弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 本件申立てをいずれも却下する。
二 申立費用は債権者らの負担とする。
       事実及び理由
第一 申立て
一 債権者らが債務者の従業員としての地位を有することを仮に定める。
二 債務者は、債権者ら各自に対し、平成六年一二月以降本案判決確定に至るま
で、毎月二〇日限り、別紙1の各債権者に対応する「一九九三年度月例給」欄記載
の金員を仮に支払え。
第二 事案の概要
一 本件紛争に至る経緯(以下の事実は、当事者間に争いがないか、または各項末
尾掲記の疎明資料により疎明される。)
1 債務者は、スウェーデン国ストックホルム市に本店を置くスウェーデン国会社
法に基づいて設立された外国株式会社であり、日本においては昭和三二年に東京都
千代田区に支店(営業所)の登記をしている。債務者の株式の半分はスウェーデン
国が所有し、その余の半分は民間によって所有されている。
 スカンジナビア航空会社は、デンマーク、ノルウェー及びスウェーデンの国際的
な指定航空会社で、昭和二六年二月八日付でデンマーク航空会社、デット・ノルス
ケ航空会社及び債務者の三社によるコンソーシアム契約(企業結合契約)に基づい
て設立された。スカンジナビア航空会社の資本持分は、債務者が七分の三、デンマ
ーク航空会社及びデット・ノルスケ航空会社がそれぞれ七分の二の割合である。ス
カンジナビア航空会社の本社はスウェーデン国ストックホルム市に置かれ、現在、
デンマーク支社、ノルウェー支社及びスウェーデン支社のほか、全世界に日本支社
を含めて一三の支社が置かれている。スカンジナビア航空会社の全従業員数は平成
五年一二月三一日現在で二万一三五二名である。
 スカンジナビア航空会社日本支社は昭和二六年に発足し、現在、日本韓国地区を
営業エリアとしている。平成六年六月一〇日当時、日本支社で雇用されていた日本
人従業員(エア・ホステスを含む。)は一四〇名であり、その組織は別紙2のとお
りであった。その後、同年一一月三〇日現在、日本国内においては東京都内に支
店、大阪市内に営業所を置いて営業活動を行い、成田空港と関西国際空港に空港事
務所を置いて、各空港に乗り入れている航空機の旅客貨物の取扱事務を行ってい
る。スカンジナビア航空会社は前記のとおりコンソーシアムであるが、日本におい
てはコンソーシアムとして活動することが法律上困難であるため、その構成会社で
ある債務者が日本での活動会社となり、従業員を雇用している。そこで、スカンジ
ナビア航空会社とその従業員との雇用は、債務者と従業員との雇用契約として締結
されている。(乙第四二号証、乙第一二一号証)
 以下においては、債務者とスカンジナビア航空会社とを特に区別することなく、
「会社」という。
2 債権者らは、いずれも会社日本支社の従業員であった者であり、それぞれの生
年月日、入社日及び平成六年一一月三〇日当時の配属部署は、別紙1のとおりであ
った(債権者aの入社日につき、乙第三九号証)。
 なお、会社と債権者らとの雇用契約は、業務内容及び勤務地を特定したものであ
った。
 また、債権者らは、スカンジナビア航空労働組合(以下「組合」という。)の組
合員であるが、組合は、日本支社の従業員で組織された労働組合であり、平成六年
六月一〇日現在における組合員数は一一一名であった。bは組合の中央執行委員
長、債権者cは副委員長・東京支部長、同dは東京会計、eは代議員、fは大阪支
部長、債権者gは書記局員である。なお、同年四月一日以降、会社と組合との間の
労働協約は失効した。(乙第三六号証)
3 会社は、組合に対し、平成五年一二月二七日の団体交渉において、三項目の合
理化提案を行うとともに、平成六年一月二五日の団体交渉においては、日本支社で
五億円のコスト削減が必要であることを説明した。
 続いて、会社は、同年三月三日、コスト削減を目標として、①平成六年から平成
