弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     一 本件控訴を棄却する。
     二 原判決主文中、第一項に「原告と被告とを離婚する。」とある次
に、第二項として、次のとおり付加する。
     控訴人と被控訴人間の長女A(昭和三五年一二月一日生)および次女B
(昭和三八年四月二二日生)の親権者をいずれも被控訴人と定める。
     三 控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文第
一項同旨の判決を求めた。
 当事者双方の主張および証拠の関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同
じであるから、これを引用する。
 (控訴代理人の陳述)
 一 本件においては、控訴人の飲酒、性的要求過多による被控訴人への暴力、不
当な要求の有無が最大の争点となつている。しかし、原判決も認定するように、控
訴人に関して、職場や住居の近所において、とくに飲酒のうえ地域の人に迷惑をか
けたり女遊びをするなどの噂は聞かれず、控訴人に暴行歴がないこと、長年にわた
る独身生活にもかかわらず女性関係がないこと、そして、控訴人が建設関係の仕事
に従事し、肉体的重労働を職業としていることなどからみて、控訴人の飲酒、性生
活面からの暴力、不当な要求があり得べからざることは、何人の目にも明らかであ
る。被控訴人は、結婚当初から控訴人の性的要求が激しく、宵から朝にかけて続
き、身体の健康を害し、その後は控訴人を避け続けたというが、被控訴人は、結婚
後一年七か月あるいは五年後にそれぞれ控訴人と交渉を持ち、二女児を出生してい
るのである。
 二 控訴人と被控訴人とが、結婚式を挙げて以来昭和四一年八月までの間に、二
年半程しか同棲しなかつたとの被控訴人の主張は、事実に反する。控訴人が逮捕さ
れた昭和四一年八月頃以前から、右両名が離婚を前提として別居状態にあつたもの
ではなく、その後、控訴人の服役中および仮釈放後も極めて円満であつた。
 (一) 被控訴人は結婚式後半月足らずで実家に帰つたが、実家に帰つていた期
間は一年ではなく、二か月足らずである(乙第五号証参照)。
 (二) 控訴人は建設関係の仕事に従事していた関係上、長期間出張を重ねたこ
とがあり、その間被控訴人が腎臓病のため実家に帰つたことはあるが、控訴人との
関係が不和になつて実家へ帰つたことはない。
 (三) 被控訴人は、昭和三三年八月頃より同三四年一二月頃までは、控訴人と
ともに、刈谷市所在の関興業株式会社の社宅に居住していた(乙第五六号証)。
 (四) 被控訴人は昭和三五年一二月八日頃、控訴人とともに、愛知県知多郡a
町大字b字cd番地に居住し、同三六年一月一六日、同字ef番地に転居し、同四
二年一二月七日まで同所に居住した(乙第四九号証)。
 (五) 控訴人と被控訴人間の長女Aは、昭和四二年三月二〇日まで東海市高横
須賀保育園に在園しており、少なくとも同日までは、被控訴人が前項記載の愛知県
知多郡a町大字b字ef番地の控訴人方に居住していたことを示している。
 (六) 控訴人は、昭和四一年八月頃刑事事件によつて逮捕勾留されたが、被控
訴人は昭和四二年三月三一日付の控訴人の保釈請求に当たつて、同日付身柄引受書
を提出し、また、控訴人の服役中はたびたび面会にきたり、手紙をよこしたりし
て、妻としての愛情を示し、昭和四三年一〇月二八日仮釈放後は、約五か月間控訴
人や子らとともに愛知県半田市g町h番地において同居し、被控訴人とともに保護
司のところへ同道している。しかるに、その後は、被控訴人は正当の理由なく家を
飛び出して控訴人と別居し、婚姻を破壊した。
 (七) したがつて、被控訴人が結婚直後から控訴人との離別を決意しては実家
に戻つていたとか、昭和三三年四月以降同四一年六月までの約八年間における実質
的な同居期間が合計してわずか二年半程度であり、同四一年六月頃から完全な別居
状態を六年間も継続したという原判決の認定は、明らかに事実を誤認している。
