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○ 主文
原決定中主文第一項を次の通り変更する。
抗告人は、別紙文書目録記載の各文書を松山地方裁判所に提出せよ。
原決定添付別紙目録記載の文書中、3のうちの「部会報告書の付属資料一切」なる
文書の提出命令を求める相手方らの申立部分を却下する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
○ 理由
抗告人は、「原決定のうち、文書の提出を命じた部分を取消す。右部分に対する相
手方らの申立を却下する。」との裁判を求め、その理由として、別紙「抗告の理
由」に記載の通り主張した。
よつて判断する。
一 一件記録によれば、抗告人が別紙文書目録記載の文書(原決定添付別紙目録記
載の文書中、3のうちの「部会報告書の付属資料一切」なる文書を除くその余の文
書、以下本件文書という)を所持していることが認められる。しかし、抗告人が原
決定添付別紙目録記載の文書中、3のうちの「部会報告書の付属資料一切」なる文
書を所持していることを認め得る証拠はない。してみれば、右一部会報告書の付属
資料一切」なる文書の提出命令を求める相手方の申立部分は、その余の点につき判
断するまでもなく失当であるから、これを却下すべきである。
二 次に、本件文書か民訴法三一二条三号にいわゆる挙証者と所持者との間の法律
関係について作成されたものであるか否かについて判断するに、右同条三号にいわ
ゆる挙証者と所持者との間の法律関係について作成された文書とは、挙証者と文書
の所持者との間の法律関係それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係に関
係のある事項を記載した文書、ないしは、その法律関係の形成過程において作成さ
れた文書をも包含すると解すべきところ、これを行政庁のなした行政処分の違法を
主張してその取消を求める抗告訴訟に即してみれば、当該行政処分がなされるまで
の所定の手続の過程において作成された文書であつて、右行政処分をするための前
提資料となつた文書をも包含するものと解するのが相当である。けだし、行政処分
は、もともと国民のために公正かつ明朗な手続を経て行われるべきものであり、か
つ行政処分をするための手続の過程において作成される文書の多くは、行政処分の
適正・公平を担保するために作成されるものであるから、行政処分の取消を求める
抗告訴訟において、前記のように解しても、文書の所持者である行政庁に対し不当
な不利益を課することにはならないといえるし、また一方、行政処分の違法を争う
相手方(国民)は、右行政処分がなされるまでの手続の過程において作成される文
書を所持していないのが通常であつて、かかる立証に必要な文書を所持しない挙証
者(国民)の不利益を補うことにより、抗告訴訟において要請される実体的真実の
発見に寄与することになるからである。これを本件についてみるに、抗告人が昭和
四七年一一月二八日四国電力株式会社に対して、伊方発電所の原子炉設置許可処分
(以下本件許可処分という)をしたところ、相手方らは、右原子炉の設置場所予定
地の近くの愛媛県西宇和郡内に居住する住民であつて、右原子炉が設置されること
により、その生命、健康、生活等が侵害される危険が生じ、重大な影響を受けるも
のであると主張し、本件許可処分の内容の違法及び手続上の違法を主張して、本件
許可処分の取消を求めていること、相手方らは、本件本案訴訟において、右手続上
の違法事由の一つとして、抗告人が本件原子炉設置の許可処分をするに当つては、
原子力委員会の意見を聞き、これを尊重しなければならず(核原料物質、核燃料物
質及び原子炉の規制に関する法律ー以下規制法というー二四条二項)、また、原子
力委員会が右意見を答申するについては、原子炉安全専門審査会に原子炉の安全性
に関する調査を指示し、その調査結果を得たうえで、その答申を行うべきところ
(原子力委員会設置法一四条の二)、本件においては、原子力委員会、並びに、同
委員会から右調査の指示を受けた原子炉安全専門審査会及びその第八六部会等は、
四国電力株式会社から提出された資料を鵜呑みにし、これを書面上審査したのみ
で、それ以上には独自に有効な資料の収集もせず、調査・審議もしていないのであ
つて、結局、原子力委員会及び原子炉安全専門審査会は、法律上要求される充分な
調査・審議をしていないから、本件許可処分には、規制法二四条二項に違反する手
続上の違法があると主張していること、一方、抗告人は、本件許可処分には、相手
方主張のような内容上、手続上の違法はないとして、本件許可処分が違法であると
の相手方らの主張を争つていること、以上の事実については、いずれも一件記録に
照らして明らかである。してみれば、相手方らと抗告人との間には、相手方らにお
いて本件許可処分の取消を求め得る権利(形成権)の存否ないし本件許可処分の取
消原因(形成要件)の存否に関する実体法上の法律関係が存在するものというべき
ところ、一件記録によれば、本件文書は、いずれも本件許可処分がなされるまでの
手続の過程において作成された文書であつて、本件許可処分をするための前提資料
となつた文書であることが認められるから、本件文書は、相手方らと抗告人との間
の法律関係の形成の過程において作成されたものというべきであつて民訴法三一二
条三号後段の文書に該当するものというべきである。
もつとも、抗告人は、本件原子炉が設置されても、相手方ら住民の生命、身体及び
財産の安全に対する制約は生じないこと、仮りに右制約が生じたとしても、それは
間接的であり、かつ、具体性のない危ぐ、懸念に起因する事実上のものであるこ
と、相手方らは本件原子炉設置許可の申請者ではないこと、その他別紙「抗告の理
由」の一1ないし3に記載のような種々の事由をあげて、相手方らと抗告人との間
には、民訴法三一二条三号にいわゆる「法律関係」はないと主張している。成程、
相手方らは、本件許可を申請したものでもなければ、本件許可処分の直接の対象者
(被処分者)ではないけれども、相手方らは、本件許可処分によつて原子炉が設置
されれば、その生命・健康等が侵害される危険があると主張して本件許可処分の取
消を求めているところ、行政処分の取消を求める抗告訴訟の原告適格は、当該行政
処分の直接の相手方(被処分者)のみにあるのではなく、いわゆる第三者であつて
も、当該行政処分によつて法的に保護された利益を侵害される場合には、右行政処
分の取消を求める抗告訴訟の原告適格があるものと解すべきであり(最高裁二小昭
和三七・一・一九判決、民集一六-一-五七参照)、また、右原告適格を認めるた
めの前提である法的に保護された利益が侵害されるか否かは、当事者の主張自体に
照らし一般的・抽象的に判断すべきものと解すべきである。ところで本件におい
て、四国電カ株式会社は、本件許可処分があつたことにより、相手方らの居住する
付近に発電用の本件原子炉を設置して操業を開始することにしていることは一件記
録に照らして明らかであり、また、本件原子炉が設置されてその操業が開始された
場合には、その安全性が充分であれば格別(この点は本案訴訟で終局的に判断さる
べきことである)、仮りに本件原子炉の安全性が充分でなく、万一事故等が発生し
た場合には、付近住民の生命・身体が侵害されるに至ることは経験則上明らかであ
るから、本件原子炉の設置場所付近に居住する相手方らには、一応法的に保護され
た利益(生命・健康等)を侵害されるとして、本件許可処分の取消を求める法律上
の利益があり、右取消の抗告訴訟を提起する原告適格があるというべきである(ち
なみに、抗告人も本件本案訴訟において、相手方らが原告適格を有することは認め
て争つていないのである)。そして、相手方らに本件許可処分の違法を主張してそ
の取消を求める原告適格が認められる以上は、相手方らと抗告人との間には、相手
方らにおいて本件許可処分の取消を求め得る権利(形成権)の存否ないし本件許可
処分の取消原因(形成要件)の存否に関する実体法上の法律関係があるものという
べく、右法律関係は、具体的かつ特定したものであつて、民訴法三一二条三号後段
にいわゆる「法律関係」に該るというべきである。なお、このように解しても、行
政処分の取消を求める原告適格には厳格な制約があるのであるから、抗告人主張の
如く、何人も行政処分取消の訴を提起し、その手続上の瑕疵さえ主張すれば、行政
庁との間の法律関係を突如発生させ得るということにならないことは勿論である。
よつて、相手方らと坑告人との間に、民訴法三一二条三号後段の法律関係が存しな
い、との抗告人の主張は採用できない。
また、抗告人は、民訴法三一二条三号後段の文書とは、挙証者と所持者との直接又
は間接の関与の下に作成されたものであつて、両者間の具体的な法的地位が直接明
らかになるような文書を指すものと解すべきであるとし、本件文書はいずれも相手
方らの関与の下に作成されたものではなく、また、相手方と抗告人との間の具体的
な法的地位を直接明らかにするものではないから、民訴法三一二条三号後段の文書
ではないと主張している。しかしながら、前述の通り、行政処分については、挙証
者と所持者との直接又は間接の関与の下に作成されたものではないものであつて
も、当該行政処分がなされる過程において作成されたものであつて、その行政処分
をするための前提資料となつた文書は民訴法三一二条三号後段の文書に該当すると
解すべきところ、本注文書は、これに該当するものというべきであるから、右抗告
人の主張は採用できない。
三 次に、抗告人は、相手方らのなした本件文書の提出命令の申立には、民訴法二
五八条一項、三一三条等によつて要求されている「文書の表示」及び「証すべき事
実」の明示を欠く違法があると主張している。しかしながら、文書提出の申立をす
る場合に明らかにすることを要求されている民訴法三一三条一号の「文書の表示」
は、文書の提出を命ぜられた所持者において、その提出を命ぜられた文書を、他の
文書と区別して明確に認識し得る程度に特定して記載すれば足りると解すべきとこ
ろ、これを本件についてみるに、相手方らが本件文書提出命令申立書に記載してい
る文書の表示の程度、昭和五〇年四月八日付準備書面の「第一文書提出命令申立の
補正」の部分及び同準備書面添付の別紙「文書の表示」の部分に記載されている文
書の表示の程度を以て、右民訴法三一三条にいわゆる「文書の表示」がなされてい
