弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主         文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告が平成15年9月24日付けでした原告に対する産業廃棄物処理業の許
可取消処分を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,被告から廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理
法」という。)に基づく産業廃棄物処理業(収集運搬)の許可を受けた原告に対
し,被告が,原告が無許可で一般廃棄物の収集運搬及び処分並びに産業廃棄物の処
分を業として行ったことを理由として産業廃棄物処理業の許可を取り消す旨の処分
をしたため,原告が,同処分は違法であるとして,その取消しを求めた事案であ
る。
1 前提となる事実
(1) 原告は,リサイクル業,塗装工事,内装工事,産業廃棄物の収集運搬等を
業とする株式会社である。
(甲1,7)
(2) 原告は,被告から,次のとおり産業廃棄物処理業の許可を受けていた(以
下「本件許可」という。)。
許可年月日   平成12年1月14日
許可の有効期限 平成17年1月13日
許可番号    05400062768
許可の区分   産業廃棄物収集運搬業(積替え又は保管は行わない)
事業の範囲   廃プラスチック,紙くず,木くず,繊維くず,ゴムくず,
金属くず,ガラスくず,コンクリートくず(工作物の新築,改築又は除去に伴って
生じたものを除く。)及び陶磁器くず,がれき類(以上,特別管理産業廃棄物である
もの,自動車等破砕物,廃プリント配線板,鉛蓄電池の電極であって不要物である
もの,鉛製の管又は板であって不要物であるもの及び廃ブラウン管を除き,廃石膏
ボード及び廃容器包装であるものを含む。)
(争いなし)
(3) 原告は,陸上自衛隊東北補給処(以下「陸上自衛隊」という。)との間
で,平成13年3月9日,同14年2月14日,同年11月19日に,陸上自衛隊
の排出する弾薬用木箱(木板,釘,蝶番,麻製の取っ手からできている。以下「本
件弾薬用木箱」という。)について役務請負契約を締結し(以下,契約時期の早い
ものから順次「本件契約1」,「本件契約2」,「本件契約3」といい,これらを
一括して「本件各契約」という。),本件各契約に基づいて,本件弾薬用木箱の収
集運搬及び処分を行った。
(契約年月日及び契約主体は甲4,乙3,4,その余は争いなし)
(4) 本件契約2及び3に係る役務請負契約書には,「リサイクルする場合はリ
サイクル証明書を,処分した場合はマニフェストを発行する。」旨の特約条項があ
り,本件契約1に係る役務請負契約書にも同旨の条項がある(以下,これらの条項
を「本件特約条項」という。)。
(甲4,乙3,4)
(5) 原告は,平成14年ころ,仙台市α所在の原告の工場(以下「β工場」と
いう。)内において,発泡スチロールを溶解する行為を行った(以下,上記(3)の本
件弾薬用木箱の収集運搬及び処分行為と併せて,「本件各行為」という。)。
(甲1,7)
(6) 仙台市職員は,平成14年11月8日,原告の許可なくβ工場の敷地内及
び建物内への立入検査をし,写真を撮影した(以下「本件立入検査」という。)。
(争いなし)
(7) 被告は,平成15年9月24日付けで,原告に対し,本件各行為を行った
ことは,次のア,イのとおり廃棄物処理法(平成15年法律第93号による改正前
のもの。以下,同法の規定についてはすべて同様とし,同法施行令等の関連法規に
ついても上記改正前の同法に対応する規定を指すものとする。)7条1項,4項,
14条4項の各規定に違反して,許可を有しないで廃棄物の処理を業として行った
ものであり,同法14条の3第1号の規定に該当するとの理由で,本件許可を取り
消す旨の処分をし(以下「本件処分」という。),その通知書は同月25日に原告
に送達された。
ア 原告は,一般廃棄物収集運搬業の許可及び一般廃棄物処分業の許可をい
ずれも有しないにもかかわらず,陸上自衛隊から一般廃棄物である弾薬用木箱の収
集運搬及び処分を受託し,その収集運搬及び処分を行った。
イ 原告は,産業廃棄物処分業の許可を有しないにもかかわらず,廃プラス
チック類(発泡スチロール)の処分を行った。
(争いなし)
2 主たる争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 本件の主たる争点は,次のアないしカである。
ア 本件弾薬用木箱の廃棄物該当性
イ 本件弾薬用木箱の収集運搬及び処分が,専ら再生利用の目的となる廃棄
物の収集運搬及び処分といえるか
ウ 発泡スチロールの溶解は「業として」行われたものか
エ 発泡スチロールの溶解が,専ら再生利用の目的となる廃棄物の処分とい
えるか
オ 本件立入検査の違法性及びそれに基づく本件処分の違法性
カ 本件処分における裁量権の逸脱,濫用の有無
(2) 主たる争点ア(本件弾薬用木箱の廃棄物該当性)について
(原告の主張)
ア 廃棄物該当性の判断基準
廃棄物処理法2条1項の廃棄物に該当するか否かについては,その物の
性状,保管・排出の状況,取引価値の有無,通常の取扱い形態等を検討し,さらに
このような客観的要素から見て社会通念上合理的に認定しうる占有者の意思も加え
て総合的に判断して,生活環境の保全及び公衆衛生の保持の観点から廃棄物として
扱うべきか否かを個別・具体的に決すべきものである。
イ 次の諸点を総合すれば,本件弾薬用木箱が廃棄物に該当しないことは明
らかである。
(ア) 性状
本件弾薬用木箱は,その主要な構成部分である木板(乾燥松材)が床
板・壁板等の木材として再生利用可能であり,構成物のうち再生利用できないのは
