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平成12年(行ケ)第124号審決取消請求事件(平成12年7月17日口頭弁論
終結)
          判     決
     原      告   三重重工株式会社
     代表者代表取締役   【A】
     訴訟代理人弁護士   林   光 佑
     同          堀   龍 之
     同          永 谷 和 之
     同          青 木 恭 美
同弁理士【B】
     同          【C】
     同          【D】
     被      告   石田鉄工株式会社
     代表者代表取締役   【E】
     訴訟代理人弁護士   植 村 元 雄
     同    弁理士   【F】
     同          【G】
          主     文
      原告の請求を棄却する。
      訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
 1 原告
   特許庁が、平成11年審判第35513号事件について、平成12年3月1
日にした審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、意匠に係る物品を「溝蓋用格子材」とし、その形態を別添審決書写
し別紙第一記載のとおりとする登録第1049525号意匠(平成10年4月8日
登録出願、平成11年6月11日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権
者である。
   被告は、平成11年9月20日、原告を被請求人として、本件意匠につき無
効審判の請求をした。
   特許庁は、同請求を平成11年審判第35513号事件として審理したう
え、平成12年3月1日に「登録第1049525号意匠の登録を無効とする。」
との審決をし、その写しは同月21日、原告に送達された。
 2 審決の理由の要点
   審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件意匠が、平成4年12月10日
に日本国内において頒布された刊行物である第854857号意匠公報に記載され
た、意匠に係る物品を「溝ぶた用格子材」とし、その形態を別添審決書写し別紙第
二記載のとおりとする意匠(審決表示の「無効事由2の意匠」、以下「引用意匠」
という。)と意匠に係る物品が一致し、形態においても類似するものであるから、
意匠法3条1項3号の規定に違背して登録されたものであって、その登録は無効と
すべきものであるとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 1 審決の理由中、本件意匠及び引用意匠に係る各「意匠に係る物品」、「全体
の基本的構成態様」及び「各部の具体的な構成態様」についての認定(審決書4頁
22~37行、5頁12~26行)、本件意匠と引用意匠の意匠に係る物品が一致
するとの認定並びに本件意匠と引用意匠との形態における共通点及び差異点の認定
(同5頁28行~6頁7行)は認める。
   審決は、引用意匠の公知性を看過して、本件意匠と引用意匠の形態における
共通点及び差異点についての評価判断を誤った結果、本件意匠と引用意匠とが形態
において類似するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消され
なければならない。
 2 取消事由
  (1) 審決は、本件意匠と引用意匠の形態における共通点及び差異点についての
判断に当たって、両意匠の全体の基本的構成態様において共通する「長手方向に連
続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を
斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部
に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」(審決書5頁3
1~34行)点が、この種の溝蓋用格子材の意匠では、引用意匠の出願前には存在
しなかった新規な態様であって、引用意匠のみに見られる格別の特徴を現わし、形
態全体の基調を決定付けるところであると認定した(同6頁9~15行)。
    そして、審決は、上記認定を前提として、当該共通する基本的構成態様
が、両意匠の類否判断を左右する支配的要素をなすところであり、各部の具体的な
