弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告は,α団地自治会に対し,55万円及びこれに対する平成19年11月
3日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,東京都の住民である原告が,公営住宅である都営住宅βアパートの
入居者で組織するα団地自治会及び自主管理委員会が,事業主体である東京都
の許可を受けることなく同アパートの敷地内に駐車場所を設け,これを入居者
に割り当てて自動車を駐車させ,会費という名目で1台当たり年額2万500
0円を徴収することなどにより,平成19年において同自治会に55万円の不
当利得が発生したと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,
東京都知事を被告として,同自治会に対し利息を付して不当利得返還請求をす
るよう求める住民訴訟である。
1前提事実
本件の前提となる事実は,次のとおりである。いずれも当事者間に争いのな
い事実であるか,証拠等により容易に認めることのできる事実であるが,括弧
内に認定根拠を付記している。
(1)当事者等
ア原告は,東京都の住民である。
イ被告は,東京都の執行機関である。
ウ東京都世田谷区β×番に所在する都営住宅βアパート(建て替え前の名
称は都営住宅αアパート。以下,改称の前後を問わず「α団地」とい
う。)は,東京都営住宅条例(平成9年東京都条例第77号。以下「本件
条例」という。)に基づく東京都営住宅(以下「都営住宅」という。)の
うち公営住宅法(昭和26年法律第193号)2条2号に定める公営住宅
に該当する一般都営住宅として,本件条例3条1項1号により設置された
ものであるところ,その敷地及び建物は,いずれも地方自治法上の行政財
産であり,事業主体である東京都が管理し,所有するものである。
エα団地自治会は,α団地の入居者の大多数を会員とし,会員の共通の利
益の確保,会員相互の親睦及び快適な住環境の維持管理等を目的として設
ぼく
立された権利能力のない社団である。(乙2)
α団地自治会は,平成15年11月27日付けで,東京都住宅局長に対
し,「当アパートα団地自治会においては,(東京都住宅局及び東京都住
宅供給公社の指導により)都有地である団地内敷地に駐車スペースを占有
したり,居住者から駐車料金を受領するなどの違法行為は一切行っていな
いことを報告します。」と記載した「αアパートにおける団地内駐車につ
いて」と題する報告書を提出した。なお,同報告書には,「注.当団地は
平成16年4月に建て替えに入ります。それまでの間につきましては,住
宅課長さんと話し合い済みです。H15.11.25.16:30談」と
の付記がある。(甲8)
オ自主管理委員会は,前記エの報告書が提出された平成15年11月ころ
までは「a」と称し,α団地の敷地内に自動車を駐車する入居者で組織さ
れ,自動車1台につき定額の年会費を徴収し,その金員をα団地自治会に
助成金として拠出するなどしていた団体である。
(2)原告は,平成19年11月2日,α団地自治会及び自主管理委員会が行政
財産であるα団地の敷地を無断で使用し,駐車場所を設けて駐車料金を徴収
し不当な利益を得ているとして,これを東京都に返還させることを求めて東
京都監査委員に対し住民監査請求をしたが,同委員は,同年12月25日付
けで,原告に対し,上記請求には理由がないと判断した旨の通知をした。
(3)原告は,平成20年1月17日,本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著
な事実)
2原告の主張の要旨
(1)自主管理委員会は,平成19年9月末ころから同年10月初めころまでの
間,同委員会の会員(すなわち,α団地の敷地内に設けた駐車場所に自動車
を駐車して,これを占有する者)22名から,同年分の会費合計55万円を
徴収し,同月8日,α団地自治会に対し,上記55万円を「助成金」として
支出した。
(2)この55万円は,前記(1)の駐車場所を利用する対価としての性質を有す
