弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
被告人を懲役1年6か月に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,Aと共謀して,法定の除外事由がないのに,平成14年4月26日午
前7時ころ,神戸市a区bc丁目d番e号所在の当時の前記A方において,覚せい剤で
あるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する結晶粉末若干量を水に溶かし
た水溶液を前記Aの身体に注射し,もって,覚せい剤を使用した。
(証拠)括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
(省略)
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,被告人はA(以下「A」という。)に対して覚せい剤を注射したこ
とはなく,無罪であると主張し,被告人もそれに沿う供述をしている。 一方,A
は,被告人から覚せい剤を注射してもらった旨供述している。
 そこで,以下,検討する。
2 関係各証拠(前掲各証拠及び当公判廷で取り調べた証拠。以下,同じ。)によ
れば,以下の事実が認められる。
 被告人とAは,平成14年3月初めころ,出会い系サイトを通じて知り合い,
間もなく交際を始めて肉体関係を持つようになり,当時のA宅において同棲し始め
た。そして,同月中旬ころには,Aは,被告人をAの母親C(以下「C」ともい
う。)に紹介した。Aは,同年4月24日夜,元夫であるB(以下「B」とい
う。)との間の子供2人の親権者をAからBに変更するための話し合いなどをする
ためにBの実家を訪れた。その場には,Bのほか,Bの両親,Aの母親Cらが集ま
った。その際,Aが短期間の内に相当痩せ,また,目の周りに隈ができるなどの変
貌ぶりに気づいたCやBらに,薬物の使用を問われ,Aは,覚せい剤の使用を打ち
明け,被告人に注射してもらっている旨述べた。そして,CやBらから警察に出頭
するように促されたが,A
は,出頭を躊躇し,その日は出頭しなかった。Aは,同月26日午前8時50分こ
ろ,自宅を出て,Cが経営する美容院に行き,その場に来たBとともに,近くのJ
に場所を移した。そこで,Bは,Aに対し,警察に出頭するように促したが,A
は,当初はこれを拒否した。その際,Aは,今朝も被告人から覚せい剤を注射して
もらった旨述べた。その後,Aは,Bの説得もあって,兵庫県神戸北警察署に出頭
した。そこで,Aは,捜査官に対し,覚せい剤を被告人から注射してもらう方法で
使用した旨述べ,尿を提出し,その結果,覚せい剤使用の罪によって逮捕・勾留さ
れた。Aは,同年5月17日,覚せい剤使用の罪によって起訴され,その後,保釈
許可決定を得て,同年6月6日,釈放された。なお,保釈許可決定には,被告人と
の接触等の禁止が保釈
条件として定められていた。Aは,前記条件にもかからわず,被告人とメールや電
話によるやりとりを繰り返し,また,2度ほど実際に被告人と会った。Aは,同年
7月4日,懲役1年2月,執行猶予3年の判決の宣告を受け,そのころ確定した。
3 ところで,Aは,要旨,次のとおり,供述している(第3回公判調書中の証人
Aの供述部分。以下,Aの供述を「A供述」という。)。
(1) 平成14年2月26日,交通事故を起こして入院し,入院中に携帯電話の出
会い系サイトで被告人と知り合った。同年3月初めころから,被告人と交際を始
め,同時期ころ,被告人と自宅で同棲するようになり,肉体関係も生じた。被告人
とは将来結婚する予定で,被告人との間でその旨約束しており,3月中旬ころに
は,母親にも紹介した。
(2) その後,自宅で,被告人が覚せい剤を炙りの方法で使用しているのを見て,
好奇心を持っていたところ,被告人から,「お前もやってみろよ。」,「お前だけ