 三 被控訴人の本訴請求は、有責配偶者による離婚の請求であるから、棄却され
るべきである。すなわち、控訴人の服役中の被控訴人のCとの次に記する浮気は、
いわゆる不貞行為にあたり、控訴人の服役前に本件婚姻が破綻していたということ
は認定されないからである。
 (一) 被控訴人は、控訴人の妻でありながら、暴力団員であるCと約二年八か
月にわたつて同棲し、三回にわたつて人工妊娠中絶をした。乙第四〇号証による東
海市D医院長発行の証明書は、昭和四三年五月二九日に三人目の胎児を中絶したこ
とに関するものであり、乙第五二号証による半田市E旅館主発行の宿泊名簿に記載
された宿泊の昭和四四年九月六日頃まで約二年八か月間にわたり、控訴人の刑務所
出所後も肉体関係を続けていたものである。すなわち、乙第四〇号証によれば、被
控訴人は昭和四三年五月二九日人工妊娠中絶をし、当時妊娠三か月であつたという
のである。しかるに、控訴人は昭和四一年八月頃逮捕され、その以後同四三年一〇
月二八日仮釈放されるまで、継続して拘束されていたのであるから、被控訴人が控
訴人の子を懐胎するはずがない。そして、被控訴人が控訴人に離婚を申し出たの
は、昭和四三年一〇月三〇日頃であるから、離婚の意思表明の前から、他の男性と
肉体関係を持ち、懐胎したことは明白である。
 (二) 被控訴人が有責配偶者にあたらないというためには、昭和四一年八月以
前にすでに婚姻が破綻していたというほかない。しかし、控訴人と被控訴人は、被
控訴人が実家において療養していた期間以外は、控訴人方において同居していたも
のであり、控訴人が逮捕された昭和四一年八月頃まではもちろん、その後も極めて
円満であつて、妻として、あるいは控訴人の減刑のために尽力し、仮釈放後も控訴
人と同居し、更生への協力を惜しまなかつた。
 (三) 仮に被控訴人が結婚直後から離婚を決意していたとしても、控訴人が離
婚を望まない以上、被控訴人において、婚姻を育成発展させる努力をすべき義務が
あつたのにかかわらず、被控訴人はその努力を怠つた。
 (四) また、被控訴人の心因性反応ないし精神分裂病の原因が、控訴人の飲
酒、性生活面における被控訴人に対する暴力、不当な要求にあつたという証拠はな
い。被控訴人の発病原因の究明は、あくまでも医学的判断、学問的判断によるべき
である。なお、被控訴人が精神障害者であることは、F病院長の診断によつて明ら
かなところである。
 四 控訴人の被控訴人に対する執拗な捜査は、夫婦である以上妻を捜し求めるの
は当然であり、それは一面において、控訴人の愛情の深さを物語るものである。
 五 控訴人が昭和四四年六月一五日被控訴人に対し暴行を加えて傷害を負わせた
事実はない。控訴人は同日、Gらから、被控訴人が常滑競艇場にいると教えられ、
右競艇場で被控訴人に会い、どうしても離婚したいのであれば、控訴人の母とも話
し会つてほしいと頼み、被控訴人とともに控訴人の実家へ赴く途中、被控訴人は四
回にわたつて走行中のタクシーからドアを開けて、逃げようとしたり、窓から紙幣
を捨てたりなどして半狂乱になつたので、タクシー運転手から降車を要求され、や
むを得ず、被控訴人の気を落着かせるために比較的静かな大高の田園地帯で降車し
たところ、被控訴人は突然走り出し愛知用水に飛び込みコンタリートで身体を打つ
たものであつて、被控訴人の受傷は全くの自損行為である。これは、控訴人が被控
訴人を秋田病院へ連れてゆき、治療を受けさせた事実からも明らかである。なお、
被控訴人は、昭和四四年七月二三日、同四五年六月一八日に、控訴人から、暴力団
から手を引くようにいわれたことに立腹し、被控訴人の肉身とともに、控訴人に対
し暴行を働き、控訴人の背広を破り、かつ、陰部、右下肢打撲傷、頭部・左肩・左
前腕・右膝打撲傷を与えた(乙第三、四号証)。
 六 結局、本件の真相は次のとおりである。
 控訴人と被控訴人は、結婚以来控訴人が逮捕された昭和四一年八月まで、仲睦ま
じい夫婦であり、二人の間に子供でもできればうまくゆくだろうと期待できるよう
な関係が少なくとも昭和三八年頃まで続いた。二人の間に溝ができたのは、控訴人
