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平成11年(行ケ)第143号審決取消請求事件(平成12年9月13日口頭弁論
終結)
          判     決
     原      告   秀工電子株式会社
     代表者代表取締役   【A】
     訴訟代理人弁護士   渡 邊   敏
     同    弁理士   【B】
     被      告   有限会社ユア開発
     代表者代表取締役   【C】
     訴訟代理人弁護士   岡 田 春 夫
     同          小 池 眞 一
     同    弁理士   【D】
          主     文
      特許庁が平成10年審判第35488号事件について平成11年3月
29日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は、名称を「遊技設備」とする特許第2037742号発明の特許権者
である(以下、この特許を「本件特許」という。)。なお、本件特許は、昭和58
年11月15日にした特許出願(特願昭58-215656号。以下「原出願」と
いう。)の一部を、平成4年5月29日に分割して新たな出願(特願平4-137
373号。以下「分割出願」という。)とした上、平成8年3月28日に設定登録
されたものである。
   原告は、平成10年10月9日、本件特許の無効審判を請求し、特許庁は、
この請求を平成10年審判第35488号事件として審理した上、平成11年3月
29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年4
月26日原告に送達された。
 2 本件特許に係る特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「本件発
明」という。)の要旨
   複数の遊技台(A)を横方向に並設して構成される遊技台列に、紙幣(a)
をその紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列前面側から受け入れて識別し、か
つ、識別した紙幣(a)をその紙面が上下方向に沿う姿勢で当該遊技台列背面側に
送り出し可能な複数の遊技用貸機(B)が当該遊技台列に沿う方向で設けられてい
るとともに、前記遊技用貸機(B)の各々から送り出された紙幣(a)を挾持して
その紙面が上下方向に沿う姿勢で前記遊技台列に沿って特定位置まで合流搬送する
搬送装置(D)が前記遊技台列の背面側に設けられ、前記遊技用貸機(B)から送
り出される途中の紙幣(a)を横方向に屈曲させて前記搬送装置(D)による挾持
位置に案内する案内部(6A,6B)が設けられている遊技設備であって、前記遊
技用貸機(B)の各々と前記搬送装置(D)とが、前記遊技用貸機(B)の各々に
受け入れた紙幣(a)が一定の高さ位置に沿って前記特定位置まで移動する状態で
設けられている遊技設備。
 3 審決の理由
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人(原告)の主張する無効理由
1、2(後記第3記載の取消事由1、2と同旨)はいずれも理由がないとして、本
件特許を無効とすることはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決の理由中、本件発明の要旨の認定(審決書2頁3行目~3頁13行目)
並びに実公昭56-30943号公報(甲第6号証、以下「引用例1」とい
う。)、特開昭56-95079号公報(甲第16号証、以下「引用例2」とい
う。)、特開昭53-3399号公報(甲第11号証、以下「引用例3」とい
う。)、特開昭53-13998号公報(甲第3号証、以下「引用例4」とい
う。)、実公昭58-6823号公報(甲第12号証、以下「引用例5」とい
う。)及び特開昭55-30726号公報(甲第9号証の1、以下「引用例6」と
いう。)(以上の書証番号は、審判及び本訴を通じて同一である。)の記載事項の
認定(審決書7頁1行目~10頁12行目)は認める。
