弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
処分行政庁は,原告に対し,労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労
働者の就業条件の整備等に関する法律14条に基づく許可の取消処分をしては
ならない。
第2事案の概要
本件は,一般労働者派遣事業の許可を受けている原告が,平成18年3月3
1日,18歳に満たない者を深夜業に使用したとの事実により,静岡家庭裁判
所において罰金刑の判決を言い渡されたことから,処分行政庁が労働者派遣事
業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下
「労働者派遣法」という。)14条1項1号,6条1号,44条3項,4項,
労働基準法61条1項,119条1号,121条1項に基づき,原告に対し,
上記許可の取消処分(以下「許可取消処分」という。)を行おうとしていると
ころ,当該処分により重大な損害を生ずるおそれがあり,また,許可取消処分
を行うことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるなどとして,許可取消処分
の差止めを求めている事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)原告は,昭和56年12月16日,有限会社Aとして設立され,その後,
商号・組織変更を経て,平成9年12月1日には,一般労働者派遣事業の許
可を取得し,それ以降は,主として当該事業を営んでいる。全国に14箇所
の支店,70箇所の営業所を有し,約300名の従業員,派遣労働者として
登録を受けている者約2万名(このうち企業に派遣されて実際に労働してい
る者約3000名)を擁している。なお,原告は,年間純利益1億5000
万円以上を得ており,そのほとんどが上記事業によるものであり,派遣先と
して登録されている企業は約6700社である。(以上につき,甲3)
(2)原告藤枝営業所係長であるBは,平成17年1月18日午後11時ころか
ら同月19日午前4時40分ころまでの間,原告が雇用するC(当時16
歳。)を,倉庫業等を行う株式会社Dα営業所に派遣し,同営業所の作業に
従事させ,18歳に満たない者を深夜業に使用したとの事実(以下「本件犯
罪事実」という。)により,原告及びBは,平成17年12月6日,静岡家
庭裁判所に起訴された(以下「本件刑事事件」という。)。
(3)静岡家庭裁判所は,平成18年3月31日,本件犯罪事実が労働基準法6
1条1項,119条1号,121条1項,労働者派遣法44条3項,4項に
該当するとして,原告及びBに対し,それぞれ罰金××万円の刑に処するな
どの判決を言い渡した。
(4)原告は,上記(3)の判決に対し,法定の期間内に東京高等裁判所に控訴し
た。
(5)東京高等裁判所は,平成18年7月19日,原告に対し,上記控訴を棄却
する判決を言い渡した。
(6)原告は,上記(5)の判決に対し,法定の期間内に最高裁判所に対する上告
の申立てをした。
(7)この間,処分行政庁の所部担当者(東京労働局需給調整事業部需給調整事
業第2課・E主任需給調整指導官ら)は,本件刑事事件において原告が罰金
刑に処せられた場合,労働者派遣事業の許可は必ず取り消す方針である旨説
明した。
2争点(各争点に対する摘示すべき当事者の主張は,後記第3の「争点に対す
る判断」において記載するとおりである。)
(1)本案前の争点
ア原告は訴えの利益を有するか。
イ許可取消処分により原告に重大な損害を生ずるおそれがあるか。
(2)本案の争点
ア本件刑事事件において罰金刑が確定した場合,覊束的な許可取消事由と
なるか。
イ原告に対して許可取消処分を行うことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に
当たるか。
第3当裁判所の判断
1本案前の争点について
(1)差止めの訴えの要件について
差止めの訴えは,行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわら
ずこれがされようとしている場合において,行政庁がその処分又は裁決をし
てはならない旨を命ずることを求める訴訟であって(行政事件訴訟法3条7
