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平成27年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成25年(行ケ)第10115号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年1月15日
判決
原告株式会社デンソーウェーブ
訴訟代理人弁理士碓氷裕彦
同中村広希
同井口亮祉
被告特許庁長官
指定代理人山崎達也
同小林大介
同相崎裕恒
同根岸克弘
主文
1特許庁が訂正2012-390156号事件について平成25年3
月19日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
原告は,発明の名称を「光学情報読取装置」とする特許第3823487
号(平成9年10月27日特許出願。平成18年7月7日設定登録。請求項
の数2。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲15)。
原告は,平成24年12月7日,本件特許に係る請求項1及び2並びに明
細書の記載について,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目
的とする訂正審判を請求した(以下「本件訂正」という。)。
特許庁は,訂正2012-390156号事件として
審理し,平成25年1月17日付けで拒絶理由を通知し(甲11),原告は,
同年2月19日付け手続補正書により,本件訂正に係る請求項1及び明細書
の記載について補正をした(甲13)。
特許庁は,平成25年3月19日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年4月4日,その謄
本が原告に送達された。
原告は,平成25年4月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の請求項1及び2の記載(ただし,平成25年2月19日付け手
続補正書による補正後のものである。)は,次のとおりである(下線部は訂正
箇所である。甲13)。
以下,順に,「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,併せて,
「本件訂正発明」という。また,本件訂正発明に係る明細書(甲13,16)
を図面(甲14)も含め,「本件明細書」という。
【請求項1】
複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像
させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光
した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列さ
れると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光
学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値
化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力するカメ
ラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置において,
前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入
射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳
位置までの距離を相対的に長く設定し,
前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的
センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,
前記射出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部
においても読取が可能となるようにしたことを特徴とする光学情報読取装置。
【請求項2】
前記光学的センサは,CCDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記
載の光学情報読取装置。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,
本件訂正は,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする
ものであるが,①本件訂正発明は,本件特許の出願日前に頒布された刊行物
である下記刊行物1に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29
条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないもの
であり,また,②本件訂正発明の特許請求の範囲の記載は,平成14年法律
第24号による改正前の特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確
性要件」という。)を満たしておらず,本件訂正発明は,特許出願の際独立
して特許を受けることができないものであるから,特許法126条7項の規
定に違反する,というものである。

ア刊行物1:特開平8-180125号公報(甲1)
イ刊行物2:特開昭62-180483号公報(甲2)
ウ刊行物3:特開平9-147048号公報(甲3。平成9年6月6日公
開)
エ刊行物4:特開平9-231306号公報(甲4。平成9年9月5日公
開)
オ刊行物5:特開平8-16699号公報(甲5)
カ刊行物6:特開平9-8266号公報(甲6。平成9年1月10日公
開)
キ刊行物7:特開平9-55488号公報(甲7。平成9年2月25日公
開)
ク刊行物8:特開平5-203873号公報(甲8)
ケ刊行物9:特開平7-168093号公報(甲9)
コ刊行物10:特開平5-188284号公報(甲10)
本件審決が認定した引用発明並びに本件訂正発明1と引用発明との一致点
及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容
「2進コードで表されるデータをセル化して,2次元のマトリックス上
にパターンとして配置し,マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位
置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比
が得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コード
を読み取るための2次元コード読取装置であって,
CCDを用いた2次元画像検出手段と,
上記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,上記周波数成
分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路と,
上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記周波数成分比
検出回路に送信する2値化手段と,
上記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値
化の閾値を調節する2値化調節手段と,
を備えた2次元コード読取装置。」
イ本件訂正発明1と引用発明との一致点
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ
と,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その
受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的
に配列される光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制
限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力
するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置」
ウ本件訂正発明1と引用発明との相違点
(相違点1)
本件訂正発明1における結像レンズは「複数のレンズで構成され」てい
る。これに対して,刊行物1には結像レンズの具体的構成は明示されてい
ない。
(相違点2)
本件訂正発明1における光学的センサは「受光素子毎に集光レンズが設
けられた」ものである。これに対して,刊行物1には「CCD」の具体的
構成は明示されていない。
(相違点3)
本件訂正発明1は「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過し
た後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,
前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記
光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上と
なるように,前記射出瞳位置を設定して」いる。これに対して,刊行物1
には絞りの具体的な配置位置は明示されていない。
(相違点4)
本件訂正発明1は「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部に
おいても読取が可能となるようにした」ものである。これに対して,刊行
物1には「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読
取が可能となるようにした」との記載はない。
4取消事由
本件訂正発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由1)
本件訂正発明2の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2)
明確性要件に係る判断の誤り(取消事由3)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件訂正発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件訂正発明1の特徴等
ア本件特許の出願当時の技術水準
本件訂正発明1は,光学読取装置に2次元配置の光学的センサ(光学的
センサに複数の受光素子を2次元的に配列したもの)を用いている。
しかしながら,光学読取装置はバーコードの検出に用いられていたが,
バーコード検出の光学読取装置では,受光素子は1次元的に配列されるの
が通常であったのであり(例えば甲2~4等),2次元配置の光学的セン
サを光学情報読取装置に用いることすら,まだ一般的ではない状況であっ
た。
したがって,本件特許の出願当時,マイクロレンズ付きCCDは既に公
知の技術ではあったものの,このマイクロレンズ付きCCDを2次元コー
ドリーダに採用するのが当然の技術的趨勢といえるような状況にはなく,
ましてや,マイクロレンズ付き2次元配置の光学的センサを採用した場合
の課題や,その課題解決のための工夫が,技術常識に属する事柄とされる
べき状況にはなかった。
イ本件訂正発明1の特徴
本件訂正発明1は,2次元コードを読み取る光学情報読取装置において,
2次元配置の光学センサを使用することが未だ技術常識とはなっていない
時代に,受光素子毎に集光レンズを設けたCCDエリアセンサを用いたも
のである(本件明細書の段落【0003】)。
本件特許の出願当時の技術常識では,集光レンズ付きCCDエリアセン
サは,せいぜい光量不足を補うのに有効であることが理解される程度であ
り,これを2次元コードを読み取る光学情報読取装置に適用する場合の問
題点は,本件訂正発明1において初めて提起されたものである。
すなわち,2次元コードを読み取るためには,光学的センサからの出力
信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所
定の周波数成分比を検出する必要がある。これに対し,集光レンズ付きC
CDエリアセンサでは,センサ中央部は集光レンズの集光機能もあって充
分な光量が得られるものの,周辺部では必要な光量が確保できないことが
あり得るため,これを単純に2次元コードを読み取る読取装置に応用した
のでは,周辺部で適切な読み取りができなくなるおそれがあることを見い
出したのである(本願明細書の段落【0004】)。
上記問題点は,2次元コードを読み取る光学情報読取装置においては,
一面ではシャープな画像は不要で,明るいか暗いか(白か黒か)をおよそ
の範囲で把握できればよいこととなるが,反面では閾値との関係が微妙と
なり,明るいか暗いか(白か黒か)を厳密に区別することが要求されるこ
とになるから,特に重要である。
本件訂正発明1は,このような光学情報読取装置の特質に鑑みて,光学
センサのうち,中心部に位置する受光素子からの出力だけでなく,中心部
から離れた位置の受光素子からの出力も,閾値との比較で明るいか暗いか
(白か黒か)を判断して2次元コード等の形状を把握することができるよ
うにしたものである(本願明細書の段落【0011】)。
本件明細書の図5(c)に実線で示すように,射出瞳距離が短い場合,
光学的センサのうち中心部に位置する受光素子からの出力に比べて,中心
部から離れた位置の受光素子からの出力が大きく落ち込むことになり,こ
れでは,中心部に位置する受光素子からの出力では閾値を上回るのに,中
心部から離れた位置の受光素子からの出力では閾値を越えることができな
い場合も生じる。これに対し,同図に破線で示すように,射出瞳距離が長
い場合には,中心部に位置する受光素子からの出力に対する中心部から離
れた位置の受光素子からの出力の落ち込みを少なくすることができる。こ
の場合でも,センサの一番端の受光素子からの出力の落ち込みを無くすに
は至っていないが,センサ端部に至る前のセンサ中心部から離れた部位に
ある受光素子からの出力の落ち込みを緩和できるため,中心部にある受光
素子からの出力と周辺部にある受光素子からの出力との比を所定値以上と
すれば,中心部だけでなく,周辺部でのコードの読み取り(コードの読取
範囲の拡大)を可能とする露光時間の調整等が容易となる。
センサ中央部で充分な光量があり,周辺部では必要な光量が確保できな
いということは,2次元コードを識別するための閾値を中央部と周辺部と
で異ならせて処理する必要があることを意味する。刊行物1では,これを
ソフト的に処理し,閾値を調節することで光量の過不足を補うようにして
いるのに対し,本件訂正発明1では,集光レンズ付き2次元配置CCDを
用いても,「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に
対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所
定値以上となるように」しているので,ソフト処理を不要としたり,ソフ
ト処理を行うとしても簡単に行えるようになる。
本件訂正発明1は,この光学的センサの中心部に位置する受光素子から
の出力に対する周辺部に位置する受光素子からの出力の比を所定値以上と
する手段として,「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した
後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,
前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,射
出瞳位置を最適に設定したものである。
本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由
1-1)
ア本件審決は,①引用発明における「CCD」は本件訂正発明1における
「光学的センサ」に対応するものであるところ,刊行物1には「2次元画
像検出手段」として「TVカメラ」が例示されていることや2次元コード
を読み取る際の撮像手段としては一般的には「TVカメラ」が採用されて
いたこと,このようなカメラで用いられるCCDは通常は2次元アレイで
あること等を勘案すれば,引用発明における「CCD」も「前記読み取り
対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の
強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列され
る」ものであることは明らかであるから,引用発明における「CCD」と
本件訂正発明1における「光学的センサ」とは「前記読み取り対象の画像
を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じ
た電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列される光学的セン
サ」である点で共通する,②引用発明の如き光学情報読取装置において,
その撮像素子上に被写体の像を結像せしめるための結像レンズを設ける事
は須く採用される技術常識であるとともに,カメラでも結像レンズを設け
る事は技術常識であるから,引用発明も当然結像レンズを備えているはず
であり,引用発明と本件訂正発明1とは「読み取り対象からの反射光を所
定の読取位置に結像させる結像レンズ」を備える点で共通する,③光学情
報読取装置において絞りを設ける事も技術常識であるとともに,カメラで
も絞りを設ける事は技術常識であるから,引用発明も本件訂正発明1と同
様に「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備えるこ
とは明らかである,④光学情報読取装置においてセンサ出力を増幅してか
ら2値化等の処理を行うことは技術常識であり,引用発明における「2値
化手段」は本件訂正発明1における「2値化」に,引用発明における「周
波数成分比検出回路」は本件訂正発明1における「所定の周波数成分比を
検出」することにそれぞれ相当する処理を行うものであるから,引用発明
も本件訂正発明1における「カメラ部制御装置」に相当するものを備えて
いるといえる,として,本件訂正発明1と引用発明とが,
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その
受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的
に配列される光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制
限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力
するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置」の点で一致する旨判断した。
イしかしながら,本件審決が認定した引用発明
のとおりであって,①「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結
像させる結像レンズ」の構成を備えること,②光学的センサが「受光素子
が2次元的に配列される」ものであること,③「光学的センサへの反射光
の通過を制限する絞り」の構成を備えること,④光学的センサからの出力
信号を「増幅して」から2値化の処理を行うこと,⑤「カメラ部制御装
置」の構成を備えることは,いずれも引用発明の内容とはなっていない。
それにもかかわらず,本件審決は,本件訂正発明1と引用発明とが前記
ア記載の点で一致するものとしており,かかる一致点の認定は,刊行物1
に記載された具体的記述を離れ,「技術常識」によるとして引用発明を恣
意的に解釈した上で,さらに,これに「周知慣用技術」や「一般的な技術
的趨勢」を加味するとして,刊行物1には記載のない事項まで引用発明の
内容として取り込んだ上で,両発明を対比するものであり,進歩性の判断
方法として,そもそも誤りであるというべきである。
ウ本件訂正発明1と引用発明とは,正しくは,
「読み取り対象の画像を受光するために読取位置に配置され,その受光し
た光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が配列される光学
的センサと,
前記光学的センサからの出力信号を,閾値に基づいて2値化し,2値化さ
れた信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する制御
装置と,
を備える光学情報読取装置」の点で一致すると認定されるべきである。
そして,本件訂正発明1と引用発明とは,
①引用発明は,結像レンズ及び絞りを備えているのか不明であり,光学
的センサについて複数の受光素子が配列されているものの,複数の受光
素子が2次元的に配列されると共に,受光素子毎に集光レンズが設けら
れているのか不明であり,これらの不明な点に起因して,上記結像レン
ズ及び絞りをどの様に配置しているのか,射出瞳位置をどの様に設定し
ているのかも不明である点(以下「相違点A」という。)
②制御装置について,引用発明は制御装置ではあるものの,カメラ部制
御装置であるのか不明であり,光学的センサからの出力信号を増幅して
いるのか不明である点(以下「相違点B」という。)
