弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役三年六月に処する。
未決勾留日数中六〇〇日を右刑に算入する。
訴訟費用は、別紙のとおり、被告人の負担とする。
理由
(本件犯行の背景等)
一 被告人の経歴等
  被告人は、滋賀県高島郡で出生し、京都市内の小、中、高校を経て、昭和三二
年三月大学を卒業し、昭和三四年にA公団に採用され、昭和六二年九月末には同公
団を退職して、関連会社などで勤務し、平成元年八月、同公団が発売するハイウェ
イカードを同公団から委託を受けて販売することなどを目的とする同公団の関連会
社であるB株式会社(以下、「B」ともいう。)に常任参与として入社した。被告
人は、平成三年六月のBU支店(以下、「U支店」ともいう。)の開設と同時に支
店長に就任し、その後、平成六年六月にBの取締役となり、同年八月一日にU支店
がVに移転してBV支店(以下、「V支店」ともいう。)と名称が変わった後も、
引き続き、V支店長を勤めていた。
二 C株式会社との取引
 1 被告人がU支店長をしていた平成三年一〇月ころ、C株式会社(以下、
「C」という。)の嘱託社員であり、同社のツーリスト事業部長の肩書を持つ分離
前相被告人DがU支店を訪れ、「Cのツーリスト事業部では旅行の取り扱いをして
います。Cは、神戸でベルトコンベアベルトなどを製造している一部上場のE株式
会社の一〇〇パーセント出資の子会社です。親会社のE本社やその関連会社を含め
て取引先の社員にハイウェイカードを販売していきたいんです。」と申出をしてき
て、ハイウェイカードの取引について説明を聞きにきた。そこで、被告人はDに対
し、ハイウェイカードについて、現金で支払わなくてもよく、割引も付いているの
で、大変便利なカードであるが、未だ市場性がなく、商品としてあまり売れていな
いが、販売を拡大しようとU支店ができたのであると、熱心に売り込み、また、取
引代金の支払方法として、現金と引換えでハイウェイカードを支給する前払い方式
の契約(以下、「前払い契約」という。)と毎月二〇日締めで翌月七日払いの後払
い方式の契約(以下、「後払い契約」という。)の二種類がある旨の説明をした。
Dは、当時、多額の借金を抱えており、また自ら経営するF株式会社の事業資金も
ひっ迫していたため、後払い契約の方法によるハイウェイカードの取引によって資
金を手に入れ、借金を返済して事業資金も捻出したいと考えた。すなわち、Bから
大量のハイウェイカードを後払い契約で仕入れて金券ショップ等に販売して金を作
り、これを自らの借金返済や事業資金に充て、その代金は、締め日以降翌月の支払
日までの間に新たに仕入れたハイウェイカードを同様の方法で換金して支払うとい
う、いわゆる自転車操業による資金繰りを行うことを計画し、しかも、Bから仕入
れたハイウェイカードを仕入れ代金よりも安い金額で金券ショップ等へ販売する心
積もりであった。しかし、Dは、CやBには、仕入れたハイウェイカードで自転車
操業を行う積もりであることや直接金券ショップ等に安売りする積もりであること
を秘したまま、契約締結の交渉が進むよう働きかけ、他方、被告人は、ハイウェイ
カードの販売拡張のために取引を望んでいたことから、B本社に対し、Cが一部上
場企業のE株式会社の一〇〇パーセント出資の子会社であるから支払能力に問題は
なく契約を締結したい旨の上申を行い、平成三年一二月一九日、BとCとの間で、
ハイウェイカードの販売委託契約が後払い契約の形で締結された。Dは、契約当日
に四七〇〇万円分のハイウェイカードを仕入れて、直ぐに金券ショップに売り捌
き、以後、Dは、概ね、Bから券面額の約九七パーセントで仕入れたハイウェイカ
ードを、金券ショップ等へ券面額の約九五パーセントで売り捌いて行こうとし、取
引をすればするほど損失が増大する商売をすることになった。Dは、このように、
自転車操業を行いながらハイウェイカードを仕入れ値以下で販売して、取引をすれ
