弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 原告
1 原告と被告国との間で、別紙目録記載の第一の各租税債権が、財団債権でない
ことを確認する。
2 原告と被告京都府との間で、別紙目録記載の第二の各租税債権が、財団債権で
ないことを確認する。
3 原告と被告京都市との間で、別紙目録記載の第三の租税債権が、財団債権でな
いことを確認する。
4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
との判決。
二 被告ら
主文同旨の判決。
第二 当事者間に争いがない事実
次の各事実は、原告と各被告との間で争いがない。
一 訴外岡崎染工株式会社(以下岡崎染工という)は、昭和四九年五月一一日午前
一〇時京都地方裁判所で破産宣告をうけ、原告が破産管財人に選任されて、就任し
た。
二 岡崎染工の事業年度(破産宣告後は清算事業年度)は、九月一日から翌年八月
三一日までであるが、昭和五四年九月一日から昭和五五年八月三一日までの清算事
業年度(以下本清算事業年度という)中に、岡崎染工所有土地の処分による譲渡
益、預金利息、違約金等の収入があつたので、昭和五五年一〇月三一日、法人税法
等の定めにより、それぞれ次の申告をした。
1 本清算事業年度予納法人税
(一) 申告税額   七三一五万八九〇〇円((1)+(2)-(3))
内訳
(1) 所得金額      一億六三二三万九三八五円
所得に対する税額    六四四五万五六〇〇円
(2) 課税土地譲渡利益金額  四五九八万五〇〇〇円
右に対する税額      九一一九万七〇〇〇円
(3) 控除税額(利息の源泉徴収) 四九万三六七八円
(二) 右申告に対し、中京税務署長は、昭和五六年二月二七日付で、原告に対
し、右予納法人税額を九六六八万五三〇〇円とする旨の更正決定をし、同時に過少
申告加算税一一七万六三〇〇円の賦課決定処分をした。
右更正決定処分及び賦課決定処分は、(一)(2)の課税土地譲渡利益金額を一億
六三六一万七〇〇〇円と認定し、それに対する税額を三二七二万三四〇〇円と算定
したことによる。
2 本清算事業年度法人府民税及び予納事業税
(一) 申告税額
(1) 法人府民税        四五七万二四二〇円
内訳  法人税割額    四五六万六四二〇円
均等割額         六〇〇〇円
(2) 予納事業税       一九二七万三六八〇円
(二) 前記法人税の更正決定処分にともない、京都府中京府税事務所長は、昭和
五六年四月一〇日付で、原告に対し、右法人府民税額を六〇三万一〇九〇円とする
旨の更正決定をした。
3 本清算事業年度法人市民税
(一) 申告税額         一〇七〇万三五四〇円
内訳   法人税割額   一〇六七万九五四〇円
均等割額       二万四〇〇〇円
(二) 前記法人税の更正決定処分にともない、京都市中京区長は、同年六月三〇
日付で、原告に対し、法人市民税額を一四一一万四九五〇円とする旨の更正決定を
した。
三 以上の次第で、岡崎染工は、被告国に対しては別紙目録記載の第一の、同京都
府に対しては同目録記載の第二の、同京都市に対しては同目録記載の第三の、それ
ぞれ租税債務を負うものであるが、被告らは、本件各租税債権がいずれも破産法四
七条二号但書の財団債権にあたるとして、原告に対しその弁済をもとめる。
しかして、本件各租税債権が財団債権にあたるとは、原告は、破産管財人として、
破産債権者への配当に優先して、その弁済をなすべき法律上の義務を負うものであ
り、本件各租税債権が財団債権にあたるか否かは、原告の法律上の義務に影響す
る。したがつて、原告は、この点について確認の利益があることになる。
第三 争点
一 原告の主張
本件各租税債権は、いずれも、岡崎染工の破産宣告後の原因に基づくものである
が、破産法四七条二号但書の「破産財団ニ関シテ生シタ」ものにあたらない。
したがつて、本件各租税債権は、いずれも財団債権にあたらない。
その理由の詳細及び被告らの主張に対する反論は、別紙一、二のとおりである。
そこで、原告は、各被告らとの間で、本件各租税債権が、それぞれ財団債権でない
ことの確認を求める。
二 被告国の主張
破産法人の所得にかかる法人税は、破産財団の管理上当然その経費と認められる公
租公課として、破産財団に関して生じたものといえるから、財団債権にあたる。
仮りにそうでないとしても、本件法人税中いわゆる土地重課税に相当する部分は、
破産財団に関して生じたものであることが明らかであるから、財団債権にあたる。
その理由の詳細は、別紙三のとおりである。
三 被告京都府の主張
法人の府民税は、法人の事務所又は事業所があるという事実を、法人の事業税は、
法人の事業という事実を、それぞれ課税の客体とするもので、破産法人であつて
も、これらがあるかぎり、納税義務が生ずる。したがつて、これらの租税は、法人
税と同様に、破産債権者にとつて共益的で経費的な支出であり、財団債権にあた
る。
その理由の詳細は、別紙四のとおりである。
四 被告京都市の主張
本件法人税の対象となつた所得は、破産財団に関して生じたもので財団債権にあた
る。したがつて、その税額を前提として計算された法人の市民税も、同様に財団債
権にあたる。
その理由の詳細は、別紙五のとおりである。
第四 争点に対する判断
当裁判所は、被告らの見解と同様、本件各租税債権が、破産財団に属すると解する
ものであるが、以下にその理由を詳述する。
一 法人税について
1 一般の租税債権は、破産法四七条二号により、財団債権とされるが、破産宣告
後の原因に基づいて生じた租税債権は、同号但書により「破産財団ニ関シテ生シタ
ルモノ」に限られる。ここに「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」とは、破産財団管
理のうえで当然支出を要する経費に属し、破産債権者が共益的な支出として共同負
担すべきものをいうから、「破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づい
て課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課
せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごとき
を指すものと解するのを相当とする」(最判昭和四三年一〇月八日民集二二巻一〇
号二〇九三頁)。
2 ところで、法人税法は、法人の各事業年度の所得に対して法人税を課すること
にしているが、破産法人については、清算中に生じた清算事業年度の所得に対する
法人税を課さず、清算所得についてこれを課することにしている(同法六条、五
条)。ただし、清算による残余財産の確定までに長期間を要する場合があることか
ら、当該清算事業年度の所得を破産していない法人の所得とみなして計算した法人
税の額を申告して、これを納付(予納)するよう義務付けている(同法一〇二条一
項二号、一〇五条参照)。
したがつて、予納法人税は、破産法人といえども、所得がある以上、破産終結まで
各清算事業年度ごとに当然に納付しなければならない租税であり、かつ、右予納法
人税の基礎となつた所得は、すべて破産財団に帰属し、他に予納法人税を支出する
破産法人の自由財産というものはないのである。そうすると、予納法人税の支出
は、破産手続遂行のために必要な支出、すなわち、破産債権者にとつて共益的な支
出として、前述した破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課にあたる
といわなければならない。
3 原告が引用する前記最高裁の判例は、個人破産の場合について、「所得税は、
例外的に分離課税の認められる特殊な所得は別として、一暦年内における各個人の
