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平成28年11月30日判決言渡
平成25年(行ウ)第180号特定事業変更許可処分取消請求事件
主文
1原告株式会社太新興産及び原告Z1の訴えをいずれも却下する。
2原告Z2の訴えのうち,土砂等を移動,撤去等するよう指示及び指導する
ことの義務付けを求める部分を却下する。
3原告Z2のその余の請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1河内長野市長は,株式会社メイビ(以下「メイビ」という。)に対し,同社
が平成24年5月7日付けで許可を受け平成27年4月24日付けで廃止の届
出をした特定事業(以下「本件事業」という。)について,河内長野市土砂埋
立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例(以下「本件条例」と
いう。)20条4項に基づき,同条第1項の措置が講じられていない旨の通知
(以下「本件通知」という。)をせよ。
2河内長野市長は,メイビに対し,メイビが本件事業の許可申請時において提
出した埋立計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った土砂等を,直ち
に移動,撤去等するよう指示及び指導(以下「本件指示等」という。)を行え。
3河内長野市長は,メイビに対し,本件条例7条3項に基づき,本件事業に使
用された土砂等の全部を撤去せよとの命令(以下「本件撤去命令1」という。)
をせよ。
4河内長野市長は,メイビに対し,本件条例23条2項に基づき,本件事業に
使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令(以下「本件撤去命令2」という。)
をせよ。
第2事案の概要
1要旨
メイビは,本件条例に基づき,河内長野市長から,河内長野市内の区域にお
いて土砂等の埋立て等をする特定事業(本件事業)を行う許可を受けたが,そ
の後,本件事業を廃止した旨届け出た。
本件は,上記区域の周辺に所在する土地を所有又は利用する原告らが,上記
区域においては,メイビが本件事業の許可申請時において提出した埋立計画以
上の高さに土砂等が積み上げられ,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の
発生を防止するために必要な措置も講じられていない上,六価クロム,フッ素,
鉛等の有害物質が混入した土壌環境基準に適合しない土砂等の埋立てが行われ
たほか,本件事業の許可の申請書に埋立てに使用する土砂等の採取場所として
記載された場所以外の場所から採取された土砂等が埋立てに使用されたなどと
主張して,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条6項1号所定の非申
請型の義務付けの訴えとして,被告に対し,河内長野市長が,メイビに対して
本件事業につき,①本件条例20条4項に基づく同条1項の措置(土砂等の崩
落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置)が講じられ
ていない旨の通知(本件通知),②メイビが本件事業の許可申請時において提出
した埋立計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った土砂等を,直ちに
移動,撤去等するよう指示及び指導を行なうこと(本件指示等),③本件条例7
条3項に基づく本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令(本件
撤去命令1)及び④本件条例23条2項に基づく本件事業に使用された土砂等
の全部を撤去せよとの命令(本件撤去命令2)をすることの義務付けを求める
事案である。
2本件条例の定め(甲16)
(1)目的
本件条例1条は,土砂等(土砂及びこれに混入し,又は吸着した物をいう
〔本件条例2条1項〕。以下同じ。)の埋立て等(土砂等による土地の埋立て,
盛土その他の土地への土砂等のたい積を行う行為をいう〔同条2項〕。以下同
じ。)による土壌の汚染及び災害の発生を未然に防止するため,必要な規制を
行うことにより,もって市民生活の安全を確保するとともに,市民の生活環
境を保全することを目的とする旨規定する。
(2)土壌環境基準に適合しない土砂等による土砂等の埋立て等の禁止等
本件条例7条1項は,何人も,土壌環境基準(人の健康を保護し,生活環
境を保全する上で必要なものとして規則で定めるものをいう〔本件条例6条〕。
以下同じ。)に適合しない土砂等を使用して,土砂等の埋立て等を行ってはな
らない旨規定する。
本件条例7条3項は,河内長野市長は,土砂等の埋立て等に土壌環境基準
に適合しない土砂等が使用されていることを確認したときは,速やかに当該
土砂等及び当該土砂等の埋立て等が行われ,又は行われた場所の土壌に係る
情報を住民に提供するとともに,当該土砂等の埋立て等を行い,又は行った
者に対し,当該土砂等の埋立て等に使用された土砂等の全部若しくは一部を
撤去し,又は当該土砂等の埋立て等による土壌の汚染を防止するために必要
な措置を執るべきことを命ずることができる旨規定する。
(3)特定事業の許可
本件条例9条1項は,特定事業(土砂等の埋立て等を行う事業のうち,土
砂等の埋立て等に供する区域の面積が500㎡以上のもの等〔土砂等の埋立
て等に使用する土砂等の量が500㎥未満のものを除く。〕をいう〔本件条例
2条2項〕。以下同じ。)を行う者は,原則として,特定事業に供する区域ご
とに,あらかじめ河内長野市長の許可を受けなければならない旨規定する。
(4)許可の申請
本件条例10条1項は,特定事業の許可を受けようとする者は,特定事業
の期間,特定事業に使用される土砂等の採取場所等の所定の事項を記載した
申請書を河内長野市長に提出しなければならない旨規定する。
本件条例12条の2は,特定事業の許可を受けようとする者は,当該特定
事業区域の周辺関係者に対して,当該特定事業の計画内容を事前に説明し,
協議を行い,その結果を市長に報告しなければならない旨規定する。
(5)変更の許可
本件条例13条1項は,特定事業の許可を受けた者は,当該許可の申請書
に記載された特定事業の期間,特定事業に使用される土砂等の採取場所等の
変更をしようとするときは,河内長野市長の許可を受けなければならない旨
規定する。
(6)特定事業の廃止等
本件条例20条1項は,特定事業の許可を受けた者は,当該許可に係る特
定事業を廃止しようとするときは,当該特定事業に使用された土砂等の崩落,
飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置を講じなければ
ならない旨規定する。
本件条例20条2項は,特定事業の許可を受けた者は,当該許可に係る特
定事業を廃止したときは,遅滞なく,その旨を市長に届け出なければならな
い旨規定し,同条3項は,当該廃止の届出があったときは,当該許可は,そ
の効力を失う旨規定する。
同条4項は,河内長野市長は,特定事業の廃止の届出があったときは,速
やかに,当該特定事業について,同条1項の措置が講じられているかどうか
の確認を行い,その結果を当該届出をした者に通知しなければならない旨規
定し,同条5項は,同条4項の規定により,土砂等の崩落,飛散又は流出に
よる災害の発生を防止するために必要な措置が講じられていない旨の通知を
受けた者は,廃止の届出に係る特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又
は流出による災害の発生を防止するために必要な措置を講じなければならな
い旨規定する。
本件条例25条は,河内長野市長は,本件条例20条5項の規定に違反し
た者に対し,その特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出による
災害の発生を防止するために必要な措置を執るべきことを命ずることができ
る旨規定する。
(7)許可を受けることなく特定事業を行った者に対する措置命令
本件条例23条2項は,河内長野市長は,本件条例9条又は13条1項の
規定に違反して特定事業を行った者に対し,当該特定事業に使用された土砂
等の全部又は一部を撤去し,又は土砂等の崩落,飛散若しくは流出による災
害の発生を防止するために必要な措置を執るべきことを命ずることができる
旨規定する。
(8)罰則
本件条例32条1号は,本件条例7条3項,25条又は23条2項の規定
による命令に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処
する旨規定する。
(9)河内長野市土砂埋立て等の規制に関する条例の施行及び経過措置
平成27年7月1日からは,河内長野市土砂埋立て等の規制に関する条例
が施行されているが,同条例附則3は,同条例の施行日前になされた本件条
例に基づく処分については,なお従前の例による旨規定する(なお,本件は,
本件条例に基づき平成24年5月7日付けで許可され平成27年4月24日
付けで廃止された特定事業(本件事業)についての義務付け訴訟であり,平
成27年7月1日よりも前になされた本件条例に基づく処分についてのもの
といえるから,本件の判断に当たっては本件条例の規定が適用されるものと
解される。)。
3前提となる事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によ
り容易に認めることができる。
(1)原告株式会社太新興産(以下「原告会社」という。)は,昭和62年12
月16日以降,別紙物件目録1記載1の土地(別紙図面1において「○」と
記載され赤色で表示された範囲に所在する土地。以下「本件土地1」という。)
を所有している。(甲1の1)
原告Z2は,昭和61年11月6日以降,別紙物件目録1記載2の土地(別
紙図面1において「○」と記載され赤色で表示された範囲に所在する土地。
以下「本件土地2」という。)を所有している。(甲1の2)
原告Z1は,平成26年11月10日当時,別紙物件目録1記載3の土地
(別紙図面1において「○」と記載され赤色で表示された範囲に所在する土
地。以下「本件土地3」といい,本件土地1及び本件土地2と併せて「本件
各土地」という。)を所有していた。(甲1の3,乙18)
(2)メイビは,平成24年5月7日付けで,河内長野市長から,本件条例9
条に基づき,許可の期間を同日から1年3か月とすること等を許可条件とし
て,別紙物件目録2記載の各土地のうち別紙図面1において実線で囲まれ黄
色で表示された範囲に所在する区域(以下「本件事業区域」という。)にお
いて,土砂等の埋立て等をする特定事業(本件事業)を行うことの許可(以
下「本件許可」という。)を受けた。(甲2の1~31,4,乙1)
その後,本件許可の期間は,本件条例13条に基づき,河内長野市長の許
可を受けて,平成25年6月28日付けで,平成26年8月6日までと変更
され,同年7月31日付けで,平成27年5月6日までと変更された。(甲
28,乙17)
(3)メイビは,同年4月24日付けで,河内長野市長に対し,本件条例20
条2項に基づき,同日に本件事業を廃止した旨届け出た。(乙21)
4争点及び当事者の主張
本件の争点は,①原告らが義務付けを求める各措置(本件通知,本件指示等,
本件撤去命令1及び本件撤去命令2。以下「本件各措置」という。)の処分性
の有無(争点1),②原告らが本件各措置の義務付けを求める原告適格を有す
るか(争点2),③本件各措置がされないことにより原告らに重大な損害を生
ずるおそれがあるか(争点3),④当該重大な損害を避けるため他に適当な方
法がないか(争点4),⑤本件各措置の義務付けを求める請求が行訴法37条
の2第5項の要件を充足するか(具体的には,河内長野市長が本件各措置をす
べきであることが本件条例の規定から明らかであると認められ又は同市長が本