麻製の取っ手のみである。
(イ) 排出状況
原告は,陸上自衛隊から引き取った本件弾薬用木箱をβ工場に運搬
し,床材や壁材に利用できる部分と利用できない部分に分別し,利用できない部分
はチップ材に加工する業者に運搬していたが,このように本件弾薬用木箱の構成部
分のほとんどが再生利用可能であったのであるから,原告による分別は便宜上のも
のであって,本件弾薬用木箱は,陸上自衛隊からの排出段階において,再生利用可
能な有用物であった。
(ウ) 通常の取扱い形態
陸上自衛隊から排出された本件弾薬用木箱は,入札方式により引取業
者を選定して排出されていたが,陸上自衛隊は再生利用を好ましいこととする意向
を示しており,原告は,本件弾薬用木箱を現実にリサイクルした上,本件特約条項
に基づき,リサイクル証明書を発行していた。原告が本件弾薬用木箱を引き取る際
に受領していた代金は,処分代金というよりリサイクルのための木箱の分解手間賃
であった。
なお,平成14年11月19日に締結された本件契約3に係る本件弾
薬用木箱について,廃棄物処分がされてマニフェストが発行されているが,これ
は,仙台市環境局産業廃棄物指導課が原告に対し弾薬用木箱を全部処分するよう指
示したために,リサイクル予定であったものをやむを得ず廃棄物処分したにすぎな
い。
(エ) 取引価値
a 再生利用を予定する物の取引価値を判断するに際しては,引取りが
有償でされたか否かという形式的な基準によるべきではなく(かかる基準によると
きには,当該物の市況の変動によって,その廃棄物該当性が変わり,ひいてその処
理等についての許可の要否が変わってくることとなり,法的安定性を著しく欠いて
妥当でない。),当該物に関連する一連の経済活動の中で,当該物の取引が,排出
業者,引取業者にとって価値や利益があると判断されるか否かを,実質的,個別的
に検討すべきである。
b 原告は,本件弾薬用木箱を再生利用し,その加工物を販売するなど
していたから,本件弾薬用木箱は原告にとって取引価値を有していたし,本件弾薬
用木箱について通常の廃棄物処分を行った場合には,原告が請け負った代金(主に
弾薬用木箱の分解手間賃)よりも相当高額の処分費用がかかるから,陸上自衛隊に
もその差額分の利益があった。また,再生利用によって資源保全に貢献するという
公共的利益も存在した。したがって,本件弾薬用木箱には十分に取引価値が認めら
れる。
(オ) 事業者の意思
廃棄物該当性の判断に際しては,排出業者のみならず引取業者の意思
をも考慮べきところ,原告及び陸上自衛隊は,いずれも,本件弾薬用木箱を,再生
利用の原料となる有価物と認識して取引していた。
(被告の主張)
ア 廃棄物の意義について
廃棄物処理法2条1項の規定する廃棄物とは,占有者が自ら利用し,ま
たは他人に有償で売却することができないために不要となった物をいい,そのよう
な不要物に該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取
引価値の有無及び事業者(排出者を意味する。)の意思等を総合的に勘案して決定
すべきものである。
イ 次のような点からすれば,本件弾薬用木箱が廃棄物に該当することは明
らかである。
(ア) 陸上自衛隊は,平成12年まで弾薬用木箱を自ら焼却処分していた
ところ,平成13年以降はそのような処理ができなくなったため第三者にその処分
を委託したものであり,その委託先業者は入札により選定され,入札に参加した業
者は,概ね廃棄物関連業者であった。陸上自衛隊は,弾薬用木箱をリサイクルする
か処分するかについては落札した業者の判断に委ね,対価を支払ってまで本件弾薬
用木箱の処理を委託していたのであり,陸上自衛隊にとって本件弾薬用木箱が「不
要物」であったことは明らかである。
(イ) 原告は,本件弾薬用木箱を構成する木材は床板,壁板等に再生利用
可能であったからこれに取引価値が認められる旨を主張するが,陸上自衛隊から排
出された段階の本件弾薬用木箱をリサイクル材として使用するためには,分解・加
工作業等数多くの工程を経る必要があり,そのための費用も決して少額ではなく,
また,再生利用できずに廃棄物として処理しなければならない部分も多く含まれて
いた。実際にも,原告は,本件弾薬用木箱のうち再生可能なものだけを選んで利用
しており,そうでないものは廃棄物処理施設に持ち込んで処分し,又はバーク材
(堆肥)として自然に任せて腐らせているのであって,本件弾薬用木箱に原告主張
のような取引価値はない。
(3) 主たる争点イ(本件弾薬用木箱の収集運搬及び処分が,専ら再生利用の目
的となる廃棄物の収集運搬及び処分といえるか)について
(原告の主張)
ア 廃棄物処理法7条1項ただし書,同条4項ただし書は,専ら再生利用目
的の廃棄物のみを取り扱う場合を廃棄物処理業に関する許可制の例外としていると
ころ,その趣旨は,かかる場合には不法投棄や焼却等による環境汚染を生じるおそ
れが少なく,これを業者の自主的な運営に委ねてもそれほど弊害がないという点に
ある。したがって,上記例外に該当するか否かは,当該廃棄物について,回収,再
生,利用のルートが技術的及び経済的に有益な取引過程として形成普及しているか
否かを,社会の取引の実情を前提に,社会通念に従って,判断すべきである。
本件弾薬用木箱については,原告において陸上自衛隊から回収し,再生
木材やチップ材等に加工再生して販売するというルートができており,環境汚染や
公衆衛生を害するおそれもない。
したがって,仮に本件弾薬用木箱が一般廃棄物に該当するとしても,社
会通念上,専ら再生利用の目的となる廃棄物であるというべきであるから,かかる
収集運搬及び処分を業として行う場合,同法7条1項ただし書,同条4項ただし書
により,被告の許可は不要である。