ばするほど損失を増大させ、それを補填するために、さらに取引量を増やして行
き、ハイウェイカードの取引量は、券面額で言えば、契約時の平成三年一二月分は
四七〇〇万円分で始まったが、一年余り経過した後の平成五年二月分は五億六六〇
〇万円分となって五億円を超え、そのまた一年経過した後の平成六年二月分は八億
円分を超えるというように、急激に増大して行った。この間、平成五年に入るころ
から、Dは、BU支店からA公団へのハイウェイカード代金支払日である一〇日こ
ろには間に合うが、後払い契約に定めるU支店への代金支払日の七日には代金の支
払が間に合わないという支払遅延を頻繁に起こすようになったが、被告人は、その
ことをU支店限りにしてB本社には知らせなかった。平成六年三月中旬、U支店の
取引先のGの経営者Hからもたらされた情報により、Cに納品したハイウェイカー
ドが金券ショップに流出していることが判明し、被告人は、Dに調査するよう言っ
たところ、DはIという男がDの販売先から買い取って金券ショップに流出させた
もので、自分は関係ないと報告してきたので、その顛末書を出させたものの、被告
人はDの説明を聞いても、顛末書を読んでも、不合理な内容で、信用していいもの
とは思わなかったが、特にそれ以上の調査を行わなかった。U支店の社員のJやK
が、Cとの取引量の異常な増加、締め日以降の注文の多さ、支払遅延状況、ハイウ
ェイカードの金券ショップへの流出などから、Dが自転車操業をしているのではな
いかと疑うようになり、何度かその懸念を被告人に伝えたが、被告人は「私が責任
者だからいちいち口を出すな。」などと言ってとりあげなかった。
 2 他方、B本社は、Cに対するU支店の取引額が非常に高額になっていたこと
から、後払い契約による代金の回収に不安を持つようになり、平成五年夏ころか
ら、L営業部長が、被告人に対し、取引額に応じた銀行保証ないし親会社のE株式
会社の支払保証の取得を指示するようになり、また、平成六年二月ころ、L部長
は、被告人に対し、Cが銀行保証等を取得できない以上、取引を前払い契約に移行
させるか、さもなくば契約を解除する旨指示するようになった。これを受けて、被
告人は、平成六年五、六月ころから、Dに対し、「本社から、取引額が五億を超え
ているので、・・・銀行保証を取るように言われている。」、「銀行保証の差入れ
が無理なら親会社のEの保証をつけてくれ。そうでないと契約解除か、前払いの現
金取引しかできなくなる。」と強く言うようになり、銀行保証や親会社のE株式会
社の支払保証を得るように求めたが、保証の件はうまく行かなかった。そこで、被
告人はDと相談し、「Cとの取引が膨れていることが問題だ。契約を分割するしか
ない。」ということになり、Cの取引を分割することになり、Dは、いわばその受
け皿とするための会社を探していたところ、知人のMから株式会社N(以下、
「N」ともいう。)の話が持ち込まれた。
三 Nとの取引
 1 被告人は、Cとの取引については、銀行保証も親会社の保証もとれないまま
に、その取引額が膨れ上がっていたことから、NがCの販売先の一部を引き継いで
分割移行してもらいたいと思った。そこで、被告人はDとともにNの事務所に行
き、被告人がN専務のOらに対して、「Dさんは、Cで数年ハイウェイカードの業
務を責任者としてやっておられ、有数の営業成績を収められ、何のトラブルも起こ
したことがない。Cの売上げが徐々にふくらんできて、Bの規定の枠を既にオーバ
ーしているが、Dさんは大手の会社を中心とした顧客を持っておられるので、その
顧客をみすみす全く見ず知らずの業者に持っていかれるのは、もったいないので、
釜本さんのところでされればいかがですか。」という趣旨のことを言って、ハイウ
ェイカードの取引を勧めた。Dは、Nが会社として後払い契約にしてもらえれば、
Cで持っている顧客を分割し、業務は全部責任を持ってする旨説明した。そして、
NはBとの取引に応じることになったが、会社の資産規模が小さく、後払い契約を
