弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一、原告が被告に対し、労働契約上の権利を有することを確認する。
二、被告は原告に対し、金七一一、三三三円および昭和四五年八月二一日以降本判
決の確定に至るまで毎月二八日限り金一七、五〇〇円を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
四、この判決は主文第二項に限り仮に執行することができる。
       事   実
第一 当事者の求める裁判
一、原告「主文第一ないし第三項同旨」の判決並びに第二項につき仮執行の宣言。
二、被告「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。
第二 当事者の主張
一、請求原因
(一) 原告は東京都立足立工業高等学校(以下足立工高という)三年在学中、被
告会社の昭和四二年三月高校新卒者募集に応募し、同年一月一九日被告会社の従業
員採用試験を受験することにより労働契約締結の申込をなし、同月二〇日被告会社
より「採用決定のお知らせ」なる通知を受け承諾を得たので、同日原被告間に労働
契約が成立した。但し右労働契約は、原告が同年三月中に足立工高を卒業できない
ことを解除条件とし且つ就労は卒業後の同年四月一日就業場所は被告会社の本社工
場、賃金は月額一七、五〇〇円とする約定であつた。ところで原告は同年三月一一
日同校を卒業したから右解除条件は不成就に帰し、又原告の就労時期についても被
告との合意の下に、同月一三日よりこれを提供することとして前記の特約を変更し
た。かくして原告は同月一三日より被告会社において稼働していたところ、被告会
社は同月二五日原告に対し「原告は左足に小児麻痺後遺症があり、現場作業者とし
て不適格である」として、採用内定取消なる通知をもつて原告を解雇し、翌二六日
以降従業員として取り扱わない。
(二) しかしながら右解雇は次のいずれかの理由によつて無効である。
1 解雇権の濫用
 原告はその左足に小児麻痺後遺症があるが、それは歩行の際若干不便を感ずるだ
けの極めて軽度のものであり、足立工高在学中は体育授業および各種実務演習も何
ら支障なく修了し、ことに剣道も練習をして初段を取得した程であつて、日常生活
は勿論作業をするうえでも全く障害にならない。これに加えて原告は被告会社の採
用試験に応募する際、履歴書等と共に健康診断票を提出し、又昭和四二年一月一九
日被告会社において前記採用試験の一環として行われた面接では同会社の工場長・
技術部長・総務部長勤労部長等が列席し、原告の身体状況ことに歩行状態を観察し
たほか、被告会社は同月二五日原告の健康診断を行ない、原告の身体障害の態様・
程度を知悉したうえで原告が現場従業員として作業に堪え得るものと判断し採用し
たのである。更に原告は同月一三日以降二五日まで就労作業した間にも作業面で何
の支障もなかつたのである。したがつて、本件解雇はその該当事由なくしてなされ
たものであつて、解雇権の濫用として無効である。
2 労働基準法第三条違反
 原告は足立工高在学中、生徒会長等を勤め、又卒業直前には同級生四名に対する
思想問題による退学処分を撤回させる等民主的な生徒会活動を行つていたものであ
るところ、足立工高のA校長はこれを快しとせず、原告が生徒会長に選任された際
原告に対し「民主青年同盟に加入しているのか」と質問したり、原告が卒業時にベ
トナム問題にふれた答辞を起案した際答辞の内容が思想上反戦的であるとして修正
を要求する等原告の思想信条に強い反感を抱いていた。しかしてA校長と被告会社
の代表者Bとは親交があるところから、被告会社は原告を採用した後足立工高在学
中における原告の行動を知り、その思想信条を左翼的であるとして嫌悪し、よつて
解雇におよんだものである。したがつて本件解雇は労働基準法第三条に違反し無効
である。
(三) 原告に対する解雇が無効である以上、原告は依然として被告会社に対し労
働契約上の権利を有し、昭和四二年三月二六日以降の賃金請求権を失わないとこ
ろ、原告の賃金は前月二一日より当月二〇日までの分を一ケ月の賃金として当月二
