弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴は棄却する。
         理    由
 弁護人鍛冶千鶴子及び同関原勇の控訴趣意は本判決末尾添附の控訴趣意書記載の
とおりであるから、これについて判断する。
 第一点 原判決が犯罪事実認定の証拠として引用している収税官吏大蔵事務官A
作成の質問顛末書記載にかかる被告人の供述は国税犯則取締法に基く同事務官の尋
問に対するものなること及び同記載によれば同事務官は右質問に先立ち被告人に対
して供述を拒み得る権利あることを告知した事跡のないこと孰れも所論のとおりで
ある。然し、憲法第三八条第一項には何人も自己に不利益な事項については供述を
強要されないこと即ちいわゆる默秘権あることを保障しているに止まり、進んで如
何なる国家機関の質問に際しても必ず予め默秘権の存在を告知すべきことまでも規
定したものではなく(最高裁判所昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日
大法廷判決参照)、斯る告知義務の存否はその質問手続の捜査過程における段階並
びに性質及び内容<要旨>の軽重難易等に即し適宜法令を以て規定するところに委ね
る趣旨なりと解するを相当とする。故に国税犯則取締法には犯則事件調査の
ための質問に先立つて默秘権の存在を告知すべき旨の規定はないこと所論のとおり
であるがこれは同法による犯則被疑事実の取調は通常の犯罪捜査手続からみれば告
発を前提とする一種の準備手続的地位にあるに過ぎないものとみて同法に告知規定
を設けなかつたものと解せられるから、その規定のないことは当然同法律の違憲無
効の原由となるものではない。従つて供述を強要した事跡がたい限り同法に則り默
秘権の告知なく行われた収税官吏の質問顛末書を以て証拠能力を欠くものとなすは
失当である。論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 佐伯顕二 判事 久礼田益喜 判事 武田軍治)

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