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       主   文
本件控訴を棄却する。
控訴人費用は控訴人の負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成13年12月11日付けで控訴人に対してした控訴人の平成1
2年4月1日から平成13年3月31日までの事業年度分の法人税の更正のうち,
所得金額733万7677円,納付すべき税額161万2200円を超える部分を
取り消す。
第2 事案の概要
1 控訴人は,平成11年4月に千葉県知事から設立の認証を受けた特定非営利活
動法人であり,法人税法7条所定の内国公益法人に当たる。控訴人は,流山市から
の受託事業,介護保険事業に加えて「ふれあい事業」(以下「本件事業」とい
う。)を行っているが,平成12年4月1日から平成13年3月31日までの事業
年度分の法人税について,被控訴人に対し,所得金額を709万1791円,納付
すべき税額を155万8000円とする更正の請求をした。これに対し,被控訴人
は,同年12月11日,所得金額を1018万円6046円,納付すべき税額を2
41万3800円とする更正(以下「本件更正」という。)をした。
 これを不服とする控訴人は,被控訴人に対し,異議の申立てをしたが,これが棄
却されたので,国税不服審判所長に対し,本件更正について審査請求をしたが,こ
れに対する裁決がなされる前に,控訴人の営む本件事業が同法7条,2条13号所
定の収益事業に該当しないにもかかわらず,本件更正はこれに該当するとして本件
事業から生じた所得に対して法人税を課したものであるから違法であると主張し
て,被控訴人に対し,本件更正のうち所得金額733万7677円,納付すべき税
額161万2200円を超える部分の取消しを求めて本件訴えを提起した。
2 原判決は,本件事業が法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に当たるか
ら,同法2条13号所定の収益事業に当たり,これにより控訴人に生じた所得は,
同法7条により法人税の課税対象になり,本件更正は適法であると判断して控訴人
の本件請求を棄却したので,これを不服とする控訴人が控訴した。
3 前提事実と争点及びこれに関する当事者の主張は,4において当審における控
訴人の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中「第2 事案の概要」
の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 当審における控訴人の主張
(1) 本件事業は,控訴人の会員が行う非定型的・非類型的な助け合いのボラン
ティア活動である援助サービスであり,その重点は,外形的な援助行為ではある
が,これを通じて,会員が人間愛に基づいて助け合っていることを確認し,相互に
精神的な連帯感や安心感を生み出すところにある。このような実態の本件事業につ
いてまでも,法人税法施行令5条1項10号所定の請負業に該当すると解すること
は,その文言ないし趣旨に反するといわなければならない。ところが,原判決は,
本件事業を一定の仕事又は事務と解し,上記請負業に該当すると判断しているが,
これは法令の解釈を誤ったものか,あるいは本件事業の実態を誤認したものであ
る。
(2) 本件事業における援助サービスの提供主体はサービスを提供する協力会員
であるのに,原判決は,これを控訴人であると誤認している。控訴人は,注文を受
けて外形的に家事などを行うサービスを提供することを目的として活動しているの
ではなく,会員間の助け合いを調整し,推進するための活動を活動を行っているも
のであり,事業の主体ではない。
(3) 原判決は,控訴人の運営規則で援助サービスを利用する会員の負担額が8
00円(1時間当たり)と定められていることをもって,控訴人の行った仕事の完
成又は事務処理に対する報酬であると認定している。しかし,これは援助サービス
を利用する会員がこれを提供する協力会員に謝礼の趣旨で600円相当分及び協力
会員に託して控訴人に寄付する趣旨で200円相当分(いずれも1時間当たり)の
ふれあい切符を交付しているものであるから,これを報酬と認定した原判決の判断
は誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本件請求は理由がないから棄却すべきであると判断す
る。その理由は,以下において当審における控訴人の主張に対する判断を付加する