八日に支払われる約定であつた。但し、昭和四二年二八日に支払われるべき同年四
月一日以降同月二〇日までの賃金額は一一、三三三円である。よつて原告は被告に
対し、労働契約上の権利を有することの確認並びに昭和四二年四月一日以降本件口
頭弁論終結時たる昭和四五年九月九日までに弁済期の到来した前記月額一七、五〇
〇円(但し昭和四二年四月分は一一、三三三円)の割合による賃金合計七一一、三
三三円(昭和四二年四月分ないし昭和四五年八月分)の支払および昭和四五年九月
分以降本判決確定に至るまでの賃金についても被告会社において現に原告の就労を
拒否している以上予め請求をなす必要があるから毎月二八日限り一七、五〇〇円の
支払を求める。
二、請求の原因に対する被告の答弁と主張
(答弁)
(一) 請求原因(一)の事実中、原告が足立工高在学中の昭和四二年一月一九日
被告会社の従業員採用試験を受験し、被告会社が翌日原告に対し「採用決定のお知
らせ」なる通知をしたこと、原告が同年三月一一日同校を卒業したこと、原告と被
告会社との間に労働契約が成立した場合には原告の賃金額、就労日が原告主張のと
おりであること、被告会社が原告に対しその主張の如く採用内定取消の通知をした
ことは認め、その余は争う。被告会社では高校卒業の従業員を採用する場合、通常
は採用試験(筆記および面接)の後、被告会社による採用試験合格通知、入社説明
会(入社日その他の説明)を行い、その後合格者から健康診断書・誓約書・身元保
証書を提出させる等の手続を経て四月一日の入社式において正式に労働契約を締結
せしめており、原告の場合も右と同様の手続によつたものであるから、原告が昭和
四二年一月一九日被告会社の従業員採用試験を受験し、被告会社が翌日原告に対し
て合格通知をなしたからとて、それは前記の如き一通の採用手続の一過程に過ぎ
ず、右はそれぞれ労働契約の申込・承諾ではなく、原被告間に原告主張の如き労働
契約が成立するものではない。仮りに被告会社が原告に対し合格通知をしたことに
より、両名間に何らかの契約が成立したものと解すべきであるとしても、右は同年
四月一日に改めて労働契約(本契約)を締結することを目的とする予約に過ぎない
ものというべきであつて、原、被告間に労働契約は成立していなかつたものであ
る。
(二) 同(二)の事実のうち、原告の左足に小児麻痺後遺症があり、被告会社が
原告から従業員採用試験に先立ち提出された健康診断書によりこれを知つたこと、
昭和四二年一月一九日の面接に総務部長が列席したこと、同月二五日被告会社にお
いて原告に対し健康診断を行つたことおよび同年三月一三日から二五日までの間原
告が被告会社で作業したことを認めるが、その余の事実はすべて争う。
(三) 同(三)の事実中、原被告間において原告主張のとおり労働契約が成立し
たものとすれば、昭和四二年四月一日以降の原告の得べかりし賃金額およびその支
払日・締切関係が原告主張の如くであることは認め、その余は争う。
(主張)
 被告会社では、第三四期営業年度(昭和四〇年六月一日から四一年五月三一日ま
で)の下半期に当る昭和四一年三月下旬頃、同期の営業実績が無配当であつたこと
を斟酌し、会社の再建を期して第三五期営業年度(昭和四一年六月一日から四二年
五月三一日まで)の新規採用人員数を含めて経営計画を立案し、右立案計画に基づ
いて原告を採用すべく前記のとおりその手続を踏んだのであるが、昭和四二年三月
頃は第三六期営業年度(昭和四二年六月一日から四三年五月三一日まで)の経営計
画立案の時期であつたところ、その際に斟酌された第三五期の営業実績は依然とし
て悪く、これを放置すれば二期連続の無配はもとより、再建不能となることも予見
されたので、第三六期の経営計画は抜本的解決策即ち受注獲得の各種方策とともに
人事の合理化の為人員整理も不可避となつた。そこで作業能力の劣る者や、作業上
発展を望めない者等会社再建の為に寄与すること少ない者につき退職勧告等の方法
により人員整理をすることになつた。しかして原告については、同人がたまたま昭
和四二年三月一三日から一五日までの間アルバイトとして被告会社で作業した際そ
の左足小児麻痺後遺症の為現場作業者として能力が劣り、又将来の発展の見込みも