件各措置をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認
められるか。争点5)であり,これらの点についての当事者の主張は以下のと
おりである。
(1)争点1(処分性)
(原告らの主張)
ア本件通知
河内長野市長は,特定事業の廃止の届出があったときは,速やかに,当
該特定事業について,本件条例20条1項の措置(土砂等の崩落,飛散又
は流出による災害の発生を防止するために必要な措置)が講じられている
かどうかの確認を行い,その結果を当該届出をした者に通知しなければな
らない(同条4項)ところ,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発
生を防止するために必要な措置が講じられていない旨の通知を受けた者は,
廃止の届出に係る特定事業に使用された土砂等の崩落,飛散又は流出によ
る災害の発生を防止するために必要な措置を講ずる義務を負う(同条5項)。
したがって,河内長野市長が,本件条例20条4項に基づき,本件事業
について同条1項の措置が講じられていない旨の通知をすること(本件通
知)は,行訴法3条2項の「処分」に該当する。
イ本件指示等
本件許可においては,許可条件として,申請時において提出された埋立
計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った土砂等は,直ちに移動,
撤去等すること,また,市職員から是正等の指示,指導等があった場合は,
直ちにその指示,指導等に従い,是正等の適切な措置を講ずることが定め
られており,特定事業の許可を受けた者が当該指示,指導等を受けた場合
は,適切な措置を講ずべき義務を負う。
したがって,河内長野市長が,本件事業の許可申請時において提出され
た埋立計画以上の高さに積み上げられ,堆積され,又は盛られた土砂等を,
直ちに移動,撤去等するよう指示及び指導を行うこと(本件指示等)は,
行訴法3条2項の「処分」に該当する。
ウ本件撤去命令1
本件条例によれば,何人も,土壌環境基準に適合しない土砂等を使用し
て,土砂等の埋立て等を行ってはならず(本件条例7条1項),河内長野市
長は,土砂等の埋立て等に土壌環境基準に適合しない土砂等が使用された
ときは,当該特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をす
ることができる(同条3項)とされており,かかる命令を受けた特定事業
者は,当該土砂等の撤去をするための措置を講ずべき義務を負う。
したがって,河内長野市長が,本件条例7条3項に基づき,本件事業に
使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をすること(本件撤去命令1)
は,行訴法3条2項の「処分」に該当する。
エ本件撤去命令2
本件条例によれば,特定事業の許可を受けようとする者は,当該特定事
業に使用される土砂等の採取場所等を記載した申請書を提出しなければな
らず,当該採取場所等の変更をしようとするときは,河内長野市長の許可
を受けなければならない(本件条例9条1項,10条1項7号,13条1
項)ところ,本件条例9条又は13条1項に違反して,当該特定事業の許
可の申請書に採取場所として記載されておらず,採取場所とする旨の変更
の許可も受けていなかった場所からの土砂等の採取が行われたときは,当
該特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をすることがで
きる(本件条例23条2項)とされており,かかる命令を受けた特定事業
者は,当該土砂等の撤去をするための措置を講ずべき義務を負う。
したがって,河内長野市長が,本件条例23条2項に基づき,本件事業
に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をすること(本件撤去命令
2)は,行訴法3条2項の「処分」に該当する。
(被告の主張)
争う。
(2)争点2(原告適格)
(原告らの主張)
ア本件条例等の目的等について
本件条例が,土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生を未然
に防止するため,必要な規制を行い,市民生活の安全を確保するとともに,
市民の生活環境を保全することを目的としていること(本件条例1条),土
壌汚染対策法施行規則が定める測定方法を用いた土壌環境基準を採用し,
土壌環境基準に適合しない土砂等を使用して土砂等の埋立て等を行うこと
を禁止していること(本件条例7条1項),土砂等の埋立て等を行う者に対
し,埋立て等に使用された土砂等が崩落し,飛散し,又は流出しないよう
に必要な措置を講じる義務を課していること(本件条例8条)などからす
ると,本件条例は,特定事業から生じる土壌汚染,土砂災害等によって生
活の安全や生活環境に被害を受けないという個々人の個別的利益を保護し
ようとするものと解すべきである。
そして,土壌汚染対策法は,環境基本法21条の環境の保全上の支障を
防止するための規制を具体化するものであり,環境基本法は,本件条例と
目的を共通にする関係法令というべきところ,同法2条3項が,「公害」と
は,「人の健康又は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の
生活に密接な関係のある動植物及びその生育環境を含む。以下同じ。)に係
る被害が生ずること」をいう旨規定していることからすれば,本件条例が
個々人の個別的利益として保護する生活の安全や生活環境には,人の健康,
人の生活に密接な関係のある所有地等の財産並びに人の生活に密接な関係
のある動植物及びその生育環境等が含まれ,特定事業によって,健康,生
活に密接な関係のある所有地等の財産並びに生活に密接な関係のある動植
物及びその生育環境等を害されるおそれがある者は,河内長野市長が本件
条例に基づき当該特定事業をした者に対し一定の処分をすることの義務付
けを求める原告適格を有すると解すべきである。
イ本件事業によって害される原告らの利益等について
原告らが所有する本件各土地は,いずれも本件事業区域から10~12
mの位置に近接し,本件事業区域の崖地と連続しているところ,本件事業
においては,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するた
めに必要な措置が講じられておらず,本件事業区域において土砂崩れが発
生し,本件各土地が毀損されるおそれがある。
また,本件各土地は,本件事業区域に直接つながる既存の水路に接して
いるところ,本件事業によって,本件事業区域には,六価クロム,フッ素,
鉛等の有害物質が混入した土砂等が搬入されており,本件各土地にも,上
記水路や地下水を通じて当該有害物質が浸潤し,また,当該有害物質を含
む土壌が飛散するおそれがある。
ウ各原告の原告適格について
(ア)原告会社について
原告会社は,本件土地1を所有しており,本件事業区域において土砂
崩れが発生し,また,本件事業区域から有害物質が浸潤したり,有害物
質を含む土壌が飛散したりすれば,同土地が毀損されるおそれがあるか
ら,原告会社は,河内長野市長が,メイビに対し,本件各措置をするこ
との義務付けを求める原告適格を有する。
(イ)原告Z2の原告適格について
原告Z2は,本件土地2を所有しており,本件事業区域において土砂
崩れが発生し,また,本件事業区域から有害物質が浸潤したり,有害物
質を含む土壌が飛散したりすれば,同土地が毀損されるおそれがある。
また,原告Z2は,自身やその家族等の食用に供するため,本件土地
1においてみかんの木を栽培し,また,本件土地3を原告Z1から無償
で借り受け,同土地上に小屋を建てて,上記みかんの木の栽培のための
農機具等の保管場所や休憩場所として使用している。本件事業区域にお
いて土砂崩れが発生し,また,本件事業区域から有害物質が浸潤したり,
有害物質を含む土壌が飛散したりすれば,上記のとおり本件土地1及び
本件土地3をみかんの木の栽培のために使用する原告の健康・生活環境
が害されるおそれがある。
したがって,原告Z2は,河内長野市長が,メイビに対し,本件各措
置をすることの義務付けを求める原告適格を有する。
(ウ)原告Z1の原告適格について
原告Z1は,本件土地3を所有しており,本件事業区域において土砂
崩れが発生し,また,本件事業区域から有害物質が浸潤したり,有害物
質を含む土壌が飛散したりすれば,同土地が毀損されるおそれがあるか
ら,原告Z1は,河内長野市長が,メイビに対し,本件各措置をするこ
との義務付けを求める原告適格を有する。
(被告の主張)
ア本件事業によって害される原告の利益等について
(ア)本件事業においては,①盛土構造の点で,法面の安定勾配(30度
未満)や階段状の小段が確保され,「ふとんかご」と呼ばれる土留めの設
備や土留め擁壁も設けられていること,②地下排水処理の点で,三層の
地下排水処理設備等が設置されていること,③盛土高さの点で,本件事
業に係る当初の計画とほぼ同じかそれよりも低い高さとなっていること
などからすれば,本件事業区域において,土砂崩れ等が発生するおそれ
があるとはいえない。
仮に,本件事業区域において土砂崩れが発生したとしても,本件各土
地は,本件事業区域から第三者の土地を挟んで離れた位置に所在し,本
件事業区域よりも高所に位置しており,本件事業区域の埋立土砂等が本
件各土地に崩落してくるなどの可能性はない。また,本件事業区域の斜
面において土砂崩れが発生したとしても,「円弧滑り」と呼ばれる部分的
な崩落が生じるにとどまり,本件事業区域内に堆積する土砂の流出範囲・
高さも,本件各土地の位置・高さにまでは及ばない。
したがって,本件事業区域において土砂崩れが発生するおそれはなく,
仮に本件事業区域において土砂崩れが発生したとしても,本件各土地が
毀損されるおそれはない。
なお,原告Z1は,平成24年7月3日,売買により,本件土地3を
原告会社から取得したが,平成26年11月10日,原告会社との間で,
上記売買に係る契約を合意解除し,同土地の所有権を失ったから,本件
事業区域において土砂崩れが発生したとしても,原告Z1が自身の所有
地を棄損されるおそれはない。
(イ)本件事業によって,本件事業区域に六価クロム,フッ素,鉛等の有
害物質が混入した土砂等が搬入された事実はないから,本件各土地に,
当該有害物質が浸潤し,また,当該有害物質を含む土壌が飛散するおそ
れはない。
イしたがって,本件事業によって,原告Z2の健康,原告らが所有する本
件各土地の財産権並びに原告Z2が栽培する旨主張するみかんの木及びそ
の生育環境等が害されるおそれはないから,原告らは,河内長野市長が,
メイビに対し,本件各措置をすることの義務付けを求める原告適格を有し
ない。
(3)争点3(重大な損害を生ずるおそれ)
(原告らの主張)
前記(2)(原告らの主張)イのとおり,本件事業区域において土砂崩れが発
生し,原告らが所有する本件各土地が毀損されるおそれがあり,また,本件
各土地に六価クロム,フッ素,鉛等の有害物質が湿潤するなどのおそれがあ
るから,原告らには,本件各措置がされないことによって,身体や財産等が
害されるという重大な損害が生ずるおそれがある。
(被告の主張)
前記(2)(被告の主張)アのとおり,本件事業区域において土砂崩れが発生
することによって,本件各土地が毀損されるおそれはなく,また,本件各土
地に六価クロム,フッ素,鉛等の有害物質が湿潤するなどのおそれはないか
ら,原告らに,本件各措置がされないことによって,重大な損害が生ずると
はいえない。
(4)争点4(補充性)
(原告らの主張)
原告らが前記(2)(原告らの主張)ウ(ア)~(ウ)の重大な損害を避けるため
には,本件事業区域内においてメイビに必要な措置を講じさせなければなら
ないところ,原告らは本件事業区域内の土地をいずれも所有しておらず,本
件訴えによって河内長野市長がメイビに対し本件各措置をすることの義務付
けを求めるほかには,適当な方法がない。