イ この点,被告は,上記例外は厳格に解釈されるべきであり,専ら再生利
用の目的となる廃棄物に該当するのは,古紙,くず鉄,あきびん類,古繊維に限定
されると主張するが,かかる見解は,資源保全,環境保護が重視されている時代の
趨勢,資源の有効な利用の促進に関する法律等が存する現在の法状況を看過し,現
実に古材が広く利用されている実態についての認識を欠くもので,妥当でない。
ウ また,被告は,本件弾薬用木箱の再生利用に至るまでには専門的な作業
工程が数多くあることを根拠として,本件弾薬用木箱が専ら再生利用の目的となる
廃棄物には該当しない旨を主張するが,本件弾薬用木箱の再生利用に至るまでの作
業工程は,多少の手間はかかるにしても,特別な専門的知識を要するものではな
く,比較的平易であるから,被告の主張は失当である。
(被告の主張)
ア 廃棄物処理法7条1項ただし書,同条4項ただし書は,もともと広く一
般に行われている古新聞や古雑誌等の回収事業等については,行政庁による事前規
制としての許可の対象とまでしなくとも弊害を生ずるおそれがないとの考えのもと
に設けられたものであり,例外的な規定であるから厳格に解釈されるべきである。
そして,上記各規定にいう「専ら再生利用の目的となる廃棄物」については,「そ
の物の客観的性質上,通常再生利用されるものをいい,たまたま特定の者が,再生
利用の意図を有し,または現実に再生利用をしている廃棄物であることのみでは足
りない」と解されており,現状においてこれに該当するのは,古紙,くず鉄,あき
びん類,古繊維の4種類に限定されている。
イ 本件弾薬用木箱は木くずであり,上記4種類のうちに含まれない。ま
た,本件弾薬用木箱の客観的性質からすれば,これが通常再生利用されるものとは
到底考えられず,現に,本件弾薬用木箱は,数多くの専門的工程を経ない限り再生
利用はできず,他方で,再生利用できずに廃棄物として処理しなければならない部
分を多く含んでいる。
以上からすれば,仮に原告が本件弾薬用木箱の一部を再生利用していた
としても,そのことにかかわりなく,本件弾薬用木箱は,「専ら再生利用の目的と
なる廃棄物」に該当しない。
(4) 主たる争点ウ(発泡スチロールの溶解は「業として」行われたものか)に
ついて
(原告の主張)
ア 廃棄物処理法14条4項,25条1号にいう「業として」とは,営業目
的をもって反覆継続して行うことを意味すると解すべきである。このことは,平成
13年5月15日付け環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課の
「行政処分の指針について(通知)」(以下「環廃産第260号」という。)が,
同法25条1号に該当する行為として「無許可営業」を挙げて,営利目的をもって
行うことを前提としていることからも明らかである。
イ 原告は,特殊な液により発泡スチロールを溶かしてその再生利用を可能
にする機械を用い,四季を通じた溶解度のデータ収集及び原告の関与する障害者施
設入居者による作業遂行の可否の確認を目的とする実験を,約10か月間のうちに
5回行っただけであり,その後溶解する機械を返却したことなどから裏付けられる
ように,同種の行為を反覆継続する意思を有していたものではなく,またかかる実
験によって利益を得たこともなく,営利目的を有してもいなかったのだから,発泡
スチロールの溶解を「業として」行っていたものではない。
(被告の主張)
ア 廃棄物処理法14条4項にいう「業として行う」とは,産業廃棄物の処
分を,社会性をもって反覆継続して行うことを意味するのであって,営利目的や利
益の有無は問わない。
イ 原告は,反覆継続して廃プラスチック類(発泡スチロール)の処分を行
っていたのだから,たとえ期間限定で行う意図があったとしても,「業として」産
業廃棄物の処分を行っていたことになる。
(5) 主たる争点エ(発泡スチロールの溶解が,専ら再生利用の目的となる廃棄
物の処分といえるか)について
(原告の主張)
ア 廃棄物処理法14条4項ただし書は,専ら再生利用の目的となる廃棄物
のみを取り扱う場合を廃棄物処理業に関する許可制の例外としているところ,原告
が行っていた発泡スチロールの溶解は,将来的に反覆継続して行う事業ではなく実
験の段階にあったものであり,その実験目的に照らせば,実験に用いられた発泡ス
チロールは,同規定にいう「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に該当する。
イ 原告の行っていた実験は,発泡スチロールを完全に溶解し,建築用接着
剤やポリスチレン原料,撥水性塗料,助燃剤,固形燃料等に再生利用するというも
のであって,害を生じることもないから,この実験に用いられた発泡スチロール
は,完全に再生利用される産業廃棄物である。
ウ 次のとおり,回収,再生,利用のルートが,技術的及び経済的に有益な
取引過程として社会において形成普及している。
(ア) 回収については,原告において,中央卸売市場や自衛隊から収集す
るということで確立されていた。
(イ) 再生については,安全で完全な再生利用が可能な技術が出来上がっ
ていた。
(ウ) 利用については,ゲル状になった発泡スチロールの販売ルートがほ
ぼ確立されていた。
エ 以上から,上記実験に用いられた発泡スチロールは「専ら再生利用の目
的となる廃棄物」であるから,その処分を業として行う場合,廃棄物処理法14条
4項ただし書により,被告の許可は不要である。
(被告の主張)
発泡スチロールが「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に該当しない
ことについては,本件弾薬用木箱に関する上記主張と同様である。
(6) 主たる争点オ(本件立入検査の違法性及びそれに基づく本件処分の違法
性)について
