弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人大西芳雄の上告理由について。
 所論の事実関係に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして首
肯できないものではなく、右認定判断の過程に所論の違法を認めることはできない。
 そして、原審の確定した事実によれば、訴外Dは、かねて兄である被上告人から、
その所有の本件土地建物の管理を委託されたため、本件建物の南半分に居住し、本
件土地および本件建物の北半分の賃料を受領していたところ、同訴外人は昭和二四
年六月一五日死亡し、上告人らが相続人となり、その後も、同訴外人の妻上告人A
1において本件建物の南半分に居住するとともに、本件土地および本件建物の北半
分の賃料を受領してこれを取得しており、被上告人もこの事実を了知していたとい
うのである。しかも、上告人A2および同A3が、右訴外人死亡当時それぞれ六才
および四才の幼女にすぎず、上告人A1はその母であり親権者であつて、上告人A
2および同A3も上告人A1とともに本件建物の南半分に居住していたことは当事
者間に争いがない。
 以上の事実関係のもとにおいては、上告人らは、右訴外人の死亡により、本件土
地建物に対する同人の占有を相続により承継したばかりでなく、新たに本件土地建
物を事実上支配することによりこれに対する占有を開始したものというべく、した
がつて、かりに上告人らに所有の意思があるとみられる場合においては、上告人ら
は、右訴外人の死亡後民法一八五条にいう「新権原ニ因リ」本件土地建物の自主占
有をするに至つたものと解するのを相当とする。これと見解を異にする原審の判断
は違法というべきである。
 しかしながら、他方、原審の確定した事実によれば、上告人A1が前記の賃料を
取得したのは、被上告人から右訴外人が本件土地建物の管理を委託された関係もあ
り、同人の遺族として生活の援助を受けるという趣旨で特に許されたためであり、
右上告人は昭和三二年以降同三七年まで被上告人に本件家屋の南半分の家賃を支払
つており、上告人らが右訴外人の死亡後本件土地建物を占有するにつき所有の意思
を有していたとはいえないというのであるから、上告人らは自己の占有のみを主張
しても、本件土地建物を、時効により取得することができないものといわざるをえ
ない。したがつて、上告人らの取得時効に関する右主張を排斥した原審の判断は、
結局相当であり、原判決の前記の違法はその結論に影響を及ぼすものではない。
 その余の点については、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができ
ない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷

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