(被告の主張)
争う。
(5)争点5(行訴法37条の2第5項の要件充足性)
(原告らの主張)
ア本件通知について
メイビは,本件事業において,以下の施設不設置や施工の不備等により,
土砂等の崩落,飛散又は流出による災害発生のおそれを生じさせていなが
ら,その発生を防止するために必要な本件条例20条1項の措置を講じて
おらず,本件事業区域において土砂等の崩落,飛散又は流出による災害が
発生するおそれがあるから,河内長野市長が,メイビに対し,同条4項に
基づき,当該措置が講じられていない旨の通知をすべきことが本件条例の
規定から明らかであり,又は同市長が当該通知をしないことがその裁量権
の範囲を超え若しくはその濫用となる。
(ア)排水設備の不設置
メイビは,本件事業区域における排水設備の設置等について計画図面
等を提出し,必要な排水設備の仕様等が決定された上で,本件許可を受
けたが,当該排水設備の仕様等を変更することにつき河内長野市長の許
可を受けることなく,本件事業を廃止した。
メイビは,当該仕様等のとおり当該排水設備を設置しなければならな
いにもかかわらず,当該排水設備としてのU字溝,集水桝,区域外ヒュ
ーム管を設置していない。また,メイビは,地下排水のための有孔管を,
計画していた箇所の一部にしか設置していない。
(イ)沈砂池の設置不備
メイビは,本件事業廃止後も本件事業区域において沈砂池を設置して
いるとされるが,本件許可を受ける際に提出した計画図面等のとおりに,
当該沈砂池から本件事業区域外に排水を排出するためのU型トラフを設
置しておらず,当該沈砂池を適切に設置していない。
(ウ)竹木の埋立て
メイビは,本件事業区域において,根を取り除くことなく伐採した竹
木のほとんどを,同区域外に搬出せず,同区域内に埋め立てており,こ
れにより,本件事業区域において土砂崩れ等が発生する危険が生じてい
る。
(エ)土留擁壁の不設置
メイビは,本件許可を受けるに際し,沈砂池付近に埋め立てた土砂等
が崩落するのを防ぐための土留擁壁を設置する旨の工事予定図面を提出
していたにもかかわらず,本件事業区域において,上記土留擁壁を設置
していない。
(オ)原地盤の表土の剥取り作業の不実施
本件事業区域の底部は含水率が高い有機土質であり,当該底部の上に
土砂等を埋め立てれば,盛土が不等沈下を引き起こすおそれがある。そ
のため,本件事業区域において土砂等の埋立てを行うためには,当該底
部の原地盤の表土の剥取りをしなければならないにもかかわらず,メイ
ビは,かかる剥ぎ取り作業を実施しなかった。
イ本件指示等について
本件許可においては,許可条件として,申請時において提出された埋立
計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った土砂等は,直ちに移動,
撤去等すること,また,市職員から是正等の指示,指導等があった場合は,
直ちにその指示,指導等に従い,是正等の適切な措置を講ずることが定め
られていた。
メイビは,当該条件に反して,本件事業の許可申請時において提出した
埋立計画以上の高さに土砂等を積み上げるなどしており,本件事業区域に
おいて土砂崩れ等が発生する危険が生じているから,河内長野市長が,メ
イビに対し,当該土砂等を直ちに移動,撤去等するよう指示及び指導を行
うべきことが明らかであり,又は同市長が当該指示及び指導をしないこと
がその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となる。
ウ本件撤去命令1について
メイビは,堺市α×番○外の土地から,六価クロム及びフッ素が混入し
た土壌環境基準に適合しない土砂等を採取し,また,堺市β×番○号の土
地から,鉛等が混入した土壌環境基準に適合しない土砂等を採取し,それ
ぞれ本件事業区域に埋め立てており,原告らの健康や所有地の環境等が害
されるおそれが生じ,しかも,汚染土砂と他の土砂との区別は不可能な状
況にある。
したがって,河内長野市長が,メイビに対し,本件条例7条3項に基づ
き,本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をすべきこと
が本件条例の規定から明らかであり,又は同市長が当該命令をしないこと
がその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となる。
エ本件撤去命令2について
メイビは,以下の各日に,本件許可の申請書に採取場所として記載され
ておらず,採取場所とする旨の変更の許可も受けていなかった以下の各場
所から土砂等を搬出し,当該土砂等を本件事業区域内に搬入したものであ
り,現在,このように違法に搬入された土砂と他の土砂との区別は不可能
な状況にある。
平成25年2月5日堺市γ×-○
同月12日堺市δ×~×
同年3月5日富田林市ε×
平成26年4月12日堺市ζ×番○~○
同月14日同上
同年5月19日東大阪市η×番○,×番○,×番○
同年6月3日堺市θ×付近
同月13日堺市ι×-○
同月16日東大阪市λ×番○
メイビによる上記土砂等の搬入は,本件許可の申請書に採取場所として
記載されておらず採取場所とする旨の変更の許可も受けていなかった場所
から採取した土砂等を搬入したものであるから,本件条例9条又は13条
1項に違反するものであって,河内長野市長が,メイビに対し,本件条例
23条2項に基づき,本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの
命令をすべきことが本件条例の規定から明らかであり,又は同市長が当該
命令をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となる。
(被告の主張)
ア本件通知について
本件事業については,以下のような設備の設置や施工,処理等がされ,
本件条例20条1項の措置(土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発
生を防止するために必要な措置)が講じられており,本件事業区域におい
て土砂等の崩落,飛散又は流出による災害が発生するおそれはないから,
河内長野市長が,メイビに対し,同条4項に基づき,当該措置が講じられ
ていない旨の通知をすべきことが本件条例の規定から明らかであり,又は
同市長が当該通知をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫
用となるとはいえない。
(ア)排水設備の設置
メイビは,今後,本件事業区域において宅地等の開発をする予定であ
るところ,当該開発の計画が明確になるまでの暫定的措置として,本件
事業区域の東側部分においては,十分な排水能力を有する素掘りのU字
溝を設置している。
また,メイビは,本件事業区域の北側部分においては,本件事業の当
初の計画のとおり,U字溝及び集水桝を設置している。
メイビは,現時点において区域外ヒューム管を設置していないが,今
後,上記宅地等の開発を準備しつつ,大阪府の許可を得て設置する予定
であり,現在,区域外ヒューム管が設置されていないことで,雨水が滞
留するなどの問題は生じていない。
メイビは,本件事業の当初の計画どおりに,本件事業完了時における
地表面の予定の高さからマイナス5m,マイナス10m,マイナス15
mの各高さにおいて,有孔管を既に設置している。
(イ)沈砂池の設置
メイビは,本件事業区域における宅地等の開発計画が明確になるまで
の間の暫定的措置として,本件事業区域の北側部分に,区域外に土砂や
濁水等が流出することを防止するための沈砂池を設置している。
メイビは,現時点において当該沈砂池にU型トラフを設置していない
が,U型トラフは,上記宅地等の開発計画が明確になり,当該沈砂池が
撤去された後に,当該沈砂池に代わって設置され本件事業区域の排水を
下流域に排出するものである。現時点においてU型トラフが設置されて
いなくても,本件事業区域内の濁水は当該沈砂池に沈降し,同区域外に
流出しておらず,同区域内において,土砂等の崩落のおそれも生じてい
ない。
(ウ)竹木の処理
メイビは,伐採した竹木を本件事業区域外に搬出し,廃棄物処理法に
基づき適正に処理している。
(エ)土留擁壁の設置
メイビは,本件事業区域の北側部分において,土留擁壁を既に設置し
ている。
(オ)原地盤の表土処理
メイビは,本件事業区域の原地盤の表土処理及び軟弱地盤の改良等を
適正に行っており,前記(ア)のとおり本件事業区域に地下排水処理のた
めの有孔管も設置している。
イ本件指示等について
メイビが本件事業区域において積み上げるなどした土砂等の高さは,一
部の箇所についてのみ,本件事業の埋立計画以上の高さになっているが,
当該箇所の法面勾配は30度未満の安定勾配となっており,また,当該箇
所は本件事業区域のほぼ中央部分に位置することなどからすれば,土砂崩
れ等が生じたとしても周辺環境に被害を与えることはない。
したがって,メイビが,本件許可に付された条件に反して,本件事業の
許可申請時において提出した埋立計画以上の高さに土砂等を積み上げ,堆
積させ,又は盛っている箇所があるとしても,河内長野市長が,メイビに
対し,当該土砂等を直ちに移動,撤去等するよう指示及び指導を行うべき
ことが本件条例の規定から明らかであり,又は同市長が当該指示及び指導
をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となるとはいえ
ない。
ウ本件撤去命令1について
メイビが,本件事業区域内に,六価クロム,フッ素,鉛等が混入した土
壌環境基準に適合しない土砂等を埋め立てた事実はないから,河内長野市
長が,メイビに対し,本件条例7条3項に基づき,本件事業に使用された
土砂等の全部を撤去せよとの命令をすべきことが本件条例の規定から明ら
かであり,又は同市長が当該命令をしないことがその裁量権の範囲を超え
若しくはその濫用となるとはいえない。
エ本件撤去命令2について
原告らが主張する搬入のうち,平成25年2月5日,同月12日,同年
3月5日,平成26年5月19日,同年6月3日,同月13日及び同月1
6日における搬入について原告らが証拠として提出する写真からは,土砂
等が積み込まれた場所や運送車両等の移動経路が判然としない。また,こ
れら搬入のうち,平成25年2月12日の搬入は,メイビが平成24年1
0月30日付けで採取場所とすることについて許可を受けた羽曳野市の株
式会社から購入した改良土を搬入したものである。
また,本件事業区域への土砂等の搬入を請け負っていた業者は,メイビ
が採取場所としての許可を受けていた場所から土砂等を搬出し,堺市θ×
番○外の土地に一時仮置きし,後日に当該土砂等を本件事業区域に搬入し
ていた。上記業者は,被告以外の者との間で,堺市ζの土地からの土砂等
の搬出も請け負っていたところ,原告らが主張する平成26年4月12日
及び同月14日における上記ζの土地からの搬入については,上記業者が
同土地から搬出した土砂等を上記θの土地に仮置きし,同所において,メ
イビが許可を受けていた採取場所から搬出された土砂等を積み込み,本件
事業区域に搬入したもので,許可を受けていない場所から採取された土砂
等を搬入したものではない。
以上のように,メイビが,本件条例9条に基づく許可又は本件条例13
条1項に基づく変更の許可を受けなければならなかったにもかかわらず,
本件許可の申請書に採取場所として記載されておらず,採取場所とする旨
の変更の許可も受けていなかった場所から採取した土砂等を搬入した事実
はなく,また,仮にメイビがかかる場所から採取した土砂等を本件事業区
域に搬入したとしても,当該搬入自体が原因となって本件事業区域におい
て土砂崩れ等が生じるわけではなく,本件事業区域において有害物質が検
出されているわけでもない。
したがって,河内長野市長が,メイビに対し,本件条例23条2項に基
づき,本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令をすべきこ