項),当該処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがあ
る場合に限り,提起することができる(同法37条の4第1項)。
(2)訴えの利益について
ア前記前提事実(前記第2の1)のとおり,原告は,本件刑事事件の第1
審において有罪判決を受け,控訴審においても控訴棄却の判決を受けてい
ること,上記有罪判決を受けたことが労働者派遣法14条1項1号,6条
1号の一般労働者派遣事業の許可取消事由に該当すること,処分行政庁の
所部担当者において,有罪判決が確定すれば,許可取消処分を必ず行う方
針であると説明していることからすれば,近い将来,処分行政庁が許可取
消処分を行う相当の蓋然性が存在するというべきである。
イこの点に関して,被告は,原告が控訴審の判決に対して上告を申し立て
ており刑事事件が未確定であることやその判決確定後,許可取消処分を行
う前に聴聞の手続が予定されていることから,「一定の処分がされようと
している場合」に当たらず,原告には訴えの利益がない旨主張する。
ウしかし,上でみたとおり,原告は,既に第1審において有罪判決,控訴
審において控訴棄却の判決の各宣告を受けていること,さらに,処分行政
庁にあっては,後記2(1)のとおり,労働者派遣法14条1項1号に該当す
る場合には,覊束処分として,必要的に許可の取消しを行わなければなら
ないとの解釈を採っていることからすれば,被告が主張する点によっても
処分が行われる蓋然性を否定できるものではなく,原告に訴えの利益が存
することは明らかというべきである。
(3)重大な損害を生ずるおそれについて
ア行政事件訴訟法37条の4第1項所定の要件である「重大な損害を生ず
るか否か」を判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度を考慮する
ものとし,損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘
案するものとされている(同条2項)。
このような見地から,許可取消処分が行われることにより,原告が被る
であろう損害について検討する。
イ原告は,前記前提事実(1)のとおりの規模・態様によって,平成9年ころ
から,一般労働者派遣事業を中心に営んでいることに照らせば,社会的評
価や信用がその重要な経営上の前提となっているということができる。そ
うすると,許可取消処分が行われるならば,その営業の基盤に甚大な影響
が生じ,事後的に,処分が取り消され,あるいは,その執行停止が認めら
れたとしても,さらには,金銭賠償が行われたとしても,それによって有
形・無形の損害を完全に填補した上,従前と同じ規模・態様で営業活動を
行うことができないおそれが存在するだけではなく,営業活動を再開・継
続することそれ自体が不可能となるおそれも存在するとみることができる。
ウこの点に関して,被告は,原告が一般労働者派遣事業を行えなくなるの
は許可取消処分に伴う当然の結果であって,法律が予定している範囲内の
損害であること,原告の社会的評価及び信用の失墜は,本件犯罪事実に対
し刑事罰が科されたことにより生ずるもので,許可取消処分により生ずる
ものではないことから,重大な損害を生ずる場合に当たらないと主張する。
しかし,本件においては,当該保護法益や当該処分の性質からみて,直
ちに当該処分を甘受すべきであるとするのが原則とまではいえず,上記イ
のとおり,社会通念に照らして金銭賠償のみによることが著しく不相当と
認められるような場合であるから,被告主張のように,たとえ一般労働者
派遣事業を行えなくなることが許可取消処分に伴う当然の結果であるとし
ても,そのことから重大な損害を生ずる場合であることが否定できるもの
ではない。
また,原告における社会的評価及び信用の失墜は,刑事処分を受けたこ
とのみならず,許可取消処分を受けて一般労働者派遣事業を行うことが不
可能となり,取引先・派遣労働者等との間で契約関係を維持できなくなる
ことによっても生じ得るところであり,原告に与える打撃はむしろ後者に
よるものの方がより大きなものともなり得るものである。
エ以上のとおりであるから,許可取消処分が行われることにより「重大な
損害を生ずる」場合に当たるものと解することができる。
2本案の争点について
(1)本件刑事事件において罰金刑が確定した場合,覊束的な許可取消事由とな
るかについて