(原告の主張)
ア 廃棄物処理法19条3項は,「立入検査をする職員は,その身分を示す
証明書を携帯し,関係人に提示しなければならない。」と規定し,関係人の立会の下
で検査を実施することを予定しているところ,刑事手続においてすら,人権保障の
見地から,建造物内を捜索するに際しては住居主や看守者又はこれに代わる者を立
ち会わせなければならないと定めている以上(刑訴法114条),刑事手続の捜索
令状のようなものが存しない行政の立入検査に際しては,その執行の適正を担保し
て人権保障を確保するために,看守者又はこれに代わる者を立ち会わせなければな
らない必要性はより一層高度のものであると解すべきである。
しかるに,本件立入検査を行った仙台市職員は,事前に電話等で原告に
連絡するなど関係人の立会を求めることを怠って,正当な理由なく原告の敷地内に
立ち入ったのであり,かかる行為は刑法上の建造物侵入罪に抵触するもので,その
違法性は明らかである。
イ このように重大な違法行為である本件立入検査によって取得した証拠に
基づいてされた本件処分は,適正手続(憲法31条)に違反するものとして,違法
である。
ウ 被告は,後日あらためて立入検査をするとした場合には証拠隠滅のおそ
れがあり,本件立入検査には緊急性があった旨主張する。しかし,原告は自己の行
為が法に抵触するものとは認識していなかったのだから,証拠隠滅のおそれはおよ
そ存しなかったこと,仮にそのおそれがあるとすれば,原告の事務所に電話をした
上で直ちに立会を求めたり,近隣の第三者又は警察官を立ち会わせるなどの方法に
より証拠隠滅を防止することは容易であったこと,β工場内に大量に保管されてい
た本件弾薬用木箱や発泡スチロールをわずかの時間で撤去することが不可能なこと
は一目瞭然であったことなどからすれば,緊急性を理由に本件立入検査を正当化す
ることはできない。
(被告の主張)
ア 本件立入検査に至る経緯等
(ア) 仙台市は,平成11年12月から同12年1月にかけて,原告か
ら,β工場において建設工事等から発生する木くずを破砕処理してバスターボード
を製造することについての相談を受け,当該行為は産業廃棄物の中間処理に該当す
るが,β地区は市街化調整区域なので中間処理の許可はできない旨回答した。
(イ) 仙台市は,平成14年11月6日,原告の関係者であるAからβ工
場に関して市街化調整区域の用途変更ができないか等の相談を受けた際,同人が,
原告が廃材を利用したボードの製造及び発泡スチロールの溶解を既に実施している
旨の説明をしたことから,上記(ア)の経緯をもふまえ,原告が違法に廃棄物の処理
を行っている可能性があると考えて,本件立入検査の実施を決定した。
(ウ) 仙台市の担当職員ら(6名)は,本件立入検査当日である平成14
年11月8日,原告による証拠隠滅のおそれがあったため事前の連絡をせずに,午
前10時20分ころ,β工場入口に臨場した。この時,門は施錠されていたが,工
場敷地内には各種の廃棄物と思われるものが多数野積みされており,原告において
違法行為を行っている疑いが濃厚になったため,担当職員らは,敷地内に立ち入る
必要があると判断した。そして,敷地内に乗用車が1台停車していて建物内に原告
の関係者が在所する可能性もあると考えられたこと,また,後日あらためて立入検
査をすることとした場合にはその間に証拠隠滅等の行為がされるおそれがあったこ
となどから,原告の了解を得ないで立ち入ることとし,門の下部の隙間から敷地内
に立ち入った上,施錠
されていなかった同工場の建物の内部にも立ち入って,保管されていた各種の廃棄
物の放置状況等を写真撮影した。なお,担当職員らにおいて施錠を破壊したり,帳
簿等の書類に手を触れるなどの行為は一切していない。
イ 本件立入検査は違法ではないこと
(ア) 廃棄物処理法19条は,都道府県知事又は市町村長の立入検査の権
限(1項),立入検査を実施する職員の身分証明書の携帯及び関係者に対する提示
の義務(3項),さらに立入検査は犯罪捜査のために認められたものではないこと
(4項)などを規定する。
(イ) 身分証明証の携帯・提示義務に関する上記の定めは,当然に占有者
等の承諾なき立入検査を全面的に禁止しているものではない。もとより占有者等の
承諾を得た立入りが原則とされるべきものではあるが,緊急性又は必要性がある場
合には,やむなく占有者等の承諾を得ずに敷地内等に立ち入ることも許容されてい
ると解すべきである。
(ウ) 本件では,事前に原告に対して立入検査をする旨の連絡をすると,
本件弾薬用木箱や発泡スチロールが撤去されるなどして,原告の違法行為を発見す
ることが困難となるおそれがあったことから,事前の連絡なしに本件立入検査を行
う必要性ないし緊急性が存したのであり,また,本件立入検査の態様は,現状に手
を加える等の行為には一切及ばず,現状の確認及び現場の写真撮影に留まる最小限
度のものであった。
(エ) 以上から,法令に基づく本件立入検査は,その実施方法に慎重さを
欠いたなどの批判はあり得るにしても,その必要性,緊急性,立入検査の態様等か
らして,違法ということはできない。
ウ 本件処分への影響
(ア) 行政処分取消訴訟は,当該処分の前提となる客観的事実の有無を争
う訴訟であり,仮に違法な手続によって収集した資料に基づく処分であっても,そ
の違法性が極めて重大である場合又は処分の内容に影響を及ぼすような場合でない
限り,客観的な要件に合致してされた当該処分自体は違法とはならない。
(イ) 仮に本件立入検査の方法等につき違法な点があったとしても,その
違法性の程度は極めて軽微であり,また,本件立入検査は,本件処分との関係でみ
れば,法の定める前提手続ではなく,単なる処分の端緒にすぎないものであるか
ら,本件立入検査の違法性をもって本件処分が違法性を帯びるということはない。
