弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人等の負担とする。
         理    由
 上告代理人西原要人の上告理由について。
 親権者が子の法定代理人として、子の名において金員を借受け、その債務につき
子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者自身の用途に
充当する意図であつても、かかる意図のあることのみでは、民法八二六条所定の利
益相反する行為とはいえないから、子に対して有効であり、これに反し、親権者自
身が金員を借受けるに当り、右債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定する
ことは、仮に右借受金を子の養育費に充当する意図であつたとしても、同法条所定
の利益相反する行為に当るから、子に対しては無効であると解すべきである。
 原審確定の事実によれば、上告人等に対して親権を有する母である訴外Dは、上
告人等の法定代理人として、上告人等を代理すると共に、同人も亦共同債務者とな
つて、昭和二七年四月一日訴外E商事株式会社より金六万円を借受け、その債務に
つき原判示家屋並に土地の各持分(上告人等各九分の二、訴外D九分の三)の上に
原判示抵当権設定登記及び変更登記を経由して居るのであつて、右共同債務は、上
告人等及び同女が平等に分割して負担するものであること、多言を要しない。
 されば、右借財の意図が同女自身の営業資金に充当するにあつたこと、所論の通
りであつたとしても、同女が上告人等を代理して上告人等の名において前記金員を
借受け、かつその債務につき上告人等の右持分の上に抵当権を設定したことは、民
法八二六条所定の利益相反する行為に当らないのであつて、上告人等に対して有効
である。さればとて、同女が上告人等の法定代理人として、前記債務の内同女自身
の負担部分につき上告人等の前記持分の上に抵当権を設定したことは、仮に借受金
を上告人等の利益となる用途に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益
相反する行為に当るから、上告人等に対しては無効であるとなさざるを得ない。即
ち、本件不動産の所論任意競売は、設定行為が有効なものと無効なものとを包含す
る抵当権の実行としてなされたものであること、明白である。
 しかしながら、上告人等の負担する各債務については訴外Dの前記持分のほか、
上告人等の前記持分の上にそれぞれ有効な抵当権が存在し、これを併わせると本件
家屋並に土地の全部について任意競売を実施できる関係にある以上、右任意競売に
おいて、右家屋並に土地は、何れも被上告人が最高価競落人となつて競落せられ、
その競落許可決定が確定したのであるから、右不動産の所有権は、何れも被上告人
に帰属して居るものとなさねばならない。
 それ故、上告人等が本件不動産の自己持分は、被上告人の所有に移つて居らない
との理由により、被上告人に対し本訴請求に及んだことは、失当である。前記債務
の内訴外Dの負担部分につき本件不動産の上告人等の持分の上になされた抵当権設
定定行為を有効であるとした原判示は、民法八二六条の解釈を誤つたものであるこ
と、所論の通りであるけれども、原審が上告人等の請求をすべて排斥したのは、結
論において正当であるに帰着する。
 論旨に、結局、理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊

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