弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
被告が平成15年4月16日付け15文第21号で行った宗教法人「天理教
豊文分教会」の規則変更認証処分を取り消す。
2 被告
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件事案の要旨
本件は,原告の被包括宗教法人であった天理教豊文分教会が,被包括関係を
廃止し,その後「天理教豊文教会」との名称とする旨規則を変更し,被告がこれを
認証する処分をしたところ,原告が,①上記「天理教豊文教会」との名称の一部に
原告の名称を用いることを認めることとなる上記規則変更は,原告の人格権を侵害
し,不正競争防止法2条1項1号,2号に違反するものであるから,宗教法人法2
8条1項1号が規定する「その変更しようとする事項がこの法律その他の法令の規
定に適合」しているとの要件が具備されていないこと,また,②上記規則変更は,
天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)28条が規則変更に際して要求している
「天理教甲府大教会代表役員の同意」を得ていないから,宗教法人法28条1項2
号が規定する「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされていること」とい
う規則変更認証の要件が具備されていないことから,これらを看過してなされた上
記規則認証処分は違法であると主張して,同処分の取消しを求める事案である。
2 基礎となる事実(証拠を付さない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
原告は,宗教法人天理教豊文分教会(以下「天理教豊文分教会」とい
う。)を,被告による天理教豊文分教会の規則変更の認証処分時まで包括していた
宗教法人である。
被告は,天理教豊文分教会の所轄庁である。
(2) 天理教豊文分教会は,平成13年7月3日,原告との被包括関係を廃止す
る旨の公告をし,同時に,原告に対し,責任役員会の決議に基づき原告との被包括
関係を廃止する旨の通知をした。(乙3,4,弁論の全趣旨)
(3) 本件処分
天理教豊文分教会は平成15年1月16日,上記各公告,通知をしたこと
を証する書類等の必要書類を添付した上で,原告との被包括関係の廃止を内容とす
る規則変更認証申請(以下「本件認証申請」という。)をし,これを受けた被告
は,同年4月16日付15文第21号により,天理教豊文分教会の規則変更の認証
処分(以下「本件処分」という。)をし,同日,天理教豊文分教会に対して認証書
を交付した。本件処分により認証された天理教豊文分教会の規則(以下「本件規
則」という。甲1)第1条には,「この教会は,宗教法人法による宗教法人であっ
て,『天理教豊文教会』という。」との定めがある。(乙1ないし7,弁論の全趣
旨)
(4) 天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)には,「この規則を変更しようと
するときは,責任役員全員及び天理教甲府大教会代表役員の同意を得て,天理教代
表役員の承認及び長野県知事の認証を受けなければならない。」との規定があるが
(同規則28条),天理教豊文分教会は,本件認証申請にあたり,天理教甲府大教
会代表役員の同意を得ていなかった。
なお,上記天理教甲府大教会は,原告の被包括宗教法人であり,部属教会
である天理教豊文分教会とは本末関係にある。天理教甲府大教会の規則には,代表
役員は,教会長の地位にある者にして,原告の代表役員が任命すること(7条1
項),代表役員が辞任しようとするときは,その理由書を添え,原告の代表役員の
承認を得なければならないこと(同条2項),財産の処分等には,原告の代表役員
の承認を受けなければならないこと(20条),規則を変更しようとするときは,
原告の代表役員の承認を得なければならないこと(29条1項),法人が解散しよ
うとするときは,原告の代表役員の承認を受けなければならないこと(30条),