が逮捕された後、被控訴人が一杯呑み屋に勤めるようになり(半田市i町の小料理
店Hに勤務、乙第三一、三二号証)、そこでCと知り合い、肉体関係が生じた結果
である。したがつて、仮に本件婚姻が破綻したとすれば、それは被控訴人の不貞に
よるものである。
 (被控訴代理人の陳述)
 一 右控訴人主張事実中、一は否認する。
 二 同二は否認する。
 (一) 控訴人は、乙第四九号証をもつて、被控訴人が昭和三五年一二月八日か
ら同四二年一二月七日まで愛知県知多郡a町大字bに居住していたと主張するが、
被控訴人は、住民登録をそのままとして、ほとんどを実家である半田市のI方で居
住していたものであり、乙第四九号証はただ外国人登録世帯台帳に基づいて証明し
たにすぎないもので、実際の居住の事実を証明したものとは考えられない。このこ
とは、その期間中の昭和四〇年三月二二日に控訴人が名古屋市j区k町l番地へ転
出していることから認められる(甲第一六号証の二、八)。
 (二) 控訴人と被控訴人間の長女Aは、昭和四一年四月当時すでに被控訴人、
二女Bとともに、被控訴人の実家である愛知県半田市g町h番地のI方に居住し
て、同年四月一日、同地の半田市東保育園に入園し、同四二年三月三一日卒園して
いるのであつて、控訴人主張の高横須賀保育園には通園したことはない(甲第一五
号証の一、二、第一六号証の一ないし七)。
 (三) 仮に被控訴人が、控訴人主張のとおり、昭和四二年三月三一日付身柄引
受書を提出したとしても、それは、控訴人が保釈出所したい一念であつたため、控
訴人から強い要求がなされ、一応その頃身分上は妻としての立場から、やむなくこ
れに応じたものであつて、身柄引受書と離婚の意思とは別個の問題である。
 その当時においては、もはや両者の関係はすでに完全に破綻していたものであ
る。
 三 同三は否認する。
 被控訴人は、控訴人と結婚直後頃精神に異常をきたしたことはなく、したがつ
て、そのような症状のため医師の診断をうけたことはない。また、被控訴人はCと
面識がなく、関係のないものであり、したがつて、同人との不貞行為の事実は全く
ない。
 四 同四ないし六はいずれも否認する。
 (証拠)(省略)
         理    由
 一 本件離婚訴訟につき、わが国の裁判所に裁判権があることについては、原判
決理由一に記載のとおりであるから、これを引用する。
 二 被控訴人主張の離婚原因事実に関する認定は、原判決理由二に記載のとおり
であるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
 (一) 原判決理由二の認定のために列挙の各証拠に、次の各証拠を加える。
 その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので、真正
な公文書と推定すべき甲第一八号証、乙第一〇九号証、当審における被控訴本人尋
問の結果。
 (二) 原判決九枚目裏三行目から六行目までを次のとおり訂正する。
 以上の各事実が認められ、乙第一五号証、第四九ないし五一号証、第六六号証の
一ないし五、第六八号証、第七一、七二号証、第七三号証の一、二、第八〇号証の
一、第八二、八三号証、第八八ないし九〇号証、第九三号証、第九九号証の一の各
記載、当審における証人JことJの証言、原審および当審(第一、二回)における
控訴本人尋問の結果中以上の認定に反する部分は、いずれも前掲各証拠(前記
(一)の付加証拠を含む)に照らし措信し難く、他に右認定に反する証拠はない。
 乙第四八号証には、Aは、もと住所愛知県知多郡a町大字b字ef番地であつ
て、昭和四一年四月一日より同四二年三月二〇日まで東海市立高横須賀保育園(当
時、a町立高横須賀保育園)に在園していたことを証明する旨の東海市長名義の証
明の記載があり、また、乙第四九号証、第九九号証の一には、控訴人と被控訴人が
昭和三六年一月一六日に愛知県知多郡a町大字b字cd番地から同字ef番地に転
居し、引続き昭和四二年一二月七日まで同所に居住したことを証明する旨の東海市