 審決は、本件発明が上記各刊行物に記載された発明に基づき容易に発明をす
ることができたとはいえないとの誤った判断をし(取消事由1)、また、本件発明
が原出願時の明細書又は図面に記載された発明でなく、したがって、出願日が原出
願日に遡及しない不適法な分割出願であるのに、本件発明は原出願時の明細書又は
図面に記載された事項の範囲内であるとの誤った認定判断をした(取消事由2)結
果、本件特許を無効とすることはできないとの誤った結論に至ったものであるか
ら、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(容易想到性の判断の誤り)
   審決は、「甲第6、16、11号証刊行物に記載された事項と甲第3、1
2、9-1号証刊行物に記載されたカード類、紙幣の搬送に関する事項とを組み合
わせたとしても・・・本件発明の課題を解決する上での構成事項である『紙幣を紙
面が上下方向に沿う姿勢で遊技台列の前面側から受け入れて、その姿勢で遊技台列
の背面側に送出し、さらに案内部により横方向に屈曲させて挾持搬送装置に合流さ
せ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とすること』(判決注・以
下「本件発明の構成1」という。)及び『遊技用貸機と搬送装置が遊技用貸機に受
け入れた紙幣が一定の高さ位置に沿って特定位置まで移動する状態で設けられてい
ること』(判決注・以下「本件発明の構成2」という。)については予測されるも
のでない」(審決書16頁17行目~17頁10行目)として、本件発明は進歩性
を欠くものではないと判断するが、以下のとおり誤りである。
 (1) 引用例1について
  従来は、パチンコ機列内の所々に配置された自動玉売機の硬貨貯留部を開
き、中に溜まった硬貨の回収をしていたため、自動玉売機の配置数を増やすとその
回収作業に手間取るという技術的課題があったが、引用例1記載の発明(パチンコ
ホールにおける自動玉売機からの硬貨回収装置)は、この技術的課題を解決するた
めに、パチンコ機列の背面に送り出される硬貨を導出樋と集合路によって硬貨をそ
の平面が上下方向に沿う姿勢で、パチンコ機列に沿って合流搬送し、一括回収する
という構成を採用したものである。これによれば、硬貨と同じ通貨である紙幣につ
いても、パチンコ機列の背面で合流搬送し、一括回収することの起因又は動機付け
となり得るものであるから、この点について、審決が、引用例1(甲第6号証)記
載の発明は「紙幣の場合にも、受け入れから搬送装置による搬送まで、紙面を上下
方向に沿う姿勢に維持することを示唆するものではない」(審決書12頁17行目
~20行目)と認定判断したことは誤りである。
 (2) 引用例2について
 引用例2(パチンコ機の管理制御装置)には、複数のパチンコ機を横方向
に並設して構成されるパチンコ機列において、パチンコ機に隣接して設けられた賞
ボール貸機の前面側の硬貨投入口から上下方向に沿う姿勢で受け入れた硬貨を、識
別の上、パチンコ機列背面側に送り出し、当該パチンコ機列に沿ってキャッシュボ
ックスまで合流搬送するための、水平な載置面を有するベルトコンベアによる搬送
装置が開示されているほか、硬貨に代えて紙幣を使用することも明示されている。
そうすると、引用例2記載の発明が、前述したように、遊技台列の背面側に、各自
動玉売機から送り出される硬貨を導出樋と集合路によって、硬貨をその平面が上下
方向に沿う姿勢で、遊技台列に沿って回収タンクまで合流搬送する搬送装置を設け
て、硬貨を一括回収する構成を採用している以上、引用例1を引用例2に適用すれ
ば、本件発明の構成1を示唆するものといえる。
 (3) 引用例3について
 引用例3記載の発明(自動交換装置)は、例えばパチンコ遊技場において、
紙幣等の鑑別機を別に設けて、複数の自動交換機(自動玉貸機)で鑑別機を共用す
るようにした自動交換装置に関するものであり、複数のパチンコ台を横方向に並設
してパチンコ島を構成し、パチンコ台の隣接間のうちの特定箇所に、紙面を上下方
向に沿う姿勢で受け入れる紙幣投入機が設けられ、投入口から上下方向の姿勢で投
入された紙幣は、取り込み用ローラで取り込まれて、紙幣投入機下部に設けられた