するためには、Bで定められた基準を満たしていなかったので、六か月以内に仕入
れ代金相当額の銀行保証を差し出すこと及び仕入れ代金は月三回に分けて支払うこ
とを条件に、平成六年九月一六日、BとNとの間で、後払い契約による販売委託契
約が締結された。そして、株式会社Pの代表取締役としてDとNとの間で、覚書が
交わされ、ハイウェイカードに関する業務は全面的に株式会社Pが委任を受けてそ
の責任で行い、利益は相互の話し合いとする旨の合意がされた。そして、取引が始
まったが、その実態は、DがCの名義を借りて行っていた取引方法を引き継ぐもの
であって、今度はNの名義を借りて行うものであり、Dが、Bへのハイウェイカー
ドの発注内容を決定して、必要なハイウェイカードの種類と枚数をNに連絡し、N
がV支店に正式の発注を行ってハイウェイカードの支給を受け、これをDが受け取
って金券ショップ等に売り捌いて換金し、その金をNの銀行口座に入金し、Nは、
その中から仕入れ代金をBV支店の銀行口座に振り込んで、自社の手数料を取ると
ともにDにも販売手数料を支払うというものであった。
 2 BのNに対するハイウェイカード取引は、取引開始当初の平成六年一〇月分
の販売額は三億四六九三万七八〇〇円であったが、BとCとの取引が減少するにつ
れて、Nとの取引が急激に増加して行き、C名義での取引が終了した後の平成七年
四月分の販売額は一七億九六〇四万八五一二円に上っており、その後、ほぼ毎月二
〇億円を超えていた。そして、Nからは、契約時の条件である銀行保証も差し出さ
れず、月三回の支払が励行されることがないばかりか、翌月七日の支払も支払遅延
をし、V支店からA公団への支払日である翌月一〇日の直前になって、Dがハイウ
ェイカードを金券ショップ等に売り捌いて換金した現金をV支店に持ち込んで支払
をするというような、綱渡り状態が続いていた。平成七年五月二五日に、V支店の
取引先であるGの経営者Hから、V支店に、大量のハイウェイカードが金券ショッ
プに出回っているとの連絡が入り、売りに来た者は、いくらでも用意できる、一〇
日に決済があるので、今度七日にまたお願いできないかと話していたというのであ
り、Q主任が実際に出回っているハイウェイカードのコピーを入手して調査したと
ころ、いずれもNに販売したハイウェイカードで、Nから五つの販売先に販売され
たはずの物であることが判明した。Q主任はBから仕入れたハイウェイカードをD
らが金券ショップに横流ししていると確信し、自転車操業の危険があると記された
報告書を被告人のもとに持参して、被告人がそれなりの対応をしてくれるものと期
待したが、被告人は後で見ておくという感じで、報告書をしまい、反応がなかっ
た。そして、被告人は、このことでDを呼び出し、「このような情報が入っている
けど本当か。契約解除になるぞ。」と言い、Dは調査する旨答えたのみで、その後
の報告はなかったが、被告人もそれ以上の追及はしなかった。そして、Dは、平成
七年五月分のハイウェイカード仕入れ代金二三億七〇九五万六四〇〇円について
は、支払日である翌月の六月七日までにBに対して一円の入金もすることができな
かった。この時点では、被告人は、「Nが、本当に一流企業に販売しているのであ
れば、まず、支払いが遅れるはずはなく、しかも、何か特別の事情があったとして
も、全ての販売先企業について代金を払えないような特別の事情で入金が遅れると
いうこともないはずでした。ですから、このことだけでも、Nが自転車操業をして
いることが明らか」との認識を示さざるを得なくなっており、気が気ではなく、夜
も眠っていられない状態であった。さらにBV支店からA公団への送金日である同
年六月一二日にも全額を工面することができなくて、四億五〇〇〇万円の未払いが
生じ、B本社において、やむなく銀行から借入れをして未払い分をA公団に送金
し、後日、これをNから回収したものの、この支払遅延がB本社の知るところとな
り、B本社は、Nの支払能力について強い危機感を抱くに至った。また、平成七年
