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主文
1各務原市公平委員会が,原告に対し,平成18年11月7日付けでした原告
の措置要求を却下するとの判定のうち,損害に対する補償を求めた措置要求を
却下した部分を取り消す。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,甲・乙事件を通じてこれを3分し,その1を被告の負担とし,
その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1各務原市公平委員会が,原告に対し,平成18年11月7日付けでした原告
の措置要求を却下するとの判定を取り消す。
2被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成18年11月8日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
甲事件は,被告に採用された一般職の地方公務員である原告が,各務原市公
平委員会(以下「市公平委員会」という)に対し,地方公務員法46条に基づ
き,勤務評定の是正等を求める措置要求をしたところ,市公平委員会が同措置
要求を却下する判定をしたため,被告に対し,その判定の取消しを求めた事案
。,,,である乙事件は原告が上記判定により多大な精神的苦痛を受けたとして
被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料50万円及びこれに対する
上記判定の日の翌日である平成18年11月8日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,行政事件訴訟法19条1項に基
づき甲事件に追加的に併合提起した事案である。
1前提となる事実(争いがない事実,証拠〔甲1,2〕及び弁論の全趣旨によ
り容易に認定できる事実)
(1)原告は,昭和54年4月1日に被告に採用された一般職の地方公務員であ
り,現在は,各務原市産業部農政課農畜産係に勤務し,役職は主査である。
(2)勤務評定について
,,,ア被告では勤務評定実施規程及び勤務評定要領を定めこれらに基づき
毎年6月1日と11月1日に勤務評定を実施している。
イ勤務評定は,被評定者の上司がその役職に応じて第1次から第3次まで
の評定を行い,各評定要素ごとにA評定(5点)からE評定(1点)まで
の評定をし,その合計点に基づきA評定からE評定までの総合評定がなさ
れる(なお,役職が主査の総合評定は,合計点が26点ないし35点の場
,)。,合はC評定15点ないし25点の場合はD評定とされていたそして
人事主管課長,部長又は助役が不均衡の調整をした後,各務原市長の確認
を経て,評定結果が確定することとなる。
(3)勤勉手当について
ア被告では,毎年6月及び12月に職員に勤勉手当が支給される。
イ勤勉手当は,基礎額に期間率と成績率を乗じた額と定められている。そ
して,その成績率は,勤勉手当の支給直前の勤務評定の結果により,A評
定の1.2からE評定の0.8まで,0.1ずつ差が付けられている。
(4)原告の勤務評定及び勤勉手当
ア原告の平成17年11月の勤務評定は,係長の第1次評定の合計点は3
5点,課長補佐の第2次評定の合計点は30点,課長の第3次評定の合計
点は26点で,総合評定は,いずれもC評定であったが,a各務原市産業
部長(以下「a産業部長」という)の調整によりD評定とされた後,各務
原市長の確認を経て,D評定との評定結果が確定した(以下「本件勤務評
定」という。)
イ原告は,同月より前の勤務評定はC評定以上であったが,本件勤務評定
によりD評定となったため,同年12月分勤勉手当の支給額は,従前より
4万7000円ほど減額された。
(5)原告の措置要求
原告は,平成18年7月31日付けで,市公平委員会に対し,
①本件勤務評定で,最終的にC評定からD評定へ調整を行ったa産業部長
に対して,是正及び陳謝を求め,同時に受けた損害に対する補償措置を求
める
②二度と同じことのないよう市長に対して適正な行政指導を求める
との措置要求(以下,上記①の措置要求を「本件措置要求1,同②の措置」
要求を「本件措置要求2,併せて「本件各措置要求」という)を行った。」
(6)市公安委員会の判定
市公平委員会は,平成18年11月7日,
①本件措置要求1のうち,調整の是正及び損害に対する補償の要求につい
ては,勤務評定は,各段階における評定者・調整者がその責任において自
ら判断し,その裁量によって行われるべき事項であるので,勤務評定その
ものが適正かどうか,市公平委員会が介入することはできないし,勤務成
績の評定は,職員の勤務実績及び執務の適正等を評価,記録する人事管理
の一手段であり,地方公務員法46条に規定する勤務条件に該当しないの
で,勤務評定自体は措置要求の対象となりえないこと
