弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人は無罪。
理由
1本件公訴事実は,
「第1被告人は,平成18年1月4日午前5時10分ころ,業務として普通貨
物自動車(以下「本件車両」という。)を運転し,富山県射水市内の道路
(以下「本件事故現場」という。)を,富山市方面から射水市方面に向か
い時速約40キロメートルで進行するにあたり,前方左右を注視し,進路
の安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,
進路右側の建物に気をとられるなどし,前方注視を欠いたまま進行した過
失により,折から台車(以下「本件台車」という。)を押して立っていた
被害者(当時81歳)を進路前方左側約8.8メートルに迫って発見し,
急制動及び右に急転把の措置を講ずるも間に合わず,台車等に自車左前部
を衝突させて同人を転倒させ,よって,同人に加療約2週間を要する左下
腿挫滅創等の傷害を負わせた。
第2被告人は,上記のとおり,被害者に傷害を負わせる交通事故(以下「本
件事故」という。)を起こしたのに,直ちに車両を停止して,同人を救護
する等必要な措置を講ぜず,かつ,その事故発生の日時及び場所等法律で
定める事項を,直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかった。」
というのである。
2被告人は,公判廷において,本件事故発生時刻ころ,本件車両を運転して本件
事故現場を富山市方面から射水市方面に向かって走行していたことは認めるが,
自らは犯人でないとして,公訴事実におけるその犯人性を否認する旨供述してい
る。
そして,被告人は,本件事故現場を通ったとき,進行道路右側にある「甲ビ
ル」駐車場に回転灯を回した新型クラウンのパトカーが同道路方向を向いて駐車
し,同道路左側に本件台車だけがあり,しばらく走ると,銭湯の前辺りで,サイ
レンを鳴らして富山市方面に向かって走る救急車とすれ違ったと弁明している。
3検察官は,被害者が加害車両の色と形を見間違えた可能性があること,本件車
両左前部ウインカーランプ(以下「本件ウインカーランプ」という。)部分が被
害者が押していた台車上のかご(以下「本件かご」という。)上部左端部分に衝
突等した可能性があること,同車両が被害者の左ひじ等の身体に衝突等した可能
性があること,被告人の捜査段階での自白は信用性が高いが,被告人の公判廷で
の供述は信用性が低いことなどを指摘して,被告人が犯人であると主張している。
4そこで,以下において検討する。
(1)被害者の公判廷における供述によると,被害者は加害車両を黒い乗用車と認
識していること,警察官から取調べを受けたときもその旨述べていたこと,被
害者宅では本件車両と同じ白い軽四トラックを保有し,被害者はその色と形に
ついて十分な認識があったことが認められる。ところが,上記供述,捜査関係
事項照会書謄本,同回答書及び実況見分調書によると,本件事故発生時刻ころ
の本件事故現場付近は未明で暗かったこと,本件事故は突然起きたもので,被
害者も転倒していること,加害車両は被害者が転倒した地点から約30メート
ル先の道路上で停車したが,その付近も暗かったこと,当時は粗い雪が降り視
界が良いといえる状況でなかったこと,被害者の年齢は81歳という高齢で視
力も0.4ないし0.5程度しかなかったことなどが認められ,被害者が本件
車両の色を黒いものと見間違えた可能性があるが,その可能性があるからとい
って,被告人が犯人であると認めることができず,むしろ,同供述によれば,
約30メートル先で停止した加害車両がテールランプを付けていたこと,被害
者には,同車両の傍らに犯人と思える人物が立って被害者の様子を見ており,
被害者が立ち上がって同人物の方を見ると同人物は同車両に乗って立ち去って
行ったことまで認識できたことが認められ,被害者のいた位置とは逆方向に向
けて同車両が前照灯を照射していたことが推認でき,その前照灯とテールラン
プの明かりで,被害者には同車両及びその停車位置付近の様子がある程度見え
る状況にあったことが認められる。そうであるならば,加害車両の後ろの形が
トラックのように荷台があるようには見えなかった旨の被害者の公判廷におけ
る供述には信用性が認められ,本件車両が加害車両であることについて強い疑
いを持たざるを得ない。
(2)被害者の公判廷における供述,診断書,検証調書,実況見分調書によれば,
本件ウインカーランプには擦過こんのようなものがあり,その位置と本件かご
上端の位置とがほぼ一致していること,本件事故によって被害者がその左すね,
左ひじ及び右脇腹を受傷したことが認められる。しかし,上記擦過こんのよう
なものが本件事故によって発生したこと及び加害車両が被害者の身体に接触な
いし衝突して同人が受傷したことを認めるに足りる証拠がない。
(3)被告人及び証人Aの各供述によると,被告人は,警察に任意同行された当時,
本件犯行を否認していたが,任意同行当日のうちに自白し,それ以降略式命令
が発令されるまで,勾留裁判官の前でも否認することなく,逮捕,勾留期間中,
一貫して本件犯行を認めており,本件事故の原因,事故状況,その前後の状況,
酒気帯び運転で人身事故を起こした職業運転手の心情,逃げるに至る動機等に
ついて具体的かつ詳細に供述し,その内容に矛盾がなく,迫真性があり,一見,