るものと認めるのが相当であつて、このことは、抗告人らが、原審において、右相
手方らの申立にかかる文書が不特定であるというような主張は何等していないのみ
ならず、却つて、右文書の存否について答弁をした上、その提出命令に対する詳細
な反論をしているし、さらに、本件抗告申立書のなかで、右文書の提出を求められ
ている文書の大部分につき、これらをさらに具体的かつ詳細に特定して、その提出
義務のないことを主張していること等に照らして明らかであるというべきである。
次に、相手方らは、本件文書によつて証すべき事実として、本件許可処分の手続及
びこれと密接な関連のある右許可変更手続のうち、殊に、主要な原子力委員会にお
ける原子炉の安全審査の内容、経過及び状況を立証し、もつて、訴状記載の如く、
原子力委員会及び原子炉安全専門審査会は、四国電力株式会社から提出された資料
を鵜呑みにし、独立に有効な資料を収集したり、調査・審議をしたりしておらず、
本件許可処分には、規制法二四条二項に違反する手続上の違法があるとの事実等を
主張してこれを立証事項としているのであるから、本件文書提出命令の申立には民
訴法三一三条に定める「証すべき事実」が具体的に特定されているものというべき
である。
よつて、右の点に関する抗告人の主張はいずれも失当である。
次に、本件文書は、本件本案訴訟における相手方らの前記主張等に照らし、その主
張事実を立証する上で、必要かつ重要な証拠方法であることが認められる。もつと
も、抗告人は、相手方らか提出を求めている文書のうちで、別紙文書目録1の文書
中には、(1)発電所敷地の確保に関するもの、(2)発電所用淡水の確保に関す
るもの、(3)漁業補償に関するもの、(4)発電原価等に関するものがあるが、
これらは、本件原子炉の安全性とは関係がなく、文書提出の必要がないものである
と主張している。しかしながら、相手方らは、本件本案訴訟において、原子炉安全
専門審査会は、本件原子炉の安全運転に欠かせない淡水の存在、原子力発電所の敷
地の確保、地域住民の協力の有無、立地条件の適否、その他の点について、審査会
独自の充分な調査・審議をしておらず、四国電力株式会社から提出された資料等を
鵜呑みにしていると主張し、本件許可処分に手続上の違法があると主張しているの
であるから、抗告人らの主張する右各文書も、本件本案訴訟とは無関係であつて、
提出の必要のないものとはいえない。よつて、右抗告人の主張も失当である。
四 次に、抗告人は、民訴法三一二条三号後段の文書提出義務については、民訴法
二七二条、二七三条、二八一条一項一号三号の類推適用があり、右各同条に該当す
る文書については、当該文書の所持者に文書提出の義務はないと主張し、別紙第二
目録に記載の五三から五五まで、五八、七四から七六まで、一一一、一一三の各文
書は、四国電力株式会社の企業秘密に属するものであり、抗告人は、これらの資料
は公開しないとの前提の下に提出させたものであるから、民訴法二七二条、二七三
条、二八一条一項一号三号の類推適用により、抗告人にはこれらの文書の提出義務
はないと主張している。しかしながら、民訴法二七二条、二七三条の公務員等の職
務上の秘密とに、職務上知り得た事項で、これを公表することによつて、国家の利
益又は公共の福祉に重大な損失又は不利益を及ぼすような秘密をいうものと解すべ
きところ、抗告人主張の文書がその主張の如く企業秘密に属するものであり、か
つ、抗告人がこれを公表しないとの前提の下に提出させたものであるとしても、こ
れを公表することは、利潤の追求を主目的とした一企業の営業に関する秘密が公表
されるに止まるものであつて、国家の利益又は公共の福祉に重大な損害又は不利益
を及ぼすものとは解し難いし、また、企業がその業務を遂行する上で行政庁の許可
を得る必要が生じ、自己の有利に右許可を得るべく、その参考に資するため行政庁
に一定の資料を提出しておきながら、その後第三者が右許可処分によつて自己の利
害が侵害されるとし、その違法を主張して右許可処分の取消を求める抗告訴訟にお
いて、企業の秘密を理由に、企業や企業との契約により黙秘義務を負担した行政庁
が、右資料の公表を拒否することは、公平の原則上ないしは信義則上許されないと
解するのが相当であるところ、抗告人主張の前記各文書は、いずれも四国電力株式
会社が自己に有利に本件許可処分を得るための参考資料として抗告人に提出したも
のであることは、一件記録に照らして明らかである。のみならず、抗告人提出の疏
明資料一号証の一、二のみからは、未だ、抗告人主張の各文書がいわゆる四国電力
株式会社の企業秘密に属するとは認め難いのであつて、他に右の事実を認め得る適
格な証拠はないし、また、仮りに右各文書に記載されている事項が四国電力株式会
社の企業秘密に属するとしても、右秘密については第三者の立場にある抗告人が、
四国電力株式会社との明示又は黙示の契約、その他により、右企業秘密につき黙秘
義務を負担していること等を認め得る適格な証拠もない。してみれば、本件文書に
ついては、民訴法二七二条、二七三条、二八一条一項一号三号の類推適用はないも
のというべきである。
よつて、右の点に関する抗告人の主張も失当である。
五 なお、本件文書が、抗告人において専ら自己使用のため内部的に作成した文書
(メモ、日記帳の類等)でないことは一件記録上明らかであるし、以上の外、抗告
人の主張する事由は、いずれも本件文書(原決定添付別紙目録記載の文書中3の
「部会報告書の付属資料一切」なる文書を除くその余の文書)の提出を命ずること
を妨げる事由になるとは認め難い。
よつて、以上と異なる趣旨の原決定は一部不当であるからこれを変更し、抗告人に
対し別紙目録記載の本件文書の提出を命じ、また、原決定添付別紙目録記載の文書
中3の「部会報告書の付属資料一切」なる文書の提出命令を求める相手方らの本件
申立部分を却下し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文の通り決定す
る。
(裁判官 秋山正雄 後藤 勇 磯部有宏)
(別紙)
文書目録
伊方発電所原子炉設置許可手続及びその設置変更許可手続に関し作成された以下の
文書の原本又は写一切。
1 右許可申請書及び添付書類以外の、四国電力株式会社が被告(科学技術庁ない
し原子力委員会を含む)に対して提出した調査資料、参考資料一切。
2 原子力委員会の議事録一切。
3 安全専門審査会の議事録及び審査に際し同審査会に提出された部会報告書。
4 科学技術庁原子力局が原子力委員会、原子炉安全専門審査会又は第八六部会に
各提出した左記(一)(二)(三)の報告資料、参考資料。
(一) 原子力局が原子力委員会に提出した同局作成の「四国電力株式会社伊方発
電所の立地条件について」と題する文書
(二) 原子力局が原子炉安全専門審査会の審査に際して提出した次の文書五点
(1) 四国電力(株)伊方発電所の概要
(2) 第八六部会(伊方)審査状況報告
(3) 四国電力(株)伊方発電所の原子炉設置に係る安全性について(中間報
告)
(4) 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置許可申請書の一部訂正につい
て(通知)
(5) 四国電力(株)伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について(案)
(三) 原子力局が第八六部会の審査に際して提出した「原子力発電所の安全評価
(重大事故・仮想事故解析)」と題する文書
以上
抗告の理由
原決定は、文書提出命令に係る文書(以下「本件文書」という。)は民訴法三一二
条三号後段の文書に該当する旨判示するが、同項後段の「挙証者ト文書ノ所持者ト
ノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタルトキ」という文言につき、右法律関係の意義、
法律関係につき作成された文書の意義、本件文書の提出を求める必要性の解釈を誤
つた違法があるとともに、本件文書の具体的記載内容と「証スヘキ事実」との具体
的関係を明確にせず、かつ、本件文書中、職務上の秘密、技術又は職業上の秘密に
関する事項を記載した文書が存在することを看過した違法がある。
したがつて、原決定は、被告において提出する義務のない文書について提出を命じ
たものであるから、取り消されるべきものである。
以下右の諸点につき、被告の意見を述べる。
一 挙証者と文書の所持者との間の法律関係の不存在
1 民訴法三一二条三項後段によると、「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係
ニ付作成セラレタルトキ」は、文書の所持者はその提出を拒むことができないので
あるから、本件においては、文書提出命令を申し立てた原告らと被告との間に「法
律関係」が存在していなければならないことはいうまでもない。
ところで、原決定は、右の法律関係について、「これを本件についてみると、被告
が伊方発電所に原子炉の設置を許可したことにより、危険物とされる原子炉の設置
によつて生命・身体並びに財産の安全に制約をうける右発電所設置場所周辺地域に
居住する原告ら住民との間に、右制約が適正な手続を経てなされたものか否かとい
う右許可手続の合法性をめぐる法律関係が発生したものということができ、」と判
示する。
しかしながら、右の判示は、まず伊方発電所設置場所周辺の地域住民は原子炉の設
置によつて生命、身体及び財産の安全に制約を受けることを前提としているのであ
るが、原決定は何を根拠にあえてそのような判断をしたのであろうか。
右のような地域住民に対する影響の発生の有無は、本案において原告らが処分の取
消しを求める法律上の利益それ自体を構成する問題ではなかろうか。しかも、右の
判示は、そのような事態は被告が原子炉の設置を許可したことによりもたらされた
ものというのであるが、原子炉の設置から運転に至るまでの過程に対する関係法規
による諸規制に一顧をも加えることなしに右のような重大な問題につきあえて即断
したのは、いかなる論理をたどつたものなのであろうか。のみならず、右の判示
は、そのような制約が原告らに及ぶことを当然の前提として、被告と原告らとの間
には右許可手続の合法性をめぐる法律関係が発生したというのであるが、右許可処
分に関して原告らと被告との間に法律関係と名付け得るちゆう帯が存する根拠を実