天理教教規及び規則中,この法人に関係がある事項に関する規定は,この法人につ
いてもその効力を有すること(32条)が定められている。(甲1,22,乙5,
弁論の全趣旨)
(5) 審査請求
原告は,平成15年6月11日,文部科学大臣に対し,本件処分の取消し
を求める審査請求をしたが,同年10月8日,文部科学大臣はこれを棄却するとの
裁決をし,同裁決書謄本は同月10日に原告に送達された。
(6) 宗教法人法の定め
ア 宗教法人法26条1項は,宗教法人は,規則を変更しようとするとき
は,規則で定めるところによりその変更のための手続をし,その規則の変更につい
て所轄庁の認証を受けなければならないが,この場合において,宗教法人が当該宗
教法人を包括する宗教団体との関係を廃止しようとするときは,当該関係の廃止に
係る規則の変更に関し当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が
一定の権限を有する旨の定めがある場合でも,その権限に関する規則の規定による
ことを要しないものとすると定めている。
イ 同法27条は,宗教法人が規則変更の認証を受けようとするときは,認
証申請書及びその変更しようとする事項を示す書類2通に,①規則の変更の決定に
ついて規則で定める手続を経たことを証する書類,②規則の変更が被包括関係の設
定に係る場合には,同法26条2項の公告をし,同条3項の規定による承認を受け
たことを証する書類,③規則の変更が被包括関係の廃止に係る場合には,同条2項
の規定による公告及び同条3項の規定による通知をしたことを証する書類を添え
て,これを所轄庁に提出し,その認証を申請しなければならないと定めている。
ウ 同法28条1項は,所轄庁は,同法27条の規定による認証の申請を受
理した場合には,当該申請に係る事案について,①その変更しようとする事項がこ
の法律その他の法令の規定に適合していること(同法28条1項1号),②その変
更手続が同法26条の規定に従ってなされていること(同法28条1項2号)の各
要件を備えているかどうかを審査し,同法14条1項の規定に準じ当該規則の変更
の認証に関する決定をしなければならないと定めている。
エ 同法14条1項は,所轄庁は,当該申請に係る事案について,①当該団
体が宗教法人であること(同条項1号),②当該規則がこの法律その他の法令の規
定に適合していること(同条項2号),③当該設立の手続が同法12条の規定に従
ってなされていること(同法14条1項3号)の各要件を備えているかどうかを審
査し,これらの要件を備えていると認めたときはその規則を認証する旨の決定を
し,これらの要件を備えていないと認めたとき又はその受理した規則及びその添付
書類の記載によってはこれらの要件を備えているかどうかを確認することができな
いときはその規則を認証することができない旨の決定をしなければならないと定め
ている。
第3 争点
1 本件処分は,本件規則が,「天理教豊文教会」との名称につき原告の人格権
を侵害し,又は不正競争防止法2条1項1号,2号に違反するため,「その変更し
ようとする事項がこの法律その他の法令の規定に適合していること」(宗教法人法
28条1項1号)の要件に該当しないものとして,違法となるか。
2 本件処分は,「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされているこ
と」(宗教法人法28条1項2号)という手続的要件を備えない規則変更を認証し
たものとして違法となるか。具体的には,天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)
28条が規則変更に際して要求している「天理教甲府大教会代表役員の同意」は,
包括宗教団体が一定の権限を有する場合(宗教法人法26条1項後段)に該当し,
これを経ないでなされた本件処分は適法となるのか。
第4 争点に対する当事者の主張
1 争点1(宗教法人法28条1項1号の要件該当性)について
(原告の主張)
