弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分のうち上告人の被上告人B株式会社に対する予
備的請求に関する部分を破棄し、
     右破棄部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
     右破棄部分を除くその余の上告人敗訴部分に関する本件上告を棄却する。
     本件附帯上告を却下する。
     右棄却部分に関する上告費用は上告人の、附帯上告費用は附帯上告人の、
各負担とする。
         理    由
 上告代理人藤井瀧夫の上告理由第一点について。
 原審は、訴外Dおよび同Eは、いずれも、弁護士である訴外Fから、被上告人B
株式会社と上告人との間に一たん成立した本件土地および建物の売買契約がすでに
有効に解除され、上告人はもはやその所有者ではない旨の説明を受けたため、これ
を信用して、右土地および建物を買い受けたものであると認定しているのであり、
そして、原審の右認定は、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)
挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわけではない。したがつて、
訴外Dおよび同Eが、いずれも、上告人が本件土地および建物の所有者であること
を認識しながら、これを買い受けたものであることを前提として、右DおよびEに
よる右土地および建物の各買受けは公序良俗に違反するものであつて無効であり、
また、同人らは上告人の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有しない背信的
悪意者であるという上告人の主張は、結局、理由がない。また、訴外Fは、被上告
人B株式会社と訴外Dとの間の本件土地および建物の売買契約については、契約締
結のあつせんをしたものにすぎず、その実質上の買主となつたものではないとする
原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないわ
けではないから、右Fがその実質上の買主であることを前提として、右売買契約は
弁護士法二八条に違反するという上告人の主張も、理由がない。原判決に所論の違
法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認
定を非難するか、または、原審の認定にそわない事実関係を前提として原判決の違
法をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、原審が、被上告人B株式会社と上告人との間に成立した本件
土地および建物の売買契約にもとづく右被上告人の所有権移転義務の履行不能によ
る損害賠償額を、原審の口頭弁論終結時における右土地および建物の価値を基準と
して算定せず、履行不能時におけるその価格を基準として算定した点に、債務の履
行不能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤つた違法、な
いしは、審理不尽、理由不備の違法があるというにある。
 そこで、考えるに、およそ、債務者が債務の目的物を不法に処分したために債務
が履行不能となつた後、その目的物の価格が騰貴を続けているという特別の事情が
あり、かつ、債務者が、債務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在を
知つていたかまたはこれを知りえた場合には、債権者は、債務者に対し、その目的
物の騰貴した現在の価格を基準として算定した損害額の賠償を請求しうるものであ
ることは、すでに当裁判所の判例とするところである(当裁判所昭和三六年(オ)
第一三五号同三七年一一月一六日第二小法廷判決・民集一六巻一一号二二八〇頁参
照。)。そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益
を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約にお
いて、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有
権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。
けだし、このような場合であつても、右不動産の買主は、右のような債務不履行が
なければ、騰貴した価格のあるその不動産を現に保有しえたはずであるから、右履
行不能の結果右買主の受ける損害額は、その不動産の騰貴した現在の価格を基準と
して算定するのが相当であるからである。
 ところで、上告人は、原審において、上告人が被上告人B株式会社から買い受け
た本件士地および建物の価格は、右被上告人がその所有権移転義務を履行不能とし
た後も、騰貴を続けているという特別の事情があり、かつ、右被上告人は、不動産
業を営む者であつて、右義務を履行不能とした際、右のような特別の事情の存在す
ることを充分に知つていたかまたはこれを知りえたものというべきであるから、上
告人は、右被上告人に対し、右土地および建物の騰貴した現在の価格を基準として
算定した損害額の賠償を請求することができると主張して、右履行不能後の昭和三
八年一二月当時における右土地および建物の価格である金六四七万二〇〇〇円に相
当する損害額の賠償を請求していたことは、原判文および本件記録に徴して、明ら
かである。
 しかるに、原審は、単に、上告人は本件土地および建物を自己の住居の用に供す
るために買い受けたものであつてこれを他に転売する目的で買い受けたものではな
かつたことが明白であるし、本件の所有権移転義務の履行不能はその履行期以後に
生じたものであるから、右履行不能の結果上告人の受ける損害額は右士地および建
物の履行不能時の価格を基準として算定するのが相当であるという第一審判決の判
示をそのまま引用するだけで、右土地および建物の価格の騰貴について上告人の主
張するような特別の事情が存在するか否か、また、そのような特別の事情が存在す
る場合には、被上告人B株式会社が、右土地および建物の所有権移転義務を履行不
能とした際、その特別の事情の存在を知つていたか否か、または、これを知りえた
か否かについては、何らの判断も示すことなく、上告人の右主張を排斥しているの
である。
 しかし、これでは、原審は、上告人の右主張を排斥するにあたり、債務の履行不
能による損害賠償額の算定の基準時に関する法令の解釈適用を誤り、ひいては、上
告人の被上告人B株式会社に対する右損害賠償請求に関する判断につき審理不尽、
理由不備の違法をおかしたものといわざるをえないから、原判決の右違法を指摘す
る本論旨は、理由があるというべきである。
 したがつて、原判決中上告人敗訴部分のうち上告人の被上告人B株式会社に対す
る右損害賠償請求、すなわちその予備的請求に関する部分は、上告理由第三点につ
いて判断するまでもなく、破棄を免れない。
 附帯上告人B株式会社の附帯上告について。
 附帯上告は、それが上告理由と別個の理由にもとづくものであるときは、民訴規
則五〇条の定める当該上告についての上告理由書提出期間内に附帯上告状を裁判所
に提出してすることを要するものであり(当裁判所昭和三七年(オ)第九六三号同
三八年七月三〇日第三小法廷判決・民集一七巻六号八一九頁参照。)、そして、本
件附帯上告状記載の附帯上告理由が本件上告理由書記載の上告理由と別個の理由に
もとづくものであることは、右両者を対比して、明らかであるところ、本件記録に
よれば、本件上告についての上告受理通知書が上告人の代理人藤井瀧夫に送達され
たのは昭和四四年一月一三日であり、また、本件附帯上告状が当裁判所に提出され
たのは昭和四六年一一月五日であることが認められるから、本件附帯上告状は本件
上告についての上告理由書提出期間の経過後に提出されたものであることが明らか
である。したがつて、本件附帯上告は、不適法であつて却下を免れない。
 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、三九九条ノ三、九五条、八
九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三

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