③引用発明は,露出時間などの調整で,中心部においても周辺部におい
ても読み取りが可能となるようにしているのか不明である点(以下「相
違点C」という。)
において,相違するというべきである。
エ相違点A~Cに係る構成の容易想到性について
刊行物1の開示内容等
刊行物1には,いわゆる「QRコード」と呼ばれる2次元コードの読
取装置が記載され,その回路構成やソフトウェアが開示されているが,
レンズや絞り等の光学系に関する記載はない。刊行物1は2次元コード
読取装置であるから,当該読取装置がレンズや絞り等の光学系を備える
ことは,技術常識として首是できるものの,レンズや絞りが読取対象で
ある2次元コードからの反射光の射出瞳位置との関係でどのように配置
されるのかは,それぞれの発明に応じて決定されるものであり,技術常
識に基づいて一義的に定まるものではない。
また,刊行物1には,CCDが記載されており,2次元コードからの
反射光がCCDに入射することも技術常識として首是できるが,本件特
許の出願当時の技術常識をしても,刊行物1に記載されたCCDが当然
に2次元配置であるとはいえない。ましてや,CCDに集光レンズが設
けられることが「技術的趨勢」であるということもできない。
そもそも,複数の受光素子を2次元的に配列するとともに,受光素子
毎に集光レンズが設けられた光学的センサを2次元コードの読取装置に
用いることは,本件訂正発明1において初めて検討された内容である。
しかも,受光素子毎に集光レンズが設けられ,かつ,受光素子が2次元
的に配列された光学的センサでは,集光レンズの入射角の関係で光学的
センサの中心部に比べて周辺部の光量が落ち込む傾向があるということ
は,本件訂正発明1において初めて取り上げられた課題である。したが
って,刊行物1に,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出
力に対する周辺部に位置する受光素子からの出力の比を所定値以上とす
ることや,そのために光学的センサから射出瞳位置までの距離を設定す
ることについての開示があるとはいえない。
以上のとおり,刊行物1には,2次元配置された集光レンズ付きのC
CDセンサを2次元コード読取装置に用いること,並びに,このような
CCDセンサを用いた場合に,光学センサの周辺部に位置する受光素子
からの出力まで読み取ることができるようにするために複数のレンズ,
絞り及び射出瞳位置等の関係を規定することやその規定の仕方について
は,一切開示がないのであるから,当業者が引用発明に基づいて相違点
A~Cに係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得たとはいえない。
オ被告の主張について
本件訴訟において,被告は,刊行物1に甲8~10に開示された「技術
常識」を適用することにより,当業者が相違点A~Cに係る本件訂正発明
1の構成に容易に想到し得た旨主張する。
しかしながら,刊行物1は,CCDやレンズ絞り等の光学系の具体的構
成を何ら明示していないのに対し,本件訂正発明1は,センサの中心部か
ら離れた周辺部での2次元コード読み取りを可能とするための光学系の工
夫に特徴があるものである。
したがって,被告のいう「技術常識」を考慮したとしても,光学系の具
体的構成が不明な刊行物1のみから,2次元コード読取装置の光学系に特
徴のある本件訂正発明1の構成に容易に想到し得るものではない。
被告の主張が不当であることは,以下のとおりである。
相違点Aについて
a技術常識の認定について
⒜被告は,甲8~10の記載から,光学的センサの受光量を増加し
確保するための光学系として,①複数の受光素子が2次元的に配列
されるとともに当該受光素子毎に受光レンズが設けられた光学的セ
ンサ,②結像レンズ,③読み取り対象からの反射光が絞りを通過し
た後で結像レンズに入射するように配置された絞りを備えた構成,
④光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する周
辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように
射出瞳位置が設定された構成を,技術常識として認定し得る旨主張
する。
⒝しかしながら,甲8~10は,スチルビデオカメラの撮影レンズ
に関するものであり,撮影された像が全体として綺麗に映るように
するものである。
2次元コード読取装置のように,明るいか暗いか(白か黒か)を
閾値との比較で判断し,2次元コード等の形状を把握する光学情報
読取装置と,撮影された像が全体として綺麗に映るようにするスチ
ルビデオカメラの撮影レンズとは,そもそも技術分野が一致しない。
被告の主張は,甲8~10の「スチルビデオカメラ」の分野に属
する「公知技術」から,刊行物1の「2次元コード読取装置」の
「技術常識」を認定している点で誤りである。
⒞前記⒜の①~④について
ⅰ①について
スチルビデオカメラの技術分野において,「複数の受光素子が
2次元的に配列されるとともに当該受光素子毎に受光レンズが設
けられた光学的センサ」が公知であったことは事実である。
しかしながら,本件特許の出願当時,2次元コードを読み取る
光学情報読取装置に2次元配置の光学センサを使用することが技
術常識であったわけではなく,また,他の用途で用いられる集光
レンズ付きCCDを2次元コードを読み取る光学情報読取装置に
そのまま使用できるというわけでもない。
本件訂正発明1は,2次元コードを読み取る光学情報読取装置
に2次元配置の集光レンズ付きCCDを使用することを前提とし
て,それを2次元コード読取装置に用いる上での問題点に初めて
着目したものである。「2次元配置で受光素子毎に集光レンズが
設けられたCCD」を備えることが2次元コード読取装置の技術
分野における技術常識であったとはいえない。
ⅱ②及び③について
「結像レンズ」や「絞り」が公知であることは争わない。
しかしながら,このように「技術常識」を分断して認定するこ
と自体誤りである。
本件特許の出願当時には,そもそも2次元コード読取装置にお
いて,「複数の受光素子が2次元的に配列される」ことすら「技
術常識」ではなかった。
したがって,「当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学
的センサ」を2次元コード読取装置に適用することが「技術常
識」であったとはいえず,ましてや,集光レンズ付きCCDを採
用する上で「結像レンズ」や「読み取り対象からの反射光が絞り
を通過した後で結像レンズに入射するように配置された絞り」を
どの様に設定するかが「技術常識」であったなどとはいえないこ
とは明らかである。
ⅲ④について
前記ⅰと同様に,集光レンズ付きCCDを2次元コード読取装
置に採用する上で「光学的センサの中心部に位置する受光素子か
らの出力に対する周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所
定値以上となるように射出瞳位置が設定された」構成が「技術常
識」であったとはいえない。
また,甲8~10に記載されたCCDはスチルビデオカメラ用
のCCDであって,ここに,2次元コード読取装置を含むどんな
用途のCCDにも対応し得る射出瞳位置の設定が開示されている
とはいえない。
本件訂正発明1は,センサ中心部のみでなく中心部から離れた
周辺部でのコードの読み取りを可能とするための露光時間などの
調整が容易となり,明るいか暗いか(白か黒か)を閾値との比較
で判断して2次元コード等の形状を把握する2次元コード読取装
置としての機能を高めるものである。かかる観点からみた場合,
「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する
周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるよ
うに射出瞳位置が設定されたものを採用すること」が2次元コー
ド読取装置の技術分野における技術常識であったとはいえない。
b引用発明に技術常識を適用する動機付けについて
⒜そもそも,相違点に係る構成の容易想到性を判断するについての
「動機付け」は,「公知技術」を引用発明に適用する上での困難性
に関し問題とされるものであるから,「技術常識」を引用発明に適
用する上での動機付けを問題とする点で,被告の判断方法は相当で
ない。
⒝また,被告が,引用発明に技術常識を適用する動機付けがあると
する根拠として挙げる点は,以下のとおり,いずれも誤りである。
ⅰ被告は,刊行物1では2次元的に配列されたCCD(エリアセ
ンサ)を用いることが予定されており,公知ないし周知のエリア
センサの採用が示唆されているとし,この点を引用発明に技術常
識を適用する動機付けの根拠として挙げる。
原告は,刊行物1において,2次元的に配置されたCCDを用
いることが予定されているということ自体は争わないが,刊行物
1のCCDはスチルビデオカメラで用いられるものであり,2次
元配置CCDを2次元コード読取装置に採用する動機付けはない。
また,2次元コード読取装置とスチルビデオカメラとでは,2次
元配置CCDの用い方も大きく異なる。
それぞれの技術分野に応じた課題の設定があるから,2次元コ
ード読取装置とスチルビデオカメラとでは,異なる課題の下,異
なる発明がされるのである。
ⅱ被告は,刊行物1は,受光した光の強さに応じた電気信号を2
値化される信号として出力する光学的センサ(CCD)において,
光学的センサに配列されたそれぞれの素子における受光により画
像を読み取るものであるから,それぞれの素子が画像を読み取る
ために必要な電気信号を出力するのに十分な光量を確保する必要
があるのであって,そこには,受光する光量を増加させ十分な光
量を確保するための構成としての光学系の採用が示唆されている
旨主張する。
しかしながら,2次元コード読取装置では,センサ中心部の受
光素子出力に対するセンサ周辺部からの出力比を常に所定値以上
として,明るいか暗いか(白か黒か)を閾値との比較で判断して
2次元コード等の形状を把握するための読み取り範囲を広くする
事が重要である。ここでは,単純に受光する光量を増やすことで
はなく,2次元コードをコードとして把握できる範囲を増やすた
めのセンサ中心部とセンサ周辺部との光量の比が重要となる。
これに対し,被告の主張は,2次元コード読取装置に特有な特
徴は除外し,単に十分な光量を確保することが課題であるかのよ
うにしている点で誤りである。
ⅲ被告は,引用発明は2次元コード読取装置であるが,一般に,
2次元コード読取装置のような光学情報読取装置においては,撮
像を行うためのセンサの周辺部での感度低下や輝度ムラが生じな
いことが望ましいから,そのための光学系として,センサの周辺
部での感度低下や輝度ムラが生じにくいものを採用すべきである
旨主張する。
しかしながら,そもそも,刊行物1に,センサ周辺部の感度低
下や輝度ムラを生じさせないという課題が示唆されているとはい
えない。
仮に,刊行物1にセンサ周辺部の感度低下や輝度ムラを生じさ
せないことについて示唆があるとしても,被告が引用発明に適用
すべき技術常識に係る文献として挙げる甲8~10は,2次元コ
ード読取装置に関するものではないから,コードの読取範囲との
関係でセンサの周辺部での感度低下や輝度ムラが生じにくいとい
う課題は存せず,引用発明に甲8~10に記載された技術を適用
する動機付けがあるとはいえない。
ⅳ被告は,甲8~10が属するカメラの光学系に小型化が求めら
れており,刊行物1が属する光学情報読取装置の光学系において
も小型化が求められるのであり,受光量の確保,センサの周辺部
での感度低下等,小型化に対する対策が求められるという観点か
らみれば,カメラの光学系と光学情報読取装置の光学系とは,同
一又は密接に関係する技術分野に属するものである旨主張する。
しかしながら,刊行物1にも,甲8~10にも,これらが小型
化を目的とした発明であるとは記載されていないから,機械分野
を問わない,いわば一般論としての「小型化」を,引用発明に甲
8~10に記載された技術を適用する動機付けとして挙げる被告
の主張は誤りである。
c引用発明への技術常識の適用について
被告は引用発明に甲8~10に記載された技術常識を適用すること
は当業者が容易になし得たことである旨主張する。
しかしながら,前記a記載のとおり,被告の上記主張は,甲8~1
0の「スチルビデオカメラ」の分野に属する「公知技術」から,刊行
物1の「2次元コード読取装置」の「技術常識」を認定している点で
誤りである。
また,被告は,刊行物1がエリアセンサを前提としたものであると
ともに,センサの受光量を増加し確保するための光学系の採用が示唆
されているとするが,刊行物1にはエリアセンサであることは記載さ
れていないし,「TVカメラ」,「CCD」以上の記載もない。
さらに,被告の主張は,刊行物1に記載された2次元コード読取装
置に関する技術と甲8~10に記載されたスチルビデオカメラに関す
る技術との本質的な相違を考慮せず,単に「受光量の確保」,「セン
サ周辺部での感度低下」,「小型化」という抽象的な捉え方をするこ
とによって,両者が同一又は密接に関係する技術分野に属するとする
ものであり,不当である。
dなお,被告は,本件訴訟において,引用発明の意義を明らかにする
ために当業者の出願当時の技術常識を認定する基となる資料であると
して,各乙号証の公知文献を証拠として提出する。
しかしながら,本件においては,刊行物1には,そもそも「TVカ
メラ」,「CCD」以外に光学系の記載はないのであるから,各乙号
証の公知文献が引用発明の意義を明らかにするための資料であるとは
いえない。
被告の論理は,光学系の工夫に係る資料は,すべて「技術常識」を
認定する資料であるというに等しいものであって,取消訴訟において,
公知技術の追加が自由に認められるということになりかねず,不当で
ある。
この点を措いても,各乙号証の公知文献は,被告の主張する「技術
常識」なるものが,「2次元コード読取装置」の技術分野における当
業者の技術常識からいかに乖離したものであるかということ,すなわ
ち,2次元コード読取装置において2次元配置かつ集光レンズ付きの
CCDを用いることを示唆する資料が存しないことをかえって際立た
せる結果となっており,いずれにせよ,本件訂正発明1が引用発明に
基づいて容易に発明することができたものであることを根拠付けるも
のとはいえない。
相違点Bについて
被告は,引用発明のセンサ出力である2次元画像検出手段からの走査
線信号を増幅することは,技術常識を踏まえれば,当業者が当然に行う
ことであって実質的な相違点ではないなどと主張する。
刊行物1は,2次元コードを読み取る上でのソフトウェアの工夫を開
示したものであり,光学系に関しては,「CCD」,「TVカメラ」以
外に記載がないのであるから,相違点Bを,本件訂正発明1と引用発明
との相違点として実質的なものではないとする被告の上記主張は誤りで
ある。
相違点Cについて
被告は,照射光の光量や露光時間などの調整が容易となることで中心
部においても周辺部においても適切に読み取りが可能となるという機能
ないし作用を備えることは,甲8~10から認定される技術常識を踏ま
えれば,一般的な課題ないし当然の作用効果について特定したものであ
るから,相違点A及びBの判断に伴って容易想到であるといわざるを得
ないものである旨主張する。
しかしながら,相違点A及びBの判断がそもそも誤っていることは,
カ以上のとおり,本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点は前
記ウ記載のとおり認定されるべきであるから,本件審決における一致点
及び相違点の認定は誤りであり,本件訂正発明1と引用発明とは相違点
A~Cの点で相違し,当業者において,引用発明に基づいて,あるいは,
引用発明に甲8~10に開示された「技術常識」を適用することにより,
当業者が相違点A~Cに係る本件訂正発明1の構成に容易に想到し得た
とは認められないから,上記一致点及び相違点の認定の誤りは,本件審
決の結論に影響を及ぼす違法である。
相違点1~4に係る容易想到性判断の誤り(取消事由1-2)
本件訂正発明1と引用発明との相違点として,本件審決の認定する前記第
,以下のとおり,本件審決における
相違点1~4に係る容易想到性の判断は誤りである。
ア本件審決における容易想到性判断の内容
本件審決は,の
相違点1~4の点で相違すると認定した上で,相違点1~4に係る本件訂
正発明1の構成は,いずれも引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得
たものであり,本件訂正発明1は,引用発明に基づいて,当業者が容易に
発明することができたものである旨判断した。
イしかしながら,以下のとおり,本件審決における相違点1~4の容易想
到性判断は誤りである。
相違点1について
a本件審決は,結像レンズを単レンズとするか否かはその用途やスペ
ック等に応じて適宜に選択される設計事項であり,光学情報読取装置
の結像レンズを複数のレンズで構成することも,必要に応じて適宜に
採用されている周知慣用技術であるから,引用発明において,相違点
1に係る本件訂正発明1の構成を採用することは,当業者であれば適
宜に選択し得る設計的事項にすぎない旨判断した。
bしかしながら,相違点1は,単なる結像レンズの枚数の相違ではな
く,正しくは,「2次元コード読取装置で結像レンズ,絞り,射出瞳
位置の光学系の工夫を行う点」の相違と認定されるべきである。そし
て,刊行物1には光学系の記載は一切なく,また,甲2~4は,いず
れも一次元配置のバーコードリーダであるから,結像レンズやそのレ
ンズを複数用いることが公知であるとしても,引用発明に光学系の工
夫を施すことが当然で,これが刊行物1に記載されているなどとはい
えない。
また,本件訂正発明1は,2次元配置されるとともに受光素子毎に
集光レンズを設ける光学的センサと,複数レンズで構成される結像レ
ンズ及び絞りとが一体となって,光学情報読取装置の適切な読み取り
を実現しようとするものであるから,本件訂正発明1が,引用発明か
ら容易に想到し得ると判断するためには,刊行物1に「2次元配置さ
れると共に,受光素子毎に集光レンズを設ける光学的センサ」ととも
に用いられる態様の「複数レンズで構成される結像レンズ及び絞り」
が記載されていると読み取れなければならないが,刊行物1から上記
記載を読み取ることはできない。
したがって,いずれにせよ,本件審決における相違点1に係る容易
想到性判断は誤りである。
相違点2について
a本件審決は,バーコードリーダなどに用いられるイメージセンサに
おいて,マイクロレンズを備えることで開口率の向上等を図ることは,
本件特許の出願当時,当業者にとっては一般的な技術的趨勢にほかな
らないものであり,この技術的趨勢はカメラの分野においても一般的
なものであるから,引用発明における2次元画像検出手段において,
相違点2に係る本件訂正発明1の構成の採用を試みることは,当業者
の通常の創作力の発揮にすぎない旨判断した。
bしかしながら,相違点2は,正しくは,「2次元コードリーダで集
光レンズを備える2次元配置のCCDを用いる点」の相違と認定され
るべきである。
また,本件審決は,集光レンズを備える2次元配置のCCDを用い
ることも一般的な技術的趨勢であり,刊行物1自体から読み取れると
するが,甲6及び7において,バーコードリーダなどに用いられるイ
メージセンサとして記載されているのはラインセンサであり,ライン
センサでは光量不足の問題は顕在化していないから,ラインセンサに
集光レンズを用いることは,一般的な技術的趨勢として要請されては
いなかった。
さらに,2次元コードリーダで2次元配置の集光レンズ付きCCD
を用いることは,未だ知られていなかったのであるから,進歩性の判
断に当たっては,ビデオカメラ等で知られていた集光レンズ付きCC
Dを2次元コードリーダに応用することの困難性が検討されるべきで
ある。
しかるに,刊行物1には,CCDの具体的構成が開示されていない
のにもかかわらず,技術的趨勢を理由として,引用発明においても
「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものすることは,当業者の
通常の創作力の発揮にすぎないとした本件審決の相違点2に係る容易
想到性判断は誤りである。
相違点3について
a本件審決は,マイクロレンズを設けた撮像装置においては,周辺部
での感度低下を防止するため,絞りをレンズよりも被写体側に設ける
等の射出瞳を結像面からなるべく離した構造とする対策が採られるこ
とは,撮像光学系設計における技術常識にすぎず,また,光学情報読
取装置においても,周辺部での感度低下が問題となり,そのための対
策を施す必要性も当業者が当然に心得る技術常識にすぎないから,引
用発明におけるCCDを「受光素子毎に集光レンズが設けられた」も
のとした場合に,相違点3に係る本件訂正発明1の構成を採用するこ
とは,相違点2に係る構成の採用に伴って,当業者が必然的に採用す
る設計事項にすぎない旨判断した。
bしかしながら,刊行物1には光学系の工夫が示されていない。また,
本件審決が技術常識であるとして例示した甲8~10は,2次元コー
ド読取装置ではなく,ビデオカメラに用いるものであって,その用途
が異なるから,刊行物1の2次元コード読取装置に組み合わせること
は容易ではない。したがって,刊行物1に射出瞳までの距離を相対的
に長くすることの記載があるとする本件審決の判断は誤りである。
さらに,刊行物1には光学系の工夫が示されておらず,本件審決が
