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平成19年7月17日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成18年(ワ)第3772号不正競争行為差止等請求事件
(口頭弁論終結の日平成19年5月24日)
判決
東京都渋谷区<以下略>
原告株式会社イーダム
訴訟代理人弁護士安原正之
同佐藤治隆
同小林郁夫
同鷹見雅和
訴訟代理人弁理士安原正義
東京都渋谷区<以下略>
被告株式会社アルページユ
訴訟代理人弁護士山崎雅彦
同神尾明彦
訴訟代理人弁理士高橋康夫
主文
1被告は,別紙物件目録1及び3記載の衣服を製造し,販売し,販売のため
に展示し又は輸入してはならない。
2被告は,被告所有にかかる前項記載の衣服を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,309万8362円及びこれに対する平成18年3
月2日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
4原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5訴訟費用はこれを3分し,その2を原告の,その余を被告の負担とする。
6この判決は,1項及び3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙物件目録1ないし4記載の衣服を製造し,販売し,販売のた
めに展示し又は輸入してはならない。
2被告は,被告所有にかかる前項記載の衣服を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,1776万6000円及びこれに対する平成18年
3月2日から支払済みまで,年5分の割合による金員を支払え。
4被告は東京都中央区<以下略>所在の株式会社繊研新聞社が発行する繊,「
研新聞」紙上に,別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を,同記載の条件で1回
掲載せよ。
第2事案の概要等
本件は,原告が,被告に対し,別紙物件目録1ないし4記載の衣服が,原告
の製造・販売した衣服の形態を模倣した衣服に当たり,被告がこれを製造又は
輸入して販売したことは,不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為に
該当するとして,上記目録記載の衣服の製造,販売,販売のための展示又は輸
入の差止め,同衣服の廃棄,損害賠償及び謝罪広告を求めた事案である。
1前提となる事実(当事者間に争いのない事実,該当箇所末尾掲記の各証拠及
び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)原告は,衣料品及び衣料品雑貨等のデザイン,製造及び販売を業とする株
,「」,「」,「」式会社であり直営店blondyを開設しBittenAppleLHSblondy
のブランド名を使用して被服等を販売している。
被告は,婦人服等のデザイン,製造,加工及び販売を業とする株式会社で
あり「Apuweiser-riche「アプワイザー・リッシェ」のブランド名を使,」,
用して被服等を販売している。
(2)原告が製造販売等した衣服は,次のとおりである。
(「」。,)アカーディガン以下原告商品1という甲1の1ないし9検甲1
(「」。,)イノースリーブ以下原告商品2という甲2の1ないし7検甲2
ウパーカー(以下「原告商品3」という。甲3の1ないし10,検甲3)
エカーディガン(以下「原告商品4」といい,原告商品1ないし4をまと
めて「各原告商品」という。甲4の1ないし14,検甲4)
(3)被告は「Apuweiser-riche」のブランド名で,以下の別紙物件目録記載,
の衣服を製造又は輸入して販売している。
アカーディガン(別紙物件目録記載1。以下「被告商品A」という。甲5
の1ないし9,検甲5)
イノースリーブ(別紙物件目録記載2。以下「被告商品B」という。甲6
の1ないし7,検甲6)
ウパーカー(別紙物件目録記載3。以下「被告商品C」という。甲7の1
ないし10,検甲7)
エカーディガン(別紙物件目録記載4。以下「被告商品D」といい,被告
商品AないしDをまとめて「各被告商品」という。甲8の1ないし12,
検甲8)
(4)各原告商品と各被告商品の形態は,それぞれ別紙写真目録記載のとおり
であり,それぞれの同一ないし共通点及び相違点は,以下のとおりである。
ア原告商品1と被告商品A(甲1の1ないし9,甲5の1ないし9,乙1
の5及び6,乙5,乙18の2,乙19の1及び2,乙54,検甲1,検
甲5)
a)同一ないし共通点
①前あきボタン留めの長袖カーディガンである。
②丈が短めである。
③丸首で襟がない。
④前身頃と後身頃の下端部約16ないし17センチメートルを覆い,
胴回りを一周するように,訴外協和レース株式会社(以下「協和レー
ス」という)製の同じ白いレース編み布地(以下「レースA」とい。
う)が付されている。。
⑤レースAは,裾から数センチメートル突出している。
⑥ボタンは透明樹脂製であり,厚みのあるほぼ円状のもので,5個付
されている。
b)相違点
①基本形状について,原告商品1のほうが身頃がゆったりしており,
袖の長さもやや(約2センチメートル)長い。
②胴部に設けられたレースについて,原告商品1において裾から下に
約1.5センチメートル突出しているのに対し,被告商品Aにおいて
は裾から下に約3センチメートル突出している。
③使用されている布地について,原告商品1においてはTOP染めの
糸を用いており,被告商品Aにおいてはレーヨン,テンセル,ナイロ
ンの混紡であってつやのあるベタ染め糸を用いている。
④袖口について,原告商品1においてはリブ編みがないのに対し,被
告商品Aにおいては2センチメートルのリブ編みが設けられている。
⑤ボタンについて,原告商品1においては面をカットしたカットボタ
ンであるのに対し,被告商品Aは曲線で構成された半球状である。
イ原告商品2と被告商品B(甲2の1ないし7,甲6の3ないし6,乙2
の1ないし5,乙5,乙18の3,乙20の1及び2,乙53,検甲2,
検甲6)
a)同一ないし共通点
①袖がなく(ノースリーブ,襟刳りが幅広でV字状に開いたシャツ)
である。
②生地は,白色で,身丈方向に縞模様状の凹凸がある。
③V字状の襟刳り部分に協和レース製の同じ白いレース編み布地(以
下「レースB」という)を付している。。
b)相違点
①基本形状について,原告商品2は,全体が大きく長くゆったりとし
ているのに対し,被告商品Bは,全体が小さく短くほっそりとしてい
る。
②基本形状について,原告商品2は,上から下まで同じ周囲のいわゆ
る寸胴型のデザインであるのに対し,被告商品Bは,ウエスト部分が
細くなっている。
ウ原告商品3と被告商品C(甲3の1ないし10,甲7の1ないし10,
乙3の1ないし8,乙5,検甲3,検甲7)
a)同一ないし共通点
①長袖,前あき金属ファスナー留めのフード付きパーカーである。
②生地は灰色である。
③フードは黒いリボンで窄めることができる。
④衣服丈の下端部内側から数センチメートル突出するように,胴の周
方向に黒色のレース編み布地が付されている。
⑤両袖下端部内側から突出するように,袖の周方向に黒色のレース編
み布地が付されている。
⑥左胸部に黒色のワンポイント飾りが施されている。
b)相違点
,,,①基本形状について原告商品3は身幅が広めで丈が短いのに対し
被告商品Cは,身幅が細めで丈が長い。
②裾のレース部分について,原告商品3においては,衣服丈の下端部
から下に約2センチメートル突出しているのに対し,被告商品Cにお
いては,衣服丈の下端部から下に約3.8センチメートル突出してい
る。
③裾及び袖口のレース部分について,原告商品3のそれは裾及び袖口
,,に縫いつけられているが被告商品Cのそれはボタン留めされており
取り外しができる。
④胸部のワンポイントについて,原告商品3においては,黒いリボン
を蝶結びにしたものであり,胸部に縫いつけられているのに対し,被
告商品Cにおいては,黒色の生地に銀色の糸でアルファベット文字を
刺繍した円形状のエンブレムで,取り外しができる。
⑤ファスナーについて,原告商品3においては,黄色であって金属製
のファスナー引き手からなるのに対し,被告商品Cにおいては,銀色
であってファスナー引き手のうちの一つには石をちりばめた装飾が施
されている。
エ原告商品4と被告商品D(甲4の1ないし14,甲8の1ないし12,
乙4の1及び2,乙5,検甲4,検甲8)
a)同一ないし共通点
①襟のない丸首,前あきボタン留めの長袖カーディガンである。
②ボタンは樹脂製であり,正面からみると円状のものである。
③前身頃と後身頃の下の部分,左右脇腹部から背部にかけて帯状に,
切り欠き部分(布地がない部分)が存在し,当該部分を覆うように,
白色の花柄のレース編み布地が付されている(以下生地を切り欠き,
そこにレース編み地を付した部分を「透かしレース部分」という。。)
レースの幅は部位によって大きく異なり,外周が波打つように付され
ている。
④両袖の前腕部に,透かしレース部分がある。
b)相違点
①身頃の透かしレース部分の位置について,原告商品4においては下
から約3分の1の部分にあるのに対し,被告商品Dにおいては下から
約2分の1弱の位置にある。
②基本形状において,原告商品4においてはウエスト部分がゆったり
と太めになっており袖は比較的長いのに対し,被告商品Dにおいては
ウエスト部分がやや細身で袖が比較的短い。
③原告商品4の後身頃上部には,略逆三角形の透かしレース部分があ
るのに対し,被告商品Dの後身頃上部には,上記のような透かしレー
ス部分がない。
④身頃の帯状の透かしレース部分について,原告商品4においては,
完全に左右対称に設けられているが,被告商品Dにおいては完全な左
右対称ではなく略左右対称である。
⑤使用されているレースが異なる。
⑥生地の色について,原告商品4はグレーであるのに対し,被告商品
Cは濃いブルー(ピーコック)である。
⑦ボタンについて,原告商品4においてはパールボタンが8個用いら
れているのに対し,被告商品Dにおいては布地と同色のアクリルナイ
ロンボタンが7個用いられている。
⑧身頃側面の透かしレースの処理について,原告商品4においてはカ
ーディガン本体の縫い合わせを覆うように一体的に処理されているの
に対し,被告商品Dにおいてはカーディガン本体と同様に縫い合わせ
部に入り込むように布地と一体に処理されている。
2本件における争点
(1)被告商品の製造・販売等が不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行
為に該当するか(争点1。)
ア被告商品Aについて
a)原告商品1が実際に製造販売されたか。
b)原告商品1と被告商品Aの形態が同一ないし実質的に同一といえる
か。
c)被告商品Aが原告商品1に依拠して作成されたといえるか。
イ被告商品Bについて
a)原告商品2が実際に製造販売されたか。
b)原告商品2と被告商品Bの形態が同一ないし実質的に同一といえる
か。
c)被告商品Bが原告商品2に依拠して作成されたといえるか。
ウ被告商品Cについて
a)原告商品3が実際に製造販売されたか。
b)原告商品3と被告商品Cの形態が同一ないし実質的に同一といえる
か。
c)被告商品Cが原告商品3に依拠して作成されたといえるか。
エ被告商品Dについて
a)原告商品4が実際に製造販売されたか。
b)原告商品4と被告商品Dの形態が同一ないし実質的に同一といえる
か。
c)被告商品Dが原告商品4に依拠して作成されたといえるか。
(2)損害の発生及びその額(争点2)