六月分の支払についても、七月七日を過ぎても完済されず、七月一〇日のA公団へ
の支払日にも、三億六五八九万九六八一円の支払遅延となり、前月同様、Bが銀行
から借り入れた金をA公団への送金に充てる事態となった。ここに至り、Nの代金
の支払遅延は深刻な事態になっており、B本社は、L部長が被告人と電話で連絡を
取りつつ、直接にNと交渉してハイウェイカード代金の回収を確保する必要を認
め、L部長はR営業第一課長を伴い、七月一四日に、大阪のNの事務所に赴き、V
支店から被告人、J、N側からO専務、M、Pの代表取締役としてDが出席して、
協議が行われて合意が成立した。その合意内容は、B社長の決済を受けたものであ
り、ハイウェイカードの支給額について、七月及び八月は一八億円を限度とし、九
月以降は月額一五億円を限度とするが、支給に当たり七億五〇〇〇万円ずつを上
期、下期に分割して支給すること、七月分及び八月分の代金は各月末までに、九月
以降の代金は上期支給分の代金は当月末に、下期支給分は翌月七日に全額を支払う
こと、右支払が完了しなければ翌月のハイウェイカード販売を行わないことなどを
取り決めたものであり、出席者も了承した。L部長は、同日、V支店の支店長室
で、この内容について、被告人に説明をし、内容どおり行うことを指示した。さら
に、相手のN側には言わないが、B本社の「腹づもり」として、V支店に対し、七
月及び八月のハイウェイカード代金が各月末までに全額支払われなかった場合で
も、翌月七日までは、月末までに支払われた金額を限度としてカードを支給するこ
とを許し、その間に月末までに支払われなかった残額を支払わせて、その後、当月
支給分の残りを支給するものとされ、このこともL部長から被告人へ説明がされ
た。
(罪となるべき事実)
 被告人は、A公団委託に係る代金前払い方式の磁気カードであるハイウェイカー
ドの作成及び販売等を業とするB株式会社の取締役兼V支店長として同支店におけ
る業務全般を統括していたもの、分離前相被告人Dは、スポーツ用品等の製作及び
販売等を業とする株式会社Nから委任を受け、ハイウェイカードの仕入れ、販売等
の業務に従事していたものであるが、被告人は分離前相被告人Dと共謀の上、別表
記載のとおり、平成七年八月三日ころから同年九月六日ころまでの間、前後一二回
にわたり、大阪市中央区本町a丁目b番c号BV支店において、被告人らの利益を
図る目的をもって、被告人において、BがNに対しハイウェイカードを代金後払い
の約定で販売するに当たり、前記のとおり、取引額が巨額に上り、銀行保証も差し
出されず、Nからの代金回収が危ぶまれていたため、その対策をしていたB本社に
対して、オンラインシステムにより販売額等を正確に報告するのはもとより、B本
社から、同年八月は一八億円を、同年九月は半月間で七億五〇〇〇万円を、それぞ
れ越えて販売することや、月末までにその月の代金の完済がなかった場合の翌月当
初には、その月末までに入金された金額を超えて販売することなどを禁止する旨の
指示を受けていたのであるから、販売額等を正確に報告するとともに、右指示を遵
守するなどして代金の回収を確保するための措置を講じ、Bのため忠実にその業務
を遂行すべき任務があるのにこれに背き、B本社に対しオンラインシステムにより
虚偽の販売額等を報告し、また、右指示に違反し、同年七月分の二三億円余りの販
売代金の支払として同月末までの入金額が二億八一五二万五三〇〇円にとどまって
いたにもかかわらず右入金額を超え、あるいは各月に販売を許された右各金額を超
えて、Nに対し、ハイウェイカード合計一八万六七〇〇枚(券面額合計四九億七九
〇〇万円)を代金後払いの約定で合計四八億三九五一万七四〇〇円で販売し、もっ
て、Bに同額相当の損害を加えたものである。
(証拠の標目)
 省略
(弁護人の主張に対する判断)
 弁護人の主張は多岐にわたるが、その主なものについて検討する。
一 犯意がなかった旨の主張について
  弁護人は、被告人がNに対する日々のハイウェイカードの販売額等をそのまま
