弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決及び第1審判決を破棄する。
被告人は無罪。
理由
弁護人川瀬敏朗の上告趣意は,違憲をいうが,実質は単なる法令違反の主張であ
って,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら,所論に鑑み,職権をもって調査すると,原判決及び第1審判決
は,刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は次のとおりである。
1本件公訴事実の要旨は,「被告人は,行政書士でなく,かつ,法定の除外事
由がないのに,第1共犯者甲と共謀の上,業として,別表1記載のとおり,平成
18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわたり,北海道斜
里郡の被告人方において,3名から依頼を受け,事実証明に関する書類である家系
図合計3通を作成し,その報酬として合計33万8685円の交付を受け,第2
共犯者乙と共謀の上,業として,別表2記載のとおり,平成18年7月10日から
平成19年4月1日までの間,前後3回にわたり,前記被告人方において,3名か
ら依頼を受け,事実証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬と
して合計56万7000円の交付を受け,もって行政書士の業務を行った。」とい
うものであり,同公訴事実を記載した起訴状には,別紙として,依頼日,依頼者,
家系図交付日,報酬額等を記載した「別表1」及び「別表2」が添付されていた。
第1審判決は,上記公訴事実どおりの事実を認定した上,刑法60条,行政書士
法21条2号(平成20年法律第3号による改正前のもの。以下同じ。),19条
1項を適用して被告人を懲役8月,2年間執行猶予に処し,原判決もこれを維持し
た。すなわち,原判決及びその是認する第1審判決は,被告人が作成した家系図合
計6通(以下「本件家系図」という。)は,行政書士法1条の2第1項にいう「事
実証明に関する書類」に該当するとして,被告人が業として本件家系図を作成した
行為は同法19条1項に違反し,同法21条2号に該当すると判断した。
2所論は,本件家系図が上記「事実証明に関する書類」に該当しないと主張す
るところ,原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の
事実関係は,次のとおりである。
(1)本件家系図は,戸籍の記載内容を図に表し,親族の名,続柄,出生の年月
日及び出生地,死亡の年月日及び死亡地,婚姻の年月日等を記載し,右側上部に
「何々(姓)家系図」,左側下部に日付及び「A工房」の文言を付記した巻物状の
ものである。
(2)被告人は,依頼者に送付した被告人作成のパンフレット等に,家系図は1
枚の和紙に記載し,その表装はプロの表装師が行い,桐の箱に収めるなどと記載
し,現に,取り寄せた戸籍謄本等をもとに,パソコンのイラスト作成ソフトを用い
て家系図の原案を作成すると,その電子データを印刷業者に送って美濃和紙に毛筆
書体で印字させ,こうしてできたものを表装業者に送って掛け軸用の表装具を使っ
て表装させ,さらに,これを保管するための桐箱を木箱製作業者に作成させるなど
して本件家系図を作成した。
(3)上記パンフレットには,「こんな時にいかがですか?」という見出しのも
とに「長寿のお祝い・金婚式・結婚・出産・結納のプレゼントに」,「ご自身の生
まれてきた証として」,「いつか起こる相続の対策に」と記載されているものの,
本件の各依頼者の家系図作成の目的は,自分の先祖の過去について知りたい,仕事
の関係で知り合った被告人からその作成を勧められて作成した,先祖に興味があり
和紙で作られた立派な巻物なので家宝になると思った,自分の代で家系図を作って
おきたいと考えたなどというもので,対外的な関係での具体的な利用目的を供述す
る者はいない。
3上記の事実関係によれば,本件家系図は,自らの家系図を体裁の良い形式で
残しておきたいという依頼者の希望に沿って,個人の観賞ないしは記念のための品
として作成されたと認められるものであり,それ以上の対外的な関係で意味のある
証明文書として利用されることが予定されていたことをうかがわせる具体的な事情
は見当たらない。そうすると,このような事実関係の下では,本件家系図は,依頼
者に係る身分関係を表示した書類であることは否定できないとしても,行政書士法
1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」に当たるとみることはできないと
いうべきである。
4したがって,被告人が業として本件家系図を作成した行為は行政書士法19
条1項に違反せず,被告人に同法違反の罪の成立を認めた原判決及び第1審判決
は,法令の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らか
であって,原判決及び第1審判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認め
られる。
よって,刑訴法411条1号により原判決及び第1審判決を破棄し,同法413
条ただし書,414条,404条,336条により被告人に対し無罪の言渡しをす
ることとし,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宮川
光治の補足意見がある。
裁判官宮川光治の補足意見は,次のとおりである。
行政書士法1条の2第1項にいう「事実証明に関する書類」の外延は甚だ広く,
行政書士法の立法趣旨に従い,その範囲は「行政に関する手続の円滑な実施に寄与
し,あわせて,国民の利便に資する」(同法1条)という目的からの限定を受ける
べきであるとともに,職業選択の自由・営業の自由(憲法22条1項)と調和し得
るよう合理的に限定解釈されるべきものである。そして,行政書士法1条の2第1
項では「官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類」とあ
り,文理上,「事実証明に関する書類」の内容については「官公署に提出する書
類」との類推が考慮されなければならない。このように考えると,「事実証明に関
する書類」とは,「官公署に提出する書類」に匹敵する程度に社会生活の中で意味
を有するものに限定されるべきものである。
そもそも,家系に関する人々の関心は古くからあり,学問も成立しており,郷土
史家をはじめとして多くの人々が研究調査し,ときに依頼を受けて家系図の作成を
行うなどしてきたのである。そして,家系図の作成は,戸籍・除籍の調査にとどま
らず,古文書・古記録を調査し,ある程度専門的な判断を経て行われる作業でもあ
る。行政書士は,戸籍・除籍の調査に関しては専門職であるが,それを超えた調査
に関しては,特段,能力が担保されているわけではない。家系図は,家系について
の調査の成果物ではあるが,公的には証明文書とはいえず,その形状・体裁からみ
て,通常は,一見明瞭に観賞目的あるいは記念のための品物であるとみることがで
きる。家系図作成について,行政書士の資格を有しない者が行うと国民生活や親族
関係に混乱を生ずる危険があるという判断は大仰にすぎ,これを行政書士職の独占
業務であるとすることは相当でないというべきである。
本件では,被告人は手数料を支払って行政書士から「戸籍謄本・住民票の写し等
職務上請求書」を取得し,戸籍・除籍謄本の請求を行うという不正行為(平成19
年法律第35号による改正前の戸籍法121条の2参照)を行っており,その点に
問題があるというべきであるが,そうした行為は,本来,行政書士の自覚と自律を
高めることにより予防すべきことであり,そして,今後は,戸籍法133条により
不正行為者を処罰することとなろう。
検察官三浦守公判出席
(裁判長裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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