るところ,当時,α団地の敷地を駐車場として利用することは許されておら
ず,α団地自治会及び自主管理委員会は,行政財産である同敷地を入居者に
対し不正に利用させ,会費と称する駐車料金を不当に利得したものである。
なお,α団地自治会が上記55万円をα団地の共益的又は管理的費用に充
当したという被告の主張は争う。
(3)α団地の近隣における駐車場の料金は,月額で2万5000円から3万円
程度であり,実際,α団地の敷地内に正規に設置された駐車場の使用料は,
月額2万8000円である。本来,東京都にはこれに相当する損失(すなわ
ち,平成19年1月から同年11月までの11箇月間について,月額2万8
000円に自動車22台分を乗じた金額である677万6000円)が生じ
たはずであるが,本件では,α団地自治会が現実に利得した同年分の55万
円をもって不当利得の額とする。
なお,本件の経緯からして,α団地自治会は,「悪意の受益者」(民法7
04条)であり,遅くとも原告が住民監査請求をした日の翌日である平成1
9年11月3日から不当利得金を返還するまで民法所定の年5分の割合によ
る利息の支払義務を負う。
(4)本案前の答弁及び地方自治法施行令171条の5第3号該当性に係る被告
の各主張は争う。
3被告の主張の要旨
(1)本案前の抗弁について
本件訴えは,地方自治法242条の2第1項4号所定の財産の管理を怠る
事実に係る相手方に対して不当利得返還の請求をすることを被告に求める住
民訴訟であるところ,α団地における無断駐車の問題は,行政財産であるα
団地の敷地について,公営住宅行政の観点から,事業主体である東京都がす
るべき管理に関する事柄であって,財務会計上の行為が対象となるものでは
なく,また,上記の問題は,東京都及び東京都からα団地の管理を委託され
ている東京都住宅供給公社(以下「公社」という。)の是正指導によって速
やかに解決されており,被告には,行政財産の管理を怠った事実はないから,
本件訴えは不適法である。
また,本件訴えに係る請求債権は特定されていないから,本件訴えは不適
法である。
(2)不当利得返還請求権の不発生について
ア確かに,本件では,α団地の入居者が,認められた施設使用範囲を逸脱
してα団地の敷地内に駐車場所を指定し,平成19年においては,これを
利用する入居者から,同年7月3日ころまでに50万円程度の会費を徴収
した事実は認められるところ,都営住宅の敷地内に駐車場所を定め,その
利用者から会費名目で金員を徴収することが,入居者の自主的管理の範囲
を逸脱し,事業主体の適正な管理権限に抵触するのは明らかであって,東
京都としてもこれを容認するところではない。
しかしながら,本件では,上記のような駐車をα団地自治会が認めてい
たものではなく,α団地の入居者のうち,自動車の所有者の有志により組
織された自主管理委員会の会員がα団地の敷地内に自動車を駐車していた
というものであって,同委員会とα団地自治会は別の団体であり,α団地
自治会は同委員会からの寄付を一般会計に受け入れ,これを共益的又は管
理的費用に充当していたにすぎない。
すなわち,これは法的には贈与を受けたことに当たり,α団地自治会が
自主管理委員会に対し,α団地の敷地内に駐車することを認める対価とし
て金員を受領したものではなく,同敷地内へ自動車を乗り入れて便益を受
けている入居者が,その他の入居者に対する関係で共益的又は管理的費用
及び労力等を負担していた関係にあったというべきであるから,α団地自
治会には民法703条所定の法律上の原因のない利益は生じていない。
イそして,都営住宅の入居者により組織される自治会等には,当該都営住
宅の共用部分について一定の管理使用が許されるところ,α団地について
は,α団地自治会の主導による一定の管理使用が許されていたのであって,
駐車場所が設けられた目的には,越境駐車及び放置車両の排除など駐車秩
序の維持等も含まれていたこと,そして,当時,α団地は建て替え中で,
平成19年4月までは正規の駐車場が設置されていなかったこと,建て替