構成態様に見られる共通点、すなわち、「板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設
け、両溝片は厚みを上方に向けて漸次薄めに形成し、上端面を細幅の平坦面に形成
した」(同5頁35~36行)点と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹起させ
ると判断し(同6頁15~18行)、他方、各部の具体的構成態様における差異点
については、差異点a、すなわち、「板片部について、本件登録意匠(注、本件意
匠)は、上端部分にのみ肉厚部分を形成しているのに対し、無効事由2の意匠
(注、引用意匠)は、上端部分および下端部分の双方にそれぞれ肉厚部分を形成し
ている点」(同5頁38行~6頁2行)は、そのいずれもが引用意匠の出願前より
極めて普通に知られた態様であって、この点が両意匠の格別の特徴をなすところと
はいえず、類否判断に大きな影響を及ぼすものではないとし、差異点b、すなわ
ち、「溝片について、本件登録意匠は、両溝片の上端寄りの部位から上方を急傾斜
に折曲し、内壁面の上端部分を小さく略三角形状に切り欠いているのに対し、無効
事由2の意匠は、両溝片の上端の前後に小さな鍔片を水平に突設している点」(同
6頁2~5行)、及び差異点c、すなわち、「側面視した溝の形状について、本件
登録意匠は、扁平な略五角形状であるのに対し、無効事由2の意匠は、扁平な略三
角形状である点」(同頁5~7行)は、上記の新規で特徴的な全体の基本的構成態
様の共通点に包摂される程度のもので、使用態様が殆ど同様の態様をなすことを考
慮すると、類否判断に与える影響は微弱なものと判断した(同6頁19行~7頁2
行)ものである。
  (2) しかしながら、「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に
連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字
状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長
の略Y字状に形成した」溝蓋用格子材の意匠は、昭和35年9月30日特許庁受入
れの米国特許第2941455号公報(甲第5号証、以下「公知例1」という。)
及び昭和36年3月10日特許庁受入れの米国特許第2960919号公報(甲第
6号証、以下「公知例2」という。)の各図面に示されており、古くから公知のも
のであって、審決が認定するような引用意匠の出願前には存在しなかった新規な態
様ではない。
    被告は、公知例1、2に、グレーチング(溝蓋)に係る「溝蓋用格子材」
という部品(単独で取引の対象となる物品)の意匠が示されているということはで
きないと主張するが、公知例1に、その図4、5につき、「図1で示したグレーチ
ングの、ベアラーバー、クロスバーそれぞれの拡大横断面図である。」(甲第5号
証訳文1頁27~28行)と記載されているところ、該ベアラーバー(ベアリング
バー)は、溝蓋用格子材であって、独立の取引の対象となるものである。
    したがって、該態様が、引用意匠のみに見られる格別の特徴を現わし、形
態全体の基調を決定付けるところであるとした審決の認定は誤りである。そうする
と、審決が、かかる認定を前提として、本件意匠及び引用意匠の形態における共通
点、差異点につき、当該基本的構成態様における共通点が、両意匠の類否判断を左
右する支配的要素をなすところであり、各部の具体的な構成態様に見られる共通点
と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹起させるとし、各差異点、特に、差異点
b、cが、新規で特徴的な全体の基本的構成態様の共通点に包摂される程度のもの
で、類否判断に与える影響は微弱なものであるとした判断も誤りであることが明ら
かである。
  (3) そして、上記共通する基本的構成態様に新規性がなければ、差異点b、c
により、本件意匠及び引用意匠が別異な印象を与えるものであることは明らかであ
る。すなわち、本件意匠は、上部の溝片が二股状に広く開いたうえ、上端で内に閉
じ、全体がダリアの花のような重厚な美観的印象を与えるのに対し、引用意匠は、
上部の溝片部が内側に絞り込むようにして立ち上がり、上端部を外に開く百合の花
のようなほっそりとした印象を与えるものである。
    被告は、両意匠の各部の具体的構成態様における共通点が、外観観察の中
心となる部分で、取引者、需要者の注意を強く惹き、両意匠の類似性に極めて大き
い影響を与えるものであるのに対し、差異点b、cが、側面形状を縦長のY字状に