正しくオンラインシステムに入力せず、B本社が指示した取引制限額を超えるハイ
ウェイカードを、本社の指示に違反して、Nに販売したのは事実であるが、そうし
なければ、Nの代金の支払遅延が発生し、支払遅延が発生すると、BがNとの契約
を解除することになり、ハイウェイカード代金が回収できなくなることが予想され
たので、それを避けるため、ハイウェイカード代金の回収という、より究極的な任
務達成のために、被告人はオンラインシステムへの不正入力を行い、また、本社の
指示に違反する取引を行ったものであって、B本社も、取引を継続しながらハイウ
ェイカード代金を回収していく方針であったのだから、被告人に、①自己の利益を
図る目的はなく、②Bに損害を生じさせるという認識もなく、③任務違背をすると
いう認識もないので、犯意がなかった旨主張し、被告人も公判廷において、右主張
に沿う供述をしているので検討する。
  関係各証拠によれば、次の事実が認められる。
  被告人はNに販売したハイウェイカードが金券ショップに売り捌かれていると
の情報を得ており、後払い契約によるハイウェイカード代金は莫大な額に上り、銀
行保証も差し出されておらず、その代金のV支店への支払遅延が繰り返されている
ことを知悉しており、しかも、平成七年五月分のハイウェイカード代金二三億七〇
九五万六四〇〇円については、支払日である翌月の六月七日までにV支店に対して
一円の入金もなかったことから、被告人は、Nが、本当に一流企業に販売している
のであれば、まず、支払が遅れるはずはなく、しかも、何か特別の事情があったと
しても、全ての販売先企業について代金を払えないような特別の事情で入金が遅れ
るということもないはずであるから、このことだけでも、Nが自転車操業をしてい
ることが明らかであるとの認識を示さざるを得なくなっていた(被告人の検察官調
書・乙一五)。さらにV支店からA公団への送金日である六月一二日にも全額を支
払うことができなくて、四億五〇〇〇万円の未払いが生じ、B本社において、やむ
なく銀行から借入れをして未払い分をA公団に送金したことにより、支払遅延がB
本社の知るところとなり、B本社は、Nの支払能力について強い危機感を抱くに至
った。そして、B本社では、被告人を東京に呼び、平成七年五月分の代金が回収さ
れるまでは新たにハイウェイカードを販売しないよう口頭で指示していたが、被告
人はその指示に従わず、Nにハイウェイカードを支給し、これに気づいたB本社の
S営業課長は、L営業部長と相談して、六月二九日付けの文書で、被告人に対し、
Nへのハイウェイカード支給に際しては、当分の間営業課長の承認を得て行うこと
を指示し、また、七月上旬、B本社のT社長やL部長から、被告人に対し、Nへの
ハイウェイカード販売額を月額一五億円程度にとどめるよう指示がなされた。しか
し、平成七年六月分の支払についても、七月七日を過ぎても完済されず、七月一〇
日のA公団への支払日にも、三億六五八九万九六八一円の支払遅延となり、前月同
様、Bが銀行から借り入れた金をA公団への送金に充てる事態となった。ここに至
り、B本社は、直接にNと交渉してハイウェイカード代金の回収を確保する必要を
認め、Nの事務所において、V支店から被告人、J主任、N側からD、M、O専
務、B本社からL部長らが出席して、協議がなされて合意が成立し、L部長は、前
判示のとおり、B本社として、Nに対するハイウェイカード支給制限の指示を被告
人に出した。被告人は、平成七年七月中にNに支給したハイウェイカードのうち約
五億円分について、B本社の指示する一八億円の制限枠を超えていたため、オンラ
インシステムに入力・計上することができずにいたので、D、Mに対し、「本社に
報告できないものが五億円あるんだ。その支払いをしてくれ。」と請求するとM
は、Dに対し、「支店長(被告人のこと)が背任になるぞ。早く代金を回収して支
払え。」と何度も言っており、被告人も支払をしてもらえなければ背任になって大
変なことになると思っていた。