え後のα団地への入居及び正規の有料駐車場への移行は,α団地自治会の
協力を得て円滑に行われたこと,及びこれらに付随する諸事情を総合的に
考慮すると,入居者らに駐車場所を指定し,会費名目で金員を徴収してい
たことをもって,α団地自治会又は自主管理委員会による権原のない不適
法な占有がされたものとまで認定することは困難であり,α団地自治会に
法律上の原因のない利益が生ずると評価することはできない。
ウ駐車場所の利用者から会費名目で徴収された金員は,いずれもα団地の
共益的又は管理的費用に充当されており,都営住宅の管理という趣旨から
は,都営住宅入居者全体がその利益を享受したといえる。したがって,公
営住宅法上の事業主体である東京都が果たすべき適正な管理を行う責務の
観点からすれば,東京都には損失の発生を観念することができない。
また,都営住宅において駐車場が設置され,その利用料金の納付が求め
られる場合,利用料金は指定管理者である公社の収入となり(本件条例8
9条2項),当該都営住宅等の共益的又は管理的費用に充当される性質の
ものであるので,本件では,東京都に損失が発生しない。
(3)地方自治法施行令171条の5第3号の適用について
被告は,共同施設の使用及び維持に要する費用を使用者に負担させること
が適当でないと認めるときに,その一部又は全部を使用者に負担させないこ
とができる裁量権を有するところ(本件条例16条1項4号及び2項),本
件において,自主管理委員会が会費名目で徴収していた金員は,年額2万5
000円で,1箇月当たり約2000円の金額となり,駐車することの場所
的対価としての性格は希薄であること,何らかの駐車施設が設置されていた
わけではなく,他の入居者の通行などに支障のない場所について,大まかに
各自の駐車場所を取り決めて,その取決めどおりに駐車がされていたもので
あって,α団地内の居住秩序に具体的個別的な支障が生じていないこと,同
委員会の会員が支払った会費は,α団地の共益的又は管理的費用に充てられ,
同会員は共用部分の清掃等のボランティア活動に積極的に従事していたこと,
α団地の入居者以外の者に対して有償で駐車を認めたという事例はないこと,
東京都及び公社の是正指導に従って,速やかに正規の有料駐車場への移行が
完了したこと,これに伴い,同委員会も事実上消滅した状態となっているこ
と,α団地は,α団地自治会による日常的な管理状況が良好であり,その協
力を得て建て替え後のα団地への移行も円滑に行われたこと,そして,これ
までに述べたとおり,不当利得返還請求権が成立すると認めることが困難で
あることなどの諸事情を考慮すると,仮に本件で不当利得返還請求権が成り
立つとしても,地方自治法施行令171条の5第3号の適用により,その行
使をしないことが不適法であるとはいえない。
第3当裁判所の判断
1本案前の抗弁について
本件において,原告が請求の対象とする債権は,権原のない行政財産の占有
について平成19年1月から同年11月までの間に生じたその使用料に相当す
る利益の一部を東京都に返還させるべきであるという東京都のα団地自治会に
対する不当利得返還請求権であり,本件請求は,「債権」(地方自治法240
条1項)という東京都の「財産」(同法237条1項)の管理を怠る事実に係
る相手方であるα団地自治会に対して不当利得返還の請求をすることを東京都
知事を被告として求める請求であって,その特定に欠けるところはないと認め
ることができるから,本案前の抗弁に関する被告の主張には理由がなく,本件
訴えは適法な訴えである。
2不当利得返還請求権の成否について
(1)証拠(該当箇所において併記したもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の
事実を認めることができる。
アα団地は,昭和31年に管理が開始された13棟384戸の都営住宅で
あったが,平成15年2月20日,建替事業化団地として選定され,同1
6年11月,一部の棟の入居者が他団地へ移転した。
そして,平成16年度建替事業により建設されたα団地の6号棟及び7
号棟は,平成19年3月に使用開始となり,他団地へ移転していた従前の