一一年までに三四名の定年退職者が出るが、一切補充しない、②旅客営業、貨物営
業、経理、空港旅客業務、整備、運航管理、空港貨物業務、エア・ホステスをすべ
て統合し、日本において営業チームとサービスチームに再編する。全人員の有効活
用のため、ほとんどの従業員が数種の仕事を遂行できるように職業訓練を行う、③
東京及び大阪は市内にある事務所を空港近辺に移転する。人員の柔軟な活用と家賃
の削減を目的とする、④再編、営業業務内容の明確化、情報手段の改善を図り、旅
客業務を強化する。全営業部員は、近代的手法とテクノロジーを駆使した営業全般
の訓練を受ける、⑤今後の業務遂行上、必要最低限の事務所面積以外はすべて解約
する、⑥今後、従業員が遂行できる仕事以外の外注部分はすべて解約する。これ
は、第三者に支払う余計な経費を削減することを目的とし、必要とあれば業務規定
等を見直す、⑦日常業務はすべてコンピューター化する。必要なハードウェア、ソ
フトウェア、訓練の整備を遅滞なく行う、⑧早期退職制度を導入する。これは、会
社及び従業員の相互が満足する制度とし、効率化を図ることを目的とする、との八
項目の合理化提案(以下、「8ポイント・アクション・プラン」という。)を組合
に対して示した。8ポイント・アクション・プランのうち、東京及び大阪の市内の
事務所移転、外注の見直し及び日常業務のコンピューター化の三項目について、ワ
ーキング・チームが会社内で編成され、東京事務所ビルの一階にあったカウンタ
ー・予約事務所が同年五月三〇日から五階に移り、また、コンピューター化につい
ては同年三月二〇日にワーキング・チームから答申案が提出された。
4 同月二二日、組合は、会社に対し、東京地区のすべての経費に関する書類の提
出を求めた。一方、会社は、早期退職制度案を早急に出したいと説明するととも
に、大阪事務所についても、経費削減のため事務所移転や営業以外の統合を行うな
どとした。
 平成六年春闘に関しては、会社は、同年三月三一日の団体交渉において、賃金の
三年間凍結を回答したが、その後一年間の凍結に変更し、また一時金については、
同年五月一九日に夏期一時金として三・五か月の回答をした。そして、同日、会社
は、組合に対し、三週間後に会社存続のための抜本的な再建策(早期退職制度を含
む。)を準備中であると回答した。
 同月二六日、会社は、組合に対し、①全世界の拠点でのコスト削減のため、従来
の労働条件を上回ったり、将来会社の負担となるような回答はできないこと、②早
期退職制度及び抜本的再建策、③コスト削減策については、8ポイント・アクショ
ン・プランのワーキング・チームからの答申を待って具体策を決定する。スイス航
空の業務委託終結による二億円余りの対応策は抜本的再建策に含むこと、③将来の
設計には、業務委託を利用する場合もあること、④コストのなかで最も圧迫してい
る人件費については、労使双方に責任があることなどを回答した。
 同年六月八日、会社と組合とは、夏期一時金三・五か月で合意し、夏期一時金は
同月一七日に支払われることになったが、年末一時金については、早期退職とから
めて翌週に話し合うこととされた。また、会社は、抜本的合理化案を、組合に対し
ては同月一〇日午前九時に、全従業員に対して同日午後一時に発表すると説明し
た。(甲第一〇号証、甲第六九、七〇号証)
5 会社は、同月一〇日、日本支社の再建策として、次の内容を発表した。すなわ
ち、①地上職及びエア・ホステスの日本人全従業員に対し、早期退職募集と再雇用
の提案を行う、②早期退職の募集を行うに当たっては、通常の規定退職金に早期退
職割増金の支給を提示し、③地上職については同年八月三一日を早期退職日とし
て、同年九月一日から新たな条件で三一名の従業員を再雇用する、④日本人エア・
ホステスについては同年一一月三〇日を早期退職日として、同年一二月一日から新