ないものと判断されたので、前記のとおり採用内定を取消したものである。
三、被告の主張に対する答弁
 原告が昭和四二年三月一三日から二五日まで被告会社で作業したことおよび被告
会社が原告に対し採用内定取消なる通知をしたことは認める。しかし、被告会社が
第三六期営業年度においてその主張の理由により人員整理の必要性があつたこと、
原告が現場作業者として能力が劣り或いは将来発展の見込みがないことおよび原告
が前記の期間被告会社で作業したのがアルバイトとしてであることについては否認
し、その余の事実は不知である。被告会社の第三五期営業年度の実績は、国鉄関係
の車輛部門の受注は前期と同程度であるが、船舶部門の受注は前期に比し増加し、
又自動車部門の受注が新たに加わり合計九、五〇〇、〇〇〇円の売上を得ており、
前期の赤字を脱し黒字に転化していたもので業績悪化はなく、更に次期には少なく
とも船舶部門・自動車部門の受注増加が見込まれていた。従つて第三六期営業年度
を前にして人員整理の心要性は全くなかつたものである。
第三 証拠(省略)
       理   由
一、原告が足立工高三年在学中、被告会社の昭和四二年三月高校新卒者募集に応募
し同年一月一九日被告会社の従業員採用試験を受験し、被告会社が翌日原告に対し
「採用決定のお知らせ」なる通知をしたこと、原告がその後同年三月一一日足立工
高を卒業したこと、原告の被告会社への就労予定日は同年四月一日であつたことお
よび被告会社が同年三月二五日原告に対し「原告の左足には小児麻痺後遺症があ
り、現場作業者として不適格である」として採用内定取消なる通知をしたことは当
事者間に争がない。
 成立に争のない乙第二ないし第七号証の一、第九ないし第一三号証、第一八ない
し第二〇号証、証人Cの証言により成立を認め得る乙第二七号証の各記載、証人D
(一部)、C、E、Fの各証言および原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和四
一年一二月二〇日頃足立工高進路指導係のG教諭から、被告会社の「会社概要」な
るパンフレツトおよび被告会社における賃金・就業時間・労働日・作業内容等労働
条件を記載した被告会社作成の「昭和四二年三月高校卒業者求人要項」を示されて
被告会社への就職を勧められたので、受験を決意し、同年一月一〇日健康診断書・
卒業見込証明書・学業成績書・身上調書・人物所見書を添えて受験申込をした後、
同月一九日前記のように被告会社の従業員採用試験を受験するに至つたこと、一方
被告会社では当時既に新規学卒者の従業員採用試験を終えていたが足立工高のA校
長から原告ほか一名の同校生徒を特別に採用してほしい旨依頼されたので、原告ほ
か一名に対して採用試験を行い、役員会で相談のうえ採用することに決定し、同月
一九日電報にて原告に対し合格通知をし、翌日改めて「採用決定のお知らせ」なる
文書を原告に郵送したこと、右「採用決定のお知らせ」には、「既に採用決定につ
いては電報にて御通知申し上げましたとおり、貴殿には多数の応募者の中から試験
に合格されました。合格をお喜こび申し上げると共に改めてお通知いたします。な
お入社手続等の日時については追つて御通知いたしますが……云々」と記載されて
いたこと、そして原告は同月二五日被告会社で行われた役員との懇談会に、他の合
格者と共に招かれたが、その席上役員から「被告会社は国鉄や私鉄が相手で経営が
安定している故頑張つてほしい」「他の会社に行かないようにしてほしい」等と云
われ、又誓約書・身元保証書を速かに提出するよう要求されたので、同年二月二日
付で「この度貴社から採用の通知を受けましたについては左記の通り誓約致しま
す。一、昭和四二年三月三一日学校を卒業したならば貴社の御指定に従い正式採用
に応じます。……」と記載した誓約書および身元保証書をその頃被告会社に提出し
たこと、右誓約書および身元保証書は、いずれも被告会社において予め印刷した用
紙が用いられていること、被告会社は同年三月一三日から原告を実習生として電気
部品の組立などの作業に従事せしめていること、被告会社では就業規則上「……詮
衡試験に合格し、所定の手続を経た者を従業員として雇入れる」(第三一条)、