とが本件条例の規定から明らかであり,又は同市長が当該命令をしないこ
とがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となるとはいえない。
第3当裁判所の判断
1認定事実
(1)前記前提となる事実のほか,各項末尾記載の証拠及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる。
ア原告らによる本件各土地の所有等
(ア)原告会社は,不動産の売買・仲介,宅地造成分譲業等を営む会社で
あり,本件土地1を所有している。なお,原告会社は,かつて,本件事
業区域付近での埋立てを計画していたが,実施するには至らなかった。
(甲1の1,26)
(イ)原告Z2は,原告会社の取締役であり,本件土地2を所有している。
(甲1の2,20)
(ウ)原告Z1は,原告会社の従業員であり,平成24年7月3日,売買
により,本件土地3を原告会社から取得したが,平成26年11月10
日,原告会社との間で,上記売買に係る契約を合意解除し,同日以降,
原告会社が,本件土地3を所有している。(甲18,乙18)
イ原告らとメイビとの関係等
メイビは,平成19年頃から,本件事業区域周辺に土地を所有する原告
会社に対し,境界確定を申し入れるなどしていたが,原告会社から同意を
得ることができなかった。
メイビは,平成22年10月10日,原告会社事務所において,メイビ
が予定していた特定事業(後の本件事業)の説明会を実施し,その際,メ
イビから,原告会社に対し,関係土地の境界の確定,メイビによる原告会
社所有土地の買取り,共同での事業実施等を提案したが,原告会社の意向
と内容的に大きな開きがあり,いずれの提案についても合意するには至ら
なかった。
(甲26)
ウ本件事業区域及び本件各土地の位置関係等
メイビが平成24年5月7日付けで本件許可を受けた当時,本件事業区
域は,周辺の土地よりも地盤が低い谷状の地形となっており,本件事業区
域の地盤のうち最も低い地盤は,標高約88mの高さに位置していた。
本件各土地は,南北に延びた形状の本件事業区域の北側に位置し,本件
事業区域から本件土地1及び本件土地2は約12m,本件土地3は約10
mの距離にある。また,本件土地1は標高約100m,本件土地2は標高
約94m,本件土地3は標高約100mの高さに位置している。
(乙1,6,7,16,25の1~8)
エ本件許可,その変更及び本件事業の廃止
(ア)本件許可
メイビは,平成23年5月16日付けで,特定事業に使用される土砂
等の採取場所を「富田林市μ×番○,×番○」,採取量を6万8350㎥
と記載した申請書を河内長野市長に提出し,本件事業区域(実測面積9
901.42㎡)において本件事業を行うことの許可を申請した。
メイビは,平成24年5月7日付けで,河内長野市長から,①許可の
期間を同日から1年3か月とすること,②当該許可の申請時において提
出された埋立計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った土砂等
は,直ちに移動,撤去等しなければならず,また,河内長野市職員から
是正等の指示,指導等があった場合は,直ちにその指示,指導等に従い,
是正等の適切な措置を講ずること等を許可条件として,本件事業区域に
おいて本件事業を行うことについて本件許可を受けた。
(甲4,22,51,53)
(イ)本件許可の変更
a許可の期間について
メイビは,河内長野市長から,平成25年6月28日付けで,許可
の期間を平成24年5月7日から平成26年8月6日までと変更する
ことについて,同年7月31日付けで,許可の期間を平成24年5月
7日から平成27年5月6日までと変更することについて,それぞれ
許可を受けた。
b特定事業に使用される土砂等の採取場所について
メイビは,河内長野市長から,平成25年3月4日付けで,堺市α
×-○の土地を,平成26年4月3日付けで,堺市β×番○号の土地
を,それぞれ本件事業に使用される土砂等の採取場所として追加する
ことについて許可を受けた。(甲50~52)
(ウ)本件事業の廃止
メイビは,平成27年4月24付けで,河内長野市長に対し,本件条
例20条2項に基づき,同日に本件事業を廃止した旨届け出た。
当該届出がされた時点において,本件事業区域には,計画されていた
採取量6万8350㎥(前記(ア))の約7割の土砂等が埋め立てられて
いた。(証人Z3)
オ本件事業の廃止後における本件事業区域の状況
(ア)沈砂池
本件事業区域のうち最も北側に位置する部分には,別紙図面2におい
て「沈砂池」と記載された位置に,概ね正方形の形をした沈砂池が設置
されている。当該沈砂池と本件事業区域外との間には,U型トラフ(U
字溝)は設置されていない。(乙25の1・2)
(イ)埋め立てられた土砂等の高さ等
本件事業区域のうち前記(ア)の沈砂池よりも南側に位置する別紙図面
2の直線「NO.1」と直線「NO.8+17.60」との間の部分に
は,土砂等が埋め立てられ,概ね北側をより低い部分とする傾斜面が形
成されており,当該土砂等の高さは,別紙図面2の直線「NO.1」上
において標高約89.90m,直線「NO.2+4.00」上において
標高約98.30mとなっており,同直線よりも南側の部分において概
ね標高約100mとなっている。
また,本件事業区域のうち別紙図面2の直線「NO.5」から南側の
部分には,埋め立てられた土砂等の高さが,メイビが本件許可の申請時
において提出した埋立計画における土砂等の高さよりも最大で約2m高
くなっている部分がある。
(乙25の1~8,証人Z3)
(ウ)排水設備
aU字溝,集水桝及びヒューム管
本件事業区域のうち,別紙図面2のA点,B点及びC点付近には,
それぞれ集水桝が設置され,また,同図面の赤線AB,BC,AD,
AE,BF,BG,CH及びCI上には,U型トラフ(U字溝)が設
置され,さらに,本件事業区域の東側境界線付近に位置する別紙図面
2のI点及びJ点を結ぶ赤線上には,素掘り水路が設けられている。
(乙23,26)
また,メイビは,本件事業において,別紙図面2のK点とL点を結
ぶ赤破線上付近に,本件事業区域外から本件事業区域内に流入してく
る雨水を処理するためのヒューム管を設置することを計画していたが,
現在,当該赤破線上付近には,ヒューム管は設置されていない。(甲6,
乙26,証人Z4)
b地下排水のための有孔管
本件事業区域には,本件事業区域内に埋め立てられた土砂等の高さ
からそれぞれ地下に15m,10m及び5mの高さに,有孔管が,ほ
ぼ当初の計画どおり,設置されている。(乙2,24の各1~3,2
6)
(エ)土留擁壁
本件事業区域のうち,当該沈砂池の南側に埋め立てられた土砂等と当
該沈砂池の間には,別紙図面2の直線「NO.1」上付近に,土留擁壁
が設置されている。(乙23)
カ本件事業に係る土壌調査等
(ア)六価クロム,フッ素及び鉛の性質
a六価クロム
六価クロムは,呼吸器・消化器系障害や腎臓障害を引き起こす発が
ん性物質とされ,慢性障害でアレルギー性皮膚炎,肺がん,急性障害
で皮膚の火傷,壊死,下痢,嘔吐等を発生させる。
六価クロムは,陰イオン性の物質であり,水に溶解して地表から地
下水面まではほぼ鉛直に浸透し,地下水に到達した後は地下水と共に
移動するところ,特定有害物質に指定されている重金属の中で最も移
動性が大きく,地下水汚染の到達距離が1000mに達する場合もあ
る。このように土壌中の六価クロムが地下水に溶出した場合,人が当
該地下水を摂取等するおそれがある。我が国における六価クロムの水
質環境基準値は0.05mg/L以下であり,また,汚染土壌からの
六価クロムの摂取量が現行の飲用水からの理論最大摂取量と同程度と
なるよう算定すると,経口暴露に伴う影響を考慮する土壌含有基準値
の設定値は900mg/kgとなる。
また,六価クロムによって表層土壌が汚染された場合,人が六価ク
ロムを含む土壌を直接摂取する(例えば,風によって巻き上げられた
土壌を吸い込む,皮膚に接触して吸収されるなど)おそれがある。こ
のような汚染土壌の飛散によって六価クロムを大気から吸入暴露した
場合,鼻粘膜等への直接的影響等が懸念され,肺がんが発生するおそ
れもある。
(甲56~59)
bフッ素
フッ素は,陰イオン性の物質であり,水に溶解して地表から地下水
面まではほぼ鉛直に浸透し,地下水に到達した後は地下水と共に移動
するところ,移動性が相対的に大きく,地下水汚染の到達距離が40
0mに達する場合もある。
我が国におけるフッ素の水質環境基準は0.8mg/Lに定められ
ており,汚染土壌からのフッ素の摂取量が飲用水からの理論最大摂取
量と同程度となるよう算定すると,土壌含有基準値の設定値は1万m
g/kgとなる。より高濃度の飲料水濃度では,骨へのフッ素沈着が
認められ,骨の内部構造変化も引き起こすことが報告されている。
(甲56,57)
c鉛
鉛は,水に溶解して地表から地下水面まではほぼ鉛直に浸透し,地
下水に到達した後は地下水と共に移動するところ,移動性が相対的に
小さいが,地下水汚染の到達距離は90mに達する場合がある。
鉛は,主に呼吸器系からの吸引と水溶性の鉛化合物の消化器系から
の吸収によって体内に入り,骨に最も多く定着する。こうした鉛の体
表や消化器官に対する曝露(接触・定着)により,腹痛,嘔吐,伸筋
麻痺,感覚異常症等の様々な中毒症状が発生するほか,血液に作用す
ると溶血性貧血,ヘム合成系障害,免疫系の抑制,腎臓への影響等も
発生する。
(甲57,61)
(イ)平成25年1月頃,清水建設株式会社による建物建替工事の敷地で
あった堺市α×-○の土地において,土壌調査が実施され,11区画(1
区画は1辺を30mとする正方形)のうち2区画で基準値を超える六価
クロム化合物が,1区画で基準値を超えるフッ素及びその化合物がそれ
ぞれ検出された。
そこで,同年3月21日から同年4月26日までの間,同土地におい
て,基準値を超える上記六価クロム化合物並びにフッ素及びその化合物
を含む土壌の掘削除去工事が実施され,当該工事終了後に実施された土
壌調査においては,同土地から,基準値を超える六価クロム化合物並び
にフッ素及びその化合物は検出されなかった。
(乙5,27の1~5)
(ウ)同年11月頃,株式会社大林組等による建物建設工事の敷地であっ
た堺市β×番○号の土地において,土壌調査が実施され,同土地の一部
から,基準値を超える鉛及びその化合物並びにフッ素及びその化合物が
検出された。当該鉛及びその化合物並びにフッ素及びその化合物を含む
土壌は,平成26年4月12日頃,同土地から搬出され,同土地外で処
理された。(甲47,48,乙28)
(エ)本件事業区域においては,平成25年4月19日から同年6月6日
までの期間,平成26年9月4日から同年10月20日までの期間及び
平成27年4月頃において,それぞれ土壌調査が実施されたが,いずれ
の土壌調査によっても,本件事業区域から,基準値を超える六価クロム,
フッ素,鉛等の有害物質は検出されなかった。(乙4,19,22)
(2)事実認定の補足説明
ア前記(1)オ(ウ)bの有孔管の設置状況について,原告らは,メイビが,本
件事業区域において,地下排水のための有孔管を計画していた箇所の一部
にしか設置していない旨主張し,本件事業区域に搬入された有孔管の本数
や長さの合計が,当該計画において設置することとされていた有孔管の本
数や長さの合計に満たないことを証明する証拠として,甲第65号証を提
出する。
しかし,甲第65号証は,原告会社の従業員であるZ4等が,本件事業
区域周辺から,本件事業区域内の保管場所や進入路付近に置かれていた有
孔管の写真や動画を撮影し,目視によって数えた当該有孔管の本数や長さ
の合計を記載したものにすぎず(証人Z4),本件事業区域内に搬入され
た全ての有孔管の本数や長さの合計を正確に記載したものとはいい難い。
そして,通常,本件事業区域に搬入された有孔管は,上記保管場所や進入
路付近に置かれることなく,計画されていた場所に直ちに設置されたと考
