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平成27年10月8日宣告裁判所書記官
号,第856号殺人,住居侵入,殺人未遂,銃砲刀剣類所
持等取締法違反被告事件
判決
主文
被告人を懲役24年に処する。
未決勾留日数中240日をその刑に算入する。
神戸地方検察庁で保管中のハサミ1丁(平成26年領第22
10号符号5),包丁1丁(同符号11)及び金属棒1本
(同符号6)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,神戸市a区bc丁目d番地のe県営b団地f号棟g号の被告人
方の真上に位置する同棟h号に居住するA(以下「A」という。)が,昼夜
問わず大音量で音楽をかけることに腹立ちを募らせていたところ,同人に苦
情を言うなどするうち,いったんは同人に夜中は静かにすると約束させて解
決した気持ちになっていたが,その約束に反して同人方から騒音が聞こえた
上,そのことについて文句を言いに行った際,同人から言い返されるなどし
たために同人に対して激しい怒りを覚え,その殺害を決意するに至った。そ
して,被告人は,平成26年9月7日午前10時頃,前記被告人方におい
て,A(当時73歳)に対し,殺意をもって,その顔面を複数回踏みつける
などし,その口の中に雑巾を押し込んで同雑巾の上からタオルで縛り,その
両足首及び左手首をビニール紐で緊縛した上,その頭部からビニール袋を被
せて同袋の持ち手部分を同人の頸部付近で結んで呼吸を困難にさせ,よっ
て,その頃,同所において,同人を酸素欠乏により窒息死させて殺害した。
第2被告人は,実姉であるB(以下「B」という。)に父の死を知らせてもらえ
ず,そのことでBに電話を掛けたときに同女から他人のような応対を受けたこ
となどから,同女がその夫であるC(以下「C」という。)とともに父の遺産
を独占しようとしており,そのために被告人を排除しようとしたものと思い込
み,同女らに対して強い恨みを抱くようになっていたところ,前記第1の犯行
の発覚により身柄を拘束される前にその恨みを晴らそうと考えてB及びCの殺
害を決意した。そして,被告人は,B(当時61歳)及びC(当時62歳)を
殺害する目的で,平成26年9月9日午後5時35分頃,京都市i区j町k番
地所在のC方に無施錠の玄関から侵入し,その頃,同所において,
1Bに対し,殺意をもって,持っていた金属棒(重量約1.6キログラム)を
その頭部目がけて数回振り下ろして,その右顎及び右肩を殴打し
2Cに対し,殺意をもって,持っていたハサミ(刃体の長さ約8.9センチメ
ートル,同符号5)でその頸部を突くなどし
たが,両名に抵抗されるとともに,Bが110番通報するなどしたため,Bに
全治約15日間を要する右下顎部打撲傷,右肩打撲傷の傷害を,Cに全治約5
日間を要する右頸部切創,左頸部擦過傷の傷害を負わせたにとどまり,いずれ
も殺害の目的を遂げなかった。
第3被告人は,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記第2記載の日
時場所において,前記ハサミ1丁及び包丁1丁(刃体の長さ約16センチメー
トル)を携帯した。
(証拠の標目)
(争点に対する判断)
1争点
本件の争点は,被告人が本件各犯行時に心神耗弱の状態にあったか否かである。
2当事者の主張
⑴弁護人の主張
弁護人は,本件各犯行時に,被告人は薬剤性精神障害及び双極性障害(躁う
つ病)に加え,自己愛的・情緒不安定的パーソナリティ障害を有しており,こ
れらがあいまって,責任能力,とりわけ行動制御能力が著しく減退していた状
態であったから,心神耗弱状態にあったと主張する。
⑵検察官の主張
検察官は,本件各犯行時に被告人が有していた薬剤性精神障害の程度は軽度
なものであり,双極性障害(躁うつ病)については,仮にあったとしてもその
程度は軽度であることから,これらの精神障害の各犯行への影響はほとんどな
く,判断能力や行動制御能力は完全に保たれており,心神耗弱状態にはなかっ
たと主張する。
3当裁判所の判断
⑴D鑑定について
精神科医師Dによる精神鑑定では,本件各犯行時,被告人は,いわゆる脱法
ハーブの連用により易怒性や衝動性が亢進していた可能性はあるがその程度は
軽度であるとされている。また,被告人がかつて診断を受けたことのある双極
性障害(躁うつ病)についても,診断時に「閾値下」とされていたことや,本
件各犯行時や鑑定時に精神症状が見られないことから,その存在には否定的で
あって,仮にあったとしてもその程度は軽微であり,それ以外の精神障害の存
在は否定できるとされている。そして,本件各犯行に対する精神障害の影響に
ついては否定されており,本件各犯行は,被告人の自己愛的・情緒不安定的な
パーソナリティによって行われたものであるとされている。
上記鑑定結果は,鑑定人の経歴や経験,判断資料等のいずれにおいても特に
問題がなく,十分信用することができる。
⑵殺害の動機や当時の言動等について
被告人がA及びB夫妻に殺意を抱くに至った経緯は,各判示のとおりであっ
て,いずれも不自然なものではなく,特に,被告人の自己愛的・情緒不安定的
なパーソナリティを前提とすれば,十分理解できるものである。また,本件各
