弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
○ 事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人が、控訴人の昭和四〇年四月一日から同四一年三月三一日までの事業年度
の法人税について、昭和四一年九月二九日付でした更正処分のうち、欠損金額(雑
損失)九八三万七〇八二円を否認した部分を取消す。
訴訟費用は第一・二審を通じて被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨。
二 当事者の主張及び証拠関係
次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりである。
1 主張
(一) 控訴人
(1) 本件立木代金は本件土地の賃借権取得価額に含められるべきものではな
い。その理由は次のとおりである。
(イ) 本件では土地賃借権の純然たる取得価額自体が既に時価を遥かに上回つて
いる。しかもなお、立木代金を法人税法施行令(以下単に「令」といい、法人税法
を「法」という。)五四条にいう「事業の用に供するために直接要した費用」に当
るものとして右土地賃借権取得価額に含まれるとすることは、その時価に比し、余
りにもその簿価が高額となつて会計原則上好ましくない。
(ロ) また直接要した費用として当該費用が取得価額に加えられる理由は、通
常、当該費用が購入資産の増加に寄与しているから、との考えに基づく。ところが
本件では、取得した賃借権の価値は立木の除去によつてなんら増加するところがな
い。従つて、立木代金を加算すべきものとすることは不合理である。
(ハ) 更に、右令五四条にいう「直接要した費用」とは、これを本件についてい
えば、整地、防壁・上下水道、石垣の工事等本件土地自体の利用に直接要した費用
をいい、地上立木の取得費用まで含むものではない。なるほど、ゴルフ場開設のた
めには立木の一部を除去することも必要ではある。しかし、それはあくまで取得し
た立木の伐採による反射的効果としてえられるものである。このようなわけで、立
木取得の費用は土地賃借権とは間接的な関係にあつて直接的関係にあるものではな
い。
(2) 仮に、本件立木代金が土地の賃借権取得価額に含められるべきものとして
も、損金経理ないし減価償却等が認められるべきである。その理由は次のとおりで
ある。
(イ) 立木代金は、既述のとおり本件土地の賃借権取得に通常必要な価格に上積
みされたもので、このような性質のものである以上、損金経理が認められて然るべ
きであり、そうすることに違法な点はない。
(ロ) しかも、本件土地賃借権は、既述のとおり物権的色彩が甚だ弱く、時の経
過に伴つて価値の減少すること明らかな性格のものである。もつとも、令一三条
は、時の経過により価値の減少しないものは減価償却資産から除くものとし、立法
者の意思としては、土地又はその上に存する権利はこれに属する、とするのであろ
う。しかし他面、法三三条・令六八条では、土地等についてさえ、災害等による著
しい損傷の場合、損金経理をすることが認められている。この規定の趣旨に、右に
みた本件土地賃借権の性格及び時価を上回る立木代金がその上回る分に見合つた土
地賃借権の価値増加を来していないこと等を考え合せるならば、立木代金は一応コ
ース施設勘定として資産計上したうえ、除去に応じてその償却が認められるべきで
ある。
(ハ) また、取得立木の本件土地賃借権に対する経済的効果が右のとおりである
ことに鑑みれば、減価償却資産又は繰延資産等に関する規定の類推によつても償却
が認められるべきである。
(二) 被控訴人
控訴人の右主張はいずれも、前提事実を異にするか、ないしは、全く独自の見解に
基づくもので、理由がない。
なお、控訴人は、本件土地の賃借権取得価額自体既に著しく時価を上回つていたと
いうことを基調として、主張をする。しかし、右「時価」自体しかく明白でない。
それは、山林を、山林そのものとして、あるいは、立木伐採のため一時的に賃借す
るというような場合と、ゴルフ場開設目的のため半永久的に賃借するようになると
いうような場合とでは、賃借権取得価額に差が生じるこというまでもないからであ
る。しかも、自由主義経済体制の下での取引では、当然、需給の相関関係や買受側
の将来性等を見込んでの強度の取得希望等の諸要因がからみ合つて、いわゆる「時
価」を上回る価額による取引がされることは決して少なくない。というよりむしろ
常識といえる。本件も右事例の一つである。従つて、この点についての控訴人の主
張は理由がない。
また控訴人は立木代金を土地の賃借権取得価額に算入することは立木の除去によつ
て賃借権の価値がなんら増加しないのであるから不合理である等の趣旨の主張をす
る。しかし右主張は、もともと本件ゴルフ場の開設が山林を開発して自然美を生か
したゴルフ場の実現にあつたのであり、そのため美観を保つのに役立つ立木は残す
一方、施設に支障となる立木は除去する必要があつたこと明白で、そこでは立木取
得は土地賃借権取得と密接不可分の関係にあつたのであつて、その理由がないこと
明らかである。
控訴人はまた、減価償却を認めるべきである、との主張中で、法三三条、令六八条
による損金経理の認められていることをあげてこれを類推すべきであるかのように
いう。しかし右規定は、減価償却資産についての減価償却と関係のない、全く別個
の観点から損金経理を認めたものである。いかに類推とはいえ、右規定を根拠に減
価償却資産以外の固定資産についてまで減価償却を認むべしとすることは論理の飛
躍にすぎ、その当をえないこというまでもない。
2 証拠(省略)
○ 理由
一 当裁判所は、当審で付加された主張及び証拠関係を加えて検討したが、なお控
訴人の主張は理由がないものと認めるものであつて、その理由は、次に付加・訂正
するほか、原判決理由説示のとおりである。
1 原判決一一枚目裏八行目の「おおむね」から同九行目の「伐採除却」までを
「その大部分が邪魔になるのでこれを伐採除去」と改める。
2 控訴人は当審で、本件土地賃借権は減価償却資産に属するとして、(一)
(2)(ロ)の主張をする。
しかし、本件土地の賃借権が法二条-二三号・令一二条にいう「土地の上に存する
権利」として固定資産に該当することは既にみた(引用の原判決理由三とおりであ
り、減価消却資産に当らないことは、時の経過ないし使用により価値減少、即ち、
減損を来すことのない資産に属している、というべきであるから、肯定できる。ま
た、法三三条・令六八条の類推適用ないしその趣旨等を総合考察して、損金経理を
認めるベきであるともいうが、本件事実関係の下ではその余地は全くない。
なお、控訴人は、原判決理由記載の見解によると、本件土地賃貸借終了時点(即ち
契約更新の時点)で立木代金及び保証金の損金経理を一挙に認めるということにな
るのであろうが、果して妥当か、との主張(昭和五〇年二月一三日付準備書面記
載)もするが、原判決の理由説示がそのような趣旨のものでないことはその判示に
照らして明白である。右主張は、前提を欠くものであつて、理由がない。
二 従つて、原判決の判断は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却するこ
ととし、民訴法九五条・八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小西 勝 入江教夫 和田 功)

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