(3)謝罪広告の要否(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告商品の製造・販売等が不正競争防止法2条1項3号所定の不正
競争行為に該当するか)について
(1)被告商品Aについて
〔原告の主張〕
ア原告商品1が実際に製造販売されたかについて
原告商品1は,製造販売され,完売した。原告が提出した甲1,検甲1
は,原告の手元には展示会において顧客に展示した当該商品のサンプルし
,,か残っていないためそれらを本件訴訟で証拠として提出したものであり
原告が実際に販売したものと同一である。
イ原告商品1と被告商品Aの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品1は身頃下部分に幅広のレース編み布地を付した部分が特徴
部分であり,被告商品Aはそのデッドコピー品である。
b)被告は,原告商品1に使用されているレースが市販品であること等を
指摘してその形態がありふれていると主張する。被告がその根拠として
提出する乙22ないし24に掲載されたカーディガンは,販売時期が不
明であるのみならず,原告商品1のように身頃下部に大きくレースを使
用したものではなく原告商品1とは全く形態が異なる。確かに,原告商
品1に使用されているレースは市販品であるが,1000種類を超える
レースの中から選択した上で,カーディガンの特定部位に付した商品で
あり,ありふれた形態ではない。被告の論に従えば,被告の他にも原告
商品1と全く同じ構成・レースを使用した商品を製造販売している業者
が存在してもおかしくないが,被告のほかにそのような業者はいない。
ウ被告商品Aが原告商品1に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Aは原告商品1に酷似しており,原告商品1に依拠して作成
されたことは明らかである。
b)被告は,原告商品1の販売開始日(平成17年11月1日)以前に被
告商品Aのデザインを開始し,同月17日までにデザイン指示書(乙2
1)を作成しているのであって,時期的にみて依拠していない旨主張す
る。
しかし,原告は,商品販売前,サンプルが完成した時点で顧客及び関
係業者を対象に展示会を開き,実際に商品を見てもらった上で各商品に
対して注文をもらい,注文に応じて製造,納品を行なっている。原告商
品1については,平成17年8月23日から25日にかけて開催した展
示会に出品した。この展示会は,服飾業界の関係者(業者,記者)のみ
ならず,個人顧客も来場するものであり,招待状を持参しない場合であ
っても通常は名前を記入してもらう程度で入場を許可しており,ことさ
ら入場制限や入場者の管理を行なっているわけではない。また,展示会
場内での写真撮影も特に禁止されていない。したがって,被告は,被告
商品Aのデザイン開始以前に上記展示会の際の資料・写真を入手し,あ
るいは展示会に参加するなどして,原告商品を模倣する機会を十分に有
していた。
〔被告の主張〕
ア原告商品1が実際に製造販売されたか
原告商品1の存在,販売の事実,商品の形態は立証されていない。
,,a)原告が原告商品1の形態を示す証拠として提出した甲1検甲1には
衣料品等の販売に不可欠な品質表示ラベルがなく,原告が実際に製造販
売した商品とは認めがたい。展示会用のサンプルであっても,バイヤー
は提示される卸値の妥当性等を検討するため素材を必ずチェックするか
ら,品質表示ラベルは必ず付される。
b)原告は,商品の実物は残っておらず,顧客から一時的に借り受け撮影
したものであるとして甲11を提出する。しかし,いずれも,品質表示
ラベルに皺や折り目などもなく,被告が着用済みのものであるとして提
出した乙45と比較し,真新しく不自然である。
c)原告は,注文書・納品書の商品番号と共通する絵型として,甲19の
2を提出する。しかし,これらはファッションメーカーであれば事後的
に作成することも可能なものであって,これら資料のみを基礎に商品と
して販売された事実を証明し得るものでない。また,甲19の2と甲1
1とはレースの模様が異なり(甲11では縦長の楕円形状に表された草
木とおぼしき模様が左右3個ずつ並立しているのに甲19の2は一面の
格子模様である,甲19の2によって甲11に示す商品の存在,形。)
態を証明することはできない。
d)原告が原告商品1に関する下請けメーカーに対する指示書等として提
出する甲29の1ないし5は,レースのデザインが異なり,また,レー
スと下地の間隔(3センチメートル)は原告提出のサンプルにかかる寸
法(1.5センチメートル)と異なっているから,原告商品1の製造販
売を立証するものでない。
e)被告は,本件訴え提起以来,原告商品1について調査を継続している
が,市場で確認できず,広告も発見できなかった。乙56は,原告のブ
ランド「blondy」の各種商品を示すものであるが,原告商品1は掲載さ
れていない。したがって,原告商品1が製造販売されたとは考え難い。
f)仮に,甲1が原告商品1のサンプルであったとしても,サンプルは商
品そのものではなく,服飾業界においてサンプルと実際に製造した商品
とが相違することは日常的であるし,サンプルを作っても実際には商品
の製造,販売に至らない場合も多いから,甲1は,商品の存在,形態を
直接に証明するものではなく「当該商品のサンプル」に関するもので,
あるにすぎない。
イ原告商品1と被告商品Aの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品1と被告商品Aには,前記第2の1(4)アb)のような相違点
があり,そのうちレースの突出幅の違いは,スカートを組み合せて着用
した場合にレース部分から透けて見える部分の幅が倍も異なるためエレ
,。ガントさの点で異なる印象を与えるもので実質的に同一とはいえない
b)原告商品1と被告商品Aに用いられているレースAは同じであるが,
加工の容易さ,レースの目立つ場所,着用した場合の快適さ,強度の問
題などから,レースのデザインや施し方は限定され,近似するデザイン
となる場合もある。また,洋服にレースを施す流行の到来前にレース製
造会社の倒産が相次いだこともあり,レース製造元が限られていること
から,偶然に同じレースを選択することもあり得る。協和レースは業界
の4分の1のシェアを有しており,カーディガンの胴部に用いることの
できる同じ大きさのレースは数種類程度しかない。被告商品Aにおいて
はかかる限定された選択肢の中からエレガントさの感じられるものを選
択したにすぎない。そもそも,レースAは,カーディガンの胴下部に取
付けることを想定したものである。すなわち,当該レースのような幅広
,,の長いレースは着用時に平坦な部分にしか付けることができないため
例えば胸などの凹凸のある部分に施すことはできない。そのため,当然
に,前開きのカーディガンの胴部下部に施されることになる。被告商品
Aが原告商品1の模倣品ということになれば,レースAを購入した被服
業者の商品はすべて模倣品ということになってしまい不合理である。
c)そもそも,不正競争防止法2条1項3号で形態模倣が禁止されている
のは,商品の形態をデッドコピーする場合には開発のタイムラグが減少
し,労力,費用がかからないことが理由とされている。このような趣旨
に鑑みれば,デッドコピー品といえるか否かは,被告商品の展開に際し
て模倣により開発のタイムラグが減少し,労力,費用を減少させるとい
う効果があったか否かの観点で検討されなければならない。原告商品1
と被告商品Aは,基本的なシルエットが相違しており,仮に被告商品A
を製作するに当たって原告商品1にアクセスしていたとしても,被告商
品Aを製造ラインに載せるためには全く新たな観点でデザイン化しなけ
ればならず,開発のタイムラグの減少などは想定されない。また,被服
において類似しているといえるためには,特徴を有するデザインとして
評価され得る部分が共通している場合に限られ,かかる特徴を有する部
分が共通性を有するか否かの判断は当該業界におけるデザイナーの観点
で判断されるべきである。デザイナーである被告デザイン総責任者は,
被告商品Aと原告商品1は対応する部位の寸法がすべて相違しており,
抽象的な共通点があるとしても全く別の商品であると認識している。
d)原告商品1は,レース部分を取り除くと定番の商品形態であり,使用
されているレースAは協和レースの定番商品である。定番の商品形態に
レースを組み合せることは,20代女性を対象とするこの種商品分野に
おいて,数年前から流行しているありふれた装飾手法にすぎない。
e)カーディガンの裾の部分に一周する形でレースを装飾する原告商品1
の形態がありふれたものであることは,原被告以外のメーカーの製品で
ある乙22ないし24をみても明らかである。
ウ被告商品Aが原告商品1に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Aは原告商品1の販売が開始される前にデザインされたもの
であって,原告商品1に依拠していない。すなわち,被告商品Aは,被
告のデザイナーであるAが,数年前から定番商品にレースを付けること
が流行となっており,被告が定期購読しているインポートの雑誌に前開
きのはおりものの裾周りに幅広のレースが付いているROCHASの商品が掲
載されていたことなどを参考に,他の2名のデザイナーと話し合って開
発を進めOEM製造業者である訴外三澤株式会社イフ・ユー事業部以,(
下「三澤」という)が製造したものである(なお,三澤はさらに下請。
に出している。被告商品Aに使用したレースは市販品で,カーディ。)
ガンの裾を幅広くエレガントに一周する形で装飾するレースとなると限
定されることは前記イのとおりであり,被告商品Aのボタンが透明なも
のであるのは,当時被告が製造していたカーディガンにつけるボタンは
透明かキラキラするものであったことによるもので,ボタン自体はあり
ふれたものである。被告は,平成17年11月17日までに被告商品A
のデザイン指示書を作成し三澤に交付したが,それまで被告と三澤との
間で日時をかけて検討を重ねており,デザインに着手したのは原告商品
販売開始前の平成17年10月初めころである。
b)原告は,原告商品を展示会に出品していたから,デザインを模倣する
機会は充分にあった旨主張する。しかし,女性ファッション業界におけ
る展示会は一般の顧客(個人)や第三者が参加できるものではなく,一
般に,購入するバイヤーのみを対象とし,入場者は予め発送した招待状
を持参したものに限られ,個人客は入れないのが通例である。入場の際
には,名簿への署名や名刺の提示を求められ,会社側の担当者が寄り添
って説明するから,競争者,同業者は入場できず,会場内で写真を撮影
したり,スケッチを描くことなどできるはずもない。被告には,招待状
は送付されておらず,原告の展示会に参加した被告デザイン担当者もい
ない。さらに,原告商品の販売開始後であっても,原告商品の販売数量
は極めて少ないため,アクセスすることは極めて困難である。よって,
被告には,原告の展示会の際の資料・写真を入手し,あるいは展示会に
参加する等して,原告商品のデザインを模倣する機会のないことが明ら
かである。
c)被告は,若い女性のファッションリーダーである人気モデルのBの愛
用ブランドとして着目され,業界におけるファッションリーダーとして
需要者の間で熱狂的に支持されており,多数のスタッフにより確立され
た開発体制を備え,独自の商品開発を継続して行なっているものであっ
て,そもそも被告が原告商品を模倣しなければならないような事情はな
い。
(2)被告商品Bについて
〔原告の主張〕
ア原告商品2が実際に製造販売されたかについて
原告が原告商品2を製造販売し,完売したため,サンプルを提出したこ
とは,(1)アと同様である。
なお,原告商品2は「2WAY丸胴レースノースリーブ」という商品,
名のとおり,表裏両方の使い方ができる商品である(リバーシブルという