財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額につい
て、個人的事由による諸控除を行なつたうえ、これに対応する累進税率の適用によ
つて総合的な担税力に適合した課税を行なうことを目的とした租税であつて、所得
源に応じて課税するようなことは、別段の定めのない限り、所得税法の予定しない
ところである。」と判示して、「所得税は、破産財団に関して生じた請求権とは認
めがたい。」と結論づけている。
しかしながら、このことは、同じく所得を対象とするとはいえ、法人税の場合には
あてはまらない。すなわち、個人破産の場合には、破産宣告後に破産者が得た所得
及び取得財産は、破産者の自由財産となるので、少なくとも、自由財産による破産
者の所得に係る所得税は、財団債権とはならない理である。しかし、所得税制は、
総合課税方式を採り、破産財団に属する財産による所得と個人破産者の自由財産に
よる所得とに分離して課税することをせず、あくまで破産者個人の総所得金額を課
税標準にする仕組みになつている。このことのために、個人破産者に対する所得税
債権が、破産財団に関して生じた請求権にあたらないとされるのである。
ところが、法人破産の場合には、法人は破産によつて解散し、その後は、破算の目
的の範囲内でだけその存続が法律上許されているに過ぎないから、破産法人の自由
財産というものを生じる余地は全くない。この点で、個人破産の場合と異なるので
ある。
このようなわけで、破産者の自由財産があることを前提として、総合課税方式を理
由に破産宣告後の原因に基づく所得税の財団債権性を否定した前記判例は、破産法
人の法人税の場合には妥当しないとしなければならない。したがつて、原告のこの
点に関する主張は、前記判例の趣旨を正解しない独自の見解であつて採用できな
い。
4 そのうえ、本件予納法人税中租税特別措置法六三条のいわゆる土地重課税に該
当する部分は、破産財団に属する土地の譲渡利益金額に対して、その一〇〇分の二
〇を一律に本来の法人税額に加算して課税されたもので、まさに、破産財団を構成
する各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課される租税であり、この
売却過程で生じた違約金等の収入や利息金収入も、右に準ずる収益であつて、結局
これらに対する課税は、破産財団に関して生じたものにあたるとしなければならな
い。
5 なお、原告は、土地重課税の制度目的及び破産手続上の実質的な理由からして
も、土地重課税分を財団債権とすることは失当である旨を主張する。しかし、この
主張の失当であることは、前に説示したとおりであり、土地重課税制度の適用を、
破産法人の場合に限りで制限する制定法上の根拠はないから、右主張は採用できな
い。
6 そうすると、本件法人税債権は、財団債権にあたるとするほかはない。
二 法人の事業税について
法人の事業税の課税客体は、法人の行う事業であり、課税標準は、法人税に準じら
れており、また、清算中の法人に対して各清算事業年度の所得について解散してい
ない法人の所得とみなして計算した金額を申告して納付する義務を課していること
等は、すべて法人税の場合と同じである(地方税法七二条、同条の一二、同条の二
九参照)。
したがつて、前述したのと同じ理由で、法人の事業税も、財団債権にあたるという
ほかはない。
三 法人の府民税及び市民税について
法人に対する住民税の課税客体は、府及び市内に事務所又は事業所があることであ
るが、破産法人の事務所又は事業所は、破産財団に属するものであり、破産法人に
は、府民税及び市民税を支出すべき自由財産がないから、結局、これらの租税も、
破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課にあたると解するのが相当で
ある。
したがつて、法人の府民税及び市民税は、いずれも財団債権であるとするほかはな
い。
四 過少申告加算税について
破産者に対し賦課された過少申告加算税が、破産財団の管理上当然その経費と認め
られる公租公課にあたることは、いうまでもないから、過少申告加算税は、財団債
権にあたるとするほかはない。
五 結論
別紙目録記載の第一ないし第三の本件各租税債権は、いずれも、財団債権にあたる
から、これに反する原告の主張は、すべて失当である。
第五 むすび
以上の次第で、原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、行訴法
七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 古崎慶長 小田耕治 西田眞基)
目録
第一 法人税等
(一) 破産者岡崎染工株式会社(以下岡崎染工という)の昭和五四年九月一日よ
り昭和五五年八月三一日までの清算事業年度(以下本清算事業年度という)の申告
予納法人税(七三一五万八九〇〇円)ただし、中京税務署長の昭和五六年二月二七
日付更正決定により更正後のもの(九六六八万五三〇〇円)
(二) 中京税務署長の昭和五六年二月二七日付賦課決定による過少申告加算税
(一一七万六三〇〇円)
第二 府民税等
(一) 岡崎染工の本清算事業年度の申告法人府民税(四五七万二四二〇円)ただ
し、京都府中京府税事務所長の昭和五六年四月一〇日付更正決定により更正後のも
の(六〇三万一〇九〇円)
(二) 岡崎染工の本清算事業年度申告予納事業税(一九二七万三六八〇円)
第三 市民税
岡崎染工の本清算事業年度の申告法人市民税(一〇七〇万三五四〇円)ただし、京
都市中京区長の昭和五六年六月三〇日付更正決定により更正後のもの(一四一一万
四九五〇円)
別紙一 (原告の主張その一)
四、本件租税債権が、財団債権に該らぬ理由要旨。
破産宣告後の原因に基く租税債権のうち、財団債権に該る範囲については、最高裁
判所の判例がある(最高裁第三小法廷昭和四三年一〇月八日判決、民集二二巻一〇
号二〇九三頁以下)。
この判例は、破産者が個人であり、所得税に関するものであるが、破産法第四七条
二号但書の解釈を示したうえ、所得税は財団債権に該らない旨を判示するものであ
るので、広く租税債権全般につき、財団債権に該るか否かを決する基準を示すもの
と評価すべきものである。
右判例は、「破産法四七条二号が、国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収す
ることのできる請求権で破産宣告後の原因に基くもののうち、「破産財団ニ関シテ
生シタルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的
な支出であることにあるものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生シタ
ル」請求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せら
れ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれの収益そのものに対して課せられる租税
その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと
解するのを相当とする。」と、基本的な基準、即ち、破産法四七条二号但書の解釈
を示したうえ、所得税は、「一歴年内における各個人の財産、事業、勤労等による
各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除
を行つたうえ、これに対応する累進税率の適用によつて総合的な担税力に適合した
課税を行うことを目的とした租税であつて・・・・・・その課税の対象
は・・・・・・破産者個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額な
