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平成17年10月27日判決言渡 同日判決原本領収 裁判所書記官
平成17年(ハ)第13636号 賃金等請求事件
口頭弁論終結日 平成17年9月22日
判           決
主           文
1 原告の訴え中,未取得有給休暇買取87万7500円,交通費中11万0640円,
講習会費7000円,技術士活動費中6万9400円,資格取得費1万1200円に
係る各請求につき訴えを却下する。
2 被告は,原告に対し,金3960円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金109万7840円を支払え。
第2 事案の概要 
1 本件は,被告に勤務していた原告が,本件前に減給と降格無効確認請求事件及
び自宅待機無効確認請求事件を東京地方裁判所に提訴し,平成17年7月19日,
当事者間に訴訟上の和解が成立したものであるが,原告は,成立した訴訟上の和
解には含まれないとして,交通費12万1740円,講習会費用として7000円,技術
士活動費8万0400円,資格取得費用1万1200円,被告の就業規則等には有給
休暇の買取りは定められていないが,年度末までに取りきれなかった代休を買い
取る運用をしていたので,原告の未取得有給休暇32.5日分に代わる87万7500
円,合計109万7840円の支払いを求めるものである。
これに対し,被告は,本案前の申立てとして,未取得有給休暇買取分87万750
0円及び交通費中11万0640円,講習会費7000円,技術士活動費中6万9400
円,資格取得費1万1200円の合計107万5740円分は,上記訴訟上の和解の
範囲内の請求であり,既判力に反し,また訴訟上の和解成立によって,いずれも訴
えの利益はなく不適法であるとして却下を求め,本案について,被告の就業規則等
に有給休暇買取の定めはないから同買取請求には応じられない。和解成立前の
被告の命じない用務ないし私的用務に関する費用は,被告に支払義務はない,和
解日翌日以降の交通費1万1100円中,7140円は被告に命じられない用務ない
し私的用務に関する費用であり,被告に支払義務はない,その余の交通費3960
円は支払済みである。また,技術士活動費1万1000円は,会社に命じられない用
務ないし私的用務の費用であるから被告に支払義務はないとして請求棄却を求め
た。
2 請求原因の要旨  別紙紛争の要点記載のとおり 
3 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定でき
る事実)
(1)原告は,被告に勤務していたが,被告に対し,減給と降格無効確認(平成16年
(ワ)第26961号)及び自宅待機無効確認(平成17年(ワ)第3743号)を各求め
て(いずれも原告は,本件原告,いずれも被告は,本件被告),東京地方裁判所
に提訴(以下「前訴」という。)した。
この訴訟の請求の趣旨は,
ア 原告は被告東京本店(品質・環境部)の担当部長(本給金52万9000円)た
る雇用契約上の地位を有することを確認する(被告が原告になした平成16年
11月1日付の「降格」処分は無効である。)。
イ 原告は被告の東京本店事業所内(品質・環境部)に席(執務空間)を有するこ
とを確認する(被告が原告になした,平成17年3月1日付の「自宅待機」処分
は無効である。)。
ウ 被告は,原告に対して,謝罪(文書を被告の全事業所と各部に通達)すると
ともに,損害賠償として1870万円を支払え。(甲3)
請求原因による1870万円の内訳は,慰謝料,賃金・一時金の差額,法定
金利,自宅待機期間中の用務・自己研鑽,経費・交通費,自宅を事務所として
使用する費用を含む合計額である。(甲3,5頁,15頁,16頁,29頁) 
(2)同裁判は,平成17年7月19日,当事者間に次の内容の訴訟上の和解が成立
した。(甲2)
ア 原告と被告は,被告が,平成17年7月31日付けで,原告を参与に格付けす
ることを確認する。
イ 原告と被告は,原告が,被告を,平成17年7月31日付けで退職し,原告と
被告間の雇用関係が,同日限り終了することを相互に確認する。
ウ 被告は,原告に対し,本件和解金として2500万円を,平成17年8月末日限
り,A銀行の原告名義の普通預金口座に送金する方法で支払う。ただし,特別
加算年金は,別途支給する。
被告は,上記和解金のうち2000万円は,原告が退職金を一時金で全額受
領したものとして経理処理する。
エ 原告は,本件和解期日以前に発生した事由をもって,今後被告及びその役
員,従業員並びに関係者に対し,名目の如何を問わず,請求ないし訴訟の提
起をしない。
オ 原告は,その余の請求を放棄する。
カ 原告及び被告は,原告と被告との間には,本和解条項に定めるほか,何ら
の債権債務のないことを相互に確認する。