例示する甲2及び3も1次元配置のバーコードリーダであるから,刊
行物1に「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対
する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定
値以上となるように,射出瞳位置を設定」することが記載されている
とする本件審決の判断も誤りである。
そして,バーコードリーダのリニアセンサでは,光度不足が顕在化
しておらず,集光レンズの採用は決して技術的趨勢ではなかった。一
次元配置されて光量不足が顕在化していなかったバーコードリーダ用
CCDと,2次元配置され集光レンズを備えるCCDとで,周辺部で
の感度低下という問題点に対する対策を施す必要性に相違がないと決
め付けたのでは,進歩性を正しく判断することはできない。
以上のとおり,本件審決における相違点3に係る容易想到性判断は
誤りである。
相違点4について
a本件審決は,相違点4に係る事項は,「照射光の光量や露光時間
などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部におい
ても適切に読み取りが可能となる。」との事項(本件明細書の段落
【0011】,【0042】)を表現しようとしたものと認められ
るが,これは当該分野における一般的な課題,あるいは,相違点1
~3等の採用に伴って当然に奏される作用効果にすぎない旨判断し
た。
bしかしながら,本件審決が相違点1ないし3を正しく相違点とし
て認識すれば,相違点4も,刊行物1からは得られない作用効果で
あることは明白である。
したがって,本件審決における相違点4に係る容易想到性判断も
誤りである。
小括
以上によれば,本件審決における本件訂正発明1と引用発明との一致点及
び相違点の認定は誤りであり,かかる認定の誤りは本件審決の結論に影響を
及ぼすものである(取消事由1-1)。
また,本件訂正発明1と引用発明とが本件審決の認定した相違点1~4の
点で相違するとしても,本件審決における相違点1~4に係る容易想到性の
判断は誤りであり,本件訂正発明1は引用発明に基づいて容易に発明をする
ことができたものとはいえない(取消事由1-2)。
したがって,本件審決における本件訂正発明1の容易想到性に係る判断は
誤りである。
〔被告の主張〕
本件訂正発明1の特徴等について
ア集光レンズ付きCCDエリアセンサを2次元コード読取装置に適用する
場合の問題点について
TVカメラを用いるのが一般的であった本件特許の出願当時の2次元コ
ード読取装置の分野における当業者であれば,当然にTVカメラ(2次元
CCDカメラ)の技術常識にも知見があり,既に甲8~10において示さ
れている集光レンズ付き撮像素子の持つ問題点も当然に心得るべき技術常
識である。
したがって,本件特許の出願当時における2次元コード読取装置の分野
の当業者であれば,「集光レンズ付きCCDエリアセンサは光量不足を補
うのに有効であることが理解できる程度」に止まらず,当然に「集光レン
ズ付きCCDセンサを,2次元コードを読み取る光学情報読取装置に適用
する際の問題点」を想起する程度の技術常識も心得ていたはずである。
そして,引用発明は高速移送される物品に取り付けられた2次元コード
の位置を画面の中から高速に検出する装置であるから,高感度かつムラの
ないCCDが必要なことは明らかであり,原告のいう問題点(集光レンズ
付きCCDエリアセンサをそのまま2次元コードを読み取る光学情報読取
装置に適用したのでは,その読取機能を充分に発揮することができないと
いう点)にも,TVカメラにおける技術常識を心得た当業者であれば,当
然に想到し得たものである。
イ光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する周辺部に
位置する受光素子からの出力比を所定値以上とする点について
本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)には,「前記光学的セン
サの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周
辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように」する
旨の限定はあるものの,「常に」このような出力の比になる旨の限定がさ
れているわけではない。撮像素子の出力は,撮像対象となる被写体からの
像の形状や輝度を反映したものであるから,通常の使用時において,中心
部からの受光素子出力に対する周辺部からの出力比を常に所定値以上とす
ることは不可能である。
本件訂正発明1における上記発明特定事項は,例えば,一定の明るさで
一様な白色の板を撮像した場合等の特定の撮像状態のときの「出力の比」
が,所定値以上となる程度の意味であると解釈するのが妥当である。
ウ本件訂正発明1の効果の主張について
一般に,光学情報読取装置において周辺部での感度低下等が適切な読み
取りに悪影響を及ぼすことは,技術常識であり(甲2の1頁下右欄5行目
~2頁上左欄1行目,甲3の段落【0007】,【0008】参照),そ
の場合には照射光の光量や露光時間などの調整が困難となることも当然の
作用である。
そして,このような悪影響をもたらす周辺部での感度低下を抑制するこ
とが,中心部においても周辺部においても適切に読み取りが可能となり,
一画面の画像の中のどこに存するか判らない2次元コードの位置を高速に
検出できるようになるとの効果をもたらすことは明らかである。
したがって,原告の主張する本件訂正発明1の効果は,格別なものでは
ない。
取消事由1-1(本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定
の誤り)について
ア本件審決における引用発明の認定については,当事者間に争いはない。
本件審決は,本件訂正発明1が引用発明に基づいて当業者が容易に想到し
得たものであることを述べるに当たって,当業者の技術水準としての技術
常識を踏まえた判断を示したものであり,その判断方法に違法はない。
イ本件審決における認定について
一致点の認定
aCCDについて
本件審決は,刊行物1には,「2次元画像検出手段」の1つとして
「TVカメラ」が例示されているところ,甲5の「固体撮像素子40
4は,二次元のCCDカメラである。」,「前記CCDは,500×
500画素で構成された1/3インチの二次元アレイが好適する。」
等の記載からすると,このようなカメラで用いられるCCDは通常は
2次元アレイであるという技術常識を示した上で,この技術常識を参
酌して,引用発明の「2次元コード読取装置」における「CCD」も
「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置さ
れ,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素
子が2次元的に配列される」ものであることは,刊行物1に記載され
ているに等しい事項であると判断したものである。
このように,刊行物1における「CCD」は「2次元画像検出手
段」にほかならず,当該「2次元画像検出手段」としては「TVカメ
ラ」が例示されているのであるから,引用発明におけるCCDが2次
元配置であることは,刊行物1に記載されているに等しい事項であっ
て,本件審決が上記のとおり認定したことに誤りはない。
b結像レンズ及び絞りについて
本件審決は,技術常識を参酌して,「2次元コード読取装置」が当
然に備える構成として,刊行物1から「結像レンズ」「絞り」の存在
を導き出し,これを本件訂正発明1との一致点としているのであっ
て,刊行物1に記載のものが光学的センサから射出瞳位置までの距離
を設定するために,読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で
結像レンズに入射するよう,絞りを配置しているとか,集光レンズ付
き2次元配置CCDを用いているなどと判断したものではない。
本件審決は,集光レンズの採用及びこれに伴う結像レンズと絞りの
配置関係等については,本件訂正発明1と引用発明との相違点(相違
点2)として認定している。
本件審決が上記のとおり認定したことに誤りはない。
c以上によれば,本件審決における本件訂正発明1と引用発明との一
致点の認定に誤りはない。
相違点の認定について
a相違点1について
引用発明においても,当然結像レンズを備えているはずであるが,
結像レンズは必ずしも複数のレンズで構成されるとは限らず,単レン
ズで構成されることもあり得る。
したがって,引用発明の結像レンズを複数のレンズで構成されるも
のと認定し得ないことは明らかであり,本件審決の相違点1の認定に
誤りはない。
b相違点2について
刊行物1には光学系の詳細が開示されていないから,本件訂正発明
1のように「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後
で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,
前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」
たことが,刊行物1に記載されているに等しい事項であるとはいえな
い。
また,単なる「所定値」との用語にはゼロなども含むものであるか
ら,引用発明も「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子から
の出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの
出力の比が所定値以上となるように」されていることは明らかである
ものの,本件訂正発明1の特許請求の範囲の文脈からみて,そこでの
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する
前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定
値以上となるように」する点は,上記「前記読み取り対象からの反射
光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞
りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの
距離を相対的に長く設定し」との事項との因果関係をもった限定であ
ると認められるので,引用発明との一致点とはいい切れない限定であ
る。
したがって,本件審決の相違点2の認定にも誤りはない。
c以上によれば,本件審決における本件訂正発明1と引用発明との相
違点の認定に誤りはない。
ウ原告が主張する本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点を前提
としたとしても,以下のとおり,本件訂正発明1は引用発明に基づいて容
易に想到し得たものであり,本件審決はその論旨を事実上示しているとい
えるから,本件審決に誤りはない。
仮に,本件審決に誤りがあったとしても,その誤りは実質的なものでは
ないから,本件審決の結論に影響しないものである。
相違点Aについて
a本件特許の出願当時の技術常識
⒜甲8~10の記載によれば,光学的センサの受光量を増加し確保
するための光学系として,①複数の受光素子が2次元的に配列され
るとともに当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ,
②結像レンズ,③読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で
結像レンズに入射するように配置された絞りを備え,④光学的セン
サの中心部に位置する受光素子からの出力に対する周辺部に位置す
る受光素子からの出力の比が所定値以上となるように射出瞳位置が
設定されたものを採用することは,当業者の出願当時の技術常識で
ある(上記①について,甲8の段落【0002】~【0004】,
甲9の段落【0004】,甲10の段落【0004】。上記②及び
③について,甲8の段落【0006】~【0010】,甲9の【請
求項1】,甲10の【請求項1】~【請求項4】。)。
⒝結像レンズを単レンズとするか複数レンズとするかは,文献を挙
げるまでもない事項であり,設計時に用途やスペックに応じて選択
すべき事項にすぎない。
b引用発明に前記aの技術常識を適用する動機付け
刊行物1では光学的センサとして1次元的に配列されたCCD(リ
ニアセンサ)ではなく2次元的に配列されたCCD(エリアセンサ)
を用いることが予定されており(刊行物1の段落【0002】,【0
073】,段落【0034】~【0036】,【0055】),公知
ないし周知のエリアセンサの採用が示唆されている。
また,刊行物1は,受光した光の強さに応じた電気信号を2値化さ
れる信号として出力する光学的センサ(CCD)において,光学的セ
ンサに配列されたそれぞれの素子における受光により画像を読み取る
ものであり,それぞれの素子が画像を読み取るのに必要な電気信号を
出力するために十分な光量を確保する必要があるから,受光する光量
を増加させ十分な光量を確保するための構成としての光学系の採用が
示唆されている。刊行物1には,上記光学系を備えることは明示され
ていないが,刊行物1が光学系の工夫ではなく読み取られた後の信号
の処理を主眼とした発明を開示した文献であることからこの記載が省
略されているにすぎない(乙3,4参照)。
そして,引用発明は,「2次元コード読取装置」であるから,2次
元の像の撮像に適したものを採用することを要し,さらに,一般に,
2次元コード読取装置のような光学情報の読取装置においては,撮像
を行うためのセンサの周辺部での感度低下や輝度ムラが生じないこと
が望ましいから(刊行物1の段落【0027】,甲2の1頁右下欄5
行~2頁左上欄1行,甲3の段落【0004】~【0009】,乙5
の段落【0004】~【0006】,乙6の段落【0024】),そ
のための光学系として,そのような感度低下や輝度ムラが生じにくい
ものを採用すべきである。
甲8~10が属するカメラの光学系に小型化が求められており,刊
行物1が属する光学情報読取装置の光学系においても小型化が求めら
れるのであり(乙3の段落【0008】,乙4の段落【0028】,
乙7の段落【0019】,【0035】),受光量の確保,センサの
周辺部での感度低下等,小型化に対する対策が求められるという観点
からみれば,カメラの光学系と光学情報読取装置の光学系とは,同一
又は密接に関係する技術分野に属するものである。
c引用発明への前記aの技術常識の適用
光学的センサの受光量を増加し確保するための光学系として,①複
数の受光素子が2次元的に配列されるとともに当該受光素子毎に集光
レンズが設けられた光学的センサ,②結像レンズ,③読み取り対象か
らの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように配置さ
れた絞りを備え,④光学的センサの中心部に位置する受光素子からの
出力に対する周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上
となるように射出瞳位置が設定されたものを採用することは,技術常
識であり,また,結像レンズを複数レンズとするか否かは,選択事項
である。
そして,刊行物1は,エリアセンサを前提としたものであるととも
に,センサの受光量を増加し確保するための光学系の採用が示唆され
ている。さらに,「2次元コード読取装置」である以上は,2次元の
像の撮像に適し,周辺部での感度低下等が生じにくいものを採用すべ
きであるから,前記④のような周辺部での感度低下等に対する対策を
含む技術の採用が望まれるのであり,当業者であれば,光学情報読取
装置の光学系のみならず,受光量の確保,センサの周辺部での感度低
下等,小型化に対する対策が求められるという観点から同一又は密接
に関係する技術分野に属するカメラの光学系をも候補として,採用す
べき技術を選択するものである。
してみると,引用発明の光学的センサの受光量を増加し確保するた
めの光学系として,複数の受光素子が2次元的に配列されるとともに
当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ,複数のレン
ズで構成された結像レンズ,読み取り対象からの反射光が絞りを通過
した後で結像レンズに入射するように配置された絞りを採用し,それ
に伴って光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対す
る周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるよう
に射出瞳位置を設定することは,当業者が容易になし得たことである。
d原告の主張する相違点Aは,本件審決の認定した相違点1~3にお
おむね対応するものであり,相違点Aに係る前記容易想到性判断の内
容は,本件審決における周知例7~9の記載事項の認定(審決書36
頁23行から39頁25行),本件訂正発明1と引用発明との対比
(審決書41頁30行~42頁28行)及び相違点1~3に係る容易
想到性判断(審決書44頁27行~45頁27行)に事実上示されて
いる。
相違点Bについて
a本件特許の出願当時の技術常識
2値化されるセンサ出力の2値化を適切に行うために必要なレベル
のものに増幅することは,技術常識である(甲4の段落【0022】,
甲5の段落【0193】,乙5の段落【0027】,【0028】,
乙6の段落【0007】)。
b引用発明への前記aの技術常識の適用
刊行物1も,2値化を行う以上は,2値化を適切に行うために必要
なレベルの信号を得る必要があるから,上記技術常識を踏まえて引用
発明のセンサ出力である2次元画像検出手段からの走査線信号を増幅
することは,当業者が当然に行うことであって実質的な相違点ではな
い。
また,刊行物1の段落【0002】の記載において,CCDを用い
た2次元画像検出手段につき「カメラ」という文言が用いられている
ことを踏まえれば,引用発明において,CCDから出力される走査線
信号(を増幅した信号)を用いて「2値化(とそれに伴う増幅)」,
「所定の周波数成分比を検出」の各制御を行う「2値化手段(及び必
要な増幅手段)」及び「周波数成分比検出回路」を「カメラ部制御装
置」と称することは,たかだか表現上の違いにすぎないのであって,
実質的な相違点ではない。
c原告の主張する相違点Bについて述べたことは,本件審決における
本件訂正発明1と引用発明との対比(審決書42頁29行~35行)
に示されている。
相違点Cについて
a相違点Cに係る本件訂正発明1の発明特定事項について,その技術
的意義は,明確とはいえないが,本件明細書の段落【0011】,
【0042】の記載から「照射光の光量や露光時間などを調整するこ
とが容易となり,中心部においても周辺部においても適切に読み取り
が可能となる。」ことを意味するものと認められる。
照射光の光量や露光時間などの調整が容易となることで中心部にお
いても周辺部においても適切に読み取りが可能となるという機能ない
し作用を備えることは,甲8~10から認定される技術常識を踏まえ
れば,一般的な課題ないし当然の作用効果について特定したものにす
ぎないから,相違点A及びBの判断に伴って容易想到であるといわざ
るを得ないものである。
b原告の主張する相違点Cは,本件審決の認定した相違点4に対応し
ており,前記aで述べたことは,本件審決における相違点4の判断
(審決書45頁28行~35行)と事実上同じである。
取消事由1-2(相違点1~4に係る容易想到性判断の誤り)について
本件審決における相違点1~4に係る容易想到性の判断に誤りはない。
ア相違点1について
前記のとおり,本件審決の相違点1の認定に誤りはない。
また,本件審決は,引用発明において光学系の工夫を施すことが当然で,
刊行物1自体に記載されているとの判断をしたものではない。
ぎないから,相違点1に係る構成とすることは容易想到であり,この点に
関する本件審決の判断に誤りはない。
イ相違点2について
のとおり,本件審決の相違点2の認定に誤りはない。
また,本件審決は,集光レンズを備える2次元配置のCCDを用いるこ
とが刊行物1自体から読み取れるとか,刊行物1に記載の2次元CCDカ
メラが受光素子毎に集光レンズが設けられたものであるなどと判断したも
のでもない。
するために,受光素子毎に集光レンズを設けることは本件特許出願当時の
増加し確保するための光学系の採用が示唆されているから,当業者は,引
用発明に基づき,上記技術常識を適用して相違点2に係る構成を採用する
ことは容易想到であり,この点に関する本件審決の判断に誤りはない。
ウ相違点3について
本件審決は,射出瞳までの距離を相対的に長くすることや,光学的セン
サの中心部に位置する受光素子からの出力に対する周辺部に位置する受光
素子からの出力の比が所定値以上となるように射出瞳位置を設定すること
が,刊行物1に記載されていると認定したものではない。2次元画像検出
手段を「受光素子毎に集光レンズが設けられた」ものとするという相違点
2に係る本件訂正発明1の構成を引用発明に採用する際に,「撮像光学系
設計における技術常識」であるところの「集光レンズを設けた撮像装置に
おいては,周辺部での感度低下を防止するため,絞りをレンズよりも被写
体側に設ける等の,射出瞳を結像面からなるべく離した構造とする対策」
を採ること,本件訂正発明1の表現で換言すれば「前記読み取り対象から