ア労働者派遣法14条1項1号に該当する場合の許可の取消しが,仮に,
被告主張のとおり,必要的なものであるとすれば,本件刑事事件の有罪判
決が確定した場合,法令上処分行政庁が許可取消処分をすべきでないとは
いえないこと及び許可取消処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又は濫用
となり得ないことは明らかであり,したがって,本件訴えは行政事件訴訟
法37条の4第5項所定の差止めの訴えの本案要件を満たさないことにな
ることから,まず,この点について検討する。
イ労働者派遣法14条1項1号は,取消事由として,同法6条各号(4号
を除く。)の許可の欠格事由を引用している。同法6条各号は,許可を取
得する場面において,一般労働者派遣事業を営むのが類型的に不適格であ
る者を列挙したものと解することができるところ,許可を取得した者につ
いて事後的に6条各号の事由が生じた場合についても,これを一般労働者
派遣事業に携わらせた場合には,同様の弊害が生じ得ると考えられるとこ
ろであるから,これを同事業を営むのが類型的に不適格な者として,同事
業から一律に排除するため,必要的に許可を取り消さなければならないも
のとしたとする被告主張の解釈にも相応の根拠が認められる。
ウしかし,労働者派遣法6条の許可の欠格事由には,一般派遣元事業主
(法人である場合には,その役員を含む。)が刑法の傷害罪,暴行罪,脅
迫罪及び背任罪等,直接の労働関係法令違反ではない罪名により罰金の刑
に処せられた場合も含まれており,しかも,当該犯罪行為が一般労働者派
遣事業の業務その他雇用・労働契約と何らかの関連性を有することも要求
されていない(同条1号)。これらの犯罪により罰金刑に処せられ,その
執行を終えた日から起算して5年を経過しない者又はそうした者を役員に
いただく法人(同条6号)は,当然に許可の欠格事由に該当することにな
る。労働者派遣を業として行うことを極めて厳格な法の規制の下に置いて
きた経緯にかんがみると,一般労働者派遣事業を新たに行おうとする者に
許可を与える場面についてみれば,その欠格事由を労働者派遣法6条各号
のように広範に定めたことについて合理性が肯定できるところである。他
方,いったん許可を受けて一般労働者派遣事業を営んでいる者について,
同様の事由があれば必要的に許可が取り消されるものとすると,例えば,
許可を受けた法人の役員が業務と無関係に暴行を働き罰金刑に処せられた
場合にも許可取消処分に至り,一律に一般労働者派遣事業を廃業せざるを
得ない事態を招くことになり,事業の継続期間,規模等に応じて,当該法
人の損失にとどまらず,雇用労働者や取引先との関係における社会的影響
との比較において,均衡を欠き不相当な結果が生ずる場合があることは否
定できない(仮に,たまたま取消しまでの期間に当該役員が退任すれば,
欠格事由がなくなって不都合が避けられることがあり得るとしても,それ
はあくまでも事実上の問題にとどまる。)。
エこの点に関して,被告は,法人の役員に暴行罪等により罰金刑に処せら
れた者がある場合を許可等の必要的取消事由とすることは,他に多くの立
法例が存する(建設業法,宅地建物取引業法,廃棄物の処理及び清掃に関
する法律,貸金業の規制等に関する法律等)ことに照らしても,立法政策
として不合理なものではないと主張する。しかし,被告の指摘する立法例
は,いずれも「取り消さなければならない」旨を規定し,必要的取消事由
であることを文言上明示しているものである。上で述べたとおり,許可の
有効期間の中途であっても一律に許可を取り消すことにすると,労働者派
遣事業特有の不都合な結果が生じ得ることになるのであるから,それでも
なお,罰金刑に処せられた役員を擁する法人を労働者派遣事業から排除す
ることの方を常に優先すべきであるという規律を採用するのであれば,必
要的取消事由であることを法文上明記してしかるべきものである。それに
もかかわらず,「取り消すことができる」(労働者派遣法14条1項柱
書)と規定されていることからすると,むしろ,このように規定されてい
ることにこそ意味をみいだすことができるのであって,少なくとも,上記
のような文言の異なる他の立法例の存在をもって,被告主張の解釈の根拠
とすることはできないというべきである。
また,被告は,一般労働者派遣事業を継続して行おうとする者は,許可