キ 訴訟費用は各自の負担とする。 
4 争点1(本案前の申立て,既判力違背,訴訟上の和解成立)
(1) 被告の主張  
ア 原告の本件請求の内,未取得有給休暇買取請求87万7500円,交通費中
11万0640円,講習会費7000円,技術士活動費中6万9400円,資格取得
費1万1200円,(和解日翌日以降の交通費1万1100円,技術士活動費1万
1000円を除く。)の合計107万5740円は,平成17年7月19日,原告及び
被告間に訴訟上の和解が成立した前訴の既判力の範囲内であるから不適法
なものである。
特に上記交通費中11万0640円,講習会費7000円,技術士活動費中6
万9400円,資格取得費1万1200円の計19万8240円につき,和解日であ
る平成17年7月19日以前に発生したことを,被告は自認している。
未取得有給休暇買取について,原告は,訴状で,原告は,退職日の希望に
ついて,平成17年7月31日か同年8月末日,もしくは残有給休暇を全部取得
した日のいずれかを申入れしたところ,被告側から平成17年7月31日という
ことで申入れがあり,原告は,有給休暇の有償処分は当然の含みとして受入
れた,という経緯があるとのことであり,平成17年7月19日の和解室での原
告からの申入れ残有給休暇を全部取得した日は受入れられずに,7月31日
ということになった経緯を認識しているのであるから,未取得有給休暇の買取
については,前訴の和解の内容に含まれるものである。
イ 前訴において,原告及び被告間に訴訟上の和解が成立した。
(2) 原告の主張 
本訴請求については,前訴の債権債務の範囲外の別件請求である。
原告が,退職日以前までに使った費用等の請求であり,以下のとおり前訴の
債権・債務以外の費用である。
自宅待機期間中の直接業務に関しない資格取得,自己研鑽等に要する交通
費等については,被告の業務本部長に回答を求めていたが,和解日までに回答
がなされておらず,回答がないうちは請求することとしていた。
技術士活動費は,毎年技術士資格者個々人に与えられているものである。
原告は,被告に対し,有給休暇は,和解の際に全部取得したいとしていたの
であるから,有給休暇を与えることを考慮すれば,当然退職日の設定に反映さ
れなければならず,残有給休暇32.5日の補償を考慮しないで平成17年7月3
1日を設定したとすれば,労働基準法39条1項,4項に反する。原告は,退職勧
奨を受けて退職したのであるから,当然有給休暇に代わる補償として,残有給休
暇に見合う分を請求することができる。
5 争点2(本案につき,未取得有給休暇買取)
被告の主張
原告の本件請求の内,未取得有給休暇買取請求87万7500円について,原
告主張のとおり代休(代替休日)買取りの運用はなされているが,有給休暇買取
請求権は,一般的にはなく,退職にあたり,買取りを明示した規則,その他の協
定,労使慣行があって始めて認められるが,被告に買取りを明示した規則その
他の協定,労使慣行は存在せず,有給休暇買取請求に応ずる義務はない。
6 争点3(本案につき,交通費,講習会費,技術士活動費,資格取得費)
(1) 被告の主張
ア 被告は,原告に対し,自宅待機期間中の対応について就業時間は就業規則
とおりとすること,被告社員としての対外活動を一切禁止することが明示され
ている。したがって,原告が自己の判断で外部団体の委員会などに出席のた
めに外出することは,私用であり,被告の用務ではないから支払義務はない。
イ 交通費のうち,平成17年7月20日の2300円,同月23日の2300円,同月
26日の2300円の計6900円は,被告の命じない用務ないし私的用務に関
する費用であるから支払義務はない。
同月28日の2220円のうち,原告宅から被告までの費用を超える240円
は,原告の私的用務に関する費用である。この差額1980円及び同月27日
の1980円は支払済みである。  
ウ 資格取得費用は,自宅待機期間中,被告は原告に新たな資格取得を指示し
ていないので,被告に支払義務のある費用とは認められない。
エ 以上の他,本件項目の費用は,いずれも否認ないし争う。
(2)原告の主張
ア 前訴で原告は,被告の原告に対する社則にもない自宅待機処分も損害賠償
の一部として訴えていたのであり,前訴の和解により,自宅待機処分の有効
性について,裁判所の判断がなされていない。したがって,自宅待機を理由と
した諸費用の支払いを否認する主張は失当である。
イ 用務に関し,私用と社用について,就業規則等に定めがなく,裁量によれ
ば,公平を欠き権利の濫用をまねくことになる。そこで,原告は,被告に対し,
就業規則等に定めて透明性,客観性のある運用を行うことを求めていたが,
和解日までに回答はない。したがって,原告は,被告に対し,直接業務以外の
諸費用を,上記回答がない期間,請求することを明言していた。
ウ 技術士活動費は,毎年技術士資格者個々人に与えられている。