のである。このように、所得税は、破産財団に関して生じた請求権とは認めがた
い」とした。
注目すべきことは、上告人(熊本国税局長)が、破産者が個人で、その財産が破産
財団に属するものと、自由財産に属するものに分かれる場合においても、所得税は
破産財団からの所得に対する部分と、自由財産からの所得に対する部分とに区分す
ることが可能で、破産財団からの所得に対する所得税部分は財団債権とみるべきで
あり、特にこのケースでは、所得は破産財団に属する財産の処分による譲渡所得の
みであるから財団債権に該ると主張したのに対し、「その総所得金額が破産財団に
属する財産によるものと、自由財産によるものとに基いて算定される場合において
も、」前記の通り、所得税の課税対象は、総所得金額という抽象的な金額であるこ
とを理由に、基本的基準に照し、所得税は財団債権に該らないと判示し、上告を却
けている点である。
右判例は、破産宣告後発生した租税債権の財団債権該当の基本的基準を示したこと
に加え、破産宣告後の所得税は、課税対象である所得の発生源が破産財団による部
分と、自由財産による部分に区分できるか否かを問わず、課税対象が総所得金額と
いう抽象的なものである以上、財団債権に該らないことを、明確に示したものであ
る。
即ち、破産宣告後の原因に基く租税債権全般について、如何なるものが財団債権に
該るかの一般的基準を示し、更に所得を課税対象とする租税債権について、その一
般的基準の適用によつて、財団債権に該らないことを明確に示したものである。
破産法第四七条の財団債権は、政策的配慮によるもの(二号本文、九号)もある
が、その余はすべて破産手続の共益的費用、経費であり、優先的支出が、本来、当
然のものである。右判例は、破産宣告後の原因に基く公租公課についても、社会通
念上、経費とみるべき範囲をもつて財団債権とするもので、正当である。
租税債権の財団債権に該る範囲を広く解する場合、当面、国、公共団体の収入は確
保されるが、反面、破産債権者に損失を与え、広く国民の経済的基盤をゆるがし、
結果的に税収を減ずるに至ることを考えれば、右判例が画した租税債権の財団債権
該当の範囲は、国民経済的にも、極めて妥当である。
五、右最高裁判所判例の示す基準に照し、本件各租税債権が財団債権に該らないこ
とは明らかである。以下各租税につき要点を述べる。
(一) 法人税は、判例のケースの所得税と同じく総所得金額を課税対象とするも
のであり、破産宣告後発生した法人税が財団債権に該らないことについては、判例
の判示を全て援用することができる。
(二) 法人府民税は、法人が、当該府(本件の場合京都府)に事業所を有する事
実を課税対象とするものである。事業所は破産財団が全く存しない場合でも存在す
るものであり、破産財団と本質的に無関係であり、破産宣告後の法人府民税が財団
債権に該らないことは明らかである。
(三) 法人事業税は、法人の事業乃至事業所得を課税対象とするもので、法人税
と同じく、破産宣告後の法人事業税は財団債権に該らない。
(四) 法人市民税は、法人が当該市(本件の場合京都市)に事業所を有する事実
を課税対象とするもので、法人府民税と同じ理由で、破産宣告後の法人市民税は財
団債権に該らない。
以上の理は、更正部分についても全て同じである。
六、法人税については、租税特別措置法(以下措置法という)六三条により、土地
譲渡にかかる譲渡所得金額に一定税率(現行二〇パーセント)を乗じて算出した金
額を加算すべき旨の規定がある。右加算部分を俗に土地重課税というが、分離課税
ではなく、法人税の一部をなすものである。本件法人税も土地譲渡益が存在するの
で、右加算部分を含んでいる。法人税全体は、財団債権に該らないとしても、右加
算部分に限り、財団債権に該るという見解もあるので、それについての原告の主張
を明らかにする。
原告は、以下の理由で、この加算部分も財団債権に該らないと思料する。
(一) 基本的には、租税債権が、財団債権に該るか否かは、破産法四七条二号の
規定の仕方からみて、その租税債権全体についてみるべきであり、その一部が財団
債権に該るか否かを議論するのは失当である。
(二) この加算は、個々の土地の譲渡益についてなされるのでなく、一事業年度
中になされたすべての土地譲渡について、個々に生じる譲渡益、譲渡損を集計し、
+、-の結果+となつた場合に、それに一定税率(二〇パーセント)を乗じた額を
加算するものである。
例えば、A、B二つの土地の譲渡について、Aについて一〇〇万円の譲渡益があ
り、Bについて三〇万円の譲渡損があれば、一〇〇万円から三〇万円を差引いた七
〇万円の二〇パーセント一四万円が加算されるのである。
従つて、破産財団の個々の土地の譲渡益に課されるものでなく、前記判例の表現を
借りれば、その課税の対象は、破産財団を構成する個々の土地の収益ではなく、そ
れと別個の土地譲渡益という抽象的な金額である。
前記判例の示す基準に照し、財団債権に該らないことは明らかである。
(三) 土地重課は、破産者が法人の場合にのみ課せられ、個人の場合には課せら
れない(所得税法九条一項一〇号参照)。このように破産者が法人であるか、個人
であるかによつて、課税されるか否かが分かれるものは、破産財団の管理上当然の
経費、あるいは破産債権者にとつて共益的支出とは到底みられない。
(四) 土地重課制度は、昭和四〇年代、特にその後半の土地の将来の値上りを見
込んだ買占め、同じ理由による土地の供給不足、土地価格の異常な高騰、土地処分
者の不相当な利得といつた社会的不公正な事態が生じたのに対処するため、土地の
譲渡益につき、法人税を加重することとし、措置法第六三条として制定され、昭和
四八年四月一二日施行、原則として翌四九年四月一日から実施する(同法附則一四
条)こととし、その間の土地供給増大を期待し、実施後は土地処分者の不相当な利
得を、国及び地方公共団体が法人税、府・市民税として吸収することにより社会的
公正をはかり、併せて過剰な土地投機、地価の高騰を防止しようとする目的にでた
ものである。
右の通り、土地重課制度は、特定の時期の異常な社会情況の是正を目的とする政策
にでたものであり、破産手続上の共益的費用、あるいは経費という性格をもつもの
でない。又、土地重課部分を財団債権とするときは、破産債権者の配当を減少する
結果をまねくだけで、右制度の目的である土地処分者から不相当な利得を吸収し、
社会的公正をはかるという結果は全く期待しえない。
土地重課の制度目的に照しても、それを財団債権とすることは失当である。
(五) 土地重課部分を財団債権としたときは、破産財団に属する土地について、
高額の別除権が存する場合(現実には極めて多い)応々にして、土地の処分によ
り、一般破産債権者に対する配当源資を却つて減少させるという極めて不当な結果
をまねく。
例えば、破産財団を構成する土地の時価を一〇億円、取得価格を三億円、別除権の
被担保債権額を九億五千万円とし、取得後五年目に右時価で処分したとする。
売得金一〇億円のうち九億五千万円は別除権の受戻に必要であり、のこり、五千万
円が一応破産財団に入るが、右土地の譲渡益は取得費及び措置法六三条の法定経費
を控除し、五億五千万円となり、土地重課はその二〇パーセントの一億一千万円に
達する。従つて、一応破産財団に入金した金五千万円全額のほか更に配当源資から
六千万円の支出を強いられることになる。破産管理人が右のような結果をおそれ、
売却手続をひかえたとしても、別除権の行使で競売されたとき、同様の結果をきた
す。
以上の通り、土地重課部分に限つて財団債権とみるべきであるとする解釈は、法理
上、及び、実質的な理由の両面から失当である。
別紙二(原告の主張その二)
一、被告国の答弁書に基く主張に対する反論
(一) 国は、破産法(以下法という)四七条二号の立法趣旨を、租税債権保護に