  公判廷において、L部長は、実際にハイウェイカードを支給していながら、オ
ンラインシステムに入力しない被告人の行為は、背信行為以外の何ものでもなく、
真実をB本社が知っていたら、契約そのものは破棄して、取引を中止していたと思
うと供述し、T社長も、被告人がオンラインシステムに入力してきた不正なデータ
が正しいとの前提のもとにNに対する対処を考えていたのであり、データが正しけ
れば対処の仕方も異なっていた可能性があり、被告人に裏切られたという感を強く
していると供述している。
  右事実によれば、被告人は、被告人の受けたB本社からの指示が、Nの後払い
契約によるハイウェイカード代金が莫大な額に上り、銀行保証もなく、また、代金
の支払遅延が繰り返される状況にかんがみて、B本社がNの代金支払能力に危機感
を抱き、代金が回収できなくなり、損害が生じるおそれがあることから出されたハ
イウェイカードの支給制限の指示であることを知悉していること、被告人は本社の
指示を受けた際に究極的な任務達成のため指示には従えない旨の意見の表明などは
していないこと、指示に反した取引をB本社に隠すためにオンラインシステムへの
不正入力を行っており、B本社に真相を隠すという背信行為を行っていたこと、被
告人は、平成七年五月分のハイウェイカード代金が支払日である翌月の六月七日ま
でに一円の入金もなかったことから、自転車操業をしていることが明らかであると
の認識を示していること、B本社の制限枠を超えた五億円分について自己が背任に
なる旨の認識を有していたことが認められ、また、Nに対する後払い契約によるハ
イウェイカードの取引は、被告人の主導のもとV支店が担当していたのであり、巨
額の販売代金が回収できなくなることが明るみに出れば、取締役兼V支店長である
被告人は背信行為や未回収の責任の追及を受け、その地位を失い、あるいは降格等
の身分上の不利益を受けることになりかねない状況にあったものというべきであ
り、右各事情を総合勘案すれば、被告人はその地位を失うことをおそれ、自己保身
を図るために、本件指示違反、不正入力を行って任務に背き、また、指示違反をす
ることによりBに損害を加えるという認識があったものと認めるのが相当である。
被告人がその内心において取引継続により代金回収を図る意図を有して指示に違反
したとしても、それは現実的可能性に乏しい単なる期待ないし願望に過ぎないもの
というべきであって、被告人が、破綻が明らかになるのを先延ばしするために本件
行為に及んだことは否定できないというべきである。
二 Dとの共謀の不存在の主張について
  弁護人は、被告人はDに騙されてハイウェイカードを販売していたもので、D
がハイウェイカードを金券ショップに売って、その代金を自転車操業で支払ってい
たことを知らなかったのであるから、Dとの間で特別背任罪について共謀した事実
はない旨主張する。
  しかし、被告人がDの自転車操業を知っていたことは、前記一で認定したとお
りであるので、本件の具体的な共謀について、検討する。
  関係各証拠によれば、次の事実が認められる。
 1 被告人は、平成七年七月中に、Nに販売したハイウェイカードのうち約五億
円分について、B本社の指示する一八億円の制限枠を超えていたため、オンライン
システムに入力・計上することができずにいたので、Dらに「本社に報告できない
ものが五億円あるんだ。その支払いをしてくれ。」と言っており、MもDに「支店
長(被告人のこと)が背任になるぞ。早く代金を回収して支払え。」と何度も言っ
ていた。七月一八日に六月分の支払遅延分三億六五八九万九六八一円の支払が終わ
った後、被告人は、七月分のハイウェイカード代金の支払についてDと協議をして
いたが、七月下旬になっても、七月分の代金として入金されたのは、請求額二三億
円余りに対し、二億八一五二万五三〇〇円であった。七月三〇日に、Dの要請で、
被告人は京都ホテルでDと会って七月分の支払について話し合ったが、Dは、「三
