弁護士法人ITJ法律事務所

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○ 主文
本件訴えは、いずれもこれを却下する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
○ 事実
当事者双方の求める裁判
一 原告
(主位的請求)
川口税務署収税官吏大蔵事務官A、同Bが昭和五六年一一月二七日埼玉県草加市<
地名略>において原告に対してした別紙物件目録(一)記載の物件に対する差押処
分が無効であることを確認する。
訴訟費用は、被告の負担とする。
(予備的請求)
被告は、原告に対し別紙物件目録(二)、(二)記載の物件を返還し、かつ、昭和
五七年七月二〇目以降右返還に至るまで金一四一万七、五八二円に対する年五分の
割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨。
第二 当事者双方の主張
一 請求原因並びに被告の本案前の申立に対する原告の反論
(一) 請求原因
1 引継前の被告川口税務署収税官吏大蔵事務官A、同Bは、昭和五六年一一月二
七日埼玉県草加市<地名略>において、法定の除外事由がないのに、原告が販売場
を設けた場所の所轄水戸税務署長及び川口税務署長から酒税法第九条第一項の規定
による酒類の販売業免許を受けないで酒類の販売することを企て、所持し、販売業
をしたという嫌疑を理由として、国税犯則取締法第二条第一項に基づき、原告が所
有し所持していた別紙物件目録(一)記載の物件(以下、本件差押物件という。)
を差し押えた(以下、本件差押処分という。)。
2 次いで、前記川口税務署収税官吏は、昭和五七年三月二六日関東信越国税局収
税官吏に対し、本件差押物件を犯則事件の証憑として引き継いだ。
3 そして、関東信越国税局長は、昭和五七年七月一五日付通告書により原告に対
し、白河税務署に罰金に相当する金一万五、〇〇〇円及び書類送達費金六六〇円を
納付し、没収品に該当する別級物件目録(二)、(三)記載の物件(以下、本件酒
類という。)の納付の申出をすること、これらの通告の旨の履行が通告書送達の日
から二〇日以内になされないときは検察官に告発することを内容とする通告処分を
し、原告は、同月二〇日これらにつき通告の旨の履行をした。
4 しかしながら、販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければ酒類の販
売業をすることができないとする酒税法第九条第一項の規定は、営業の自由を保障
する憲法第二二条第一項の規定に違反する違憲無効のものであるから、本件差押処
分も法律上の根拠を欠き無効であり、また、原告の被告に対する本件酒類の納付も
法律上の原因を欠くものである。
5 よつて、原告は、被告に対し、主位的に本件差押処分が無効であることの確認
を求め、これが容れられないときは、不当利得として別紙物件目録(二)、(三)
記載の本件酒類の返還及び右酒類につき納付の申し出をした昭和五七年七月二〇日
から右返還に至るまで右酒類の価格に相当する金一四一万七、五八二円に対する年
五分の割合による損害金の支払いを求めるため、本訴に及んだ。
(二) 被告の本案前の申立に対する原告の反論
国税犯則取締法第一六条第一項にいう通告の旨の履行とは、犯則者がその自由意思
により、通告書において通告の趣旨として記載された罰金相当額等を納付し、これ
により事案の終結を選択したものでなく、犯則者が、二〇日以内に納付しないとき
に科せられる刑罰を避けるために強制的に履行させられているにすぎないものであ
つて、いわば略式命令による罰金の納付ともいつた類のものであるから、犯則者
は、通告の旨の履行をしたからといつて、これにより事件の終結を選択したわけで
はなく、その後履行の効果を争つて各種訴訟を提起することもできる。また、通告
の旨の履行をしたことは、これにより間接税徴収という最終目的を達成したもので
はなく、これを達成するためには更に納付した物品につき公売処分を要し、場合に
よつては廃棄処分など後続処分が行われる。従つて、原告は、差押に続く処分によ
つて損害を受けるおそれがあるから、本件差押の無効確認を求める利益がある。
二 請求原因に対する認否並びに本案前の申立に関する被告の主張
(一) 請求原因1ないし3の事実を認めるが、同4の主張を争う。