の反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入射するよう,前記
絞りを配置することによって,前記光学的センサから射出瞳位置までの距
離を相対的に長く設定し」,「前記光学的センサの中心部に位置する受光
素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置する受光素子か
らの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を設定」するこ
とは,技術の具体化に際して必然的に採用する設計事項であると判断した
ものである。
したがって,相違点3に係る構成を採用することは容易想到であるとし
た本件審決の判断に誤りはない。
エ相違点4について
前記のとおり,本件審決による相違点1~3の認定及び判断には誤りが
ないから,これらの認定判断の誤りを前提として,相違点4に係る本件審
決の判断が誤りであるとする原告の主張は,失当である。
小括
以上によれば,本件訂正発明1の容易想到性に係る本件審決の判断に誤り
はなく,原告の取消事由1に係る主張は理由がない。
2取消事由2(本件訂正発明2の容易想到性に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件訂正発明2についても,特許法29条2項の規定により,
特許出願の際独立して特許を受けることができないものであると判断した。
しかし,本件訂正発明2は,本件訂正発明1の従属項に当たる発明であるか
ら,前記1のとおり,本件訂正発明1が引用発明から容易に想到し得たもので
はない以上,本件訂正発明2も引用発明から容易に想到し得たものではない。
したがって,本件審決における本件訂正発明2の容易想到性に係る判断は誤
りである。
〔被告の主張〕
前記1のとおり,本件訂正発明1の容易想到性に係る本件審決の判断に誤り
はない。
したがって,本件訂正発明1が引用発明から容易に想到し得たものではない
以上,本件訂正発明2も引用発明から容易に想到し得たものではない旨の原告
の取消事由2に係る主張は理由がない。
3取消事由3(明確性要件に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,本件訂正発明に係る特許請求の範囲の「露光時間などの調整で,
中心部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載は,
本件明細書(【0011】【0042】)に記載された効果を正しく表現して
おらず,その意味が不明確なものであると判断した。
しかしながら,請求項1の記載を素直に読めば,本件審決が指摘した上記部
分は,「光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する
カメラ部制御装置を備える光学情報読取装置」において,「読み取り対象から
の反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置する」
ことによって,「光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く」設
定し,「光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光
学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となる」
ようにした結果として得られる作用効果を記載したものであることがわかる。
すなわち,本件訂正発明1に係る光学情報読取装置は,「中心部においても
周辺部においても読み取りが可能」でないものに対して,「中心部においても
周辺部においても読み取りが可能」となるようにしたというのではなく,「中
心部においても周辺部においても読み取りが可能」であることをより一層明ら
かにしたものである。
そして,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取
が可能となるようにした」の要件が作用効果に係るものであることは,本件審
決でも相違点4において認定している。
したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は明確で
あり,本件審決の明確性要件に係る判断は誤りである。
〔被告の主張〕
本件審決は,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても
読取が可能となるようにした」との構成要件を明確でないと判断したのであっ
て,「露光時間などの調整で」との修飾句を除いた「中心部においても周辺部
においても読取が可能となるようにした」との記載を明確でないと判断したも
のではない。
「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能と
なるようにした」との記載は,本件訂正発明1に係る光学情報読取装置が「中
心部においても周辺部においても読取が可能」であることをより一層明らかに
したものであるとの原告の説明は,「露光時間などの調整で」との修飾句の存
在を無視したものであり,「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部
においても読取が可能となるようにした」との構成要件が明確であることの説
明にはならない。
したがって,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載が不明確
であるとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本件訂正発明について
本件訂正発明の特許請求の範囲(請求項1,2)の記載は,前記第2の2
に記載のとおりであるところ,本件明細書(甲13,14,16)には,本
件訂正発明について,次のような記載がある(下記記載中に引用する図面に
ついては,別紙1の本件明細書図面目録を参照。)。
ア発明の属する技術分野
「本発明は,2次元コードなどの読み取り対象に光を照射し,その反射
光から読み取り対象の画像を読み取る光学的読取装置に関する。」(段落
【0001】)
イ従来の技術
「従来,例えば2次元コードラベルなどの読み取り対象に光を照射し,
2次元コードラベルからの反射光を受光して2次元コードラベルの画像デ
ータである2次元コードデータを読み取る装置(2次元コードリーダ)が
知られている。この2次元コードリーダでは,2次元コードからの反射光
を結像レンズによって所定の読取位置に結像させ,その読取位置に配置さ
れた例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサによって2次元コード
データを読み取るようにしていた。なお,結像レンズは通常複数枚のレン
ズが組にされた組レンズとして構成されており,その中心付近に絞りが配
置されている。」(段落【0002】)
「ところで,例えばCCDエリアセンサなどの光学的センサでは,受光
した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配
列されている。そして,感度向上のため,例えば図5に示すように,受光
素子41a毎に集光用のマイクロレンズ(集光レンズと称す)41bが設
けられたCCDエリアセンサ41もある。これは,図5(a)に示すよう
に,受光素子41aに対して垂直に入射する光が集光レンズ41bによっ
て集光されることで見かけ上の開口面積を拡大し,感度を向上させるとい
うものである。」(段落【0003】)
ウ発明が解決しようとする課題
「しかしながら,図5(b)に示すように,受光素子41aに対して光
が斜めに入射した場合には,集光レンズ41bによって集光されることで
逆に受光素子41aへの集光率が低下し,その結果,感度が低下する。セ
ンサ単位で見てみると,図5(a)に示すように受光素子41aに対して
光が垂直に入射するのはセンサの中央部にある受光素子41aであり,セ
ンサ周辺部にある受光素子41aに対しては光が斜めに入射する。その結
果,図5(c)のグラフ中に実線で示すように,CCDエリアセンサ41
からの出力は,センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込
んだ状態となり,その周辺部において読取に必要な光量が確保できず,適
切な読み取りができないという問題も生じる。」(段落【0004】)
「そこで,上述したような受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的
センサを備えている場合に,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集
光レンズによる集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光
学情報読取装置を提供することを目的とするものである。」(段落【00
05】)
エ課題を解決するための手段及び発明の効果
「上記課題を解決するためになされた本発明の光学情報読取装置は,複
数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結
像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読
取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複
数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レン
ズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を
制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基
づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,
検出結果を出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装置にお
いて,前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像
レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的セ
ンサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサ
の中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺
部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射
出瞳位置を設定して,露光時間などの調整で,中心部においても周辺部に
おいても読取が可能となるようにしたことを特徴とする。」(段落【00
06】)
「本光学情報読取装置によれば,結像レンズが読み取り対象からの反射
光を所定の読取位置に結像させ,その読取位置に配置された光学的センサ
が読み取り対象の画像を受光する。ここで,光学的センサは,受光した光
の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列され
ていると共に,受光素子毎に集光レンズが設けられているため,結像レン
ズによって結像された読み取り対象からの反射光は,集光レンズによって
集光されて受光素子に入射する。」(段落【0007】)
「したがって,反射光が受光素子に対して垂直に入射する場合には,集
光レンズによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し,感度を
向上させる効果があるが,反射光が受光素子に対して斜めに入射する場合
には,集光レンズによって集光されることで逆に受光素子への集光率が低
下して感度が低下する原因ともなる。光学的センサ単位で見ると,センサ
の中央部にある受光素子には反射光が垂直に入射するが,センサ周辺部に
ある受光素子に対しては反射光が斜めに入射する傾向にある。そのため,
このセンサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が極力斜めにな
らないようにすれば,適切な読取の点で有効である。」(段落【000
8】)
「そこで,本光学情報読取装置においては,読み取り対象からの反射光
が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置している。
つまり,結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6(a)
参照)に比べて,複数のレンズで構成される結像レンズよりも前に配置し
た場合(図6(b)参照)には,光学的センサから絞りまでの光学的な距
離が相対的に長くなる。絞りよりも像側(つまり光学的センサ側)にある
光学系によって物体空間に生じる絞りの虚像を射出瞳(exitpupil)とい
うが,光学的センサから射出瞳までの距離(射出瞳距離)は,光学的セン
サから絞りまでの光学的距離が長くなれば,それに伴って長くなるため,
このような絞りの配置とすることで,結果的に光学的センサから射出瞳位
置までの距離を相対的に長く設定することができる。」(段落【000
9】)
「そして,光学的センサから射出瞳位置までの距離が長くなれば,セン
サ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる度合も,そ
れに伴って小さくなる。したがって,光学的センサの周辺部の受光素子に
対する集光レンズによる集光率の低下を極力防止することができ,適切な
読み取りの実現に寄与する。」(段落【0010】)
「最終的には適切な読み取りを実現することが目的であるので,本発明
の光学情報読取装置においては,光学的センサの中心部に位置する受光素
子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出
力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定している。このよう
にしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の
光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺
部においても適切に読取が可能となる。」(段落【0011】)
「なお,光学的センサとしては,例えばCCDエリアセンサなどを用い
ることが考えられる。」(段落【0012】)
オ発明の実施の形態
「図1は,実施例としての2次元コード読取装置4の概略構成図であり,
(a)は上面図,(b)は一部破断側面図,(c)は底面図である。また,
図2は照明部及び撮像部などの各部品が組み付けられて一体化された光学
モジュール40の概略断面図である。」(段落【0014】)
「本実施例の2次元コード読取装置4は携帯用であり,上ケース11a
と下ケース11bからなるケース12内に各種部品を組み込んだものであ
り,外観上,図1に示すように,装置後方部にケース本体部12a,装置
前方部にケースヘッド部12bを備え,ケースヘッド部12bはケース本
体部12aに対して下方に湾曲するように一体形成されている。なお,本
実施形態では,ケースヘッド部12bの中心軸はケース本体部12aの中
心軸に対して約70度下方に傾いている。」(段落【0015】)
「前記ケース本体部12aは操作者が手で握るための把持部としても機
能し,その上面には,情報を入力するためのキーパット74,読み込んだ
2次元コードなどを表示するための液晶ディスプレイ20,2次元コード
を読み込んだことを確認するための認識用LED21が設けられている。
そして,ケース本体部12aからケースヘッド部12bへ湾曲する部分に
は,赤外光を通過させるための通信プレート22が設けられており,ケー
スヘッド部12bの先端には読取口25が設けられている。」(段落【0
016】)
「一方,ケース本体部12aの内部には,上述したキーパット74,液
晶ディスプレイ20,認識用LED21に加えて,データ処理部27や電
源部30などが配置されている。電源部30には図示しない電池が電源と
して収納されており,電源回路によって各回路へ電源が供給される。また,
ケースヘッド部12bの内部には,上述した通信プレート22に面して通
信モジュール35が配置されており,ケースヘッド部12bのほぼ中心に
光学モジュール40が配置されている。」(段落【0019】)
「次に,光学モジュール40の詳しい構成について図2の概略断面図を
参照して説明する。なお,図2において二点鎖線で示したケースヘッド部
12bの外形は,光学モジュール40のケースヘッド部12b内における
概略的な位置を示すためのものである。」(段落【0020】)
「図2に示すように,光学モジュール40は,CCDエリアセンサ41
(受光手段に該当),鏡筒43,照明発光ダイオード45(発光手段に該
当),塵の侵入を防ぐ防塵プレート47,照射範囲制限部材49などを備
えている。なお,これらの概略的な位置関係は,ケースヘッド部12b先
端の読取口25から最も遠い位置にCCDエリアセンサ41が配置され,
読取口25に向けて,鏡筒43,防塵プレート47,照射範囲制限部材4
9の順番で配置されている。また,照明発光ダイオード45は鏡筒43の
周囲に配置されている。」(段落【0021】)
「前記鏡筒43は略円筒状に形成されており,図3(a)の斜視拡大図
および図3(b)の側面断面拡大図にて示すように,その内部に,円状の
絞り34a及び複数の結像レンズ34b,34cを備えている。そして,
絞り34aは,結像レンズ34b,34cよりも読取口25側に配置され
ている。そのため,2次元コードからの反射光は,防塵プレート47を通
過して入射側開口43aより鏡筒43に入射するが,鏡筒43内において
は,入射した反射光をまず絞り34aによって結像に利用される光線束の
大きさに制限した後,結像レンズ34b,34cによって所定の読取位置
に結像するようにして出射側開口43bより出射させる。」(段落【00
22】)
「この所定の読取位置に設けられているのがCCDエリアセンサ41で
あり,このCCDエリアセンサ41は,センサ基板42に取り付けられて
いる。そして,2次元的に配列された複数の受光素子41a(図5参照)
を有している。また,図5に示すように,各受光素子41aにはそれぞれ
集光用のマイクロレンズ(集光レンズ)41bが設けられており,鏡筒4
3内の結像レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された反射光
はこの集光レンズ41bによって集光されてから受光素子41aに受光さ
れる。このように,本実施例ではマイクロレンズ付きのCCDエリアセン
サ41を採用している。2次元コードの像を光電変換して読み取ったCC
Dエリアセンサ41は,像のパターンを表す電気信号としてデータ処理側
に出力する。」(段落【0023】)
「次に,2次元コード読取装置4の制御系統のブロック図である図4を
参照してさらに説明を進める。
本実施例の2次元コード読取装置4は,カメラ部制御装置50とシステム
制御装置70の2つの制御装置を備えており,それぞれで分担して各種制
御を行っている。」(段落【0027】)
「まず,カメラ部制御装置50側に関連する構成としては,CCDエリ
アセンサ41と,AGCアンプ52と,ローパスフィルタ(LPF)53
と,基準電圧生成部54と,負帰還アンプ55と,補助アンプ56と,2
値化回路57と,周波数分析器58と,A/D変換器59と,画像メモリ
60と,画像メモリコントローラ61と,メモリ62と,照明発光ダイオ
ード(照明LED)45などが挙げられる。」(段落【0028】)
「CCDエリアセンサ41は,2次元的に配列された複数の受光素子で
あるCCDを有しており,外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走
査線信号として出力する。この走査線信号はAGCアンプ52によって増
幅されて補助アンプ56及びA/D変換器59に出力される。」(段落
【0029】)
「AGCアンプ52は,外部から入力したゲインコントロール電圧に対
応する増幅率で,CCDエリアセンサ41から出力された走査線信号を増
幅するのであるが,このゲインコントロール電圧は負帰還アンプ55から
出力される。」(段落【0030】)
「補助アンプ56は,AGCアンプ52によって増幅された走査線信号
を増幅して2値化回路57に出力する。この2値化回路57は,上記走査
線信号を,閾値に基づいて2値化して周波数分析器58に出力する。周波
数分析器58は,2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を
検出し,その検出結果は画像メモリコントローラ61に出力される。」
(段落【0031】)
「このような構成の本実施例の2次元コード読取装置4によれば,結像
レンズ34b,34c(図3参照)によって結像された2次元コードから
の反射光は,CCDエリアセンサ41において,集光レンズ41bによっ
て集光されてから受光素子41aに入射する。したがって,図5(a)に
示すように,受光素子41aに対して垂直に入射する光は,集光レンズ4
1bによって集光されることで見かけ上の開口面積が拡大し,感度を向上
させる効果があるが,図5(b)に示すように,受光素子41aに対して