「新たに雇入れられた者は次の書類を提出しなければならない。1自筆履歴書2戸
籍謄本3誓約書および身元保証書4身上調書5厚生年金被保険者証6卒業証明書又
は卒業見込証明書・学業成績証明書」(第三四条)と定められているところ、実際
には新規学卒者の採用に当つては詮衡試験に先立ち応募者の身上書・自己紹介書・
学業成績証明書・卒業見込証明書等を提出させ、これを資料としつつ試験の結果を
常務会で審査して合格者を決定し、合格者に対しては前記原告に送付されたものと
同趣旨の「採用決定のお知らせ」なる文書を発し、その後一月末頃被告会社に合格
者を集めて役員との懇談会を催しその際入社の心得等を説明するとともに誓約書・
身元保証書を提出させ、四月一日に至り入社式を行い、右入社式では単に社長が
「本日から皆さんは当社の従業員となる」旨の挨拶をするに過ぎず、特に合格者と
被告会社との間に雇用契約書を作成するわけでもなく又被告会社から合格者に対し
従業員としての辞令を交付するわけでもないこと、以上の各事実を認めるに足り、
証人Dの証言中右認定に反する部分は、前記採用の各証拠に照らして措信し得ず、
他に右認定を覆すに足る証拠はない。
 以上の認定事実から考えるに、原告の前記従業員採用試験の受験は、被告会社の
提示した賃金・労働時間等に関する労働条件に従う労働契約締結の意思表示として
被告会社に対する労働契約の申込であることは明らかである。被告会社が原告に発
した「採用決定のお知らせ」は、その記載内容からして直ちに原告主張の如く原告
の右申込に対する承諾の意思表示と認めることはできないが、被告会社は原告に対
し採用試験の上、「採用決定のお知らせ」を発し、その後、原告が被告会社の求め
に応じて所定の手続に従い昭和四二年二月二日頃誓約書および身元保証書を被告会
社に提出し、被告会社において異議なくこれを受領したことにより、被告会社の従
業員の雇入れに関する就業規則所定の手続は殆んど完了していること、被告会社の
新規学卒者の採用に当つては、従来から前記のような手続が採られるだけであつ
て、その後に改めて契約書の作成もしくは採用辞令の交付などの手続が採られた慣
例はないばかりか、就業規則上にもそのような手続の定がないこと、およびその後
被告会社が原告の足立工高卒業直後から原告を実習生として被告会社の作業に従事
せしめていることなどの事実に鑑みれば、被告会社が原告に対し誓約書および身元
保証書の提出を求め、これを受領したことをもつて、前示原告の申込に対する黙示
の承諾の意思表示をなしたものと認めるのが相当である。したがつて、昭和四二年
二月二日頃原、被告間に労働契約が成立したものというべきである。ただ、前記誓
約書の内容および右誓約書提出当時原告がいまだ足立工高三年在学中であつた事実
に照せば、右労働契約は原告が同年三月に足立工高を卒業できないことを解除条件
とするものと解すべきところ、原告が同年三月一一日足立工高を卒業したことは、
前示のとおりである。
二、そうすると、被告会社が昭和四二年三月二五日原告に対してなした前示採用内
定取消の通知は、原、被告間の前記労働契約を終了させる解雇の意思表示であると
解すべきであるから、原告に対する解雇事由の存否につき判断する。
 昭和四二年三月二五日当時、被告会社において、その主張の如き事情からその主
張の基準により人員整理が避け得ないところであつたか否かの点についての判断は
しばらくおき、原告が左足小児麻痺後遺症の為現場作業者として能力が劣り又将来
発展の見込みがなかつたか否かについて検討するに、原告の左足に小児麻痺後遺症
があること、被告会社が原告から従業員採用試験に先立ち提出された健康診断書に
よりこれを知つたこと、昭和四二年一月一九日原告に対して行われた面接試験に総
務部長が立会つたこと、同月二五日被告会社が原告に対して健康診断を行つたこと
および原告が同年三月一三日から二五日までの間被告会社で作業したことについて
は当事者間に争がなく、前記乙第一〇号証、第一二号証、成立に争のない乙第八号
証の各記載、証人D(一部)、E、Fの各証言および原告本人尋問の結果によれ
ば、原告は生後六ケ月の時に小児麻痺を患いその為左足に後遺症があるが、マラソ