(二) 1間接国税に関する犯則事件にあつては、原則として、収税官吏は当該事
件の調査結果を所轄国税局長又は税務署長に報告し、その報告を受けた右局長又は
税務署長は、調査の結果犯則の心証を得たときは、犯則者に対し通告処分を行うべ
きものとされており、そして、通告処分においては、犯則者に対し通告の理由、罰
金又は科料に相当する金額、書類送達費及び没収品に該当する物品等を納付すべき
こと並びに通告書の送達を受けた日から二〇日以内に通告の旨を履行しないときは
検察官に告発する旨が通告される(国税犯則取締法第一三条第一項、第一四条第一
項。)。そして、犯則者が通告の旨を履行したときは、当該犯則事件については、
公訴権が消滅する(同法第一六条第一項。)。
右のような通告処分を受けた場合、犯則者は、通告の旨を履行して公訴権を消滅さ
せて事件を終了させるか、又は、その履行をせずに告発を受け刑事手続において犯
則事実の有無等を争うかのいずれかを選択できるのであるが、本件において原告
は、通告の旨を履行して前者の途を選択したのである。従つて、本件差押にかかる
酒類は、没収品に該当する物品として、納付の申し出により国庫の所有に帰し、原
告はもはや後続処分を受けることはない。原告は、履行後も公売処分という後続処
分が存在するかのように主張するが、これは、国税徴収法に基づく差押・公売と混
同するものである。
以上のとおり、原告の本件差押処分無効確認の訴えは、訴えの利益を欠くものであ
るから、不適法である。
2 また、原告の予備的請求は、関連請求に係る訴えとして追加されたものである
が、右訴えは、併合要件を欠き不適法である。すなわち、行政事件訴訟法第一九条
第一項が関連請求に係る訴えの追加的併合提起を認めた趣旨は、審理の重複、判断
の矛盾を避けるためであると解されるが、この趣旨からすると本来の請求が訴訟要
件を具備していることを要するところ、本件における原告の予備的請求は、主位的
請求である差押処分無効確認の訴えが訴えの利益を欠く不適法な場合であることを
前提にしていることが明らかであるから、併合要件を具備しない。
さらに、原告が納付した本件酒類は、没収該当品として国庫に帰属したのであるか
ら、被告は右酒類の返還請求につき被告適格を有しない。従つて、この点からも、
本件予備的請求は不適法である。
3 以上のとおりであるから、原告の本件訴えは、いずれも却下されるべきであ
る。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 引継前の被告川口税務署収税官吏大蔵事務官A、同Bが昭和五六年一一月二七
日埼玉県草加市<地名略>において、請求原因1のとおり、原告が酒税法第九条第
一項の規定による販売場のある所轄税務署長の免許を受けないで酒類の販売業をし
たとの嫌疑を理由として、国税犯則取締法第二条第一項の規定に基づき、原告が所
有し所持していた別紙物件目録(一)記載の本件差押物件を差し押えたこと、右収
税官吏らは、請求原因2のとおり、関東信越国税局収税官吏に対し右差押物件を犯
則事件の証憑として引き継いだこと、関東信越国税局長は、請求原因3のとおり、
昭和五七年七月一五日付通告書によつて原告に対し、白河税務署に罰金に相当する
金一万五、〇〇〇円及び書類送達費金六六〇円を納付し、別紙物件目録(二)、
(三)記載の本件酒類の納付の申し出をすること、これらの通告の旨の履行が通告
書送達の日から二〇日以内になされないときは検察官に告発することを内容とする
通告処分をし、原告が同月二〇日これら通告の旨の履行をした事実は、いずれも当
事者間に争いがない。
二 そこで、先ず、主位的請求である本件差押処分無効確認請求の適否について判
断する。
酒税法第九条第一項、第五六条第一項第一号、第二項の規定によると、酒類販売業
を営もうとする者は、政令で定める手続により、決定の除外事由がある場合を除
き、販売場ごとにその販売場所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならず、
その免許を受けずに酒類の販売業をした者は一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰
金に処せられ、右犯罪に係る酒類等は何人の所有であるかを問わず没収されること
になつており、また、国税犯則取締法第二条第一項、第一一条第四項、第一三条第