体法上見出し得るであろうか。実体法上両当事者を結ぶちゆう帯なきところにおよ
そ法律関係は成り立ち得ないはずである。仮に百歩を譲つて右判示中の前提部分を
一応是認してみても、右判示はそのことの故に被告と原告らとの間に右許可手続の
合法性をめぐる法律関係が生じ得ると言つているのであるから、その中身は、原告
らにおいては単なる手続の適正を求め得る地位があるとしているにすぎないもので
あり、結局、両者の間の法律関係なるものは実体について保障のない空虚なものと
ならざるを得ない。このような関係は、およそ司法審査の対象とはなり得ないもの
である。右に引用した原決定の判示は、結局のところ、本訴において原告らが主張
するところをそのまま採り入れたにすぎないというべきではなかろうか。もしそう
でないとすれば、こQ様Q析孜誘訳]あひては、当該処分に至る手続過程が重要な
審理対象となり得るという考え方を誤認した結果ではないかと憶測せざるを得な
い。手続過程が審理対象となり得るということは、処分の実体の適法性を判断する
ための手段として手続過程が一つの重要な要素を構成することを意味するものであ
つて、実体なき法律関係が独立して司法審査の対象たり得ることを認める趣旨では
ないはずである。
原決定は、特定個人に向けられた行政行為から当該行政庁と地域住民との間にいわ
ば手続法的側面における適法性保障という名の法律関係が発生するというものであ
り、かくしては、実体上の権利又は法律上の利益の有無にかかわらず、何人も(地
域住民という限定を付してみてもことに同じである。)訴えを提起して当該行政行
為の手続的かしを主張しさえすれば、両者間の法律関係を突如発生させ得ることに
なり、あらゆる訴訟において審判の対象となり得るものは法律を適用することによ
つて解決し得る実体のある争訟でなければならないことを無視し又は看過したもの
というべきものである。
2 そこで、ひるがえつて、民訴法三一二条三号後段にいう法律関係とは何か、原
告らと被告との間において本件許可処分をめぐり特段の法律関係が発生したという
余地が果たしてあり得るのかについて検討することとする。
民訴法三一二条三号後段にいう「法律関係」は、挙証者と文書の所持者との間の法
律関係であるから、本件に即していえば、原告らが被告との間に個別的、具体的な
権利ないし法律上の利益を有する関係になければ疑いのないところである。
原決定が指摘する原子炉の設置による原告らの生命、身体及び財産の安全に対する
制約なるものが仮にあり得るとしても、このような関係は、本件原子炉設置許可処
分につき行政庁が遵守すべき根拠法規との関連において見れば、間接的であり、か
つ具体性のない危ぐ、懸念に起因する事実上の関係であつて、いまだ被告と原告ら
との間の法律関係というには程遠いものであり、次元を異にする問題である(東京
高裁昭和四七年五月二二日決定・高裁民集二五巻三号二〇九ページ参照)。このよ
うな関係を前提として原告らにおいて本件許可が適正な手続によりなされたか否か
を問題とし得る余地は本来あり得ないはずである。ちなみに、「制約」とは法律上
の制限の意味に用いられるのが通常であり、具体的には、建築制限あるいは受忍義
務がこれに該当するところ、原決定は何らかかる法律上の制限を掲げていないのみ
ならず、原告ら周辺住民が原子炉の設置許可によつてその生命、身体、財産に対し
かかる法律上の制限を受けるものでないことはいうまでもなく、その他行政事件訴
訟法三条二項の「公権力の行使」による強制を受けるものでもない。以上要する
に、原告ら周辺住民の生命、身体、財産に対する危険は、事実上の問題にすぎず、
法律上の関係たり得ないことは明らかである。
更に、原決定はさきに指摘したとおり被告と原告らとの間に「右許可手続の合法性
をめぐる法律関係が発生したもの」と言うが、本件原子炉設置許可の申請者ではな
い原告ら住民がその手続の適正について法律上の関係を有するということは、何と
しても理解し難いところである。「右許可手続の合法性をめぐる法律関係」といつ
てみても、それは所せん一般国民が行政の執行が適正に行われることに対して有す
る事実上の期待に帰着するといわざるを得ない。このように、原決定が「原告らと
被告との間の法律関係」が存するとするについては、何としても無理があり、厳密
にその法律関係を審究していけば、その法律関係が存在するという論理は破たんせ
ざるを得ないのである。
3 なお、民訴法三一二条の文書提出義務も究極においては信義、公平の原則に由
来するものであるから、提出命令の可否について判断する際には、法律関係につき
作成されたという要件を緩やかに解し、立証事項の重要性、代わりの立証方法の有
無、プライバシーの保護、公共の利益などの利益衡量をすべきであるとの立場を採
るとしても、法律関係と事実関係とは次元を異にする異質のものであり、法律関係
の中に事実関係を含ませることは概念の矛盾であるのみならず、仮に右のような利
益衡量の要請が正しいものとしても、その要請は文書提出を求める必要性あるいは
せいぜい法律関係との関連性の面において考慮されるにすぎないものである。
二 挙証者と所持者との間の法律関係につき作成されたとの要件の不存在
原決定は、民訴法三一二条三号後段にいう文書とは、「挙証者と所持者との間に成
立する法律関係それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係発生の過程にお
いて作成され、同法律関係と密接に関連する事項を記載した文書も含まれると解す
るのが相当である。」と判示する。
確かに、「法律関係ニ付作成セラレ」た文書を法律関係自体を記載した文書に限る
ことは相当でないかもしれないが、当事者の責任と負担とにおいて訴訟の進行を図
ることを建前とする民事訴訟、行政訴訟においては文書提出命令の制度は例外的な
ものである以上、そして、また、文書提出命令が発せられた場合には、これを受け
た当事者は自己の意に反しても自己の手中にある書証を相手方のために利用させな
ければならない義務を負い、もしこの命令に従わなかつた場合には裁判所によつて
当該文書に関する相手方の主張を真実と認められる危険を負担しなければならない
(民訴法三一六条)以上、同法三一二条三号後段にいう「挙証者ト文書ノ所持者ト
ノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタル」文書とは、右両者の直接又は間接の関与の下
に作成されたものであつて、両者間の具体的な法的地位が直接明らかになるような
文書を指すものと解すべきである(前掲東京高裁決定)。
したがつて、行政庁の内部文書等所持者たる行政庁が単独でその必要上作成した文
書はもちろん、行政処分の申請者から行政庁に提出された文書でも挙証者が当該文
書の作成に間接的にも関与していないものは含まれないと解すべきである。このよ
うな文書については、民訴法三一二条三号前段の文書が挙証者の利益のために作成
されたものに該当する場合とか同条の他の号に該当する場合にのみ提出する義務を
負うというべきである。そうでなければ、行政庁は、行政訴訟において、処分に直
接関係のない文書を際限なく提出せざるを得なくなる。かかる結果を生ずる解釈が
不当であることは明らかである。
そして、本件文書は、いずれも間接的にせよ原告らの関与の下に作成されたもので
はないことは明らかであり、また、被告と原告らの間の具体的な法的地位を直接明
らかにするものでもないのである。
なお、原決定のいう「法律関係」が民訴法三一二条三号後段にいう「挙証者ト文書
ノ所持者トノ間ノ法律関係」に当たるとしても、後に記述するように、原子力委員
会の議事録(別紙第一目録の二)及び「四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設
置許可申請書の一部訂正について(通知)」と題する書面(別紙第一目録の四の2
の(四))以外のものは、原決定にいう「法律関係」とに全く関連性を有しないも
のである。
三 本件文書の提出を求める必要性の不存在
1 文書提出命令の申立ては、書証の申出の一方式とされており(民訴法三一一
条)、そして、証拠の申出は、その証拠によつて「証スヘキ事実」を表示してこれ
をしなければならず(同法二五八条一項)、したがつて、文書提出命令の申立てに
際しても、「文書ノ表示」とともにその文書によつて「証スヘキ事実」を明らかに
しなければならないのである(同法三一三条)。
しかるに、原告らの本件文書提出命令の申立てにおいては、右「文書ノ表示」が明
らかにされていないものがある(特に別紙第一目録の一)ばかりでなく、右「証ス
ヘキ事実」においても何ら具体的な事実が明らかにはされていないのである。のみ
ならず、原告らの主張そのものも、原子炉は危険であるとか、あるいは原子炉に対
する現在の安全審査体制には欠陥があるとかいつた一般的、抽象的な主張にとどま
り、本件原子炉設置許可処分のどの点がどのような法令に違反して違法なのかにつ
いての具体的な主張は全くないといつても過言ではないのである。
したがつて、原告らの文書提出の申立ては、法の要求する「文書ノ表示」ないしは
「証スヘキ事実」の明示を欠いており、右申立ては既にこの点において不適法であ
るといわざるを得ないとともに、具体的要証事実を主張も明示もしないで文書提出
命令を申立てるのは、一般的にいえば、具体的な事実関係がわからないままに訴訟
をいわば見切り発車させて、訴訟手続の進行のなかで第三者あるいは相手方に文書
を提出させ、その文書のなかから具体的事実を探り出そうとするようなもので、濫
訴の弊を免れないであろう。」(a・判例時報六七〇号一三四ページ(判例評論一
六二号二八ページ)との批判を甘受しなければならないのである。
一方、被告は、第一回口頭弁論期日の段階から本件原子炉設置許可処分が適法に行
われたことについて、これを具体的に主張、立証してきているのであり、文書提出
命令に係る文書についても、適宜、必要に応じてこれを裁判所に提出する方針であ
ることは、原審における口頭弁論期日において繰り返し主張してきたところであ
る。
以上の点からすれば、原告らの文書提出の申立ては、不適法であり、また、不必要
でもあるというべきである。
更に、文書提出の必要性の判断について、前掲東京高裁決定が説示する次の部分
は、銘記すべきものであろう。「本件本案訴訟は科学上の技術や成果を究明するこ
とにあるのではなく具体的な行為の許否を国家権力によつて実現することにあるの