えられること(証人Z3)からすれば,甲第65号証の記載をもって,当
初の計画どおりの有孔管の設置がされていなかったものと認めるに足りな
い。なお,原告らは,有孔管が設置されていない証拠として平成25年3
月26日に作成されたとする現場の撮影写真(甲11の2~8)も提出す
るが,その撮影場所は明らかではないし,その撮影画面から,有孔管が設
置されていないことも直ちに明らかではなく,また,仮にその撮影時点(平
成25年3月26日以前)において,有孔管が設置されていなかったとし
ても,その後設置されたことが否定されるわけではないから,上記写真を
もって,前記判断が左右されるものではない。他に前記認定を覆すに足り
る証拠はない。
イまた,前記(1)オ(エ)の土留擁壁の設置について,原告らは,メイビが,
本件事業区域において,沈砂池付近に埋め立てた土砂等が崩落するのを防
ぐために設置すべき土留擁壁を設置していない旨主張するが,その主張事
実を認めるに足りる証拠はない。
2争点1(処分性)について
(1)本件条例20条4項に基づく同条1項の措置が講じられていない旨の通知
(本件通知)について
本件条例20条4項は,河内長野市長は,特定事業の廃止の届出があった
ときは,速やかに,当該特定事業について,同条1項の措置(土砂等の崩落,
飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置)が講じられて
いるかどうかの確認を行い,その結果を当該届出をした者に通知しなければ
ならない旨規定し,同条5項は,同条4項の規定により,土砂等の崩落,飛
散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置が講じられていな
い旨の通知を受けた者は,廃止の届出に係る特定事業に使用された土砂等の
崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置を講じな
ければならない旨規定する。これらの本件条例の規定によれば,本件条例2
0条4項に基づく同条1項の措置が講じられていない旨の通知は,通知を受
けた当該特定事業の廃止の届出をした者に当該措置を講じる義務を生じさせ,
その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきであるから,義務付け
訴訟の対象となる行訴法3条2項の「処分」に当たると解するのが相当であ
る(土壌汚染対策法3条2項による通知に係る最高裁平成24年2月3日第
二小法廷判決・民集66巻2号148頁参照)。
(2)土砂等を移動,撤去等する旨の指示及び指導(本件指示等)について
前記認定事実(1)エ(ア)のとおり,本件許可には,メイビが本件許可の申請
時において提出した埋立計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,又は盛った
土砂等は,直ちに移動,撤去等しなければならず,また,河内長野市職員か
ら是正等の指示,指導等があった場合は,直ちにその指示,指導等に従い,
是正等の適切な措置を講ずることが条件として付されていた。
しかし,本件条例やその関係法令において,特定事業の許可に付された条
件に関する河内長野市長の指示,指導等を受けた者が,当該指示,指導等に
従う義務を負う旨の規定等,当該指示,指導等が対象者の権利ないし法的地
位に影響を与えることをうかがわせる規定は見当らないことからすれば,河
内長野市長が,メイビに対し,メイビが本件許可に付された条件に反して本
件許可の申請時において提出した埋立計画以上の高さに積み上げ,堆積させ,
又は盛った土砂等を,直ちに移動,撤去等するよう指示及び指導することが
できるとしても,当該指示及び指導は,当該土砂等の移動,撤去等を促す事
実上の措置にすぎず,メイビの権利ないし法的地位に直接影響を及ぼすもの
であるとはいえない。
したがって,河内長野市長が,メイビに対し,本件指示等を行なうことは,
直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認め
られているものとはいえないから,義務付け訴訟の対象となる行訴法3条2
項の「処分」には該当しないのであって,原告らの訴えのうち本件指示等の
義務付けを求める部分は,訴訟要件を欠く不適法なものとして却下を免れな
い。
(3)本件条例7条3項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよ
との命令(本件撤去命令1)について
本件条例7条3項は,河内長野市長は,土砂等の埋立て等に土壌環境基準
に適合しない土砂等が使用されていることを確認したときは,当該土砂等の
埋立て等を行い,又は行った者に対し,当該土砂等の埋立て等に使用された
土砂等の全部を撤去すべきことを命ずることができる旨規定するところ,同
項に基づく本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの本件撤去命令
1は,当該命令を受けたメイビに,本件事業に使用された土砂等の全部を撤
去する義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべ
きであり,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが
法律上認められているものというべきであるから,義務付け訴訟の対象とな
る行訴法3条2項の「処分」に該当するということができる。
(4)本件条例23条2項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せ
よとの命令(本件撤去命令2)について
本件条例23条2項は,河内長野市長は,本件条例9条又は13条1項の
規定に違反して特定事業を行った者に対し,当該特定事業に使用された土砂
等の全部を撤去すべきことを命ずることができる旨規定するところ,同項に
基づく本件事業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの本件撤去命令2は,
当該命令を受けたメイビに,本件事業に使用された土砂等の全部を撤去する
義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきであ
り,直接に国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上
認められているものというべきであるから,義務付け訴訟の対象となる行訴
法3条2項の「処分」に該当するということができる。
3争点2(原告適格)について
(1)本件条例において,原告らには,本件通知,本件撤去命令1及び本件撤
去命令2に係る申請権は認められておらず,本件訴えは,行訴法3条6項1
号に掲げるいわゆる非申請型の義務付けの訴えに当たるところ,行訴法37
条の2第3項は,非申請型の義務付けの訴えは,行政庁が一定の処分をすべ
き旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り,提起する
ことができる旨規定する。ここで,「法律上の利益を有する者」とは,当該
処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害
され,又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を
定めた行政法規が,不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収
解消させるにとどめず,それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを
保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には,このような利益もこ
こにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分がされないことによりこ
れを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の義務付
け訴訟における原告適格を有するものというべきである。
そして,同法37条の2第4項は,上記の法律上の利益の有無の判断につ
いては,同法9条2項の規定を準用するところ,行政庁が一定の処分を第三
者に対してすべき旨を命ずることを求める者について法律上の利益の有無を
判断するに当たっては,当該処分の根拠となる法令の規定の文言のみによる
ことなく,当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき
利益の内容及び性質を考慮するものとし,この場合において,当該法令の趣
旨及び目的を考慮するに当たっては,当該法令と目的を共通にする関係法令
があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし,当該利益の内容及び
性質を考慮するに当たっては,行政庁が当該処分をすべきであることが当該
処分の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁が当該
処分をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認め
られるにもかかわらず,当該処分がされない場合に害されることとなる利益
の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案すべきものであ
る(以上につき,最高裁平成26年7月29日第三小法廷判決・民集68巻
6号620頁参照)。
(2)ア本件条例は,土砂等の埋立て等による土壌の汚染及び災害の発生を未
然に防止するため,必要な規制を行うことにより,もって市民生活の安全
を確保するとともに,市民の生活環境を保全することを目的とし(本件条
例1条),特定事業を行おうとする者や特定事業の許可の申請書に記載さ
れた事項の変更をしようとする者は,河内長野市長の許可を受けなければ
ならない旨規定し(本件条例9条1項,13条1項),特定事業の許可を
受けようとする者は,当該特定事業区域の周辺関係者に対して,当該特定
事業の計画内容を事前に説明し,協議を行い,その結果を市長に報告しな
ければならない旨規定する(本件条例12条の2)。また,本件条例は,
特定事業の廃止の届出をした者が,河内長野市長から,土砂等の崩落,飛
散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置が講じられてい
ない旨の通知を受けたときは,当該措置を講じなければならず,河内長野
市長は,当該措置を講じない者に対し当該措置を執るべきことを命ずるこ
とができる旨(本件条例20条,25条),河内長野市長は,土砂等の埋
立て等に土壌環境基準(本件条例6条)に適合しない土砂等が使用されて
いることを確認したときは,速やかに当該土砂等の埋立て等が行われた場
所の土壌等に係る情報を住民に提供するとともに,当該土砂等の埋立て等
を行った者に対し,当該土砂等の埋立て等に使用された土砂等の全部を撤
去することなどを命ずることができる旨(本件条例7条3項),河内長野
市長は,特定事業の許可・変更の許可を受けることなく特定事業を行った
者に対し,当該特定事業に使用された土砂等の全部を撤去するなどの措置
を執るべきことを命ずることができる旨(本件条例23条2項)規定し,
これら本件条例25条,7条3項及び23条2項の各規定による河内長野
市長の命令に違反した者を2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処
する旨規定する(本件条例32条1号)。
そして,本件条例の制定,運用は,環境基本法7条,36条が規定する
当該地方公共団体の区域の自然的社会的条件に応じた環境保全のために必
要な施策に当たると解されるところ,同法は,環境の保全について,国民