入居者がこれに入居し,その後,平成17年度建替事業により建設された
8号棟に残部の棟の入居者が入居して,同19年12月末をもって公営住
宅建替事業は完了し,α団地は,3棟308戸の都営住宅となった。
なお,α団地においては,上記の公営住宅建替事業の施行に伴って平成
19年4月ころに1台当たり月額2万8000円の有料駐車場が設置され
るまでは,その敷地内に駐車場は設置されていなかった。
(甲2,乙3,証人b,証人c)
イα団地では,その敷地内に外部から越境して自動車を駐車する者が現れ,
その駐車台数が同敷地内に駐車される自動車全体の約3割を占めるに至っ
たこと,α団地の入居者の内部においても,その所有し,又は使用する自
動車(以下「自家用車」という。)を駐車する者の間で駐車場所の取り合
いが生じ,紛争が生じたことなどから,昭和37年ころ,前記第2の1の
前提事実(以下「前提事実」という。)(1)オの自主管理委員会(ただし,
当時の名称は「a」であった。)が組織された。
自主管理委員会は,α団地の入居者らに迷惑を掛けない配慮の下に自動
車を駐車すること,越境駐車や事故の排除に努めることなどを目的として,
同委員会の会員の自家用車の駐車場所を選定し,また,来客用の一時的な
駐車場所をあらかじめ確保するなどしていた。自主管理委員会の会員数は,
α団地における公営住宅建替事業の施行前はおおむね100人近くであり,
同施行後は約20人であった。なお,自主管理委員会が組織されたころか
らは,その会員以外の者がα団地の敷地内に自動車を反復継続して駐車す
るという事態は生じていない。
α団地の敷地内に自家用車を駐車しようとする入居者は,自主管理委員
会に対して入会申込書を提出し,同委員会から同敷地内の空き地に駐車場
所の割当てを受けて自家用車を駐車することになるが,これは東京都又は
東京都知事の許可を受けてされるものではない。したがって,自動車の保
管場所の確保等に関する法律(昭和37年法律第145号)が定めるいわ
ゆる車庫証明を取るに当たっては,上記のとおり割当てを受けた場所を保
管場所とすることはできず,付近の民間駐車場を2箇月間か3箇月間ほど
賃借して,同所を保管場所と称して申請するほかなかった。このようなこ
となどから,自主管理委員会の会員は,α団地の敷地内に自家用車を駐車
することが,東京都等に無断でするものであって,本来,許されないこと
であるとの認識を有していた。
自主管理委員会では,会員から,従前は自家用車1台当たり年額2万円
の会費を徴収し,平成17年ころからは,同年額2万5000円の会費を
徴収していたが,こうして徴収した金員を毎年のように「助成金」等の名
目でα団地自治会に拠出するほか,共益的な費用に充当していた。
このうち,平成17年には,自主管理委員会は,同年6月5日から同年
7月1日にかけて29人の会員から,1人当たり2万5000円,合計7
2万5000円の会費を徴収し,同月2日,α団地自治会に対して助成金
合計65万円を支払った。また,同18年には,自主管理委員会は,同年
6月4日から同月25日にかけて28人の会員から,1人当たり2万50
00円,合計70万円の会費を徴収し,同年7月2日,α団地自治会に対
して助成金合計65万円を支払った。さらに,同19年には,自主管理委
員会は,同年9月23日から同年10月3日にかけて22人の会員から,
1人当たり2万5000円,合計55万円の会費を徴収し,同月8日,α
団地自治会に対して助成金55万円を支払った。
(甲2,7,9.13,14の1ないし3,15,16,乙3,5,証人
b,証人c)
ウ東京都は,常に都営住宅及び共同施設の状況に留意し,その管理を適正
かつ合理的に行うように努めなければならない(公営住宅法15条)とこ
ろ,総戸数で約26万戸に上る都営住宅を適正に管理する上で,都営住宅
の入居者の多数で自主的に組織される自治会の協力を得ることが必要不可
欠であることから,共用部分の管理等において,入居者に積極的な役割を
果たしてもらえるよう,都営住宅の入居者に対し,自治会の結成及び加入