あると主張する。
同号本文は右主張の通りであり、租税債権保護が強すぎるとの批判さえあることは
周知の通りである。しかし、同号但書は租税債権保護の範囲を限定するものであ
り、破産手続における関係者(租税債権者、破産債権者、破産者等)の利害の調和
が立法趣旨であると解すべきである。従つて、同但書の「破産財団ニ関シテ生シ
タ」公租公課とは、文理的には、広狭いずれにも解しうるものであるが、法の他の
条項との整合性を配慮し、関係者の利害の調和がえられる意義に解するのが正当で
ある。
(二) 国は、法人税は、法人の財産所有の事実ないし財産からの収益に対して課
されるものであることを理由に、法四七条二号但書の租税債権に該るというが、ま
ず、右所論の法人税が法人の財産所有の事実に対して課されるという部分は明らか
に誤つているし(法人税は財産所有の事実に課されるものでない)、又財産からの
収益に課される、と述べる部分も、法人税が財産からの収益のみに課されるもので
なく、財産処分による譲渡益、財産とは無関係な労務提供による収益等、法人の活
動による法人の総所得金額に対して課されるものであることを看過しており失当で
ある。
右国の所論は、法人税を最高裁判例(昭四三・一〇・八第三小法廷判決)が財団債
権としてみとめる範囲にはいるといいたいため、法人税の課税対象を曲げて述べる
ものであつて首肯しえない。
(三) 破産手続における関係人の利害の調和、他の法条との整合性を配慮すると
き、右最高裁判例が述べる通り、法四七条二号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シ
タ」公租公課とは、社会通念上、破産手続における共益的支出と認められる範囲、
即ち、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基いて課せられ(例えば、固
定資産税)、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課
せられる租税(例えば、利子に対する分離課税)、その他破産財団の管理上、当然
その経費と認められる公租公課(例えば、特定の営業に営業税が課される税制下、
破産者が当該営業を行う場合において、破産管財人がその営業を継続するときの営
業税)の範囲に限定して解するのが正当である。こう解することによつて関係人間
の利害の調和がえられ、法上財団債権として優遇される債権が、原則的に、破産財
団管理上の共益的費用とされているところと整合する。
(四) 国は、破産宣告後の破産者に対する公租公課のなかには破産財産に関して
生ずるものと、自由財産に関して生じる公租公課が存し、前者の公租公課について
は、その課税原因(資産の譲渡による対価、役務提供の対価等)によつて破産財団
(債権者全体)が利益をうけるので、その公租公課を破産財団に負担させることに
合理性があり、破産財団が負担することになる以上法四七条二号の立法趣旨に従つ
て財団債権となると主張する。
右の所論は、特定の公租公課を、破産財団に負担させるか、破産者の自由財産に負
担させるかの議論としては、一応考えられるものであるが、区分が荒すぎ、住民税
の如く、財産と直接関係のない租税、あるいは、法人税、所得税のごとく、財産に
よる所得と共に、労務、サービスによる所得等、財産と無関係な所得をあわせた総
所得を課税対象とする租税の存在を無視するもので、不完全な議論である。
又、破産財団に負担させるべき公租公課を、直ちに財団債権とする点も失当であ
る。自由財産の存しない法人の場合、すべての公租公課が財団債権ということにな
り、前記法四七条二号但書の立法趣旨を無視するものである。問題は、破産財団が
負担する公租公課のうち、如何なる範囲のものが財団債権として優先的に弁済さる
べきかの検討が必要であるのに、国の主張は例に添つて布えんするものというが、
右判例は、法四七条二号但書の「破産財団ニ関シテ」という広狭いずれにも解しう
る文言を妥当に解釈するため綿密な検討を展開しているのであり、国の所論は、右
判例の論旨に添うとはいえず、むしろそれと異質とさえ感じられる。
(五) 細かな点であるが、国は、破産財産に関する公租公課の課税原因の例示と
して「資産の譲渡による対価、役務提供の対価」をあげるが、課税原因の意義が不
明であるし、それが如何なる意義で主張されるにしても、破産宣告後の法人税は、
本来債務を完済し、資本等を控除したのち、残余財産(清算所得)が存した場合、
その清算所得を課税対象とするものであり(本件法人税はその予納で、のちに清算
される)、資産の譲渡の対価等を問題にすることに意味はない。
又、破産財産に関して生じる公租公課のうちに労務提供の対価を課税原因とするも
のが含まれるといつている点は、財産と労務は別物であることを看過している。
(六) 国は、前記最高裁判例が、破産後の所得税を財団債権に該らないとした理
由を、所得税は破産財団に関して生じる所得と、自由財産に関して生じる所得と
を、分離、区分せず、全体として課税対象とするところにあると主張するが、理解
を誤つている。最高裁判例は、所得税が右の分離、区分をしていないことをもつて
財団債権非該当の理由としているのではない。
さきにも述べた通り、最高裁判例は、破産財団を構成する個々の財産の所有の事
実、あるいは個々の財産からの収益そのものに課せられる公租公課、その他破産財
団の管理上当然の経費と認められる公租会課が、法四七条二号但書による財団債権
に該ると財団債権の範囲を確定し、所得税については、分離課税の例外は別とし
て、一歴年中の総所得金額について諸控除の上課せられるものであること、即ち、
破産財団を構成する個々の財産と直接には結びつかない総所得金額を課税対象とす
るものであることを理由に、法四七条二号但書の財団債権に該らないとするもので
ある。最高裁判例が、所得税は各種所得を総合一本化した個人の総所得を課税対象
とするもので所得源に応じた課税でないとの説示に続き、「従つて、納税者が破産
宣告を受け、その総所得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産による
ものとに基いて算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは
別個の破産者個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額なのであ
る。このように所得税は破産財団に関して生じた請求権とは認めがたい」とするの
は、破産宣告後の破産者に対する所得税も、結局所得税の本質である総所得金額と
いう抽象的な(即ち、個々の財産との具体的、直接的関連のない)金額を課税対象
とするものであるから、財団債権に該らないとするものである。右判示のうち、
「その総所得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基
いて算定される場合においても」という部分は、上告理由が、所得を右のように二
分することができ、破産財団に属する財産による所得に対する所得税部分は財団債
権に該ると主張したのに対し、そのように所得が二つの部分から算定される場合で
あつても、所得税の課税対象は総所得金額であることを理由に上告を却けるにあた
り、上告理由に対する判示である旨を明示したにすぎず、破産財団に関して生じた
所得と、自由財産に関して生じた所得を区分しないことをもつて、財団債権に該ら
ない理由とするものではない。
右判例の論旨に従えば、破産宣告後の一歴年中の総所得を課税対象とする清算事業
年度予納法人税が財団債権に該らないことは明白である。
(七) 国は、法人税が財団債権に該らないとするなら、所得税の場合は自由財産
から徴収できるのに法人税の場合は残余財産が生じない限り徴収の途がないので不