金庫に送り出される遊技設備であるから、引用例1に記載された従来の自動玉売機
と同様に、各金庫からの回収作業に手間取るという技術的課題があることは明らか
である。そうすると、引用例1に接した当業者において、引用例3記載の自動玉貸
機における各金庫内からの紙幣の回収作業に手間取るという技術的課題を認識し、
これを解決するために、引用例3記載の発明についても、引用例1と同様に、パチ
ンコ台(遊技台)列の背面側に、紙幣投入機の各々から送り出される紙幣を、パチ
ンコ台(遊技台)列に沿って特定位置まで合流搬送する搬送装置を設け、これによ
って紙幣を一括回収することは、容易に想到し得るものである。すなわち、本件発
明の構成1は、紙幣を上下方向に沿う姿勢で受け入れる構成を示す引用例3と、紙
幣と同様の通貨であって薄板状態のものである硬貨について、その平面を上下方向
に沿う姿勢で案内部により横方向に屈曲して搬送装置に合流して、上下方向に沿う
姿勢で搬送していることを開示する引用例1により十分示唆されている。
 (4) 引用例5について
 引用例5記載の発明(紙幣の搬送装置)には、紙幣払出機等に関し、紙幣送
出部から特定位置(払出台8)まで紙幣をほぼ一定の姿勢で挾持して合流搬送する
という技術的事項が開示されている。そして、パチンコホール等の遊技設備と銀行
等の紙幣払出機は、ともに紙幣を含む現金を取り扱うことで共通し、紙幣を搬送す
る場合の機能・作用としては同様のことが要請されるから、引用例5に開示された
紙幣搬送装置をパチンコホールの紙幣搬送装置に採用することに困難性があるとは
いえないところ、引用例5に開示された搬送装置では、紙幣の送り出しから特定位
置までの搬送の間、紙幣の両面は、特に理由のない限り、水平方向に関して一定の
位置で移動するよう設計されている。そして、この搬送装置は、紙幣が落下しない
ように紙幣の両面を挾持して搬送するものであるから、上方向に搬送する場合に代
えて、水平方向(横方向)に搬送する場合でも、これを困難とするような技術的理
由は認められず、本件発明のように紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で搬送す
る場合にも適用可能である。
 これに、遊技台列前面側の縦長の投入口において、紙幣をその紙面が上下方
向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台背面側に送り出すことを実質的に開示する
引用例2を組み合わせれば、本件発明の構成1は、当業者にとって容易に想到でき
るものである。
 この点について、審決が、引用例5(甲第12号証)記載の装置は、「紙幣
を受け入れてそれを送り出し搬送するものでなく、まして、紙幣を紙面が上下方向
に沿う姿勢で前面側から受入れて、その姿勢で背面側へ送出し屈曲させて挾持搬送
装置に合流させ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿う姿勢とし、かつ受
け入れた紙幣が一定の高さ位置に沿って払い出し位置まで移動することを示唆する
こともない」(審決書15頁17行目~16頁4行目)と認定判断したことは誤り
である。
 (5) 引用例6について
 引用例6記載の発明(現金一括処理システム)は、紙幣の向きを変更して、
挾持搬送する搬送ベルトから特定位置である窓口ステーションに更に向きを変えて
搬送するものであるが、紙幣を上下方向に沿う姿勢で前面から受け入れてその姿勢
で背面に送り出すようにすることは設計変更の可能な事項である。また、引用例6
は、紙幣の出金方式に適用されたものではあるが、装置の駆動を反対方向にすれ
ば、紙幣の入金方式の縦搬送になるのであり、このように機械の駆動を反対方向に
することは設計事項である。
 この点について、審決が、引用例6(甲第9号証の1)記載の発明は「紙幣
を紙面が上下方向に沿う姿勢で前面側から受入れて、その姿勢で背面側へ送出し、
屈曲させて挾持搬送装置に合流させ搬送するとともに、その間紙面を上下方向に沿
う姿勢とし、また複数の現金払出機1と搬送装置が、受け入れた紙幣を一定の高さ
