弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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             主       文
    被告人を懲役3年に処する。
    この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
             理       由
(罪となるべき事実)
 被告人は,平成15年3月7日午前6時ころ,兵庫県伊丹市a町b丁目c番地A
荘1階B方において,かねてより交際していたC(当時54歳)から「別れよう
ね。」と言われ,同女が本気で自分と別れようとしていると感じたことなどから腹
を立て,同女に対し,その顔面等を手拳で多数回殴打するなどの暴行を加えるう
ち,自分が同女を大切に思っているのに,同女はそれに答えてくれないなどとの思
いを募らせて激高し,この上は同女を殺害しようと決意し,同居宅内にあったこた
つの電気コード(平成15年押第62号の2)を転倒していた同女の頸部に巻き付
けて強く絞め付けたが,同女がコードと首の間に両手の指を入れて抵抗するなどし
たため,殺害の目的を遂げないまま,ついで,同女に対し,「今まで買ってやった
もん返せ。」などと言っ
たところ,同女から「男が1回くれたもん,返せって言うんか。」と文句を言われ
たことなどからまた激高し,同女が死亡するに至るかもしれないことを認識しなが
ら,あえて,台所から持ち出したフライパン(直径約27センチメートル,重量約
1060グラム,同押号の1)で,同女の頭部を数回強打する暴行を加えたが,同
女が身動きしなくなったことから,同女が死亡したものと思い込んで更なる攻撃を
加えなかったため,同女に加療約3週間を要する顔面・頭部打撲兼血腫,頸部こう
やく等の傷害を負わせたにとどまり,同女を殺害するに至らなかったものである。
(証拠の標目)-括弧内は証拠等関係カードの検察官請求証拠番号
省略
(事実認定の補足説明)
1 弁護人は,被告人には被害者に対する殺意がなかったので,傷害罪が成立する
にとどまる旨主張し,被告人も当公判廷ではこれに沿う供述をするが,当裁判所
は,被告人が電気コードで被害者の頸部を絞め付けた行為には被害者に対する確定
的な殺意が認められるし,フライパンで被害者の頭部を数回殴打した行為には被害
者に対する未必的な殺意が認められるから,殺人未遂罪が成立すると判断したの
で,以下,その理由について補足して説明する。
2 電気コードで被害者の頸部を絞め付けた行為について
 (1) 人の頸部を相当な力でもって一定の時間絞め付ければ,人を死に至らしめる
危険性が高いことは言を俟たないところ,関係各証拠によれば,被告人は,テレビ
台に後頭部をぶつけてうずくまっている被害者の頸部に電気コードを巻き付け,向
かい合う形でその頸部を絞め付けた後,更に被害者がもがいているにもかかわら
ず,背後にまわってその頸部を1分ほど絞め付け,そのため,被害者の眼球には被
害6日後においても頸部内の静脈の閉塞によって生じた鬱血が見られ,その頸部に
は被害9日後においても2本の索状痕がはっきりと残っていたことが認められ,被
告人は相当に強い力で被害者の頸部を絞め付け,その時間も決して短いものではな
かったというべきであるから,被害者がコードと首との間に指を入れて頸部が絞ま
らないように抵抗する
などしていなければ,被告人が被害者を殺害するに至っていたことも十分あり得た
とみるのが相当である。
   そして,被告人は,捜査段階において,上記認定したとおりの経緯から激高
し,被害者を殺害しようと思って本件犯行に及んだと供述していたものであって,
その内容は被害者を殺害する動機として決して不自然なものではないということが
できるし,上記行為態様や創傷の程度などとも合致しているのであるから,その信
用性を十分に認めることができる。
 (2) これに対し,被告人は,当公判廷において,被害者を懲らしめるつもりで電
気コードで被害者の頸部を絞め付けたものであって,殺すつもりはなかったし,絞
め付けたのが1回か2回かはっきり覚えておらず,その時間も10秒か20秒くら
いに過ぎない旨供述し,また,被害者も,当公判廷においては,被告人から電気コ
ードで頸部を絞められたのは1回だけであり,それほどきつく絞められてはいない
し,その時間もそれほど長くなかったと思う旨供述する。
   しかしながら,被告人及び被害者の当公判廷における各供述のいう上記のよ
うな行為態様では,被害者がコードと首の間に指を入れて頸部が絞まらないように
抵抗しているのにかかわらず,被害者に上記のような創傷が生じ得るとは考え難い
上,特に,被害者は,現在では本件の被害届を取り下げ,公判廷でも被告人をでき
れば執行猶予にして欲しいと述べるなど,被告人の刑事責任の軽減を望んでいるも
のであって,その公判廷における供述は被告人をかばって殊更被告人に有利に供述
している様子が明らかに認められるのであるから,上記のような被告人及び被害者
の当公判廷における各供述をそのまま信用することはできない。
 (3) 以上のとおりであるから,被告人は,被害者に対する確定的な殺意をもっ
て,電気コードで被害者の頸部を絞め付けたものと認定するのが相当である。
3 フライパンで被害者の頭部を殴打した行為について
 (1) 関係各証拠によれば,本件犯行に用いられたフライパンは,重量約1060
グラム,鋼鉄製の正円形状の調理フライパンであって,身体の枢要部である頭部等
を相当な力で多数回殴打すれば相手を殺傷することが可能なものであること,被告