の有効期間の更新を受けなければならず,その際に労働者派遣法6条各号
(4号を除く。)所定の欠格事由が準用されていること(同法10条5
項)からすると,許可の有効期間が経過し,更新をする場面にあっては,
上記欠格事由が把握された一般派遣元事業主に対して当然に更新をしない
こととされ一般労働者派遣事業から排除されることになるのに対し,上記
欠格事由が把握されたにもかかわらず裁量により許可取消処分を行わない
余地を認めるのは,不均衡・不合理な取扱いであると主張する。しかし,
許可の取消しはあらかじめ定められた有効期間の中途に行われるものであ
るから,一般派遣元事業主の置かれた具体的状況は,有効期間経過後に行
われる更新の場面とおのずと異なるのであって,その取扱いが異なること
をもって,直ちに不均衡・不合理なものとすることはできない。
さらに,被告は,労働者派遣法14条1項1号に該当する場合において
は,同項2号又は3号に該当する場合に認められている事業停止命令処分
(同条2項)が認められておらず,同法6条各号の該当事由の程度等によ
り許可取消処分を行わない事態を予定していないものと解すべきこと,刑
事処分の存在以外に斟酌すべき事情が法律上規定されていないにもかかわ
らず,処分行政庁がこれを斟酌できるとする解釈に合理性がないこと等を
主張する。しかし,一般派遣元事業主が労働者派遣法又は職業安定法の規
定に違反し,かつ,罰金の刑に処せられた場合においては,労働者派遣法
14条1項1号のみならず同項2号にも該当することになり,許可取消処
分を課すまでもない事情が存するときに事業停止命令処分という中間的な
制裁をもって的確・柔軟に対応することが可能である。また,行政処分の
根拠規定に,当該処分を行うに当たって考慮すべき要素が明示されていな
いとしても,当該処分の性質・内容,その他規定の趣旨目的から考慮要素
を導き出すことは十分に可能であって,刑事処分の存在以外の斟酌すべき
事情が労働者派遣法14条1項に明示されていないからといって,同項1
号の許可取消処分が裁量処分であると解釈する妨げとなるものではない。
オ以上検討したところによれば,労働者派遣法14条1項1号に該当する
場合において,必要的に同法5条1項の許可を取り消さなければならない
と解するのは適当ではなく,むしろ,同法6条1項1号の趣旨に照らして,
当該欠格事由に該当することは十分に考慮し,原則として取り消す姿勢で
臨むべきであるとしても,処分行政庁は,個々の事案ごとに,刑罰に処せ
られた行為の性質・態様,当該業者が労働者派遣事業を継続した場合の弊
害発生のおそれ,許可が取り消された場合の当該業者その他利害関係人の
被る不利益等を総合的に勘案した上,例外的に許可を取り消さないことを
その裁量に基づいて決し得るものとするのがより合理的な解釈というべき
である。
(2)原告に対して許可取消処分を行うことが裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当
たるかについて
ア労働者派遣法14条1項1号に該当する場合の許可の取消しを必要的な
ものと解するべきでないことは(1)で判断したとおりであるが,原告が本件
刑事事件により有罪判決を受け,それが確定した場合,それは許可取消事
由に当たるのであって,処分行政庁が許可取消処分をすべきでないことが
法令の規定から明らかであるとは認められない。したがって,本件の差止
めの訴えが認められるかどうかは,専ら処分行政庁が許可取消処分をする
ことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められるか否かに
かかることになる(行政事件訴訟法37条の4第5項参照)ので,以下検
討する。
イ本件犯罪事実及び原告に対して行われた労働者派遣法上の指導等の措置
に関して,掲記の証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
(ア)Bは,夜間の就業を希望するCを取引先に派遣するために,同人の
実際の年齢が16歳であることを知りながら,履歴書の年齢の記載を1
8歳に書き直させるなどした上で,本件犯罪事実に及んだ(甲1)。
(イ)原告が年少者を深夜業に従事させた事例は,本件犯罪事実のみにと
どまらず,平成16年11月から平成17年7月までの期間に限っても,
延べ回数1079回,実際に深夜業に従事していた年少者の数457人
