弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役10年に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,同居していた被害者A(当時26歳)から,食事の支度が遅いなどと
言われて口論となり,テレビのリモコンを投げつけられたため,それまで溜めてい
たAに対する不満が爆発し,とっさにAを殺害しようと決意し,平成18年7月1
2日午後7時ころ,富山市内のA方において,Aに対し,殺意をもって,左手でA
の体を壁に押し付けた上,右手に持った刃体の長さ約15.5センチメートルの包
丁で,その胸部等を数回突き刺し,よって,そのころ,同所において,Aを胸部の
刺創に基づく失血により死亡させて殺害したものである。
(事実認定の補足説明)
被告人は,当公判廷において,殺意を否認し,弁護人も,本件は傷害致死罪が成
立するにとどまる旨主張するので,被告人の殺意の有無につき検討する。
関係証拠によれば,被告人は,刃体の長さ約15.5センチメートルの十分な殺
傷能力がある包丁で,Aの胸部等を数回刺していること,その結果,内臓に損傷を
生じた胸部の刺創だけでも3か所に及び,その深さは14ないし15センチメート
ルに達していること,被告人は自らAを壁に押し付けてから突き刺しており,刺突
部位を認識していたことが認められ,これら本件の態様は,被告人に殺意があった
ことを強く推認させる。さらに,本件の動機は,これまで溜まっていたAに対する
不満を爆発させたことにあるから,そのきっかけが上記のような些細なものである
としても,殺意を推認する妨げにはならない。加えて,被告人は,本件直後,何ら
Aの救命活動を行わず,かえって,遺体を毛布で包んで運び出そうとするなどの罪
証隠滅工作をした上,最初に警察に本件を通報した際には,Aを殺した旨述べてい
る。以上のような諸事実を総合すれば,被告人が確定的な殺意を有していたことは
優に認められる。一貫して殺意を認めていた捜査段階での供述は,上記認定の諸事
実と符合し,十分に信用できる反面,殺意を否認する公判廷における供述は,その
内容自体あいまいで,変遷の合理的理由も説明できておらず,信用性に乏しい。
これに対し,弁護人は,①被告人は本件時,激しい怒り,悔しさといった感情に
支配されており,このような場合,殺意を認めるべきでない,②殺意を認めた被告
人の捜査段階の供述は,法律に疎い被告人が,取調官の誘導により自白したもので,
信用性がないなどと主張する。しかし,①そもそも激しい感情と殺意とは両立しな
いものではなく,また,②被告人は,捜査段階においても,以前からAの殺害を考
えていたのではないかという検察官の質問に対し,これを否定するなどしており,
取調官に全面的に迎合していたとは認められない。弁護人の主張はいずれも前提を
異にし,採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法199条に該当するので,所定刑中有期懲役刑を選択し,
その所定刑期の範囲内で被告人を懲役10年に処し,同法21条を適用して未決勾
留日数中70日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書
を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1犯行に至る経緯
被告人は,平成15年4月にAと婚姻し,平成17年1月に離婚したが,同年
12月,A及び子2人との同居を再開し,Aが働いて生活費を稼ぎ,被告人が育
児や家事を行うようになった。被告人とAは,本件の現場であるA方に引っ越し
た平成18年2月ころから,育児の方法等をめぐり口論になり,以後,次第にそ
の回数は増加した。Aは,口論の際,被告人に対し,仕事をして家に養育費を入
れるよう文句を言うことが多く,被告人は,家事や育児を全て自分に押しつける
くせにAは自分勝手だなどと考え,Aの態度に不満を募らせていった。
本件当日午後7時ころ,被告人が,Aに食事の支度が遅いなどと言われたこと
から,Aと口論となった。その際,Aが投げつけたテレビのリモコンが被告人の
背中に当たったため,被告人は,それまで溜めていたAへの不満が一気に爆発し,
とっさにAを殺害しようと決意し,傍らにあった包丁を手に取ってAに近づき,
本件に及んだ。
2特に考慮した事情
本件犯行に至る経緯は上記のとおりであり,その直情的な動機に酌むべき点は
乏しい。その態様も,確定的殺意に基づき,身体の枢要部等を包丁で数回突き刺
して即死させるという残忍なものである。一人の生命を失わせたという結果は誠
に重大で,予期せず無念の思いで絶命したAの胸中は察するに余りある。被告人
は,Aの遺体を投棄しようするなど罪証隠滅工作を行っており,犯行直後の行動
も甚だ芳しくない。遺族の処罰感情が峻烈なのは当然であるにもかかわらず,被
告人は,見るべき慰謝の措置を講じていない。
以上の点に鑑みると,被告人の刑事責任は相当重大である。
しかしながら,他方,本件はAの行動に触発されて衝動的に行われたものであ
ること,被告人は,本件翌朝には自首し,公判廷でも客観的事実は認めて反省の
態度を示していること,交通事犯による罰金前科1犯以外に前科がないこと,2
2歳と比較的若年であることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで,以上のような諸情状を総合考慮し,被告人を主文の刑に処するのが相
当であると判断した。(求刑懲役13年)
平成18年11月28日
富山地方裁判所刑事部
裁判長裁判官手崎政人
裁判官大野博隆
裁判官五十嵐浩介

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