一項、第一四条第一項、第一六条第一項、第一七条の規定によれば、収税官吏は国
税に関する犯則事件を調査するため必要あるときは裁判官の許可を得て捜索差押等
をすることができ、税務署等の収税官吏が集取した証憑のうち重要な犯則事件の証
憑は所轄国税局収税官吏に引き継ぎ、同収税官吏は間接国税に関する犯則事件の調
査を終つたときは、犯則嫌疑者の居住不明等の場合には直ちに告発するほか、その
他の場合には、所轄国税局長にこれを報告すべきものとされ、右の報告を受けた国
税局長は、その犯則事件の調査によつて反則の心証を得たときは犯則者に対し、そ
の理由を明示し、罰金又は科料に相当する金額及び書類送達費等を指定の場所に納
付し、没収品に該当する物品については納付の申し出をなすべき旨通告をすること
ができ、犯則者が通告の旨を履行したときは当該事件につき公訴を受けることはな
いが、二〇日以内にこれを履行しないときは、国税局長は犯則者を告発するものと
されている。
すなわち、反則者は、通告処分がなされた場合犯則事実の存否を争わずに通告の旨
を履行にて公訴権を消滅させるか、又はこれを履行しないで刑事手続において争う
かのいずれかを、その自由意思により選択できるのであるが、履行を選択した場
合、犯則者は、罰金等に相当する金額を納付し、没収品に該当する物品等を納付し
たことになる反面、公訴権が消滅し、起訴されることがなくなるのである。換言す
ると、通告処分制度は、間接国税につき徴税の円滑な実現及び刑罰権の無用な発動
の防止を計つた、いわば犯則者と国家との私和を認めたものと解することができ
る。この点に関して原告は、通告の旨の履行は犯則者の自由意思により事案の終結
を選択したものではなく、いわば略式命令による罰金の納付といつた類のもので強
制的に履行させられるものであると主張するが、右は原告の独自の見解に基づくも
のであつて当裁判所の到底左袒し得ないところである。
本件においては、前示認定のとおり、原告は、昭和五七年七月一五日関東信越国税
局長から通告処分を受け、同月二〇日罰金に相当する金一万五、〇〇〇円等を納付
し、本件酒類の納付の申し出をしてその履行を終え、これによる事件の終結を選択
したものであるから、本件酒類の所有権は右納付の申し出により確定的に国庫に帰
属したものと解すべきものである。この場合右国税局長は、担当係官をして右酒類
を公売処分をし、又は腐敗のおそれがあるなど公売処分に適しない場合にはこれを
廃棄処分をすることになるが、所有権が確定的に国庫に帰属した本件酒類に対する
右の如き処分は、没収品に対する処分と異なるところはないから、これをもつて通
告処分に後続する処分であるとする原告の主張は当を得たものではない。
そうすると、原告の本件差押処分の無効確認を求める訴えは、訴えの利益を欠き許
されないものといわなければならない。
三 次に、予備的請求の適否について判断する。
本件主位的請求が確認の利益を欠く不適法なものであることは前示のとおりであ
る。従つて、原告の本件予備的請求は、不適法な主位的請求に係る関連請求として
併合提起されたものというべきであるところ、無効等確認の訴えにつき関連請求に
係る訴えの併合提起を認めた行政事件訴訟法第三八条第一項、第一九条第一項の規
定の趣旨は、審理の重複、裁判の矛盾を避けるという点にあるものと解されるか
ら、関連請求の併合要件として、主位的請求が本案審理をするための訴訟要件を具
備していることを要するものと解すべきであり、主位的請求が訴訟要件を具備しな
い不適法な場合においても予備的請求の併合提起まで許容するものと解することは
できない。のみならず、本件予備的請求は、行政訴訟事件とは異なる通常の民事訴
訟事件であるから、単なる行政庁に過ぎない被告に当事者能力を認めることもでき
ない。
従つて、本件予備的請求は、いずれにしても不適法である。
四 以上のとおり、本件訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することと
し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 長久保 武 榎本克巳 坂野征四郎)
別紙物件目録(一)~(三)(省略)

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