斜めに入射する光は,集光レンズ41bによって集光されることで逆に受
光素子41aへの集光率が低下して感度が低下する原因ともなる。特に,
CCDエリアセンサ41の中央部にある受光素子41aには反射光が垂直
に入射するが,センサ周辺部にある受光素子41aに対しては反射光が斜
めに入射する傾向にある。」(段落【0039】)
「この周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光が極力斜め
にならないようにするため本実施例の2次元コード読取装置4では,図3
に示すように,鏡筒43内において絞り34aを結像レンズ34b,34
cよりも読取口25(図1,2参照)側に配置している。つまり,2次元
コードにより反射された赤色光がまず絞り34aを通過し,その後,結像
レンズ34b,34cに入射するよう,絞り34aが配置されている。こ
れにより,結像レンズの複数のレンズ間に介装されていた場合(図6
(a)参照)に比べて,複数のレンズで構成される結像レンズ(図3の3
4b,34cが相当する)よりも前に配置した場合(図6(b)参照)に
は,CCDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的な距離が相対的
に長くなる。」(段落【0040】)
「CCDエリアセンサ41から射出瞳までの距離(射出瞳距離)は,C
CDエリアセンサ41から絞り34aまでの光学的距離が長くなれば,そ
れに伴って長くなるため,本実施例のように絞り34aを結像レンズ34
b,34cよりも前(読取口25側)に配置することで,結果的にCCD
エリアセンサ41から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定すること
ができる。そして,CCDエリアセンサ41から射出瞳位置までの距離が
長くなれば,センサ周辺部にある受光素子41aに対して入射する反射光
が斜めになる度合も,それに伴って小さくなる。したがって,図5(c)
のグラフ中に破線で示すように,CCDエリアセンサ41の周辺部の受光
素子41aに対する集光レンズ41bによる集光率の低下を極力防止する
ことができ,適切な読み取りの実現に寄与する。」(段落【0041】)
「なお,適切な読み取りを実現するためには,センサ周辺部にある受光
素子41aからの出力レベルが所定レベル以上になる必要がある。そのた
め,例えば,センサ中心部に位置する受光素子41aからの出力に対する
センサ周辺部に位置する受光素子41aからの出力の比が所定値以上とな
るよう射出瞳位置を設定することが考えられる。つまり,このような射出
瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。このようにし
ておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照射光の光量
や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても周辺部に
おいても適切に読取が可能となる。そして,絞り34aの位置を設定する
場合においても利点がある。つまり,結像レンズ34b,34cの間に絞
り34aが存在する構成の場合には,絞り34aの位置を変更すると,そ
れに伴って結像レンズ34b,34cの位置も変更しなくてはならなくな
るが,結像レンズ34b,34cよりも前に絞り34aが存在する本実施
例の場合には,結像レンズ34b,34cの位置はそのままで絞り34a
の位置だけを変更することができる。」(段落【0042】)
記載によれば,本件訂正発明の課題,構成及びその効果は以下の
とおりであると認められる。
ア従来から,光学情報読取装置として,例えば2次元コードラベルなどの
読み取り対象に光を照射し,2次元コードラベルからの反射光を受光して
2次元コードラベルの画像データである2次元コードデータを読み取る2
次元コードリーダが知られていた。この従来からの2次元コードリーダで
は,2次元コードからの反射光を結像レンズによって所定の読取位置に結
像させ,その読取位置に配置された例えばCCDエリアセンサなどの光学
的センサによって2次元コードデータを読み取るようにしており,結像レ
ンズは,通常複数枚のレンズが組にされた組レンズとして構成され,その
中心付近に絞りが配置されている。
そして,ここで用いられるCCDエリアセンサなどの光学的センサには,
受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的
に配列されており,受光素子の感度向上のため,受光素子毎に集光用のマ
イクロレンズ(集光レンズ)が設けられたものもあった。
これは,受光素子に対して垂直に入射する光が集光レンズによって集光
されることで,見かけ上の開口面積を拡大し,感度を向上させるというも
のであるが,受光素子に対して光が斜めに入射した場合,集光レンズによ
って集光されることで,逆に受光素子への集光率が低下し,その結果,感
度が低下するという問題,すなわち,受光素子に対して光が垂直に入射す
るのはセンサの中央部にある受光素子であり,センサ周辺部にある受光素
子に対しては光が斜めに入射する結果,CCDエリアセンサからの出力は,
センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり,
その周辺部において読み取りに必要な光量が確保できず,適切な読み取り
ができないという問題があった。
イ本件訂正発明は,受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを
備える場合において,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レン
ズによる集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報
読取装置を提供することを課題とするものである。
そして,本件訂正発明は,上記課題の解決手段として,複数のレンズで
構成され,読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像
レンズと,前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置
され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子
が2次元的に配列されると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられ
た光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り
と,前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化
し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を
出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装置において,前記
読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レンズに入
射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的センサから射
出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,前記光学的センサの中心部に
位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサの周辺部に位置す
る受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前記射出瞳位置を
設定するという構成を採用し,露光時間などの調整で,中心部においても
周辺部においても読取が可能となるようにしたものである。
ウ本件訂正発明によれば,複数の受光素子が2次元的に配列されるととも
に,受光素子毎に集光レンズが設けられている光学的センサにおいて,読
み取り対象からの反射光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するよう,
絞りを配置して,光学的センサから絞りまでの光学的な距離が相対的に長
くなるようにし,それに伴って,光学的センサから射出瞳位置までの距離
を相対的に長く設定し,その結果,センサ周辺部にある受光素子に対して
入射する反射光が斜めになる度合を小さくして,光学的センサの周辺部の
受光素子に対する集光レンズによる集光率の低下を防止することができる。
ここで,射出瞳位置を,光学的センサの中心部に位置する受光素子からの
出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が
所定値以上となるように設定し,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら
照射光の光量や露光時間などを調整することで,中心部においても周辺部
においても適切な読み取りが可能となる。
2引用発明について
引用発明が,前記第アに記載のとおりであることについては,当
事者間に争いがない。
刊行物1(甲1)には,引用発明について,概略,次のような記載がある
(下記記載中に引用する図面については,別紙2の刊行物1図面目録を参
照。)。
ア特許請求の範囲
「【請求項1】2進コードで表されるデータをセル化して,2次元のマ
トリックス上にパターンとして配置し,マトリックス内の,少なくとも2
個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ
周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した
2次元コードを読み取るための2次元コード読取装置であって,2次元画
像検出手段と,上記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,
上記周波数成分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路と,を備
えたことを特徴とする2次元コード読取装置。」
「【請求項5】更に,上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値
化して上記周波数成分比検出回路に送信する2値化手段と,上記2値化さ
れた走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調
節する2値化調節手段と,を備えた請求項1~4のいずれか記載の2次元
コード読取装置。」
イ発明の詳細な説明
産業上の利用分野
「本発明は,コンピュータ等に情報を入力するための光学的に読み取
り可能なコード,特に2進コードで表されるデータをセル化して,2次
元のマトリックス上にパターンとして配置した2次元コードを読み取る
ための2次元コード読取装置に関する。」(段落【0001】)
従来の技術
「一般的に2次元コードの読み取りは,TVカメラ等の2次元画像検
出手段から画像を取り込み,まず,対象の2次元コード位置を検出して
コードのみを切り出す。次に切り出された2次元コードからコードの大
きさを求め,データセルの座標を求め,データセルの「0」,「1」
(黒,白)判別をしキャラクター情報に変換する。」(段落【000
2】)
「このような2次元コードは,バーコードとは異なり狭小な面積で比
較的多くの情報を持つことができる。」(段落【0003】)
発明が解決しようとする課題
「これまでの2次元コードは,誤り検出・訂正符号などの符号化理論
を使用して高精度の読み取り等ができるように考慮されている。しかし
2次元コードの読み取り処理は,下に述べるごとく高性能なCPUによ
るソフトウェア処理に頼っているのが現状であり,高速読み取りという
点で問題がある。」(段落【0004】)
「これは,2次元コード自体が高速読み取りに適したコード構成にな
っておらず,また2次元コードの回転に対する処理に適したコード構成
でもないからである。例えば,従来例としての特開平2-12579号
には,マトリックスの2辺は暗(黒)部のみの辺とし,他の2辺は明
(白)部と暗部とが交互に繰り返す点線状の辺とし,この4辺をその特
徴から検出して,マトリックスの方向を決定しているものである。しか
し,このマトリックスは,得られた画像をあらゆる方向から,上記4辺
のパターンの特徴が現れるまで走査して,その位置と回転角度を決定し
なくてはならない。」(段落【0005】)
「他の従来例としての特開平3-38791号は,上記特開平2-1
2579号と類似の位置決め用境界を2方向に設けているが,この位置
決め用境界のパターンの特徴が現れるまで走査して,その位置と回転角
度を決定しなくてはならない点については,特開平2-12579号と
同様である。」(段落【0006】)
「またマトリックスの画像の大きさが一定とは限らないので,そのセ
ルの位置も予め設定した間隔で予想するとずれが生じる。また明部や暗
部が連続する場合も,読み取り方式によっては検出にずれを生じる。特
開平2-12579号では,2辺に点線状に明暗のセルが配置されてい
るので,その配置方向さえ決定されればその2辺の明暗の位置から,全
体のセルの位置を正確に予測でき,読み取りも正確なものとなる。特開
平3-38791号でも,2辺以上に直線状に暗のセルが配置されてい
るので,その配置方向さえ決定されればその2辺以上の明暗の位置から,
全体のセルの位置を正確に予測でき,読み取りが正確となる点について
は同様である。」(段落【0007】)
「しかし,このように大量のセルを各セルの位置を決定させるための
みに使用することは,マトリックス全体の情報量を低下させることにな
り好ましくない。更に,周囲に配置された特徴的なパターンの4辺と同
じパターンがデータ領域にも生じることがあり,また読み取り方向によ
っても周囲の4辺と同じパターンが生じることもある。したがって読み
取りに複雑な処理が必要であり,読み取りに時間がかかるという問題が
あった。」(段落【0008】)
「元来,2次元コードは,バーコードなどに比べて処理するデータ量
が多いために,デコード時間が非常に長くかかる。このことに加えて,
上述した問題点から,取り込んだ画像データから2次元コードだけを切
り出す処理に時間がかかった。」(段落【0009】)
「更に,それ以前に,2次元コードが一定しないあらゆる角度の回転
状態で読み取り装置に入力されるので回転角度検出,座標変換処理が必
要になり,デコード前処理にも時間がかかった。よって本発明は,全方
向で高速読み取りができ,さらに読み取り精度が高い2次元コード読取
装置を提供することを目的としている。」(段落【0010】)
課題を解決するための手段
「請求項1記載の発明は,図15に実線で例示するごとく,2進コー
ドで表されるデータをセル化して,2次元のマトリックス上にパターン
として配置し,マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各
々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得ら
れるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コードを読
み取るための2次元コード読取装置であって,2次元画像検出手段と,
上記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,上記周波数
成分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路と,を備えたこと
を特徴とする2次元コード読取装置である。」(段落【0011】)
「請求項5記載の発明は,図15に破線で例示するごとく,更に,上
記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記周波数成分比
検出回路に送信する2値化手段と,上記2値化された走査線信号の状態
に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調節する2値化調節手
段と,を備えた請求項1~4のいずれか記載の2次元コード読取装置で
ある。」(段落【0015】)
作用及び発明の効果
「請求項1記載の2次元コード読取装置は,少なくとも2個所の所定
位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成
分比が得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元
コードを読み取るための装置であり,その周波数成分比検出回路が,上
記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,上記周波数成
分比の信号の存在を検出している。」(段落【0021】)
「このため,2次元画像を画像処理して,2次元コードが存在するか
否かを判断しなくても,単に周波数成分比検出回路が走査線信号中から,
位置決め用シンボルを表す周波数成分比の信号を検出すれば,上記2次
元画像中に2次元コードが存在していることが判明する。したがって,
周波数成分比検出回路から検出された後,初めてその検出された2次元
画像から,2次元コードの切り出し(配置の決定)をして,解読にかか
れば良いのであって,従来のごとく2次元画像内を複雑な画像処理をし
て,長時間2次元コードを探し回る必要がなく,処理が極めて迅速化さ
れ,高速に移動する2次元コードが取り付けられた物品の読み取りに支
障を来さない。」(段落【0022】)
「更に,上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記
周波数成分比検出回路に送信する2値化手段と,上記2値化された走査
線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調節する
2値化調節手段とを設けても良い。デジタル的に走査線信号を処理する
場合は,走査線信号を適当な閾値にて2値化する。しかし,例えば,照
明や場所による反射の違いにより,2次元画像から閾値を用いて2値化
する場合に,適切に2値化される場所と適切に2値化されない場所とが
存在する場合がある。このような状態が発生していると,2次元コード
が存在していても,そのセルの明暗変化パターンが検出されない場合が
生ずる。」(段落【0027】)
「したがって,2値化調節手段は,上記2値化された走査線信号の状
態に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調節することにより,
2次元画像のほぼ全域が適切な2値化がなされるようにしている。例え
ば,走査線信号を2値化手段が2値化した場合に,ほとんど全てが
「1」になっている領域が存在した場合には,その領域での閾値を高く
し,ほとんど全てが「0」になっている領域が存在した場合には,その
領域での閾値を低くする処理を,2値化調節手段は実施すれば良い。こ
のことにより,2次元コードのセルの明暗パターンの検出が正確かつ容
易となる。」(段落【0028】)
実施例
「[実施例1]図1に一実施例としての2次元コード読取装置2のブ
ロック図を示す。2次元コード読取装置2は,CCD4,2値化回路6,
周波数成分比検出回路8,シリアル-パラレル変換回路10,アドレス
発生回路12,アドレスラッチ回路14,メモリ回路16,18,フレ
ーム検出回路20,タイミング発生回路22,およびCPU24を備え
ている。」(段落【0033】)
「CCD4は,外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走査線信
号として出力する。2値化回路6は,上記走査線信号を,閾値に基づい
て2値化する。周波数成分比検出回路8は,後述する回路構成に基づい
て2値化された走査線信号の内から所定の周波数成分比を検出する。シ
リアル-パラレル変換回路10は,2値化回路6からシリアル信号とし
て出力される走査線信号をパラレル信号(例えば8ビット)に変換し,
メモリ回路16,18に送信している。アドレス発生回路12は,タイ
ミング発生回路22のクロック信号により順次,メモリ回路16,18
における書き込みアドレスを発生し,メモリ回路16,18およびアド
レスラッチ回路14に送信している。アドレスラッチ回路14は周波数
成分比検出回路8にて所定の周波数成分比が検出されたことを表す信号
(ラッチ信号)を受けると,アドレス発生回路12からのアドレス信号
をラッチして,そのアドレスデータをメモリ回路16,18に書き込
む。」(段落【0034】)
「フレーム検出回路20は,CCD4からのフレーム切換信号を受け
て,偶数番目のフレームに該当する2値化された走査線信号は一方のメ
モリ回路16へ,奇数番目のフレームに該当する2値化された走査線信
号は他方のメモリ回路18へ書き込まれるように,またアドレスラッチ
回路14からのアドレスデータの書き込みも同様になされるように,メ
モリ回路16,18のゲートを制御する。タイミング発生回路22は,
特に,周波数成分比検出回路8,シリアル-パラレル変換回路10およ
びアドレス発生回路12の間のタイミングをとるためのクロック信号を
発生している。CPU24は,マイクロコンピュータとして構成されて