意味での2WAYである)したがって,裏返して使用した場合でも見栄。
えが悪くならないように,品質表示ラベルは縫い付けておらず,シールを
貼付したものである。
イ原告商品2と被告商品Bの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品2は,襟刳り部分にレース編み布地を付した部分が特徴部分
であり,被告商品Bは原告商品2のデッドコピー品である。
b)被告は,商品背面の襟刳り部分が相違し,原告商品2はU字型,被告
。,,商品BはV字型であると主張するしかし被告商品BもU字型であり
被告の主張は明らかな誤りである。
c)被告は,原告商品2に使用されているレースが市販品であること,被
告がこれまでもノースリーブの襟刳りにレースを組み合せるコンセプト
の商品を製造販売していたこと等を指摘してその形態がありふれている
と主張する。被告がその根拠として提出する乙25の3,乙26ないし
37のうち,乙26ないし37については,販売時期が不明である上,
原告商品2と同一のレースを使用したものはない。
d)被告が被告商品Bの先行商品として提出する乙25の1ないし3に掲
載されたノースリーブに付されたレースは,レースBとは全く異なる。
被告が同様のコンセプトの先行商品を作成していたとしても,被告商品
Bに原告商品2と全く同一のレースを衣服に付する必然性はない。被告
は,ノースリーブの襟刳りに付するレースに限定すると選択肢がないか
のように主張するが,乙26ないし37で使用されているレースがすべ
て原告商品2のレースとは異なっていることから,被告の主張が誤りで
あることは明らかである。そもそも不正競争防止法2条1項3号の「模
倣」には創作性を保護する意味はなく,形態の対比に当たっては両者に
固定された形態そのものを比較すべきであって,そこに現れた技術思想
等を比較の対象とすべきでない。
ウ被告商品Bが原告商品2に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Bは原告商品2に酷似しており,原告商品2に依拠して作成
されたことは明らかである。
b)原告商品2が展示会に出品されており,被告には模倣の機会があった
ことは,(1)ウb)と同様である。
〔被告の主張〕
ア原告商品2が実際に製造販売されたものかについて
a)品質表示ラベルが付されていない甲2では原告商品2の製造販売を立
証し得るものではないことは,(1)アa)と同様である。
原告商品2に関する甲12の品質表示ラベルの写真は全体の形態を示
しておらず,これによって同商品の形態は立証されていない。また,原
告商品2はリバーシブルであるという主張も,原告商品2は表側と裏側
の変化がなく裏側の縫製部分もあらわで,裏返すと襟の部分を覆うレー
スの一部がかけて無様であるし,直接に肌と接して不快であり着用に適
しないことからみて,不自然であって認められない。2WAYという言
い方は前後(正面と背面)を逆にした着用の仕方もできるという場合に
用いられ,この場合は,品質表示ラベルを縫い付けていないという原告
の主張はその理由がない。そもそもリバーシブルであっても,品質表示
ラベルを固着することが家庭用品品質表示法から要請され,一般に縫い
つける箇所を工夫して縫いつけており,甲12の写真に示されるような
粘着シートでは品質表示ラベルとしては認められない。
b)絵型(甲19の1)は,ファッションメーカーであれば事後的に作成
することも可能なものであって,これら資料のみを基礎に商品として販
売された事実を証明し得るものでない。
c)指示書等(甲30の1,2及び6)は,レースのデザインが原告商品
2と異なり,信用できず,原告商品2の存在・形態を立証するものでな
い。
,。d)原告商品2の存在を確認できなかったことは(1)アe)と同様である
e)サンプル(甲2)が原告商品2の形態を立証するものでないことは,
(1)アf)と同様である。
イ原告商品2と被告商品Bの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品2と被告商品Bには,前記第2の1(4)イb)のほか,次のよ
うな相違点がある。
①襟刳りについて,原告商品2においては基本形状が大きいため,首
部の一部にレースを施した印象であるのに対し,被告商品Bにおいて
は基本形状が小さいために首部の周囲全体にレースを施したかのよう
な,より優雅で豪華な印象を与える。
②背面部の襟刳りについて,原告商品2においてはU字型であるとこ
ろ,被告商品BにおいてはV字型である。
③布地について,原告商品2においては品質表示がないため不明であ
るが,被告商品Bにおいては綿,モダールからなっており,両者の布
地は異なる印象を与える。
これらの相違点により,原告商品2は体型を隠してたっぷりとした着
方を想定しており,被告商品Bはボディーラインのシルエットを誇張す
るデザインコンセプトからなっている。両者は想定する年齢層,着方,
スカートとの組み合わせなど全く相違する商品である。
b)また,原告商品2がリバーシブルであるとした場合,被告商品Bはリ
バーシブルでないこと,被告商品Bは正面と背面を逆にしても美しいシ
ルエットになるように工夫された独特の全体形状からなり,この特徴は
原告商品2にはない特徴であること,原告商品2と被告商品Bとは対応
する各部位の寸法が異なるなどの相違がある。
c)使用されているレースBが同一であるからといって,形態が同一とい
えないことについて,(1)イb)と同様である。ノースリーブのVネック
に用いることのできる同じ大きさのレースは数種類程度しかない。被告
商品Bにおいてはかかる限定された選択肢の中からより優美さの感じら
れるものを選択したにすぎない。
d)原告商品2と被告商品Bは,抽象的な共通点があるとしても全く別の
商品であることについて,(1)イc)と同様である。
e)原告商品2は,レース部分を取り除くと,リブ編み素材を使用した定
番の商品形態であり,また,使用されているレースBは協和レース製の
市販品である。定番の商品形態にレースを組み合せることは数年前から
流行しているありふれた手法であり,市場において,ノースリーブのタ
ンクトップで襟刳りをV字型の開口部とし,正面に大きくレースを施す
商品は各社により多数展開されている(乙26ないし37。したがっ)
て,原告商品2の形態は,ありふれた形態である。
ウ被告商品Bが原告商品2に依拠して作成されたといえるかについて
,,a)被告商品Bは従前の被告商品のデザインを発展させたものであって
原告商品2に依拠したものではない。すなわち,被告商品Bは,被告の
デザイナーCがデザインを担当し,OEM製造業者である訴外イケガミ
株式会社(以下「イケガミ」という)と協力してデザインしたもので。
。,(),ある被告は被告商品Bを作成する以前平成16年3月ころから
襟刳りのV字型の開口部に大きくレースを施したノースリーブを販売し
ていた(乙25の1ないし3,検乙7。この被告の先行商品は,ロス)
のVonDutchというブランドの商品が,正面にロゴを入れていたことか
ら,胸元にラインストーンでロゴを入れ,背面の襟刳りにレースをあし
らったらかわいいと判断して製造されたものであり,その販売実績が良
好であったことに加え,平成17年にはあらゆる商品にレースをあしら
うことが流行していたこと,他方,当時はロゴを付けることは流行して
いなかったことなどから,Cは,ロゴを入れるのをやめ,さらに,前に
も後にも着られるように,また,アウターとしてもインナーとしても着
られるようにデザインした。被告商品Bに付したレースBは,当時,協
和レースの市販商品中で一定数量を確保でき,基本形状,コスト,デザ
イン,ノースリーブとの組合せなどの観点からして適当とされる2種の
提示を受け,より優美なデザインのものを用いたものである。なお,上
記先行商品に使用していたレースは,当時入手できなくなっていたこと
から,被告は,当時入手可能な協和レース製のレースのなかから,レー
スBを選んだものである。
b)原告商品2が展示会に出品されていたとしても被告に模倣の機会がな
いことは(1)ウb)と同様である。
c)被告に原告商品を模倣しなければならないような事情がないことは,
(1)ウc)と同様である。
(3)被告商品Cについて
〔原告の主張〕
ア原告商品3が実際に製造販売されたかについて
原告が原告商品3を製造販売し,完売したため,サンプルを提出したこ
とは,(1)アと同様である。
イ原告商品3と被告商品Cの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
,,a)原告商品3と被告商品Cには相違点もあるが全体を対比観察すると
前記第2の1(4)ウのとおり,両商品の最大の特徴である衣服丈の下端
部及び袖部からレース編み布地を突出するように付している点が同一で
,,,。あり配色もいずれも地が灰色レース編み部分が黒色で同一である
被告が指摘する形態の相違点はすべて軽微なもので,実質的に商品の形
態の同一性を失わない程度の改変,付加にすぎず,特徴的な部分の類似
性は明らかであって,模倣であることには何ら変わりはない。また,商
品のデザインコンセプトに関しては,前記(2)イd)のとおり,比較対象
にはならない。
b)被告は,原告商品3の形態がありふれていると主張する。しかし,被
告がその根拠として提出する乙38ないし43(検乙1ないし5)に掲
載されたパーカーは販売時期が不明であり,原告商品3がデザインされ
た当時,同一の形態の商品が流行していたことの証拠にはならない。特
に乙42は被告商品3の模倣品と呼んでもよいような商品である。
ウ被告商品Cが原告商品3に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Cは原告商品3に酷似しており,原告商品3に依拠して作成
されたことは明らかである。
b)原告商品3は,平成17年5月24日から同月26日までの間開催さ
れた展示会に出品された。したがって,被告が原告商品3を模倣する機
会があったことは,前記(1)ウb)と同様である。
〔被告の主張〕
ア原告商品3が実際に製造販売されたかについて
a)品質表示ラベルが付されていない甲3では原告商品3の存在を立証で
きないことは,(1)アa)と同様である。
b)顧客から借り受けたという甲13は不自然なもので,原告商品3の存
在及び形態を立証できないことは,(1)アb)と同様である。
また,甲13は,原告商品3と色彩が相違する(甲13は黒色,原告
商品3はグレーの布地からなる。。)
(),c)絵型甲16の1が原告商品3の存在及び形態を立証しないことは
(2)アb)と同様である。
,。d)原告商品3の存在を確認できなかったことは(1)アe)と同様である
e)サンプル(甲3)が原告商品3の形態を立証するものでないことは,
(1)アf)と同様である。
イ原告商品3と被告商品Cの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品3と被告商品Cには,前記第2の1(4)ウb)のような相違点
がある。基本形状の相違(全体の長さなど)は,着方,全体の印象,需
要者の傾向など基本的な相違となるもので,若い女性はどのようなシル
エットとなるのか,体型をどの程度あらわにするのかを重要な点として
商品を選別するところ,被告商品Cは,この種の上に着る商品(アウタ
ー)にあって,ゆったりとした着用感と優美な印象をあたえるものであ
る。また,レース部分の取り外しの可否は,商品の基本コンセプトが違
うものであり,レース幅の相違は,全体としてのデザインに大きな影響
を与えており,被告商品Cは,よりゆとりのあるエレガントな印象とな
る。さらに,胸部のシンボルの相違は,両者の商品形態における最も重
,。要なポイントであってこの点の相違は決定的な形状の相違を構成する
加えて,被告商品Cのファスナーは,その引き手が石をちりばめた豪華