位置に沿って移動させることを示唆するものでもない」(審決書16頁10行目~
16行目)と認定判断したことは誤りである。
 2 取消事由2(分割出願の違法性)
 分割出願時の明細書(以下「本件明細書」という。)に記載された下記事項
は、原出願時の明細書(以下「原明細書」という。)又は図面(以下「原図面」と
いう。)に記載された事項とはいえないから、分割出願は不適法であって、その出
願日は原出願時に遡及することなく、分割時である平成4年5月29日となる。し
たがって、本件発明は、原出願の公開公報である特開昭60-106744号公報
(甲第19号証)により新規性を喪失し、無効とされるべきものである。
 (1)「特定位置」について
 本件明細書(甲第21号証)には、紙幣の搬送先として「特定位置」との
記載(同4欄18行目、25行目、5欄17行目、41行目、50行目)がある
が、原明細書及び原図面(甲第18号証)には「特定位置」という記載はなく、紙
幣の搬送先としての「回収部」(同2頁13行目)及び「収納部(C)」(同5頁18
行目、11頁14行目、第2図)との記載が、本件特許ではこれより広く範囲の不
明確な「特定位置」に変更されたものである。
 この点について、審決が、「本件発明における『特定位置』は、特許請求
の範囲の記載からして、紙幣の搬送先であって特定された位置であることが明らか
であり」(審決書20頁19行目~21頁1行目)、「したがって、原明細書及び
原図面には、紙幣の搬送先である位置が特定された位置として記載されており、本
件発明における『特定位置』は、原明細書又は原図面に記載された事項である。」
(同21頁13行目~16行目)と認定判断したことは誤りである。
 (2)「案内部」について
  原明細書に記載されている「前後一対のガイド板」(甲第18号証9頁11
行目~12行目)に相当する部分が、本件明細書において、それより大きな概念で
ある「案内部」(甲第21号証1欄13行目等)に拡大変更されている。
  この点について、審決が、「原明細書及び原図面には、遊技用貸機から送り
出される途中の紙幣を横方向に屈曲させて搬送装置による挟持位置に案内する案内
部が記載されており、本件発明における『案内部』は、原明細書又は原図面に記載
された事項である。」(審決書23頁6行目~10行目)と認定判断したのは誤り
である。
 (3)「作用f」について
 本件明細書には、「作用f」として「遊技用貸機の据え付け位置にかかわら
ず、遊技用貸機からの紙幣の送り出し高さと搬送装置による紙幣の搬送高さとを一
定化できる」(甲第21号証5欄26行目~28行目)との記載があるが、原明細
書及び原図面には、このような作用を示す記載はない。
 この点について、審決が、原明細書及び原図面の記載を理由として、「本件
発明の作用である『遊技用貸機の据え付け位置にかかわらず、遊技用貸機からの紙
幣の送り出し高さと搬送装置による紙幣の搬送高さとを一定化できる』事項は、原
明細書又は原図面に記載された範囲内のものである」(審決書25頁15行目~2
0行目)と認定判断したのは誤りである。
 (4)「作用g」について
   本件明細書には、「作用g」として、「遊技台列に設けた複数の遊技用貸機
と搬送装置の搬送路との水平方向の相対位置を、据え付け精度上或いは配置上の理
由等で、一定にできない場合でも、紙幣を遊技用貸機から搬送装置に受け渡し易
い」(甲第21号証5欄29行目~32行目)との記載があるが、遊技用貸機と搬
送装置の水平方向の相対位置を一定にできなければ紙幣の受け渡しに支障をきたす
のであり、作用gとして記載された事項は、論理的に誤った記載である。
   この点について、審決が、「本件発明の前記作用gは、この構成により当然
生じる自明なものであり、原明細書又は原図面に記載された事項の範囲内のもので
ある」(審決書26頁14行目~17行目)と認定判断したのは誤りである。
第4 被告の反論
   審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
 1 取消理由1(容易想到性の判断の誤り)について
(1) 引用例1について
  引用例1には、遊技台背面側で合流搬送すべき具体的な技術的手段に関し