であるから、本件文書の重要性はその内容が訴訟の攻防上でいかなる意義をもつか
にあることになり、そのことは相手方らに止まらず、抗告人にとつても同様なこと
であり、これが訴訟資料とされないことによる本案訴訟での攻撃防禦上の有利、不
利は必ずしも相手方らのみにあるとはかぎらない。他の一般経験則上、科学上、ま
たに諸々の間接的事実との総合考察上、いわゆる証明責任ないし証明の必要に伴
い、却つて抗告人こそ、本件文書を訴訟資料として提供しないことによる不利と、
そのいうところの企業上の秘密保持との選択を迫られる場合もなしとしないであろ
う。訴訟手続上の法則はいわば諸刃のやいばともいえる普遍的なものであるから、
たとえ、近時新たに現れるに至つた紛争を対象とする訴訟で科学技術上、時間、場
所その他の関係上、重要な資料が入手し難いことがあり得ても、その困難の打開
は、訴訟手続の法則を個々の事案毎に安易に変更、運用することではかるべきでは
ない。」
2 原子炉の安全性を判断するに際しては、しばしば非常に高度の技術的、専門的
判断が必要とされるのであるが、元来、かかる高度の技術的、専門的判断を必要と
する事項については、専門機関である担当行政機関の判断が尊重されるべきであつ
て、裁判所の司法的判断にはなじまないものというべきである(最高裁判所昭和三
三年七月一日第三小法廷判決・民集一二巻一一号一六一二ページ、特に一六一五ペ
ージ参照)。
ところで、本件文書のうち、別紙第一目録記載の一の文書の大部分及び四の3の文
書は、その内容において明らかに右の高度の技術的、専門的事項に関するものであ
つて、かかる事項に係る文書につき文書提出の申立てをすることは、訴訟をいたず
らに科学論争に引き込むものであつて妥当性を欠くといわざるを得ない(かかる高
度の技術的、専門的事項は、他の争点による判断で事件を解決し得る場合にはおよ
そ審理の対象となり得ないものであり、本件においては右のような他の争点が数多
く存するものである。
3 原告らは、本件原子炉設置許可の取消しを求める法律上の利益として、原告ら
の生命、身体、財産に対する危険を主張しているところ、右危険は原子炉の安全性
に関係するものである。しかるところ、別紙第一目録記載の一のうち、科学技術庁
原子力局に提出したものの中には、(1)発電所敷地の確保に関するもの一九点、
(2)発電所用淡水の確保に関するもの七点、(3)漁業補償に関するもの八点、
(4)発電原価等に関するもの四点があり、これらの資料は原子炉の安全性と関係
がなく、したがつて、原告らの法律上の利益に関係のない事項であり、行政事件訴
訟法一〇条一項の主張制限から見て、文書提出の必要がないものである。
四 秘密保持の要請による本件文書提出義務の不存在
民訴法三一二条三号後段の文書の提出義務は証人義務などと同様の性質を有する公
法上の義務と解すべきものであるから、証人に関する証人義務、証言義務と基本的
には変わらないものである。したがつて、証人義務について規定する民訴法二七二
条、二七三条、証言義務について規定する同法二八一条一項一号、三号に該当する
事由がある場合には、右法条の類推適用により、文書の所持者には文書提出の義務
はないのである(b・民事訴訟法要義三巻四六五ページ、東京地裁昭和四三年九月
二日決定・判例時報五三〇号一二ページ、東京地裁昭和四三年九月一四日決定・判
例時報五三〇号一八ぺージ、小島武司「教科書検定手続において作成された文書提
出命令の許否」判例時報五八四号一二九ページ(判例評論一三四号一五ペー
ジ))。
民訴法二七二条、二七三条及び同法条を引用する同法二八一条一号の「職務上ノ秘
密」に関する規定は、国家の秘密と訴訟における真実発見の必要性との衡量に関し
て、国家の秘密を優先することを定めている。職務上の秘密に属するかどうか明ら
かでないため、裁判所が証人尋問の申出を採用した場合でも、証人は尋問事項が職
務上の秘密に関する理由を疎明して証言を拒むことができる。この疎明があれば、
もはや証言拒絶の当否について裁判所が裁判をする余地はなく(民訴法二八三
条)、監督官庁に対し証人尋問の承認を求める手続を採らなければならない。
すなわち、尋問事項が職務上の秘密に関する事項かどうかの実質的な判断権は裁判
所にはなく、その点の判断は承認を求められた監督官庁の自由な裁量にゆだねられ
ている(井口牧郎「公務員の証言拒絶と国公法一〇〇条」実務民事訴訟法講座1三
〇三ページ、三〇六ページ)。したがつて、本件文書提出の申立てにおいても、当
該文書が職務上の秘密に属することが疎明されれば、もはや裁判所は文書の提出を
命ずることはできないと解される。
ところで、原子炉設置許可処分の審査をするに際して申請電力会社から提出される
資料の中には、技術上の秘密、職業上(営業上、経理上等)の秘密などが存在する
ことはいうまでもないところ、被告としては、できる限り広範囲の正確、率直な資
料に基づいて、的確な判断を可能にするため、審査のため提出された参考資料等は
公開しないという前提で提出させているものである。その中には、我が国のメーカ
ーが外国の企業から技術導入する際契約条件として守秘義務を負つているいわゆる
ノウハウ、我が国メーカーのノウハウ、申請者が公開しないという条件で内外の原
子炉設置者から提供を受けた資料等が含まれている。
原子力発電の分野では、我が国は、今後とも国際協力の下に外国の技術を導入して
いくことが必要である。かかる状況において、守秘義務を負う外国からの導入技術
等を一方的に公開することは、単なる損害賠償等の問題にとどまらず、国際的不信
を招き、今後必要とされる外国からの技術導入を困難ならしめるのみならず、我が
国メーカーのノウハウについても、これを公開にするならば適正な情報の入手が困
難となり、我か国の原子力行政に重大な支障を来し、結局、我が国の原子力開発更
にはエネルギー確保を極めて困難にすることは必至である。
したがつて、被告がこれらの企業秘密を遵守することは、当該企業の技術、職業上
の秘密保持(民訴法二八一条三号)のためばかりでなく、我が国の国益、公共の福
祉を維持増進する上で正に強く要請されるのであつて、かかる事由が民訴法二七二
条、二七三条の「職務上ノ秘密」に該当することはいうまでもない。当然のことな
がら、アメリカの原子力行政においても、これらの企業秘密は守られているのであ
る。
なお、原子力基本法二条は成果の公開を定めているが、この規定が行政の基本方針
を定めたものにすぎず、個々の国民との間に具体的な法律上の義務を定めたもので
ないことは、規定自体が抽象的、一般的で具体的内容を有するものでないことから
みても明らかである(前掲東京高裁決定)。更に、同法一条は原子力の研究、開発
及び利用の推進を目的としており、この目的と成果の公開とが実際上相矛盾する場
合があることは我々の経験に照らして明らかであり、また、憲法の財産権保障との
関係から見ても、その調和点は企業秘密の保持に求められるべきである。
これらの企業秘密に属するものとしては、別紙第二目録の五三から五五まで、五
八、七四から七六まで、一一一、一一二番の資料がある。これらが企業秘密に属す
る理由は、訴外三菱重工業株式会社が訴外ウエスチングハウス社と締結した技術援
助契約によつて守秘義務を負つていること及び三菱重工業株式会社が独自に開発し
た設計等に関する事項であることである(疎明資料一号証の一、二)。
五 本件文書の意義、内容
1 許可申請書及び添付書類以外の、四国電力株式会社が被告(科学技術庁ないし
原子力委員会を含む。)に対して提出した調査資料、参考資料(別紙第一目録の
一)
四 国電力が被告に対して提出した資料は別紙第二目録ないし第五目録記載のとお
りである(なお、右第四目録記載の文書は審査会には提出されていない。以下審査
会に提出された文書を総称して「参考資料」という。)。
これら資料は、いずれも、これを作成することが法令上義務づけられているもので
はなく、申請者たる四国電力がその申請の内容(これについては、核原料物質、核
燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規制法」という。)二三
条二項及び原子炉の設置、運転等に関する規則一条の二によつて記載事項が法定さ
れており、かつ、既に本案において乙号証として松山地方裁判所に提出済みであ
る。)を裏付けるものとして、あるいはその申請の内容を理解する上において参考
となるものとして提出したにすぎないものである。
参考資料の中には、原告らの求めに応じ、かつ、被告としてもその立証段階におけ
る証拠方法として使用する目的で既に乙号証として提出したもの(別紙第二目録の
一〇八「非常用炉心冷却系(ECCS)の評価について」と題する書面を乙第一八
号証として昭和四九年六月六日の口頭弁論期日に提出している。)もある。更に、
前述のとおり、訴外三菱重工業株式会社が訴外ウエスチングハウス社と締結した技
術援助契約によつて守秘義務を負つているもの及び三菱重工業株式会社が独自に開
発した設計等に関するものもある。
2 原子力委員会の議事録(別紙第一目録の二)
原子力委員会議事運営規則(昭和三二年二月二八日原子力委員会決定)六条によれ
ば、原子力委員会の事務局である科学技術庁原子力局(原子力委員会設置法一五
条)は、委員会の議事経過の要点を摘録して、議事録を作成することとしており
(同規則六条一項、三項)、いうまでもなく、原子力委員会において本件許可申請
をその議案として審議した際の会議における日時、出席委員、議題、配布資料、審
議事項等を記載した議事録も存在する。
しかしながら、この原子力委員会の議事録は内部的文書であり、また、右議事録に
記載されたもののうち、場所、出席者名及び配布資料の記載を除くものは、科学技
術庁原子力局で毎月発行して、公刊されている原子力委員会月報に掲載されている
のである。
3 原子炉安全専門審査会の議事録、部会報告書(別紙第一目録の三)
(一) 原子炉安全専門審査会の議事録については、同審査会の事務局である科学
技術庁原子力局が、審査会の議事経過の要点を摘録して、議事録を作成することと
しており、本件許可申請をその議案として審議した際の会議における日時、出席委
員、議事次第、配布資料、議事概要等を記載した議事録も存在する。
しかしながら、この審査会の議事録は、法律上はもとより、原子炉安全専門審査会
運営規程(昭和三六年九月六日原子力委員会決定)においても作成を義務づけられ
