弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人D、同E、同F名義の上告理由一について。
 所論登記済証は、その作成された日付として記載された昭和二二年九月六日当時
官制上存在していなかつた東京区裁判所麹町出張所受付第五三〇一号と記載され、
同庁印が押捺されていた旨の原審の認定は、その挙示する証拠により首肯できる。
そして、当時本件登記の所轄登記所の官制上の名称が東京司法事務局麹町出張所で
あることに鑑みれば、押捺された庁印の印影自体からまたは当時の真正な印影と対
照することにより、登記官吏は容易に右登記済証が不真正なものであることを知り
えたはずであり、かかる審査は登記官吏として当然なすべき調査義務の範囲に属す
る旨の原審の判断は正当である。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事
実の認定を争うかまたは独自の見解であつて、採用できない。
 同二について。
 不動産登記には公信力はないけれども、不動産の取引には登記簿の記載を一応真
正なものと信ずるのが通常であり、特に登記簿上の該不動産の前所有者と記載され
ている者が登記書類の偽造により登記官吏を欺いて真実に反して前所有者として掲
記されているようなときは、取引の相手方がその登記の記載を真正なものと信ずる
のは当然である。けだし不動産の取引をする者に登記簿の記載以外に登記簿上記載
された該不動産の所有名義人を順次廻つてそれが真実の所有者であり所有者であつ
たことを調査することを要求することは通常至難なことと言わなければならないか
らである。したがつて、もし登記官吏の違法行為によつて実体上権利を伴わない無
効な登記を生じ、これを信じて無権利の登記名義人と取引し、所有権を取得できな
いのに代金を支払つた等の損害をこうむつたときは、その損害は、登記官吏に違法
行為がなく右のような不真正な登記の記載がなかつたならば当然生じなかつたもの
であるから、登記官吏の違法行為と損害との間には通常生ずべき相当因果関係があ
ると解するのを相当とする。
 本件において、原審の確定した事実によれば、訴外Gらは本件土地の所有者Hの
意思にもとづかず原判示登記済証、委任状、印鑑証明書等を偽造してこれを訴外I
に交付し、Iは右書類によつて原判示登記の申請をし、東京法務局麹町出張所の登
記官吏は前示のような職務のけ怠によりこれを受理して実体上の権利移転を伴わな
い右I名義の所有権移転登記手続をなし、被上告人らは右登記の記載を信じて右不
動産につきIを真の所有者と信じて売買契約をした結果、原判示の損害を蒙つたと
いうのである。されば、被上告人らの右損害と登記官吏の前示違法行為との間には
相当因果関係あるとした原審の判断は相当であり、原判決には所論違法はない。所
論は独自の見解に立つて原判決を非難するものであつて、採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
 裁判官入江俊郎は海外出張のため署名押印することができない。
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾

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