②本件措置要求1のうち,a産業部長に対する陳謝については,原告の勤
務条件を左右するものではなく,措置要求の対象とならないこと
③本件措置要求2については,同法40条2項により,勤務成績の評定に
関する計画の立案その他勤務成績の評定に関し必要な事項について任命権
者に勧告できるのは人事委員会と定められており,公平委員会には認めら
れていないこと
を理由に,本件各措置要求をいずれも却下するとの判定(以下,本件措置要
求1に対する判定を「本件判定1,本件措置要求2に対する判定を「本件」
判定2,併せて「本件各判定」という)を行った。」
(7)原告の再度の措置要求
原告は,平成19年10月10日付けで,市公平委員会に対し,本件勤務
評定によって減額された平成17年12月分勤勉手当の回復を求めるとの措
置要求(以下「本件措置要求3」という)を行った。
2争点
(1)本件判定1の違法性
(2)本件判定2の違法性
(3)国家賠償請求の当否
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件判定1の違法性)について
ア原告の主張
(ア)被告においては,勤務評定と勤勉手当の加算率の決定が一体となって
おり,本件勤務評定は,勤務条件にほかならないのであるから,措置要
求の対象となる。よって,本件勤務評定が勤務条件に当たらず,本件措
置要求1が措置要求の対象とならないとした本件判定1は違法である。
また,仮に,勤務評定自体は勤務条件ではないとしても,勤務評定と
勤勉手当の加算率の決定が一体となっているという実態に基づけば,原
告が本件措置要求1において勤務評定の是正と損害に対する補償を求め
た趣旨が,不当な本件勤務評定を是正することによって,減額された平
成17年12月分勤勉手当の回復を求める趣旨であると容易に理解でき
たといえる。よって,本件措置要求1の趣旨を理解しないまま,本件勤
務評定が勤務条件に当たらず,本件措置要求1が措置要求の対象となら
ないとした本件判定1は違法である。
なお,本件措置要求3は,早期の救済を求めるため,やむなく再度の
申立てをしたにすぎず,上記のとおり,本件措置要求1には,勤勉手当
の回復を求める趣旨が含まれていた。
(イ)市公平委員会が,本件措置要求1が措置要求の対象とならない事項を
対象としていると考えたのであれば,少なくとも原告から事情を聴取し
て措置要求の趣旨を確認したり,補正を命じるなどの措置を講ずるべき
であった。よって,これを怠り,本件措置要求1を直ちに却下した本件
判定1は,手続に違法がある。
(ウ)勤務評定は,評定者・調整者の裁量にゆだねられる範囲があるとして
も,勤務評定実施規程,勤務評定要領及び地方公務員法の諸原則に従わ
なければならず,評定者・調整者が裁量権を濫用して上記規程等に違反
した場合には,公平委員会はその違法性・不当性を審査すべき義務があ
る。そして,本件勤務評定において,第1次評定より第2次評定が,第
2次評定より第3次評定が下げられたのは,いずれも原告が課長補佐や
課長に批判的意見を述べたことを理由とするもので,公平性に欠けたも
のであったこと,a産業部長の調整によりC評定からD評定に下げられ
たのは,D評定,E評定を増やすとの各務原市長の意向に沿った,恣意
的な判断によるものであったことからすれば,本件勤務評定は,評定者
及び調整者が裁量権を濫用して,公正妥当な評定を行わなければならな
いと定める勤務評定要領,平等取扱原則を定める地方公務員法13条,
給与は職務と責任に応じたものでなければならないとする同法24条1
項に違反したものといえるので,市公平委員会としては,その違法性・
不当性を審査すべき義務があった。よって,勤務評定に裁量の余地があ
ることを理由に本件措置要求1を判断しなかった本件判定1は違法であ
る。
イ被告の主張
(ア)本件措置要求1は,勤務評定の是正を求めたものであるところ,勤務
評定は,職員が一定の期間勤務した実績について評定し記録するもので
,,。,あり勤務条件に該当しないので措置要求の対象とはならないまた
原告は,損害に対する補償が減額された平成17年12月分勤勉手当の
回復を求める趣旨である旨主張するが,本件措置要求1は,勤務評定の
,調整者であるa産業部長に対して損害の補償措置を求めたものであるし
不利益の具体的な内容について何らの主張もなされていなかったのであ
るから,上記趣旨と解さないで行った本件判定1に違法はない。
また,原告が,市公平委員会に対し,本件措置要求3を行っているこ
とからも,本件措置要求1には,勤勉手当の是正が含まれていなかった
といえる。
,,,(イ)市公平委員会は本件措置要求1の趣旨を確認するため原告に対し
措置要求の相手方を確認し,原告からa産業部長であるとの回答を得た
ので,a産業部長に意見を提出させ,さらに原告にそれに対する反論書
を提出させていること,同反論書にも損害補償が減額された平成17年