て、紙幣と異なり、円形で一定の厚みがあり一定の重さを有して形状の安定した硬
貨の特性及びこのような特性を持つ硬貨に固有に適用される自然法則を利用した硬
貨の転動ないし滑り落ちによる移動技術に関する発明が開示されているにすぎな
い。その際、硬貨が上下方向に沿う姿勢となるのは、硬貨を転動させるためであっ
て、搬送スペース上の解決すべき課題を示唆する記載もない。
  したがって、審決が、引用例1(甲第6号証)は「紙幣の場合にも、受け
入れから搬送装置による搬送まで、紙面を上下方向に沿う姿勢に維持することを示
唆するものではない。」(審決書12頁17行目~20行目)と認定判断したこと
に誤りはない。
 (2) 引用例2について
 引用例2においては、その第1、第2図が図示する硬貨が横に寝た姿勢で
返却を可能とする硬貨返却口51、終端が急激にへの字状に折曲された取込樋49
のいずれも紙幣を使用することができないものであり、その他の記載を検討して
も、引用例2には紙幣を使用する場合の具体的構成の記載がないことは明らかであ
る。なお、同刊行物には、硬貨を使用することに代え又はこれとともに紙幣を使用
することの記載があるが、本件特許の出願当時には、紙幣を自己収納するタイプの
玉貸機が唯一知られていただけであるから、このような出願当時の技術水準に従っ
てみれば、紙幣を使用する場合とは、紙幣を自己収納するタイプの賞ボール貸機が
用いられると解するのが限度である。
 仮に、引用例2より、「遊技台列の背面側に送出された紙幣は水平な載置
面を有するベルトコンベア上に落下されて載置され搬送されることになる」との事
項が抽出されるとしても、本件発明では、紙幣を回収するシステムの設置スペース
を小さなものとするために、遊技用貸機が上下方向に沿う姿勢で受け入れた紙幣を
上下方向に沿う姿勢を保ったまま送り出し、紙幣の可撓性を利用して横方向に屈曲
させ、遊技台列背面側で紙幣を上下方向に沿う姿勢で挾持して搬送するとの技術的
思想に加え、遊技用貸機と搬送装置の据え付けを容易にするため、遊技台、遊技用
貸機、搬送装置という独立した装置を組み合わせることにより構成される遊技設備
において、複数の遊技用貸機に受け入れられた紙幣が特定位置まで搬送される間、
すべて一定の高さ位置となるように、複数の遊技用貸機と挾持搬送装置との設置の
関係が保たれていることに特徴がある。したがって、引用例2に示されていないこ
のような相違点は、紙幣の取扱いに関する技術的事項を開示する他の引用例を組み
合わせても、当業者が容易に想到することができないものである。
 (3) 引用例3について
 引用例3には、紙幣を自己収納する自動玉貸機が記載されているが、受け
入れた紙幣を自動玉貸機ごとに個別回収することによって生ずる技術的課題に対す
る問題意識が何ら記載されていない。したがって、本件発明の構成1が、引用例1
及び引用例3に示唆されている事項であるとの原告の主張は失当である。
 (4) 引用例5について
 引用例5記載の発明は、装置内部に貯留した異なる金種の紙幣を、必要な
枚数だけ取り出して上方の振出台に払い出す紙幣払出装置に関するものである。同
刊行物の記載のうち、複数の給送部分から送出される紙幣を途中で合流させて挾持
搬送するという技術的事項は、外形的には本件発明の構成1に類似するとはいえて
も、技術分野が異なる本件発明では、複数の遊技用貸機からランダムに投入される
紙幣を遊技設備における水平断面に狭く上下方向に広いスペースを有効利用して特
定位置まで合流搬送させるという技術的課題に関するものであるから、引用例5に
開示された上記技術的事項を適用することの起因ないし契機(動機付け)となると
ころがないというべきである。
 (5) 引用例6について
 引用例6には、確かに、紙幣を挾持して搬送する搬送体を短距離の個別ベ
ルトと組み合わせて構成することにより、挾持搬送装置の外側に紙幣を導くという
技術的事項が開示されていると評価することができる。しかし、これは紙幣搬送に
おいてスペースを極力小さくするという技術的課題を有しないものであり、しか
も、その目的が、本件発明とは逆の、紙幣を所望の窓口に分配するということにあ