を勧めている。東京都都市整備局及び公社が作成した「住まいのしおり」
においても,都営住宅の入居者で組織する自治会等が存在することを前提
として,その自治会等が決定した共用部分の維持管理の費用(1世帯当た
り月額2000円から5000円程度)を入居者が支払う旨記載されてい
る。そして,東京都は,都営住宅の入居者で組織する自治会に対し,自主
的に敷地内の駐車秩序の維持を行うこと(越境駐車,不法投棄等を防止す
ること等)及び共同施設の管理運営について秩序維持活動を行うこと(来
客用の一時的な駐車場所を指定すること等)を期待し,これを許しており,
前提事実(1)エのとおり,α団地においては,α団地自治会がこのような要
請にこたえるべく活動している。
なお,α団地自治会では,その自治会費の額につき,居室の間取りがい
わゆる2DKの世帯では1世帯当たり月額700円,同1DKの世帯では
1世帯当たり月額600円としていたが,自主管理委員会からの助成金の
収入があるため,上記1DKの世帯の自治会費を月額500円に減額する
一方,これまで数十年にわたり自治会費の値上げをすることがなかったな
ど,全体として低廉な額の会費で自治会の運営をすることができてきてい
た。
(甲2,乙2,5,7,証人b)
エ本件条例は,「駐車場を利用しようとする者は,知事の許可を受けなけ
ればならない。」と規定する(82条)ところ,東京都では,都営住宅の
敷地内に許可なく駐車された自動車に対する対策として,その実態を把握
するため,平成15年度に都営住宅の全団地を対象にして調査を実施し,
α団地についても無断駐車の事実があることを確認したが,α団地自治会
の会長(当時の会長は,同20年6月まで約8年間会長を務めたbであ
る。)に対してその是正を指導し,また,駐車のための専有スペースを設
けて駐車料金を徴収している事実はないという説明を受けたため,前提事
実(1)エのとおり,同15年11月27日付けの報告書を上記会長名で作成
させた。なお,この際,同会長から,α団地の公営住宅建替事業が完了し,
有料駐車場が設置されるまで,敷地内の駐車を認めてもらえないか,とい
う話もされたが,東京都ではこれを拒否しているところ,上記の報告書の
付記部分は,このような経緯に関する同会長の認識を表したものである。
上記のα団地自治会の会長であったbは,昭和44年ころから平成19
年12月ころまで自主管理委員会の会員としてα団地の敷地内の空き地に
自家用車を駐車していた者であり,また,自主管理委員会の会計担当者が
不在の際などには,同委員会の会員から徴収される会費の支払を受け,こ
れについてα団地自治会の会長名で領収証を作成するなどしていた。また,
α団地自治会及び自主管理委員会は,共に,α団地の敷地内にある集会所
において事務を執ったり,同所で集会又は会合を開くなどしていた。
(乙1,乙3,5,証人b,証人c)
オ東京都では,平成19年10月11日,原告から指摘を受けてα団地に
ついて前記イのような事実と問題があることを知り,同20年3月6日ま
での間に,α団地自治会の会長や自主管理委員会の副会長から事情を聴取
するなどの調査をするとともに,公社を通じて,α団地の敷地内の空き地
に継続的に駐車されている入居者の自家用車を,同19年4月ころから設
置されている正規の有料駐車場に移動するよう指導し,また,問題となる
駐車場所については閉鎖措置を採るなどし,その結果,同年12月には無
断駐車という不適正な状態が是正されたことを確認した。
(乙3,証人c)
(2)前記(1)で認定した事実(以下「認定事実」という。)及び前提事実によ
れば,まず,自主管理委員会の会員が東京都又は東京都知事の許可を受ける
ことなく,α団地の敷地内の空き地に自家用車を反復継続的に駐車していた
ことは,行政財産を占有し,これを自家用車の駐車場所として使用するもの
であるから,そのような行為をしていた個々の会員には駐車場の利用料金相
当額の利益が生じていたものと認めることができる。
そして,上記の空き地は,α団地の入居者がこれを共用部分として使用す
ることを予定するものであっても,入居者個人が占有して駐車場として使用