おり,フレーム検出回路20の出力信号に応じて,メモリ回路16また
はメモリ回路18に交互にアクセスして,後述するごとく,読み込まれ
た一画面分の画像データの2次元コード処理を実施している。」(段落
【0035】)
「図2にCCD4から周波数成分比検出回路8に至る走査線信号の一
例を示す。図2(a)はCCD4から出力されるアナログの走査線信号
を表し,図2(b)は2値化回路6から出力される2値化された走査線
信号を表している。周波数成分比検出回路8では,この2値化後の走査
線信号の連続する「1」,「0」の幅d0~dnの比が,所定の比であ
る場合に所定の周波数成分比が検出されたとして,検出されたことを示
す信号(ラッチ信号)をアドレスラッチ回路14に出力する。」(段落
【0036】)
「ここで,2次元コード読取装置2にて検出される2次元コードの一
例を図4に示す。この2次元コード52は,白色の台紙53の上に印刷
されており,3個の位置決め用シンボル54,データ領域56,原点セ
ルCstから構成されている。これら全体はセル数が縦横同数(21セ
ル×21セル)の正方形状に配置されている。各セルは,光学的に異な
った2種類のセルから選ばれており,図および説明上では白(明)・黒
(暗)で区別して表す。尚,図4では便宜上,データ領域56のデータ
セルのパターンは省略している。」(段落【0046】)
「位置決め用シンボル54は,2次元コード52の4つの頂点の内,
3つに配置されている。そのセルの明暗配置は,黒部からなる枠状正方
形54a内の中心に白部からなる縮小した枠状正方形54bが形成され,
その内の中心に黒部からなる更に縮小した正方形54cが形成されてい
るパターンである。」(段落【0047】)
「この位置決め用シンボル54を走査した場合の明暗検出を図5に示
す。図5(A)に示すように,位置決め用シンボル54の中心を代表的
な角度で横切る走査線(a),(b),(c)での明暗検出パターンは,
図5(B)に示すごとく,すべて同じ周波数成分比を持つ構造になって
いる。即ち,位置決め用シンボル54の中心を横切るそれぞれの走査線
(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:明:暗=1:1
:3:1:1となっている。勿論,走査線(a),(b),(c)の中
間の角度の走査線においても比率は1:1:3:1:1である。また,
図5(A)の図形が,CCD4側から斜めの面に配置されていたとして
も,上記走査線(a),(b),(c)の周波数成分比は暗:明:暗:
明:暗=1:1:3:1:1となる。」(段落【0048】)
「尚,図5(B)は,2値化回路6からの2値化された走査線信号に
該当する。次に上述した2次元コード52の内容を解読するために,2
次元コード52の存在および配置を認識する処理のフローチャートを図
6に示す。本処理は,CPU24により実行される。」(段落【004
9】)
「まず,CPU24において,処理が開始されると,位置決め用シン
ボル54の検出がなされる。既に,アドレスラッチ回路14にて画像デ
ータ内に記憶されているアドレスデータおよびマージンデータを全て読
み込み,位置決め用シンボル54の位置を検出する(ステップ100)。
尚,アドレスデータがまったく存在しなければ,直ちに2次元コード処
理を終了する。」(段落【0056】)
「アドレスデータが存在すれば,ノイズでなければ,そのアドレスは,
図7に領域Z1,Z2,Z3で示したごとくの位置に該当する。この各
領域Z1,Z2,Z3には,図7に示す線上に並んだ多数のアドレスデ
ータが存在する。ステップ100では,まずこのアドレスデータをグル
ープ分けする。例えば,データをX座標の値でソートしてX座標が近い
グループに分け,更に,その各グループをY座標の値でソートしてY座
標が近いグループに分ける。このようにすることにより,アドレスデー
タから領域Z1,Z2,Z3に該当するグループが得られる。そして,
各グループの中心となる位置を計算する。例えば,XY座標の平均値を
計算することにより,中心位置を位置決め用シンボル54の位置として
検出する。」(段落【0057】)
「また,他のグループに比較してアドレスデータの数が非常に少ない
グループが存在した場合には,ノイズであるとして,そのグループを排
除しても良い。こうして得られた位置決め用シンボル54の位置の数を
チェックし,その位置決め用シンボル54が有効か否かを判定する(ス
テップ110)。図4,図7の例では,位置決め用シンボル54は,3
つ存在するので,3つの位置が決定されれば,有効として次の処理に移
る。3つ未満の場合は,有効な位置決め用シンボル54が検出されなか
ったものとして2次元コード処理を終了する。」(段落【0058】)
「また3つを越える数が検出された場合には,その中に位置決め用シ
ンボル54ではないものが含まれているので,ステップ100に戻って,
異なる方法で位置決め用シンボル54の位置を検出する。異なる方法と
は,例えばメモリ回路16,18にある1フレームのデータを縦方向に
走査して,ソフト的に所定周波数成分比が得られる位置を検出し,その
中心位置を求めて,再度ステップ110にてチェックする。それが3つ
で有れば次の処理に移る。勿論,先に検出された3つを越える位置決め
用シンボル54の位置の周辺に限って,縦方向の走査を行えば処理が迅
速となる。」(段落【0059】)
「これ以外の方法として,例えば,3つを越える数の位置それぞれに
対して,その位置またはその位置近傍で,位置決め用シンボル54の形
状のパターンマッチングを実施して,マッチングの程度が低いものを排
除して,再度ステップ110にて残った数を判定しても良い。残った位
置の数が3つであれば,次の処理に移る。」(段落【0060】)
「次のステップ120処理は,上述のごとく決定された位置決め用シ
ンボル54の3つの位置が,2次元コード52内のいかなる位置の位置
決め用シンボル54であるかを決定する配置決定処理である。ここでは,
図8に示すごとく,ステップ100で得られた3つの位置決め用シンボ
ル位置S1,S2,S3の間を直線j1,j2,j3で結び,その間の
角度θ1,θ2,θ3を算出する。この角度θ1,θ2,θ3の内から
約90°の角度が存在するかを判定する。図8の例では位置S2での角
度θ2が約90°である。次に,その両側の直線j1,j2の長さがほ
ぼ等しいか否かを判定する。図8における直線j1,j2は長さがほぼ
等しい。したがって,図4の2次元コード52において,右上の位置決
め用シンボル54が位置S1に該当し,左上の位置決め用シンボル54
が位置S2に該当し,左下の位置決め用シンボル54が位置S3に該当
することが判明する。」(段落【0061】)
「このように,3つの位置決め用シンボル位置S1,S2,S3の間
を直線j1,j2,j3で結び,その間の角度θ1,θ2,θ3に約9
0°となる角度が存在し,その両側の直線の長さがほぼ等しければ,位
置決め用シンボルの配置が決定し,次の処理に移る。尚,角度90°の
位置S2に交差する直線j1,j2の傾きから2次元コード52の傾き
が判明する。」(段落【0062】)
「ステップ120にて3つの位置決め用シンボル54の配置が決定す
ると,ステップ100にて決定した位置決め用シンボル54の位置とそ
の位置決め用シンボル54の配置とにより,2次元コード52全体の姿
勢が判明するので,図11に示すごとく,実際の2次元コード52(図
4)では,直交している直線j1,j2の長さ,および走査線方向Lに
対する傾きα,βに基づいて,位置決め用シンボル54の形状を推定し
て,図4における各位置決め用シンボル54の左上のコーナセルCs0
の位置を算出する(ステップ130)。」(段落【0065】)
「次に,各位置決め用シンボル54の残りのコーナセルCs1,Cs2,
Cs3の位置および原点セルCstを,直交している直線j1,j2の長
さ,および走査線Lに対する傾きα,βに基づいて決定する(ステッ
プ140)。」(段落【0066】)
「ステップ140にて位置決め用シンボル54の四隅のセルと原点セ
ルCstとが決定すると,次に,図12に示す2次元コード52の4辺
G1,G2,G3,G4のセル毎の位置を検出する(ステップ15
0)。」(段落【0067】)
「次に,4辺G1,G2,G3,G4におけるセル毎の位置に基づい
て,データ領域56内の全データセルの位置を決定する(ステップ16
0)。」(段落【0069】)
「次に,こうして位置が決定されたデータセルの明暗の内容を,定め
られた順番で読み込んで,データセルの解読を行ってその結果を記憶し
たり,他の装置に出力したり,あるいは表示したりして(ステップ17
0),処理を終了する。」(段落【0070】)
「本実施例は,上述のごとく,周波数成分比検出回路8によりハード
的に位置決め用シンボル54の存在を示す周波数成分比の有無を検出し
ているので,ソフト的に画像処理しなくても2次元コード52が画像中
に存在するか否かが判明する。周波数成分比検出回路8によるハード的
な処理は極めて迅速である。周波数成分比検出回路8の検出により2次
元コード52の存在の可能性がある場所が判明している状態で,ソフト
処理がなされるので,ソフト処理も2次元コード52を探すという時間
のかかる処理が不要となる。したがって,物品Wが高速に移送されてい
ても,読み逃したり,読み誤ることなく,2次元コード52のコードの
解読が可能となる。逆に,2次元コード読取装置2の解読が迅速なので,
物品Wを高速に移送でき,移送効率を上げることができ,物品Wの生産
ラインに悪影響を及ぼすことがない。」(段落【0071】)
「また,図5にて示したごとく,2次元コード52がいかなる方向に
回転していても,また斜めの面に配置されていても,一定方向の走査処
理のみで位置決め用シンボル54の持つ特定周波数成分比を検出するこ
とができる。このため走査方向を繰り返し何度も変更して基準となる所
定のパターンを検出する必要がない。このことからも,2次元コード5
2の位置が迅速に特定でき,その後のソフト処理も早期に開始でき
る。」(段落【0072】)
「またこのように少なくとも位置決めは一方向の走査のみで済むので,
TVカメラ等の画像検出装置から取り込んだ画像に,2次元コード52
以外の各種のノイズが検出されていても,ノイズが2次元コード52か
否かを,走査する方向を変えて何度も判定処理することがなく,直ちに
2次元コード52の位置が判明する。更にそれ以後は検出された位置決
め用シンボル54の周辺だけを検索すればよく,高速にデータ領域のコ
ードが切り出される。」(段落【0073】)
「上記実施例において,CCD4が2次元画像検出手段に該当し,ア
ドレスラッチ回路14が位置検出手段に該当し,2値化回路6が2値化
手段に該当し,メモリ回路16,18が画像データ記憶手段に該当し,
アドレスラッチ回路14がシンボル位置記憶手段に該当し,ステップ1
00~160がコード位置決定手段としての処理に該当し,ステップ1
70がコード読取手段としての処理に該当し,ステップ100,110
が処理禁止手段としての処理に該当する。」(段落【0074】)
「[実施例2]図13に他の構成の2次元コード読取装置202を示
す。本2次元コード読取装置202と実施例1の2次元コード読取装置
2との違いは,2値化制御回路204が追加されている点である。」
(段落【0075】)
「2値化制御回路204は,CPU24によるデータセルの読み取り
において,例えば,ほとんど白部として認識されたり,黒部として認識
されたりする領域が現われた場合に,そのような領域においては,2値
化回路6における閾値が不適切であると考えられる。したがって,2値
化制御回路204は,CPU24の指示により,アドレスにより閾値を
変化させるためのアドレス-閾値変更テーブルを記憶して,アドレス発
生回路12のアドレスに応じて2値化回路6の閾値を変更している。」
(段落【0076】)
「CPU24の処理としては,例えば,ステップ160のデータセル
の位置検出時や,ステップ170のデータセルの解読時に,データセル
の「1」,「0」の変化をチェックしてほとんど変化しない領域の直前
のアドレスを,2値化制御回路204に対して,閾値の変更値とともに
記憶する。例えば,CPU24は,ほとんど「1」(白部)の領域が現
われる直前のアドレスについては,閾値を高める変更値を設定し,ほと
んど「0」(黒部)の領域が現われる直前のアドレスについては,閾値
を低める変更値を設定する処理を行う。」(段落【0077】)
「更に,1段階では,まだ一部に,ほとんど白部または黒部として認
識される領域が残っている場合には,更に,必要に応じて2段階,3段
階と閾値の変更値を設定すれば良い。このように構成することにより,
照明や場所による反射の違いにより,適切に2値化される場所と適切に
2値化されない場所とが存在する状態が発生している場合でも,CPU
24の指示により2値化制御回路204が,2値化された走査線信号の
状態に応じて,2値化回路6による2値化の閾値を調節する。このこと
により,2次元画像のほぼ全域が適切な2値化がなされ,CPU24は
データセルの明暗パターンを正確に読み取ることができる。」(段落
【0078】)
「上記構成において,2値化制御回路204が2値化調節手段に該当
する。」(段落【0079】)
引用発明の課題,構成及びその効果は以下のとお
りであると認められる。
ア2次元コード読取装置における一般的な2次元コードの読み取りは,T
Vカメラ等の2次元画像検出手段から画像を取り込み,対象の2次元コー
ド位置を検出してコードのみを切り出し,切り出された2次元コードから
コードの大きさを求め,データセルの座標を求め,データセルの「0」,
「1」(黒,白)判別をしてキャラクター情報に変換するというものであ
る。
従来から用いられている2次元コードは,誤り検出・訂正符号などの符
号化理論を使用して高精度の読み取り等ができるように考慮されているが,
2次元コードの読み取り処理は,高性能なCPUによるソフトウェア処理
に頼っているのが現状であり,高速読み取りという点で問題があった。
すなわち,2次元コード自体が高速読み取りに適したコード構成になっ
ておらず,また,2次元コードの回転に対する処理に適したコード構成で
もないため,読み取りに複雑な処理が必要であり,読み取りに時間がかか
るという問題があった。
元々,2次元コードは,バーコードなどに比べて処理するデータ量が多
いために,デコード時間が非常に長くかかるのに加え,上記問題点により,
取り込んだ画像データから2次元コードだけを切り出す処理に時間がかか
った。さらに,それ以前の問題として,2次元コードが一定しないあらゆ
る角度の回転状態で読み取り装置に入力されるので,回転角度検出,座標
変換処理が必要になり,デコード前処理にも時間がかかった。
イ引用発明は,上記アの2次元コードの問題点に鑑み,全方向で高速読み
取りができ,さらに読み取り精度が高い2次元コード読取装置を提供する
ことを課題とし,その解決手段として,2進コードで表されるデータをセ
ル化して,2次元のマトリックス上にパターンとして配置し,マトリック
ス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切
る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め
用シンボルを配置した2次元コードを読み取るための2次元コード読取装
置であって,2次元画像検出手段と,上記2次元画像検出手段から出力さ
れる走査線信号中での,上記周波数成分比の信号の存在を検出する周波数
成分比検出回路とを備え,さらに,上記2次元画像検出手段からの走査線
信号を2値化して上記周波数成分比検出回路に送信する2値化手段と,上
記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値化
の閾値を調節する2値化調節手段とを備えるという構成を採用した。
ウ引用発明によれば,2次元画像を画像処理して2次元コードが存在する
か否かを判断しなくても,単に周波数成分比検出回路が走査線信号中から
位置決め用シンボルを表す周波数成分比の信号を検出すれば,2次元画像
中に2次元コードが存在していることが判明するから,周波数成分比検出
回路から検出された後,初めてその検出された2次元画像から2次元コー
ドの切り出し(配置の決定)をして解読にかかれば良いのであって,従来
のごとく,2次元画像内を複雑な画像処理をして,長時間2次元コードを
探し回る必要がなく,処理が極めて迅速化され,高速に移動する2次元コ
ードが取り付けられた物品の読み取りに支障を来さない。
さらに,上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記周
波数成分比検出回路に送信する2値化手段と,上記2値化された走査線信
号の状態に応じて,上記2値化手段による2値化の閾値を調節する2値化
調節手段とを設けることにより,例えば照明や場所による反射の違いによ
って,適切に2値化される場所と適切に2値化されない場所とが存在する
場合であっても,2値化調節手段が,2値化された走査線信号の状態に応
じて2値化の閾値を調節することにより,2次元画像のほぼ全域で適切な
2値化が可能となり,2次元コードのセルの明暗パターンの検出が正確か
つ容易となる。
3取消事由1(本件訂正発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について
本件審決における本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違点の認定
の誤り(取消事由1-1)について
ア本件審決の内容
引用発明の内容が,本件審決が認定した
のものであることは当事者間に争いがなく,これによれば,引用発明は,
「2進コードで表されるデータをセル化して,2次元のマトリックス上に
パターンとして配置し,マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置
に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が
得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コードを
読み取るための2次元コード読取装置であって,
CCDを用いた2次元画像検出手段と,
上記2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,上記周波数成
分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路と,
上記2次元画像検出手段からの走査線信号を2値化して上記周波数成分比
検出回路に送信する2値化手段と,
上記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段による2値
化の閾値を調節する2値化調節手段と,
を備えた2次元コード読取装置。」というものである。
本件審決は,本件訂正発明1の進歩性を判断するについて,本件訂正発
明1と引用発明とが相違する構成を抽出する前提として,両者の一致点を,
「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズと,
前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その
受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的
に配列される光学的センサと,該光学的センサへの前記反射光の通過を制
限する絞りと,
前記光学的センサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,
2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力
するカメラ部制御装置と,
を備える光学情報読取装置」である点と認定し,本件訂正発明1と引用発
点1~4を認定した。
(相違点1)
本件訂正発明1における結像レンズは「複数のレンズで構成され」てい
る。これに対して,刊行物1には結像レンズの具体的構成は明示されてい
ない。
(相違点2)
本件訂正発明1における光学的センサは「受光素子毎に集光レンズが設
けられた」ものである。これに対して,刊行物1には「CCD」の具体的
構成は明示されていない。
(相違点3)
本件訂正発明1は「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過し
た後で前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,
前記光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,
「前記光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記
光学的センサの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上と
なるように,前記射出瞳位置を設定して」いる。これに対して,刊行物1
には絞りの具体的な配置位置は明示されていない。
(相違点4)
本件訂正発明1は「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部に
おいても読取が可能となるようにした」ものである。これに対して,刊行
物1には「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読