るのであるから、本件発明のように、紙幣を上下方向に沿う姿勢で挾持して搬送す
る途中に複数の開放部分を設け、複数箇所からの外側から紙幣を合流させるという
課題解決手段としての構成は何ら示すところがない。
(6) 以上のとおりであるから、上記各引用例を組み合わせても、本件発明の課題
を解決する上での構成事項について予測されるものではないとした審決の認定判断
に、誤りはない。また、仮に、構成事項のみを単独で検討した場合に、本件発明の
構成1、2を採用することが予測可能であるとしても、これらの構成に基づく格別
の作用効果(審決書17頁14行目~20頁9行目)をも考慮すれば、容易相当性
に係る審決の判断が左右されるものではない。
 2 取消事由2(分割出願の違法性)について
 (1)「特定位置」について
 原明細書(甲第18号証)の特許請求の範囲には、「①・・・薄板状体
(a)を上下姿勢で挟持して一定経路(4)に沿って搬送する挟持搬送機構(5)
が設けられ・・・」(1頁5行目~8行目)と記載されているから、挟持搬送機構
が薄板状体をいずれかの場所からいずれかの場所に移動させるとの構成が上位概念
として明記されており、さらに具体的には、「紙幣を遊戯台列の一端側に設けた回
収部に搬送する」(同2頁12行目~13行目)との記載によって、遊技台列背面
側にて紙幣を合流させ台列一端に設けた収納部(C)まで搬送するという下位概念
たる技術的事項が示されている以上、原明細書において、遊技台列に沿って複数の
遊技用貸機から送り出される紙幣を合流搬送して遊技台列に沿った特定の場所にま
とめるという技術的事項が記載されているのは明らかである。
 (2)「案内部」について
 原明細書(甲第18号証)の「前記紙幣供給口(6)は、・・・送出し紙
幣(a)を次第に挟持搬送経路(4)に沿った姿勢に変更して下手側搬送機構
(5)の始端部に案内する前後一対のガイド板(6A),(6B)を設けた」(9
頁7行目~12行目)との記載に、原図面第4図も参酌すると、原明細書及び原図
面には、紙幣を挟持して搬送する搬送装置に紙幣を供給する機能を有する「案内
部」との上位概念と、その具体的な手段である「前後一対のガイド板」がその機能
も含めて明確に記載されている。
 (3)「作用f」について
 原図面第1~第3図からすると、原出願に係る玉貸機と紙幣搬送機構が、
同一高さでかつ水平に配置される構成とされていることは明らかであるから、作用
fに係る事項は自明のことであって、この点の審決の認定判断(審決書25頁15
行目~20行目)に誤りはない。
 (4)「作用g」について
 原告の主張は、本件発明を構成する遊技用貸機と搬送装置という本来は独
立した装置部分を、各々の入替や設置すべき場所等の関係で当業者が適宜に調整を
図るという当然の技術常識を理解していないことによるものである。システム装置
において複数の独立した製品を一定の規則に基づいて配置するよう規律する基準を
確立した構成が示された場合、これが各製品の据え付けや配置を容易にしている技
術であることは、自明な事項である。したがって、審決の認定判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(容易相当性の判断の誤り)について
 (1) 引用例2について
    引用例2(甲第16号証)が、賞ボール貸機として硬貨を使用し、これを
受け入れて搬送することを開示するものであり、同刊行物には、①複数のパチンコ
機を横方向に並設してなるパチンコ機列に、硬貨を上下方向に沿う姿勢でパチンコ
機列の前面側の縦長の投入口から受け入れて選別機により選別し、取込樋を通じて
パチンコ機列の背面側に送り出す複数の賞ボール貸機がパチンコ機の並設方向に設
けられていること、②賞ボール貸機の各々から送り出される硬貨を水平な載置面を
有するベルトコンベア上に載せ、パチンコ機の並設方向に沿ってキャッシュボック
スまで合流搬送する搬送装置がパチンコ機列の背面側に設けられていること、③賞
ボール貸機として、硬貨を使用することに代え又はこれとともに紙幣を使用し得る
ようにしてもよいことが記載されていることは、前示のとおり当事者間に争いがな
い。
    そうすると、引用例2は、遊技台列前面側の縦長の投入口において、紙幣
をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台列背面側に送り出すこ
と、そのように送り出された紙幣を遊技台背面に設けられた搬送装置によって特定
位置まで合流搬送すること、以上の技術的事項を開示するものということができ
る。
    なお、被告は、引用例2に記載された実施例は紙幣を使用することができ
ないものであり、出願当時の技術水準からすると、同刊行物に記載された紙幣を使
用する場合とは、紙幣を自己収納するタイプの賞ボール貸機と解するのが限度であ
ると主張する。しかし、引用例2記載の発明の意図が、複数の賞ボール貸機に投入
された貨幣をキャッシュボックスに集めて一括回収しようとする点にある以上、受
け入れた貨幣を自己収納する手段によって代替できないことは明らかであること、
同刊行物の「賞ボール貸機22として硬貨を使用する場合について述べたが、これ
に代え又はこれと共に紙幣を使用し得るようにしても良い」(5頁右上欄17行目
~20行目)との記載に照らすと、硬貨に代えて紙幣を使用し一括回収する場合に
ついても明確に記載されているということができ、被告の上記主張は採用すること
ができない。
 (2) 引用例5について
    引用例5(甲第12号証)には、①紙幣払出し機等に使用される搬送装置
であって、ケース2に装入され弾圧板5で弾圧された紙幣は、吸着頭6により紙幣
の方向を変えた上で、送出しローラーA1、A2間に送給され、さらにガイドG、
G間に送入されて搬送体B3により、搬送体B2とB3の接触部に送り込まれ、ベ
ルト形式の搬送体B1、B2の間に弾性的に挟まれて合流し、上方に搬送され払出
台8上に送出されること、②搬送体B1、B2への合流部へ、紙幣は屈曲されて案
内されることが開示されていることは当事者間に争いがない。そして、引用例5
(甲第12号証)には、「本考案は紙幣の搬送装置に関する。すなわち、送出しロ
ーラーから1枚ずつくり出される紙幣を次の搬送体に受渡す構造の搬送装置を改良
したものであって、例えば紙幣払出機等の紙幣の搬送部等に用いて効果がある搬送
装置を提供しようとするものである。」(1頁2欄2行目~7行目)と記載されて
おり、この記載及び同号証図面並びに前示争いのない事実によれば、引用例5記載
の発明は、特定の業務に限定されない一般的な紙幣の搬送装置に関するものであっ
て、本件発明と同様、複数の並設された紙幣の給送部分から受け入れた
紙幣を「案内部」に相当するものにより屈曲させて搬送装置に合流させるととも
に、搬送装置において当該紙幣を挟持して搬送する手段を開示しているというべき
である。
    そして、この引用例5に開示された搬送装置は、紙幣が落下しないよう搬
送体により紙幣の両面を挟持して搬送するものであるから、紙幣を上方向に搬送す
る実施例の構成に代えて、水平方向(横方向)に搬送することを困難とするような
技術的理由は認められず、本件発明のように、水平方向に搬送する場合にも適用可
能であると認められ、かつ、その場合に、紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢と
することも格別なものとはいえない。現に、引用例6(甲第9号証の1)に記載さ
れた銀行業務の現金一括処理システムは、払い出された紙幣を水平方向に挟持搬送
するものであるが、その第1図には、紙幣を上下方向に沿う姿勢とする搬送装置と
水平方向に沿う姿勢とする搬送装置とが組み合わされて記載されている。そして、
紙幣を上下方向に沿う姿勢とする搬送装置は、水平方向に沿う姿勢とする搬送装置
と比較して、一般的に、高さが増す一方で幅が減少することが明らかであるとこ
ろ、幅の制約に基づき設置スペースを極力小さくするという課題を解決しようとす
るとき、当業者であれば、紙幣を上下方向に沿う姿勢とする搬送装置を選択するこ
とは、ごく自然に想到するところであり、このような選択は、設計事項にすぎない
というべきである。
 (3) 本件発明の構成1の容易想到性について
    以上の認定に基づいて、本件発明の構成1の容易想到性について判断する