犯行時の行動においても,被害者らの殺害という目的に照らして不合理な点は
なく,むしろ,被害者側の対応に即して合理的に行動している。さらに,被告
人は,A殺害の直後,早期の発覚を免れる目的でAの携帯電話を破壊している
ほか,B夫妻に対する犯行直後には「日本はすぐ出てこれるんじゃ」などと服
役を前提とする発言をしている。
以上のとおり,殺害動機やその形成過程,各犯行時や直後の言動等に,特段,
不自然な点や不合理な点は見られず,当時の被告人に精神障害の影響はうかが
われない。
⑶弁護人の主張について
弁護人は,被告人が心神耗弱状態にあったことの根拠として,本件各犯行時
の被告人には「モンスター」という存在が芽生えていたこと,事件の数か月前
に警察署に電話をし,自らを拘束してほしいと懇願していたことなどを主張す
る。
確かに,被告人は,本件各犯行時に「モンスター」が出現していたとして,
あたかも,被告人本来の人格とは異質な怒りの高まりがあったかのように述べ
ている。しかし,前記のとおり,殺害動機やその形成過程は,不自然,不合理
ではなく,むしろ,被告人の自己愛的・情緒不安定的なパーソナリティに整合
的である。被告人の「モンスター」に関する供述は,そのようなパーソナリテ
ィから,各犯行に及んだ当時の自分を未だ直視できていないことを述べたもの
と解される。また,警察署への電話についても,その後数か月にわたってBに
対する直接的な加害行為に出ていないことからすると,Bとのトラブルに悩ん
だ被告人が他人への相談の一環として行ったということも十分考えられる。し
たがって,いずれの点も,精神障害の影響によって善悪の判断能力や行動の制
御能力が低下していたことをうかがわせるものではない。弁護人の主張は採用
できない。
以上によれば,被告人は,本件各犯行当時,精神の障害により善悪の判断能
力や行動の制御能力を減退させておらず,これらの能力を十分保った状態にあ
ったと認められる。
心神耗弱状態にあったとの主張は理由がない。
(法令の適用)
1罰条
⑴判示第1の行為につき刑法199条
⑵判示第2の行為のうち
住居侵入の点刑法130条前段
各殺人未遂の点いずれも刑法203条,199条
⑶判示第3の行為につき銃砲刀剣類所持等取締法31条の18第3号,22

2科刑上一罪の処理
判示第2の罪につき刑法54条1項後段,10条(住居侵入と各殺人未遂と
の間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上
を1罪として刑及び犯情の最も重い判示第2の1の殺人
未遂罪の刑で処断)
3刑種の選択
⑴判示第1及び第2の罪につきいずれも有期懲役刑を選択
⑵判示第3の罪につき懲役刑を選択
4併合罪の処理
刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第1の罪の
刑に法定の加重)
5未決勾留日数の算入
刑法21条
6没収
⑴ハサミ1丁及び金属棒1本
刑法19条1項2号,2項本文(判示第2の各犯行の用に供した物で,被告
人以外の者に属しない。)
⑵包丁1丁(同符号11)
刑法19条1項1号,2項本文(判示第3の犯罪行為を組成した物で,被告
人以外の者に属しない。)
7訴訟費用の不負担
刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1本件の大きな特徴は,殺人1件に加え,殺人未遂2件を行っている点であって,
その違法性の大きさは明らかである。また,これらの犯行を数日の間に立て続け
に行った被告人の人命軽視の姿勢は,強い非難に値する。
各犯行についてみると,殺人は,A方からの騒音を巡るトラブルを原因とする
ものであるが,騒音やそれに関する約束を破られたことから殺害を決意したとい
うのは,やはり短絡的といわざるを得ず,Aの言動を理由に被告人に対する非難
を減じるとしても限度がある。
また,各殺人未遂は,被告人の一方的な思い込みによるものであり,動機は身
勝手である。Bに対する犯行は,重量のある金属棒を頭部目がけて数回振り下ろ
すというものであり,生命に対する危険性のかなり高いものである。もっとも,
B夫妻が負った怪我の程度は幸いにして軽いものにとどまっている。
なお,前記のとおり,本件各犯行時の被告人に精神障害の影響が見られないこ
とからすると,この点に関しては,情状においても特段考慮すべきものはない。
以上によれば,被告人の本件各犯行に対する責任にふさわしい刑の水準は,殺
人1件に加えて殺人未遂などの重い犯罪を犯した事案の中では,有期懲役刑にと
どまるものの,なお高いところに位置付けられるというべきである。
2その他の量刑上考慮すべき事情としては,被告人において,自ら犯した罪に対
して真摯に向き合っているとはいえないが,殺人の犯行を自首するなどして各犯
罪事実を一貫して認め,被告人なりに反省の態度を示している点を指摘すること
ができる。
3以上により,主文の刑が相当であると判断した。
(検察官求刑懲役25年,主文記載物件の没収)
平成27年10月8日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官佐茂剛
裁判官中川卓久
裁判官若林貴子

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