ているものではなく、単に審査会の運営の便を図るためにのみ事実上作成されてい
るにすぎないのである。
(二) 部会報告書は、原子炉安全専門審査会第八六部会及び同第九七部会(両部
会については、答弁書五ページ及び六ページ参照。)が、それぞれ本件原子炉の設
置許可申請及び設置変更許可申請について各申請の原子炉に係る安全性に関する事
項を調査審議した結果を原子炉安全専門審査会に報告するために作成した文書であ
つて、第八六部会の報告書については昭和四七年一〇月三一日の同部会最終会議に
おいて、また、第九七部会の報告書については昭和四八年五月七日の同部会最終会
議において、それぞれその報告内容が決定され、前者については第一〇七回原子炉
安全専門審査会(昭和四七年一一月一七日)、後者については第一一四回原子炉安
全専門審査会(昭和四八年五月一二日)にそれぞれ提出されたものである(これら
の部会報告書の内容は、審査会における審議検討を経て、原子炉安全専門審査会の
報告書(「四国電力(株)伊方発電所の電子炉の設置に係る安全性について」と題
する文書(乙第五号証)及び「四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置変更
(原子炉施設の変更)に係る安全性について」と題する文書(乙第一二号証))と
して原子力委員会に報告されるものであつて、それぞれ原子炉安全専門審査会の報
告書の案という形式を採つている(したがつて、第八六部会の部会報告書は別紙第
一目録の四の2の(五)と同一のものである。)。)。
ところで、部会報告書は、法律上はもとより原子炉安全専門審査会運営規程におい
てもその作成を義務づけられているものではなく、単に原子炉安全専門審査会の審
議を円滑に進めるために事実上作成されているものである。
なお、部会報告書には付属資料は添付されていない(昭和五〇年二月一〇日付けの
文書提出命令申立てに対する被告の意見書二ページ参照)。
4 その他
(一) 「四国電力株式会社伊方発電所の立地条件について」と題する文書(別紙
第一目録の四の1)
右文書は、本件伊方発電所に関する用地、淡水の取水、温排水の影響、漁業権の各
問題についてその概要を記載した文書であつて、昭和四七年一一月二一日の第四六
回原子力委員会において、事務局である科学技術庁原子力局が右各問題についての
説明を行うに際し、その説明の便を図るために参考として提出した文書である。
なお、原子力委員会は、原子炉設置許可申請に関する答申をなすに当たつては、右
申請が原子炉等規制法二四条一項各号に規定される許可の基準に適合するか否かを
審査することが法律上要請されているものであつて(原子炉等規制法二四条二
項)、発電所の用地、淡水の取水、温排水の影響、漁業権の各問題については、原
子炉等規制法上は原子力委員会が審査をすることは要請されていないのである(た
だし、同委員会は、背景となつている右の実情をもあわせて聴取しており、右文書
は、これとの関連において提出されたものである。)。
(二) 「四国電力(株)伊方発電所の概要」と題する文書(別紙第一目録の四の
2の(一))
右文書は、第一〇一回原子炉安全専門審査会(昭和四七年五月一二日)において、
事務局である科学技術庁原子力局が申請に係る伊方発電所の概要を説明するに際
し、その説明の便を図るために提出した文書である。
右文書は、法律上はもとより原子炉安全専門審査会運営規程においても作成あるい
は提出が義務づけられているものではない。
(三) 「第八六部会(伊方)審査状況報告」と題する文書(別紙第一目録の四の
2の(二))
右文書は、第一〇五回原子炉安全専門審査会(昭和四七年九月一一日)において、
第八六部会の委員が原子炉安全専門審査会に対して第八六部会の審査状況を報告す
るに際し、その説明の便を図るために事務局たる科学技術庁原子力局が提出した文
書である。
右文書は、法律上はもとより原子炉安全専門審査会運営規程においても作成あるい
は提出が義務づけられているものではない。
(四) 「四国電力(株)伊方発電所の原子炉設置に係る安全性について(中間報
告)」と題する文書(別紙第一目録の四の2の三)
右文書は、第八六部会において行われた調査審議の経過を中間的に報告したもので
あつて、第一〇六回原子炉安全専門審査会(昭和四七年一〇月一一日)における審
議に際し提出されたものである。
右文書は、法律上はもとより原子炉安全専門審査会運営規程においても作成あるい
は提出が義務づけられているものではない。
(五) 「四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置許可申請書の一部訂正につ
いて(通知)」と題する文書(別紙第一目録の四の2の(四))
右文書に、第一〇七回原子炉安全専門審葦会(昭和四七年一一月一七日)において
事務局たる科学技術庁原子力局から提出された文書である。これは、昭和四七年一
一月一四日付けで四国電力から被告に対し「伊方発電所の原子炉設置許可申請書本
文および添付書類の一部訂正について」と題する文書(乙第四号証)が提出された
ことに伴い、被告から原子力委員会委員長及び原子力委員会委員長から原子炉安全
専門審査会会長に対しそれぞれ昭和四七年一一月一五日付けをもつてそれぞれ右文
書の提出がなされた旨通知することを内容とするものである。
(六) 「四国電力(株)伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について(案)
と題する文書(別紙第一目録の四の2の(五))
右文書は、第八六部会の部会報告書に当たるものである。
(七) 「原子力発電所の安全評価(重大事故・仮想事故解析)」と題する文書
(別紙第一目録の四の3)
右文書は、原子炉安全専門審査会第八六部会において、事務局たる科学技術庁原子
力局が提出した資料である。
これは、昭和四七年七月四日までに設置が許可された発電所の原子炉について、安
全審査における重大事故及び仮想事故の解析条件と評価結果とをまとめたものであ
つて、第八六部会における災害評価についての審議を行うに際し、参考の用に供す
るために提出したものである。
右文書は、法律上はもとより原子炉安全専門審査会運営規程においても作成あるい
は提出が義務づけられているものではない。
別紙第一目録
伊方発電所原子炉設置許可手続及びその設置変更許可手続に関し作成された以下の
文書の原本又は写一切
一 右許可申請書及び添付書類以外の、四国電力株式会社が被告(科学技術庁ない
し原子力委員会を含む。)に対して提出した調査資料、参考資料一切
二 原子力委員会の議事録一切
三 安全専門審査会の議事録及び審査に際し同審査会に提出された部会報告書及び
その付属資料一切
四 科学技術庁原子力局が原子力委員会、原子炉安全専門審査会又は第八六部会に
各提出した左記1、2、3の報告資料、参考資料
1 原子力局が原子力委員会に提出した同局作成の「四国電力株式会社伊方発電所
の立地条件について」と題する文書
2 原子力局が原子炉安全専門審査会の審査に際して提出した次の文書五点
(一) 四国電力(株)伊方発電所の概要
(二) 第八六部会(伊方)審査状況報告
(三) 四国電力(株)伊方発電所の原子炉設置に係る安全性について(中間報
告)
(四) 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置許可申請書の一部訂正につい
て(通知)
(五) 四国電力(株)伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について(案)
3 原子力局が第八六部会の審査に際して提出した「原子力発電所の安全評価(重
大事故・仮想事故解析)」と題する文書
五 第八六部会及びその各グループ並びに第九七部会の審議及び調査(但し現地調
査を含む。)の経過ないしその結果報告の記録
(一括して単に部会審査記録という。)、即ちいわゆる担当者メモ一切
別紙第二目録
伊方発電所原子炉設置に関し、四国電力株式会社が原子力委員会、原子炉安全専門
審査会に提出した関係資料一覧表
(第八六部会関係資料)
番号      資       料       名
1 原子炉設置許可申請内容の伊方発電所・玄海発電所対照表
2 伊方発電所計画の概要
3 WHIPWR(ニループ)原子力発電所概要比較
4 PWR発電所の運転実績
5 プラント関係説明資料
6 型式別原子力発電所受注実績
7 原子力関係組織一覧図
8 伊方発電所からの廃棄ガス拡散に関する風洞実験
9 拡散計算に使用する風向・風速の決定について
10 伊方発電所からの廃棄ガス拡散に関する風洞実験(改訂)
11 風洞による模型実験の相似性について
12 風洞実験による部落方向地形断面とトレーサのサンプリング点の表示
13 プロペラ型風向風速計による観測値〇・四m/s以下の風向配分と風速の推
定について
14 安全評価に使用する気象条件
15 安全評価(事故時)に使用する気象条件の保守性について
16 係留気球による大気温度観測
17 伊方発電所地点地質・地盤調査経緯
18 伊方発電所基礎の地質
19 伊方地点緑色片岩の物理的諸性質について
20 伊方地点の弾性波探査結果
21 載荷試験について
22 愛媛県西部の地質・断層図
23 三崎半島全域および伊予市までの海岸部航空写真
24 伊方地点周辺航空写真
25 伊方原子力地点試掘坑内地質調査報告書
26 基礎岩盤地質図
27 重要施設掘削面剪断層図
28 伊方発電所立地点の海象について
29 伊方発電所立地点の海象について(改訂)
30 第一回瀬戸内海水質汚濁総合調査結果
31 伊方地点設計波高
32 淡水使用水量
33 伊方地点淡水取水計画
34 淡水使用水量について
35 地震歴および地震被害歴について
36 伊方発電所周辺の人口推移状況
37 伊方近辺の航空路
38 温排水拡散範囲の解析につて
39 伊方発電所一号機設備概要
40 主要機器材料一覧表
41 添付書類八 伊方・玄海比較表
42 添付書類八 伊方・玄海比較表(追加)
43 軽水炉安全設計審査指針に対する適応について
44 軽水炉安全設計審査指針に対する適応性について(参考資料)の「二・二敷
地の自然条件に対する設計上の考慮」に関する補足説明
45 伊方発電所一号機の供用期間中検査について
46 工学的安全防護設備の試験
47 伊方発電所放水口計画図