以下のとおり,天理教豊文分教会が原告との被包括関係廃止後もその名称の
一部に原告の名称を使用することは,原告の人格権を侵害し,不正競争防止法2条
1項1号,2号に違反する違法なものであり,その違法性は本件認証申請の申請書
類上明らかである。したがって,本件処分は,このような違法な名称使用を内容と
する本件規則を認証するものであって,「その変更しようとする事項がこの法律そ
の他の法令に適合していること」(宗教法人法28条1項1号)という規則変更認
証要件を備えない規則変更を認証するものであるから,違法である。
(1) 人格権侵害について
以下の事情に鑑みれば,天理教豊文分教会が,原告との被包括関係廃止
後,「天理教豊文教会」という,その名称の一部に原告の名称が含まれる名称を用
いることは,原告の人格権に対する重大な侵害となる違法なものである。
ア 名称使用行為の態様
「天理教」という名称の著名性,これまで原告関係者以外が「天理教」
の名称を使用した例はほとんどないこと,「天理教豊文教会」の名称は天理教の一
般教会と名称の特徴が同一であること,天理教豊文分教会は,原告からの離脱に際
し,信仰対象自体を変更するものであるが,信者等に対しては信仰は変わらない旨
事実と異なる説明をしていることを考慮すれば,一般人はもとより,原告の関係者
であっても,「天理教豊文教会」と天理教の一般教会を識別することは不可能であ
り,「天理教豊文教会」の名称使用が,原告の名称との混同誤認を惹起する態様の
ものであることは明らかである。
イ 名称使用の相当性
天理教豊文分教会は,天理教の教義の基礎である「親神天理王命」や
「天理教教典」を否定し,信仰対象自体を変更したものであることに照らせば,一
般的には新たな宗教団体の名称決定の自由を考慮すべきであるとしても,天理教豊
文分教会が「天理教」の名称を自己の名称中に使用する相当性はなく,むしろ信仰
対象を変更した以上「天理教」との名称は用いられるべきではない。天理教豊文分
教会が,天理教の信仰自体を変更し,自らの名称の一部に「天理教」の文言を用い
る合理的理由はないにもかかわらず,その名称を選択して使用する目的は,あえて
天理教の一般教会と識別不能の名称を選択し,原告の長年にわたる社会的活動の成
果を利用することにあることは容易に推認されるところである。よって,天理教豊
文分教会が「天理教豊文教会」の名称を使用する相当性はない。
ウ 原告が被る損害等
天理教豊文分教会が「天理教豊文教会」との名称を使用し,「天理教」
を称する宗教活動が放置される結果,「天理王命目標」を祀り,「原典及びこれに
基づいて天理教教会本部が編述し,真柱が裁定した天理教教典」に依拠して天理教
の教義を広める原告及びその被包括法人の活動が妨害されるおそれが高いことは明
らかである。他方,天理教豊文分教会は,原告との被包括関係廃止後,その信仰対
象事自体を変更した以上,その名称に「天理教」という文言を用いることを認めな
いとしても特段の不利益はない。
(2) 不正競争防止法違反について
不正競争防止法2条1項2号は著名表示冒用行為を,同条項1号は混同惹
起行為を「不正競争」とし,このような不正競争によって「営業上の利益」を侵害
され,又は侵害されるおそれがある者に差止請求権を認める(同法3条1項)など
の保護をしている。なお,不正競争防止法上の「営業」及び「事業者」は,単に営
利を直接の目的として行われる事業に限られず,事業者間の公正な競争を確保する
という法目的に照らして広く解釈されるべきであるところ,事業者間の公正な競争
を確保する必要性は宗教法人の宗教活動についても認められるところであるから,
宗教法人の宗教活動等も同法の「営業」に含まれ,その主体は「事業者」に該当す
るものと解すべきであり,原告と天理教豊文分教会との関係においても不正競争防
止法が適用される。
そして,上記(1)のとおり,原告の名称である「天理教」が著名であり周知
性もあること,本件規則により天理教豊文分教会の名称が「天理教豊文教会」と改
称されたこと,「天理教豊文教会」の名称が「天理教」と類似していること,この
名称使用が原告の名称との混同を惹起する行為であること,天理教豊文分教会が