たな条件で再雇用する、というものであり、早期退職の募集期限は同年七月二九日
までとされた(後記のとおり、右期限はその後延期された。)。また、日本支社の
再建策には、①全空港業務の外部委託化、②予約発券業務の外部委託化、③名古屋
及び福岡事務所の閉鎖、④営業・総務・経理の再編成と縮小及び⑤日本人エア・ホ
ステスのスカンジナビアベースへの移行が含まれていた(以下、この再建策を「本
件合理化案」という。)。
 会社は、本件合理化案の発表に際し、全従業員に対し、同日付書面をもって、会
社の現状と対応、日本支社の現状、日本支社においてこれまで実施された対応策、
日本支社の再建策及び早期退職制度の内容等を説明した。会社は、このなかで、①
全地上職及び日本人エア・ホステスに対し、早期退職制度をもって雇用関係を精算
すること、②本件を混乱なく実施するため組合と協議すること、③将来の業務委託
先の会社に従業員の受入れ方を要請し、また同業他社に働き掛け、再就職あっせん
に極力努力すること、④右②及び③の実施状況をフォローするため、労使で再就職
あっせん委員会を設置することを提案すること、⑤従業員の今後の生活に関し、社
会保険等の手続きに関する質問及び相談に応じる窓口を東京支店総務部に設けるこ
とを明らかにした。また、会社は、日本支社の再建築を円満に実施するため、組合
と早期退職制度の内容及び条件等につき早急に話し合うべく、組合に対し、団体交
渉の申入れをした。(乙第一号証の一、二、乙第二号証)
6 同月一三日、会社と組合との第一回団体交渉が開催され、組合は、会社に対
し、平成二年から平成五年までの四年連続の赤字決算とされたことについての本社
の損益計算書の提出及びその説明、日本支社の詳しい経営状況の書類提出及びその
説明並びに8ポイント・アクション・プランの速やかな施行等を求めた。
 同月一四日、第二回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、本社の損益計算
書の写しを交付した。
 同月一七日、第四回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、会社全体及び日
本支社の各経営状況等を説明した。一方、組合は、会社に対し、平成六年の賃金凍
結による人件費の削減額がいくらになるか、再建案に示された人数枠での会社が考
えている日本地区の業務形態等について回答を求めた。
 同月一八日、第五回団体交渉が開催され、会社は、求めに応じ、組合に対し、回
答するとともに、日本地区の業務形態についてはできるだけ早期に回答することを
約した。また、
会社は、組合に対し、同月一七日の団体交渉において提出された質問事項、すなわ
ちスイス航空の業務委託終了によるコストへの影響、8ポイント・アクション・プ
ランによるコスト削減効果に疑問を抱いた理由について、回答した。
 同月二三日、会社は、別紙3のとおり、組合に対し、要望のあった日本支社の新
組織図(地上職の従業員数三二名)を書面で回答した。
 同月二四日、第六回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、同月一七日の団
体交渉において出された質問事項、すなわち会社が同月一〇日に全従業員に交付し
た書面に記載されていた「予想以上の旅客と貨物の実勢販売価格の低下」の内容等
について回答した。
一方、組合は、会社に対し、会社がとった平成三年度からのコスト削減策の具体的
内容、会社が全従業員に対する早期退職による雇用関係の精算という方法をとった
理由等について説明を求めた。
 同年七月一日、第七回団体交渉が開催され、組合が会社に対し、本社から経費削
減の要請のあった一〇億円の内容について説明を求めたので、会社は、組合に対
し、日本支社が平成三年度以降とったコスト削減策、本件合理化案に至った経過及
び一〇億円の内訳等について回答した。また、組合は、会社に対し、会社が提示し