12月分勤勉手当の回復である旨の申立てがなされていなかったことか
らすれば,本件判定1に手続的な瑕疵はない。
また,補正命令は,申立書に申立人の押印がない場合や要求の具体的
理由の記載が欠けて審査に影響を及ぼすような場合に行われるものであ
るところ,本件措置要求の申立書には,補正を命じるべき事項が存しな
かったために補正命令を行わなかったのであり,何ら違法はない。
(ウ)市公平委員会としては,上記3(1)イ(ア)の点から本件措置要求1の内
容が,勤務条件に該当しないとの判断をしたのであり,裁量性とは関係
ないので,原告の上記3(1)ア(ウ)の主張は失当である。
(2)争点(2)(本件判定2の違法性)について
ア原告の主張
措置要求に対する審査・判定・勧告については,公平委員会にも人事委
員会と同一の権限が与えられており,勤務条件の前提となっている勤務評
定の違法性・不当性を審査することができるので,地方公務員法40条2
項を根拠に本件措置要求2が措置要求の対象とならないとした本件判定2
は違法である。
イ被告の主張
本件措置要求2は,勤務成績の評定の是正勧告を求めたものであるとこ
ろ,そのような勧告を出しうるのは地方公務員法40条2項で人事委員会
であると定められており,公平委員会の権限外である。よって,本件判定
2に違法はない。
(3)争点(3)(国家賠償請求の当否)について
ア原告の主張
市公平委員会は,本件措置要求の趣旨を十分理解せず,原告に対し何ら
釈明等や補正を命じることなく,一方的に措置要求の対象とならない事項
を対象としていると決めつけて,本件各措置要求を違法に却下する本件各
,,。,,判定をしておりそのことにつき故意又は過失があるそして原告は
違法な本件各判定により,市公平委員会に対し勤務条件について適切な措
置を求める権利を違法に侵害され,多大の精神的苦痛を受けており,それ
に対する慰謝料としては50万円を下らない。
イ被告の主張
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件判定1の違法性)について
(1)地方公務員法46条の措置要求制度は,同法58条1項が職員の労働組合
法の適用を排除するとともに,地方公務員法37条及び55条1項が職員の
争議権及び団体協約締結権等の労働基本権を制限したことに対応し,職員の
勤務条件の適正を保障するために,中立の立場にある人事委員会又は公平委
員会に対し,職員の勤務条件について,適切な措置が執られるべきことを要
。,求できる職員の権利ないしは法的利益を保障する趣旨のものであるそして
このような制度趣旨及び同法46条が「給与,勤務時間その他の勤務条件に
関し」と規定していることに照らせば,措置要求の対象となる事項は,職員
の経済的地位の向上に関連した事項に限られると解するのが相当である。
そして,勤務評定が,公正な人事行政を行う基礎資料の一つとするため,
職員の執務について,一定の基準ないし手続によって勤務成績を評定するこ
とにより,職員の性格,能力及び適性等について記録するものであることに
かんがみれば,勤務評定自体は,職員の経済的地位の向上に関連するものと
,。,はいえず措置要求の対象とはならないと解するのが相当であるもっとも
地方公務員法40条1項が,任命権者は,職員の執務について定期的に勤務
成績の評定を行い,その評定の結果に応じた措置を講じなければならないと
規定していることからすれば,同項に基づき,勤務評定の結果に応じた具体
的な措置が執られ,勤務評定が任用ないし給与等といった職員の経済的地位
の向上に関連した事項に影響を及ぼす場合がありうるところ,この場合であ
っても,上記措置要求の趣旨からすれば,当該具体的な措置は,それが職員
の勤務条件に関する事項である以上,措置要求の対象となると解するのが相
当である。
(2)そこで,これを本件についてみるに,a産業部長によりC評定からD評定
へ調整された本件勤務評定の是正を求めた措置要求は,C評定からD評定へ
の調整が行われた本件勤務評定の適否という勤務評定自体を対象としている
といえるので,措置要求の対象とはならない。よって,本件判定1のうち,
本件勤務評定の是正を求めた措置要求を却下した部分に違法はない。
なお,原告は,勤務評定と勤勉手当の加算率の決定が一体となっている本
件勤務評定は,勤務条件に該当し,措置要求の対象となる旨主張する。しか
しながら,地方公務員法40条1項に基づく具体的な措置として,勤務評定
と勤勉手当の加算率の決定が一体とされ,勤務評定が勤勉手当に影響を及ぼ
す場合でも,上記1(1)のとおり,当該影響を受けた勤勉手当の問題として
措置要求の対象となりうるのは格別,勤務評定自体は,職員の経済的地位の
向上に関連するものではない以上,措置要求の対象とはならないと解するの
が相当である。よって,原告の上記主張は採用できない。
(3)次に,受けた損害に対する補償を求めた措置要求について検討する。