自然かつ合理的であるものの,他の証拠と照らし合わせると,次のとおり,そ
の信用性に大きな疑いがもたれ,これを被告人の犯人性についての十分な証拠
と認めることができない。
ア本件車両の左前照灯について
被告人の自白は,本件事故を起こして本件車両を走らせて逃走する途中,
事故前はしっかり前方を照らして道路沿いの左雪壁を明るくしていた同車両
の左前照灯が暗く見えることに気付いたが,同車両を止めて確認していたら
勤務先の会社に遅れるかもしれないと思ったので,そのまま走り続けて同会
社の駐車場に着き,辺りに人がいないことを確認してからエンジンをかけた
ままで同車両前部を見ると左前照灯のレンズが奥に引っ込み,右方向を向い
ているのがわかり,事故のときやはり被害者とぶつかったときに壊れたもの
と思ったというものであるが,検証調書によれば,確かに本件車両の左前照
灯の右側部分は約2センチメートル奥まっているが,そのような外観である
にもかかわらず,同前照灯の光軸位置の測定結果に何ら異常がなく,同前照
灯は正常な照射状態であり,また,同前照灯内部には何ら交通事故のこん跡
のようなものが認められない状態であったというものである。そうすると,
上記前照灯の奥まりは,本件事故によって出来たものでなく,また,上記自
白は本件事故を起こしたとする被告人がその逃走過程において経験した事実
としては,事実に反するものと認められる。そして,本件事故の捜査段階さ
らには公訴提起に至った後においても,上記前照灯の奥まりは,本件事故に
よって出来た可能性が高いものとされ,上記自白はその犯人性を裏付ける重
要な部分であったところ,同奥まりが本件事故とはまったく関係がなく,同
自白部分が虚偽とされる以上,被告人の犯人性については強い疑いを払拭で
きない。
イ本件事故における衝突時の状況について
被告人の自白は,道路左端の被害者を目前に気付いて慌てて急ブレーキを
かけ,ハンドルを右に切って避けようとしたが,間に合わずにボコッという
大きくて鈍い音がして左前輪が何かに乗り上げるような感じがし,被害者の
腰の辺りに衝突したように思った,ハンドルを右に切ったことで,自動車が
道路の真ん中辺りに出ていたというものであるが,被害者の公判廷等におけ
る供述は,加害車両は避けて行ってくれずに真っすぐに来てぶつかり,その
ときガチャンという音がし,ぶつかる直前同車両が急に遅くなった様でなか
ったし,ブレーキ音も聞こえず,同車両前部左側と押していた台車前部左角
とがぶつかったように思う,その台車が自分の左足に当たったことは間違い
ないが,同車両が自分の左ひじや右脇腹に当たったかどうかはわからないが,
ぶつかっていないように思う,同車両が,被害者を避けて道路の中央の方に
寄って行ったようには見えなかったというもので両者の間には明らかな相違
が認められる。上記自白は,加害車両が被害者の身体に接触ないし衝突した
ことを前提にしているものと認められるが,同車両が被害者の身体に接触な
いし衝突したかどうかは明らかでなく,また,急ブレーキや右急ハンドルと
いう運転操作は,道路前方左側に人がいるのを発見したドライバーが通常行
う運転操作ではあるが,粗い雪も降り,積雪状態であった未明の本件事故現
場で自動車運転を職業としていた被告人が,とっさのことではあったとして
も,このような危険な運転操作を行ったものとは考えにくいなど,上記被害
者の供述と異なる同自白には,疑問の余地がある。
ウ本件事故における衝突後の状況について
被告人の自白は,ぶつかって約30メートルくらい進んで止まった本件車
両から降りて後方を見ると,被害者が道路上に仰向けになって倒れており,
その周囲に新聞紙が散乱していたというものであり,その内容は被害者の公
判廷における供述と一致する。ところが,上記4(1)のとおり,当時,被害者
の転倒した付近は暗くて視界もよくない状況であったとすれば,被告人に,
約30メートル先に新聞紙が散乱して被害者が仰向けの状態で倒れていたと
ころまで見えたとは考えにくく,上記自白には疑問の余地がある。
(4)証人B及び証人Cの公判廷における各供述,住宅地図抜粋写しによれば,上
記パトカー及び救急車の存否についてすべての関係機関に対して照会,調査等
がなされていないこと,その回答,結果等について確実,十分な資料に基づい
たものか疑問があること,被告人が本件事故現場付近を通過する際に被害者と
すれ違う可能性があったのはわずか約200メートルの間で,被告人の走行ス
ピードが時速40キロメートル以上であったとすれば,被告人がその間をごく
わずかな時間で通過していることが認められ,被告人の前記弁明どおりの状況
がなかったとは断定できず,本件では,上記のとおり,有罪を立証すべき証拠
が十分でないのであり,被告人の弁明の立証に不十分な点があるとしても,そ
のことをもって有罪認定の資料とすることはできない。
5以上検討してきたように,被告人を犯人と認定するに足りる証拠がない。した
がって,被告人に対する本件公訴事実については,その証明が不十分であって,
犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪
の言渡しをする。
よって,主文のとおり判決をする。
平成18年11月8日
高岡簡易裁判所
裁判官山田孝哉

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