した決定に対し、抗告をなしうることは民事
訴訟法第四百十条の規定上明らかである。そうだとすれば申立を認容し、或は申立
に基づかずしてなされた回付決定に対しても、右決定によつて利益を害される当事
者にも抗告をなしうるとするは当事者衡平の観点より、当然のことといわねばなら
ない。
 以上説示のとおりであつて、当裁判所は上記長野地方裁判所伊那支部の回付に対
する本件抗告自体、適法であると解するから、進んで本件抗告の理由について判断
する。
 抗告代理人らの、本件回付によつて、抗告人らが経済上重大な損失を蒙るとの主
張についてみるに、抗告人らがそれぞれ、上伊那郡a町b(抗告人B)、岡谷市c
町(抗告人A)に居住することは本件各事件の記録上明らかであり、右各地より伊
那支部までの距離が、それぞれ約十七キロメートル、約二十八キロメートルに過ぎ
ないのに対し、本庁である長野地方裁判所までの距離は百十キロメートルを越え、
汽車で片道三時間以上も要するものであることは公知の事実である。而して、本件
各事件の記録によれば、本件各事件はいずれも昭和三十四年伊那支部に提起された
ものであつて、既に約八年に亘つて、それぞれ二十三回乃至二十四回の期日を重
ね、証拠調べも相当程度進行していることを認めることができる。
 そうだとすると、本件回付によつて抗告人らが経済上著しい損失を蒙るものとい
うべきであるのに対し、審理の今日の段階において改めて、伊那支部の裁判所庁舎
の構造、人員配置(法廷警備)等の面から本件各事件の審理を困難にする事情が生
じたとは到底考えられないのみならず、乙号支部である伊那支部において本件各事
件が合議体によつて審理、裁判されるを相当と思料した場合には、最寄りでありし
かも、上記最高裁判所規則によつて自ら合議体を構成(転補によつて)する飯田支
部に回付し、同支部において合議体による審理裁判をする旨の決定をする(抗告代
理人らの、長野地方裁判所は本案に対する土地管轄を有しないとの主張が理由のな
いものであること上段判示のとおりであつて、長野地方裁判所の合議体も裁判所法
第二十六条第二項一号の決定をなし得ないわけではないが)のが、訴訟遅延を避け
るうえからも相当な措置であつて、いずれにしても上記抗告人らの蒙る経済上の損
失を無視してまで、本件各事件を長野地方裁判所に回付する必要をみいだし難い。
 されば、他に特段の事情の存しない本件における回付の決定は不当というほかな
いから、本件抗告は理由があるといわなければならない。
 よつて原各回付決定は、これを取消すこととし、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 毛利野富治郎 裁判官 石田哲一 裁判官 矢ケ崎武勝)

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