という多数回に上った(乙6)。
(ウ)東京労働局長は,平成17年9月30日,原告に対し,労働者派遣
事業改善命令書を発し,本件犯罪事実のほか,原告北関東支店所沢営業
所において18歳未満の者2名につき同年3月18日の深夜の時間帯に
労働者派遣を行っていたこと,そのほかにも,複数の原告営業所におい
て同様の労働者派遣を行っていたこと,平成16年2月17日に労働者
派遣法違反等に対して改善指導を行ってきた(前記(イ)の年少者深夜営
業従事に対する是正指導のうち,飯田橋公共職業安定所が行ったもの)
にもかかわらず,法令が遵守されず,常態的に違法な労働者派遣事業を
行っていること等を理由にして,18歳未満の者を深夜の時間帯に就労
させることの即時中止,労働者派遣契約の締結時に作成する書面の記載
事項の適正化等について措置を講ずることを命じた(乙5)。
(エ)原告は,上記(ウ)の是正指導のほか,平成16年2月から平成18
年2月までの間,①労働者派遣契約書及び就業条件明示書の記載の不備,
派遣先への通知の未実施,派遣元管理台帳の未作成,面接調査票に不適
切な質問項目があること,②労働者派遣の実態があるのに請負契約とし
て取り扱っていたこと,③適用除外業務である建設業務について労働者
派遣を行っていたこと,④無届けの営業所で営業を行い,また,廃止の
届出をした営業所において営業を続けていたこと等の事実に基づいて,
処分行政庁の各地の地方部局から是正指導を受けた(乙1から4まで,
7,8,10)。
ウ上記イで認定した事実によれば,本件犯罪事実自体,労働基準法という
労働条件を定める基本法令に違反するものである上,上記イ(ア)のとおり,
その態様においても,担当者の規範意識の乏しさが顕著であることがうか
がわれる悪質なものであること,同様の違反事例も多数に上るものである
こと,さらには,18歳未満の者の深夜労働以外にも労働者派遣法等の法
令違反の事実を重ねて指摘され是正指導を受けていることをも考え併せる
と,本件犯罪事実をもって軽微な法令違反とみるのは相当ではないのであ
って,既に述べたように,労働者派遣法6条1号の趣旨に照らして,当該
欠格事由に該当することは十分に考慮し,原則として取り消す姿勢で臨む
べきであるところ,前記1(3)のとおり,原告が許可取消処分を受けた場合
には甚大な不利益を被るおそれがあり,これをもって重大な損害とみるこ
とができるとしても,処分行政庁が,原告に対し,許可取消処分を行うこ
とが,その裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとはいえない。
エ原告が有利なものとして主張する事情の吟味
以上の点に関して,原告は,①本件犯罪事実は深夜労働をわずか1日の
み行ったものであること,②Cの父が原告及び関係者を宥恕していること,
③本件犯罪事実の判明した後,各営業所に対し,再発防止の周知徹底を図
ると共に,関係者の懲戒を実施したこと,④その後,前記イ(ウ)に挙げた
平成17年3月18日の深夜労働の事実が判明した同年8月以降は,18
歳未満の派遣労働者の登録自体を抹消し,同種事案の再発を根絶する措置
をとったこと,⑤さらに,前記イ(ウ)の改善命令を受けて,各営業所に対
し,再度注意を呼び掛けるとともに,無届けの営業所を解消する措置をと
り,労働者派遣法26条1項の規定により定められた事項が書面に記載さ
れた適正な労働者派遣契約を締結できるよう業務の体制を整え,深夜労働
に係る違反行為の再発防止のために,社員に対して法令遵守に対する取組
みについての注意を呼び掛け,弁護士及び社会保険労務士を講師に招いて
全国でその研修を実施し,管理本部長,総務部長,業務管理部長の兼務を
廃止し,本社のマネジメント体制の強化を図ったこと等を挙げ,本件犯罪
事実の軽微性,被害者の宥恕,再発防止の措置及び法令遵守の徹底を図っ
ていることを原告に有利に斟酌すべき事情として主張している。
しかし,本件犯罪事実の態様が悪質であること,原告が他にも同様の違
反行為を多数行っていたことは上記イ及びウでみたとおりであって,これ
をもって軽微な事案とみるのは相当でない。そして,本件犯罪事実の性質
にかんがみると,Cの父が宥恕していることが大きな考慮要素になるとも
いい難いことからすれば,たとえ,原告がいう再発防止の措置及び法令遵
守の徹底が履行されているとしても,処分行政庁が許可取消処分を行うこ