の健康で文化的な生活の確保に寄与すること等を目的とし(同法1条),公
害とは,環境の保全上の支障のうち,土壌の汚染等によって,人の健康又
は生活環境(人の生活に密接な関係のある財産並びに人の生活に密接な関
係のある動植物及びその生育環境を含む。)に係る被害を生ずることをいう
旨規定する(同法2条3項)。
また,本件条例6条に規定する土壌環境基準は,土壌汚染対策法施行規
則が定める測定方法等を用いているところ(本件条例施行規則3条,別表
第1〔甲35〕),土壌汚染対策法は,土壌汚染対策の実施を図り,もって
国民の健康を保護することを目的としている(同法1条)。
以上に述べた本件条例の規定並びに本件条例の関係法令に当たると解さ
れる環境基本法及び土壌汚染対策法の規定に照らせば,本件条例は,特定
事業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出による災害並びに土壌環境基
準に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等によって,市民の生命,
身体の安全,健康又は生活環境が害されることを防止し,もって市民生活
の安全を確保するとともに,市民の生活環境を保全することをその趣旨及
び目的とするものと解される。
イそして,特定事業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出による災害並
びに土壌環境基準に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等によって,
当該特定事業の事業区域の周辺において居住する者や動植物を飼育・栽培
するなどの活動を行う者が直接的に受ける被害の程度は,当該居住等の活
動の内容,当該活動が行われる土地と当該事業区域との近接の度合い・位
置関係,当該事業区域に埋め立てられた土砂等に含まれる汚染物質の性質
(土壌中,水中又は飛散等による移動特性等)等によっては,その者の生
命,身体の安全,健康又は生活環境に係る著しい被害を受ける事態にも至
りかねないものである。しかるところ,前記アの本件条例の趣旨及び目的
に鑑みれば,本件条例は,特定事業の事業区域の周辺において居住する者
や動植物を飼育・栽培するなどの活動を行う者に対し,そのような特定事
業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出による災害並びに土壌環境基準
に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等によって生命,身体の安全,
健康又は生活環境に係る被害を受けないという具体的利益を保護しようと
するものと解されるのであり,上記のような被害の内容,性質,程度等に
照らせば,この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困
難なものといわなければならない。
ウしたがって,当該特定事業の事業区域の周辺において居住する者や動植
物を飼育・栽培するなどの活動を行う者のうち,当該事業区域において特
定事業が行われた場合にこれに伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出によ
る災害並びに土壌環境基準に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等
によって,生命,身体の安全,健康又は生活環境に係る被害を直接的に受
けるおそれのある者は,河内長野市長が,当該特定事業を行った者に対し,
本件条例20条4項に基づく同条1項の措置が講じられていない旨の通知,
本件条例7条3項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよ
との命令及び本件条例23条2項に基づく特定事業に使用された土砂等の
全部を撤去せよとの命令をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の
利益を有する者として,当該義務付け訴訟における原告適格を有するもの
というべきである。
そして,上記のような生命,身体の安全,健康又は生活環境に係る被害
を直接的に受けるおそれがあるか否かについては,当該特定事業において
埋め立てられた土砂等の量・態様,上記被害を直接的に受けるおそれがあ
る旨主張する者が行う居住等の活動の内容,当該活動を行う土地と当該事
業区域との近接の度合い・位置関係,当該事業区域に埋め立てられた土砂
に含まれるとされる汚染物質の性質(土壌中,水中又は飛散等による移動
特性等)等を総合考慮の上,社会通念に照らし,合理的に判断すべきであ
る。
なお,以上説示したような本件条例の趣旨及び目的,本件条例が保護し
ようとしている利益の内容及び性質等を考慮すれば,本件条例は,当該特
定事業の事業区域の周辺において居住,動植物を飼育・栽培するなどの活
動を行う者が当該特定事業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出による
災害並びに土壌環境基準に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等に
よって生命,身体の安全,健康又は生活環境の被害を受けないという利益
に加えて,所有権その他の財産上の権利,利益をも個々人の個別的利益と
して保護すべきものとする趣旨を含むものと解することはできないという
べきである。
(3)アこれを本件についてみると,原告会社は株式会社であり,本件事業区域
において特定事業が行われた場合であっても,法人としての性質上,生命,
身体の安全,健康又は生活環境に係る被害を直接的に受けるおそれがある
とはいえない。
また,前記(2)ウのとおり,本件条例が,市民の生命,身体の安全,健康
又は生活環境の被害を受けないという利益に加えて,所有権その他の財産
上の権利,利益をも個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨
を含むものと解することはできないというべきであるから,本件事業区域
において特定事業が行われた場合に,原告会社の本件土地1の所有権が侵
害されるおそれがあるとしても,原告会社が,本件条例が個々人の個別的
利益として保護する利益を侵害されるおそれがあるとはいえない。
したがって,原告会社は,本件通知,本件撤去命令1及び本件撤去命令
2の義務付けを求める訴訟(以下「本件義務付け訴訟」という。)におけ
る原告適格を有するとはいえない。
イ(ア)前記認定事実(1)ア(イ)のとおり,原告Z2は,本件土地2を所有し
ている。もっとも原告Z2は,本件土地2を使用しておらず(弁論の全
趣旨),前記(2)ウのとおり本件条例が所有権その他の財産上の権利,利
益をも個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を含むもの
と解することはできないから,原告Z2の本件土地2の所有権が侵害さ
れるおそれがあるとしても,原告Z2が,本件条例が個々人の個別的利
益として保護する利益を侵害されるおそれがあるとはいえない。
(イ)他方,証拠(甲36,証人Z4)及び弁論の全趣旨によれば,原告
Z2は,本件土地1においてみかんの木を植えて栽培し,これを摂取し
たり,本件土地3に建てられた小屋を上記みかんの木の栽培のための農
機具等の保管場所等として使用したりしていることが認められる。
そして,前記認定事実(1)エ(ア)・(ウ),オ(イ)のとおり,本件特定事
業においては,本件事業区域に合計6万8350㎥の土砂等を埋め立て
ることが計画されていたところ,本件事業が廃止された時点において,
本件事業区域には,上記計画量の約7割の土砂等が埋め立てられており,
当該土砂等の高さは,本件土地1及び本件土地3の付近に位置する別紙
図面2の直線「NO.1」上において標高約89.90mとなっていた。
前記認定事実(1)ウ,カ(ア)のとおり,本件土地1及び本件土地3は,
本件事業区域からそれぞれ約10mの距離に位置し,標高約100mの
高さにあるところ,原告らが本件事業区域に埋め立てられた旨主張する
六価クロム,フッ素及び鉛をとってみても,いずれも水に溶解して地表
から地下水面まではほぼ鉛直に浸透し,地下水に到達した後は地下水と
ともに移動し,地下水汚染の到達距離が少なくとも90mに達する場合
があり,また,六価クロムは,これを含む土壌を人が直接摂取すること
によって肺がんを発生させるおそれがあり,鉛は,主に呼吸器系からの
吸引と水溶性の鉛化合物の消化器系からの吸収によって体内に入り,中
毒症状等を引き起こす。
以上のような本件事業において埋め立てられた土砂等の量・態様,原
告Z2が本件土地1及び本件土地3において行う活動の内容,本件土地
1及び本件土地3と本件事業区域との近接の度合い・位置関係,六価ク
ロム,フッ素及び鉛の性質等によれば,本件事業区域において特定事業
が行われた場合に,当該特定事業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流
出による災害並びに土壌環境基準に適合しない土砂等の埋立てによる土
壌汚染等によって,原告Z2は,本件土地1及び本件土地3と本件事業
区域の高低差を考慮しても,汚染された地下水等を使用して栽培された
みかんを摂取し,本件事業区域から飛散した汚染土壌を吸引するなどし
て,生命,身体の安全,健康又は生活環境に係る被害を直接的に受ける
おそれがあるといえる。
したがって,原告Z2は,本件義務付け訴訟における原告適格を有す
るものというべきである。
ウ原告Z1は,本件事業区域の周辺に居住しておらず(弁論の全趣旨),
また,前記認定事実(1)ア(ウ)のとおり,現在,本件各土地をいずれも所有
していない。そして,原告Z1が,本件事業区域の周辺において,動植物
を飼育・栽培するなどの活動を行っていることなど,原告Z1が,本件事
業区域において特定事業が行われた場合に,生命,身体の安全,健康又は
生活環境に係る被害を直接的に受けるおそれがあることを基礎付ける事情
を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告Z1は,本件義務付け訴訟における原告適格を有する
とはいえない。
エ以上によれば,原告Z2は,本件義務付け訴訟における原告適格を有す
るものの,原告会社及び原告Z1は,本件義務付け訴訟における原告適格
を有するとはいえず,原告会社及び原告Z1の訴えは,訴訟要件を欠く不
適法なものとして,却下を免れない。
4争点3(重大な損害を生ずるおそれ)について
行訴法37条の2第1項は,同法3条6項1号に掲げるいわゆる非申請型義
務付けの訴えは,一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれ
があるときに提起することができる旨規定し,同法37条の2第2項は,当該
重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては,損害の回復の困難の程度
を考慮するものとし,損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案
するものとする旨規定する。
前記3(3)イのとおり,本件事業区域において特定事業が行われた場合,当
該特定事業に伴う土砂等の崩落,飛散若しくは流出による災害並びに土壌環境
基準に適合しない土砂等の埋立てによる土壌汚染等によって,原告Z2は,生
命,身体の安全,健康又は生活環境に係る被害を直接的に受けるおそれがある。
かかる被害は,金銭賠償のみによっては回復が困難であることからすれば,原
告Z2には,本件義務付け訴訟に係る前記2(1),(3)及び(4)の各処分がされ
ないことにより,重大な損害を生ずるおそれがあるというべきである。
5争点4(補充性)について
原告Z2は,本件事業区域内の土地をいずれも所有していない(弁論の全趣