見てるのはずるい。」などと言われ,同年4月中旬ころ,被告人が炙りの方法で覚
せい剤を使用している時に,自分も同じ方法で初めて覚せい剤を使用した。結局,
逮捕されるまでの間に10数回覚せい剤を使用した。
(3) そのうち,被告人は,覚せい剤を注射使用するようになり,最初は,怖かっ
たので,注射での使用は拒否したが,被告人から,「お前だけ見ているのはずる
い。」,「覚せい剤の最高の効き目を教えてやる。」などと言われて,勧められる
がまま,被告人から覚せい剤を注射してもらうようになった。以後は,ずっと注射
での使用だった。注射で覚せい剤を使っていたときは,すべて被告人が注射してく
れた。
 その後も,自宅やラブホテルで,被告人と2人で覚せい剤を使用してはセッ
クスするなどしていたが,被告人は,覚せい剤を自分で注射使用するものの,自分
は,怖いので,自分で覚せい剤を注射したことはなく,いつも被告人に注射しても
らっていたが,逮捕される直前ころには,被告人から,「そろそろ自分で打てるよ
うにならなあかんな。」などと言われた。ただ,被告人から無理矢理覚せい剤を注
射されたことはなく,全て同意の下であった。
(4) 同年4月24日,Bの実家で,B,Bの両親,自分の母親Cとの間で,自分
とBとの間の子供2人の親権をBに移すという話し合いの場を持った。自分は,子
供をBに引き取ってもらった後は,被告人との生活を継続するつもりだった。その
場で,自分の体重が減ったこと等で不審に思われたのか,母親から,「何か薬物を
やっているのではないか。」などと疑われ,「腕を見せてくれ。」などと言われ,
母親らに対し,両腕の肘関節の内側にあった注射痕を見せ,「自宅で被告人と一緒
に覚せい剤を使用している。」などと正直に告げた。
(5) それに対し,母親らは,覚せい剤を止めて,警察に出頭するように言ってき
たが,その時は逮捕される恐怖感もあった上,自宅に子供2人を残してきたので,
すぐには自首する気にならず,結局,再び自宅に戻った。その後,被告人の車両I
に乗って,被告人と2人で大阪市内に覚せい剤を買いに行き,被告人が覚せい剤2
袋と注射器10本を購入した。
(6) その後,神戸方面に戻って,「H」というラブホテルに入り,被告人が覚せ
い剤を注射使用するとともに,自分も被告人から覚せい剤を注射してもらい,セッ
クスした。その後,同月25日午後2時ころ,同ホテルを出て,被告人と自宅に戻
り,自分は夕食の支度をし,被告人はレンタルビデオショップにビデオを借りに行
った。その後,自宅で被告人と夕食を摂り,同日午後10時ころ,自宅を出て車で
西宮の方に海を見に行った後,再び自宅に戻った。その時,既に,同月26日午前
零時ころになっていた。
(7) 被告人は,その後,自宅1階寝室でパソコンをし,午前2時ころ,その場
で,被告人が覚せい剤を注射使用するとともに,自分も,被告人から覚せい剤を注
射してもらい,その後,自分は,2階の子供部屋で,被告人が借りてきたアダルト
ビデオを見ていた。そうしているうちに,被告人も2階の子供部屋に上がってき
て,被告人が覚せい剤を再び注射使用した。この時,被告人から覚せい剤を勧めら
れたが,まだ,効き目が残っていたので断った。そして,セックスをした。セック
スが終わったのは午前7時前ぐらいだった。
(8) その日は,午前9時に母親の美容院に行くことになっていたが,4月24日
の晩から寝てなく,眠そうにしていたので,被告人から,「目が覚めるように1本
打ったるわ。」などと勧められて,再度,覚せい剤を注射してもらった。具体的に
は,被告人が,メモ用紙を二つ折りにした上に覚せい剤を置き,指で細かく砕いた
粉末状の覚せい剤をスプーンの上に乗せ,ペットボトルの水を注射器で吸い上げ,
その水をスプーンの上に乗せて,脱脂綿を置き,下からライターであぶって,溶け
た覚せい剤の水溶液を注射器で吸い上げ,上腕部をスカーフで縛って血管を浮き出