長名義の記載があり、これらの記載によれば、Aが右高横須賀保育園に在園した当
時、その住所は控訴人および被控訴人の住所と一致するので、あたかも控訴人と被
控訴人が右住所において同居していたかのごとくである。しかしながら、その方式
および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるので、真正な公文書と
推定すべき甲第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし八、当
審における被控訴本人尋問の結果によればAの右高横須賀保育園在園期間について
は、右乙第四八号証の記載は誤りであつて、正確には昭和四〇年四月より同四一年
三月までであり、昭和四一年四月一日から同四二年三月三一日までは半田市東保育
園に在園したものであること、控訴人および被控訴人の各住居に関する前記乙第四
九号証、第九九号証の一の記載は、外国人登録台帳に基づくもので、実際の同居状
態を調査した結果に基づくものではなく、かつ、同台帳上でも、控訴人は右Aが前
記高横須賀保育園に入園した昭和四〇年四月以前の昭和四〇年三月二二日、すでに
名古屋市j区k町l番地に転出しており、前掲乙第四九号証、第九九号証の一の台
帳上の記載の昭和四二年一二月七日まで愛知県知多郡a町大字b字ef番地に居住
となつているのは、被控訴人のことであつて、被控訴人は昭和四二年一二月七日に
同所から半田市g町h番地へ転出しており、前掲乙第四九号証、第九九号証の一の
右記載は正確でないことが認められる。そして、前記引用の原判決理由二で認定の
とおり、被控訴人はしばしば子らを連れて実家である半田市g町h番地I方に居住
していたものである。これらの事実と、弁論の全趣旨により真正に成立したことの
認められる乙第一八号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したもの
と認められるので、真正な公文書と推定すべき乙第六七号証の一ないし四、第一〇
九号証、原審および当審における被控訴本人尋問の結果を総合すると、控訴人と被
控訴人が、愛知県知多郡a町大字b字ef番地を婚姻共同生活の根拠とした形跡
は、せいぜい昭和四一年二、三月まで存在するだけで(その間にも、被控訴人は実
家へ帰つている方が多かつた)、同年四月には、被控訴人は離婚を決意して実家に
帰つてしまい、それまでa町の保育園に在園していた長女Aは、同年四月一日半田
市の保育園に入園したことが認められ、右認定に反する乙第一六、一七号証の各記
載、原審および当審(第一、二回)における控訴本人尋問の結果中、以上の認定に
反する部分は措信し難い。
 次に、乙第六四号証、第九七号証、当審における控訴本人尋問の結果(第一回)
によれば、被控訴人名義の身柄引受書が、昭和四二年三月七日付て名古屋地方裁判
所に、同年三月三一日付で名古屋高等裁判所にそれぞれ提出されたことが窺われ、
また、乙第七六号証の一、二、成立に争いのない乙第一〇一号証の二によれば、発
信人被控訴人名義の手紙が昭和四二年一一月二七日富山刑務所に服役中の控訴人に
よつて受信されたことが窺われる。しかしながら、当審における被控訴本人尋問の
結果によれば、前掲乙第六四号証、第九七号証、第七六号証の一、二は、いずれも
被控訴人が刑事処罰という窮境に陥つたので、仮にも妻としての地位にある者とし
て、世間体もあり、控訴人の社会復帰を願つているかのごとき態度を司法官憲の手
前示したものにすぎず、離婚の決意には変りがなかつたことが認められ、右認定に
反する当審における控訴本人尋問の結果(第一回)は措信し難い。
 次に、乙第八一号証(名古屋市j区長作成の登録済証明書)には、備考として、
控訴人が昭和四三年一〇月二八日から同四四年三月一八日まで愛知県半田市m町n
丁目o番地(前掲乙第六六号証の一ないし五によれば、被控訴人の叔父Kの住所)
に居住した旨の記載があり、また、乙第五八号証(名古屋保護観察所長の控訴人に
対する「照会事項について」と題する書面)には、控訴人の仮出獄中指定された居