ア上記前提となる事実(4)イのとおり,本件勤務評定でD評定となったこ
とにより,原告の平成17年12月分勤勉手当が従前の勤勉手当より4万
7000円ほど減額されたことからすれば,本件措置要求1の本件勤務評
定によって受けた損害に対する補償とは,当然,本件勤務評定でD評定と
なったことによって受けた上記勤勉手当の減額という損害についての回復
を求めた趣旨のものであるといえる。
なお,被告は,本件措置要求1では,a産業部長に対して損害の補償を
求めていたこと,及び,不利益の具体的な内容について何らの主張もなか
ったことから,上記のような趣旨と解さないで行った本件判定1に違法は
ない旨主張する。しかしながら,地方公務員法46条に基づく措置要求と
して,原告の上司にすぎないa産業部長個人に対して損害の補償を求める
ことができるとは到底考えられないから,原告の真意は,各務原市当局に
対して勤勉手当の減額についての回復措置を執ることを求める趣旨である
と解釈すべきであり,それは十分可能であった。また,具体的な主張がな
かったとするなら,要求の具体的理由の記載を欠き,審査に影響を及ぼす
場合(甲11)に該当するとして補正命令を発すべきであったのであり,
市公平委員会が漫然と措置要求の対象とならないと判断したことは,違法
である。
さらに,被告は,原告が減額された平成17年12月分勤勉手当の回復
を求める本件措置要求3を行ったことを理由に,本件措置要求1では,同
勤勉手当の回復を求めていなかった旨主張する。しかしながら,原告が,
本件措置要求3において,本件措置要求1の要求内容が誤解されて却下さ
れたので,減額された平成17年12月分勤勉手当の回復を求める趣旨を
明確にした上,改めて本件措置要求3をするものである旨明示していたこ
と(乙1)に照らせば,被告の上記主張は採用できない。
イそして,本件勤務評定によって減額された平成17年12月分勤勉手当
の回復を求める措置要求は,直接に本件勤務評定の適否という勤務評定自
体を対象としているのではなく,勤務評定の結果に応じて,勤勉手当算定
の基礎となる成績率に差を設けるという具体的な措置が執られたことによ
り(上記前提となる事実(3)イのとおり,本件勤務評定の影響を受けて)
平成17年12月分勤勉手当が減額されたことを問題としているのである
から,措置要求の対象となるものというべきである。よって,本件判定1
のうち,損害に対する補償を求めた措置要求について,措置要求の対象と
ならないとして却下した部分は違法である。
(4)さらに,本件勤務評定において,a産業部長の陳謝を求めた措置要求につ
いて検討するに,陳謝は,職員の経済的地位の向上に関連するものではない
ので,措置要求の対象とはならない。よって,本件判定1のうち,a産業部
長の陳謝を求めた措置要求を却下した部分に違法はない。
2争点(2)(本件判定2の違法性)について
本件措置要求2は,市長に対し,勤務評定が適正に行われるよう指導するこ
とを求めたものであり,勤務評定自体を対象としているものといえるから,措
置要求の対象とはならない。また,地方公務員法40条2項によれば,勤務評
定に関し,必要な事項について任命権者に勧告することができるとされている
が,その主体は,人事委員会であると規定されている。よって,市公平委員会
が,本件措置要求2が措置要求の対象とならないことを前提に,本件措置要求
2で求めた勤務評定の是正勧告は同項に基づき行われるべき勧告であるとした
上,同項に基づく勧告は人事委員会の権限であり,公平委員会の権限ではない
として,本件措置要求2を却下する本件判定2を行ったことに違法はない。
3争点(3)(国家賠償請求の成否)について
上記1(3)判示のとおり,本件判定1のうち,損害に対する補償を求めた措
置要求を却下した部分は,違法であったといえる。しかしながら,職員の措置
要求に対して公平委員会が違法な処分を行った場合であっても,取消訴訟によ
って違法な処分が取り消されることにより,当該職員が通常被る不利益は回復
されるといえるところ,本件において,上記違法な処分によって,取消訴訟に
より当該処分が取り消されるだけでは解消されないほどの精神的損害が原告に
生じたと認めるに足りる証拠はない。よって,原告の国家賠償請求は理由がな
い。
4結論
以上の次第であるから,原告の判定取消請求のうち,本件措置要求1の損害
に対する補償を求めた措置要求を却下した部分の取消しを求める部分は理由が
あるが,その余の取消請求及び国家賠償請求は,いずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
岐阜地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官西尾進
裁判官日比野幹
裁判官田中一美

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