ほかは,原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおり
である。
2 当審における控訴人の主張(1),(3)について
 前記のとおり,控訴人の運営細則には,本件事業によって控訴人の会員である利
用者に提供される援助サービスの種類が例示列挙されており,その中には,炊事・
洗濯などの家事,介助・介護など一定の仕事の完成を目的とするものだけでなく,
話相手,相談,助言など一定の仕事の完成を目的としないものの,相手の有形・無
形の行為を必要とする事務処理が含まれていること,また,これに対する対価につ
いては,運営規則において,援助サービスを利用する会員は,控訴人が発行する1
点当たり100円相当のふれあい切符を予め購入し,援助サービスの提供を受けた
場合には,原則として,1時間当たり8点(800円相当。ただし,車椅子による
通院外出介助については,外出先が市内の場合には16点とする。),超過時間に
ついては30分当たり4点(400円相当)のふれあい切符を援助サービスの提供
に協力した会員に交付し,さらに,通院外出介助の場合を除き,協力会員の交通費
として,2点(200円相当)のふれあい切符を交付することと定められているこ
と,そして,この運営細則に従って実際の運用がなされていることが認められるか
ら,本件事業を法人税法施行令5条1項10号にいう「請負業(事務処理の委託を
受ける業を含む。)」に該当するとした原判決の判断は,原判決摘示の証拠に照ら
し是認することができる。
 これに対し,控訴人は,本件事業による援助サービスが非定型的・非類型的な助
け合いのボランティア活動であり,家事等の外形的サービスを通じて精神的・友誼
的交流を行うことに重点があるから,これについてまで上記「請負業(事務処理の
委託を受ける業を含む。)」に該当すると認めることはできない旨主張する。確か
に,証拠(控訴人代表者)によれば,控訴人の主張するとおり,援助サービスに当
たり,その提供に協力する会員は,ボランティア活動として,利用する会員に対
し,単に家事等の外形的なサービスを行う目的だけでなく,人間愛に基づく精神的
な連帯感や安心感を求めていることがうかがわれ,そのような意図の下でなされる
控訴人の会員の援助サービスは極めて貴重なものであると考えられる。しかしなが
ら,この精神的交流は援助サービスのいわば究極の目的とされているものと理解す
べきであって,外形的形態である家事等のサービスを行わなくてもよいとする趣旨
ではない。要するに,会員の希望する家事等のサービスが提供されることを通して
この最終目的を達成し,サービス利用者側及びサービス提供側の会員相互間に精神
的交流がなされることを意図しているとみるべきである。そうすると,サービスを
利用する会員とこれの提供に協力する会員との間でなされる援助サービスを通じ
て,会員同士の精神的交流が生み出されることを考慮しても,家事等の外形的サー
ビスの重要性を無視することはできず,会員の主観的意図はともかく,客観的事業
形態を見ると,そのサービスを法人税法施行令5条1項10号所定の事務処理の委
託を受ける業を含む請負業と解するのが相当である。
 また,控訴人は,援助サービスを利用する会員の負担額はサービスを受けたこと
に対する対価(報酬)ではなく,その利用する会員が提供に協力する会員に支払う
謝礼と控訴人に対する寄付の合計額である旨主張する。しかし,原判決が説示する
とおり,援助サービスを利用する会員の負担額が謝礼ないし寄付というのであれ
ば,最終的には,その利用会員が謝礼ないし寄付を行うかどうか,行うとすればど
のような内容にするかを自己の自由意思で決定すべきところ,控訴人の運営規則で
は予め負担額が予定され,これをふれあい切符で決済する旨定められており,援助
サービスの利用会員の自由意思に委ねられているとは解せられない(もっとも,会
員の中には,当初の予定時間を超えても,超過時間相当のふれあい切符を受領しな
い場合もあるが,これはサービスの提供に協力する会員が予定時間内のサービスを
提供した後,無償で予定時間経過後にサービスをしたものであり,当初のサービス
までをも無償にするものではないと解されるから,サービスに対する対価性を認め
る妨げとなるものではない。)。これに加えて,援助サービスの利用会員の負担額
を1時間当たりふれあい切符8点(800円相当),提供会員の受領額を1時間当
たりふれあい切符6点(600円相当)と比較的低い金額が定められているが,控
訴人が営利を目的としない特定非営利活動法人であり,控訴人の会員も利益を得る
ことが目的ではなくボランティアとして本件事業に参加しているものであることか