合理であるとされる。
しかし、右の主張は、所得税の場合、所得税法第九条一〇号国税通則法第二条一〇
号により、破産手続による譲渡所得が非課税とされていること、及び、破産宣告後
の法人税は、清算所得に対する課税であり、本来残余財産(債務を完済し、資本等
を控除後)があつてはじめて課税されるものであることを看過している。破産者が
個人の場合に破産手続による譲渡所得、即ち破産財団を構成する財産の処分による
所得以外の所得(例えば、給与所得、自由財産の譲渡所得等)について、自由財産
から所得税を徴収することは当然のことである。法人の場合に、譲渡所得も含めて
課税されるのであるから、予納の段階で財団債権として優先的に徴収するべきであ
るというのは、破産債権者、破産債権の物的人的保証人等にとつて酷にすぎ、破産
者が個人の場合とのバランスを欠き失当である。
一方、国にとつても、一旦徴収したうえ、金利を付して還付することとなるので、
互いに手数と、無用の経費を必要とする結果をまねくにすぎない。
(八) 国は、A教授の説を引用するが、同教授は具体例として、財団所属の個々
の不動産またはこれらからの収益に賦課される税金(分離課税が行なわれる場合を
想定されていると解する外ない)や、破産者の営業を継続する場合の営業税(本件
では問題にならないが、特定の営業に対し課せられる租税を指される。これは、社
会通念上、破産財団の管理上当然その経費と認められるものである)をあげられ、
最高裁判例のいうところと一致する。たゞ、同教授が理由付としてのべられるこの
種の税金の発生原因が破産債権者の利益に帰するとされる点は、右三種の公租公課
の共通的性格を抽象的に述べられたにすぎず、それから逆に「破産債権者の利益に
帰する」という意味を広く解したうえで、破産債権者の利益に帰する事由に対する
課税を直ちに財団債権に該るとするのは失当である。課税は、破産債権者にとつて
不利益であるから、あくまでも、最高裁判例が適格に示した基準に照らし、財団債
権に該るか否かの検討を要する。
(五) 国は、法人税のうち、いわゆる土地重課税部分は法人税が財団債権に該ら
ないとしても、財団債権に当ると解すべきであるとする。この所論に対しては、訴
状請求の原因第六項(訴状九枚目表八行目以下)に述べたところをもつて反論とす
るが、所論にかんがみ若干付言する。
1 土地重課部分は、清算所得がなくても、納付しなければならないとするが、法
的には租税債権としてのこるというだけのことであり、その租税債権が財団債権に
該るか否かは別の問題である。
2 土地重課税の基準である土地譲渡所得金額の計算に際し、破産法人自身に帰属
する所得が加算され、あるいは費用が差引かれるものでないことはその通りである
が、そのことが、財団債権に該るか否かの判断基準になるものではない。
3 土地重課税は、法人税と別個の分離課税的な制度であるとするが、当らない。
いわゆる土地重課税は、法人税の税額算定の一方式であり、法人税と別個の制度で
ないし、又、個々の土地譲渡益について、計算されるものでなく、全部の土地譲渡
の損益を集計し、益が生じたときに法人税の算定上、考慮されるにすぎず、分離課
税的という表現は適当でない。
二 被告京都府(以下府という)の所論に対する反論
(一) 府は、原告摘示の最高裁判例が本件各租税債権に関して妥当しないという
が、そうではない。たしかに、右判例は、直接には所得税に関するものであるが、
既述の通り、法四七条二号但書の解釈を示し、その解釈の一適用として、破産宣告
後の所得税が、右但書の財団債権に該らない旨判示するものであるから、全ての公
租公課について、右但書の財団債権に該るか否かを判断する場合に判例として妥当
するものである。
(二) 府は、本件法人府民税、法人事業税が、法人所得額及び法人税額に基いて
算出計算されたものであり、その法人所得は、破産債権者への配当準備の目的、即
ち破産債権者の共益目的のため、原告(破産管財人)が破産者に取得させた土地の
譲渡所得、違約金収益などの収益からなり、この所得に対しては、税法の定めによ
り、本件各租税を納付しなければならず、かかる租税納付のための支出は、破産債
権者にとつて当然支出すべき経費、共益的支出と認められるから、破産財団に関し
て生じたもの(財団債権)と認めるべきであると主張する。府の所論は、第一に法
人府民税、法人事業税をもつて、法人所得に対する課税であると主張されるものと
解されるが、この主張は、後に(五)で述べる通り、法人府民税の課税対象が、法
人が府下に事業所を有する事実であること、法人事業税の課税対象が、法人が事業
を営むものであることから、当をえないことは明らかである。又、仮りに、これら
租税が法人所得に対する課税であつて、税法の定めにより納付すべきものといえる
としても、本件で問題にしていることは、それが財団債権に該るか否かであるが、
その点についての府の主張は了解できるものでない。府は、納税義務の存在から、
その租税が経費あるいは共益的支出にあたり、従つて財団債権であるとされる如く
である。
納税義務があることから直ちにその租税をもつて経費あるいは共益的支出とみるこ
とができないことは言うまでもないところであるが、検討の結果においても、本件
府民税、事業税が経費あるいは共益費用とみられないことは(五)で述べる通りで
ある。
なお、府の本件各租税が財団債権に該るとされる理由付けをそのまま引用すると、
「本件破産者の所有発生の原因たる行為及び所得が全破産債権者に共通して有益な
ものであり、この共益的な所得をうるために税法上の租税を申告納付することは、
いわば破産財団管理上当然支出すべき一種の経費である」といわれる。
右所論のうち、破産者の破産財団に帰属する所得が、破産債権者に共通して有益で
あることはその通りであるが、「この共益的な所得をうるために税法上の租税を申
告納付する」といわれるところは理解に苦しむ。現行法上、かかる所得をえるため
に、申告納付する租税は存在せず、本件各租税も、かかる所得をうるための租税で
はない。原告は、右主張部分を前述の通りに一応理解したうえで、反論するもので
ある。又、所論が、破産財団に帰属する所得が破産債権者にとつて共通の利益であ
ることから、その所得に対する課税をもつて、共益的費用あるいは経費にあたると
いわれるのであれば、それもおかしい。所得をうるために、それら課税が何ら貢献
するものでないから、それら課税をもつて共益費用、経費ということはできない。
(三) 府は、所得税の課税対象である総所得金額と、法人税の課税対象である総
所得金額は、別異の性格を有するとするが当らない。両者とも、経済的、法的主体
である人、又は法人の各種経済活動による損益を集計し、その結果が利益となつた
場合、その利益に対し課税されるもので、各々の課税対象である利益(総所得金
額)が、個々の財産とは直接に結びついていないことには何らの変りがなく、両者
間に性格上の差異はない。原告の援用する最高裁判例は、所得税につき、その課税
対象が、個々の財産とは直接的に結びつかない総所得金額であることから、法四七
条二号但書の破産財団に関して生じた公租公課に該らないとするもので、法人税の
課税対象である法人の利益も、所得税の課税対象と同じ性質のものであるから、法
人税についても同じ結論がえられるのである。
(四) 府は、「破産法人の所有に属する破産財団の個々の不動産の譲渡所得(資
産たる不動産所有の事実に基づく収益)に対しで課せられる法人税は、破産債権者
に対する配当を志向してなされる破産手続遂行上、破産財団にとつて不動産資産の
管理並びに処分のための法律上必要にしてしかも破産債権者にとつて共益的で経費
的な支出であり、土地重課税とてもこれと別異に考察すべきものはない」と主張さ
れる。
右所論の前段、「破産財団の個々の不動産の譲渡所得に対して課せられる法人税」
