弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成30年(わ)第576号
主文
被告人両名をそれぞれ懲役10月に処する。
被告人両名に対し,この裁判が確定した日から3年間,それぞれその刑の
執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人両名は,平成30年1月17日当時のa応援団団長であったA及び同応援
団事務局長でb新聞を販売する会社の役員であったBに対し,Aがcドームに不正
入場したなどとして因縁を付け,A及びBにそれぞれ同応援団団長及び同応援団事
務局長を辞任させようと考え,共謀の上,
1同日午後5時頃から同日午後7時頃までの間,名古屋市甲区乙丙丁目丁番戊号
のd乙店において,A及びBに対し,被告人Cが「仮に球団がいいって言おうが,
子供券がその日にあった以上…子供券を大人券に変えて入るべき。そういう律す
ることができなければ上に立つ者として,資格はないし,まして,応援団をやる資
格はない。絶対にない」,「そんな幹部,執行部たちは辞めた方がいいよ。あんた,
仮にもb新聞売っとるんだぞ。俺は,b新聞とは仲ええけども,役員の人とも仲え
えわ。この話したわね。実際とんでもないことになる。特にあんたのとこ,仕事で
自分の身銭にかかわっとるのに,ましてや週刊誌じゃないよ。新聞だよ」,「あん
た,新聞売る資格もないぞ。b新聞言ったる。悪いことも悪いと言えん人間に新聞
売らせんなって言って」,「50や100はすぐ解約したる」,「あんたこそ辞め
るべきだと思うよ,俺は」などと言い,
2Bが退店した後の同日午後7時頃から同日午後10時49分頃までの間,同店
において,Aに対し,被告人Cが「俺は,別に表の人間でもやくざやっとるわけで
もない。裏の人間でもない。闇の人間なんだ」,「あんた辞めた方がええ。あんた
がガンだ。あんたが辞めるべきなんだ」,「あんたが辞めるまで闘ったるで。一番
妨害強いぞ」などと言い,被告人Dが「俺は,ドーム始まって引きずり下ろされて
も,責任持てんよ」,「長であるあなたが,ファンとでなく,その球団体面ばっか
り気にして,ファンじゃなくてそっち側よりになっちゃって,そんなことをするん
であれば,だったら,俺たちも,本当にあのeの暴挙なんて,いつでも起こるぜっ
ていうか,あれよりもっとひどいことが起こるぜ」などと言うと,被告人Cが続け
て「cドームで起こしたろうか」,「大恥かきゃいいがや。あんたは,所詮,30
人をまとめてるだけ。こいつは千人をまとめてる」などと言い,さらに被告人Cが
「興信所使ってやって調べるよ」などと言い,
もしその要求に応じなければ,A及びBの自由,名誉及び財産に害を加えかねない旨
を告知して脅迫し,よって,同月20日,A及びBに,それぞれ同応援団団長及び
同応援団事務局長を辞任させ,もってA及びBに義務のないことを行わせたもので
ある。
(法令の適用)
被告人両名の判示所為のうち,Aに対する強要の点は1及び2を包括して刑法6
0条,223条1項に,Bに対する強要の点は同法60条,223条1項にそれぞれ
該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1
項前段,10条により1罪として犯情の重いAに対する強要罪の刑で処断すること
とし,その所定刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役10月に処し,被告人両名
に対し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間,そ
れぞれその刑の執行を猶予し,被告人Dに関する訴訟費用は,刑事訴訟法181条1
項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
被告人両名は,喫茶店という第三者のいる場であったとはいえ,Aに対しては5時
間以上にわたり,Bに対しても約2時間も,時にはBの職業上の不利益や,応援団の
活動中に暴挙を起こすことなど,具体的な脅迫文言を用いながら,Aの不正入場やそ
れに関するA及びBの対応を責め立て,応援団の各役職を辞任するよう迫ったもの
であり,非常に執ようである。Aが年度途中で辞任する話は以前から出ていたとうか
がわれるが,Aはその直後に,それまで全く辞任の意向などなかったBともども,応
援団の各役職を現に辞任しており,被告人らが望んだとおりの結果が生じている。被
告人両名は,応援団の他のメンバーや応援サークルの者らが応援団の運営方針等に
関しAに不満を抱いていたことが背景にあり,私利私欲のためではない旨述べるが,
自らの意に沿わない者を正当な手段によらず排除しようとしたことにほかならず,
脅迫という手段を用いることについて計画性も事前共謀もなかったことを踏まえて
も,動機や経緯に酌むべき余地があるとはいえない。
もっとも,被告人両名は,いずれも罪を認めて反省しており,二度と被害者両名及
び球団等に関わらないことを約束している。また,被告人両名には,量刑に影響すべ
き前科がない。
そうすると,被告人両名に対し,主文の懲役刑を科した上でその刑の執行を猶予
し,社会内で更生する機会を与えるのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑被告人両名に対し懲役1年)
平成30年6月20日
名古屋地方裁判所刑事第5部
裁判官西山志帆

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