住地は、半田市p町qのr義叔父Kの許であるが、実際上半田市g町h番地に妻子
とともに居住し、L保護司の保護観察を受け、Kの許に通勤稼働していたこと、控
訴人はL保護司宅へ昭和四三年一〇月二八日仮釈放後被控訴人およびその母Iとと
もに訪問したこと、昭和四三年一一月一四日まで妻子同居していたことの記載があ
る。しかしながら、原審および当審における被控訴本人尋問の結果によれば、控訴
人は仮釈放されるや、被控訴人が二人の子とともに身を寄せていた実家の半田市g
町h番地I方に赴いたが、被控訴人は、もとのような生活の再来することを恐れ、
控訴人の前に姿を現わすことを避け、近くの知合いの家に一時居たことがあり、結
局、仮釈放後同居生活といえる程のものはなかつたに等しいことが認められ、右認
定に反する原審および当審(第一、二回)における控訴本人尋問の結果は措信し難
い。
 さらに、乙第一〇一号証の三(富山刑務所庶務課長の控訴人に対する文書)によ
れば、被控訴人が昭和四二年一二月四日に叔父M(前記Kのこと)とともに富山刑
務所において控訴人と面会したことが窺われるけれども、原審および当審における
被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人としては、昭和四一年六月実家に帰つ
て、その母や叔父に離婚をしたいといい、それまでの事情をはつきり打ち明け、一
応の賛成を得たが、控訴人が同年八月頃逮捕され、続いて服役することになつたた
め、控訴人が服役中に離婚することもできず、出所してから離婚手続を進めること
としていたものであつて、控訴人主張のように両人の仲が極めて円満であつたとは
とうてい認め難いものである。
 以上のほか、乙第一八ないし二〇号証、第六七号証の一ないし四、第七四号証の
一、二、第七五号証、第七九号証の一、二、第九一号証、第一〇〇号証の一ないし
三、第一〇四号証、第一〇八号証の各記載、原審証人Nの証言は、いずれも右認定
を左右するに足らず、他に右認定に反する証拠はない。
 三 控訴人は、被控訴人は精神病歴のあることを隠して結婚し、控訴人と同棲し
て一週間位後に高度の精神分裂病が発病し、控訴人はあらゆる手段を講じ被控訴人
を養護してきたと主張するが、乙第六、七号証、第一五号証、第九〇号証の各記
載、前掲証人黄順連の証言、原審および当審(第一、二審)における控訴本人尋問
の結果中右主張に副う部分は、原審証人Iの証言およびこれにより真正に成立した
ことの認められる甲第五号証、原審および当審における被控訴本人尋問の結果に照
らし措信し難く、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
 つまり、甲第九号証、第一一ないし一三号証の各一、二、乙第五号証、第三五号
証、第一〇七号証によれば、被控訴人は昭和三三年五月三一日控訴人に伴われて、
名古屋市s区t町uのvF病院において受診し、心因性反応と診断され、イソミタ
ール〇・四グラム、乳糖二・〇グラム六日分の投薬を受けたこと、当時の症状の概
要は、無為、無口、強迫泣、滅裂思考であつたことが認められるが、弁論の全趣旨
により真正に成立したことの認められる乙第三六、三七号証、前記認定の諸事実に
よれば、この心因性反応とは、この場合主として環境の変化の影響(つまり前記認
定のように、控訴人が婚姻当初数日間にわたり、被控訴人に対し、不適切な態度を
とつたことの影響)に基づく体験反応であつて、精神分裂病とは無関係であり、ま
た、弁論の全趣旨により真正に成立したことの認められる乙第三八号証によれば、
控訴人は昭和四一年八月一二日岐阜市県町二丁目o番地O内科の医師Pにより往診
を受け(当時控訴人の住所は、半田市g町h番地I方であつて、控訴人の要請によ
る往診)、メニエール氏症候群との診断をされたことが認められるものの、メニエ
ール氏症候群とは、弁論の全趣旨により真正に成立したことの認められる乙第三九
号証によれば、精神分裂病とは無関係の中枢の発作ないし肉体的疾患を原因とする
疾病である。
 また、控訴人は、被控訴人を家出人として警察へ捜索願をしたり、精神分裂病罹