させて,左腕に打ってくれた。時間は,午前7時ごろで,場所は,自宅2階の子供
部屋であった。この時は左腕肘関節内側に注射してもらった。このとき,被告人
は,覚せい剤を使用し
なかった。このときの使用が逮捕されるまでに使った最後である。
(9) その後,午前8時50分ころに自宅を出て実家の美容院に赴いたが,自宅を
出る際には,被告人は,1階寝室で寝ていた。美容院に着くと,母親から,すぐに
Bに電話するように言われたので,Bに電話すると,Bが自分を迎えに来て,その
まま一緒にJに行った。Bから,「自首してくれ。」と説得され,この時も最初
は,警察に出頭する気にはならなかったが,結局は,説得に応じ,Bと一緒に警察
に出頭した。その日,Bと会って警察に行くまでの間,Bに対し,「2時間前にも
G(被告人)から覚せい剤を注射してもらった。」という話しをした。
(10) 6月6日に保釈で出てきた後,6月8日に被告人に会ったが,その際,被
告人から,「覚せい剤の使用に当たって,おれに打たれたとかそんなこと言ったら
裏切りやぞ。」ということを言われた。その後,6月13日の昼過ぎころに被告人
と電話で話したのを最後に,被告人との接触は一切ない。
4 そこで,以下,A供述の信用性について検討する。
(1) 被告人とAとは,Aが兵庫県神戸北警察署に出頭するまでの間,特段険悪な
関係になっていないばかりか,かえって,Aは,被告人に好意を抱き,将来的には
結婚するつもりであり,そのころには,AとBとの間の子供2人の親権者をBに変
更して子供をBに引き取らせ,被告人とAとで2人の生活を始めようと考えていた
時期であったのであるから,そもそも,Aがあえて虚偽の事実を作出してまで被告
人を罪に陥れる動機・理由は窺えない。
 また,Aは,保釈許可決定によって釈放されるや,裁判所によって接触が禁
止されているにもかかわらず,直ぐに,被告人と連絡を取り合い,現実に2度にわ
たって会うなどしているところ,Aが虚偽の事実を作出してまで被告人を罪に陥れ
ようとしていたのであれば,このような行動をとるとは考えがたいのであって,そ
の点からしてもAがことさら虚偽の事実を作出してまで被告人を罪に陥れようとし
たとはいいがたい。
(2) さらに,A供述の内容は,具体的かつ詳細で臨場感に溢れており,格別不自
然・不合理な点は見受けられない上,被告人がレンタルビデオショップにビデオを
借りに行った点や,被告人とともにラブホテルに行った点(時間については,被告
人の供述とやや相違する。),被告人とメールや電話でやりとりをした点などの証
拠上認められる事実とも整合しているし,被告人とともに覚せい剤を使用していた
ことを打ち明けた状況等についても,証人Bの公判供述(以下「B供述」とい
う。)と概ね合致しているし,被告人とBとが電話で会話した際に,被告人がBに
対して,怒鳴りつけていたことについても,B供述と概ね合致するなど,A供述に
作為や破綻は認められない。
(3) また,A供述は,後述するデジタルビデオカセットに録画(録音)された被
告人の発言内容とも矛盾はしない。
(4) 以上の点からすれば,A供述は信用性が高く,弁護人が縷々主張する点を考
慮したとしても,その信用性を減殺するものではないのであって,Aが,本件時
に,被告人から覚せい剤を注射してもらったとする点については,信用することが
できる。
5 一方,被告人は,捜査段階及び公判段階を通じて,一貫して,「身に覚えがな
い。」旨供述し,具体的には,「Aに覚せい剤を注射器を使って腕に射ってやった
ことについては,全く分からないことで,理解出来ません。」,「平成14年4月
26日午前7時ころは,Aの自宅の1階にある寝室で寝ていました。」(以上,乙
8),「私は,Aに覚せい剤を射ったことはありません。」(乙9),「今回のこ
とは全く身に覚えがありません。」,「(Aの体内に覚せい剤が入ったことについ
て思い当たることは)全くありません。」,「(平成14年4月26日午前7時こ