人は,上記認定した経緯から再び激高し,被害者を殴るために台所から上記フライ
パンを持ち出し,倒れ込んでいる被害者に対して,上記フライパンを肩の高さまで
振り上げて横に振るようにしてその右頭部を3回殴った後,被害者が逃げようと玄
関の方向へ這って進んでいるのを見て,「しぶといやっちゃな。」と言い,右手に
持っていた上記フライパンを肩よりやや上に持ち上げ,被害者の後頭部を狙ってや
や斜め下に振り下ろして2回殴打した(なお,被害者は,当公判廷においては,被
告人にフライパンで
頭部を殴られたのは合計2回である旨供述するが,前示のとおり,被害者のこの供
述を信用することはできない)こと,被告人は,上記殴打行為後,被害者が動かな
くなったことを認識したのに,何ら救護措置を執らず,さらに,部屋の鍵を閉めて
その場を離れ,犯行後3日間自宅に帰らずに野宿をし,逮捕後は,犯行当日被害者
宅にいたこと自体を否定する供述をしていたことが認められる。
 (2) 以上の事実によれば,本件のフライパンによる頭部殴打の行為には被害者を
死に至らしめる危険性があったことを否定できないこと,被告人がその行為に及ぶ
前に被害者に対する憤激の情がおさまる事情が生じていたとは認められないこと,
被告人は被害者が動かなくなるまで上記殴打行為を続けていること,被告人は本件
犯行後救護措置を執らなかっただけでなく,上記のとおり発覚防止工作をしたり,
自宅に帰らず逃亡したりしているのであるから,被害者に対して重大な結果を生じ
させたと思ったものと推察されることなどを併せ考えると,その行為態様やそれに
よって生じたと思われる被害者の負傷の程度等からして,被告人がフライパンで被
害者の頭部を殴打した行為が確定的な殺意に基づくものとまでは認め難いけれど
も,未必的な殺意に基
づくものであることは間違いないと認めるのが相当である。
4 以上のとおりであって,被告人の判示の行為には被害者に対する殺意を認める
ことができるから,被告人には殺人未遂罪が成立する。    
(法令の適用)
 被告人の判示所為は包括して刑法203条,199条に該当するところ,所定刑
中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,被告人を懲役3年に処し,情状
により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を
猶予し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担さ
せないこととする。
(量刑の理由)
 本件は,被告人が,男女関係にあった被害者から別れ話をもちかけられたことな
どに激高し,確定的な殺意をもって,電気コードで被害者の頸部を絞め付けて同女
を殺害しようとし,さらに未必的な殺意をもって,フライパンでその頭部を多数回
殴打するなどしたものの,同女を殺害するに至らなかったという殺人未遂の事案で
ある。
 被告人は,被害者から本気で別れを告げられたものと思い,前記認定した経緯か
ら本件犯行に及んだものであって,その安易かつ短絡的な犯行動機に酌量の余地は
乏しいこと,被告人は,同女に対して一方的に執拗かつ強力な暴行を加えた上,う
ずくまっている被害者の頸部を電気コードで2回強く絞め付け,さらに上記暴行等
を加えられて倒れ込んでいる被害者の頭部を狙いフライパンを5回も振り下ろして
殴打しているのであって,その犯行態様は執拗かつ悪質であり,被害者の生命を侵
害する危険性の高いものであったこと,被害者は本当に死んでしまうのではないか
という恐怖感を味わわされた上,軽微とはいえない傷害をも負わされたものであっ
て,その精神的肉体的苦痛は大きいこと,被告人は,本件犯行後被害者宅に施錠し
て逃走するなど,本
件が発覚しないような工作をもしていること,被告人は捜査段階の後半まで被害者
宅に行ったこと自体を否認し,公判廷においても被害者の首を強くは絞め付けてい
ないなどと不合理な弁解を述べており,反省の態度が十分みられないことなどを考
え併せると,犯情は悪く,被告人の刑事責任は軽くはないといわざるを得ない。
 しかしながら,幸いにも本件犯行は未遂に止まり,被害者の負った傷害の程度も
重篤なものではないこと,本件犯行は,互いに酒に酔った状態のときに,本気かど
うか明らかではないが,被害者が唐突に別れ話を切り出したために,被告人が激高
して行われたものであって,被害者に責められるべき点が全くないとはいいきれな
いし,酔余の上の偶発的な犯行であること,被告人の兄が被害者に対し治療代とし
て5万円を支払った上,被害弁償金及びお詫び料等として20万円を支払っている
こと,被害者は当公判廷において被告人を執行猶予にして欲しい旨述べ,寛大な判
決を求める旨の上申書をも提出し,被告人を宥恕していること,被告人は一応反省
の弁を述べており,被告人の兄が今後の監督をする旨述べていること,被告人は本
件により4か月以上
の期間身柄を拘束されていることなどの,被告人のために酌むべき事情もまた認め
られるので,今回に限り,被告人に対して社会内更生の機会を与えることとし,主
文の刑に処した上で,その刑の執行を猶予するのが相当である。
(検察官の科刑意見 懲役5年)
 よって,主文のとおり判決する。            
  平成15年7月15日
     神戸地方裁判所第2刑事部
            
         裁判長裁判官  森  岡  安  廣          
   
裁判官  川  上     宏         
     
裁判官  伏  見  尚  子   

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