患者で自己および他人に危害を加えるおそれのある者と強弁詐称して、形式上は夫
として保護義務者の地位にあるのを奇貨とし、精神衛生法を悪用して、被控訴人を
強制収容して、自己の実力の支配下に置こうとしたものであることが明らかであ
る。すなわち、
 弁論の全趣旨により真正に成立したことの認められる乙第二号証の一、二、第
八、九号証、甲第五、六号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成した
ものと認められるので、真正な公文書と推定すべき乙第二七ないし二九号証、原審
および当審(第一、二回)における控訴本人尋問の結果によると、控訴人は、昭和
四五年六月六日付で、愛知県知事に対し、被控訴人について、「精神障害者または
精神障害者の疑いのある者の診察および保護申請書」を提出し、同年六月二四日こ
れを受理されたが、精神衛生鑑定医の調査、診断の結果、同年八月、被控訴人は正
常であつて精神障害は認められず、また、過去において保護を必要とするような精
神病に罹患したとも思われないとされたこと、そのほか、控訴人は、昭和四三年二
月二八日、愛知県半田警察署長に対し、被控訴人は同年一一月六日午後七時頃家出
をしたといつて、家出人捜索願出をし、これを受理され、さらに、同四四年三月一
九日、愛知県港警察署長に対し、家出人捜索願の届出をしたこと、また、控訴人
は、同四五年八月、中部管区警察局に対し、精神障害者の護送申請書を提出した
が、同申請書は愛知県警察本部に転送され、同年一二月、愛知県警察本部長から、
被控訴人の警察保護については、被控訴人は居所がわかつており、警察の呼出およ
び精神鑑定医の診断にも応じていること、ならびに、精神衛生鑑定医の診断によれ
ば、正常にして精神障害は認められないとされているので、被控訴人を家出人とし
て扱うこともできないし、強制入院等の措置はとれないとの連絡を受けたこと、控
訴人は、「精神障害者強制保護理法書」と題し、「秘」の判を押して、公文書まが
いの体裁をした書面を作成し、被控訴人が医師から精神分裂病の診断を受けたごと
く作為し、強制的に入院させようと図つたことが認められ、前掲乙第一四号証、同
第八九、九〇号証、当審における控訴本人尋問の結果(第一回)により真正に成立
したことの認められる乙第八〇号証の一、乙第八四号証、第八六号証の各記載、前
掲証人黄順連の証言、原審および当審(第一、二回)における控訴本人尋問の結果
中右認定事実に反する部分は措信し難く、乙第五五号証、第五九号証、第七七号
証、第八〇号証の二の各記載は右認定を左右するに足りず、他に右認定に反する証
拠はない。
 右のほか、弁論の全趣旨により真正に成立したことの認められる甲第八号証、原
審における被控訴本人尋問の結果によれば、控訴人は、昭和四四年一〇月頃から同
四五年六月一〇日頃までの間に、長女Aの小学校担任教諭に対し、学校または自宅
に電話をしたり、学校へ訪ねたりして、妻を保護したいので、Aに妻の居所を聞き
出してほしいと、しつこく頼み込んでいたことが認められ、乙第七八号証は右認定
を左右するには足りない。
 四 次に、控訴人は、被控訴人は控訴人の服役中Cと二年八か月にわたつて肉体
関係を持ち、不貞行為をした旨主張する。
 弁論の全趣旨により真正に成立したことの認められる乙第四〇号証、第五七号証
によれば、被控訴人は昭和四三年五月二九日腎臓炎のため妊娠三か月で人工妊娠中
絶をしたことが認められ、原審および当審における被控訴本人尋問の結果中右認定
に反する部分は措信し難い。そして、控訴人は前認定のとおり昭和四一年八月頃逮
捕されてから引続き昭和四三年終り頃まで富山刑務所において服役したものである
から、被控訴人は控訴人以外の他の男性と肉体関係をもつたことは確実であり、そ
の相手方も控訴人の主張するような、いわゆるやくざであると推測される。そし
て、当審における被控訴本人尋問の結果によれば、被控訴人が男と知り合うに至つ
たのは、二人の子を抱えて生活に困窮し、生計を得るため飲食店に勤めた間のこと