「天理教豊文教会」の名称を使用することにより,原告の宗教活動等が妨害される
おそれが強いことから,天理教豊文分教会がその名称の一部に原告の名称を使用す
ることは,不正競争防止法2条1項1号及び2号の不正競争に該当し,差止請求
(同法3条1項)等が認められるための要件を満たしている。
したがって,天理教豊文分教会がその名称の一部に原告の名称を使用する
ことは,不正競争防止法に違反する違法なものである。
(3) 被告の主張に対する反論
ア 被告の審査範囲について
宗教法人の所轄庁の認証事務に関する「行政手続法の施行及びこれに伴
う宗教法人法の一部改正について」の別紙「規則等の認証に関する審査基準(留意
事項)例」においては,「法27条に基づき提出された書類について,その証明し
ている事実の存否に理由ある疑いを持つ場合には,その疑いを解明するための調査
を行う。」との基準が例示されており,これを受けて,被告においても,規則変更
の認証について同旨の基準が設定されている。したがって,被告は,規則変更認証
申請書の添付書類について,「その変更しようとする事項がこの法律その他の法令
の規定に適合していること」(宗教法人法28条1項1号)との要件の存在に理由
ある疑いがある場合には,審査の範囲を上記添付書類等に限定することなく,その
疑いを解明するための必要な調査を実施して認証申請の適法性を審理し判断しなけ
ればならない。これに対し被告は,規則変更認証については受理した規則及び関係
書類に基づく形式的な審査の範囲にとどまると主張するが,宗教法人法28条1項
1号の要件の存在に理由ある疑いがある場合には,その疑いを解明するための必要
な調査を実施する旨の審査基準を自ら設定している被告がこのような弁明をするこ
とは,それ自体矛盾であり許されない。
そして,本件認証申請は,申請書類中に記載されている規則変更の内容
自体から,法令違反の事実,特に不正競争防止法違反の事実が明らかとなるから,
被告は,宗教法人法28条1項1号の要件の存在につき理由ある疑いを認識すべき
である。したがって,被告としては,本件処分に係る審査の範囲を申請書類等に限
定することなく,上記疑いを解明するための必要な調査を実施して認証申請の適法
性を審理し判断しなければならならず,その審査をせずにされた本件処分は違法で
ある。
イ 一義的に明白な法令違反に限ることについて
被告は,規則認証の拒否は当該規則につき一義的に明白な法令違反があ
る場合に限られる旨主張するが,これは,所定の要件を備えていないと認めたとき
又はその受理した規則及びその添付書類の記載によってはこれらの要件を備えてい
るかどうかを確認することができないときはその規則を認証することができない旨
の決定をしなければならないとする宗教法人法の規定(同法28条1項,14条1
項)と明らかに矛盾するし,不正競争防止法は不正競争の要件を明確に定めている
のであるから,上記被告の主張は独自の見解であって理由がない。
ウ 事業者間での解決で足りるとの主張について
被告は,人格権侵害や不正競争防止法違反の問題は,事業者間における
差止請求(不正競争防止法3条参照)や損害賠償請求(同法4条参照)により解決
されるべきであると主張するが,宗教法人法28条1項1号の立法趣旨は,法令に
違反するような規則を持つ宗教法人ができて,取引の安全を害したりするようなお
それを防止することにあるところ,事業者間における差止請求等の手段があるから
といって,所轄庁において,認証処分に係る権限を適切に行使することにより,取
引の安全を害したりするようなおそれを防止するという使命を放棄することが許さ
れるはずはないから,上記被告の主張も理由がない。
(被告の主張)
宗教法人法28条1項,14条1項の規定は,宗教法人の設立や規則変更に
際しては,所轄庁が審査に名を借りて,宗教団体の宗教活動又は宗教上の結社の自
由に干渉したり,これを侵害することなどのことがあってはならないため(憲法2
0条,宗教法人法1条2項参照),所轄庁は提出された申請書及び添付書類等の資