エ 被告の交通費支払いの事実は否認する。 
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本案前の申立て,既判力違背,訴訟上の和解成立)について
訴訟上の和解成立について
前記第2の3(2)の条項カによれば,「原告及び被告は,原告と被告との間には,
本和解条項に定めるほか,何らの債権債務のないことを相互に確認する。」と合意
している。
この清算条項の解釈は,本件の訴訟物に限定されていない(本件の訴訟物に限
定されていれば,和解条項に「本件に関し」との文言が「間には,」の次に記載され
ている。)から,原告及び被告との間には,和解成立時に存在した一切の債権債務
がないことを確認したものと解される。しかし,この場合でも一律に債権債務がない
とするのではなく,訴訟の経緯,紛争の実態,当事者の合理的意思,和解条項全
体の記載から事案に則した解釈をする必要がある。
そこで,他の和解条項記載を見ると,同条項オには,「原告は,その余の請求を
放棄する。」との記載がある。このオの記載は,訴訟物のうち他の条項で合意がさ
れなかった請求権につき実体法上,被告の債務を免除するものと解される。
訴訟上の和解に係る各条項を考慮すれば,同条項アにおいて,原告の地位を確
認し,同条項イにおいて,雇用関係の終了の確認をし,同条項ウにおいて,被告の
原告に対する和解金2500万円の支払いを合意して,同条項オ及びカにおいて,
和解日における原告の被告に対する和解にならなかった訴訟物につき債務の免除
と原告及び被告間の一切の債務の不存在を確認した内容のものである。以上のア
ないしウ,オ及びカの条項の合意は,それぞれ合意した内容の実体法上の効果が
発生すると解される。
また,同条項エの「原告は,本件和解期日以前に発生した事由をもって,今後被
告及びその役員,従業員並びに関係者に対し,名目の如何を問わず,請求ないし
訴訟の提起をしない。」の合意によって,和解期日以前に発生した事由をもって,原
告は被告に対して訴えを提起しない旨合意しているのである。
したがって,同条項カにより,本件訴えの中で,和解期日である平成17年7月1
9日以前に発生した分の請求については,実体法上の原告及び被告間の一切の
債権債務がないことを確認したうえ,前訴の対象となった訴訟物については,同条
項オにより,被告の原告に対する債務が免除されたことになり,更に,同条項エに
よって原告及び被告間に前記のとおりの不起訴の合意をしたものである。
また,証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件請求のうち,未取得
有給休暇買取分87万7500円,交通費11万0640円,講習会費7000円,技術
士活動費中6万9400円,資格取得費1万1200円の合計107万5740円につ
き,和解期日当時に認識していたことが認められる。
そうすると,その余を判断するまでもなく,原告の本件請求のうち,未取得有給
休暇買取分87万7500円,交通費11万0640円,講習会費7000円,技術士活
動費中6万9400円,資格取得費1万1200円の合計107万5740円は,上記和
解の不起訴の合意により訴えの利益がないと解される。
2 争点3(交通費1万1100円及び技術士活動費1万1000円について)(1) 交通費
(1万1100円)について
ア 証拠(甲1)によれば,平成17年7月20日,同月23日,同月26日にいずれ
も2300円の,同月27日に1980円の,同月28日に2220円の各交通費を
使用した事実が認められる。このうち,同月27日の1980円及び同月28日
の1980円については,当事者間に争いはない。
その余の交通費は,被告の業務に関する原告の能力向上の費用とはい
え,全てが無条件で認められるとはいえず,被告の指示又は承認もしくはこれ
に準じ,能力向上のために費用を使用した場合には,当然に請求できるという
システムが被告になければ,被告に費用の負担を求めることはできないと解さ
れる。
技術士活動費1万1000円については,証拠によって,原告が社団法人B
へ同月20日に8000円を,同日,CDセンターに1000円を,同月23日に社
団法人Cへ2000円を各支払った事実が認められるが,これについても上記
同様,被告指示又は承認もしくはこれに準じたシステムが被告になければ,被
告に費用の負担を求めることはできないと解される。
以上によれば,これらの費用につき,交通費で争いのない3960円は理由
があり,本項のその余の請求は,被告の指示又は承認があったとは認められ
ず,指示又は承認に準じたシステムが被告にあるかは明らかでないから理由
がない。 
イ 交通費中,同月27日及び同月28日の各1980円の計3960円は,被告が
原告に支払った事実を認めるに足りる証拠はない。
3 以上によれば,原告の請求中,未取得有給休暇買取の請求及び平成17年7月1