旨)ところ,原告Z2が,メイビに対し,所有権に基づく妨害排除請求等の民
事上の請求によって,本件事業区域内において一定の措置を講じることを求め
ることは困難であり,その他,義務付けの訴えと比較して,原告Z2が前記4
の重大な損害を避けるため,より適当な方法があるとはいい難いから,原告Z
2が前記4の重大な損害を避けるためには,本件義務付け訴訟の他に適当な方
法がないというべきである。
6争点5(行訴法37条の2第5項の要件充足性)について
(1)行訴法37条の2第5項は,当該義務付けの訴えに係る処分につき,行政
庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる法令の規定から明
らかであると認められ又は行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範
囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは,裁判所は,行政庁が
その処分をすべき旨を命ずる判決をする旨規定する。
このうち,行政庁がその処分をすべきであることがその処分の根拠となる
法令の規定から明らかであると認められる場合とは,当該処分について行政
庁に裁量権がなく,当該処分の根拠となる法令の規定に事実をあてはめるこ
とによって当該行政庁が当該処分をすべきであることが明らかであると認め
られる場合をいい,また,行政庁がその処分をしないことがその裁量権の範
囲を超え若しくはその濫用となると認められる場合とは,当該処分について
行政庁が裁量権を有しているものの,行政庁が当該処分をしないことが当該
裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した場合をいうものと解される。
(2)本件条例20条4項に基づく同条1項の措置が講じられていない旨の通知
(本件通知)について
ア本件条例20条4項は,河内長野市長は,特定事業の廃止の届出があっ
たときは,速やかに,当該特定事業について,同条1項の措置(土砂等の
崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措置)が講
じられているかどうかの確認を行い,その結果を当該届出をした者に通知
しなければならない旨規定するところ,当該確認及び通知の対象となるの
は,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要
な措置が講じられているかどうかという事実の有無であって,河内長野市
長が,当該事実の有無についての判断,当該確認及び通知をすべきか否か,
当該確認及び通知をする時期等について,裁量権を付与されているとは解
されないことからすれば,当該特定事業について,土砂等の崩落,飛散又
は流出による災害の発生を防止するために必要な措置が講じられていない
という事実が認められる限り,河内長野市長は,当該事実を確認し,その
結果を通知しなければならないものと解される。
もっとも,本件条例20条1項は,特定事業を廃止しようとする者が,
土砂等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために必要な措
置を講じなければならない旨規定するのみで,当該措置のより具体的な内
容について定めていないことからすれば,当該特定事業について当該措置
が講じられていないか否かについては,当該特定事業の事業区域における
工事等の実施の有無や内容を総合的に考慮し,当該特定事業の事業区域に
おいて,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害が発生するおそれが生じ
ていると認められる場合に,当該措置が講じられていないということがで
きるものと解すべきである。
イ(ア)これを本件についてみると,前記認定事実(1)オ(ア),(イ)のとおり,
本件事業区域においては,別紙図面2において「沈砂池」と記載された
位置に沈砂池が設置されており,当該沈砂池よりも南側の部分には土砂
等が埋め立てられている(なお,本件事業区域のうち別紙図面2の直線
「NO.5」から南側の部分には,埋め立てられた土砂等の高さが,メ
イビが提出した埋立計画における土砂等の高さよりも最大で約2m高く
なっている部分があるものの,上記直線「NO.5」は,本件土地1及
び本件土地3から約100m離れている〔乙25の2〕。)。そして,
本件事業区域内で埋め立てられた土砂等については,地上及び地下の排
水設備としてU型トラフ(U字溝),集水桝,素掘り水路及び有孔管が
設置されるとともに,当該沈砂池と当該土砂等の間に土留擁壁が設置さ
れている。また,証拠(乙12,13,25の1~8,26,29,証
人Z3)によれば,本件事業区域内で埋め立てられた土砂等のうち,本
件土地1及び本件土地3の付近に位置する別紙図面2の直線「NO.1」
と「NO.3」の間の部分については,傾斜面の勾配が安定勾配とされ
る30度未満であり,また,北側の傾斜部分は水平の小段を設けて階段
状とされ,さらには,「ふとんかご」と呼ばれる土留めのための設備を
設置するなどの措置が採られていることが認められる。これらの事情に
照らすと,本件事業区域内においては,原告Z2との関係も含め,土砂
等の崩落,飛散又は流出による災害の発生を防止するために,相応の措
置が講じられているということができる。
なお,前記認定事実(1)オ(ウ)のとおり,本件事業区域及びその周辺に
おいては,素掘り水路が設置され,また,別紙図面2の赤破線KL上付
近にヒューム管が設置されておらず,沈砂池と本件事業区域外との間に
U型トラフ(U字溝)が設置されていないのであり,これらの点で,排
水に関して,メイビが本件事業について計画していたとおりの工事が実
施されていない部分があることがうかがわれるものの(甲5,6,17,
弁論の全趣旨),かかる工事が実施されていないことによって,本件事業
区域において上記のような相応の措置が講じられているにもかかわらず,
本件事業区域内に排水がたまるなどの支障が生じていることを認めるに
足りる証拠はない。
(イ)この点に関連し,原告らは,本件事業区域において,土砂等の崩落,
飛散又は流出による災害発生のおそれがあることを基礎付ける事情とし
て,①メイビが,根を取り除くことなく伐採した竹木のほとんどを,同
区域外に搬出せず,同区域内に埋め立てたことや,②メイビが,本件事
業区域底部の原地盤の表土剥取り作業をしなかったことを指摘する。
しかし,上記①の指摘事情については,証拠(乙3)によれば,メイ
ビは,本件事業区域において発生した木くず合計203.14トンを収
集運搬業者に委託し,本件事業区域外の処理施設に運搬した上で,当該
処理施設における処分業者による処理を委託したことが認められる。こ
れに対し,原告らは,上記指摘事情を裏付ける証拠として,現場を撮影
した写真(甲11の8,24,41),重機による作業状況等を動画によ
り撮影したもののスクリーンショット(甲38~41)並びに上記指摘
事情があった旨の原告会社の従業員Z4の報告書(甲17)及びその添
付写真(現場を撮影した写真)を提出するほか,証人Z4は,竹木の除
根分について,ブルドーザーで上から土をかぶせて埋めていた旨供述す
る。しかしながら,上記写真やスクリーンショットによっても,地面に
樹木の根らしきものが混じり込んでいることは確認し得るものの,それ
以上に,根を取り除くことなく伐採した竹木のほとんどが本件事業区域
内に埋め立てられたことまでは確認することはできず,上記写真等によ
って,土砂等の崩落等による災害発生の原因となるような施工の不備が
あったことが裏付けられるものではない。また,前記認定事実(1)ア(ア),
イのとおり,原告会社は,かつて,本件事業区域付近で埋めた事業を検
討したことがあり,メイビとの間で,関係土地についての境界が未確定
の状況にあり,本件事業前のメイビによる説明会においても,メイビか
らの境界確定,原告会社所有土地の買取り,共同事業といった諸提案が
あったものの,いずれも合意に至らなかったものであって,これらの事
情にも照らすと,原告会社とメイビとの間には,本件事業によって生じ
得る災害や環境汚染の問題とは別個の,関係土地の境界や事業の競合等
の問題をめぐって利害対立があった疑いも否定することができない。そ
の意味で,原告会社の従業員であるZ4の報告書や証人尋問における証
言も,その中立性について疑問が残り,脚色や誇張がないかなど,その
証言内容の採否に当たってはより慎重に判断する必要があるのであって,
他に客観的な裏付け証拠のない本件においては,上記報告書の内容や証
言内容は直ちに採用することができないものといわざるを得ない。他に,
上記指摘事情を認めるに足りる証拠はない。
次に,上記②の指摘事情については,証人Z4は,証人尋問や陳述書
(甲67)において,メイビが本件事業区域底部の原地盤の表土剥取り
作業をしなかった旨証言,陳述するが,この点についても客観的裏付け
を欠き,前示の事情に照らし,上記証言等を直ちに採用することはでき
ない。その他,上記指摘事情を認めるに足りる証拠はない。
(ウ)本件において,本件事業区域における土砂等の崩落,飛散又は流出
による災害発生のおそれを防止するために,前記(ア)認定の措置以外に
必要な措置があることを認めるに足りる証拠はない。本件事業区域にお
いて,土砂等の崩落,飛散又は流出による災害が発生するおそれが生じ
ているとは認められず,本件事業について,土砂等の崩落,飛散又は流
出による災害の発生を防止するために必要な措置が講じられていないと
いうことはできないというべきである。
ウ以上によると,河内長野市長が,メイビに対し,本件事業について,本
件条例20条4項に基づく同条1項の措置が講じられていない旨の通知(本
件通知)をすべきであることが本件条例の規定から明らかであるとは認め
られず,原告Z2の前記第1の1の請求は理由がない。
(3)本件条例7条3項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよ
との命令(本件撤去命令1)について
ア本件条例7条3項は,河内長野市長は,土砂等の埋立て等に土壌環境基
準に適合しない土砂等が使用されていることを確認したときは,当該土砂
等の埋立て等を行った者に対し,当該土砂等の埋立て等に使用された土砂
等の全部若しくは一部を撤去し,又は当該土砂等の埋立て等による土壌の
汚染を防止するために必要な措置を執るべきことを命ずることができる旨
規定するところ,同項は,土砂等の埋立て等に土壌環境基準に適合しない
土砂等が使用された場合に,当該土砂等の埋立て等を行った者に対し一定
の措置を執るべきことを命ずるか否か,命ずるとしていかなる措置を命ず
るかの判断を,河内長野市長の合理的な裁量に委ねたものと解される。
イ本件において,上記裁量権の範囲からの逸脱やその濫用があったかにつ
いてみると,前記認定事実(1)カ(イ),(ウ)のとおり,メイビが本件事業に
使用される土砂等の採取場所とすることの変更の許可(前記1(1)エ(イ)
b)を受けた堺市α×-○及び同市β×番○号の各土地から,基準値を超
える六価クロム,フッ素及び鉛が検出されたものの,両土地において,当
該六価クロム,フッ素及び鉛を含む土壌の掘削除去等の措置が採られてお
り,本件事業区域において実施された土壌調査によっても,本件事業区域
から,基準値を超える六価クロム,フッ素,鉛等の有害物質は検出されて
いない。
これに対し,原告らは,メイビが,本件事業区域に,六価クロム,フッ
素,鉛等が混入した土砂等を埋め立てた旨主張する。そして,いずれも原
告会社の従業員である証人Z4,Z5及び原告Z1は,報告書(甲17~
19)や証人尋問において,本件事業区域に六価クロムが混入し異常に黄
色を帯びた土砂が搬入された旨陳述,証言し,また,証人Z4は,陳述書
(甲67)において,本件事業区域に鉛を含む土砂等が埋め立てられたと