することを目的とするものではないところ,地方自治法238条の4第7項
及び225条は,目的外使用許可による行政財産の使用については使用料を
徴収することができる旨定めているのであるから,東京都は,その所有及び
管理に係る行政財産が占有され,使用されたものとして,その占有及び使用
をした自主管理委員会の個々の会員に対し,それぞれ駐車場の利用料相当額
の不当利得返還請求権を取得するものというべきである。
なお,本件条例89条2項によれば,都営住宅の駐車場の利用料金は,指
定管理者である公社の収入となる旨定められているが,これは共同施設であ
る駐車場が設置され,その利用が許可された場合に関する規定であるところ,
本件条例2条9号によれば,本件条例にいう「共同施設」とは,「都営住宅
の使用者の共同の福祉のために設置した児童遊園,集会所,管理事務所,広
場及び緑地,通路,立体的遊歩道及び人工地盤施設,高齢者生活相談所並び
に駐車場をいう。」ものと定められており,上記の空き地はこの共同施設に
は当たるとはいえないものであるから,本件条例89条2項は,上記の判断
を左右するものではない。
(3)そうすると,本件で原告が請求の対象とする平成19年1月から同年11
月までの11箇月間についていえば,同年4月ころに設置されたα団地の有
料駐車場の使用料が月額2万8000円であることに照らすと,東京都は,
同年において,α団地の敷地内の空き地に自家用車を駐車していた自主管理
委員会の会員22人(認定事実イ)に対し,合計677万6000円相当の
不当利得返還請求権を有することになる(ただし,甲2及び弁論の全趣旨に
よれば,上記会員の中には,身体障害を理由として,東京都からα団地の敷
地内に無償で駐車することを認められた者が1人いたことをうかがうことが
できるから,その1人分を減じると,上記金額は合計646万8000円と
いうことになる。)。
(4)ところで,認定事実イのとおり,自家用車をα団地の敷地内に駐車した自
主管理委員会の会員に生じた利益に関連して,その各会員から同委員会に対
して年額2万5000円の会費が支払われ,さらに,同委員会からα団地自
治会に対して助成金という名目で相当の金員が継続して支払われているとこ
ろ,本件で原告が請求の対象とする平成19年についていえば,前記(3)の不
当利得返還請求権に係る利益のうち合計55万円の利益が自主管理委員会を
経てα団地自治会に移転している。この点について,自主管理委員会の会員
が自家用車の台数に応じて定められた会費を支払うのは,その支払をしなけ
れば,α団地の敷地内の空き地に自家用車を駐車させることができないから
であり,実際,その支払をした会員以外の者が同空き地を駐車場として占有
し使用することはなかった(認定事実イ)のであるから,自主管理委員会の
会費は,同空き地を駐車場として占有し使用することの対価という性質を有
するものということができる。そして,自主管理委員会の会員となってその
会費を支払うと,α団地の敷地内の空き地を駐車場として占有し使用するこ
とができたのは,東京都からα団地の敷地内における駐車秩序の維持等につ
いて自主的な管理を行うことを期待され,これを許されたα団地自治会(認
定事実ウ)が,その駐車場所の占有及び使用をあえて黙認していたためであ
る。
そうすると,α団地自治会は,自主管理委員会の会員が東京都又は東京都
知事の許可を受けることなく自家用車をα団地の敷地内の空き地に駐車させ
ていることを知りながら,上記のように東京都から許された管理の趣旨に反
してこれを容認していたものであり,そうすることによって,昭和37年こ
ろから平成19年までの長期間にわたり自主管理委員会の会員が支払う会費
の全部又は一部を助成金名目で受領してきた関係にあったものというべきで
ある。
さらに,自主管理委員会の会員から徴収する会費については,α団地自治
会の会長名で領収証が作成されたこともあること(認定事実エ),同委員会
とα団地自治会は,その事務所を共にし,一部役員及び会員等を共通にして