であることが認められる。
 五 次に、控訴人は、被控訴人から、八回にわたり、集団を使つて暴行を受け、
傷害を負わされた旨主張するが、弁論の全趣旨により真正に成立したことの認めら
れる乙第三、四号証によるも右主張事実を認めるには十分でなく、他にこれを認め
るに足る証拠はない。なお、当審における控訴本人尋問の結果(第二回)により真
正に成立したことの認められる乙第九二号証は前記認定事実に照らし措信し難い。
 六 控訴人が被控訴人に対し、生活費、養育費として、毎月金一〇万円ずつ手渡
してきた旨の控訴人の主張に対する判断は、原判決理由三の4に記載のとおりであ
るから、これを引用する。右認定に反する前掲乙第八〇号証の一、第八九号証の各
記載、当審における控訴本人尋問の結果(第一、二回)は、原審および当審におけ
る被控訴本人尋問の結果に照らし措信し難い。
 七 以上によれば、被控訴人の本件離婚請求は正当として認容すべきである。す
なわち、
 控訴人と被控訴人の婚姻生活は、当初から夫に粗暴で性的にも執拗な面があり、
そのような態度を極度に嫌悪した被控訴人に性的婚姻生活への理解不足の点があつ
たにしても、控訴人には夫として性経験不足の妻に対し適切に指導する態度を欠い
ていた。そのため、妻は結婚と同時にノイローゼ(つまり前記認定の心因性反応を
指す)となり、精神医の治療を受けた。しかし、この段階では、どちらの責任とも
いいきれない面があり、ぎこちない出発ではあつたが、夫婦間にはまだ婚姻共同生
活に対する相互協力の意思はあつた。
 ところが、控訴人は被控訴人との婚姻継続を強く望むものの健全な仕事により収
入を得ようとせず、いわゆる白タクをやろうとして、自動車窃盗などの犯罪行為を
重ねて実刑判決を受け、社会的にも容認されず、経済的にも破綻し、妻子の扶養に
も不自由したのである。つまり、夫は妻を実家に残して、近隣、近県に職を求め
て、別居生活が続き、両名の気持は遊離してゆき、妻はついに離婚を望むようにな
つた。そして、そのような状態にあつて、昭和四一年八月頃控訴人は逮捕され、同
四三年終り頃まで刑務所で服役するようになつて、婚姻生活は破綻した。
 被控訴人が、控訴人の服役中、他の犯罪性のある男としばしば性関係を結んだこ
とは事実であるが、男と知り合うに至つたのは、被控訴人が二人の子を抱えて生活
に困窮し、生計を得るため飲食店に勤めた間のこ<要旨第一>とであり、したがつ
て、控訴人の入所もその原因の一端をなしているのである。しかし、いかに離婚の
意思が堅かつたにしろ、被控訴人のこのような不貞行為は、一応は自分
の方が離婚を求める資格を失わしめるものというべきであつたろう。しかしなが
ら、控訴人が出所後にとつた態度は、この妻の有責性をかなり上廻る高度の有責性
を帯び、結局は妻に離婚の請求権を認めざるを得ないのである。つまり、控訴人は
妻が他に男を作り、その心が全く自己より離れ去つたのを知り、妻を実力で自己の
支配下に置こうとして手段を選ばず極度に違法性のある行動に出、実家の援助を受
けて二人の子を保育園や小学校に通わせている妻を暴力で連れ去ろうとし、控訴人
のために生活を破壊されることをおそれその居所を転々し控訴人の前から姿を隠し
ている妻に暴行を加えて略取しようとした。
 そして、これらの方法が効を奏しないと見るや、控訴人はついに前記のように官
憲を欺固して精神衛生法上の強権力を借りて、妻を精神病院に強制収容しようと企
てるに至つたのである。ことここに至れば、夫婦間の精神的連帯は、とうてい回復
不能の程度にまで破壊されたものというべく、このように破綻の程度をさらに著し
く進行させた責は、これを控訴人が負担しなければならず、夫の有責性は妻の有責
性を上廻るに至つたものと判断されるのであつて、実質を失つて形骸と化した本件
婚姻生活に終止符を打つ権利はこれを妻に認容せざるを得ないのである。
 ところで、本件離婚訴訟の準拠法として、法例第二八条により、夫たる控訴人の
本国法である大韓民国民法によるべきところ、以上の事態は同法第八四〇条第一項