ろは)家の寝室で寝ていました。」,(平成14年4月中旬から同月下旬にかけ
て,何度かAに覚せい剤水溶液を注射してないか,との問に対し)「していませ
ん。」,(君は,平成1
4年4月26日午前7時ころ,神戸市a区bc丁目d番e号の当時のA方で,Aと共謀
して覚せい剤水溶液をAに注射し,覚せい剤を使用した事実はないのか,との問に
対し)「私は,そのようなことはしていません。」(以上,乙11),「4月25日
は,深夜(日付としては26日)午前3時ころまでに寝て,26日の昼1時か2時
まで寝ていた。」旨,「その間に起きて,朝7時ころに覚せい剤をAに注射した事
実はない。」旨(第4回公判調書中の被告人の供述部分。以下,「第4回公判供
述」という。以下,同じ。),「Aの尿から覚せい剤成分が検出されていることに
ついて,思い当たることはない。」旨(第5回公判供述),(あなたは,Aさんが
覚せい剤を使っていたことに気づかなかったのですか,との問に対し)「はい。」
(第8回公判供述)な
どと供述している。
6 そこで,以下,被告人の供述の信用性について検討する。
(1) 被告人は,Aの体重の変化等については記憶にない旨供述し(第5回公判供
述),また,Aの両腕の注射痕にも気づかなかった旨供述し(第8回公判供述),
Aが覚せい剤を使っていることに気づかなかった旨供述している(第8回公判供述
など)。
 ところで,関係各証拠によれば,Aは,1か月も経たないうちに5キロ程度
体重が減少したり,目の周りに隈ができ,他人が見てもその変貌ぶりが目につくよ
うな状態であったこと,また,平成14年4月26日の時点において,Aの両腕の
肘関節内側には,素人が肉眼で見てもはっきりと分かる注射痕が存在していたこと
が認められる。
 とすれば,Aと同棲し,肉体関係も持つなど極めて親密な関係にあった被告
人が,Aの,短期間のうちの体重の変化(減少)や両腕の注射痕などに気づかなか
ったという被告人の前記供述は容易には信用しがたい。
(2) 被告人は,捜査段階において,「次に,Aが自宅を出ていった後のことにつ
いてお話ししますと,Aが警察に逮捕されたことを私が初めて知ったのは,6月の
始めころです。Aから私の携帯電話にメールが『迷惑かけました,保釈で出て来ま
した。連絡下さい』との内容で入り,私(被告人)がAに電話を掛け,覚せい剤の
使用で警察に逮捕されていたことや現在保釈中で出てきたことを知りました。」旨
の供述をしている(乙9)。
 しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,平成14年4月28日には
(さらに,前日の27日の可能性もある。),Cから,Aが警察に逮捕されたこと
を聞いて知っており,同年5月中には,被告人が経営するたこ焼き店の従業員であ
るD(以下「D」という。)を接見にまで行かせているのであって,捜査段階での
前記供述は,証拠上認められる事実と異なる内容であり,ことさら,自己の関与を
隠蔽しようとする意図のもとの供述であるといえる。
 なお,被告人は,公判段階に至って,「(Aが警察に逮捕されたことについ
て)4月28日にCから聞いた」旨供述し(第4回公判供述),捜査段階での前記
供述を変遷させているが,その変遷の理由について合理的な説明はない。
(3) 関係各証拠によれば,被告人は,Dや,その当時交際していたE(以下
「E」ともいう。)に依頼して,Aの公判を傍聴に行かせ,その供述内容を聞いて
来るように依頼していたことが認められるところ,捜査段階においては,「E(E
のこと)は,自分から公判を聞きたいと自分から言い出した(た)め」,「Eにつ
いては,Aのことを話したことはありますが,『公判を聞いてくれなどと一切言っ
ていない』」旨供述していたのに(乙9),その後,公判段階に至って,Eにも依
頼して公判を傍聴しに行ってもらった旨供述を変遷させている(第5回公判供
述)。