48 本館建家基礎地質断面図
49 ジルカロイ被覆燃料の照射実績
50 燃料設計の考え方について
51 破損燃料の対策について
52 原子炉内構造配置について
53 燃料中心温度について
54 燃料の設計・製作と品質管理について
55 制御棒クラスタ駆動装置構造について
56 制御棒クラスタ駆動装置動作説明
57 出力分布調整用制御棒クラスタ駆動装置の構造
58 パーナブル・ポイズンについて
59 原子炉容器の製作計画について
60 一次系主要機器の支持構造について
61 原子炉容器溶接部と応力解析について
62 原子炉容器の冷水注入時の応力解析について
63 原子炉容器サーベイランス試験について
64 大破損を起した燃料の取扱いについて
65 一次冷却材ポンプについて
66 TC四Fー四四の採用について
67 タービンミサイル発生時におけるプラント保護系統について
68 一次冷却材可変温度高計算について
69 伊方発電所周辺放射線監視設備および気象観測設備
70 原子炉格納容器貫通部の構造ならびに漏洩試験について
71 アニユラス空気再循環設備について
72 原子炉格納容器スプレイ設備について
73 原子炉格納容器の漏えい率試験について
74 核設計およびそのコードについて
75 熱流束ホツトチヤンネルフアクターについて
76 反応度制御について
77 反応度係数について
78 熱水力設計およびそのコードについて
79 DNBについて
80 伊方発電所の設計地震加速度と設計波形について
81 伊方発電所の設計応答スペクトルについて
82 検討地震について
83 設計加速度値の決め方
84 伊方発電所の設計地震の卓越周期について
85 常時微動の測定と解析結果
86 設計応答スペクトルの対象表現
87 設計加速度応答曲線の比較
88 伊方発電所の耐震設計に用いる基礎岩盤の常数について
89 金井式による基盤速度の計算に関する説明
90 金井式による伊方発電所地点の主な地震の基盤速度計算に関するプログラ
ム・デパツギング・データー
91 伊方発電所における管理区域、保全区域、周辺監視区域の設定について
92 液体廃棄物の発生量について
93 放射性気体廃棄物の放出放射能量について
94 伊方発電所蒸気発生器細管漏洩に対する管理方針と被ばく評価について
95 平常運転時の被ばく線量について
96 伊方発電所周辺における平常運転に伴う地域集積線量
97 通常運転時放出放射能の食物連鎖(みかん類)による被ばく線量計算書
98 トリチウムを含む空気の吸入による内部被ばく線量評価
99 人家のある地点における被ばく線量のてい減効果について
100 海産物の摂取による被ばく線量について
101 海産物の摂取による被ばく線量について(改訂)
102 各種事故解析一覧表
103 制御棒クラスタ抜出事故について
104 制御棒飛出し事故時の再臨界性の検討
105 新燃料ラツク上に、取扱い中の燃料アセンブリー一体が横倒しになつた場
合の反応度増加
106 燃料取替取扱事故の被ばく線量について
107 原子力タービンのミサイルについて
108 非常用炉心冷却系(ECCS)の評価について
109 LOCA解析のコンサバテイブ・フアクタについて
110 非常用炉心冷却系(ECCS)の評価について(追加)
111 一次冷却材喪失事故時の燃料被覆材の健全性について
112 被覆材温度・FWのパラメータサーベイ
113 重大事故、仮想事故被ばく計算書
114 重大事故、仮想事故被ばく計算書(改訂)
115 一次冷却材喪失事故時の格納容器アニユラス部の負圧達成について
116 格納容器スプレイによる無機よう素除去について
117 外周コンクリート壁三mカサ上げについて
118 スカイシヤイン・コードの評価について
119 伊方発電所の原子炉設置許可申請書本文および添付書類の一部訂正につい

別紙第三目録
(第九七部会関係資料)
番号      資       料       名
1 伊方発電所原子炉設置変更許可申請に関する新旧比較表
2 伊方発電所海水淡水化装置設置計画の概要
3 海水淡水化装置の運転にともなう原子炉の運転熱出力および電気出力等につい

4 ヒートバランス図
5 海水淡水化装置の設計方針について
6 伊方発電所淡水の収支バランスについて
7 海水淡水化装置の稼動率について
8 海氷淡水化装置の稼動率について(改訂)
9 工業技術院茅ケ崎臨海試験所三、〇〇〇m3/日淡水化装置運転実績
10 海水淡水化装置製造水の純度について
11 海水淡水化装置に供給する海水温度について
12 淡水と工学的安全施設について
13 所内淡水の水質基準について
14 海水淡水化装置と放射能について
15 海水淡水化装置と放射能について(改訂)
16 海水淡水化装置の運転特性ならびに運転上の監視および保護措置について
17 伊方発電所の原子炉設置変更許可申請書本文および添付書類の一部訂正につ
いて
別紙第四目録
伊方発電所原子炉設置に関し、四国電力株式会社が科学技術庁原子力局に提出した
資料のうち、安全審査関係資料一覧表
(第八六部会関係資料)
番号      資       料       名
1 伊方発電所一号機技術要員数
2 原子炉荷重伝達要領図
3 一次冷却材喪失事故時の再循環期間中余熱除去ポンプおよび格納容器スプレイ
ポンプに必要なNPSHの確保について
4 使用済燃料ピツト浄化冷却系の能力について
5 工学的安全施設作動について
6 サンプリング点説明図
7 原子炉保護系統について
8 原子炉トリツプ系統図
9 主要インターロツクについて
10 RCC制御棒落下時の緩衝構造について
11 制御棒駆動装置の電源回路について
12 炉内核計装駆動部機能ブロツク図
13 停止余裕監視装置について
14 耐震設計解析法概要
15 異常年の検定について
別紙第五目録
(第九七部会関係資料)
番号      資       料       名
1 世界における海水淡水化装置設置状況
2 LOCA時の非常用冷却水のloss.について
3 海水淡水化装置の空気抽出器排ガス
主文
被告は、別紙目録記載の各文書を当裁判所に提出せよ。
原告らのその余の申立てを却下する。
○ 理由
第一 原告らの申立ては、別紙文書提出命令申立書に記載のとおりであり、これに
対する被告の意見は、別紙意見書に記載のとおりである。
第二 当裁判所の判断
一 別紙目録記載の各文書(以下本件文書という)を被告が所持していることは、
被告の認めて争わないところであるが、被告は、原告らの文書提出命令申立書第一
項第四号記載の文書(以下担当者メモという)については、法令上その作成を義務
付けられたものではなく、原子炉安全専門審査会の事務局たる科学技術庁原子力局
の担当職員が、自己の職務を遂行するに際し心覚えとして便宜上作成した文書であ
つて当該職員個人の所持する文書であると主張する。
そこで、先ず右の点について検討するに、原子炉安全専門審査会第八六部会及びそ
の各グループ並びに第九七部会の審議および調査の経過ないしその結果報告の記載
の作成を要求する法令上の根拠はなく、弁論の全趣旨によれば、原子炉安全専門審
査会に設置された部会およびそのグループとしては、審議および調査の際、一般に
その経過ないしその結果報告の記録は作成されていないこと、そして、担当者メモ
は、同審査会の事務局たる原子力局の担当職員が自己の心覚えとして任意に、部会
およびグループの活動の要点をメモしたに過ぎないものであつて、同職員が個人と
して所持しているものであることが認められる。
そうすると、原告らの被告に対する担当者メモの提出命令申立ては、被告の所持し
ない文書に対する申立てとなり、失当といわなければならない。
二 次に、原告らは、本件文書が民事訴訟法第三一二条第二、三号にあたる文書で
あるとして、その各原本又は写の提出を求めているが、先ず、右各文書が同条第三
号後段にいう「挙証者と所持者との間の法律関係につき作成された」文書に該当す
るか否かについて判断する。
1 本件原子炉設置許可処分取消請求事件において、原告らは被告がなした伊方発
電所の原子炉設置許可処分の審査過程に手続上の違法(原子力基本法第二条違反・
実質的審査の欠如)及び内容上の違法(原子炉の危険性=構造上の欠陥・立地審査
指針の違法性、立地選定の違法等)が存すると主張し、右許可処分の取消を求めて
いるに対し、被告は右審査が適正になされたと主張して右許可処分の審査過程が適
正になされたか否かが主要な争点となつていることは当事者双方の主張に照らし明
らかである。
2 ところで原子炉を設置しようとする者は、被告の許可を受けなければならず
(核原料物質・核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律=以下「規制に関する法
律」という、第二三条第一項)、右許可を受けようとする場合には、使用目的・原
子炉の型式・熱出力及び基数・原子炉及びその付属施設の位置・構造及び設備・使
用済燃料の処分の方法等所定の事項を記載した申請書を提出することを義務付けら
れており(規制に関する法律第二三条第二項)、原子炉及びその付属施設の位置・
構造及び設備については、さらに詳細な記載事項を定め(原子炉の設置、運転等に
関する規則=以下「規則」という第一条の二、第一項第二号)ると同時に、右申請
書には原子炉施設を設置しようとする場所に関する気象・地盤・水利・地震・社会
環境等の状況に関する説明書、原子炉施設の安全設計に関する説明書、核燃料物質
及び核燃料物質によつて汚染された物による放射線の被曝管理並びに放射性廃棄物
の廃棄に関する説明書、原子炉の操作上の過失、機械又は装置の故障、地震、火災
等があつた場合に発生すると想定される原子炉の事故の種類・程度・影響等に関す
る説明書などの原子炉の安全性に関する資料を添付しなければならない(核原料物
質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律施行令=以下「施行令」という、第
六条第二項、規則第一条の二第二項)。そして被告は、原子炉設置許可の申請があ
つた場合においては、あらかじめ原子力委員会の諮問を経ることとし、原子力委員
会は、原子炉安全専門審査会の審議に付したうえ(同審査会は、申請を専議する部
会を設置し、同部会から申請事項について調査の結果をうけたうえで原子力委員会
に報告する。また同委員会の事務は科学技術庁原子力局が処理する。)被告に答申