た新組織図をもとに、空港の業務形態の詳細並びに予約発券業務の委託先及び委託
費用等についての説明を求めた。(甲第一一四号証、乙第三ないし五号証、乙第
七、八号証、乙第九ないし一一号証、乙第一三ないし一五号証)
7 同月八日、第八回団体交渉が開催され、会社は、組合から質問のあった日本支
社の業務形態等について回答するとともに、従業員に対し、同年九月一日以降の新
組織図、新組織における各職務内容及び資格、地上職三二名(当初の案より一名増
員)及び同年一二月一日以降乗務する日本人エア・ホステス二九名の新しい雇用条
件及び応募方法を明らかにした。
 再雇用する地上職従業員の新労働条件は、①雇用契約は、一年間の期間を定めた
雇用契約とする、②賃金は、各自の職務内容、責任に応じて各人ごとに年俸契約と
する、
③総務、営業、予約発券部門における勤務時間は一日八時間、一週四〇時間とし、
休日は土曜日、日曜日、国民の休日及び年末年始(一二月三〇日から一月四日)と
する、④有給休暇は、労働基準法の定めに従い、初年度一〇日、以降一年に一日ず
つ増加し、最大二〇日とする。ただし、前年一年間の所定勤務日の八割以上の出勤
を要件とする、⑤退職金については新しい制度を設けるなどであり、また、再雇用
するエア・ホステスの新労働条件は、①乗務は、スカンジナビアの規制に従ったマ
キシム・デューティとする、②賃金は、デンマークベースの賃金を日本円に換算し
たものに見合う賃金に日本での生活手当を加算するものとし、個別に決定する。日
本国内で日本円で支払う、③有給休暇は年間一〇日とする、④成田ベースで一年間
の雇用契約とする、⑤退職金については新しい制度を設ける、⑥希望によりジョッ
ブシェアリングが可能であるなどであった。
 一方、組合は、会社に対し、退職届締切日を過ぎても退職届を提出しない従業員
の取扱い及びコスト削減額が五億円から一〇億円に増額された理由を求めた。
 同月二二日、第一〇回団体交渉が開催され、組合は、会社に対し、組合の考える
新組織案(第一案が従業員数六五名、第二案が従業員数五五名)を提示した。
 同月二七日、第一一回団体交渉が開催され、会社は、組合の前記質問を受け、組
合に対し、改めてコスト削減額が五億円から一〇億円に増額された理由につき、そ
の背景事情、日本支社の分析、日本支社の業績等をもとに詳細に回答するととも
に、再就職先斡旋及び平成五年中の新規採用者等について回答した(甲第一一号
証、乙第一六号証、乙第一七号証の一ないし三、乙第一八号証、乙第二〇、二一号
証)。
8 同年七月二九日の応募期限までに、一四〇名の従業員のうち、債権者ら二五名
(債権者ら一六名並びにb、h、i、j、k、f、l、m及びeの合計二五名。以
下「債権者ら二五名」という。)以外のすべての従業員一一五名が早期退職に応
じ、地上職では一一一名のうち八六名(うち組合員五六名)が、またエア・ホステ
スは二九名全員(全員組合員)が早期退職届を提出した。そして、三二名の地上職
のうち二五名(うち組合員一八名)、エア・ホステス一五名が再雇用された。
9 会社は、全従業員に対し、同年八月一日付書面で、会社が提案した早期退職に
対して応募期限の同年七月二九日までに一一五名の応募があったことを報告して早
期退職に応募した従業員の協力に礼を述べるとともに、いまだ早期退職に応募しな
い債権者ら二五名に対しては、早期退職募集期限を同年八月五日まで延長したう
え、再度、早期退職条件に次の条件を付加して早期退職への応募を求めた。新たに
追加した条件は、①日本人エア・ホステスは同年一二月一日からスカンジナビア・
ベースの雇用契約に移行する予定であったが、新たな条件で一年間は成田ベースの
雇用とする、②日本人エア・ホステス二九名の募集については、なお一五名の募集
枠があるので、現在の地上職従業員の中からさらに応募者を募る、③IDチケット
の特典を二五年勤続から二〇年勤続の従業員に引き下げて適用する(IDチケット