一日までに代金全額の支払いは無理だ。一三億円のカードを出して欲しい。一三億
円のカードを出してくれたら七月分は清算できる。」と言ってきた。しかし、被告
人は、月末までにその月の代金の完済がなかった場合の翌月当初には、その月末ま
でに入金された金額を超えて販売することなどを禁止する旨のB本社の指示を受け
ていたので、一三億円分のハイウェイカードの交付要求に応じられないところ、
「この土壇場になって一三億円などという高額のハイウェイカードを出せば、Dは
金券ショップにハイウェイカードを転売したこともある男だから、その一三億円の
ハイウェイカードを金券ショップなどで換金する。」と思ったので、このDの交付
要求を断ったが、二億一〇〇〇万円分の販売には応じ、この分は七月末日までの入
金額に見合う分として、八月一日に販売された。
 2 しかし、七月分の代金二三億円余り全額をA公団への支払日八月一〇日まで
に支払わなければならなかったので、八月三日、Dは、V支店に被告人を訪れ、居
合わせたMらとともに、V支店の向かいにあるホテルWの喫茶室に場所を移して、
ハイウェイカードの支給について、被告人と話し合った。Dは、「代金の支払いは
不可能になった。万事休すという形で取引はやめたい」と発言し、Mも、未払い分
はDに責任を持たせて払わすが、ここで取引は中止するという話も持ち出したが、
被告人は、「それでは困る。」、「どうしても継続して行く。」などと言い、最終
的に、B本社の指示によれば、ハイウェイカードを販売することができないのに、
販売することを決断し、B本社の制限枠の指示を知悉しているDもこれに応じるこ
とになり、その日のうちにV支店で合計一五億九四〇〇万円分のハイカを販売し
て、Dに手渡し、Dらはそれを金券ショップ関係者に売り捌いて、小切手や現金の
支払を受け、それを、Dの取引先から支払があったものとして、V支店の方に支払
った。その日のうちにV支店に七月分の代金の一部として九億九七五〇万円のハイ
ウェイカード代金が支払われた。それ以降、八月三日から九月六日までの間に、被
告人は、B本社の指示に違反して、判示のとおり、ハイウェイカードを合計四八億
三九五一万七四〇〇円でNに販売して、Bに同額相当の損害を与え、最終未収額と
して約二六億九四六三万円余りの代金が回収できなくなった。被告人は、B本社に
ハイウェイカード支給についての指示違反を行っていることが発覚しないように、
Q主任に指示して、オンラインシステムに実際の取引をそのまま入力せず、ハイウ
ェイカード支給を入力しなかったり、入力してもその金額を納品額よりも少なくし
たり、入金がされた日に、ハイウェイカード支給をしていないのにカード支給した
旨の入力をして、現金払いの取引をしたように仮装するなどしていた。
  以上の事実によれば、平成七年七月三〇日に、被告人は京都ホテルでDと会っ
て七月分の支払について話し合った際、Dが、七月三一日までに代金全額の支払は
無理であり、一三億円のハイウェイカードを出してくれたら七月分の代金は支払え
る旨のことを言ったのに対し、被告人は、一三億円分のハイウェイカードの交付要
求を一旦は断ったが、しかし、七月分の代金として二三億円余り全額をA公団への
支払日八月一〇日までにV支店に入金しなければならなかったので、八月三日、D
と話し合って、最終的には、七月分の代金支払のためにハイウェイカードを販売す
ることを決断し、その日のうちにV支店で合計一五億九四〇〇万円分のハイウェイ
カードが支給され、Dはこれらハイウェイカードを売り捌いて金を作り、七月分の
ハイウェイカード代金の一部として九億九七五〇万円がV支店に支払われことが認
められ、右事実によれば、被告人は、Dと共謀の上、Nのハイウェイカード代金支
払のために、B本社の指示に違反して、ハイウェイカードを支給することを決断し
たものと認めるのが相当であり、Dに騙されてハイウェイカードを支給したもので
はないというべきである。
(法令の適用)
 省略
(量刑の事情)
 本件は、Bの取締役兼V支店長であった被告人が、Nからハイウェイカードに関