形成した基本的構成態様における部分的、かつ、軽微な差異にすぎず、いずれも類
否判断に与える影響は微弱なものであるから、両意匠の全体の基本的構成態様にお
ける共通点が新規な態様ではないとしても、両意匠の形態が類似するとした審決の
判断に誤りはないと主張する。
    しかしながら、各部の具体的構成態様における共通点は、いずれも一般
的、かつ、技術上自然な形態であって、美感を生じるような特徴的なものではな
い。これに対し、差異点b、cが、軽微な差異であるとされたのは、新規で特徴的
な全体の基本的構成態様の共通点に包摂されるとの理由によるものであって、基本
的構成態様に新規性がなければ、重要な差異となり得るものである。
第4 被告の反論の要点
 1 審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
 2 取消事由について
  (1) 原告は、本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様において共通する
「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状
体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、
形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」
点が、公知例1、2の各図面に示されているから、引用意匠の出願前には存在しな
かった新規な態様ではないと主張するが、それは誤りである。
    すなわち、公知例1は、名称を「COMPOSITEGRATINGSTRUCTURE」とする発
明に係る米国特許公報、公知例2は、名称を「GRATINGANDMETHODOFMAKING
SAME」とする発明に係る米国特許公報であるが、これらの公報の各図面に、グレー
チング(溝蓋)に係る「溝蓋用格子材」という部品(単独で取引の対象となる物
品)の意匠が示されているということはできず、単に、グレーチングという物品に
おける格子材の部分の形態が示されている図面があるにすぎない。そして、審決
が、新規な態様であると認定したのが、「溝蓋用格子材」という物品の意匠につい
てであって、グレーチングという物品の意匠についてでないことは明らかであり、
審決に原告主張の誤りはない。
  (2) のみならず、審決は、本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様が共
通することのみに基づいて、両意匠の形態が類似すると判断したものではなく、こ
れに両意匠の各部の具体的構成態様における共通点及び各部の具体的構成態様にお
ける差異点を総合し、両意匠を全体として類否を考察したものである。
    そして、その場合に、各部の具体的構成態様における共通点は、この種の
溝蓋用格子材において、外観観察の中心となる部分で、取引者、需要者の注意を強
く惹き、かかる態様における共通性は、両意匠の類似性に極めて大きい影響を与え
るものである。他方、各部の具体的構成態様における差異点は、差異点aが、いず
れの態様もこの種の溝蓋用格子材においてありふれた態様であり、差異点b、c
が、側面形状を縦長のY字状に形成した基本的構成態様における部分的、かつ、軽
微な差異にすぎず、いずれも類否判断に与える影響は微弱なものである。
    したがって、仮に、上記本件意匠及び引用意匠の全体の基本的構成態様に
おける共通点が新規な態様ではないとしても、両意匠の形態が類似するとした審決
の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由について
  (1) 引用意匠が記載された第854857号意匠公報(甲第4号証)には、意
匠に係る物品の「説明」の欄に、「本物品は道路の側溝や工場床面等に敷設される
溝ぶたのための構造用材として使用されるものである。」との記載がある。
    他方、公知例1(甲第5号証)は、名称を「複合格子構造物(COMPOSITE
GRATINGSTRUCTURE)」とする発明に係る米国特許公報であり、「この発明
は、・・・橋などの車が通る道で使用される新しいグレーチング構成のためのもの
である。」(同号証訳文1頁1~2行、なお、原文は「Thisinventionisfora
newcompositegratingsuchasthoseusedinbridgefloorsandothertraffic
bearingsurfaces・・・」であって、路上や床面の溝等に渡すために用いられる格