とがその裁量権の範囲の逸脱又は濫用になるものではないというべきであ
る。
オ原告によるその他の主張の吟味
(ア)このほか,原告は,処分行政庁が許可取消処分は覊束処分であると
いう解釈を採用しており,裁量処分である場合に考慮すべき事情(欠格
事由に該当する具体的事実の性質,許可取消処分により生ずる不利益の
程度,欠格事由該当後における一般派遣事業主の対応等)を考慮しない
まま許可取消処分を行うおそれがあることも問題にする。
確かに,処分行政庁は上記のような解釈を採るものであるが,本件は
差止めの訴えであって,許可取消処分はいまだ行われておらず,実際に
当該処分が行われる前に原告に対する聴聞の手続を執ることが予定され
ている(乙12の1)のであるから,考慮すべき事情を考慮しないまま
当該処分が行われるおそれがあるとまでは直ちにいえない上,たとえ,
そうしたおそれがあるとしても,上記ウ及びエで判断したとおり,考慮
すべき事情を考慮してみても,現時点(本件訴訟の口頭弁論終結時)に
おいて,原告に対して許可取消処分を行うことが裁量権の範囲の逸脱又
は濫用に当たるといえない以上,それだけでは,差止めを命ずる理由に
なるものではない。
また,原告は,許可取消処分が覊束処分であるという誤った解釈を前
提に,処分行政庁の担当者から,雇用確保のため別会社を設立して原告
の従業員の受け皿とするよう違法な指導を受けたとも主張するが,そも
そも,そのような指導の存否が,行われようとしている許可取消処分の
適法性に影響を及ぼすとはいえず,仮に,そのような事実が存在したと
しても,前記イの事実をも勘案すれば,当該許可取消処分について,そ
の裁量権の範囲の逸脱又は濫用を基礎付けることになるとはいい難い。
(イ)さらに,原告は,本件犯罪事実に関して業務改善命令が発せられて
おり,それによって制裁を受け,業務改善の措置を講じた原告に対して,
重ねて許可取消処分を行うことは,一事不再理の原則(二重処罰禁止の
原則)や比例原則に反するなどと主張する。
しかし,一事不再理の原則自体は,本来,刑事処分に妥当する原則で
ある上,仮に,その趣旨を不利益処分たる行政処分に及ぼす余地がある
にしても,業務改善命令と許可取消処分とでは,その趣旨,目的,要件
及び効果を異にするものである。例えば,違反行為が発覚したが,有罪
判決が確定するまでは許可取消処分を行えない場合において,事業を継
続している者に対し,当面,業務改善命令をもって臨むことは制度上当
然に予定されており,有罪判決が確定した段階で改めて許可取消処分を
行うことを制約する趣旨を含んだものとはいい難い。
また,比例原則違反をいう点は,詰まるところ,業務改善命令があっ
たことを考慮すれば許可取消処分を行うことが裁量権の範囲の逸脱又は
濫用に当たるとの主張の趣旨を出るものではなく,業務改善命令と許可
取消処分の上記関係に照らせば,これが肯定できるものではないことは
いうまでもない。
(ウ)原告は,そもそも労働基準法61条違反が刑事事件として起訴され
るケースは極めてまれで,労働基準監督官が違反事実を発見すると,通
常は,行政指導や改善命令等の措置で対応しているのであって,本件犯
罪事実も本来同法61条違反事件として起訴されるべき事案ではなく,
起訴されたことが平等原則違反に当たるとも主張している。
その趣旨は必ずしも明らかではないが,刑罰法令に違反する行為につ
いて,これを起訴するか否かは,犯罪に関する諸般の事情を考慮して検
察官が決すべきものとされているところ,前記イ及びウで判断したよう
に,本件犯罪事実は,その態様や原告が同様の違反行為を他にも多数行
っていた経緯からみて,決して軽微な事案といえるものではない上,そ
の具体的事情が明らかでない他の不起訴事案との対比において,本件犯
罪事実が起訴されたことが不相当であるとか,平等原則違反であると判
断すべき根拠はないのであるから,この点に関する原告の主張は採用の
限りではないというべきである。
3結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用
の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
吉田徹裁判官
小島清二裁判官

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