取が可能となるようにした」との記載はない。
イ本件審決における一致点の認定について
本件審決の認定した引用発明は,前記ア記載のとおり,「2進コードで
表されるデータをセル化して,2次元のマトリックス上にパターンとして
配置し,マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心を
あらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパター
ンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コードを読み取るための
2次元コード読取装置であって」,「CCDを用いた2次元画像検出手
段」,「2次元画像検出手段から出力される走査線信号中での,周波数成
分比の信号の存在を検出する周波数成分比検出回路」,「2次元画像検出
手段からの走査線信号を2値化して周波数成分比検出回路に送信する2値
化手段」,「上記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手
段による2値化の閾値を調節する2値化調節手段」とを備えるというもの
である。
り,「TVカメラ等
の2次元画像検出手段」(段落【0002】),「2次元コード読取装置
2は,CCD4・・・を備えている。」(段落【0033】),「CCD
4は,外界を撮像してその2次元画像を水平方向の走査線信号として出力
する。」(段落【0034】),「TVカメラ等の画像検出装置」(段落
【0073】),「CCD4が2次元画像検出手段に該当し,」(段落
【0074】)といった記載があるのみであり,光学的センサである「C
CD」や結像レンズや絞り等の光学系の構成や構造については全く記載が
ない。
のとおり,2次元コード読取装置において
読み取り対象として従来から用いられている2次元コードは,2次元コー
ド自体が高速読み取りに適したコード構成になっておらず,また,2次元
コードの回転に対する処理に適したコード構成でもないため,読み取りに
複雑な処理が必要であり,読み取りに時間がかかるという問題があったこ
とから,2次元コードの問題点に鑑み,全方向で高速読み取りができ,さ
らに読み取り精度が高い2次元コード読取装置を提供することを課題とす
る発明であり,引用発明のとおりの構成を採用することによって,2次元
画像を画像処理して2次元コードが存在するか否かを判断しなくても,単
に周波数成分比検出回路が走査線信号中から位置決め用シンボルを表す周
波数成分比の信号を検出すれば,2次元画像中に2次元コードが存在して
いることが判明するから,従来のごとく,2次元画像内を複雑な画像処理
をして,長時間2次元コードを探し回る必要がなく,さらに,「2値化手
段」と「2値化調節手段」とを設けることにより,例えば照明や場所によ
る反射の違いによって,適切に2値化される場所と適切に2値化されない
場所とが存在する場合であっても,2値化調節手段が,2値化された走査
線信号の状態に応じて2値化の閾値を調節することにより,2次元画像の
ほぼ全域で適切な2値化が可能となり,2次元コードのセルの明暗パター
ンの検出が正確かつ容易となるという効果を奏するというものであるから,
刊行物1は,そもそも,2次元コード読取装置において用いられる光学的
センサ(CCD)に存する課題やその解決手段としての光学的センサ及び
結像レンズや絞り等の光学系の構成や構造を何ら開示するものではない。
本件審決は,引用発明を前記のとおり認定しながら,本件訂正発明1と
対比するに当たって,①刊行物1に「2次元画像検出手段」として「TV
カメラ」が例示されていることや,2次元コードを読み取る際の撮像手段
としては一般的には「TVカメラ」が採用されていたこと,このようなカ
メラで用いられるCCDは通常は二次元アレイであること等を勘案すれば,
引用発明における「CCD」は「前記読み取り対象の画像を受光するため
に前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出
力する複数の受光素子が2次元的に配列される」ものであることは明らか
であり,引用発明における「CCD」と本件訂正発明1における「光学的
センサ」とは「前記読み取り対象の画像を受光するために前記読取位置に
配置され,その受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光
素子が2次元的に配列される光学的センサ」である点で共通するといえる,
②引用発明の如き光学情報読取装置において,その撮像素子上に被写体の
像を結像せしめるための結像レンズを設ける事は須く採用される技術常識
であるとともに,カメラでも結像レンズを設ける事は技術常識であるから,
引用発明も当然結像レンズを備えているはずであり,引用発明と本件訂正
発明1とは「読み取り対象からの反射光を所定の読取位置に結像させる結
像レンズ」を備える点で共通するといえる,③光学情報読取装置において
絞りを設ける事も技術常識であるとともに,カメラでも絞りを設ける事は
技術常識であるから,引用発明も本件訂正発明1と同様に「該光学的セン
サへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備えることは明らかである,
④光学情報読取装置においてセンサ出力を増幅してから2値化等の処理を
行うことは技術常識であり,引用発明における「2値化手段」は本件訂正
発明1における「2値化」に,引用発明における「周波数成分比検出回
路」は本件訂正発明1における「所定の周波数成分比を検出」することに
それぞれ相当する処理を行うものであるから,引用発明も本件訂正発明1
における「カメラ部制御装置」に相当するものを備えているといえるなど
として,前記のとおり,刊行物1は2次元コード読取装置において用いら
れる光学的センサ(CCD)に存する課題やその解決手段としての光学的
センサの構成や構造を何ら開示するものではないにもかかわらず,光学系
に係る技術常識であるとして,刊行物1に記載がないために引用発明とし
て認定していない構成を,本件訂正発明1と引用発明の一致点として認定
したものである。このような一致点の認定手法は,本件訂正発明1と引用
発明とを適切に対比したものとはいえず,相当でないというべきである。
ウ本件審決における相違点の認定について
従来の光学情報読取装置
(2次元コードリーダ)で用いられるCCDエリアセンサなどの光学的セ
ンサには,受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子
が2次元的に配列されており,受光素子の感度向上のため,受光素子毎に
集光レンズが設けられたものがあったが,受光素子に対して光が垂直に入
射するのはセンサの中央部にある受光素子であり,センサ周辺部にある受
光素子に対しては光が斜めに入射する結果,CCDエリアセンサからの出
力は,センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態
となり,その周辺部において読み取りに必要な光量が確保できず,適切な
読み取りができないという問題点があったことから,この問題点を解決す
ることを課題とし,受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを
備える場合において,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レン
ズによる集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報
読取装置を提供することを目的とするものである。
そして,本件訂正発明1は,上記課題の解決手段として,複数のレンズ
で構成された結像レンズと,複数の受光素子が2次元的に配列されるとと
もに,受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,絞りと,カ
メラ部制御装置とを備える光学情報読取装置において,従来の光学情報読
取装置では,複数枚の結像レンズが組にされた組レンズの中心付近に絞り
が配置されていたものを,読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後
で結像レンズに入射するよう絞りを配置することによって,光学的センサ
から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,光学的センサの中心部
に位置する受光素子からの出力に対する周辺部に位置する受光素子からの
出力の比を所定値以上となるように,射出瞳位置を設定する,という構成
を採用したものである。
すなわち,本件訂正発明1は,二次元コードからの反射光が,結像レン
ズ及び絞りを通過し,光学的センサに設けられた集光レンズを介して受光
素子に入射することに起因して生じる問題を課題とするものであり,かか
る課題を,結像レンズと絞りとの位置関係(射出瞳位置の設定)により解
決することを,その技術的思想とするものといえる。
本件訂正発明1の上記技術的思想に照らすと,本件訂正発明1は,「複
数のレンズで構成された結像レンズ」(相違点1),「受光素子毎に集光
レンズが設けられた光学的センサ」(相違点2)及び「結像レンズと絞り
の配置関係(射出瞳位置の設定)」(相違点3)という相互に関連する構
成を採用したことにより,本件訂正発明1の課題を解決したものというべ
きであるから,構成を分説して認定するのではなく,これらの構成の相互
の関係を考慮しながら本件訂正発明1の容易想到性を検討すべきである。
そうすると,本件審決における本件訂正発明1と引用発明との相違点の
認定は,その前提となる一致点の認定が相当でないことに加え,相互に関
連する構成を相違点1~3に分説した点において,相当とはいえないもの
である。
エ以上の観点からすれば,本件訂正発明1と引用発明との一致点及び相違
点は,以下のとおり認定すべきである。
一致点
a引用発明の「2進コードで表されるデータをセル化して,2次元の
マトリックス上にパターンとして配置し,マトリックス内の,少なく
とも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線に
おいて同じ周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め用シン
ボルを配置した2次元コード」は,2次元コード読取装置で読み取る
ものであるから,「読み取り対象」といえ,「2次元コード」を「光
学情報」と称することは,技術常識である。
b引用発明の「CCDを用いた2次元画像検出手段」は,「光学的セ
ンサ」であり,引用発明の「CCDを用いた2次元画像検出手段」は,
2次元コード(読み取り対象)の画像を受光するために読取位置に配
置され,「CCD」の性質上,その受光した光の強さに応じた電気信
号を出力する複数の受光素子が配列されることは明らかである。
c引用発明の「周波数成分比検出回路」,「2値化手段」及び「2値
化調節手段」は,光学的センサ(CCDを用いた2次元画像検出手
段)から出力される走査線信号(出力信号)を閾値に基づいて2値化
し,2値化された走査線信号中での周波数成分比の信号の存在を検出
するものであって,検出した結果は2次元コードを読み取るために出
力されるものであるから,一体として,2次元コード(読み取り対
象)を読み取るための制御を行う「制御装置」であるといえる。
これに対し,本件訂正発明1の「カメラ部制御装置」は,光学的セ
ンサからの出力信号を増幅して,閾値に基づいて2値化し,2値化さ
れた信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力する
ものである。
したがって,本件訂正発明1の「カメラ部制御装置」と,引用発明
の「制御装置」は,光学的センサからの出力信号を閾値に基づいて2
値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検
出結果を出力する「制御装置」である点で共通する。
d以上によれば,本件訂正発明1と引用発明の一致点は,以下のと
おり認定されるべきである。
(一致点)
読み取り対象の画像を受光するために読取位置に配置され,その受
光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が配列さ
れる光学的センサと,
前記光学的センサからの出力信号を閾値に基づいて2値化し,2値
化された信号の中から所定の周波数成分比を検出し,検出結果を出力
する制御装置と,
を備える光学情報読取装置。
相違点
(相違点A)
本件訂正発明1は,「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの
反射光を所定の読取位置に結像させる結像レンズ」と,「前記読み取り
対象の画像を受光するために前記読取位置に配置され,その受光した光
の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列さ
れると共に,当該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」
と,「該光学的センサへの前記反射光の通過を制限する絞り」を備え,
「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で前記結像レ
ンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光学的セ
ンサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し」,「前記光学的
センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的セン
サの周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるよう
に,前記射出瞳位置を設定して」いるのに対し,
引用発明は,上記「結像レンズ」及び「絞り」を備えているのか不明
であり,「光学的センサ」について,「複数の受光素子が配列され」て
いるものの,「複数の受光素子」が「2次元的に配列されると共に,受
光素子毎に集光レンズが設けられ」ているのか不明であり,これらの不
明な点に起因して,上記「結像レンズ」及び「絞り」をどのように配置
しているのか,「射出瞳位置」をどのように設定しているのかも不明で
ある。
(相違点B)
「制御装置」について,
本件訂正発明1は,「カメラ部制御装置」であって,「光学的センサ
からの出力信号を増幅して」いるのに対し,
引用発明は,「制御装置」ではあるものの,「カメラ部制御装置」で
あるのか不明であり,「光学的センサからの出力信号を増幅して」いる
のか不明である。
(相違点C)
本件訂正発明1は,「露光時間などの調整を容易とし,中心部におい
ても周辺部においても適切に読取が可能となるようにした」ものである
のに対し,
引用発明は,不明である。
オ小括
本件訂正発明1と引用発明との相違点は,前記エで認定した相違点A~
Cと認定されるべきであるが,被告は,相違点A~Cを前提としたとして
も,本件訂正発明1は刊行物1に記載された発明に技術常識を適用するこ
とにより容易に想到し得たものであり,本件審決はその論旨を事実上示し
ているといえるから,本件審決に違法はない旨主張するので,以下におい
て,前記エで認定した相違点に係る容易想到性について更に検討を加える。
相違点Aの容易想到性について
ア本件訂正発明1について
本件訂正発明1は,
元コードリーダ)で用いられるCCDエリアセンサなどの光学的センサに
は,受光した光の強さに応じた電気信号を出力する複数の受光素子が2次
元的に配列されており,受光素子の感度向上のため,受光素子毎に集光レ
ンズが設けられたものがあったが,受光素子に対して光が垂直に入射する
のはセンサの中央部にある受光素子であり,センサ周辺部にある受光素子
に対しては光が斜めに入射する結果,CCDエリアセンサからの出力は,
センサ中央部の出力に比べてセンサ周辺部の出力が落ち込んだ状態となり,
その周辺部において読み取りに必要な光量が確保できず,適切な読み取り
ができないという問題点があったことから,この問題点を解決することを
課題とし,受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサを備える場
合において,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズによる
集光率の低下を極力防止し,適切な読み取りを実現する光学情報読取装置
を提供することを目的とするものである。
そして,本件訂正発明1は,上記課題の解決手段として,複数のレンズ
で構成された結像レンズと,複数の受光素子が2次元的に配列されるとと
もに,受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,絞りと,カ
メラ部制御装置とを備える光学情報読取装置において,従来の光学情報読
取装置では,複数枚の結像レンズが組にされた組レンズの中心付近に絞り
が配置されていたものを,読み取り対象からの反射光が絞りを通過した後
で結像レンズに入射するよう絞りを配置することによって,光学的センサ
から射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,光学的センサの中心部
に位置する受光素子からの出力に対する周辺部に位置する受光素子からの
出力の比を所定値以上となるように,射出瞳位置を設定する,という構成
を採用したものである。
本件訂正発明1は,上記のとおりの構成を採用することによって,複数
の受光素子が2次元的に配列されるとともに,受光素子毎に集光レンズが
設けられている光学的センサにおいて,読み取り対象からの反射光が絞り
を通過した後で結像レンズに入射するよう,絞りを配置して,光学的セン
サから絞りまでの光学的な距離が相対的に長くなるようにし,それに伴っ
て,光学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,その
結果,センサ周辺部にある受光素子に対して入射する反射光が斜めになる
度合を小さくして,光学的センサの周辺部の受光素子に対する集光レンズ
による集光率の低下を防止することができる。ここで,射出瞳位置を,光
学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する光学的センサ
の周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように設
定し,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら照射光の光量や露光時間な
どを調整することで,中心部においても周辺部においても適切な読み取り
が可能となる。
イ引用発明について
り対象として従来から用いられている2次元コードは,2次元コード自体
が高速読み取りに適したコード構成になっておらず,また,2次元コード
の回転に対する処理に適したコード構成でもないため,読み取りに複雑な
処理が必要であり,読み取りに時間がかかるという問題があったことから,
2次元コードの問題点に鑑み,全方向で高速読み取りができ,さらに読み
取り精度が高い2次元コード読取装置を提供することを目的とするもので
ある。
そして,引用発明は,上記課題の解決手段として,2進コードで表され
るデータをセル化して,2次元のマトリックス上にパターンとして配置し,
マトリックス内の,少なくとも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる
角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンからな
る位置決め用シンボルを配置した2次元コードを読み取るための2次元コ
ード読取装置であって,2次元画像検出手段と,上記2次元画像検出手段
から出力される走査線信号中での,上記周波数成分比の信号の存在を検出
する周波数成分比検出回路とを備え,さらに,上記2次元画像検出手段か
らの走査線信号を2値化して上記周波数成分比検出回路に送信する2値化
手段と,上記2値化された走査線信号の状態に応じて,上記2値化手段に
よる2値化の閾値を調節する2値化調節手段とを備えるという構成を採用
したものである。
引用発明は,上記のとおりの構成を採用することによって,2次元コー
ド読取装置において,2次元画像を画像処理して2次元コードが存在する
か否かを判断しなくても,単に周波数成分比検出回路が走査線信号中から
位置決め用シンボルを表す周波数成分比の信号を検出すれば,2次元画像
中に2次元コードが存在していることが判明するから,2次元画像内を複
雑な画像処理をして,長時間2次元コードを探し回る必要がなく,さらに,
適切に2値化される場所と適切に2値化されない場所とが存在する場合で
あっても,「2値化調節手段」が,2値化された走査線信号の状態に応じ
て2値化の閾値を調節することにより,2次元画像のほぼ全域で適切な2
値化が可能となり,2次元コードのセルの明暗パターンの検出が正確かつ
容易となるという効果を奏する。
ウ甲8~10の記載
甲8(特開平5-203873)
「射出瞳の遠い2焦点切換式レンズ」に関する甲8には,概略,次の
ような記載がある。
近年,映像の高画質化の要請に伴い,スチル画像もその画面をより多