料に基づいて形式的に審査をすれば足り,それ以上に,規則変更等の理由やその無
効事由といった実質的事項についてまでの審査をする義務はないとの制度を採った
ものであると解すべきである。
また,宗教法人法28条1項1号が,変更しようとする事項の法令適合性を
要求している趣旨は,甚だしく不備で法令に違反するような規則を有する宗教法人
を排除することにあり,法令違反の疑いがあるにすぎない場合であっても,同条項
所定の要件を具備していないとして規則変更の認証を拒否することは,所轄庁が審
査の名を借りて,宗教団体の宗教活動又は宗教上の結社の自由に干渉したり,これ
を侵害するという事態を招くおそれがある。また,当該規則の法令適合性を極めて
厳格に審査しなければならないとすることは,所轄庁に対しあらゆる法令の調査や
解釈を要求するものであって,不可能を強いるものである。したがって,所轄庁
は,宗教法人法28条1項1号の要件については,当該規則につき一義的に明白な
法令違反があるか否かを審査すれば足りるというべきである。
そして,本件認証申請に係る規則の変更は,原告との被包括関係廃止後の名
称を「天理教豊文教会」とするというものであるところ,宗教法人法上,他の宗教
法人と同一又は類似の名称を使用することを禁止する規定はないし,原告が主張す
る人格権侵害や不正競争防止法違反の有無は,法令解釈に加え,原告及び天理教豊
文分教会との間の事実関係等を調査した上で判断しなければならない事柄であり,
事業者間における差止請求(不正競争防止法3条参照)や損害賠償請求(同法4条
参照)の問題として解決されるべきものであるから,このような名称使用について
一義的に明白な法令違反があるということはできない。
したがって,本件認証申請が宗教法人法28条1項1号の要件を具備するも
のとした被告の判断に誤りはなく,本件処分は適法である。
2 争点2(宗教法人法28条1項2号の要件該当性)について
(原告の主張)
(1) 上記第2の2のとおり,本件処分前の天理教豊文分教会の法人規則(旧規
則)28条は,規則変更の際には規則で定めるところによりその変更のための手続
をしなければならないとする宗教法人法26条1項前段の規定を受けて,「この規
則を変更しようとするときは,責任役員全員及び天理教甲府大教会代表役員の同意
を得て,天理教代表役員の承認及び長野県知事の認証を受けなければならない。」
と規定していたが,本件認証申請は,被包括関係廃止に係る規則変更に際しても必
要な「天理教甲府大教会代表役員の同意」を得ることなくなされたものである。こ
のような手続違背を看過して規則の変更を認証した本件処分は,「その変更の手続
が第26条の規定に従ってなされていること」(宗教法人法28条1項2号)とい
う規則変更認証要件を備えない規則変更を認証したものとして違法である。
(2) これに対し被告は,上記「天理教甲府大教会代表役員の同意」(旧規則2
8条)は宗教法人法26条1項後段が規定する「当該宗教法人を包括する宗教団体
が有する一定の権限」に該当するから,天理教豊文分教会の被包括関係廃止に係る
規則変更手続に際しては「天理教甲府大教会代表役員の同意」を要しない旨主張す
るが,同条項の趣旨に照らせば「包括宗教団体の一定の権限」の範囲は厳格に解す
べきであってみだりに拡張解釈ないし類推解釈をすることは許されないところ,天
理教甲府大教会をはじめとする天理教の大教会は,原告に置かれる「部」,「出張
所」,「教務支庁」等の組織とは異なり,原告とは別個の法人格を有する宗教法人
であり,このような別法人である天理教甲府大教会の代表役員の同意は原告の下部
行政機関の同意と同視することはできないから,「天理教甲府大教会代表役員の同
意」は宗教法人法26条1項後段が定める「一定の権限」には該当せず,上記被告
の主張は理由がない。
(被告の主張)
天理教甲府大教会は,天理教豊文分教会が本件規則の変更によって被包括関
係を廃止しようとする包括団体である原告の被包括宗教法人であり,天理教甲府大
教会等の原告が包括する一般教会が宗教法人になろうとするときは,原告の代表役