な飾りのついた特徴あるデザインからなっている。そして,原告商品3
(但し,サンプル(甲3,検甲3)は,生地の色がグレーであるが,)
実際に販売されたもの(甲13)は,生地が黒色であって,被告商品C
とは生地の色彩が異なる。
b)被告商品Cと原告商品3は,抽象的な共通点があるとしても全く別の
商品であることは,前記(1)イc)と同様である。
c)原告商品3は,レースを取り除いた部分はフードパーカーという定番
商品であり,フードパーカーの生地にグレーを用いることも通常であっ
,,,,てこの種の生地色彩はフードパーカーに多用されている上ここ2
3年来フードパーカーに原告商品3及び被告商品Cの色であるグレー
(TOPグレー)を用いるのが流行であって,昨年の各社のフードパー
カーの半分以上がこの種グレーであった。また,定番商品にレースを組
み合わせることは数年前から流行となっており,フードパーカーの裾及
び袖の裏面からはみ出す形でレースを施すことは,極めてありふれた装
飾方法となっている。グレーのフードパーカーの裾にレースを組み合わ
せること,前部開口をファスナーで行うこと,首部に紐を通すことは一
般的なものであり,各社が多数の商品を展開している(乙38ないし4
3,検乙1ないし5。したがって,原告商品3の形態はありふれた形)
態である。
ウ被告商品Cが原告商品3に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Cは,被告のデザイナーであるAが他の2名と話し合い,平
成17年9月ころにデザインを決めたものである。被告は,毎年定番商
品として,その年に流行している素材や付属使いに着目してデザインに
変化をつけつつパーカーを企画製造しており,平成17年はTシャツや
ジャケットの裾等に「裾レース」を付けることが流行していたので,被
告商品Cにもレースをあしらうこととした。表地は,平成16年に売れ
たファーパーカーと同じスエット地にし,色はそのときに一番売れたグ
,,,レーに基本色の白と黒を足して3色とすることとし付属のレースは
上記3色のいずれにも合い,発売予定時期が12月であったことから寒
々しい色を避けるということで,黒を選択した。そして,裾レースは,
当時流行していた,レースを付けた状態と付けない状態の2WAYで着
こなしができるようにボタン留めで取り外しができるタイプとした。胸
,,,元のデザインは当時ブランドロゴもスパンコールも流行しておらず
以前海外ブランド「セリーヌ」で,Tシャツにワッペンを付けていたこ
,,,とからパーカーにワッペンを付けてもかわいいと考えたこと被告は
カジュアルブランドのパーカーと違いベーシックデザインを基調として
いることから,取り外しのできるワッペンを付けた。なお,ワッペンは
製作期間がかかるため,9月末ころサンプル依頼をした。
b)原告商品3が展示会に出品されていたとしても被告に模倣の機会がな
いことは前記(1)ウb)と同様である。
c)被告に原告商品を模倣しなければならないような事情はないことは前
記(1)ウc)に述べたとおりである。
(4)被告商品Dについて
〔原告の主張〕
ア原告商品4が実際に製造販売されたかについて
原告が原告商品4を製造販売し,完売したため,サンプルを提出したこ
とは,(1)アと同様である。
イ原告商品4と被告商品Dの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品4の特徴的部分は,左右脇腹部から背部にかけて帯状の透か
しレース部分及び左右前腕部の透かしレース部分である。被告商品Dの
左右脇腹部から背部にかけて,及び左右前腕部に同様の透かしレース部
分がある。原告商品4と被告商品Dには相違部分もあるが,全体的に対
比観察すると,当該相違点は全く軽微なものにすぎず,両者の形態は実
質的に同一である。
b)被告は,原告商品4の形態がありふれていると主張する。しかし,被
,,告がその根拠として提出する乙45の1ないし4乙46の1ないし3
乙47の1ないし3のうち,乙46の1ないし3,乙47の1ないし3
は半袖シャツ等の商品であって,カーディガンにレースを付した商品で
はない。被告は,カーディガンにレースを付した商品そのものがありふ
れた形態であるとは主張・立証しておらず,レースを衣服に付するとい
う装飾方法がありふれたものであると主張し,かつそこからカーディガ
ンにレースを付した商品形態に至るのは容易である旨主張しているが,
保護される商品形態には,創作性・独自性を要しないとする法の趣旨か
ら逸脱しており,主張自体失当である。
ウ被告商品Dが原告商品4に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Dは,原告商品4に酷似しており,原告商品4に依拠して作
成されたことは明らかである。
b)原告商品4は,平成17年5月24日から同月26日までの間に行っ
た展示会に出品されていた。したがって,被告が模倣する機会は十分に
あったことは,前記(1)ウb)と同様である。
c)被告が米国の商品であるとして提出する乙45の1の販売時期は不明
である。少なくとも,被告は,平成17年8月17日当時,海外にまで
行って他社の商品の調査をしていたことは明らかであり,とりもなおさ
ず,当時日本国内においても被告が他社の商品調査を行っていたこと,
特に,平成17年5月24日から同月26日にかけて行った原告の展示
会にまで調査が及んでいたことが強く推認される。
〔被告の主張〕
ア原告商品4が実際に製造販売されたかについて
a)品質表示ラベルを付していない甲4では原告商品4の存在を立証でき
ないことは,(1)アa)と同様である。
b)絵型(甲16の2)が原告商品4の存在・形態を立証しないことは,
(2)アb)と同様である。
,。c)原告商品4の存在を確認できなかったことは(1)アe)と同様である
d)サンプル(甲4)が原告商品4の形態を立証するものでないことは,
(1)アf)と同様である。
イ原告商品4と被告商品Dの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品4と被告商品Dには,前記第2の1(4)エb)のような相違点
がある。原告商品2と被告商品Bとでは,配色が顕著に異なるのみなら
ず,透かしレースを配した場合に白色のレースが全体に埋没するか際だ
つかという点で顕著な差がある。また,原告商品4は,ゆったりと着る
ことを想定してウエストが太めであるのに対し,被告商品Dはウエスト
が細めで着用者のボディーラインのシルエットを生かしたデザインであ
るという基本形状の相違は,コンセプトの相違によるもので,着用の場
面,対象,印象が異なる。
b)被告商品Dと原告商品4は抽象的な共通点があるとしても全く別の商
品であることは,前記(1)イc)と同様である。
,。c)原告商品4は透かしレース部分を取り除くと定番の商品形態である
定番の商品に透かしレースを組み合せることは数年前から流行している
ありふれた手法である。カーディガンに透かしレースを組み合せる手法
は海外において先行し,それを被告がリードする形で国内に定着させた
装飾方法に過ぎず,被告の先駆けとなった商品を有名モデルが着飾った
写真が各種ファッション雑誌に取り上げられたことにより,透かしレー
スを施すことは極めてありふれた装飾方法となっている(乙45の1な
いし4,乙46の1ないし3,乙47の1ないし3。)
したがって,原告商品4の形態はありふれた形態である。
ウ被告商品Dが原告商品4に依拠して作成されたといえるかについて
a)被告商品Dは,原告商品4の販売が開始される前にデザインされたも
のであって,原告商品4に依拠していない。すなわち,カーディガンに
透かしレースを組み合せる手法は数年前に海外から始まったもので,平
成17年2月には米国の「BETSEYJOHNSON」で透かしレ
ースのカーディガンが販売されており(乙45の1ないし4,日本に)
おいては,被告が平成17年5月27日に定番商品である半袖やノース
リーブの被服に透かしレースを採用した(乙46の1ないし3,乙47
の1ないし3。被告は,これらがヒットしたことから,ニットに透か)
しレースをあしらった商品を作ろうと考え,被告商品Dを含む透かしレ
ース商品3点(乙48ないし50)を作成したものであり,被告商品D
は乙48の色違いに当たる。上記3点のうち,カーディガン(乙48,
被告商品D)をデザインする際には,上記「BETSEYJOHNS
ON」のカーディガンを参考に,以前作成した半袖のカットソー(乙4
6の1)で袖口のレースが好評であったことから,袖口の上にもレース
を透かせることとした。そして,被告は,平成17年7月に三澤に対し
て口頭でデザインを指示し,三澤は,平成17年7月27日までに被告
商品Dのデザイン指示書(乙44)を作成し,その下請業者に対して交
付している。同デザイン指示書の作成に着手したのは同月27日以前で
,。あり原告が原告商品4の販売を開始した同年9月16日より前である
b)原告商品4が展示会に出品されていたとしても模倣の機会のないこと
は,前記(1)ウb)と同様である。
c)被告に原告商品を模倣しなければならないような事情はないことは前
記(1)ウc)に述べたとおりである。
2争点2(損害の発生及びその額)について
〔原告の主張〕
(1)損害についての一次的主張
被告は,以下の数量の商品を卸売販売した。被告の利益率は,少なくとも
直営販売で60%,卸売販売で30%はあると考えられるため,上記行為に
より得た被告の利益は,1776万6000円を下らない。また,被告は故
意過失を有していたことは明らかである。よって,原告の損害額は,177
6万6000円と推定される(不正競争防止法4条,5条2項。)
ア被告商品A(直営)売上単価1万3000円×300枚
(卸売)売上単価7800円×400枚
イ被告商品B(直営)売上単価7500円×800枚
(卸売)売上単価4500円×600枚
ウ被告商品C(直営)売上単価1万2000円×300枚
(卸売)売上単価7200円×1200枚
エ被告商品D(直営)売上単価1万2000円×500枚
(卸売)売上単価7200円×800枚
(2)損害についての二次的主張
被告の後記(1)の主張を援用する。
(3)被告の主張に対する反論
ア損害の不発生について
原告商品が完売したから,損害が発生しなかったとは到底いえない。原
告には,原告商品の販売につき,一定数量以上の製造・販売が物理的(能
力的)に不可能であったとか,何らかの契約上の制限があって製造・販売
が不可能であった等の事情は全くない。
イ因果関係の不存在について
被告の主張するように商品形態に顧客吸引力が存在しないとすると,被
告がわざわざ原告商品の形態を模倣した理由がない。被告の主張は,ファ
ッション業界における形態模倣行為の成立を一切否定するかのごとき主張
である。
先行商品として原告の商品の人気があり売れていたからこそ,被告はそ
の努力の上にただ乗りして形態を模倣したのである。被告が模倣したとい
う事実自体が,被告の侵害行為と原告の損害との因果関係の存在を明白に
物語る。
〔被告の主張〕
原告の主張を否認し争う。
(1)利益額
被告が,以下の各被告商品の販売開始時から現在に至るまでの間,各被告
商品の販売により得た利益の額は,以下のとおりである。
ア被告商品A(平成18年1月12日販売開始)について,77万769
0円
イ被告商品B(平成18年1月25日販売開始)について,38万448
2円
ウ被告商品C(平成17年12月22日販売開始)について,232万0
672円
エ被告商品D(平成17年10月1日販売開始)について,167万64
75円
(2)損害の不発生
,,。原告は当初の予定どおり原告商品を完売しており売れ残り在庫がない
,(),また原告の販売ルートや店舗数はそれほど大きくなく当時直営店は1店
原告は,展示会を開催して,その終了後3日以内に取引先から発注を受け,