(7) 主たる争点カ(本件処分における裁量権の逸脱,濫用の有無)について
(原告の主張)
ア 仮に本件各行為が違法となるとしても,次の事情に照らして,本件処分
には合理性・相当性ないし緊急性・必要性がなく,本件処分は被告による裁量権の
逸脱または濫用に当たり違法である。
(ア) 廃棄物処理法に基づく行政処分が,同法の目的(1条)との関係で
合理性,相当性があると認められるためには,当該行為が環境汚染や公衆衛生を害
するおそれが大きく,注意や指導を行っても当該行為者がそれに応ずる可能性が小
さいこと,若しくは注意や指導を行うだけの時間的余裕がないことなどの事情が存
する必要がある。
環廃産第260号においても,行政指導を繰り返し行っても違反行為
が継続し,生活環境保全上の支障を招く蓋然性があり,行政処分を行う緊急性,必
要性が認められるような場合に,積極的に行政処分を行うべきものとされている。
(イ) 本件各行為は,いずれも「廃棄物の排出を抑制」し,「再生」を図
るものであって,「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」に資することこそあれ,
それを害するおそれは皆無である。
(ウ) 原告は,本件弾薬用木箱を事業系の産業廃棄物であると認識し(仙
台市職員からその旨の説明を受けた。),発泡スチロールの溶解については実験に
すぎないから法に抵触しないと認識していたのであるから,被告としてはまず原告
のかかる認識が誤りであるなどの指導,注意を行い,そのような指導等を行っても
改善の見込みがなく,違反行為が継続して生活環境保全上の支障を生ずる蓋然性が
認められる場合にはじめて許可取消処分を行うべきであった。しかるに,被告は,
原告に対し,本件各行為について事前に注意や指導を行わなかった。
原告が,仙台市職員から本件各行為が違法である旨指摘された後は速
やかに改善措置を講じたことからすれば,被告が行政指導を行った場合に,原告が
違反行為を継続し,生活環境保全上の支障を生じさせることはなかった。
(エ) 立入検査の違法が行政処分の違法に直結しないとしても,前記のよ
うな本件立入検査の違法性は,本件弾薬用木箱の廃棄物該当性の判断の杜撰さなど
と相まって,本件処分に至る過程が杜撰で社会通念から乖離していることを示すも
のであり,ひいて本件処分が裁量権を逸脱,濫用してされたことを根拠付けるもの
である。
(被告の主張)
本件各行為は,無許可で事業を行ったという,単なる事務手続上の違反と
は異なる基本的かつ重大な違反行為であるから,かかる違反行為に対する処分とし
て,被告が廃棄物処理法14条の3の定める処分のうち事業の停止ではなく許可の
取消しを選択したことは,何ら相当性を欠くものではない。
この点,環廃産第260号においても,無許可営業に対しては,許可の取
消処分をもって臨むことが相当とされている。
第3 争点に対する当裁判所の判断
1(1) 前記前提となる事実に,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以
下のアないしエの各事実が認められる。
ア 本件各契約について
(ア) 自衛隊は,自ら利用しなくなった弾薬用木箱について,平成12年
まで焼却炉による焼却処分をしていたが,平成13年からは焼却炉の使用ができな
くなったため,外部の業者に委託料を支払ってその処理を委託することとし,入札
により業者を選定した結果,3度にわたり,原告が落札してこれを請け負った(本
件各契約)。
(イ) 陸上自衛隊は,原告に対し,本件各契約に基づき,次のとおり請負
代金を支払った。
a 本件契約1 199万5000円
b 本件契約2 89万2500円
c 本件契約3 278万2500円
(ウ) 本件各契約において,受託者である原告が本件弾薬用木箱をリサイ
クルするか,処分するかについて,陸上自衛隊が指示することはなく,むしろ,こ
れを原告の自由に任せた上,それぞれの場合に応じた書面の発行を義務付けた(本
件特約条項)。
(エ) 上記入札にあたっても,陸上自衛隊からリサイクルにするとか処分
するとかの条件はなく,入札に参加したのは廃棄物処理業者がほとんどで,製造業
者が材料を仕入れるために入札に参加することはなかった。
(以上アについて,甲4,7,乙3,4,原告代表者)
イ 本件弾薬用木箱について
(ア) 本件契約1では,原告が陸上自衛隊から受け入れた本件弾薬用木箱
394.33m

のうち,180m

は松林商事株式会社(中間処理業(破砕)の許
可を受けた廃棄物処理業者。以下「松林商事」という。)に搬入されて再生チップ
材に加工されるなどし,2m

は岡安商事株式会社に搬入されて金属のプレス処理等
がされるなどし,その余の212.33m

は原告により製板処理後,建材,バーク
材(肥料)とされるなどして,それぞれについてリサイクルされた旨のリサイクル
証明書(甲10の1ないし3)が作成された。
(イ) 本件契約2では,原告が陸上自衛隊から受け入れた本件弾薬用木箱
215.86m

のうち,45m

は松林商事に搬入されてチップ材に加工されるな
どし,1030kgは東北メタル株式会社に搬入されて金属のプレス処理等がされ
るなどし,その余の160.86m

は原告により製板処理後,建材,バーク材(肥
料)とされるなどして,それぞれについてリサイクルされた旨のリサイクル証明書
(甲6の1ないし3)が作成された。
(ウ) 本件立入検査後に締結された本件契約3では,原告が陸上自衛隊か
ら受け入れた本件弾薬用木箱のうち338箱が原告により木箱として販売,製板さ
れるなどしてリサイクルされた旨のリサイクル証明書(甲5)が作成された。
(エ) 原告が松林商事に本件弾薬用木箱の一部を搬入する際は,これを対
価を得て売却するのではなく,むしろ原告が対価を支払ってその処理を依頼してい