子状の構造物の発明を意味すると認められる。)、「図2は図1のⅡ-Ⅱの線に沿
って切断した縦断面図である。」(同頁25行)、「図3は図1のⅢ-Ⅲの線に沿
って切断した横断面図である。」(同頁26行)、「図4と図5は、図1で示した
グレーチングの、ベアラーバー(注、原文は「bearerbar」)、クロスバー(注、
原文は「crossbar」)それぞれの拡大横断面図である。」(同頁27~28行)、
「図面において開示されたグレーチングは、メインとなるベアラーバー6と横断す
るクロスバー8から構成される。メインベアラーバー6は、クロスバー8より十分
に奥行きのある切片から成り、この種のグレーチングによくあるように、頂部を除
いて連続している。メインベアラーバーの先端部は、上方に分かれる縁ができるよ
うに伸ばしてあり、その間に溝7が形成されている。クロスバー8は、同じく溝9
ができるように形成された先端部を持つ。図面で示したように、メインベアラーバ
ーとクロスバーは交差するが、ベアラーバーはクロスバーを受けるために切り取ら
れ、クロスバーは適当なところで溶接されている。」(同頁29~36行)との各
記載があって、これらの記載と図1~4とによれば、図3、4に示されたメインベ
アラーバー6は、前示引用意匠の意匠に係る物品と同様、「溝ぶた用格子材」と称
すべきものであり、かつ、「長手方向に連続する板片部の上端の前後に、長手方向
に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方に向け突出して側面視して略V
字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板片部を長めとし、側面形状を縦
長の略Y字状に形成した」態様であると認めることができる。
    被告は、公知例1の図面には、グレーチングという物品における格子材の
部分の形態が示されているにすぎないと主張するが、公知例1の前示記載に照らし
て、そのメインベアラーバーは、クロスバーと溶接組立てして公知例1記載の発明
とするものであることが明らかであり、その組立前のメインベアラーバー自体が独
立した取引の対象とならないものと断定することはできない。
    したがって、前示態様が、「この種の『溝蓋用格子材』の意匠にあって
は、無効事由2の意匠(注、引用意匠)の出願前においては存在しなかった新規な
態様であって、無効事由2の意匠のみにみられる格別の特徴を現わし」(審決書6
頁13~15行)とした審決の認定は誤りであるといわざるを得ない。
  (2) しかしながら、前示態様が、本件意匠及び引用意匠に共通する全体の基本
的構成態様であることは当事者間に争いがない。
    しかるところ、第414097号意匠公報(乙第1号証の7)、第414
097号の類似1号意匠公報(同号証の8)、第647695号意匠公報(同号証
の9)、第647696号意匠公報(同号証の10)、第658109号意匠公報
(同号証の11)、第658109号の類似1号意匠公報(同号証の12)、第6
58110号意匠公報(同号証の13)、第658110号の類似1号意匠公報
(同号証の14)、第860882号意匠公報(同号証の15)、第906423
号意匠公報(同号証の16)、第915632号意匠公報(同号証の17)、第9
32591号意匠公報(同号証の18)、第934171号意匠公報(同号証の1
9)、第934216号意匠公報(同号証の20)、第934216号の類似1号
意匠公報(同号証の21)、第934216号の類似2号意匠公報(同号証の2
2)、第946163号意匠公報(同号証の23)、第966813号意匠公報
(同号証の24)、第970799号意匠公報(同号証の25)、第972077
号意匠公報(同号証の26)、第972077号の類似1号意匠公報(同号証の2
7)、第972077号の類似2号意匠公報(同号証の28)、第972077号
の類似3号意匠公報(同号証の29)、第972077号の類似4号意匠公報(同
号証の30)、第972077号の類似5号意匠公報(同号証の31)、第974
445号意匠公報(同号証の32)、第978540号意匠公報(同号証の3
3)、第978540号の類似1号意匠公報(同号証の34)、第978541号
意匠公報(同号証の35)、第978541号の類似1号意匠公報(同号証の3
6)、第982755号意匠公報(同号証の37)、第997335号意匠公報
(同号証の38)、第997737号意匠公報(同号証の39)、第987798
号意匠公報(同号証の40)、第1003935号意匠公報(同号証の41)、第
1026125号意匠公報(同号証の43)、第1026125号の類似1号意匠