その集計により各商品の発注数量を決定した上で(これは,被告商品販売開
始以前である,メーカーに対し量産を指示して数ヶ月後に納品するという)
受注生産方式をとり,注文から生産,納品まで少なくとも1,2ヶ月を要し
ている上,女性ファッション業界における商品サイクルは約3か月と短いこ
,,とに照らせば原告商品の増産は予定されていなかったことは明らかであり
原告は,増産の上,シーズン中に販売することは不可能であった。これは原
告自身において,品質表示の付された原告各商品を1枚も保有していないこ
とによって裏付けられている。したがって,原告に販売減少による損害が発
生しているわけではない。
そもそも,原告商品2は,実際に販売されたものかどうか疑問が残る。
(3)因果関係の不存在
ア(1)において述べたような事情に照らせば,被告が被告各商品を販売し
なかったとしても,原告がその分販売数量を増大できる関係になく,因果
関係はない。
イまた,レディースアパレルの市場規模は,年間2兆0093億7400
万円に及び(乙66,アパレル業界においては,業界全体において,流)
行色や一定のトレンドとなる装飾方法を創出し,その流行に沿って,無数
のメーカーが類似の商品を展開する慣行があり,アパレル業界で,原被告
の商品の占める割合は微々たるもので,類似の代替品,競合商品が無数ひ
しめきあっている。そのため,たとえ商品形態が酷似していても,被告が
販売しなかったからといって,原告の販売数量がその分増大する補完関係
にあるわけではない。アパレル業界,特に若い女性向けカジュアルウエア
業界では,需要者は,決まったブランド,決まった店舗,地域の販売店を
訪れて,たまたま気に入って寸法も合う商品を購入するのであり,原被告
の商品に代替性はなく,その点,電化製品などと異なる。
ウさらに,女性ファッション業界では商品サイクルが短く,流行を意識し
て商品開発を行うため,商品形態は自ずと似通ったものとなり,商品の売
行きは商品形態よりもブランドイメージによって左右されるものである。
本件の場合,当時流行のスタイルは被服にレースをあしらうことで,レー
スをあしらった商品形態自体で顧客吸引力が生じるわけでなく,被告が,
被告の商品の繊細な差別化と「可愛らしくエレガント」なブランドイメー
ジの確立,海外の流行をいち早く取り入れ,東京ガールズコレクションへ
の参加,ファッション雑誌への掲載協力(被告商品は,人気モデルの愛用
ブランドとして脚光を浴びている)など営業戦略にも工夫を凝らし,ブ。
ランドイメージの向上に努め,一般消費者が被告ブランドを目当てに来店
してその場で商品の購入を選択できるようにファッションビルや専門店へ
の卸売りだけでなく,複数の有名百貨店に直営店を出店した上,見込み生
産により品揃えを確保するなどした結果,商品の形態よりもブランド名に
着目して商品の購入を決定する(被告ブランドを目当てに直接被告の直営
,)。店等に赴いて気に入ったもので寸法がある場合に購入する状況にある
よって,被告商品を販売しなかったとしても,デザインが類似しているか
らといって,それだけで他ブランドの商品を代わりに選択するものではな
い。特に,被告商品Dについては,被告が国内において先行して取り入れ
た透かしレースを使用した先行する関連商品が,著名なファッション雑誌
にブランド名入りで取り上げられ,その関連商品として販売したから売れ
たのである。
原告は,原告商品にただ乗りしたと主張し,特に原告商品の発売開始前
に被告が開発に着手したものについても,展示会開催を理由に模倣ありと
主張するが,展示会開催の3日後にオーダーされた数量,いかなる商品に
人気があったかについて,被告など第三者は知り得る立場にない。また,
不正競争防止法は,商品のアイデアの創作的価値を問わずに模倣行為を禁
止している以上,模倣とは単なる類似ではなく,酷似である必要があると
ともに,先行開発者の開発努力が保護に値する程度のものである必要があ
るところ,原告のレースは市販品であり,その装飾位置も,レースの使用
目的に従い,予定された使用部位に装飾されたものにすぎず,ノースリー
ブの首周りにレースを装飾することは,被告商品Bの先行商品において,
被告の方が先行している上,原告商品2と被告商品Bとでは,寸法,シル
エット,商品コンセプトに差がありむしろ被告においても別途に費用を投
下し開発努力をしているのであるから,原告がとりわけ商品開発に努力し
ていたとはいえず,被告が先行開発者である原告の努力にただ乗りしたと
はいえない。以上は,原告商品3,4と被告商品C,Dについても妥当す
る。
,,したがって被告商品が被告ブランド名にて販売されなかったとしても
その譲渡数量だけ,当然に原告のブランド名の付された原告各商品の販売
数量が増加したといえる関係にはない。
とりわけ,原告には,原告商品について売れ残り在庫が全く存在してい
なかったのであるから,被告各商品の販売と原告各商品の販売減少による
損害との間には,因果関係のないことが明らかである。
3争点3(謝罪広告の要否)について
〔原告の主張〕
被告の模倣行為による原告の損害は,金銭的賠償によって償われるものでは
ない。被告は,原告が創作したデザインであるにもかかわらず,あたかも被告
がデザインしたかのように広告を行い,消費者に当該商品を販売したもので,
被告商品を購入した消費者から原告に問合せがあったり,業界関係者でも被告
商品を原告商品と誤った者がいるなど,消費者や流通関係者間では混同も生じ
ている。オリジナリティを尊ぶ服飾業界にあって,被告の模倣行為は,原告が
築いてきたブランドイメージを著しく毀損するものであり,少なくとも,この
事実を広く関係者に周知すること,既に出回った商品が回収されるべきこと及
び責任が被告にあることを明確にして,原告の信用を少しでも回復する必要が
ある。
,,「」,したがって被告において株式会社繊研新聞社が発行する繊研新聞に
別紙謝罪広告目録記載の文面と同記載の掲載条件による謝罪広告を掲載するこ
とが相当である。
〔被告の主張〕
原告の主張を否認し争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告商品の製造・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不正競
争行為に該当するか)について
(1)被告商品Aについて
ア原告商品1が実際に製造販売されたかについて
a)証拠(甲18,甲19の2,甲20の1ないし4,甲21の1,甲2
8,甲29の1ないし5,甲31の1及び2,甲33)及び弁論の全趣
旨によれば,以下の事実が認められる。
①原告の商品は,年4回開催される展示会に向けてデザインされ,商
品化される。まず,展示会のコンセプトを決め,それに沿って原告の
デザイナーがデザインし,そのラフ画に基づき,生地,寸法,縫製な
どの指示書を作成する。この指示書を基に,下請けのメーカーと打合
せをし,更に細かい仕様などを確定しながらサンプルを作成する。最
初に作成したサンプル(1stサンプル)が原告に納入されると,採
寸し,指示書と実際の寸法との誤差,メーカーの検査表との誤差など
を確認し,さらに試着を行って,見た目,着心地,シルエットなどを
チェックして,2度目のサンプル(2ndサンプル)の寸法指示を行
う。そして,2ndサンプルが納入されると,1stサンプル納入時
と同様にチェックを行い,基本的に2ndサンプルを展示会に出品す
(。)。る場合によっては3度目の3rdサンプルを製作することもある
上記の採寸の結果は,それぞれの指示書に記録する。
,,,そして原告は卸先の各業者や顧客等を招待して展示会を開催し
展示会の直後に,各業者から,展示会で配布しているオーダーシート
を用いてFAXにより注文を受けその受注数を集計して発注数量製,(
造数量)を決定する。発注の際には,2ndサンプルの採寸結果等に
基づき,最終修正を行う。そして,製造された各原告商品を,原告の
直営店や原告に発注した各業者へ納品する。
②原告商品1については,原告デザイナーによって,平成17年7,
8月ころ,ラフ画(甲29の1,次いで指示書(甲29の2)が作)
成され,上記指示書と共に使用するレースの指示(協和レース製の2
4014番。甲29の3)がメーカーに示された。そして,メーカー
は,下請けに対し,指示書(甲29の4)を示した。その後,原告商
品1の2ndサンプル(型番0205410063)が,平成17年
8月23日から25日までの間開催された展示会に出品された。原告
は,その直後に各業者からの発注を受けて,メーカーに発注し,同年
11月1日,メーカーから納入された原告商品1の販売を開始し,こ
れを完売した。
b)原告は,原告商品1を既に完売したため,展示会等において使用され
たサンプル(甲1,検甲1,及び顧客の所持品の写真(甲11)を各)
原告商品の形態を示すものとして提出している。
これに対し,被告は,①サンプルといえども品質表示を付すのが通常
であるのに,甲1及び検甲1には,品質表示が付されていない,②甲1
1は,顧客が購入した商品にしては新しい,③展示会の際に配布したも
のとして提出する甲19の2は事後的に本件訴訟のために作成した可能
性があるし,仮にそうでないとしても甲19の2に記載されているデザ
インは原告商品1と同一ではないから甲19の2は原告商品1の存在を
示すものではない,④メーカーに対する指示書である甲29の1ないし
5はレースのデザインが異なり,また,レースと下地の間隔が上記サン
プルと異なる,⑤原告の各種商品を示す乙56にも原告商品1は掲載さ
れておらず,その存在が確認されていない,⑥サンプルと市場に販売す
るものとは異なるから,原告の提出したサンプルは,原告商品1の形態
を示すものではない,などと述べ,原告商品1は,実際に販売されたも
のではなく,原告提出の上記各証拠は,原告商品1の形態を示すもので
はないと主張している。
しかし,原告商品1が,a)②に認定したとおり,原告がメーカーに製
作を指示し,展示会へ出品し,業者から発注を受けて製造し,業者に納
品して販売されたものであることは,製作指示時,展示会出品時,業者
からの発注時,メーカーからの納品時の型番が一致すること(甲19の
2,甲20の1ないし4,甲21の1,甲29の4,原告から納品を)
受けた業者が製品を確認していること(甲31の1及び2)などから,
優に認められる。被告の主張するようにサンプルにも品質表示を付すの
が通常であると認めるに足る証拠はなく,甲19の2や原告が顧客の所
持品(の写真)として提出したもの(甲11)が本件訴訟のため事後的
に作成したものであることを窺わせる事情は見あたらない。また,甲2
9の1,2及び4に記載されたデザイン画は,原告商品1全体のデザイ
ンを示し,使用するレースの柄は簡略化されており,メーカーに対する
レースに関する指示は甲29の3によって別途なされていることからす
れば,甲29の1,2及び4に記載されたレースの柄が原告商品1に使
,。用されたレースの柄と異なっていることも何ら不自然なことではない
さらに,乙56は,平成18年8月6日当時にインターネットを通じて
販売されている原告ブランド「Blondy」の商品を示すものと認められる
から,これに平成17年冬物の商品である原告商品1が掲載されていな
かったとしても,原告商品1が平成17年当時に販売されていなかった
ということはできない。したがって,被告の主張①ないし⑤はいずれも
前記認定を覆すものではない。
また,原告の提出したサンプルが原告商品1の形態を示すものか(被
告の主張⑥)については,原告商品1の1stサンプル作成時から量産
するに至るまでの指示を記載した甲29の2及び4をみると,襟なし長
袖カーディガンでボタン5個を使用し,身頃の裾にレースを付すという
形状には変わりはないこと,各部分の寸法が変更されているものの,展
示会に出品された2ndサンプルと量産時とを比較すると,身丈が3.
