弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴をいずれも棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人Aの弁護人小池広澄同Bの弁護人柴田武同花
岡陸治の連名で差し出した各控訴趣意書記載のとおりである。
 被告人Aの弁護人小池広澄の控訴趣旨第一点について
 按ずるに原判決挙示引用に係る標目の各証拠を綜合すれば原判示の事実はこれを
肯認するに足り事実誤認の疑はない。そして原判決が被告人の過失の第三として被
告人が原判示乗合自動車の乗客Cの喫煙に気づいたのに云々と判示しながら原判示
第一の末段の重過失死傷の項には「右重過失に基く火災とこれに伴う混乱の結<要旨
第一>果云々」と判示するのみであることは論旨の指摘する如くではあるが重失火罪
過失致死傷罪においてはいやしくも自己の重大なる過失が失火或は他人
の死傷に対し一の条件を与えた以上はその重過失が該結果に対して唯一の原因では
なく他人の過失と相俟つて共同的に原因を与えた場合であつてもその責任を負うべ
きことは当然であり、被告人の重大なる過失によつて火を失し更に右火災が原因と
なつて他人を死傷に致した場合には被告人に重失火、重過失致死傷の責任のあるこ
とは固よりであるから原判決には所論の如き理由不備の違法は存しない。そしてま
た仮に所論の如く本件火災並びに死傷の結果はひとり被告人の重過失のみに因るも
のではなく他人の過失がこれに介在するものとしても刑法上はこれあるために被告
人の注意義務、過失責任を免脱させるものではない。それゆえ論旨は理由がない。
 被告人Bの弁護人柴田武同花岡陸治連名の控訴趣意第三点について
 <要旨第二>しかし原判決挙示の標目の証拠を綜合すれば被告人Bは原判示衣笠第
二トンネルを過ぎる頃車内のガソリン臭を覚知したものと認むべきこと
は前叙の如くであり、かかる場合においては車掌たる被告人Bは直ちに車内におけ
る乗客の携帯品を点検しガソリンを発見して遅滞なくこれを車外に搬出するに必要
な措置を講じ火災の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務のあることは条理上
当然であり、かくの如きは被告人Bに対し不可能を強いるものではない。また自動
車運送事業運輸規定第二条第六条第十六条第二十一条第一号の(3)第二十二条第
三号第二十三条第六号の趣旨に徴しても乗合自動車の車掌たるものは本件ガソリン
罐の如き旅客に危害を及ぼす虞のある物件が車内に持ちこまれているのを発見した
場合には直ちにこれが運送を拒絶し当該所持者をしてこれを車外に搬出させるな
り、自らこれを車外に搬出しなければならない法律上の義務のあることは当然であ
るといわなければならない。それゆえ論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 中村光三 判事 河本文夫 判事 鈴木重光)

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