考えるべきである旨陳述する。
しかし,証人Z4,上記Z5及び原告Z1が陳述,証言するように,上
記堺市αの土地から搬出された土砂等が本件事業区域に埋め立てられたと
しても,前記認定事実(1)カ(イ)のとおり,同土地において六価クロム化合
物等が検出されたのは11区画のうち合計3区画であって,当該3区画以
外の区画から採取された土砂等が本件事業区域に埋め立てられた可能性も
否定できないし,Z4の陳述書(甲17)添付の資料2,3の写真に写っ
ている土砂等の色のみから,直ちに当該土砂等に六価クロム化合物等が含
まれているとまでは断じ難く,さらに,前記(2)イ(イ)のとおり,原告会社
とメイビとの間には土地境界や競業をめぐる利害対立があった疑いも否定
することができず,原告会社の従業員である上記3名の陳述・証言内容の
採否に当たってはより慎重に判断する必要があるのであって,他に客観的
な裏付け証拠のない本件においては,上記陳述・証言は直ちに採用するこ
とができないものといわざるを得ない。
また,同様に上記堺市βの土地から搬出された土砂等が本件事業区域に
埋め立てられたとしても,前記認定事実(1)カ(ウ)のとおり,同土地におい
て鉛化合物等が検出されたのは同土地の一部であって,その他の部分から
採取された土砂等が本件事業区域に埋め立てられた可能性も否定できず,
他に客観的な裏付け証拠のない本件においては,証人Z4の陳述内容は直
ちに採用することができないものといわざるを得ない。
その他,メイビが,本件事業区域に,基準値以上の六価クロム,フッ素,
鉛等が混入した土砂等を埋め立てたことを認めるに足りる証拠はないから,
原告らの前記主張は採用することができない。
ウ以上のとおり,メイビが,本件事業区域に,六価クロム,フッ素,鉛等
が混入した土砂等を埋め立てたことを認めることはできず,河内長野市長
が,メイビに対し,本件事業について,本件条例7条3項に基づく特定事
業に使用された土砂等の全部を撤去せよとの命令(本件撤去命令1)をし
ないことがその裁量権の範囲を超え又はその濫用となるとは認められない
から,原告Z2の前記第1の3の請求は理由がない。
(4)本件条例23条2項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよ
との命令(本件撤去命令2)について
ア本件条例23条2項は,河内長野市長は,本件条例9条又は13条1項
の規定に違反して特定事業を行った者に対し,当該特定事業に使用された
土砂等の全部又は一部を撤去し,又は土砂等の崩落,飛散若しくは流出に
よる災害の発生を防止するために必要な措置を執るべきことを命ずること
ができる旨規定するところ,本件条例23条2項は,本件条例9条又は1
3条1項の規定に違反して特定事業が行われた場合に,当該特定事業を行
った者に対し一定の措置を執るべきことを命ずるか否か,命ずるとしてい
かなる措置を命ずるかの判断を,河内長野市長の合理的な裁量に委ねたも
のと解される。
イ(ア)本件において,上記裁量権の範囲からの逸脱やその濫用があったか
についてみるに,原告らは,メイビの違反行為として,メイビは,本件
許可の申請書に採取場所として記載されておらず,採取場所とする旨の
変更の許可も受けていなかった場所から土砂等を採取し,本件事業区域
に搬入した旨主張する。
(イ)そして,原告らは,平成26年6月3日における堺市θからの搬入
について,証拠として,その搬入履歴を記載した原告会社作成の書面(甲
44)を提出するが,それ以外には,搬出搬入状況等を撮影した写真等
の客観的資料の提出はなく,前記(2)イ(イ)のとおり原告会社とメイビ
との間には土地境界や競業をめぐる利害対立があった疑いも否定するこ
とができないことからすれば,上記書面の内容を直ちに採用することは
できず,その他,メイビが上記搬入をしたとの事実を認めるに足りる証
拠はない。
また,原告らは,平成25年2月5日における堺市γからの搬入につ
いて,その搬入履歴を記載したZ4作成の書面及びその添付写真(搬出・
搬入状況を撮影したもの。以下の各書面の添付写真も,同様に搬出・搬
入状況を撮影したものである。)等(甲32,66の1。なお,Z4は,
甲32の1頁目左上の「ν」との記載が「γ」の誤記である旨証言する。)
を,同年3月5日における富田林市εからの搬入について,その搬入履
歴を記載したZ4作成の書面及びその添付写真(甲34)を,平成26
年6月13日における堺市δからの搬入について,その搬入履歴を記載
した原告会社作成の書面(甲45)並びに同様のZ4作成の書面及びそ
の添付写真等(甲66の4)を,それぞれ証拠として提出するが,上記
各添付写真によっては,撮影された運送車両が土砂等を積み込んだ場所
が上記の各場所であることは明らかではなく,上記各添付写真以外に上
記各書面は客観的裏付けを欠くから,上記各書面等はいずれも直ちに採
用することはできない。その他,メイビが上記各搬入をしたとの事実を
認めるに足りる証拠はない。
(ウ)a他方,原告らは,平成25年2月12日における堺市δからの搬
入について,その搬入履歴を記載したZ4作成の書面及びその添付写
真(甲33)を,平成26年5月19日における東大阪市ηからの搬
入について,その搬入履歴を記載した原告会社作成の書面(甲43)
並びに同様のZ4作成の書面及びその添付写真等(甲66の3)を,
同年6月16日における同市λからの搬入について,その搬入履歴を
記載した原告会社作成の書面(甲46)並びに同様のZ4作成の書面
及びその添付写真等(甲66の5)を,それぞれ証拠として提出する。
上記各添付写真のうち,甲第33号証の平成25年2月12日午後
2時30分を撮影時間とする写真には,「堺市δ地内」を区間とする
下水道工事の標識が,甲第66号証の3の平成26年5月19日午前
10時13分を撮影時間とする写真には,「η×」との地番表示板が,
甲第66号証の5の同年6月16日午後2時34分を撮影時間とする
写真には,「Z6新築工事」との工事標識が,それぞれ撮影されてい
る。そして,その他の写真と照らし合わせれば,上記各書面のうちこ
れら写真の撮影内容と合致する部分は採用することができ(その他の
部分は客観的裏付けを欠き直ちには採用することができない。),平成
25年2月12日午後2時31分頃に上記δの土地において積み込ま
れた土砂等が同日午後3時39分頃に,平成26年5月19日午前1
0時13分頃に上記ηの土地において積み込まれた土砂等が同日午前
11時11分頃に,同年6月16日午後2時34分頃に上記λの土地
において積み込まれた土砂等が同日午後3時34分頃に,それぞれ本
件事業区域に搬入された事実を認めることができる。
なお,被告は,上記各搬入のうち平成25年2月12日の搬入は,
メイビが採取場所とすることについて許可を受けた羽曳野市の株式会
社から購入した改良土を搬入したものである旨主張し,証人Z3は,
証人尋問や陳述書(乙26)においてその旨証言,陳述するが,客観
的裏付けを欠き,上記証言・陳述を直ちに採用することはできず,他
に上記主張を認めるに足りる証拠はない。
b原告らは,平成26年4月12日及び同月14日における堺市ζの
土地からの搬入について,証拠として,その搬入履歴を記載した原告
会社作成の書面(甲42)並びに同様のZ4作成の書面及びその添付
写真等(甲66の2)を提出する。これに対し,被告は,本件事業区
域への土砂等の搬入を請け負っていた木下建設株式会社(以下「木下
建設」という。)は,上記ζの土地から搬出した土砂等を,堺市θの
土地に一時仮置きし,同土地において,メイビが許可を受けていた場
所から採取された土砂等を積み込んだ上で,本件事業区域に搬入した
旨主張する。
上記添付写真のうち平成26年4月12日午後1時15分及び同日
午後1時17分を撮影時間とする各写真には,車両番号○の運送車両
(以下「本件車両」という。)に土砂等が積み込まれていることが撮
影されているところ,上記各写真に撮影された土地の広さ・形状,当
該各写真に添付されたζの地図において斜線で示された土地の広さ・
形状,同日午後1時53分付け写真2通に撮影された運送車両の色・
形状,同車両に積み込まれている土砂等の色・量,本件車両の色・形
状,本件車両に積み込まれた土砂等の色・量に加え,上記のとおり被
告も木下建設の車両が上記ζの土地や本件事業区域において土砂等の
搬出・搬入を行っていた事実自体は否定しないことに照らせば,本件
車両が,同日午後1時15分頃,上記ζの土地において土砂等を積み
込み,約38分後の同日午後1時53分頃,本件事業区域に土砂等を
搬入した事実が認められる。そして,証拠(甲67)及び弁論の全趣
旨によれば,上記ζの土地から本件事業区域まで自動車で移動するに
は約30分を要することが認められ,他方,本件車両が,約38分以
内に,上記ζの土地から被告が主張する上記θの土地に立ち寄った上
で本件事業区域に移動することが可能であったことを認めるに足りる
証拠はない。
以上に照らせば,原告らが証拠として提出する原告会社及びZ4が
作成した上記各書面のうち上記各写真の撮影内容と合致する部分は採
用することができ(その他の部分は客観的裏付けを欠き直ちには採用
することができない。),本件車両は,同日午後1時15分頃,上記ζ
の土地において土砂等を積み込み,同土地から搬出した上で,同日午
後1時53分頃,当該土砂等を本件事業区域に搬入した事実が認めら
れる。
なお,証人Z3は,運送車両が上記ζの土地から上記θの土地に立
ち寄った上で土砂等を積み替え,本件事業区域に移動した場合,上記
ζの土地から本件事業区域までの移動に約45分を要するとの原告ら
代理人の指摘に対し,「逆ルート」も考えられるなどと述べ,上記θの
土地から本件事業区域に移動し,その後に別の現場に移動することも
考えられる旨証言するが,上記ζの土地から本件事業区域に向かう経
路について説明するものではなく,当該証言は上記認定を左右するも
のではない。
ウ前記イ(ウ)a,bのとおり,本件事業区域には,平成25年2月12日,
平成26年4月12日,同年5月19日及び同年6月16日において,そ
れぞれ堺市δ,同市ζ,東大阪市η及び同市λの土地から搬出された土砂
等が搬入されたことがあったところ,これら土砂等は,他に特段の反証も
ない本件においては,搬出元の上記各土地において採取されたものと推認
される。そして,証拠(甲51)及び弁論の全趣旨によれば,メイビは,
上記各土地を土砂等の採取場所とする旨の許可を受けていなかったことが
認められる。
しかし,メイビが,上記各土地から採取した土砂等を無許可で本件事業
区域に搬入していたとしても,当該土砂等の量・種類等は明らかではない
し,前記(2)のとおり,本件事業区域において土砂等の崩落等の災害が発生
するおそれが生じているとはいえず,また,前記(3)のとおり,土壌環境基
準に適合しない土砂等が埋め立てられたことを認めることはできないから,
河内長野市長が本件条例23条2項に基づき特定事業に使用された土砂等
の全部を撤去せよとの命令をすべき必要性があるとは直ちに認め難く,河
内長野市長が当該命令をしないことが不合理であるとはいえない。
したがって,河内長野市長が,メイビに対し,本件事業について,本件
条例23条2項に基づく特定事業に使用された土砂等の全部を撤去せよと
の命令(本件撤去命令2)をしないことがその裁量権の範囲を超え若しく
はその濫用となるとは認められないから,原告Z2の前記第1の4の請求
は理由がない。
7結論
以上のとおり,原告会社及び原告Z1の訴え並びに原告Z2原告Z2の訴え
のうち土砂等を移動,撤去等する旨の指示及び指導の義務付けを求める部分は,
不適法であるからこれらを却下し,原告のその余の請求は,いずれも理由がな
いからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官西田隆裕
裁判官山崎雄大
裁判官吉川慶

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