5センチメートル長くなり,袖口幅が4.5センチメートル広くなって
,,.いる以外は各部の寸法の変更がないか変更されていても1ないし1
5センチメートルであることが認められる。そうすると,原告が提出し
たサンプルと原告商品1の形態はほぼ同一であり,原告提出の甲1,検
甲1は,原告商品1の形態を立証するものと認めるのが相当である。
以上のとおり,原告商品1の製造販売を否定する被告の主張はいずれ
も採用することができない。
イ原告商品1と被告商品Aの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品1と被告商品Aの形態と,その同一ないし共通点及び相違点
は,第2の1(4)アに認定したとおりである。
上記認定によれば,原告商品1の形態において特徴的な点は,丸首,
襟なし,前あきボタン留めの長袖カーディガンで,前身頃と後身頃の下
,,端部約16ないし17センチメートルを覆い胴回りを一周するように
幅約16ないし17センチメートルの幅広のレースAが付されている点
にあり,被告商品Aも同様の特徴を有するものであると認められる。そ
して,長袖カーディガンの胴回り下部に幅広のレースBを付するとの上
記特徴は,後記b)及びウb)に説示するとおり,これまでの他の商品にみ
られるありふれたものではなく,創作的なデザインであるということが
できる。
もっとも,両商品には,①原告商品1のほうがややゆったりしている
こと,②レースの突出幅が異なること,③使用されている糸の染めが異
なること,④袖口のリブ編みの有無,⑤ボタンのカットの有無などの相
違点もある。しかし,原告商品1の上記特徴が他の商品にみられるあり
,,,,ふれたものではない創作的なものであることからすれば上記①③
,,④及び⑤はいずれも上記の原告商品1の特徴的な点とは関わりがなく
需要者に異なる印象を与えるものということはできない。また,②の突
出幅の違いは,上記特徴に関するものであるものの,レースが裾から下
へ突出している部分が,約3センチメートルであるか,約1.5センチ
メートルであるかの僅かの差異にすぎず,両製品の形態の同一性の判断
に影響を与えるものではない。
以上によると,原告商品1と被告商品Aの形態は,実質的に同一とい
うことができる。
b)被告は,定番の商品形態であるカーディガンの裾の部分に一周する形
でレースを装飾するのはありふれたものであると主張する。
しかし,被告がその主張の根拠として提出する乙22ないし24に掲
載されたカーディガンは,いずれもその販売時期が不明であるから,原
告商品1の販売開始時期に,カーディガンの胴回り下部の部分を一周す
るように幅広のレースを装飾した商品が販売されていたことを認めるに
足りる証拠はない。
ウ被告商品Aが原告商品1に依拠して作成されたといえるかについて
(,,,,a)証拠甲24ないし27甲38の1ないし9乙21乙58の1
,),。乙74乙75及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる
①原告商品1は,平成17年8月23日から25日までの間開催され
た展示会に出品され,同年11月1日から販売された(前記アa)。)
②原告の展示会は,顧客である卸売業者や個人顧客を招待して行うも
,,,のではあるが招待状がない者でも入場できないわけではなくまた
展示会に来場した者が,気に入った商品の写真を撮影して,インター
ネットを通じて配信したりすることもある。
③被告商品Aは,被告のデザイナーによって平成17年10月ころか
らデザインが開始され,平成17年11月17日に被告のデザイナー
から下請けメーカーに対するデザイン指示書が作成され,平成18年
1月12日から販売された。
前記イに認定したとおり,原告商品1と被告商品Aの形態がその特徴
的なデザインが共通しており,実質的に同一であること,及び,上記の
とおり,原告商品1の展示会への出品の約3か月後で,原告商品1の販
売開始の約2週間後に,被告商品Aのデザインが作成されており,被告
が原告商品1に接する機会があったこと(原告の展示会には招待客でな
くとも来場可能であり,自ら来場しなくてもインターネット等を通じて
展示会に出品された商品について知り得ることは上記②のとおりであ
る)を併せ考えれば,被告は,原告商品1に依拠して被告商品Aをデ。
ザインし,これを製造販売したものと認めるのが相当である。
b)被告は,被告商品Aのデザインは海外の商品を参考にデザインしたも
のであって,原告商品1に依拠したものではないし,原告商品1を模倣
する機会もなかった旨主張する。
しかし,被告商品Aの参考としたという海外の商品(乙64の1及び
2,乙65の1及び2)は,上着の裾を一周するようにレースを付して
いる点は,被告商品Aと共通するものの,レースが付されている上着は
カーディガンではなく,その基本形状が異なるものであり,また,袖口
にもレースを付しているなど,被告商品Aとは商品全体の印象が大きく
異なる商品である。また,被告が被告商品Aのデザインに着手する約1
か月以上前に原告商品1が出品された展示会が開催されており,招待状
がない者でも入場し得るものであり,また,業界関係者は来場者を通じ
て出品された商品に関する情報を入手し得るものであったことは,前記
認定のとおりである。
以上の事情に鑑みれば,被告は,原告商品1の形態を模倣する機会が
あり,上記海外商品ではなく,原告商品1に依拠してこれと実質的に同
一である被告商品Aをデザインしたと認めるのが相当であって,上記被
告の主張は採用することができない。被告のその余の主張も,上記認定
を覆すものではない。
エ以上によれば,被告商品Aは,原告商品1の形態を模倣したものと認め
られ,被告商品Aの製造・輸入・販売等は,不正競争防止法2条1項3号
の不正競争行為に該当するものと認められる。
(2)被告商品Bについて
ア原告商品2が実際に製造販売されたかについて
a)証拠(甲18,甲19の1,甲20の1ないし4,甲21の2,甲3
0の1ないし7,甲32の1ないし3,甲33の11)及び弁論の全趣
旨によれば,(1)アa)①のほか,以下の事実が認められる。
原告商品2については,原告デザイナーによって,平成17年6月こ
ろ,ラフ画(甲30の1,次いで指示書(甲30の2)が作成され,)
上記指示書がメーカーに示された。そして,メーカーは,工場に対し,
同年7月8日,生産仕様書(甲30の6)を示し,遅くとも同年7月2
5日ころ1stサンプルが,同年8月10日ころ2ndサンプルが,そ
れぞれ作成された。その後,原告は,原告商品2の2ndサンプル(型
番0205410050)ないし3rdサンプルを,平成17年8月2
3日から25日までの間に開催された展示会に出品し,その直後に各業
者からの発注を受けて,メーカーにこれを発注し,同年10月7日にメ
ーカーからの納品を受けて,同年10月13日から,原告商品2の販売
を開始した。
b)原告は,原告商品2を既に完売したため,展示会等において使用され
たサンプル(甲2,検甲2)を原告商品2の形態を示すものとして提出し
ている。
これに対し,被告は,①サンプルといえども品質表示を付すのが通常
であるのに,甲2及び検甲2には品質表示が付されていない,リバーシブ
ルないし2WAYという原告の主張も品質表示を付していないことの理
由にはならない,②展示会の際に配布したものとして提出する甲19の
1は本件訴訟のために新たに作成した可能性がある,③メーカーに対す
る指示書である甲30の1,2及び6はレースのデザインが異なり,信
用できない,④原告の各種商品を示す乙56にも原告商品2は掲載され
ておらず,その存在が確認されていない,⑤サンプルと市場に販売する
ものとは異なるから,原告の提出したサンプルは,原告商品2の形態を
示すものではない,などと述べ,原告商品2は,実際に販売されたもの
ではなく,原告提出の上記各証拠は,原告商品2の形態を示すものでは
ないと主張している。
しかし,原告商品2についても,原告商品1と同様にa)に認定のとお
り販売されたものであることは,製作指示時から納品・販売時に至るま
での型番が一致すること(甲19の1,甲20の1ないし3,甲21の
2,甲30の5ないし7,原告から納品を受けた業者により製品の確)
認がされていること(甲32の1ないし3)から,優に認められる。被
告の主張①,②及び④がいずれも前記認定を覆すものではないことは原
告商品1について述べたところと同様である。また,上記指示書等(甲
30の1,2及び6)に記載されたデザイン画は,原告商品2全体のデ
ザインを示し,使用するレースの柄は簡略化されていると認められ,そ
れらに記載されたレースの柄が原告商品2に使用されたレースの柄と異
なっていることは何ら不自然なことではなく,被告の主張③も上記認定
を覆すものではない。さらに,被告の主張⑤については,原告商品2の
1stサンプル作成時から量産するに至るまでの指示を記載した甲30
の2ないし6をみると,袖無しの襟刳りがV字状に開いたシャツで,そ
の襟刳り部分にレースを付すという形状には変わりはないこと,各部分
の寸法が変更されているものの,展示会に出品された2ndサンプルと
量産時のものとを比較すると,身丈が6.5センチメートル長くなって
いる以外は,各部の寸法の変更は1センチメートル以下であることが認
められる。そうすると,原告が提出したサンプルと原告商品2の形態は
ほぼ同一であり,原告提出の甲2,検甲2は,原告商品2の形態を立証
するものと認めるのが相当である。
イ原告商品2と被告商品Bの形態が同一ないし実質的に同一といえるか,
及び,被告商品Bが原告商品2に依拠して作成されたといえるかについて
a)原告商品2と被告商品Bの形態と,その同一ないし共通点及び相違点
は,第2の1(4)イに認定したとおりである。
,,,上記認定によれば原告商品2の形態において特徴的な点は袖なし
襟なしの白色のシャツで,V字状に開いた襟刳り部分にレースBを付し
,。た点にあり被告商品Bも同様の特徴を有するものであると認められる
もっとも,両商品には,①原告商品2のほうが全体に長くゆったりし
ていること,②原告商品2は寸胴型であるのに被告商品Bはウエスト部
分が細くなっていることなどの相違点もある。これらの相違点は,全体
的なシルエットの違いに影響するものではある。しかし,仮に,白色の
ノースリーブの襟刳りにレースを付するとの上記特徴部分がありふれた
ものではなく,創作的なデザインであるとすれば,その特徴的な点が共
通することによって,若干のシルエットの違いは,その同一性の判断に
実質的な影響を与えるものではないということができ,また,逆に,上
記特徴部分がありふれたものであるとすれば,上記相違点が同一性の判