し、被告はこれを尊重して許否の判断をするのであるが、その場合、原子炉施設の
位置、構造及び設備が核燃料物質、核燃料物質によつて汚染された物又は原子炉に
よる災害の防止上支障がないものであると認めるときでなければ、その許可をして
はならないのである(規制に関する法律第二四条第一項第四号、原子力委員会設置
法第二、三条、第一四条の二)。
また、申請者は規制に関する法律第二三条第二項第二号から五号まで、又は第八号
に掲げる事項を変更しようとするときは、その内容及び理由等を記載した申請書を
変更後における安全性に関する説明書を添付して提出し、被告の許可を受けなけれ
ばならず、この場合も前記のような手続を経て許否が判断される(規制に関する法
律第二六条第一、四項、施行令第八条、規則第二条第一、二項)。
そして弁論の全趣旨によれば、本件文書はすべて、右許可手続の審査過程において
作成された文書であることが認められる。
3 ところで、民事訴訟法第三一二条第三項後段にいう「挙証者と所持者との間の
法律関係につき作成された」文書とは、挙証者と所持者との間に成立する法律関係
それ自体を記載した文書だけでなく、その法律関係発生の過程において作成され、
同法律関係と密接に関連する事項を記載した文書も含まれると解するのが相当であ
る。
これを本件についてみると、被告が伊方発電所に原子炉の設置を許可したことによ
り、危険物とされる原子炉の設置によつて生命・身体並びに財産の安全に制約をう
ける右発電所設置場所周辺地域に居住する原告ら住民との間に、右制約が適正な手
続を経てなされたものか否かという右許可手続の合法性をめぐる法律関係が発生し
たものということができ、右許可手続の審査過程において作成された本件文書は、
原告らと被告との間の右法律関係発生過程において作成され、同法律関係と密接に
関連する事項を記載したものというべきであるから、右両者間の法律関係につき作
成された文書に該当するものといわなければならず、これを所持している被告には
その提出義務があるというべきである。
しかも本件取消請求訴訟においては、被告の許可処分の審査手続が適正になされた
か否かが主要な争点となつているところ、本件文書が右争点を解明するうえで極め
て必要かつ重要な証拠方法であつて、原告らにおいて他に立証上有力な資料を持ち
合わせていないものと認めうるから、本件文書の提出を求める必要性は、これを十
分肯認することができるものというべきである。
三 以上の次第で、原告ら主張のその余の文書提出命令申立ての根拠について判断
するまでもなく、本件文書は、民事訴訟法第三一二条第三号後段の文書に該当し、
被告はこれについて文書提出の義務を負うが、その余の文書(担当者メモ)につい
てはその義務を負わないと解するのが相当である。
よつて、本件文書提出命令の申立ては、本件文書についてはこれを認容し、その余
の文書(担当者メモ)についてはこれを却下することとし、主文のとおり決定す
る。
文書提出命令申立書
一 文書の表示
伊方発電所原子炉設置許可手続及びその設置変更許可手続に関し作成された以下の
文書の原本又は写一切。
1 右許可申請書及び添付書類以外の、四国電力株式会社が被告(科学技術庁ない
し原子力委員会を含む)に対して提出した調査資料、参考資料一切。
2 原子力委員会の議事録一切。
3 安全専門審査会の議事録及び審査に際し同審査会に提出された部会報告書及び
その付属資料一切。
4 第八六部会及びその各グループ並びに第九七部会の審議及び調査(但し現地調
査を含む)の経過ないしその結果報告の記録(一括して単に部会審査記録とい
う)、即ちいわゆる担当者メモ一切。
5 科学技術庁原子力局が原子力委員会、原子炉安全専門審査会、又は第八六部会
に各提出した左記(1)(2)(3)の報告資料、参考資料。
(1) 原子力局が原子力委員会に提出した同局作成の「四国電力株式会社伊方発
電所の立地条件について」と題する文書
(2) 原子力局が原子炉安全専門審査会の審査に際して提出した次の文書五点
(1) 四国電力(株)伊方発電所の概要
(2) 第八六部会(伊方)審査状況報告
(3) 四国電力株伊方発電所の原子炉設置に係る安全性について(中間報告)
(4) 四国電力株式会社伊方発電所の原子炉の設置許可申請書の一部訂正につい
て(通知)
(5) 四国電力(株)伊方発電所の原子炉の設置に係る安全性について(案)
(3) 原子力局ポ箒入大郎舎Q套秀己際して提出した「原子力発電所の安全評価
(重大事故・仮想事故解析)」と題する文書
二 文書の趣旨
1 本件伊方発電所原子炉設置許可申請書及び添付書類以外の四国電力株式会社が
被告(科学技術庁ないし原子力委員会)に対して提出した調査資料、参考資料一
切。
別添資料一の「大飯一、二号炉参考資料」に類する文書を含むところの調査資料、
計画資料、比較対照資料、設計計算関係資料等、四国電力株式会社が、本件安全審
査手続において提出した参考資料文書(例えば昭和四七年一〇月、四国電力株式会
社の為した音波探査結果資料等)一切。
2 原子力委員会の議事録一切。
本件原子炉設置及びその設置変更許可手続につき為された原子力委員会の全審議日
程における議事内容を記録した議事録であつて、各審議日時、場所、出席者名、審
議事項、審議の具体的経過及び結果、例えば出席委員の発言内容、決議の有無とそ
の内容等の議事一切を記録した一連の文書。
3 (一)安全専門審査会の議事録一切。
本件原子炉設置許可手続及びその設置変更許可手続につき為された安全専門審査会
の全審議日程(被告準備書面(一)別紙四-資料四-記載の第八六部会の審査会へ
の報告及び協議の各日程を含む)に於る審査内容を記載した議事録であつて、前記
2の原子力委員会の議事録と同趣旨の文書一切。そのうち別紙四(資料四)の各日
程に作成されたものについては、同別紙内容欄の記載のとおりの事項に関する報告
及び協議内容、経過とその結果についての詳細な記録を含んでおり、同別紙作成の
実質的基礎となつたものである。
(二) 同審査会に提出された部会報告書及びその付属資料一切。
同審査会に対し提出された第八六部会、第九七部会作成の報告書及びそれに付属資
料があればその一切。
かかる報告資料が存することについては、被告準備書面(三)第二、二、8(四)
にあらわれている。
4 (一)第八六部会及びその各グループ並びに第九七部会の審査経過記録一切。
本件原子炉設置許可手続につき第八六部会及びその各グループ、同許可変更手続に
つき第九七部会の、各全調査、審議日程(被告準備書面(一)別紙三12―資料五
―及び同別紙七―資料六-各記載の各調査、審議日程を含む)において作成された
審議経過記録。前記2の原子力委員会の議事録と同趣旨の文書であつて、右別紙内
容欄記載の各条項に関する報告、協議の内容、経過及び結果についての詳細な記載
を含んでいる。
なお同文書は、昭和四八年三月科学技術庁原子力局が、別添資料三のとおり「四国
電力株式会社伊方原子力発電所の設置に係る原子炉安全専門審査会第八六部会及び
各グループの議事要旨」と題する右議事の概要に関する文書を作成した際、右作成
の実質的基礎となつたものである。
(二) 第八六部会及び第九七部会の右審議経過記録以外の調査経過記録(殊に次
項の如き第八六部会の現地調査記録を含む)ないし審議・調査の結果報告記録一切
((一)(二)を合わせていわゆる担当者メモと呼称する。文書提出命令申立に対
する被告意見書(補充)一項御参照)。
被告準備書面(三)第二、二、8によれば、第八六部会及び第九七部会の各部会専
門委員は、被告準備書面(一)別紙二ー資料七-の各専門分野についての調査、審
議を適宜なしたうえ、その調査内容及び審議結果を、適宜その後の会合において報
告、審議したという。
このように、各部会専門委員がなした調査内容及び審議結果を記載した調査資料、
審査結果報告資料一切と、その付属資料全部。
(三) 第八六部会の現地調査記録一切。
第八六部会及びその各グループの現地調査日程(被告準備書面(一)別紙三12
(資料五)記載の調査日程)において為された調査内容(同別紙内容欄記載のとお
り)、調査経過についての記録文書があればその一切。
これらの文書には、調査の日時、場所、出席委員名、調査の目的、方法及び経過と
その結果等についての記載が含まれているはずである。すなわちこれらの文書は、
右別紙作成の実質的基礎となつたものである。
5 科学技術庁原子力局が原子力委員会、原子炉安全専門審査会、又は第八六部会
に提出した一、文書の表示5(1)(2)(3)の報告資料、参考資料。
例えば被告は、被告準備書面(三)第二、一、2に、「用地問題、漁業問題、関係
地方公共団体の決議、伊方発電所設置反対運動等の一般的な事情については、原子
力委員会の事務局である科学技術庁原子力局が、四国電力株式会社からの事情聴
取、愛媛県等からの意見の聴取及び関係資料の収集等を通じて調査し、これらを適
宜原子力委員会に報告した。」と述べている。
このように、原子力局が為した調査により収集した参考資料及び調査結果の報告資
料のうち、文書提出命令申立てに対する被告意見書(補充)四(1)、同別紙一、
(5)~(八)(一〇)、別紙二、(三)に各示されたところの文書資料一切。
三 文書の所持者
被告(保管者は科学技術庁原子力局)
四 立証趣旨
伊方発電所原子炉設置許可手続及びこれと密接な関連のある設置許可変更手続のう
ち、殊に主要な原子力委員会における右安全審査の内容、経過及び状況を立証し、
もつて原告らに、右手続について訴状記載のとおりの重大な手続的瑕疵が存し、か
つかかる瑕疵ある手続の結果許可された同原子炉が、訴状記載の如き重大な事故及
び環境破壊の危険をもたらすことを立証する。
五 文書提出義務の原因
1 民事訴訟法第三一二条二号
原子力基本法第二条は、原子力の研究開発、利用についての民主的運営、並びにそ
の成果の公開を規定し、原子力関係法規の解釈、運用の指針及び原子力行政全般に
わたる基本的手続的原則を定めている。
このように、公開行政が定められたことによつて、被告は、関係規定の具体的運用
に当つて、公開原則を排除すべき規定又は特段の合理的理由なき限り、同原則に従
つた民主的なガラス張りの手続を採用しているのである。
被告が右資料の閲覧ないし公開を拒否できない以上、該資料文書につき、民事訴訟
法第三一二条二号の提出義務原因が存するものである。
2 民事訴訟法第三一二条三号