(4) また,Dの検察官調書(甲27)における供述によれば,Dは,被告人に頼ま
れてAの公判を傍聴しに行ったが,その際のこととして,「私は,事前に,オーナ
ー(被告人のこと)から,『Aは,自分から進んでやったんや。』ということを聞
いていたのですが・・・」などと供述している。なお,Dは,被告人を尊敬すると
ともに,怖いと思う気持ちがあると供述しており,また,被告人の留守を守って被
告人経営のたこ焼き店の営業を続けているのであり,そのようなDが,被告人が不
利になるような虚偽の供述をことさらするとは考えがたく,前記Dの供述は信用性
が高い(なお,被告人自身,被告人とDとの関係は,別に変わったところもない関
係である旨供述している(乙9))。ところで,弁護人が主張するとおり,被告人
が,本件について全
く身に覚えがないとすれば,「俺は全く知らない。」とか,「俺は関係ない。」な
どとの発言をするのが普通であると思われるところ,被告人の前記発言は,それと
は逆に,Aの覚せい剤の使用についての自らの関与を認め,ただ,自分が無理矢理
したとか,勧めたとかではなく,Aが自分で進んでやった,ということを主張する
内容の発言と考えるのが合理的であり,「身に覚えがない。」,「Aが覚せい剤を
使っていたことに気づかなかった。」旨の被告人の供述とは相容れない。
(5) 被告人は,捜査段階において,「4月22日から4月26日の朝までに大阪
に行ったことはあるか」との問に対し,「ありません。大阪に行ったことがあるの
は過去に1,2回観光で行っただけでしたので場所も詳しく知りませんし,行って
いません。」と供述している(乙8)。
 しかしながら,一方で,被告人は,前刑の際に使用した覚せい剤は,大阪に
あるアメリカ村の三角公園という場所を歩いていた時に購入したものである旨供述
し(乙2),公判廷における供述においても,平成14年4月26日の行動とし
て,「大阪のほうに出て,遊んでおったんですけど。」,「最初は知り合いとキタ
で会いまして,大阪の,キタで会って,それから知り合いのミナミの店ですか,に
行って,飲んでおったんですけど。」旨供述している(第5回公判供述)ところか
らすれば,前記のような,「大阪に行ったことがあるのは過去に1,2回観光で行
っただけで・・」との供述はにわかに信用しがたく,かえって,Aが捜査官に対し
て,被告人と覚せい剤を大阪に買いに行った旨供述していることを予測し,また
は,A本人から,その旨
供述したことを知らされ,あるいは,その旨を捜査官から聞かされ,それを否定せ
んがためにあえて虚偽の供述をしたのではないかとも考えられる。
(6) 被告人は,捜査段階及び公判段階において,保釈後のAに対し,自分から積
極的には連絡を取っていない旨供述しているが,関係各証拠によれば,被告人は,
かなり頻繁にAにメールを送り,Aからメールの返事が来ないにもかかわらず,送
り続けたり,Aとメールや電話で連絡が取れなくなると,前記Dや同じく被告人の
たこ焼き店を手伝っていたFを,Aの元に行かせ,その場で被告人との電話に出さ
せるなどしていることが認められるのであり,また,A供述やAの検察官に対する
供述(甲25)からしても,被告人が積極的にAに接触しようとしていた事実が認め
られるのであって,それは,Aが捜査官に対して,どのようなことを話したのかに
ついての情報を得ようとの意図のもと,もしくは,口止めをしようとの意図のも
と,接触をはかったも
のと考えるのが相当である。
(7) 以上の各点を考慮しただけでも,被告人の供述には,不自然・不合理な点や
供述の変遷等が認められ,また,証拠上認められる事実と齟齬するなど,被告人の
供述は全体として信用性が低い。
(8)ア ところで,被告人及びAとも,デジタルビデオカセット(以下「本件カセ
ット」という。甲31)に録画(録音)されている発言は,平成14年6月13日午
後にされた被告人とAとの電話での会話のうち,被告人側の発言が録画(録音)さ