断に実質的な影響を与えることになる。そこで,次に,上記特徴部分が
ありふれたものであるか,創作的なデザインであるかを検討する。
b)証拠(乙25の1ないし3,乙59の1ないし5,検乙7)及び弁論
の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
①被告は,平成16年4月9日ころ,ノースリーブのタンクトップの
販売を開始した(以下「被告先行商品」という。被告先行商品は,。)
白色で,その襟刳りは,前面がU字型,背面がV字型で,前面の襟刳
りの下にラインストーンでアルファベットのロゴを入れ,背面の襟刳
りに沿って白色レースを付すものであった。ただし,白色レースは,
原告商品2及び被告商品Bに使用されたレースBとは異なるものであ
った。
②原告商品2は,平成17年8月23日から25日までの間に開催さ
,()。れた展示会に出品され同年10月13日から販売された前記アa)
③被告商品Bは,平成18年1月25日から販売された。
c)被告が原告商品2の展示会出品の1年以上前に,白色のノースリーブ
のタンクトップのV字型の襟刳りに白色のレースを付すという原告商品
2及び被告商品Bと同様の特徴を有する被告先行商品を製造,販売して
いたことからすれば,原告商品2における前記特徴(ノースリーブのシ
ャツの襟刳りにレースを付するとの特徴)が原告商品2について独創的
なものであったとまでいうことはできない。しかし,本件全証拠によっ
ても,原告商品2における上記特徴が女性用被服においてありふれたも
のであることまで認めるに足りる証拠もない。したがって,原告商品2
と被告商品Bの形態の同一性については,上記相違点も考慮して判断す
べきであるとしても,白色のノースリーブのシャツの襟刳りにレースを
施したとの特徴部分の共通性からすれば,両者の実質的同一性は肯定し
得るところである。
d)被告が原告商品2に依拠して被告商品Bを製造したか否かについて
は,確かに,上記の原告商品2の展示会出品日,販売開始日及び被告商
品Bの販売開始日をみると,被告は,被告商品Bの製造前に原告商品2
の形態について知る機会はあったものということはできる。しかし,被
告が原告商品2の展示会出品の1年以上前に,白色のノースリーブのタ
ンクトップのV字型の襟刳りに白色のレースを付すという原告商品2及
び被告商品Bと同様の特徴を有する被告先行商品を製造,販売していた
ことからすれば,被告が原告商品2に依拠して,被告商品Bを製造販売
したものであると認定するのは相当ではない。すなわち,被告商品Bと
被告先行商品とは,前面の襟刳りの下部にロゴがあるかどうか,レース
を付すのが襟刳りの背面か前面か,レースの模様が異なるとの3点にお
いて相違するものの,被告先行商品をもとにロゴを付さない商品をデザ
インしたり,襟なしのノースリーブの前面と背面を逆にするというのは
単なるデザインの変更であり困難なこととは思われないこと,レースB
も被告先行商品に用いられたレースも市販品であり,被告商品Bの製造
時には被告先行商品に用いられたレースは入手できなくなっていたこと
(乙68)に鑑みれば,被告は,自社製品である被告先行商品に依拠し
て,レースを使用した被告商品Bをデザインしたと考える方が自然であ
り,単に,白色のノースリーブのタンクトップのV字型の襟刳りにレー
スを付するとの共通点のみから,同様の先行商品を有する被告が,原告
商品2に依拠して,被告商品Bを製造販売したと認定することは相当で
はない。商品の形態の実質的同一性が肯定される場合,その商品の形態
が独創的であれば,依拠性も肯定されることが多いとはいえるものの,
本件のように,被告が同じ形態的特徴を備えた被告先行商品を製造販売
している場合は,依拠性を推認するのは相当ではない。
ウ以上の被告先行商品の存在からすれば,被告が,原告商品2の形態を模
倣して,被告商品2を製造販売したものと認めることはできず,被告によ
る被告商品Bの製造・輸入・販売等は,不正競争防止法2条1項3号の不
正競争行為に該当するということはできない。
(3)被告商品Cについて
ア原告商品3が実際に製造販売されたかについて
a)証拠(甲15,甲16の1,甲17の1ないし4,甲21の3,甲3
3の6及び7,甲34の1ないし3及び5,甲36の1ないし4)及び
弁論の全趣旨によれば,(1)アa)①のほか,以下の事実が認められる。
原告商品3については,原告デザイナーによって,平成17年4月こ
ろ,ラフ画(甲34の1,次いで指示書(甲34の2)が作成され,)
。,,,上記指示書がメーカーに示されたそしてメーカーは下請けに対し
同年5月ころ,縫製仕様書(甲34の3)を,同年7月8日,加工仕様
書をそれぞれ示した。その後,原告商品3の2ndサンプル(型番02
05310036)が,平成17年5月24日から26日までの間開催
された展示会に出品され,その直後に各業者からの発注を受けて,メー
カーに発注し,同年8月21日,下請けが製造した原告商品3がメーカ
ーから原告に納入されて,同年8月26日,販売を開始した。
b)原告は,原告商品3は既に完売したため,展示会等において使用され
たサンプル(甲3,検甲3)を原告商品3の形態を示すものとして提出
している。
これに対し,被告は,①サンプルといえども品質表示を付すのが通常
であるのに,甲3及び検甲3には品質表示が付されていない,②甲13
は,顧客が購入した商品にしては新しい,③展示会の際に配布したもの
として提出する甲16の1は本件訴訟のために新たに作成した可能性が
ある,④原告の各種商品を示す乙56にも原告商品3は掲載されておら
ず,その存在が確認されていない,⑤サンプルと市場に販売するものと
は異なるから,原告の提出したサンプルは,原告商品3の形態を示すも
のではない,などと述べ,原告商品3は,実際に販売されたものではな
く,原告提出の上記各証拠は,原告商品3の形態を示すものではないと
主張している。
しかし,原告商品3についても,原告商品1及び2と同様にa)に認定
のとおり販売されたものであることは,製作指示時から納品・販売時に
至るまでの型番が一致すること(甲16の1,甲17の1ないし4,甲
21の3,甲34の4及び5,原告から納品を受けた業者により製品)
(),。の確認がされていること甲36の1ないし4から優に認められる
被告の主張①ないし④がいずれも前記認定を覆すものではないことは原
告商品1又は2について述べたところと同様である。また,被告の主張
⑤については,原告商品3の1stサンプル作成時から量産するに至る
までの指示を記載した甲34の2ないし4をみると,長袖,前あきファ
スナー止めのフード付きパーカーで裾と袖口に別布(レース)を付すと
いう形状には変わりはないこと,各部分の寸法は,展示会に出品された
2ndサンプルと量産時とを比較すると,身巾,袖丈,裾口巾以外変更
されておらず,上記3か所についても変更は1センチメートル以下であ
ることが認められる。そうすると,原告が提出したサンプルと原告商品
3の形態はほぼ同一であり,原告提出の甲3,検甲3は,原告商品3の
形態を立証するものと認めるのが相当である。
イ原告商品3と被告商品Cの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
a)原告商品3と被告商品Cの形態と,その同一ないし共通点及び相違点
は,第2の1(4)ウに認定したとおりである。
上記認定によれば,原告商品3の形態において特徴的な点は,長袖,
前あき金属ファスナー止めのフード付きパーカーで,裾及び袖口の内側
から突出するようにレース編み布地が付されていること,左胸部に黒色
のワンポイント飾りがあること,生地は灰色,フードを止めるリボン,
レース及びワンポイント飾りは黒であることにあり,被告商品Cも同様
の特徴を有するものであると認められる。そして,長袖,前あき金属フ
ァスナー止めのフード付きパーカーで,裾及び袖口の内側から突出する
ようにレース編み布地が付されていること,左胸部に黒色のワンポイン
ト飾りがあること等の上記特徴は,後記b)に説示するとおり,これまで
の他の商品にみられるありふれたものではなく,創作的なデザインであ
る。
,,,もっとも両商品には①原告商品3のほうが身幅が広めで丈が短い
.,②裾レースの突出幅が被告商品Cのほうが約18センチメートル長い
③被告商品Cのレース及びワンポイント飾りは取り外しができる,④フ
ァスナーの色と装飾の有無などの相違点もある。しかし,③は,機能を
。,付加したものであって商品の形態においての相違点とは言い難いまた
原告商品3の上記特徴が他の製品にはみられない,創作的なものである
ことからすれば,①及び②は,全体的なシルエットの違いに影響するも
のの,上記の特徴的な点が共通することに鑑みれば,若干のシルエット
の違いは同一性の判断に影響を与えるものではない。さらに,上記④の
違いも,生地の灰色とレース等の黒色のコントラストが需要者に与える
印象の強さと比較すれば,需要者に与える印象にさして影響を与えない
些細な相違にすぎない。
以上によると,原告商品3と被告商品Cの形態は,実質的に同一とい
うことができる。
b)これに対し,被告は,灰色のフードパーカーの裾等にレースを施す商
品形態は,ありふれた形態であるなどと主張する。
しかし,被告の主張の根拠として提出された乙38ないし43,検乙
1ないし5は,その販売時期が不明であるから,被告の主張の裏付けと
なるものではなく,原告商品3の販売開始時期に,灰色のフードパーカ
ーの裾等にレースを施した商品が販売されていたことを認めるに足りる
証拠はない。
ウ被告商品Cが原告商品3に依拠して作成されたといえるかについて
a)イに認定したとおり,原告商品3と被告商品Cが,その特徴的なデザ
インが共通しており,実質的に同一であること,及び,原告商品3は,
平成17年5月24日から26日までの間に開催された展示会に出品さ
れ,同年8月26日から販売され(第2の1(5),被告商品Cは,そ)
の約4か月後の平成17年12月22日から販売されたものであり,被
告が原告商品3に接する機会があったこと(原告の展示会には招待客で
なくとも来場可能であり,自ら来場しなくてもインターネット等を通じ
て展示会に出品された商品について知り得ることは(1)ウa)②のとおり
である)を併せ考えれば,被告は,原告商品3に依拠して被告商品C。
をデザインし,これを製造販売したと認めるのが相当である。
b)これに対し被告は被告商品Cのデザイン及びワンポイント飾りワ,,(
ッペン)のサンプル依頼は平成17年9月に開始しており,被告商品C
は,被告平成17年当時裾レースを付けることが流行していたのでパー
カーの裾にレースをあしらうことにし,ワッペンは,Tシャツにワッペ