第六号にいう「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあたり、本件離
婚請求は正当として認容すべきである。
 八 次に、被控訴人の親権者指定の申立について検討する。
 <要旨第二>離婚の場合の未成年者の子の親権者の指定は、離婚を契機として生ず
る親子関係にほかならないから、法例第二〇条によるが、同条の定める
ところによると、親子間の法律関係は父の本国法によるとされるところ、大韓民国
渉外私法第二二条によると、「親子間の法律関係は父の本国法による」とあり、法
例第二九条による反致条項を適用する余地はない。そうすると、本件離婚にともな
う未成年者の子の親権者の指定の準拠実質法は、大韓民国法にほかならないことに
なる。
 ところで、大韓民国民法によると、
 第九〇九条(親権者)「1」未成年者である子は、その家にある父の親権に服従
する。
 「2」 父がないとき又はその他親権を行使することができないときは、その家
にある母が親権を行使する。
 「3」 婚外子の出生子に対し、前項の規定による親権を行使する者がないとき
は、その生母が親権者となる。
 「4」 養子の実父母は、出継子に対し親権者となることができない。
 「5」 父母が離婚するとき又は父の死亡後母が実家に復籍又は再婚したとき
は、その母は前婚姻中に出生した子の親権者となることができない。
 とあり、離婚にともなう未成年者の子の親権者の指定に関しては、法律上自律的
に父と定まることになつており、母は権親者に指定される余地はなく、したがつ
て、同国の人事訴訟手続上も、わが国の人事訴訟手続法第一五条のような規定はな
い(ただし、大韓民国民法第八三七条には離婚と子の養育責任の規定があり、同国
人事訴訟手続法第三〇条には離婚にともなう養育者の指定が定められている。)。
 そこで、離婚に際し未成年者の子の親権者に母を指定することが、父の本国法上
認められない場合、これが法例第三〇条にいわゆる公序良俗に反するか否かについ
て考えるに、本件の場合、前認定のとおり、夫、妻とも、大韓民国の国籍を有する
が、婚姻当時日本に居住し、婚姻届出、婚姻生活すべて日本でなされ、二人の未成
年者の子は、いずれも日本で出生し父母の監護養育を受けてきたところ、離婚のや
むなきにいたつたものであり、父は扶養能力を欠き、扶養能力のある母が二人の子
を監護養育しているものであり、諸般の事情を考慮すると、父は名目上親権者とは
なり得てもその実はなく、実際上親権者たるに不適当であることが顕著な場合であ
る。
 しかるに、わが国では戦後日本国憲法第二四条により、家族生活における個人の
尊厳、男女の平等が確立し、親族・相続法では家の制度を廃止し、とくに、親子間
の法律関係においては、親権の共同行使、離婚にともなう親権者の指定の制度が定
着し、かつ、親権者の指定は子の福祉を中心に考慮決定されるべき事柄であること
が定説として実際に現在まて実施され、戦後わが国における親族共同生活ならびに
社会秩序の基盤となつているものである。そうすると、本件の場合、いかに外国人
間の離婚の問題とはいえ、父の本国法である大韓民国民法に準拠すると、わが国て
はすでに廃止された旧民法時代の親子関係が復活することになり、子の福祉につい
てみても、扶養能力のない父に子を扶養する親権者としての地位を認め、現在実際
に扶養能力を示している母からその地位を奪うことになり、法例第三〇条にいわゆ
る公序良俗に反するものということができる。そこで、わが国の民法第八一九条第
二項を適用し、被控訴人を親権者と定める。
 九 よつて、被控訴人の離婚請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由が
ないから棄却し、さらに、主文第二項のとおり親権者指定の裁判をなし、訴訟費用
の負担につき民訴法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 植村秀三 裁判官 西川豊長 裁判官 寺本栄一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