公報(同号証の44)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠の登録出願前における
溝蓋用格子材の意匠の多くは、その基本的全体形状を、長手方向に連続する板片部
のみからなる側面形状を略I字状とするもの(その上端部分又は上端部分と下端部
分の双方に側面視して肉厚の部分を形成するものを含む。)、あるいは、該長手方
向に連続する板片部の上端において、概ねこれと垂直方向に、長手方向に連続する
板状部分を前後に突出して形成した、側面形状を略T字状とするものであったこと
が認められる。そうすると、本件意匠及び引用意匠の前示「長手方向に連続する板
片部の上端の前後に、長手方向に連続する略細帯状の板状体でなる溝片を斜め上方
に向け突出して側面視して略V字状を呈する溝を形成し、形態全体を溝部に比し板
片部を長めとし、側面形状を縦長の略Y字状に形成した」全体の基本的構成態様
は、たとえ、それ自体が新規のものではないとしても、両意匠において、なお特徴
的な態様であるということができ、それぞれの意匠の全体の基調を決定付けるもの
であると認められる。
    そして、本件意匠と引用意匠とは、かかる全体の基本的構成態様において
共通するのであるから、当該共通点が、両意匠の類否判断において極めて大きな比
重を有することは明白であって、かかる意味で、類否判断を左右する支配的要素を
なすと認めることができ、さらに、当事者間に争いのない各部の具体的構成態様に
おける共通点、すなわち、「板片部の上端部分に細幅の肉厚部分を設け、両溝片は
厚みを上方に向けて漸次薄めに形成し、上端面を細幅の平坦面に形成した」(審決
書5頁35~36行)点と相俟って、看者に対し、両意匠が類似するとの印象を与
えるものと認められる。
    したがって、審決が、本件意匠及び引用意匠の前示基本的構成態様につ
き、「形態全体の基調を決定づけるところであり、両意匠に共通する全体の基本的
構成態様が、両意匠の類否判断を左右する支配的要素をなすところと認められ、各
部の具体的な構成態様にみられる共通点と相俟って、両意匠間に類似する印象を惹
起させるところといわざるを得ない。」(同6頁15~18行)と判断したことに
誤りはない。すなわち、前示態様が新規であるとの審決の認定部分は誤りであると
しても、審決の記載(同頁8~18行)上、該認定事実は、前示両意匠の基本的構
成態様が、意匠全体の基調を決定付ける特徴的な態様であり、ひいてその点の共通
性が類否判断の支配的要素をなすとの判断の根拠の一つとされているものであるこ
とが窺われるところ、前示のとおり、前示態様が新規ではないとしても、同様の判
断ができるのであるから、結局、審決の当該認定の誤りは、その結論に影響を及ぼ
さないものというべきである。
  (3) 他方、当事者間に争いのない差異点aは、「板片部について、本件登録意
匠(注、本件意匠)は、上端部分にのみ肉厚部分を形成しているのに対し、無効事
由2の意匠(注、引用意匠)は、上端部分および下端部分の双方にそれぞれ肉厚部
分を形成している点」(審決書5頁38行~6頁2行)であるところ、前示第41
4097号の類似1号意匠公報(乙第1号証の8)、第647695号意匠公報
(同号証の9)、第647696号意匠公報(同号証の10)、第658109号
意匠公報(同号証の11)、第658109号の類似1号意匠公報(同号証の1
2)、第658110号意匠公報(同号証の13)、第658110号の類似1号
意匠公報(同号証の14)、第860882号意匠公報(同号証の15)、第90
6423号意匠公報(同号証の16)、第932591号意匠公報(同号証の1
8)、第934171号意匠公報(同号証の19)、第934216号意匠公報
(同号証の20)、第934216号の類似1号意匠公報(同号証の21)、第9
34216号の類似2号意匠公報(同号証の22)、第946163号意匠公報
(同号証の23)、第966813号意匠公報(同号証の24)、第970799
号意匠公報(同号証の25)、第972077号の類似2号意匠公報(同号証の2
8)、第974445号意匠公報(同号証の32)、第978540号意匠公報
(同号証の33)、第978540号の類似1号意匠公報(同号証の34)、第9
97737号意匠公報(同号証の39)、第987798号意匠公報(同号証の4
0)、第1003935号意匠公報(同号証の41)、第1026125号意匠公
報(同号証の43)、第1026125号の類似1号意匠公報(同号証の44)及
び弁論の全趣旨によれば、前示本件意匠の登録出願前における溝蓋用格子材の意匠