というものは現行法上存在しない。又、不動産の譲渡所得を、不動産所有の事実に
基く収益といわれる点も当をえない。更に、法人税をもつて、破産債権者にとつて
共益的で経費的支出であるとされる点も争う。法人税は、破産債権者にとつて、何
らの利益も与えないもので、共益的、経費的とみる余地はない。
(五) 府は、事業税は事業者の「事業という事実」を課税対象、道府県民税及び
市町村民税は当該道府県内又は市町村内にある「事務所又は事業所」の存在という
事実を課税対象とする租税であるところ、事業者が破産者となつても、その事業及
びその事務所、又は事業所もともに破産手続の法律上存在しており、これらの租税
は破産手続進行のため破産債権者にとつて共益的で経費的な支出であるとされる
が、争う。事業者が破産した場合、営業継続の許可のもとに営業を継続するという
特別の場合を除き、事業は事実上、廃止され、事務所又は事業所も名目上のものに
なつてしまい、破産者あるいは破産債権者に対し、何らかの利益をもたらすもので
はなくなつている。従つて、右租税はいずれも、破産者、破産債権者にとつて、共
益費用あるいは経費とみることのできないものであり、かかる租税債権をもつて財
団債権として優先的に弁済をなす理由は、規定上も、又、実質的にも全くない。
三、被告京都市(以下市という)の主張に対する反論
(一) 市は、原告の摘示する最高裁判例を本件に援用することは不適切であると
されるが、この点については、既述二、(一)でのべたところをもつて反論とす
る。
(二) 市は、本件清算事業年度中に、原告によつて売却された土地が破産財団を
構成する財産であり、その売却による(収益)租税は破産財団に関して生じたもの
だから、本件各租税は財団債権であると主張するが、本件各租税は、土地の売却行
為、あるいは土地売却による収益そのものに課税するものでないので右主張は当ら
ない。又、土地売却益に対する課税が直ちに財団債権に該るわけでもない。
四、本件各租税についての法律関係は以下の通りである。
本件法人税、事業税は、予納であり、府市民税は形式的には予納でないが、清算所
得の有無により、結果的に清算されることになつている。従つて、本件各租税を財
団債権であるとしてみても、結局還付の手間と、利息を付する出費が生ずるだけの
ことになる。
別紙三(被告国の主)
被告の主張
原告は、訴状の別紙目録第一記載の租税債権は最高裁昭和四三年一〇月八日第三小
法廷判決・民集二二巻一〇号二〇九三ページの類推適用によつて財団債権に当たら
ないと主張するが、右主張は次のとおり失当である。
一 右最高裁判決が所得税を財団債権と認めなかつた理由は、破産法四七条二号に
いう「破産財団に関して生じたる請求権」とは破産財団を構成する各個の財産の所
有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そ
のものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる
公租公課のごときを指すものと解されるところ、所得税は例外的に分離課税の認め
られている特殊な所得を除いて、一歴年内における各個人の各種の所得を総合一本
化した総所得金額について、個人的事由による諸控除を行つた上課税することを目
的とした租税であり、また、たとえ破産者の総所得金額が破産財団に属する財産に
よるものと自由財産によるものとに基づいて算定されるような場合でも、課税対象
はそれらとは別個の破産者個人について存する総所得金額という抽象的な金額をも
つて課されるものであつて、所得源に応じて課税するものでない租税だからであ
る。
ところが、法人税は、右所得税にみられるような人的要素を持たない税であつて、
法人(破産の場合は破産財団たる破産法人の財産の所有の事実ないし財産からの収
益に対して課すものであるから、破産法四七条二号の原則どおり財団債権に該当す
る。このことを破産法四七条二号の立法趣旨及び同立法趣旨を踏まえた右最高裁判
決の要旨に添つて布衍するならば以下のとおりである。
1 すなわち、破産法四七条二号は、租税債権保護の立法趣旨で原則としてすべて
の租税債権を財団債権としたのであるが、破産宣告後の破産者に対する公租公課の
なかには破産財産に関して生じる公租公課と自由財産に関して生じる会租公課が存
し、前者の公租公課についてはその課税原因(資産の譲渡による対価、役務提供の
対価等)によつて破産財団(債権者全体)が利益を受けるのでその公租公課を破産
財団に負担させることに合理性があるが(そして、破産財団が負担することになる
以上、破産法四七条二号の立法趣旨に従つて財団債権となる。)、後者の公租公課
については当該課税原因によつて破産財団(債権者全体)は何らの利益を受けない
のでその公租公課を破産財団(債権者全体)に負担させることには合理性がないと
ころから(したがつて、自由財産及び破産手続の残余財産から徴収することにな
る。)、後者の公租公課を財団債権より除外するため、「破産宣告後ノ原因ニ基ク
請求権ハ破産財団ニ関シテ生シタルモノニ限ル」とのただし書を規定したのであ
る。
2 そして、前記最高裁判決も右立法趣旨を踏まえた上、所得税は破産財団に関し
て生じる所得と自由財産に関して生じる所得とを分離・区分せず全体として課税す
るようになつているので、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に該当しないと判断
したのである。このことは、右判決が、「所得源に応じて課税するようなこと
は・・・・・・所得税の予定しないところであ」り、「納税者・・・・・・の総所
得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基づいて算定
されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者個人に
ついて存する・・・・・・総所得金額」とされているからであると判示していると
ころから明らかである。また、右趣旨は、右最高裁判決の原審である福岡高裁昭和
三八年九月三〇日判決・民集二二巻一〇号二一一八ページにおいて明確である。
3 このように、破産者が個人の場合には破産財団に属する財産によるものと、破
産後の給与収入等破産財団以外に破産者個人に帰属する自由財産が存するが、破産
者が法人の場合には当該法人は解散し、破産手続において存するのみで自由財産が
存在することは考えられず、破産財団とは別個に破産法人自身に帰属する所得はあ
り得ない。
また、このことから、法人税が財団債権に当たらないとされるなら、所得税の場合
は自由財産から徴収できるのに、法人税の場合は奇跡的に破産手続に残余財産が生
じない限り徴収の途がない(破産法一五条に該当しないので破産債権にもならな
い。)という不合理が生ずるが、このような不合理が生ずる解釈を原告が主張する
のは、破産者が個人の場合破産宣告後の課税原因によつて取得された財産は自由財
産に属するものと破産財団に属するものとがあるが、法人が破産者の場合、右取得
財産はすべて破産財団に属するという実質を見ていないからである。
その上、所得税の場合は、破産者の個人的事由に基づく諸控除が存するが、法人税
の場合は破産手続上の費用及び破産財団に財産が帰属することによつて費用と認め
られるもの等破産財団に関して発生するもののみが費用と認められ、破産財団とは
別個に破産法人自身の事由による控除は存しない。
4 以上から明らかなように、法人破産の場合は、自由財産が存せず、法人税の課
税原因による所得はすべて破産財団に帰属して総債権者の利益に帰するので、法人
税は前記最高裁判決のいう「破産財団の管理上当然その経費と認められる公祖公
課」に該当し、財団債権となるのである(中田・破産法一四〇ページには、税金の
発生原因が破産債権者の利益に帰するような破産宣告後の税金は財団債権となり、