活動していたこと(認定事実エ)などの事実も併せ考慮すれば,被告が主張
するように,α団地自治会は自主管理委員会の会員による自家用車の駐車に
はかかわっておらず,同委員会から単に寄付金を贈与されていたにすぎない
ということは到底できないのであって,これまでの検討結果からすると,本
件では,平成19年にα団地自治会が受領した55万円について,東京都は
α団地自治会に対して不当利得返還請求権を有しているものと認めるのが相
当である。そして,このことは,その後,上記55万円がα団地の共益的又
は管理的費用に充てられたか否かによって左右されるものではないというべ
きである(なお,α団地自治会において,同委員会から受領した金員を共益
的又は管理的費用に充てていたものとしても,α団地自治会では,その分,
α団地の入居者から徴収する自治会費を低廉なものとすることができていた
関係にあったのであり(認定事実ウ),このような観点から見ても,α団地
自治会及びその構成員に利益が生じていなかったなどとはいえないものであ
る。)。
(5)本件においては,α団地自治会が「団地内敷地に駐車スペースを占有した
り,居住者から駐車料金を受領するなどの違法行為は一切行っていないこと
を報告します。」と記載した平成15年11月27日付けの報告書を東京都
に提出したことは前提事実(1)エのとおりであり,また,認定事実イのとおり,
自主管理委員会の会員は,その自家用車をα団地の敷地内の空き地に駐車す
ることが許されないことを認識しており,そして,同19年当時のα団地自
治会の会長は,自主管理委員会の会員でもあったのであるから,前記(4)の不
当利得につき,α団地自治会は,法律上の原因のないことを知りながら利得
をした者として,「悪意の受益者」(民法704条)であると認めることが
できる。
したがって,α団地自治会は,その利得をした日からその受けた利益を返
還するまで民法所定の年5分の割合による利息を付して上記の不当利得の返
還をするべきものであるから,不当利得の返還請求及びその利得をした日よ
り後の日である平成19年11月3日からの利息の支払請求をすることを被
告に対して求める原告の請求には理由があるということができる。
3地方自治法施行令171条の5第3号の適用について
地方自治法施行令171条の5柱書きは,「普通地方公共団体の長は,債権
(強制徴収により徴収する債権を除く。)で履行期限後相当の期間を経過して
もなお完全に履行されていないものについて,次の各号の一に該当し,これを
履行させることが著しく困難又は不適当であると認めるときは,以後その保全
及び取立てをしないことができる。」と定め,その3号において,「債権金額
が少額で,取立てに要する費用に満たないと認められるとき。」と規定すると
ころ,本件で対象となる不当利得返還請求権は,その債権金額が少額であると
いうことはできず,また,α団地自治会は,東京都住宅局長に対し,「団地内
敷地に駐車スペースを占有したり,居住者から駐車料金を受領するなどの違法
行為は一切行っていないことを報告します。」と記載した平成15年11月2
7日付けの報告書を提出した(前提事実(1)エ)にもかかわらず,同19年にお
いてもなお,前記2のとおり,α団地の敷地内の空き地を入居者が駐車場とし
て占有し使用することの対価という性質を有する金員を受領していたことなど
に照らすと,被告が主張する諸般の事情を考慮しても,その不当利得返還請求
権を履行させることが「不適当である」と認めることはできない。
したがって,地方自治法施行令171条の5第3号の適用に関する被告の主
張を採用することはできない。
4結論
よって,本件請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負
担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決
する。
東京地方裁判所民事第38部
杉原則彦裁判長裁判官
品田幸男裁判官
島村典男裁判官

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