員の承認を受けなければならず,また,上記一般教会の代表役員は,原告の代表役
員によって任命されるから,天理教甲府大教会が原告の意思によって極めて強い影
響を受ける団体であることは明らかである。よって,天理教甲府大教会の代表役員
の同意を要求する天理教豊文分教会の旧規則28条は,被包括関係の廃止に係る規
則の変更に関し,当該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定
の権限を有する旨の定めがある場合(宗教法人法26条1項後段)に該当するか
ら,本件認証申請については上記旧規則の規定によることを要せず,天理教甲府大
教会の代表役員の同意は不要である。したがって,本件認証申請については,その
変更の手続が宗教法人法26条の規定に従ってなされており,同法28条1項2号
の要件が具備されているから,これに基づき行われた本件処分は適法である。
第5 当裁判所の判断
1 被告の審査すべき範囲について
所轄庁の行う規則変更の認証は,宗教法人の申請にかかる規則の変更が法定
の要件を満たしているという判断を表示するものであるが,被包括関係の廃止が被
包括宗教法人の信教の自由に由来するものであり,それゆえに包括関係の廃止に関
する規則の変更に際しては包括宗教団体の制約条項の効力の停止(宗教法人法26
条1項後段)や不利益処分の禁止(同法78条)が定められて包括宗教団体による
監督権が及ばないこととされているほか,所轄庁や裁判所が宗教団体の宗教上の事
項について干渉することが禁止されている(同法85条1項)などの宗教法人法の
規定及びその趣旨からすれば,規則変更認証申請を受けた所轄庁の審査義務の範囲
としては,原則として,受理した申請書,規則及び添付書類に基づいて形式的な審
査をすれば足りるものと解すべきである。すなわち,宗教法人法28条1項及び1
4条1項は,宗教法人が規則を変更するに当たり,審査に名を借りて,宗教団体の
宗教活動又は宗教上の結社の自由に干渉したりこれを侵害するなどの契機を所轄庁
に与える危険性があることから(憲法20条,宗教法人法1条2項,85条参
照),原則として,所轄庁の書面審査に基づく規則変更の認証によって規則が変更
されるべきものとし,それ以上に,規則変更の理由やその無効事由といった実質的
事項についてまでの審査をする義務はないとの制度を採用したものと解することが
できる。(宗教法人法14条1項に基づく宗教法人設立についての最高裁判所昭和
35年(オ)第620号・同37年6月26日第三小法廷判決・裁判集民事61号4
09頁参照)
もっとも,所轄庁の審査は,認証申請書の添付書類の記載によって申請に係
る事案が宗教法人法の要件を充足しているか否かを審査すべきものであるから,こ
れらの添付書類が証明事実の真実の存在を肯首させるに足りる適切な文書でなけれ
ばならないのは当然のことであって,仮に証明事実が虚偽であることを所轄庁が知
っていた場合や証明事実の存在に所轄庁が理由ある疑いを持つ場合には,単に形式
的に証明文言の記載のある文書が調っているだけでは足りないというべきであり,
所轄庁としては,当該申請にかかる事案が宗教法人法28条1項各号に掲げる要件
を備えているかどうかを判断するのに必要な限度で,添付書類の記載内容を超えて
上記各要件の審査をすることは妨げられないというべきである。(宗教法人法14
条1項に基づく宗教法人設立についての最高裁判所昭和39年(行ツ)第22号・同
41年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事82号819頁参照)
2 争点1(宗教法人法28条1項1号の要件該当性)について
原告は,天理教豊文分教会が原告との被包括関係廃止後もその名称の一部に
原告の名称を使用することは,原告の人格権を侵害し,不正競争防止法2条1項1
号,2号に違反する違法なものであり,その違法性は本件認証申請の申請書類上明
らかであるから,本件処分は,「その変更しようとする事項がこの法律その他の法
令に適合していること」(宗教法人法28条1項1号)の要件を備えない規則変更