た。
(オ) 原告が本件弾薬用木箱を製板してできた再生木材について,工務店
等への販売ルートは確立されていなかった。
(カ) 本件弾薬用木箱のうち,廃棄物処理業者によって廃棄物として処理
されてマニフェスト(乙5の1ないし9)が作成された数量は,本件契約3の内訳
書(甲4の2枚目以降)において品名に「木箱」と付くものの数量を大きく上回っ
ている。
(キ) β工場には従業員が常駐しておらず,また本件弾薬用木箱のうち同
工場建物内に入り切らないものは野外に野積みして保管されていた。
(以上イについて,甲4,5,6の1ないし3,7,10の1ないし3,乙
3,4,5の1ないし9,原告代表者)
ウ 発泡スチロールの溶解行為について
(ア) 原告は,平成14年ころ,トラック2台分程度の発泡スチロールを
外部の事業所からβ工場に運び入れ,エコカトン50という発泡スチロールの溶解
液と専用の機械を用いて,約10か月の間に5回にわたり発泡スチロールの溶解行
為を行った。
(イ) 原告は,上記溶解行為を,溶解に関するデータ収集等を目的として
行った。
(ウ) エコカトン50を用いて溶解した発泡スチロールについては,エコ
カトン50の製造元であるバイオベンチャーバンク株式会社の埼玉リサイクルセン
ターが引き取り,これを建築用接着剤等として再生利用することが予定されていた
が,エコカトン50は,環境問題等を抱える発泡スチロールの廃棄方法を改善する
ために,新しく開発された1つの商品にすぎない。
(エ) エコカトン50によって溶解されない発泡スチロールも,割合は小
さいが存在する。
(オ) 原告は,実験目的でする発泡スチロールの溶解行為については特に
許可は不要であるが,これを本格的に事業化する際には産業廃棄物の中間処理業の
許可を要するとの認識を有していた。
(カ) 原告は,上記溶解行為を行った後,平成14年12月ころに,溶解
に用いた機械を業者に返却した。
(以上ウについて,甲7,9,原告代表者)
エ 本件立入検査について
(ア) 仙台市職員は,原告に対し,事前の連絡をせず,原告側関係者が不
在の間に,立会人のないまま,本件立入検査を実施し,実施後も1週間ないし10
日間は原告にそれを連絡しなかった。
(イ) 本件立入検査の際,β工場の敷地に入る門扉は施錠されていたが,
仙台市職員は門扉の下部の隙間から敷地内に立ち入り,さらに施錠されていなかっ
た工場建物内にも立ち入った。
(ウ) 工場敷地内及び建物内に立ち入った結果,仙台市職員は,同所に本
件弾薬用木箱や発泡スチロールが多量に保管されているのを現認した。
(エ) もっとも,当時,工場敷地内の建物の外にも本件弾薬用木箱が野積
みされており,これは工場敷地外からも視認することができた。
(オ) 仙台市職員は,本件立入検査以前に,Aから,原告が発泡スチロー
ルの溶解行為をしているとの説明を受け,それも本件立入検査を実施する理由の1
つとなった。
(以上エについて,甲7,乙2,原告代表者)
(2) なお,上記(1)イの(ア)ないし(ウ)について,原告によりリサイクルされ
たとされる分のうち,リサイクル証明書作成後現実に製板処理されたもの,バーク
材(肥料)にされたもの,そのような処理がされていなかったものの各比率は証拠
上明確でなく,また,本件契約3について原告が作成したリサイクル証明書(甲
5)に記載されている「品名及びロットを消し木箱として販売」したことを裏付け
る証拠はない。
2 主たる争点ア(本件弾薬用木箱の廃棄物該当性)について
(1) 廃棄物処理法2条1項に定める「廃棄物」とは,占有者が自ら利用し,又
は他人に有償で売却することができないために不要になった物をいい,これに該当
するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及
び占有者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である。
(2) 前記認定によれば,本件弾薬用木箱は,陸上自衛隊においてその本来の用
途である木箱としての利用を終了して排出されたものであること,平成12年まで
は焼却処分されていたものの,平成13年以降従前どおりの焼却処分ができなくな
ったため,外部の業者に相当額の処理委託費用を支払ってその処理を委託すること
としたこと,業者の選定は委託料の金額を入札させて選定したこと,入札において
は処理の方法について特に条件をつけず,入札に参加したのはほとんど廃棄物処理
業者であったこと,原告との本件各契約においても,本件弾薬用木箱をどのように
処理するかは原告の自由に任されたこと,原告が本件弾薬用木箱の一部を分別して
再生チップ加工業者に引き渡す際ですら,有償で売却できるわけではなく,むしろ
原告が処理委託料を
支払っていたことなどが認められ,これらの点を総合すれば,本件弾薬用木箱は,
占有者たる陸上自衛隊が自ら利用し,又は他人に有償で売却することができないた
めに不要になった物であって,同法2条1項の「廃棄物」に該当するというべきで
ある。
なお,前記認定にかかる本件弾薬用木箱の性状,排出先等に照らすと,こ
れは同法2条4項1号,同法施行令2条各号に定める産業廃棄物には該当せず,同
法2条2項により一般廃棄物となるものと認められる。前記認定の各事実によれ
ば,陸上自衛隊は本件弾薬用木箱を産業廃棄物と認識していたことが窺われるが,
これをもって上記認定が左右されるものではない。
(3)ア これに対し,原告は,引取りの有償性は廃棄物該当性の決定的な判断基
準とはならないこと,本件弾薬用木箱は,陸上自衛隊からの排出段階において,原
告及び陸上自衛隊双方にとって再生利用目的物としての有用性が存し,現に有価物
と認識して取引を行ったことなどから,本件弾薬用木箱は廃棄物に当たらない旨主