する業務の全面的な委任を受けていたDと共謀して、BがNに対しハイウェイカー
ドを後払い契約で販売するに当たり、ハイウェイカード代金の回収が危ぶまれてい
たため、本社からハイウェイカードの販売を制限するように指示されていたのに、
その指示に違反して、大量のハイウェイカードをNに販売し、その結果、代金回収
ができなくなって、Bに対し巨額の損失を与えたという特別背任の事案である。
 被告人は、Dが後払い契約の方法によるハイウェイカードの取引に目を付け、B
から大量のハイウェイカードを後払い契約で仕入れて金券ショップ等に販売して金
を作り、これを自らの借金返済や事業資金等に充て、その仕入れ代金は、締め日以
降翌月の支払日までの間に新たに仕入れたハイウェイカードをさらに金券ショップ
等で換金して金を作って支払うという、自転車操業による資金繰りを行い、しか
も、Bからのハイウェイカードの仕入れ金額よりも安い金額で金券ショップ等で販
売するので、ハイウェイカード取引を行えば行うほど損失は増大し、それを糊塗す
るために益々取引量を増大して行ったのに、当初はDの自転車操業に気づかず、か
えって取引量の増大を業績を上げているものと喜んでいたのであるが、Dが金券シ
ョップ等へ販売しているとの情報、度重なる代金の支払遅延などから、自転車操業
に気づくころには、取引量は巨額に上っており、ハイウェイカードの販売を中止す
ることは、代金が回収できなくなり、Bが巨額の損失を被ったことが明るみに出る
ことであって、自己の責任を免れ得ない状況になっていたため、その地位を失うこ
とをおそれて、本件犯行に及んだものである。被告人は、DとはCの取引の時から
本件のNの取引まで足かけ五年の付き合いであり、Cの取引の時から、Dは支払遅
延を繰り返しており、また、納品したハイウェイカードが金券ショップに流出して
いることが判明し、さらに部下の社員から取引量の異常な増加、締め日以降の注文
の多さ、支払遅延状況、ハイウェイカードの金券ショップへの流出などから、Dが
ハイウェイカードを金券ショップに売り捌いたり、Dが自転車操業をしているので
はないかとの懸念が表明されていたのであるから、Dが自転車操業をしていること
は容易に気づいたと思われるのに、部下の表明する懸念に対し、真剣に調査もせず
に認めようとしなかったため、自転車操業に気づくのが遅れたのであって、この点
の被告人の責任は軽く見ることはできず、しかも、本件は、本社が危機感を持ち、
本社からハイウェイカードの販売を制限するように明確に指示され、被告人はその
時点では既にDの自転車操業に気づいていたのに、これに違反してハイウェイカー
ドを販売したため、損害額を益々増大させたのであり、また、犯行を隠すため、オ
ンラインシステムへの虚偽入力を部下に指示して行わせており、損害額も最終未収
額で約二六億九四六三万円余りもの巨額であること、公判廷において種々の弁解を
し、いたずらに他を責めて真摯な反省をしているとは思われないことなどにかんが
みると、犯情は良くなく、その刑事責任は重いと言わなければならない。
 したがって、被告人は当初はDがハイウェイカードを金券ショップ等に売り捌い
て自転車操業をしているのに気づいておらず、気づいたときには巨額の取引量にな
っており、Dに起因する本件犯行に巻き込まれた面があり、また、本件犯行による
金銭的利得を得たことはなく、本件までは真面目に勤め上げており、これまで前科
もないことなど、被告人のために酌むべき諸事情を考慮しても、主文掲記の刑に処
するを相当と判断する。
 よって、主文のとおり判決する。
平成一三年九月六日
東京地方裁判所刑事第一二部
 裁判長裁判官  小   倉   正   三
   裁判官  森   本   加   奈
   裁判官  野   澤   晃   一・
別 紙    訴 訟 費 用 負 担 表
省略
別表
省略

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