の特典とは、会社での勤務が二五年以上であることを要件として、退職後も無料の
航空券を取得することができるという特典である。)、④平成六年八月一日から同
年一二月末日まで、再就職斡旋委員会に代わる再就職援助協力室を会社東京事務所
に設置し、早期退職に応じた従業員の再就職の援助を行う、⑤従業員の再就職支援
の資金として相応の金額を準備する。この資金は、再就職の支援のためだけに支出
されるものであり、全従業員が会社提案に応じたときに支払うものとする、という
ものであった。
 会社は、同年八月八日付書面を早期退職に応じない債権者ら二五名に送付し、①
 二五名全員の現在の雇用条件のままでの雇用継続には応じられないこと、②各人
に対する早期退職割増金の予定額を明示したうえ、早期退職と再雇用への応募を申
し入れたこと、
③ その期間を同月三一日まで延長したことなどを説明した(甲第一二号証、乙第
二三号証、乙第二六号証の一ないし二五)。
 しかし、債権者ら二五名は、早期退職に応募することなく、同月一一日、債務者
を相手方として、同年九月一日以降も債務者の従業員としての地位を有することを
仮に定める旨の本件仮処分(申立ての趣旨はその後変更された)を当裁判所に申し
立てた。
10 会社は、同年八月一五日、組合と団体交渉を行い、再度早期退職への応募を
促すとともに、組合から要求が出ていた早期退職に応じた従業員のうち会社に再雇
用されない従業員の健康保険任意継続の際の保険料相当額を早期退職の上乗せとし
て支給することを回答した。
 しかし、早期退職への応募については、交渉の進展がなかったため、会社は、右
同日をもって、特に新組織での再雇用の可能性がある者に対しては、早期退職と再
就職への応募を促すこととし、次の一二名に対し、新ポジション及び新賃金(年
俸)を明示して早期退職と再雇用への応募を促したが、応募期限である同月二四日
までに応募がなかった。
対象者 ポジション 年俸
債権者n エア・ホステス 四四二万円
債権者o エア・ホステス 四二九万円
債権者p エア・ホステス 四二九万円
債権者a エア・ホステス 四二九万円
債権者q 成田空港デューティ・ステーション・マネージャー 六九〇万円
債権者d エア・ホステス 四四二万円
債権者r 大阪旅客・貨物部アカウント・マネージャー 七七〇万円
b 法人営業部セールス・スタッフ 六四〇万円
e 成田空港スーパーバイザー 五八〇万円
k 旅客貨物部アカウント・マネージャー 七七〇万円
f 大阪旅客・貨物部アカウント・マネージャー 七七〇万円
l 大阪旅客・貨物部セールス・スタッフ 六四〇万円
11 同月三〇日、第一六回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、本件合理
化について組合と円満に解決するため、次のとおり新提案を行った。
(一) 再雇用者数
 従来の地上職三二名の提案に加え、成田地区二名、東京地区三名、大阪地区一名
を追加して再雇用する。
(二) 再雇用の条件
① 会社が提案した早期退職に応募し、新しい雇用条件に同意する。
② 新しい給与は、年俸で五八〇万円から七七〇万円の間で、担当する職種、職務
に応じて決定する。ただし、早期退職割増金の金額と調整することがある。
(三) 会社は、新たに次の六名に対し、新ポジション及び新賃金(年俸)を明示
して早期退職と再雇用への応募を促した。
対象者 ポジション 年俸
債権者s 旅客・貨物部アカウント・マネージャー 七七〇万円
債権者t 旅客・貨物部セールス・スタッフ 六四〇万円
h 成田空港デューティ・ステーション・マネージャー 六九〇万円
i 成田空港スーパーバイザー 五八〇万円
j 旅客・貨物部アカウント・マネージャー 七七〇万円
m 大阪旅客・貨物部セールス・スタッフ 六四〇万円
 なお、会社は、関西空港長代理として、さらに一名の再雇用を予定していたが、