張するので,以下検討する。
イ 引取りの有償性について
廃棄物処理法2条1項では廃棄物の定義として「汚物又は不要物」と規
定するところ,ある物が「不要物」に該当するか否かを判断するにあたって,それ
が有償で売却されるものか,逆に対価を支払ってまで他に引き取らせるものか,現
にどのような取引がされたかが一つの重要な判断基準となることは明らかであり,
これは,引取者が対価を支払って引き取った場合に比して,対価を得て引き取った
場合には,生活環境及び公衆衛生上不適正な処理を行う動機付けが高くなることに
照らしても,重要な意味を持つ判断基準である。原告は,引取りの有償性を決定的
な基準とすることは,当該物の市況の変動によって許可の要否が変わり,法的安全
性を害すると主張するが,当該物の社会的及び経済的価値の変動に伴ってその廃棄
物性が異なってくるこ
とは事柄の性質上当然のことであり,これをもって徒に法的安全性を害するとはい
えない。
ウ 再生利用目的物としての有用性及びその認識について
廃棄物処理法は,一定の汚物又は不要物を「廃棄物」と規定した上,そ
の処理を業として行うことを原則的に許可制にし,専ら再生利用の目的となる廃棄
物のみの処理を業として行う場合は例外的に許可を要しないと定めているから,再
生利用の目的となる物であっても同法上の「廃棄物」には該当しうるのであって,
再生利用目的物としての有用性があること自体から直ちに廃棄物性が否定されると
はいえず,結局,その物の客観的有用性やそれに関する取扱者の認識は,「自ら利
用し,又は他人に有償で売却することができないために不要になった物」の該当性
判断のための一事情にすぎないと解される。
本件弾薬用木箱については,それらも含めた勘案事項を総合して不要物
と認定し,廃棄物性を肯定したことは上記のとおりである。
3 主たる争点イ(本件弾薬用木箱の収集運搬及び処分が,専ら再生利用の目的
となる廃棄物の収集運搬及び処分といえるか)について
(1) 廃棄物処理法は,一般廃棄物処理業を許可制とし,「専ら再生利用の目的
となる一般廃棄物」のみの処理を業として行う者等については許可を要しない旨定
めるところ(同法7条1項,4項),その趣旨は,同法の目的が生活環境の保全及
び公衆衛生の向上を図ることにあることに鑑み,廃棄物処理業について一般的に許
可制として行政による事前規制の対象とした上,許可を受けずに廃棄物を処理して
も上記目的に反する弊害の生ずるおそれがない一定の場合には,例外的に許可制の
対象外とする点にあると解される。このような法の趣旨や,許可の要否に関わる基
準は客観的に明確であるべきことなどを考慮すれば,上記の「専ら再生利用の目的
となる一般廃棄物」とは,当該物の客観的性質上,通常一般に再生利用されるもの
をいうと解するのが
相当である。
(2) 前記のとおり,本件弾薬用木箱の主要な構成部分である木板のうち,原告
において現実に製板処理等により再生したものがどの程度の割合で存するのか明ら
かでないことや,その再生木材の工務店等への販売ルートが確立されていなかった
こと,原告が松林商事に対して対価を支払って引き取らせ,あるいは本件立入検査
後に廃棄物処理されたものは相当な量に上ること,陸上自衛隊による本件弾薬用木
箱の処理委託のための入札も,必ずしも再生利用を前提とはしていなかったことな
どに鑑みると,本件弾薬用木箱の構成部分たる木板や,木板以外の構成部分(釘,
蝶番,麻製の取っ手)を含めた本件弾薬用木箱全体が,その客観的性質上,通常一
般に再生利用されるものとは到底いえず,「専ら再生利用の目的となる一般廃棄
物」に該当するとは認
められない。
(3) したがって,原告による本件弾薬用木箱の収集運搬及び処分が,廃棄物処
理法7条1項ただし書,同条4項ただし書に定める「専ら再生利用の目的となる一
般廃棄物」の収集運搬及び処分とはいえない。
4 主たる争点ウ(発泡スチロールの溶解は「業として」行われたものか)につ
いて
(1) 廃棄物処理法14条4項にいう「業として行」うとは,同法の目的等に照
らし,反覆継続の意思をもって一定の行為を行うことをいい,当該行為者における
営利目的の有無,対価受領の有無は問わないと解するのが相当である。
(2) 前記認定によれば,原告は,トラック2台分程度の発泡スチロールを運び
入れ,その溶解行為を,約10か月の間に5回行ったのであるから,反覆継続の意
思をもって同行為を行ったものと認められ,その行為が実験目的であったとか,営
利目的でなく,現に原告が利益を得ていないとか,その後溶解行為に用いた機械を
返却したことが,上記認定を左右するものとはいえない。
(3) したがって,原告による発泡スチロールの溶解行為は,同法14条4項の
「業として行」う行為に該当する。
5 主たる争点エ(発泡スチロールの溶解が,専ら再生利用の目的となる廃棄物
の処分といえるか)について
(1) 廃棄物処理法14条4項ただし書は,産業廃棄物の処分業について許可制
の例外を定めるところ,その趣旨及び同規定の意義については,一般廃棄物の場合
と同様と解されるから,同項ただし書の「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」
とは,当該物の客観的性質上,通常一般に再生利用されるものをいうと解される。
(2) 前記認定によれば,原告自身,発泡スチロールの溶解行為を実験的に行っ
ていたのであって,発泡スチロールの溶解及びこれに引き続く再生利用が一般的に
普及されてはいなかったこと,溶解されない発泡スチロールも存在することなどが
認められ,これらに照らすと,発泡スチロールが,その客観的性質上,通常一般に
再生利用されるものとは到底いえず,「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に