くの画素数によって構成するようになってきている(段落【000
2】)。
したがって,スチルビデオカメラの受光部を固体撮像素子で構成する
場合に,固体撮像素子のエレメント数はより多くなる傾向にある反面各
エレメントのサイズはより小さくなる傾向にある。しかも,各エレメン
トに光束が入射するためのセンサ開口部は各エレメントの全表面のうち
一部に形成されているため検出光量が不足するおそれがある。このよう
な事情から,各エレメントの前面にセンサ開口部よりも大きい口径を有
するマイクロ凸レンズを配設し,このマイクロ凸レンズで集光すること
によって各エレメントに入射する光の光量不足を補い,検出感度の低下
を防止するようにしたものが知られている(段落【0003】)。
すなわち,例えば図5に示すように,固体撮像素子101上にオンチ
ップマイクロレンズ群102が配され,各エレメントの開口部103の
直上にオンチップマイクロレンズ群102の各マイクロレンズ素子10
4が配されるように位置決めされている。各マイクロレンズ素子104
は凸レンズとして機能し,マイクロレンズの開口部である凸レンズ部分
に入射した光(図中の実線部分)をエレメントの開口部103に集束さ
せるので各エレメントには明るい像が結像され感度を高めることが可能
となる(段落【0004】)。
ところで,従来の長短2焦点切換レンズとしてはオンチップマイクロ
レンズを配設していない固体撮像素子に使用されていたものをそのまま
使用しており,カメラ設計上の制約等から射出瞳が近いレンズ系とされ
ていた(段落【0006】)。
しかし,この切換レンズをオンチップマイクロレンズ付き固体撮像素
子にそのまま使用すると画面周辺部に対応するマイクロレンズには光束
がかなり斜めから入射し,図5の破線で示すようにマイクロレンズの集
束作用によりエレメントの開口部に入射する光量が大幅に減少するため,
十分な検出感度を得ることが困難となる(段落【0007】)。
本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,オンチップ
マイクロレンズ付き固体撮像素子を用いた場合に,マイクロレンズを介
して画面周辺部に対応する各エレメントの開口部に入射する光束の光量
が減少するのを防止し,高い検出感度を実現し得る射出瞳の遠い2焦点
切換式レンズを提供することを目的とするものである(段落【000
8】)。
本発明の射出瞳の遠い2焦点切換式レンズは,物体側から順に,短焦
点設定時にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有する第1レンズ
群,絞り,長焦点設定時にレンズ系の光軸外に移動する正の屈折力を有
する第2レンズ群及びレンズ系の光軸内に固定される正の屈折力を有す
る第3レンズ群からなり,この第3レンズ群を,その物体側焦点位置が
絞り位置付近となるように配設したことを特徴とするものである(段落
【0009】)。
すなわち,レンズ系の光軸外に移動可能な正の屈折力を有する第1レ
ンズ群,絞り及びレンズ系の光軸外に移動可能な正の屈折力を有する第
2レンズ群を物体側からこの順に配設し,短焦点設定時には第1レンズ
群を光軸外に移動させるように,長焦点設定時には第2レンズ群を光軸
外に移動させるように切換可能とし,絞りを短焦点設定時及び長焦点設
定時の両者に共用する,オンチップマイクロレンズ付き固体撮像素子用
の射出瞳の遠い2焦点切換式レンズにおいて,短焦点設定時及び長焦点
設定時のいずれの場合にも絞りの配設位置付近を物体側の焦点位置とす
る正の屈折力を有する第3レンズ群を第2レンズ群と固体撮像素子との
間に配設したことを特徴とするものである(段落【0010】)。
甲9(特開平7-168093)
「3枚玉による結像レンズ」に関する甲9には,概略,次のような記
載がある。
a特許請求の範囲
【請求項1】被写体側に凹面を向けた負の屈折力を有するメニスカ
スレンズからなる第1のレンズと,正の屈折力を有する第2のレンズ
と,負の屈折力を有する第3のレンズが被写体側からこの順に配列さ
れるとともに絞りまたは仮想絞りがレンズ系全体の被写体側端部近傍
もしくはレンズ系よりも被写体側に配されてなり,
前記第3のレンズのアッベ数をν3としたとき,
ν3≦40
なる条件式を満足することを特徴とする3枚玉による結像レンズ。
b発明の詳細な説明
近年,各種ビデオカメラやスチルビデオカメラの結像面に固定撮像
素子を配するものが多い。この固体撮像素子は技術の進歩により年々
小型化しており,それに伴ない撮像レンズの小型化さらにはローコス
ト化も要求されている(段落【0002】)。
最近固体撮像素子の各受光素子の受光面に各々凸レンズからなるマ
イクロレンズを配設し,受光素子の不感帯に向う光束も受光素子に集
めて感度を向上せしめるようにした固体撮像素子が実用化されている。
このような固体撮像素子に入射する光束が上記マイクロレンズの光軸
に対して大きく傾くとマイクロレンズの開口でいわゆるケラレが生じ
入射光束が受光素子に有効に入射しなくなる。その結果,画面の周辺
部の明るさが画面の中心部の明るさに比較して不足し,画面の周辺部
が暗くなる現像を生じる。このような現像を回避するためには固体撮
像素子への入射光束の入射角をなるべく小さくすることが必要で,撮
影レンズの射出瞳を結像面からなるべく離して配することが必要とな
る(段落【0004】)。
本発明の3枚玉による結像レンズは,被写体側に凹面を向けた負の
屈折力を有するメニスカスレンズからなる第1のレンズと,正の屈折
力を有する第2のレンズと,負の屈折力を有する第3のレンズが被写
体側からこの順に配列されるとともに絞りまたは仮想絞りがレンズ系
全体の被写体側端部近傍もしくはレンズ系よりも被写体側に配されて
なり,前記第3のレンズのアッベ数をν3としたとき,ν3≦40なる
条件式を満足することを特徴とするものである(段落【0010】)。
上述した構成によれば,絞りまたは仮想絞りをレンズ系全体の被写
体側端部の近傍もしくはレンズ系よりも被写体側に配することにより
レンズ系の射出瞳を結像面から遠くに離すことができ,これにより固
体撮像素子に入射する光束の入射角を小さくすることができるのでマ
イクロレンズ付きの受光素子におけるいわゆるケラレを防止でき,画
面周辺部において光量不足となる事態を防止し得る(段落【001
1】)。
甲10(特開平5-188284)
「撮影用トリプレットレンズ」に関する甲10には,概略,次のよう
な記載がある。
a特許請求の範囲
【請求項1】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像
側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
第1群は両凸レンズ,第2群は両凹レンズ,第3群は両凸レンズで
ある3群3枚構成であり,
全系の焦点距離をf,物体側から数えて第j番目のレンズの焦点距
離をfj(j=1~3)とするとき,これらが条件
(1-1)-0.53<f2/f<-0.38
(1-2)0.65<f1/f3<1.05を満足し,
第3群の像側面が円錐定数:K7を有する非球面であり,上記円錐
定数:K7が
(1-3)-1.2<K7<-0.8
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項2】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像
側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
第1群は両凸レンズ,第2群は両凹レンズ,第3群は両凸レンズであ
る3群3枚構成であり,
全系の焦点距離をf,物体側から数えて第j番目のレンズの焦点距離
をfj(j=1~3)とするとき,これらが条件
(2-1)-0.43<f2/f<-0.33
(2-2)0.65<f1/f3<0.85
を満足し,
第1群の像側面および第3群の像側面が,それぞれ円錐定数:K3,
K7を有する非球面であり,上記円錐定数:K3,K7が
(2-3)0<K3<10
(2-4)-1.7<K7<-1.0
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項3】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像
側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,
第1群は両凸レンズ,第2群は両凹レンズ,第3群は両凸レンズであ
る3群3枚構成であり,
全系の焦点距離をf,物体側から数えて第j番目のレンズの焦点距離
をfj(j=1~3)とするとき,これらが条件
(3-1)-0.45<f2/f<-0.37
(3-2)0.67<f1/f3<0.9を満足し,
第2群の物体側面および第3群の像側面が,それぞれ円錐定数:K4,
K7を有する非球面であり,上記円錐定数:K4,K7が
(3-3)-1.5<K4<0
(3-4)-4.0<K7<-1.0
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
【請求項4】物体側に前置された絞りの像側に,上記絞り側から像
側に向かって順次,第1ないし第3群を配してなり,第1群は両凸レ
ンズ,第2群は両凹レンズ,第3群は両凸レンズである3群3枚構成
であり,全系の焦点距離をf,物体側から数えて第j番目のレンズの
焦点距離をfj(j=1~3)とするとき,これらが条件
(4-1)-0.45<f2/f<-0.35
(4-2)0.75<f1/f3<1.0
を満足し,
第2群の像側面および第3群の像側面が,それぞれ円錐定数:K5,
K7を有する非球面であり,上記円錐定数:K5,K7が
(4-3)-0.5<K5<0
(4-4)-2.0<K7<-1.0
の範囲にあることを特徴とする,撮影用トリプレットレンズ。
b発明の詳細な説明
この発明は撮影用トリプレットレンズに関する。この発明は,ビデ
オカメラやスチールビデオカメラに好適に利用できる(段落【000
1】)。
ビデオカメラやスチールビデオカメラでは,撮影レンズによる結像
面は固体撮像素子であり,その受光面の寸法は銀塩写真カメラにおけ
る銀塩フィルムの受光面に比して小さく,撮影レンズの焦点距離も短
いものとなる(段落【0002】)。
近来,各受光素子の受光面に凸のマイクロレンズを形成し,各受光
素子への入射光量の増加を意図した固体撮像素子も実用化されている。
このような固体撮像素子では,受光素子に入射する光線がマイクロレ
ンズ光軸に対して大きく傾くと,マイクロレンズの開口により「ケラ
レ」て受光素子に入射しなくなる事態が生じる。この傾向は撮影レン
ズの光軸から離れるに従って生じやすく,かかる事態が生ずると画像
中心部に比して画像周辺部の光量不足を助長する結果を招く。このよ
うな問題を避けるためには,固体撮像素子への入射光線を,なるべく
受光面法線に近い角度で入射させる必要がある。このために撮影レン
ズの射出瞳は像面からなるべく離れていることが望ましい(段落【0
004】)。
エ相違点Aの容易想到性について
引用発明は,前記イのとおり,全方向で高速読み取りができるととも
に,読み取り精度の高い2次元コード読取装置を提供することを目的と
するものであるが,解決すべき課題として,読み取り対象として用いら
れている2次元コード自体の問題点を挙げ,課題の解決手段として,2
次元コード自体を「2進コードで表されるデータをセル化して,2次元
のマトリックス上にパターンとして配置し,マトリックス内の,少なく
とも2個所の所定位置に,各々中心をあらゆる角度で横切る走査線にお
いて同じ周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め用シンボル
を配置した」ものとした上で,ソフトウェア処理を工夫することによっ
て,2次元コード読取装置の高速化,高精度化を実現しようとする発明
である。
引用発明は,本件訂正発明1とは異なり,従来から用いられている光
学的センサ(CCD)についての問題点の解決を課題とするものではな
いから,刊行物1には,その全体を通じて,2次元コード読取装置を構
成する2次元画像検出手段として「TVカメラ等」,「CCD4」が用
いられる旨の記載があるのみで,光学的センサ(CCD)の問題点や結
像レンズや絞り等の光学系も含めた構成や構造については全く記載がな
い。
刊行物1には,2次元コード読取装置を構成する2次元画像検出手段
として「TVカメラ等」,「CCD4」が用いられる旨の記載があるこ
とから,当業者であれば,引用発明における2次元画像検出手段が「結
像レンズ」や「絞り」の構成を備え,光学的センサ(CCD)が「複数
の受光素子が2次元的に配列されているもの」であることを理解したと
しても,刊行物1には,光学的センサ(CCD)の問題点や前記光学系
も含めた構成や構造については全く記載はなく,そもそも,刊行物1に
記載された発明は,光学的センサ等についての課題の解決を目的とする
ものではないから,刊行物1に接した当業者において,光学的センサ
(CCD)として「複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当
該受光素子毎に集光レンズが設けられた光学的センサ」を用いることを
想定し,その上で,かかる光学的センサを用いた場合における周辺部で
の感度低下等の問題点を想起し,かかる問題点の解決のために,結像レ
ンズや絞り等の光学系に係る技術の適用を試みるであろうとは認められ
ない。
したがって,刊行物1には,相違点Aに係る本件訂正発明1の構成の
開示も示唆もなく,また,引用発明において,相違点Aに係る本件訂正
発明1の構成を備えるようにする動機付けも見い出し難いというべきで
ある。
また,甲8~10の記載によれば,被告が主張するように,①複数の
受光素子が2次元的に配列されるとともに当該受光素子毎に集光レンズ
が設けられた光学的センサ,②結像レンズ,③読み取り対象からの反射
光が絞りを通過した後で結像レンズに入射するように配置された絞りを
備え,④光学的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する
周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように射
出瞳位置が設定された光学系の構成自体は,本件特許の出願当時,周知
技術であったと認めることができる。
しかしながら,甲8~10は,スチルビデオカメラ装置ないしビデオ
カメラ装置に関するものである。スチルビデオカメラ装置ないしビデオ
カメラ装置と光学情報読取装置とが,光学系という点で関連した技術分
野であるとしても,光学情報読取装置において,かかる構成を採用する
ことが容易であるというためには,光学情報読取装置においてかかる構
成を採用することに相応の動機付けが必要であるというべきであるが,
記載のとおり,刊行物1には,引用発明に上記周知技術を適用す
ることについて動機付けとなるような記載や示唆はなく,また,甲8~
10にも,上記周知技術を光学情報読取装置における2次元コードの読
み取りに適用することを開示又は示唆する記載もないのであるから,甲
8~10の記載を前提としても,引用発明において,相違点Aに係る本
件訂正発明1の構成を備えるようにする動機付けは見い出し難いという
べきである。
したがって,当業者において,引用発明に基づいて,相違点Aに係る
本件訂正発明1の構成を備えるようにすることが容易に想到し得たとは
認められない。
小括
以上によれば,相違点B及びCについて検討するまでもなく,本件訂正発
明1は引用発明に基づいて容易に発明することができたものであるとは認め
られないから,本件審決における本件訂正発明1の容易想到性に係る判断は
誤りであり,取消事由1は理由がある。
4取消事由2(本件訂正発明2の容易想到性に係る判断の誤り)について
前記第2の2記載のとおり,本件訂正発明2は,「前記光学的センサは,C
CDエリアセンサであることを特徴とする請求項1記載の光学情報読取装置」
というものである。
本件審決は,引用発明における2次元画像検出手段も「CCD」を用いたも
のであるから,本件訂正発明2も,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたものであるとするが,前記3のとおり,請求項1記載の本
件訂正発明1の容易想到性に係る判断は誤りであるから,本件審決における本
件訂正発明2の容易想到性に係る判断も誤りである。
以上によれば,取消事由2は理由がある。
5取消事由3(明確性要件に係る判断の誤り)について
本件審決は,本件訂正後の請求項1には,「露光時間などの調整で,中心
部においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との発明特定
事項の記載があるところ,これを文言どおりに解釈すれば,「中心部におい
ても周辺部においても読取が可能」ではないものに対して「露光時間などの
調整」をして「中心部においても周辺部においても読取が可能」となるよう
にしたことを意味すると解されるとした上で,このように解釈すると,もと
もと「中心部においても周辺部においても読取が可能」であったものと,
「中心部においても周辺部においても読取が可能」ではないものに対して
「露光時間などの調整」をして「中心部においても周辺部においても読取が
可能」となったものとをその構成から区別できないから,本件訂正後の請求
項1及び2に係る発明の範囲は明確なものでなくなるなどとして,本件訂正
後の請求項1及び2に係る発明は明確でないと判断した。
しかしながら,「複数のレンズで構成され,読み取り対象からの反射光を
所定の読取位置に結像させる結像レンズと,前記読み取り対象の画像を受光
するために前記読取位置に配置され,その受光した光の強さに応じた電気信
号を出力する複数の受光素子が2次元的に配列されると共に,当該受光素子
毎に集光レンズが設けられた光学的センサと,該光学的センサへの前記反射
光の通過を制限する絞りと,前記光学的センサからの出力信号を増幅して,
閾値に基づいて2値化し,2値化された信号の中から所定の周波数成分比を
検出し,検出結果を出力するカメラ部制御装置と,を備える光学情報読取装
置において,」「前記読み取り対象からの反射光が前記絞りを通過した後で
前記結像レンズに入射するよう,前記絞りを配置することによって,前記光
学的センサから射出瞳位置までの距離を相対的に長く設定し,」「前記光学
的センサの中心部に位置する受光素子からの出力に対する前記光学的センサ
の周辺部に位置する受光素子からの出力の比が所定値以上となるように,前
記射出瞳位置を設定して,」「露光時間などの調整で,中心部においても周
辺部においても読取が可能となるようにした」「ことを特徴とする光学情報
読取装置」という本件訂正後の請求項1の特許請求の範囲の記載において,
「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部においても読取が可能と
なるようにした」との文言は,当該光学情報読取装置は,上記の構成を備え
た上で,「露光時間などの調整」により,「中心部においても周辺部でも読
み取りが可能となる」ことを示しているものであって,かかる記載自体が不
明確であって,請求項1の発明の外延が認識できないものということはでき
ない。
また,本件明細書の「最終的には適切な読み取りを実現することが目的で
あるので,本発明の光学情報読取装置においては,光学的センサの中心部に
位置する受光素子からの出力に対する光学的センサの周辺部に位置する受光
素子からの出力の比が所定値以上となるように,射出瞳位置を設定している。
このようにしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照
射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても
周辺部においても適切に読取が可能となる。」との記載(【0011】)や,
「このような射出瞳位置となるように絞り34aの位置を設定するのである。
このようにしておけば,中央部と周辺部の出力差を考慮しながら,例えば照
射光の光量や露光時間などを調整することが容易となり,中心部においても
周辺部においても適切に読取が可能となる。」との記載(【0042】)を
参酌しても,上記「露光時間などの調整で,中心部においても周辺部におい
ても読取が可能となるようにした」との記載は,本件訂正発明の作用効果を
表現した記載であると容易に認識することができるものである。
したがって,本件訂正発明1及び2は,「露光時間などの調整で,中心部
においても周辺部においても読取が可能となるようにした」との記載から,
明確性要件を充足しないものということはできず,本件審決の上記判断は誤
りであるといわなければならない。
以上によれば,取消事由3は理由がある。
6結論
以上の次第であって,原告主張の取消事由はいずれも理由があるから,本件
審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官富田善範
裁判官大鷹一郎
裁判官柵木澄子
(別紙1)
本件明細書図面目録
【図1】
【図2】
【図3】【図5】
【図6】
(別紙2)
刊行物1図面目録
【図1】【図2】
【図4】【図6】
【図5】
【図7】【図8】
【図11】【図12】
【図13】
【図15】

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