その人選は特定して示さなかった。
12 会社は、同月三〇日付で、早期退職に応じない債権者ら二五名に対し、同年
九月三〇日をもって解雇する旨の解雇予告の意思表示をし、自宅待機を命じた。そ
して、会社は、同月一九日の本件仮処分審尋期日において、本件合理化案の円満な
実施を図るため、右解雇予告期間をエア・ホステスの退職により日本支社の合理化
が完成する同年一一月三〇日までさらに二か月延長することを明らかにし、その旨
債権者らに通知した。また、会社は、組合に対し、新組織の人員数について、組合
より提案のあった五五名案と会社の三二名案とを比較検討し、合意の可能性を見定
めることを議題とする団体交渉を申し入れた。
 同年一一月八日、会社は、組合に対し、会社が新組織におけるポジション、年俸
を明示して再雇用の申出をした前記従業員について、その諾否の回答をすることを
書面で申し入れた。(甲第八八号証、甲第一一三号証、乙第八二号証)
13 会社は、同月一〇日付書面をもって、会社が再雇用の申出をした従業員のう
ち、従前の勤務地において従前と同じ業務を担当することになるb、h、i、j、
k、f及びlの七名に対する自宅待機を解除した。
 同月一一日、組合は、会社に対し、債権者ら二五名全員が従前どおりの条件によ
る雇用継続を主張していることを理由に、債権者q、同r、同n、同o、同p、同
a、同d、同s、同t、b、e、k、f、l、h、i、j及びmの一八名に対する
再雇用の申出に応じることはできないこと、債権者ら二五名全員の従前どおりの雇
用契約が継続されるのであれば、配置転換についての話合いに応ずる用意があるこ
とを回答した。
 同月一四日、第二〇回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、組合から質問
のあった日本支社の経費等について回答した。
 会社は、組合からの同月一一日付回答を受け、同月一五日付書面をもって、組合
に対し、配置転換を含めた話合いに応ずる用意があるのであれば、誰をどの部署で
就業させるのか、具体的に提案するよう申し入れた。
 同月一八日、組合は、会社に対し、それまでの主張を繰り返し、債権者ら二五名
全員が従前どおりの雇用関係を継続できるのであれば、各職場の員数のすり合わせ
をして、配置転換の交渉に応じる旨を回答した。
 同月二四日、第二一回団体交渉が開催され、会社は、組合に対し、日本人エア・
ホステス等の人件費、債権者rに対し自宅待機を継続している理由等を回答した。
(甲第八九号証、乙第八四号証、乙第八八号証、乙第九八号証、乙第一〇三号証、
乙第一〇七号証)
14 同月二五日、会社は、組合に対し、組合が前記のとおり債権者ら二五名全員
の従前どおりの雇用契約の継続を主張して会社からの再雇用の申出を拒否し続けて
いる状況に鑑み、新組織での業務をできるだけ早く安定させる必要から、b、h、
i、j、k、f及びlの七名に対する解雇予告を撤回する旨通知した(乙第一〇八
号証の一ないし七、乙第一〇九号証)。
15 同月二八日、会社は、組合に対し、退職手続説明会を同月二九日に開催する
旨通知したが、組合は、組合員が退職を希望しているわけではないので、退職手続
説明会は必要がないと通知した(甲第九五号証、乙第一一三号証)。
 同月三〇日、会社は、組合に対し、これまでの団体交渉の状況に鑑み、これ以上
話合いをしても結論を導き出すことは困難であるとして、交渉を打ち切る旨通知を
した(乙第一一八号証)。
16 会社は、平成七年二月八日、m及びeに対し、大阪事務所への配置転換を条
件に解雇撤回を申し入れたところ、同人らがこれに応じたため、同年三月一〇日、
同人らに対する解雇を撤回した。
二 主たる争点
1 再雇用のための新ポジション・新賃金を個別に提示されたにもかかわらず早期
退職・再雇用の応募をしなかった債権者s、同n、同t、同o、同p、同a、同