を認証したものとして違法であると主張する。
しかし,上記第2の2のとおり本件規則には「天理教豊文教会」という名称
の記載があるものの,人格権侵害又は不正競争防止法違反が生じ得るのは,当該名
称を現実に業務に用いて「使用」等した場合であり(不正競争防止法2条1項1
号,2号参照),本件規則上に上記記載があるのみでは「使用」等をしたことには
ならないから,被告による本件処分の時点において,将来,人格権侵害又は不正競
争防止法違反が生じるか否かを判断することはできない。また,原告が天理教豊文
分教会の人格権侵害や不正競争防止法違反を問題にして侵害の差止め(不正競争防
止法3条参照)又は損害賠償(同法4条参照)の各請求権を現実に行使するか否か
についても,被告による認証段階では不明である上,一般的には,合意による被包
括関係の廃止の場合など,包括宗教法人側が,有償又は無償で,明示又は黙示にそ
の名称の一部の使用を承諾する場合もあり得ると考えられるし,また,宗教名が一
般名称化しているため人格権侵害や不正競争防止法違反の問題が生じる余地がない
場合もあり得るところ,仮に被告において,このような事情の有無を判断するた
め,当該包括宗教団体と被包括宗教法人との関係,両者間の紛争の実態や教義の違
いなどにつき審査しなければならないとすると,極めて重要な宗教上の事項に所轄
庁が関わらざるを得なくなり,規則変更認証に名を借りて宗教活動の自由等に介入
する契機を所轄庁に与える危険性を排除しようとした上記宗教法人法の規定及びそ
の趣旨に反することとなる。なお,不正の目的をもって周知表示混同惹起行為を行
った場合には,私人間の問題にとどまらず罰則が定められているが(不正競争防止
法14条1項1号),その場合も,被告において,天理教豊文分教会が「不正の目
的」(同条同項同号)を有しているか等についてまで審査する義務があるとする
と,やはり所轄庁が規則変更認証に名を借りて宗教活動の自由等に介入する契機と
なる危険性があり,宗教法人法の趣旨に反することとなるといわざるを得ない。以
上の事情に照らすと,同一又は類似の名称の使用による人格権侵害又は不正競争防
止法違反の問題は,包括宗教団体側がそれを問題にして現実に侵害の差止めや損害
賠償の請求権を行使することにより初めて顕在化するものであり,包括宗教団体側
の上記請求権の存在が認められる場合にはその行使により解決すべきものであっ
て,規則変更の認証に関する宗教法人法の規定もそれを予定しているも
のと考えられる。
したがって,原告と天理教豊文分教会の間において,同一又は類似の名称の
使用による人格権侵害又は不正競争防止法違反の問題が生じるおそれがあるとして
も,本件処分の時点においては,そのおそれがあることのみによって,所轄庁たる
被告が規則変更認証申請書の添付書類の証明事実の存在に理由ある疑いを持つ場合
であるとは認められないし,被告には人格権侵害又は不正競争防止法違反を基礎づ
ける事実につき審査すべき義務が要求されているともいえないから,本件認証申請
に宗教法人法所定のその他の形式的要件が充足されている限り,同申請に係る事項
は「その変更しようとする事項がこの法律その他の法令に適合していること」(宗
教法人法28条1項1号)の要件を具備しているものと認められる。よって,上記
原告の主張は理由がな
い。
3 争点2(宗教法人法28条1項2号の要件該当性)について
原告は,本件認証申請は,本件処分前の天理教豊文分教会の法人規則(旧規
則)28条により要求されている「天理教甲府大教会代表役員の同意」を得ること
なくなされたものであるから,本件処分は,「その変更の手続が第26条の規定に
従ってなされていること」(宗教法人法28条1項2号)という規則変更認証要件
を備えない規則変更を認証したものとして違法であると主張するので,この点につ
き検討する。
宗教法人法26条1項後段は,被包括関係の廃止に係る規則の変更に関し当
該宗教法人の規則中に当該宗教法人を包括する宗教団体が一定の権限を有する旨の
定めがある場合でも,その権限に関する規則の規定によることを要しないとして,