らすると,援助サービスの提供による価格を営利を目的とする法人の価格より低額
に抑えられているのも当然ともいうことができること,また,介護保険の家事援助
に対する報酬額が1時間当たり最低1530円と定められていること,平成12年
度の千葉県の最低賃金が1時間当たり672円であること(甲13)を併せ考える
と,本件事業における援助サービスに対する利用会員の負担額が些少でせいぜい儀
礼的な謝礼にすぎず,おおよそ対価となり得ないものと認めることはできない。し
たがって,控訴人の上記主張は採用できない(なお,仮に,負担額に対価性が認め
られないとしても,控訴人が本件で受領する事務運営費は,サービス斡旋の対価と
解するほかないから,本件事業が被控訴人の予備的主張である周旋業に該当するこ
とは免れないというべきである。)。
3 当審における控訴人の主張(2)について
 前記のとおり,控訴人の運営細則によれば,援助サービスの利用の申出方法,そ
の手順等,その提供を会員がする場合の手続等,援助サービスの内容,援助サービ
スを利用した場合の負担額,決済方法,援助サービスの提供をした協力会員に対す
る支払額,これに代わる時間預託制度,援助サービスの提供に対する苦情処理等に
ついて,控訴人が主体となって進めることが定められ,実際の運営も上記運営細則
どおり控訴人が主体となって行っていることが認められるから,本件事業の援助サ
ービス提供の主体を控訴人とし,援助サービスの提供に協力する会員を控訴人の履
行補助者として利用会員に援助サービスを提供しているとした原判決の判断は,原
判決摘示の証拠に照らし是認することができる。
 これに対し,控訴人は,援助サービスの利用を希望する会員とこれを提供する協
力会員との連絡調整を行っているにすぎず,本件事業における援助サービスの提供
主体は援助サービスを提供する協力会員である旨主張する。確かに,サービス提供
に協力する会員は,控訴人との間の雇用契約等の法律関係に基づく指示等を受ける
ものではなく,あくまで自主的判断で控訴人からの要請に応じているというべきで
あり,会員の任意の協力なくしては本件事業が成り立たないことは事実である。し
かし,原判決が説示するとおり,そのような会員の協力を取り付け,援助サービス
の需給関係を調整管理して運営する事務を控訴人が行うことにより本件事業が遂行
されていること,本件事業における援助サービスの運営方法等に加えて,援助サー
ビスの利用会員の負担額が控訴人の運営細則で予め定められ,援助サービスの利用
会員とこれの提供に協力した会員との間で,利用会員の負担額を合意で変更するこ
とは予定されていないこと,援助サービスの提供に対する苦情があるときには,利
用会員及び協力会員が直接苦情を述べ合わないで控訴人に連絡することになってい
ること,援助サービス中に事故が発生した場合,協力会員に故意又は重過失があれ
ば協力会員がその責任を負うが,重過失に至らないときの責任については格別の定
めがないが,このような場合,「責任の帰属が不明なものについては事務局に連絡
する。事務局はこれを受けて誠意を持って対応する。」と定められている趣旨から
して,控訴人についてまで免責されるとは解されず,現に,控訴人は,本件事業に
おける援助サービスによって生じた事故について損害保険に加入していること(甲
12,原審における控訴人代表者)が認められ,これらを併せ考えると,援助サー
ビスの主体はこれを提供する協力会員である旨の控訴人の主張は採用できない。
4 以上要するに,本件事業は,これに携わる控訴人あるいはその会員の主観的意
図や究極の目的を捨象して見た場合,外形的形態としては,介護保険事業あるいは
その周辺のサービスと共通する要素があることは否定できず,控訴人は,これを行
うことによって多額ではないにしても剰余金を取得しているということができる。
そうだとすれば,現行の税体系を定める法制度の下においては,法人税の課税がさ
れることはやむを得ないというほかない。控訴人は,このような課税がボランティ
アのインセンティブを喪失させ,社会が必要としている活動を障害すると主張する
が,立法論としては傾聴すべきであるとしても,現行法の解釈,運用としては,そ
の主張を採用することは困難である。
第4 結論
 以上によれば,本件請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない
からこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 相良朋紀
裁判官 打越康雄
裁判官 吉田健司

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