その立法理由に妥当性がある旨記載されており、また、破産者の営業を継続する場
合の営業税も財団債権になると記載されている。)。
二 以上述べたように法人税は財団債権に該当するのであるが、仮に一般的に法人
税が財団債権に当たらないとされても、本件法人税はいわゆる土地重加税が含まれ
ており、次のとおり少なくとも土地重課税に相当する法人税は財団債権に当たるも
のと解すべきである。
1 土地重課税は、土地譲渡に係る譲渡所得金額に一定税率を乗じて算出する租税
であつて(租税特別措置法六三条)、清算確定申告において清算所得が存しない場
合であつてもなお納付しなければならないものである。
2 右の譲渡所得金額の計算に際して破産法人自身に帰属する所得が加算され、あ
るいは費用が差し引かれるものではない。
3 以上のことから、土地重課税は一般の法人税とは別個の分離課税的な制度を取
り入れたものである。
別紙四(被告京都府の主張)
(一) 原告摘示の最高裁判所判例が判示するところは、これを「広く租税債権全
般につき財団債権に該るか否かを決する基準を示すものと評価すべきものである」
とする原告の主張は正当でない。
何故なら右判決は改正前(右判例を契機に改正されたと認められる)の所得税法の
解釈に関するものであつて、原告主張の法人税及びその法人税額にもとづいて算定
して豫納申告した本件法人府民税(更正決定の分を含む、以下でも同じ)並に法人
事業税に関しては妥当するものではないからである。
(二) なるほど右判例には、原告も引用するとおり、破産法第四七条第二号但書
の解釈が示されている。
しかし右判例が「破産法第四七条第二号」の解釈として判示するところ、すなわち
「破産法第四七条第二号が、国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収すること
のできる請求権で破産宣告後の原因に基くもののうち、「破産財団ニ関シテ生ジタ
ルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出
であることにあるものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生ジタル」請
求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基いて課せられ、あるい
はそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他
破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解する
のを相当とする」と判示しておる判旨に従えば、却つて、原告が地方税法第五三条
第二項により申告をした法人税割額及び均等割額の法人府民税及び同法第七二条の
二九第一項により申告した事業税こそは正に右判旨に適合する財団債権に該ると認
められるのである。
何故なら原告の申告にかかる本件法人府民税及びその税額並に法人事業税及びその
税額は、地方税法の定めるところにより、原告主張の法人所得額及び法人税額に基
いて算出計算せられたものであり、その法人所得なるものは原告が本件破産宣告後
破産手続遂行上破産債権者への配当準備の目的、すなわち破産債権者の共益目的の
ため原告が管理する破産財団を構成する個々の財産である破産者所有の土地を譲渡
して破産者に取得させた譲渡所得並に同様の目的で同様の財産である破産者所有の
土地については締結した譲渡契約にもとづいて破産者に取得させた違約金収益、そ
の他預金利益等から成り立つておるものであるところ、破産者がこのような所得を
得てこれを破産財団に帰属させるためには、税法の定めるところによつて、原告主
張の法人税のみでなく、原告の申告にかかる本件法人府民税並に法人事業税などを
納付しなければならないわけであるから本件各租税債権は正に破産宣告後の土地譲
渡又は土地譲渡契約の違約を原因とする所得に関連し発生成立したものではある
が、その所得発生の原因たる行為及び所得たるやそれは全破産債権者に共通して有
益なものであり、この共益的な所得を得るために税法上の租税を申告納付すること
は謂わば破産財団管理上当然支出すべき一種の経費であつてかかる経費の支出は破
産債権者にとつての共益的支出と認められるから、これを破産財団に関して生じた
ものと認めるべきであるからである。
(三) かくて原告の申告にかかる各租税債権が破産法第四七条第二号にもとづき
財団債権に該ることは明らかである。
(四) 原告は、前示判例は「破産宣告後発生した租税債権の財団債権該当の基本
的基準を示したことに加え、破産宣告後の所得税は、課税対象である所得の発生源
が破産財団による部分と自由財産による部分に区分できるか否かを問わず、課税対
象が総所得金額という抽象的なものである以上財団債権に該らないことを明確に示
したものである」「即ち、破産宣告後の原因に基く租税債権全般について、如何な
るものが財団債権に該るかの一般的基準を示し、更に所得を課税対象とする租税債
権について、その一般的基準の適用によつて財団債権に該らないことを明確に示し
たものである」(傍点は当訴訟代理人がこれを附した)と主張しておるのである。
(1) しかし原告の右主張は右判例の判旨から逸脱した主張であつて誤ではある
まいか。
何故なら右判例は、破産宣告後の原因に基く所得税法に定める所得税の財団債権該
当の成否を論ずるについて、所得一般を取上げて論じておるのではなく、唯所得税
法に定める所得についてのみ論及しておるのであつて、本件におけるが如き破産宣
告後の原因に基く法人税法の定める所得その他の所得一般について論及しておるの
ではないからであり、また後述するとおり前述の基本的基準の適用においても所得
税の課税対象たる所得と法人税の課税対象たる所得とを同一視することはできない
からである。
(2) ここで右判例が何故破産宣告後の原因に基く所得税を「破産財団に関して
生じた請求権」即ち財団債権に該当すると認めがたいとしたかの理由について検討
すると、同判例では「所得税は、例外的に分離課税の認められる特殊な所得は別と
して、一歴年内における各個人の財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本
化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除を行つたうえ、これに
対応する累進税率の適用によつて総合的な担税力に適合した課税を行うことを目的
とした租税であつて、所得源に応じて課税するようなことは、別段の定めのないか
ぎり、所得税法の豫定しないところである。従つて、納税者が破産宣告を受け、そ
の総所得金額が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基づい
て算定されるような場合においても、その課税の対象は、それらとは別個の破産者
個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額である」(傍点は当訴訟
代理人がこれを附した)と説示しておるのであり、かつそれだけのことである。
それ故右判例の右判旨の意味するところは所得税の課税対象たる所得のことについ
てであり、かつその重要点は「従つて、納税者が破産宣告を受け、その総所得金額
が破産財団に属する財産によるものと自由財産によるものとに基づいて算定される
ような場合においても、その課税対象は、それらとは別個の破産者個人について存
する前叙の総所得金額という抽象的な金額である」と判示しておるところにあると
言わねばならない。
ところが右引用文言に「前叙の総所得金額という抽象的な金額である」とある「抽
象的な」ということの意味はたやすく理解できないものがあり、われわれをして或
