弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴はこれを棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人竹沢哲夫作成名義の別紙控訴趣意書と題する書面記載
の通りであるから、これを本判決書末尾に添附しその摘録に代え、こに対し次の通
り判断する。
 第二点について。
 記録に依ると被告人に対する本件起訴状には、公訴事実として被告人は法定の除
外事由がないのに第一、昭和二十六年十一月五日頃東京都墨田区ab丁目c番地A
方においてフエニルメチルアミノプロバン塩酸塩を含有する覚せい剤一立方糎アン
プル入約百本を製造し、第二、同月六日頃同所において同様の覚せい剤一立方糎ア
ンプル入約二百本を製造し(第三、省略)と記載されてあり原審検察官は原審公判
廷において起訴状記載の第一、第二の公訴事実を陳述し原審弁護人の求に依り本件
覚せい剤製造罪の既遂の時期はアンプルに覚せい剤を詰めたときであると釈明した
のに対し原審弁護人は粉末を蒸溜水に入れ溶解したときに同罪の既遂となり従つて
公訴事実第一、第二は包括一罪であると述べたことを認めることができる。しこう
して原判決は公訴事実第一、第二に対し被告人は法定の除外事由がないのに第一、
昭和二十六年十一月四日頃東京都墨田区ab丁目c番地A方で一立方糎アンプル入
約三百本に相当する量のフェルメチルァミノプロバン塩酸塩を含有する製剤を製造
したとの事実を認定していること所論の通りであり、右事実は原判決挙示の証拠に
依りこれを認めることができるのであるが、右原判決認定の事実は公訴事実第一、
第二と同一性を有する事実と認め<要旨>られるのであるから審判の対象となる事実
であり、しかも公訴事実に示された訴因並に罰条に依り限定された審判の範
囲を逸脱したものと認められないのである。蓋し原判決が公訴事実第一、第二に対
し判示第一、の事実を認定しているのは判文と挙示の証拠に依り明らかのように覚
せい剤製造罪の既遂の時期について、起訴状に示された検察官の見解と異なる見地
の下に、事実を認定したことに依るものであつて、すなわち、同罪の既遂の時期
は、原審弁護人の主張したように、被告人が殺菌した水道の水にメチルプロバミン
とカフエン、及食塩を一定の割合に加えて溶解したときを以つて既遂の時期とした
結果、判示第一、の事実を認定したものであることが認められるのである。かかる
原判決の認定は何等被告人に不利益を及ぼすことなくしての法律上の見解を起訴状
記載の公訴事実に示された検察官のそれと異にしたに過ぎないもので、しかも原判
決の右既遂の時期についての法律上の見解は相当であると認められるのである。し
からば原判決が公訴事実第一、第二、に対し判示第一、の事実を認定した理由を特
に判文中に明示するところがなかつたとしても、前記のように判示事実と挙示の証
拠によりその理由を知ることができるのであるから、これを目して所論のように理
由不備ということはできないし又被告人が判示覚せい剤を製造した方法は特に判文
中に具体的に示さなければならないものではなく、その挙示する証拠によりこれを
知ることができれば足るものと解すべきであり、その挙示する証拠に依ればこれを
知るに難くないのであるから、原判決が被告人の判示覚せい剤製造法を具体的に判
文中に示さなかつたとしても、これ亦所論のように理由不備の違法があることには
ならないのである。それ故原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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