9日以前に発生した交通費中11万0640円,技術士活動費中6万9400円,講習
会費7000円,資格取得費用1万1200円は,訴えの利益がないから却下すること
とし,交通費中3960円は,理由があるから認容し,その余の請求は,理由がない
から棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京簡易裁判所民事第1室
              裁 判 官   齋 藤 健 一
紛争の要点
1 原告は被告に対し,減給と降格無効確認事件(平成16年12月17日事件番号:
平成16年(ワ)第26961号)並びに自宅待機無効確認事件(平成17年2月1日
 事件番号:平成17年(ワ)第3743号)を東京地方裁判所民事第36部に訴え
を起こし訴訟中であったが,去る平成17年7月19日に裁判官からの和解勧告
に被告側が応じて,原告に対し,降格前の資格に戻した上で,退職金の上乗
せ,和解金等を支払い,原告を平成17年7月31日付けで退職することの申し入
れを受けて,原告はこれを受け入れ和解しました(甲2ないし甲3)。 
2原告は和解後,被告側から連絡が来ないので,平成17年7月25日に同年7月2
8日に被告会社へ出向き,退職に関連する書類・手続き等を受け取りに行く旨等
を事前連絡した後,同日午後に被告会社へ出向き東京本店総務課長ら(E,F)
から一連の書類等の受領と退職金の支払いに関する手続き行ったが,その時に
「退職に伴う諸費用の精算・請求書」(甲第1号証)を提出し,被告会社に金1,0
97,840円を支払うよう請求を行った(甲1)。その時点で,原告から,東京本店
総務課長らに対し,被告会社の判断できる上司に提出するよう要望したことを付
記する。
3請求の理由とその根拠
○1交通費について
原告は平成17年3月1日から同年7月19日まで自宅待機処分を受けていた。
自宅待機処分そのものも無効であるが,自宅待機中における就業制限等の規
程が被告会社に一切なく,自己研鑽・外部団体への委員会出席等に関する交通
費は従前からも認められており,継続的な活動としての交通費として,金121,
740円を請求するものである。
○2雑費について
技術士活動費の平成16年度予算枠(10万円)が超過したため,技術士資格以
外の資格である一級建築士,建築設備士,工学会設備士等のCPD(継続教育)
のためのものとしての講習会費用として,雑費として金7,000円を請求するも
のである。
○3 技術士活動費について
技術士活動費は技術士資格者の活動費として,個人に毎年度毎に金10万円が
被告会社から予算枠として与えられるものであり,そのルールに従い金80,40
0円を請求するものである(甲5)。
○4その他費用(資格取得費用)について
従業員への資格取得は被告会社の方針として推奨しており,原告はますます国
際化する建設関連業務に対応するため,APECエンジニアの資格取得を目指
し,3年前から準備を進めていたがその準備が整い審査申請を(社)Cに平成17
年5月31日に提出した。その審査料として金11,200円を請求するものであ
る。
○5 給料等について
労働問題で和解した平成17年7月19日の東京地方裁判所民事第36部の和解
室でG裁判官とH書記官と原告と被告代理人(I氏)の席上で,原告は退職日の
希望日について,平成17年7月31日か同年8月末日,若しくは残有給休暇を全
部取得した日の何れかを申し入れたところ,被告側から平成17年7月31日とい
うことで申し入れがあり,原告は,有給休暇の有償処分は当然の含みとして,こ
れを受け入れた。という経緯がある。
被告会社の就業規則等には,有給休暇の買い取りは規定として定められて
いないが,管理職でない従業員には時間外勤務時間を代休で取ることを勧めな
がらも,年度末までに取りきれない代休は買い取っていた事実もあり,会社の裁
量で規定に定められていない運用をしていた事実もある。
 また,労働基準法第39条第1項に「所定の有給休暇を与えなければ罰せられ
ること。」,同条第4項に「使用者は所定の有給休暇を労働者の請求する時期に
与えなければ罰せられる。」ということから鑑みて,平成17年7月19日の和解室
での原告からの申し入れ「残有給休暇を全部取得した日」は受け入れられずに,
7月31日ということになったという経緯からして,平成17年度の40日の有給休
暇の内,32.5日の未取得有給休暇に変る給与等(給与の日換算額に日数を
掛けた金員)として,金877,500円を請求するものである。
労働問題の請求の趣旨(減給と降格無効確認,自宅待機無効確認)以外の債
権・債務であり,また,和解日以降の請求であることも申し添える(甲2,甲3ない
し甲4)。
本日までに原告に対し被告からの支払がないので訴訟を提起することにした。

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