れたものである旨供述し(被告人の第5回公判供述,A供述。なお,Eの検察官調
書(甲33)参照。),訴訟関係人もその旨特に争っていないところである。ただ,
本件カセットに録画(録音)されている会話が,上記の様な被告人とAとの間の電
話による会話であるのか,被告人とEとの間の会話であるのか,あるいは,その両
者が混在したものであるのかについては,当裁判所には必ずしも判然とせず,被告
人の発言であることは認められるものの,それが誰に対しての発言であるかについ
ては,断定できない。
 ただ,いずれにしても,その発言は,デジタルビデオの電源等を切り忘れ
たままにしていたところ,たまたま録画(録音)されたものであって,概ね被告人
の真意・本音に基づく発言が録画(録音)されているものといえる。
イ そして,その内容は,Aの覚せい剤事件に関するものであり,会話の相手
が誰であれ,少なくとも,Aに関し,Aが覚せい剤を使いたいと言ったから使わせ
てやったのに,発覚後,Aがたやすく自己(被告人)の関与を申し述べていること
を非難するかの如き口ぶりであることが認められる。
ウ とすれば,少なくとも,被告人の「身に覚えがない。」とか,「Aが覚せ
い剤を使っていたことに気づかなかった。」などとの供述は,本件カセットに録画
(録音)されている被告人の前記発言からして信用しがたい。
(9) 以上検討したところからすれば,「身に覚えがない。」などとして本件への
関与を否定する被告人の前記供述は信用することができない。
7 被告人は,捜査段階及び公判段階を通じて,Aが覚せい剤を最終使用したとい
う日時において,Aの自宅でAと一緒にいたことを自認しており,関係各証拠によ
ってもその事実を認めることができ,本件犯行時に,被告人がAに覚せい剤を注射
できる機会を有していたことが認められる。
8 以上のとおり,信用することのできるA供述によれば,被告人が本件時におい
て,Aに覚せい剤を注射した事実を認めることができ,その他これまでに検討した
ところを考慮すれば,被告人が,本件犯行を犯したことについて合理的な疑いを容
れない。
9 よって,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
罰       条  刑法60条,覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19

未決勾留日数の算入  刑法21条
訴訟費用の不負担  刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,その当時交際していた女性に対して覚せい剤を注射したとい
う事案である。被告人が事実を否認しているため,その詳細な動機は明らかではな
いが,もとより,禁止薬物である覚せい剤を他人に注射することについて,動機に
酌量の余地はない。被告人は,平成10年に覚せい剤取締法違反・大麻取締法違反
の罪によって,懲役2年,執行猶予3年の判決を受けていること,常習性も窺われ
ることに照らすと,犯情は悪い。また,被告人は,不自然・不合理な弁解を繰り返
して自己の責任を免れるために汲々としており,反省の態度は見受けられない。以
上からすれば,被告人の刑事責任は重大である。
 一方,Aが自ら好奇心をもって覚せい剤を求めた面は否定できず,被告人がAに
対して,無理矢理覚せい剤を使用させたわけではないこと,前刑の執行猶予が取り
消されることなく,その猶予期間が経過していることなどの被告人に有利な事情も
認められる。
 そこで,これら被告人に有利・不利な事情を総合考慮し,被告人を主文掲記の刑
に処することとする。
 よって,主文のとおり,判決する。
(求刑・懲役2年6か月)
平成15年7月16日
神戸地方裁判所第12刑事係乙
裁 判 官   川   上       宏

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