(一) 前記文書はいずれも、本件原子炉設置ないし設置変更が、原子炉等規制法
二四条一項の基準に適合するかについての調査、審議のため作成されたものであつ
て、実質的に本件原子炉設置等が、国民の利益に適合し、殊に原告等を含む地元住
民に対する災害(事故ないし公害)防止上支障ないものであるかについての調査、
審議資料であり、右調査、審議資料の作成は、被告及びその諮問機関である原子力
委員会が国民から信託された権能に基き、国民(特に重大な利害を生ずる地元住
民)のために行つたものである上、基本法第二条の公開義務及び民主的、自主的な
審査手続を国民のために担保するよう作成されたものともいえるから、右は、民事
訴訟法第三一二条三号前段の「挙証者の利益の為」作成された文書に該当する。
(二) 又本件文書は、原・被告間の「法律関係につき」作成せられたものとし
て、同条三号後段の提出義務原因ある文書に該当する。
すなわち、原告等国民は、被告に対し、一般にその設置許可に基づき急ぎ設置され
つつあるところの原子炉が、原告の適正な生活環境、健康及び生命を破壊する恐れ
の大きい施設であることを理由として、かかる被害を予防するため、右設置をもた
らす許可処分についての取消しを求め得る法律関係にあり、右許可が基本法第二条
の基本原則を無視した瑕疵ある安全審査手続を基に為されたことを理由として、そ
の取消しを求め得るという法律関係に立つている。而して本件文書はいづれも、専
門的かつ技術的な右許可処分の実質的基礎をなす一連の調査、審議内容を記載した
文書であるとともに、有機的一体として、右瑕疵ある審査手続を構成し、これを記
録した文書であつて、右法律関係に密接な関係ある事項を記載している。
「法律関係に付き」作成された文書とは、法律関係そのものを記載した文書のみな
らず、それと密接な関係ある文書をも含む(菊井・村松コンメンタール民訴=三七
九頁以下)と解されるのであるから、右文書につき、被告において、民事訴訟法第
三一二条三号後段の提出義務の原因が存在することは明らかである。
意見書
原告らの文書提出命令の申立てに対し、被告は次のとおり反論する。
一 原告らは、原告らが被告に対して提出を求める文書が原子力基本法二条に定め
られる公開の原則によつてその閲覧ないし公開を拒否することができないものであ
る以上、被告には右文書について民事訴訟法三一二条二号の規定に基づく文書提出
義務が存する旨主張する。
しかしながら、原告らが被告に対して提出を求める文書は、いずれも同号にいう挙
証者が文書の所持者に対し「引渡又ハ閲覧ヲ求ムルコトヲ得ル」文書には該当しな
い。
すなわち、民事訴訟法三一二条に規定する文書提出命令の制度は、裁判所の命令に
よつて対立当事者らの手中にある文書を挙証者のために利用させようとするもので
あるが、これは、当事者の責任と負担とにおいて訴訟の進行を図ることを建前とす
る民事訴訟においては、例外的な措置というべきものである(行政事件訴訟法は、
職権証拠調べの制度を設けている(二四条)が、その構造全体は弁論主義を基調と
するものであつて、右職権証拠調べの規定も弁論主義を補充するものに過ぎない
(杉本良吉「行政事件訴訟法の解説」八三ページ、南博方編「注釈行政事件訴訟
法」二一四ぺージ以下参照)。)。しかも文書提出命令が対立当事者に発せられた
場合を考えてみると、対立当事者は、自己の意に反してまでも自己の手中にある書
証を相手方のために利用させなければならない義務を負い、もしこの命令に従わな
い場合は、裁判所によつて、当該文書に関する相手方の主張を真実と認められる危
険を負担しなければならないのである(民事訴訟法三一六条)。
このような重大な効果の裏打ちをもつ文書提出義務を対立当事者に負担させる同法
三一二条の法意にかんがみると、同条二号にいう「挙証者カ文書ノ所持者ニ対シ其
ノ引渡又ハ閲覧ヲ求ルコトヲ得ルトキ」に該当するためには、文書の提出を申し立
てた当事者が文書の所持者に対して実体法上その文書の引渡し又は閲覧を請求する
ことができる場合に限られるべきである(菊井維大・村松俊夫「民事訴訟法」II
三一二ページ、兼子一「条解民事訴訟法III」一一九ページ、加藤正治「新訂民
事訴訟法要論」四四四ページ、法律実務講座民事訴訟法編四巻二八三ページ参
照)。すなわち、同号は、実体法上法律の規定に基づくと契約に基づくとを問わず
文書を支配し、利用する権利を有する者は、訴訟上においてもその文書を自己のた
めの証拠方法とすることを請求できる旨規定したものなのである。
ところで、原子力基本法は、その二条において、「原子力の研究、開発及び利用
は、平和の目的に限り、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その
成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする。」と規定しているが、右規定
は、原子力の研究等についての国の基本方針を宣言したものであつて、原子力の研
究等の成果について、その公開を求め得る具体的権利を原告らに対して付与したも
のではない(東京高裁昭和四七年五月二二日決定・判例時報六六八号二〇ページ参
照)。
従つて、実体法上原告らが被告に対し何ら本件文書の引渡し又は閲覧を求める権利
を有しない以上、原告らは、被告に対し、民事訴詮法三一二条二号の規定に基づく
文書の提出を求めることはできないのである。
二 原告らは、本件文書はいずれも本件原子炉設置ないし設置変更が原子炉等規制
法二四条一項の定める基準に適合するか否かについての調査、審議のために作成さ
れたものであるところ、右調査、審議のための資料の作成は、被告が国民から信託
された権能に基づき、国民(特に重大な利害を生ずる原告らを含む地元住民)のた
めに行つたものであり、又原子力基本法二条に定める審査手続を担保するよう作成
されたものであるから、本件文書は民事訴訟法三一二条三号前段の「挙証者ノ利益
ノ為ニ作成セラレ」た文書に該当する旨主張する。
しかしながら、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、いずれも同条三号
前段にいう文書には該当しない。
すなわち、同条三号前段にいう「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ」た文書とは、委
任状、領収書、身分証明書等挙証者の権利義務を発生させる目的で作成された文書
ないし後日の証拠とするために挙証者の地位や権限を証明する目的で作成された文
書を指すものと解される(前掲東京高裁決定、菊井・村松・前掲三七九ページ、兼
子・前掲一一九ページ、池田浩一・前掲東京高裁の決定に対する判例評釈・判例評
論一六二号二八ページ参照)。
ところで、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、訴外四国電力株式会社
が本件原子炉の設置許可を受けるために提出した文書、被告の諮問機関である原子
力委員会等が本件原子炉設置許可の申請等に関し調査、審議及び答申を行うに際し
て作成された文書であつて、そのいずれの文書も原告らに対し権利義務を発生させ
或いは原告らの地位や権限を証明する目的で作成されたものではないのである。
従つて、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、いずれも民事訴訟法三一
二条三号前段に規定する「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ」た文書には該当しない
と言わなければならない。
三 更に原告らは、本件訴訟において原告らは本件原子炉設置が原告らの適正な生
活環境等を破壊する恐れのあること及び被告のなした本件原子炉設置許可処分が瑕
疵ある審査手続に基づいてなされたものであることを理由として右処分の取消しを
求めることができるのであるから、処分に際しての審議内容等を明らかにする本件
文書はいずれも民事訴訟法三一二条三号後段の「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法
律関係ニ付作成セラレタル」文書に該当する旨主張する。
しかしながら、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、いずれも同条三号
後段にいう文書には該当しない。
すなわち、同条三号後段にいう「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成
セラレタル」文書とは、契約書、通帳等挙証者と文書の所持者との間の法律関係そ
れ自体を記載した文書だけではなく、契約の草案、契約締結のための交渉過程で作
成された往復書簡のような文書等右法律関係に関係ある文書も含まれると解される
(菊井・村松・前掲三七九ページ参照)としても、前述した民事訴訟法三一二条の
決意及び同条三号がその前段について具体的かつ限定的な内容をもつて規定し、こ
れとその後段の文書とを同列に結んで規定していることから考えると、右「法律関
係に関係ある文書」というのも、法律関係になんらかの意味で関係があると考えら
れる事項を記載した一切の文書というような包括的に解すべきではないのである
(東京地裁昭和四三年九月一四日決定・判例時報五三〇号二一ページ参照)。すな
わち、「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタル」文書とは、
右両者の直接又は間接の関与のもとに作成されたものであつて、両者の具体的な法
的地位が明らかになるような文書を指すものと解されるのである(前掲東京高裁決
定参照)。
ところで、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、いずれも間接的にせよ
原告らの関与のもとに作成されたものではないし、又両者間の具体的な法的地位を
直接明らかにするものでもない。
従つて、原告らが被告に対して提出を求める本件文書は、いずれも民事訴訟法三一
二条玉号後段に規定する「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレ
タル」文書には該当しないと言わなければならない。

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