に、まず、引用例2は、前示のとおり、遊技台列前面側の縦長の投入口において、
紙幣をその紙面が上下方向に沿う姿勢で受け入れ、これを遊技台列背面側に送り出
すことを実質的に開示するものである。また、引用例5の紙幣の挟持搬送装置は、
前示のとおり、紙幣の上方向への搬送に限定されず水平方向にも適用できるもので
あって、その場合に、紙幣を上下方向に沿う姿勢で挟持搬送することも自然な設計
事項であるといい得るから、本件発明の構成1が包含するすべての技術的要素は、
引用例2及び同5に記載又は示唆されているというべきである。そして、このよう
な組合せを困難とするような技術的理由も見当たらないから、当業者であれば、引
用例2記載の発明を引用例5記載の発明と組み合わせて、本件発明の構成1に想到
することは容易であると認められる。
    この点について、被告は、引用例5記載の発明は技術分野が異なること、
同刊行物には遊技設備背面のスペースを有効利用して特定位置まで合流搬送させる
という技術的課題がないことから、上記の組合せに関する動機付けがない旨主張す
る。しかし、引用例5記載の発明が汎用的な紙幣搬送装置に関するものであること
は前示のとおりであるから、技術分野の相違をいう点は、その前提において失当で
あるし、また、設置スペースの有効利用に係る課題を欠くとの点については、その
ような一般的な課題は、当業者であれば遊技設備の設計上自明のものといえるか
ら、当該課題の解決のために、引用例2記載の発明に引用例5の発明を組み合わせ
て適用することに格別の困難性があったとはいえない。
    以上によれば、引用例2記載の発明に引用例5記載の発明を組み合わせる
ことによって、本件発明の構成1は当業者において容易に想到し得るものというべ
きである。
 (4) 本件発明の構成2の容易想到性について
    引用例5記載の発明は、前示のとおり、複数の紙幣払出機の送出しローラ
ーにより送り出された紙幣を、ガイド及び搬送体等の挟持搬送装置により特定位置
まで搬送する間、その紙面が水平方向に関して左右にぶれることなく一定の位置で
移動させるものと認められるから、当業者であれば、このような紙幣払出機及び挟
持搬送装置を水平(横方向)に並設した場合、この送り出された紙幣が、特定位置
まで挟持搬送される間、上下にぶれることなく一定の高さ位置に沿って移動するも
のであることは、挟持して搬送するという技術的特徴から、容易に認識できるもの
であると認められる。そうすると、引用例5に開示された上記技術事項を引用例2
記載の発明と組み合わせて採用することにより本件発明の構成2に想到すること
も、当業者にとっては格別の困難性がなかったというべきである。
 (5) 本件発明の作用効果について
    被告は、さらに、本件発明の構成1、2に係る作用効果を考慮すれば、審
決の容易想到性に係る判断は維持し得る旨主張する。しかし、審決の摘示する本件
発明の作用効果、すなわち、紙幣の能率的な一括回収の実現、遊技貸機の小型化・
薄型化、搬送挟持の確実性・円滑性、遊技貸機と搬送装置の据え付けの容易性等の
点は、本件発明の構成1、2それ自体から当業者が予測可能なものというべきであ
って、それを超える格別顕著な作用効果を有するとまではいい得ないから、この点
を総合考慮したとしても、上記の容易想到性の判断を左右するものではない。
 (6) むすび
    以上のとおりであるから、審決が、前掲各引用例に記載された事項を組み
合わせたとしても、本件発明の構成1、2については予測されるものではないと認
定判断した(審決書16頁17行目~17頁10行目)ことは誤りであって、この
誤りが、審決の結論に影響を及ぼすこと明らかである。
したがって、審決は、その余の点につき判断するまでもなく、取消しを免
れない。
 2 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につ
き行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 篠 原 勝 美
裁判官 長 沢 幸 男
裁判官 宮 坂 昌 利

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