において、板片部の上端及び下端の双方に肉厚部を設けたものも、その上端のみに
肉厚部を設けたものも、ともに普通に見られる態様であることが認められ、そうす
ると、本件意匠と引用意匠の間の前示差異点aに係る差異は、格別看者の注意を惹
くものではなく、両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものであるというべきで
ある。
    また、当事者間に争いのない差異点bは、「溝片について、本件登録意匠
は、両溝片の上端寄りの部位から上方を急傾斜に折曲し、内壁面の上端部分を小さ
く略三角形状に切り欠いているのに対し、無効事由2の意匠は、両溝片の上端の前
後に小さな鍔片を水平に突設している点」(同6頁2~5行)であるところ、かか
る差異は、板片部の上端において、斜め上方に向け突出し、側面視して略V字状を
呈する溝を形成する溝片のさらに上端部分における差異であって、本件意匠及び引
用意匠全体から見れば、微細なものであるのみならず、前示のとおり、両意匠の全
体の基調を決定付ける特徴的な態様というべき全体の基本的構成態様における共通
点に包摂されるものであって、両意匠の類否判断に与える影響は微弱なものという
べきである。
    さらに、当事者間に争いのない差異点cは、「側面視した溝の形状につい
て、本件登録意匠は、扁平な略五角形状であるのに対し、無効事由2の意匠は、扁
平な略三角形状である点」(同頁5~7行)であるところ、かかる溝の形状の差異
は、前示差異点bに係る溝片の形状の差異によって生じるものであって、本件意匠
及び引用意匠全体から見て微細なもので、全体の基本的構成態様における共通点に
包摂されるものであることは、差異点bに係る差異と同様であり、両意匠の類否判
断に与える影響も微弱なものであるというべきである。
    そして、差異点a~cに係る各差異の内容に鑑みて、これらの差異が相俟
ったことによる影響も、本件意匠及び引用意匠の類否判断において大きなものとい
うことはできない。
    原告は、差異点b、cが、全体の基本的構成態様の共通点に包摂される程
度のもので、類否判断に与える影響は微弱なものであるとした審決の判断は、該基
本的構成態様が新規な態様であるとの認定を前提とするものであって、その認定が
誤りであり、共通する基本的構成態様に新規性がなければ、差異点b、cが重要な
差異となり、本件意匠及び引用意匠が別異な印象を与えるものであると主張し、ま
た、本件意匠が、上部の溝片が二股状に広く開いたうえ、上端で内に閉じ、全体が
ダリアの花のような重厚な美観的印象を与えるのに対し、引用意匠が、上部の溝片
部が内側に絞り込むようにして立ち上がり、上端部を外に開く百合の花のようなほ
っそりとした印象を与えるとも主張する。
    しかしながら、差異点b、cに係る差異が、両意匠の意匠全体から見れば
微細なものであり、たとえ、新規な態様ではないとしても、両意匠の全体の基調を
決定付ける特徴的な態様というべき全体の基本的構成態様における共通点に包摂さ
れるものであることは上如のとおりであって、かかる差異があるからといって、両
意匠が、原告主張のような別異な印象を看者に与えるものということはできない。
  (4) そうすると、差異点a~cに係る各差異は、前示の本件意匠及び引用意匠
の全体の基本的構成態様における共通点に、各部の具体的構成態様における共通点
が相俟って看者に及ぼす、両意匠が類似するとの印象を凌駕するものということは
できず、したがって、審決が、「両意匠は、・・・形態全体の基調を決定づけると
ころの全体の基本的構成態様及び各部の具体的な構成態様の一部においても共通す
るものであり、各部の具体的な構成態様の一部において差異が認められるとして
も、いずれも類否判断に影響を及ぼす要素としては微弱な差異に止まり、これらの
差異点が相俟って意匠全体に与える影響を考慮したとしても、・・・両意匠の全体
の基本的構成態様及び、各部の具体的な構成態様の共通点が相俟って醸し出す、類
似する印象を凌駕し本件登録意匠(注、本件意匠)のみが有する格別の特徴を表出
しているものとは到底いえない」(審決書7頁3~11行)とした判断に誤りはな
い。
 2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれ
を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官 田 中 康 久
        裁判官   石 原 直 樹
裁判官   宮 坂 昌 利

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