ンや短距離徒競走の際健康体の者に劣るだけで、歩行その他日常生活を営むに支障
はなく、足立工高在学中の体育科の成績は全学年を通じて評価「4」であり又剣道
部に所属して初段の免許を取得したほか、バレーボール・卓球を得意とし、第一種
原動機付自転車の免許も有していること、一方被告会社は従業員採用試験に先立ち
原告から提出された健康診断書により原告の左足小児麻痺後遺症があることを知
り、その後同年一月一九日従業員採用試験に際しての面接ではH・I・E各専務お
よびD総務部長等が列席して原告の身体も見分したが、虚弱そうでもないと判断
し、Hは原告に対し「剣道をやつているそうだが、剣道は飛んだり跳ねたりするの
だから大丈夫だろう」等と述べたこと、そして前記同月二五日の健康診断の際にも
原告に関する作業上の支障の有無について格別の検討はなされていないこと、原告
が同年三月一三日から二五日までの間被告会社で作業した折、主として組立職場一
班で電気部品の組立・社名板の取付の作業に従事したが、原告の作業能力が他の者
に劣ることはなかつたこと、被告会社では原告を組立職場に配属する予定であつた
が同職場の作業は腰掛けてするものであり又被告会社の各職場の中では比較的軽作
業に属すること、他の職場も機械職場は旋盤等を作業内容とするが、検査職場等と
ともに比較的軽作業であることが認められDの証言中右認定に反する部分は、前記
各証拠に照らして措信し得ず、他に右認定を覆するに足る証拠はない。
 以上の事実によれば、原告についてさしあたり配属が予定されていた組立職場の
作業に関しては、小児麻痺後遺症の為作業能力が劣り又は将来発展の見込がないも
のとはとうてい認め難く、又被告会社の他の職場に関しても、その各作業内容を原
告の前記身体の状況に照して検討すると、未だ現場作業者として不適格とはなし得
ないものと認めるを相当とする。そうとすれば、仮りに被告会社が昭和四二年三月
二五日当時その主張の如き事情から、その主張のような基準による人員整理をしな
ければならないような状況にあつたとしても、原告が右整理基準に該当するものと
は即断しがたく、他に原告が右整理基準に該当するものであつたことを認めるに足
る証拠はない。したがつて、被告会社がなした前記解雇の意思表示は、爾余の点に
つき判断するまでもなく、解雇事由なくしてなされたものであつて解雇権の濫用と
して無効といわねばならない。
三、しからば原被告間の労働契約は今なお存続し、原告は被告会社に対し労働契約
上の権利を有するものというべきところ、被告会社が昭和四二年四月一日以降原告
を従業員として取り扱わず原告の就労を拒否していることは、被告会社の認めて争
わないところであるから、これに基づく就労不能は被告会社の責に帰すべき事由に
基づくものというべきであるから原告は被告会社に対し昭和四二年四月一日以降の
賃金債権を有するといわなければならない。しかして同日以降の原告の賃金月額が
一七、五〇〇円(但し同月分の賃金は一一、三三三円)で、前月二一日から当月二
〇日までの分を一ケ月の賃金として当月二八日に支払われる約定であることは当事
者間に争がない。右昭和四二年四月一日以降本件口頭弁論終結時であること記録上
明らかな昭和四五年九月九日までに弁済期の到来した前記賃金月額一七、五〇〇円
(但し昭和四二年四月分は一一、三三三円)の割合による賃金合計(昭和四二年四
月分ないし昭和四五年八月分)が七一一、三三三円であることは計算上明らかであ
り、本件口頭弁論終結後に弁済期の到来すべき昭和四五年九月分以降本判決確定に
至るまでの賃金についても被告会社が現に原告の就労を拒否している以上予め請求
をする必要があるものと認められる。
 よつて原告の請求はすべて正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴
訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり
判決する。
(裁判官 兼築義春 吉川正昭 神原夏樹)

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