ンを付けた海外ブランド商品を参考にしたもので,原告商品3に依拠し
たものではない旨主張する。しかし,被告が被告商品Cのデザインに着
手した時期を示す指示書等の証拠は提出されていない上,仮に被告の主
張するとおり平成17年9月に着手していたとしても,上記の原告商品
Cの展示会への出品及び販売開始時期に鑑みれば,被告には模倣の機会
,。があったといわざるを得ず被告の主張は上記認定を覆すものではない
エ以上によれば,被告商品Cは,原告商品3の形態を模倣したものと認め
られ,被告商品Cの製造・輸入・販売等は,不正競争防止法2条1項3号
の不正競争行為に該当するものと認められる。
(4)被告商品Dについて
ア原告商品4が実際に製造販売されたかについて
a)証拠(甲15,甲16の2,甲17の1ないし4,甲21の4,甲3
3の8,甲35の1ないし6,甲37の1ないし3)及び弁論の全趣旨
によれば,(1)アa)①のほか,以下の事実が認められる。
原告商品4については,原告デザイナーによって,平成17年4月こ
,(),,(),ろラフ画甲35の1次いで指示書甲35の2が作成され
,(,上記指示書原告商品4に使用するレースやボタンの見本甲35の3
4)がメーカーに示された。そして,メーカーは,下請けに対し,同年
4月7日ころ,デザイン指示書(甲35の5)を示した。その後,原告
商品4の2ndサンプル(型番0205310199)が,平成17年
5月24日から26日までの間開催された展示会に出品され,その直後
に各業者からの発注を受けて,メーカーに発注し,同年9月14日,下
請けが製造した原告商品4がメーカーから原告に納入されて,同年9月
16日,販売を開始した。
b)原告は,原告商品4は既に完売したため,展示会等において使用され
たサンプル(甲4,検甲4)を原告商品4の形態を示すものとして提出
している。
これに対し,被告は,①サンプルといえども品質表示を付すのが通常
であるのに,甲4及び検甲4には品質表示が付されていない,②展示会
の際に配布したものとして提出する甲16の2は本件訴訟のために新た
に作成した可能性がある,③原告の各種商品を示す乙56にも原告商品
4は掲載されておらず,その存在が確認されていない,④サンプルと市
場に販売するものとは異なるから,原告の提出したサンプルは,原告商
品4の形態を示すものではない,などと述べ,原告商品4は,実際に販
売されたものではなく,原告提出の上記各証拠は,原告商品4の形態を
示すものではないと主張している。
しかし,原告商品4についても,原告商品1ないし3と同様にa)に認
定のとおり販売されたものであることは,製作指示時から納品・販売時
に至るまでの型番が一致すること(甲16の2,甲17の1ないし4,
甲21の4,甲35の5及び6,原告から納品を受けた業者による製)
品の確認がされていること(甲37の1ないし3)から,優に認められ
る。被告の主張①ないし③がいずれも前記認定を覆すものではないこと
は原告商品1ないし3について述べたところと同様である。また,被告
の主張④については,原告商品4のラフ画(甲35の1)並びに1st
サンプル作成時から量産するに至るまでの指示を記載した甲35の2及
び5をみると,襟なし,前あきボタン留めの長袖カーディガンであり,
前身頃と後身頃の下の部分,後身頃の上部,両袖の前腕部に,切欠き部
,,分が存在しその部分にレースを付すという形状には変わりはないこと
各部分の寸法は,展示会に出品された2ndサンプルと量産時とを比較
すると,身巾,袖巾,裾口巾以外変更されておらず,上記3か所につい
ても変更は2.5センチメートル以下であることが認められる。そうす
ると,原告が提出したサンプルと原告商品4の形態はほぼ同一であり,
原告提出の甲4,検甲4は,原告商品4の形態を立証するものと認める
のが相当である。
イ原告商品4と被告商品Dの形態が同一ないし実質的に同一といえるかに
ついて
,,原告商品4と被告商品Dの形態とその同一ないし共通点及び相違点は
第2の1(4)エに認定したとおりである。
上記認定によれば,原告商品4の形態において特徴的な点は,①襟なし
の丸首,前あきボタン留めの長袖カーディガンで,②前身頃及び後身頃の
(),下の部分左右脇腹部から背部にかけて帯状に透かしレース部分があり
,。また背面上部及び両袖の前腕部にも透かしレース部分があることである
これに対し,被告商品Dも①の基本形状は同一ではあり,また,身頃下
の部分及び両袖に透かしレース部分もあるものの,背面上部には透かしレ
ース部分はなく,また,その関係で,後身頃下のレース部分が原告商品4
よりもやや上にあり,後身頃における生地と透かしレース部分とのバラン
スが異なるものとなっている。このように,被告商品Dは,原告商品の特
徴的な部分である,背面部における透かしレース部分の配置と生地とのバ
ランスに相違点があるため,原告商品4とは,その背面部の印象が実質的
に異なるものとなっている。また,原告商品4はグレーの地に白色のレー
スが施されており,地とレースの色のコントラストがさほど強くないのに
比べ,被告商品Dは,ピーコック地に白色レースが施されており,地とレ
ースの色のコントラストが強く,さらに,原告商品4においてはウエスト
部分がゆったりと太めになっており袖は比較的長いのに対し,被告商品D
においてはウエスト部分がやや細身で袖が比較的短いこともあって,両商
品の全体的な印象ないし美感が実質的に異なるものとなっている。以上の
相違点は,原告商品4の特徴的形態部分における看過し得ない相違点を含
むものであり,両商品の形態の同一性に大きな影響を与えるものである。
したがって,被告商品Dは,原告商品4とその特徴的形態において実質
的な相違点を有しており,原告商品4と実質的に同一であると認めること
はできない。
ウ以上によれば,被告商品Dは,原告商品4の形態を模倣したものと認め
ることはできず,被告商品Dの製造・輸入・販売等は,不正競争防止法2
条1項3号の不正競争行為に該当しないと認められる。
2争点2(損害の発生及びその額)について
(1)被告が,被告商品A及びCの製造・輸入・販売等により得た利益の額と
して,被告が主張する金額については,原告は実質的にこれを争わないもの
である。そして,被告が主張する金額以上の利益を得たことを認めるに足り
る証拠もない。したがって,被告が被告商品A及びCの製造・輸入・販売等
によって得た利益の額は合計309万8362円であると認められる。
よって,原告が被告の上記不正競争行為によって受けた損害の額は,30
9万8362円と推定される(不正競争防止法5条2項。)
(2)これに対し,被告は,①原告は当初の予定どおり各原告商品を完売して
おり,受注生産という原告の販売形態等に照らせば増産の上,シーズン中に
販売することは不可能であったから,損害は発生していないし,また,被告
商品の販売との間に因果関係はない,②被告商品の販売は,被告商品開発の
際の努力(工夫,営業努力によるブランドイメージ向上等によるものであ)
って,その形態故に被告商品が売れたわけではないから,被告商品の販売と
の間に因果関係はないなどと主張する。
しかし,本件証拠上,原告には,当初(各原告商品を展示会に出品した直
後)受注分以上に商品を製造・販売する能力がなかったとか,契約その他の
制限があるために,当初受注分以上に各原告商品を製造・販売することが不
可能であったというような事情の存在は,何ら窺われない。すなわち,原告
においては,被告による各被告商品の製造販売行為がなければ,さらなる追
加注文を受け,原告各商品を製造販売し得た可能性があったことは否定し得
,。ないのであって原告に何らの損害も発生していないということはできない
そうすると,原告が製造した原告商品1及び3が完売したからといって,原
告に損害が発生していないということはできない。
また,他人の商品の形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争行為とす
る趣旨は,後行者(模倣者)は,模倣することによって,商品開発に要する
,,,,時間費用労力等を節約し商品開発のためのリスクを回避できる一方で
先行した他人の市場先行による利益が損なわれ,後行者と先行者との間に競
業上著しい不公平が生じるものであり,このような行為は,他人が資金や労
力を投下した成果を盗用するものとして競争上不正な行為であることと解さ
れることにある。そうすると,本件の各原告商品及び各被告商品のような若
い女性向けの被服の販売について,ブランドイメージにより影響されること
があることは否定できないとしても,先行者の商品のデザインを模倣するこ
とによって,後行者が商品開発の時間,費用等を節約し,利益を得ているこ
とには変わりなく,また,需要者の商品購入の動機がその商品のデザインや
。,,形態にはないとまでいうこともできないしたがって上記被告の主張②も
被告の不正競争行為との因果関係を否定するものではないというべきであ
る。
被告の上記各主張は,いずれも不正競争防止法5条2項における損害額の
推定を覆すものということはできない。
(3)以上によれば,(1)認定の額をもって,原告が被告の不正競争行為によっ
て受けた損害の額と認めるのが相当である。
3争点3(謝罪広告の要否)について
原告は,被告の不正競争行為により原告のブランドイメージが毀損されたと
主張して謝罪広告を求める。
しかし,被告の不正競争行為によって,取引者・需要者等の間で,被告では
なく原告が商品の形態を模倣したとの誤解が生じ,これにより原告の信用が毀
損され,その後も原告の商品開発や販売に悪影響が生じているとの事情を認め
るに足りる証拠はない。
したがって,被告の不正競争行為によって原告が受けた損害は,前記被告利
益相当額の損害の賠償によって償えば足りるものであり,その上信用回復のた
めの措置を要するものとは認められない。
第5結論
以上によれば,原告の請求は,被告商品A及びCの製造・輸入・販売等の差
止め,上記各被告商品の廃棄,並びに,損害賠償金309万8362円及びこ
れに対する不法行為の後の日である平成18年3月2日から支払済みまで年5
分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから認容し,その余の
請求はいずれも理由がないから棄却することとし,仮執行宣言については,主
文記載の限度でこれを相当と認め,その余は却下することとし,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官設樂隆一
裁判官間史恵
裁判官古庄研

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