該当するとは認められない。
(3) したがって,原告による発泡スチロールの溶解が,廃棄物処理法14条4
項ただし書に定める「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」の処分とはいえな
い。
6 主たる争点オ(本件立入検査の違法性及びそれに基づく本件処分の違法性)
について
(1)ア 廃棄物処理法19条は,廃棄物処理業者の事務所等への市長の立入検査
権限について定めるところ,この立入検査権限を犯罪捜査のために認められたもの
と解釈してはならないとされ(同条4項),立入検査の拒否,妨害,忌避に対する
罰金(同法30条6号)や行政処分(同法14条の3第1号)による間接的な強制
力は認められているものの,直接強制の手段は認められていないことなどからする
と,この立入検査は,あくまで検査対象者や管理者等の同意を前提とするもので,
同意を得ないままに事務所等に立ち入ることは,法の付与した権限を越えた違法な
立入検査というべきである。
イ 前記認定によれば,本件立入検査を行った仙台市職員らは,原告に対し
て立入検査の実施を事前に連絡しないで現場に臨場し,原告関係者が不在でその同
意が得られず,立会人もないままに,施錠された門扉の下部の隙間から敷地内に立
ち入って本件立入検査を行ったのであるから,本件立入検査は違法な立入検査であ
ったといわざるをえない。
ウ 被告は,原告の同意を得ずに立入検査を行ったのは,証拠隠滅を避ける
ための必要性,緊急性が存したためであり,立入検査の態様も必要最小限度のもの
であったから,本件立入検査が違法とはいえない旨主張するが,本件において,被
告主張にかかる事情があったとしても,上記態様の本件立入検査を適法化しうるも
のとはいえず,他に本件立入検査を適法とすべき事情も認められない。
(2) そこで,本件立入検査の違法性が本件処分自体をも違法とするかについて
検討する。
一般に,立入検査は,それ自体が行政処分の客観的処分要件となるもので
はなく,行政処分の基礎となる資料を収集するための,行政処分とは別個の行為で
あるから,立入検査に違法な点が存する場合であっても,そのことから直ちに行政
処分自体が違法となるとは解されないが,立入検査が,刑事上罰すべき行為に該当
しまたはこれと同程度に看過しがたい高度の違法性を有する場合には,当該立入検
査によって収集された資料を行政処分の適法性を基礎付けるための資料として用い
ることが許されないものと解するのが相当である。
これを本件立入検査についてみるに,上記(1)において認定した本件立入検
査の違法性は看過しがたい程度に高度なものであるから,本件立入検査の際にβ工
場敷地内に立ち入った後に現認した内容は,これを本件処分の適法性を基礎付ける
ための資料とすることができないというべきである。
(3) しかしながら,本件立入検査の際に工場敷地の外からも本件弾薬用木箱が
野積みされているのが視認でき,また,仙台市職員は,本件立入検査以前にAから
原告が発砲スチロールの溶解行為をしているとの説明を受けていたなどの前記認定
事実に照らすと,本件立入検査で工場敷地内に立ち入った際の資料がなかったとし
ても,原告代表者や関係者からの事情聴取や客観的裏付け資料の収集等により,早
晩,原告の本件各行為が明らかとなったと窺われる上,本件訴訟においてはもはや
本件各行為の存在自体は当事者間に争いがなく,むしろそれを前提として許可の要
否が主要な争点となっていて,本件立入検査の際に工場敷地内に立ち入った後の現
認内容を証拠資料とするまでもなく,争点に対する当裁判所の判断が可能であった
ことは前記各説示の
とおりであるから,本件立入検査の違法性を考慮しても,本件処分が違法になると
はいえない。
7 主たる争点カ(本件処分における裁量権の逸脱,濫用の有無)について
前記認定のとおり,原告は,廃棄物処理法に違反して無許可で廃棄物処理業
を行ったというべきところ,この違反行為は廃棄物行政の根幹である許可制度に反
する基本的かつ重大な違反行為であること,環廃産第260号においても,無許可
営業行為があったときの行政処分としては許可取消しが相当とされ,違反行為があ
って必要な場合は行政指導にとどまらず躊躇することなく行政処分を行って,違反
行為に対して厳正な対処をすることを求めていること(甲3)などからすると,被
告が上記違反行為を理由として原告に対し許可取消し処分をしたことは相当と認め
られる。
原告は,仙台市職員から本件弾薬用木箱が産業廃棄物であると説明されたこ
と,本件処分に先立って原告に注意や指導をしなかったことなどをもって,本件処
分には裁量権の逸脱,濫用があると主張するが,仮に原告主張のような上記事実が
存し,これを十分に考慮したとしても,本件処分が裁量権を逸脱,濫用したものと
はいえない(なお,原告が産業廃棄物の処分業の許可を得ていないことについては
争いがない)。
また,原告は,本件立入検査に違法な点があったことなどから本件処分の過
程の杜撰さや社会通念からの乖離が窺われ,本件処分の裁量権逸脱,濫用が根拠付
けられるとも主張するが,上記認定にかかる本件立入検査の違法性等を考慮して
も,本件処分が裁量権の逸脱,濫用になるとはいえない。
その他,本件処分が裁量権の逸脱,濫用であることを認めるに足りる証拠は
ない。
8 結論
よって,本件許可を取り消した本件処分に違法はなく,原告の請求は理由が
ないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
   仙台地方裁判所第二民事部
    
裁判長裁判官  田村幸一
裁判官  清水知恵子
裁判官  佐藤隆幸

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