包括宗教団体の制約条項の効力の停止を定めているが,これは,被包括関係の廃止
は,信教の自由の原則に内在する宗教団体結成の自由及びその活動の自由に関わる
事柄であることから,これに関する当該宗教法人の意思を包括宗教団体が拘束すべ
きではないとの趣旨に基づくものである。そして,上記第2の2(4)のとおり,天理
教甲府大教会は,原告の被包括宗教法人であるから,いわば原告の構成員として原
告の規範に拘束される関係にあり,実際に,天理教甲府大教会の規則(甲22)中
にも,原告の教規及び
規則中,天理教甲府大教会に関係がある事項に関する規定は同教会についてもその
効力を有することが定められており(同規則32条),また,その代表役員は,教
会長の地位にある者にして原告の代表役員が任命し(同規則7条1項),代表役員
が辞任しようとするときは,原告の代表役員の承認を得なければならない(同条2
項)として天理教甲府大教会の代表役員の任免にも原告が関与することとされてい
るほか,その規則の変更,合併及び解散をしようとするときにも原告の代表役員の
承認を得なければならないとされている(同規則29条,30条)など,原告が,
天理教甲府大教会やその代表役員に対する強い支配力や影響力を有していることが
認められる。そうすると,本件処分前の天理教豊文分教会の法人規則(旧規則)2
8条が要求する「天
理教甲府大教会代表役員の同意」についても,信教の自由の原則に由来する被包括
関係の廃止に係る規則の変更に関して包括宗教団体が被包括宗教法人の意思を拘束
することを排除しようとした上記宗教法人法26条1項後段の趣旨が妥当するもの
といえるから,上記「天理教甲府大教会代表役員の同意」は,同条項が定める包括
宗教団体の「一定の権限」に該当するものと認められる。したがって,本件認証申
請については,宗教法人法26条1項後段に基づき天理教甲府大教会の同意を経る
必要はなく,宗教法人法所定のその他の要件が充足されている限り,同申請に係る
事項は「その変更の手続が第26条の規定に従ってなされていること」(宗教法人
法28条1項2号)の要件を具備しているものと認められる。
これに対し原告は,天理教甲府大教会は,原告とは別個の法人格を有する宗
教法人であり,同教会の代表役員の同意は原告の下部行政機関の同意と同視するこ
とはできないことや,天理教甲府大教会の教会長は,同教会の部属教会長らの推挙
により決められ,その教会長が天理教甲府大教会の代表役員に任命されるのである
から,原告は同教会の代表役員の選任には関与していないことなどを主張して,
「天理教甲府大教会代表役員の同意」は宗教法人法26条1項後段が定める「一定
の権限」には該当しないと主張するが,上記のとおり,天理教甲府大教会は,原告
の被包括宗教法人であり,いわば原告の構成員として原告の規範に拘束される関係
にある以上,原告が主張する事情をもって,「天理教甲府大教会代表役員の同意」
が宗教法人法26条1項
後段の「一定の権限」に該当しないと解することはできず,上記原告の主張は理由
がない。
4 まとめ
そして,上記第2の2のとおり,天理教豊文分教会は,本件認証申請がなさ
れた平成15年1月16日の2か月以上前の日である平成13年7月3日に原告と
の被包括関係を廃止する旨の公告をし,同時に,原告に対し同事項を通知し(宗教
法人法28条2項,26条2項,3項参照),また,本件認証申請にあたり,上記
各公告,通知をしたことを証する書類等の必要書類を添付したのであり(同法27
条参照),宗教法人法所定の要件が充足されていると認められるから,これに基づ
き行われた本件処分は適法である。
第6 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟
費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり
判決する。
長野地方裁判所民事部
裁判長裁判官  辻 次郎
裁判官  杉本宏之
裁判官  三輪 睦

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