弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人高橋岩男の上告理由第一、二点について。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定した事実関係によれば、上告
人は、訴外D株式会社の被上告人B信用金庫(以下「被上告金庫」という。)に対
する消費貸借上の債務を担保するため、その所有の本件各不動産につき根抵当権を
設定するとともに、あわせて右各不動産について代物弁済の予約を締結し、根抵当
権設定登記および代物弁済の予約につき仮登記を経由したところ、被担保債務が遅
滞に陥つたため被上告金庫は右根抵当権実行のため競売申立をしたが、右競売手続
の進行中、訴外Eにおいて被上告金庫、上告人および右訴外会社の承諾を得たうえ
被上告金庫に対し根抵当債務およびこれに優先する他の抵当債務を訴外会社のため
代位弁済し、抵当権設定登記につき付記登記を経由して競売申立人の地位を承継し、
同時に被上告金庫から代物弁済の予約上の権利の譲渡をも受けて、その仮登記につ
いて付記登記を経由した。Eは、その後、上告人に対し右代物弁済の予約完結権を
行使したが、右予約完結権の行使前になされた競売申立取下げの申請は、利害関係
人の同意がなかつたためその効力を生じえず、したがつて、右完結権行使の当時競
売手続はなお進行中であつたというのである。
 ところで、かように貸金債権の担保のため不動産に抵当権を設定し、これにあわ
せてその不動産について代物弁済の予約を締結した場合において、債権者が抵当権
実行のため競売申立をし、その競売手続が進行を開始したときは、債権者は右競売
申立を有効に取り下げるかまたは競売手続がその他の事由により取り消されて終了
しないかぎり、代物弁済の予約の完結権を行使することは許されないと解するのが
相当である。けだし、債権者が一方において抵当権の設定を受けながら、他方にお
いてその抵当不動産を目的とする代物弁済の予約を締結するのは、債務者が弁済期
に債務を履行しないときに、債権者において自己に有利とする方の債権満足の手段
を選択行使して債権の優先的満足を図ろうとするにあるのであるから、すでに債権
者において抵当権の実行による債務清算の方途を選択しながら、その手続の終了を
みないままさらに別個の債権満足の手段たる代物弁済の予約上の権利を行使するこ
とができるものとすることは、結果において双方の手段を競合的に行使することに
帰し、選択行使の趣旨に反することとなるからである。そして、かように解するこ
とは、最高価競買申込人が生ずるまでの間は競売申立人にその申立の取下げの自由
を認めつつ、最高価競買申込人が生じて後はその同意を得なければ取下げを許さな
いものとし、また競落期日後は取下げについて競落人を含め利害関係人全員の同意
を要するとして競売手続上の利害関係人の利益を保護する競売法の趣旨にも調和す
るものといわなければならない(同法二三条、当裁判所昭和二四年(オ)第一三五
号、同二八年六月二五日第一小法廷判決・民集七巻七五三頁参照)。なお、債務の
担保のため抵当権を設定し、あわせて代物弁済の予約が締結された場合において、
その代物弁済の予約には、債務者が履行期を徒過した場合に、有効な完結権の行使
がなされるときは、目的不動産の所有権が移転し第三者に対する対抗要件を具備す
ることによつて直ちに既存債務を消滅させる効果を生ずる本来の意味における代物
弁済の予約の内容を有するものと、右の意味における代物弁済の予約ではなく、単
にその形式を借りて予約完結権を行使することによつて債権者はその目的物件の換
価処分権を取得し、その換価により得た金員から債権の優先弁済を受けることを内
容とするものとがありうるが(当裁判所昭和四〇年(オ)第一四六九号、同四二年
一一月一六日第一小法廷判決・裁判所時報四八六号一頁参照)、抵当権設定契約と
併存する代物弁済の予約がそのいずれの内容を有する場合であつても前記説示する
ところは、その理を異にしない。さらに、所論は、競売手続の進行中であつても債
務者は債権者に対して任意に債務を弁済して抵当権の実行を阻止しうるのに、弁済
と並んで債務消滅の一方法にすぎない代物弁済が許されない理由はないというが、
競売手続の進行中に併存する代物弁済の予約上の権利を行使することが許されない
のは、抵当権実行によつて選択権を行使したからであつて(ことに、前記の予約完
結権の行使によつて目的物件の換価処分権を取得することを内容とする予約を例に
とれば、債権者は抵当権を実行しながら予約完結権を行使した結果、さらに自らも
これに併行して債務清算の手続を遂行する事態を生ずることになるから、その許さ
れざることは明らかである。)、債務者が進んでまたは債権者との合意によつて弁
済、相殺、代物弁済等をし、または予約上の権利の行使に関係なく債権者において
債務の免除をしたこと等により債務が消滅する場合とを同日に論ずることはできな
いものといわなければならない。
 してみると、本件においてEがその取得にかかる代物弁済の予約完結権を行使し
た当時、本件各不動産に対する競売手続はなお進行中であつたというのである以上、
Eは右予約完結権を行使しえない地位にあつたものというべきであり、同人のした
予約完結権の行使はその効力を生じえなかつたものといわなければならない。した
がつて、これと同旨に出た原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない
から、論旨はいずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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