は誤解を生ぜしめるおそれがあるのではあるまいか。
(い) 現に原告は右の「抽象的なもの」と言われておるものは、例えば破産法人
の破産財団に属する個々の不動産を売却した場合に取得価額と売却価額との差引に
よつて計出した差益損を加減して算出して得た所得(益金)額こそがその破産法人
の総所得金額になるのであるから、このような総所得金額はその個々のうちのどの
不動産による譲渡所得であるかを具体的に意味する金額ではないことになり、その
意味でどの不動産による所得かが分らない「抽象的な金額」になると理解し、その
ように主張しておるものの如くである(訴状の「請求の原因」の六の項での原告の
主張参照)。
(ろ)しかし、もし原告の主張に対する被告の右理解にして誤がないとすれば右判
例が「抽象的な金額」と言つておる「抽象的な」ということの意味は、原告が主張
するような意味ではなく、原告の右主張は誤りであると言わねばならない。
すなわち右判例に言う「抽象的な」ということの意味は、法人でない破産者(個
人)につき破産宣告後の原因にもとづき発生した所得税法に定める所得は、それが
破産財団に属する財産によるものであるか、自由財産によるものであるかを区別せ
ずに各種所得を総合一本化して破産者個人の総所得金額を計出し、しかもその総所
得金額から所得税法所定の個人的事由による諸控除を行うて得た金額、即ち課税所
得金額に対応した累進税率を適用して算出した所得税を課税するのであるから、破
産者個人の総所得金額は、もともと所得税法に定める破産者個人の個人的事由によ
る諸控除を行う前から、その法的性質は個々の財産による所得という個々の財産の
所有の事実に即して課税される物的税の課税対象となる性質を有せず、却つて破産
者個人に一身専属する総合的な所得という破産者個人の一般財産に即して課税され
る人的税の課税対象となる性質を有するものであり、この意味でこの総所得金額は
個々の所得を生じた個々の財産から切り離されて抽象的に存在するものであると謂
うておるものと理解されるのである。
(は) かくの如く解してこそ、破産宣告後の原因にもとづきて生じた総所得金額
を課税対象として破産者個人に課税せられる所得税を破産債権者にとつて共益的支
出であると認める余地はなく、またそれを破産財団の管理上当然その経費と認める
理由もないのである。
右判例が所得税は破産財団に関して生じた請求権と認めがたいとしておる理由を正
解するためには、右の如き理解に立たねばならないのである。
(3) 叙上のとおりであるから、本件の如き破産法人の所得に対し法人税法にも
とづいて課せられる法人税、延いては本件法人府民税、法人事業税等と破産法第四
七条第二号との関係を右判例における所得税と破産法第四七条第二号との関係と同
一に論ずることはできないのである。
何故なら破産宣告後の原因にもとづく破産法人の法人税法に定める法人所得は、破
産宣告後であつても破産財団に属する個々の財産の原価を基とした損益計算によつ
て得られる各所得の総合的集計ではあるけれども、その総所得金額が破産財団に属
する個々の財産に即して(物的に或は破産者との人的関連なしに)発生した所得で
あることの性質には何らの変化(抽象化)も起らず、この意味では、法人税の課税
対象となる総所得金額が、破産者本人について存する特別の(人的な)事由によつ
て抽象化されることはないからである。
(4) 従つて、原告主張の法人税、法人府民税、法人事業税、法人市民税が右判
例に言う破産財団を構成する各個の財産の所有の事実にもとづいて課せられる租
税、あるいはそれらの各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられ
る租税、その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課に該当し、破
産財団に関して生じた財団債権に該ることは明らかである。
けだし、
(イ) 破産法人の所有に属する破産財団の個々の不動産の譲渡所得(資産たる不
動産所有の事実に基づく収益)に対して課せられる法人税は、破産債権者に対する
配当を志向してなされる破産手続遂行上、破産財団にとつて不動産資産の管理並に
処分のため法律上必要にしてしかも破産債権者にとつて共益的で経費的な支出であ
り、土地重課税とてもこれと別異に考察すべきものはない。
(ロ) また事業税は事業者の「事業という事実」を課税対象としておる租税であ
り、道府県民税及び市町村民税は当該道府県内又は市町村内に在る「事務所又は事
業所」の存在という事実を課税対象とする租税であるところ、たとえ事業者が破産
者となつてもその事業もその事務所又は事業所も、ともに破産手続進行の間法律上
存在しており、その存在が継続する限り、これらの租税は破産手続追行のため破産
債権者にとつて共益的で経費的な支出であるのである。
別紙五(被告京都市の主張)
(1) 原告が中京税務署長宛に原告主張の清算事業年度予納法人税を申告したこ
とは原告自ら認めるところである。しかるに、本訴はこの予納申告税が財団債権で
ないことの確認を求めているのであり、その理由はこの予納申告税が破産法第四七
条二号但し書に該当しないものであつたという点にある。はたしてそうであろう
か。
(2) 原告は自己の主張のよりどころを、四三年の最高裁判決に求めているが、
そもそも原告の主張の誤りはこの点にあるのである。
右判決は個人の破産の場合に係り、自由財産と破産財団との両者を考慮におくこと
が可能な場合に関する判決であるが、本訴の破産者は株式会社であり、破産財団の
みより考え得ない場合にかかるものであるから、右判決の趣旨を参考にすることさ
え不適切と考えられる。
(3) 本件の予納申告税額は、原告自ら述べているように、昭和五四年九月一日
から同五五年八月三一日までの清算事業年度中に岡崎染工所有地の処分による譲渡
益、預金利息、違約金等の収入に対する課税額(これは土地重課税も含まれてい
る)であり、この金額が破産法第四七条二号但し書、すなわち「破産宣告後の原因
に基く請求権は破産財団に関して生じたるものに限る」に該当する租税債権である
ことは疑の余地はない。けだし、売却された土地は破産財団を構成する財産である
からであり、この売却による租税債務は破産財団に関して生じたものであり、共益
的性格を有するものだからである。右の解釈は、前記最高裁判決が、「破産法四七
条二号が、国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収することのできる請求権で
破産宣告後の原因に基づくもののうち、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限つ
て財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出であることにあ
るものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産
財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個
のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当
然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのを相当とする」と
の判示に合致する(前掲二〇九四頁、なお田中二郎租税法二八六頁、法律学全集、
注(一)、村井正、民商六一巻四号六九五頁参照)。
(4) 中京税務署長宛に申告せられた予納法人税額を前提として計算される、法
人市民税及び更正決定についても、同様であつて特に附言すべき点はない。

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