q、同d及び同rに対する解雇の有効性
2 早期退職・再雇用の応募をしなかった債権者u、同g、同v、同w、同c、同
x及び同yに対する解雇の有効性
三 当事者の主張
(債務者)
1 会社は、平成二年以降、ソビエト連邦崩壊を契機とした世界的不況、ヨーロッ
パ域内の航空規制緩和等により、とりまく環境が激変し、特に航空部門の加速的な
経営悪化により四年連続の赤字決算になってしまい、平成二年度が六三八MSEK
(六億三八〇〇万スウェーデン・クローネ)、平成三年度が八二八MSEK(八億
二八〇〇万スウェーデン・クローネ)、平成四年度が一〇九四MSEK(一〇億九
四〇〇万スウェーデン・クローネ)、平成五年度が一一一四MSEK(一一億一四
〇〇万スウェーデン・クローネ)と、赤字額が年々増大した。
 そこで、会社は、航空不況と全世界及びヨーロッパでの航空自由化による競争の
激化に対応するため、平成七年六月末までに全社で二九一四MSEK(二九億一四
〇〇万スウェーデン・クローネ、約三九〇億四七〇〇万円)もの経費合理化を必要
とし、これを本社機能、財務、運航、空港、整備及び営業等のすべての分野で合理
化を押し進めているところである。平成六年第3四半期末(一月一日から九月三〇
日まで)で合理化の達成率はおよそ半分強である。この間、合理化による財務体質
の強化、経費削減の効果とともに、ヨーロッパマーケットの回復によるビジネス客
の増加に支えられて改善をみせてきたが、この一時的な改善によって計画された合
理化を中断することはできない。
2 日本支社の業績は、平成二年までは日本の好景気と航空運賃政策に支えられて
高コスト体質ではありながら、バランスを保ってきたが、平成三年以降の全世界的
な景気の後退、格安航空券の市場への出回りにより、乗客数減と航空券の販売単価
の低落が急速に進み、日本地区の業績悪化が進んだ。具体的に、日本支社の経営指
標であるコントリビューション(会社経営への寄与度。これは、支社で販売された
旅客、貨物売上げから支社の経費を差し引いた金額である。以下「経営の寄与度」
という。)の昭和六三年から平成五年までの推移をみると、別紙4のとおりであ
り、日本支社の業績は、平成二年度を頂点に下降線をたどり、平成五年度の経営の
寄与度は平成二年度に比して四二パーセントも減少してしまった。また、平成六年
度の経営の寄与度は六七億五三六五万円で、前年より二パーセント減少し、そして
経営の寄与度の割合は六六・一パーセントにとどまり、金額においても率において
も過去最低の業績であった。このように、日本支社の平成六年度の経営の寄与度
は、全地域の中で最も悪い業績を記録した前年をさらに下回るものであり、日本支
社の合理化が急務であった。
3 会社は、平成三年度以降、日本支社において様々なコスト削減対策をとってき
た。しかし、このようなコスト削減策では、最も問題である高人件費、すなわち各
従業員の人件費の高騰と人員過剰に対する有効な対策とはなり得なかったことか
ら、さらに日本支社の合理化を推進するためには、その組織と各従業員との雇用契
約、特に高い賃金体系の見直しに着手せざるを得ない事態に至ったのである。
 平成六年一月、本社から日本支社に対し、経費合計五億円削減の指示があり、日
本支社は8ポイント・アクション・プランを打ち出したが、同年四月以降、さらに
日本支社の収支状況を悪化させる事態が生じ、本社は、日本支社に対し、五億円を
一〇億円に増額したコスト削減目標を指示するとともに、8ポイント・アクショ
ン・プランに変わるより抜本的なコスト削減のための改革を命じ、日本支社では、
同年六月一〇日に全従業員に提案した本件合理化案によってコスト削減を行うこと
が決定した。
 すなわち、日本支社では、スイス航空からの委託業務の終了もあり、また新しい
航空運賃政策の導入にともなう実勢運賃引下げの一層の進行及び現在の日本の市場
環境下における業績の見通しに鑑みると、日本支社の組織を抜本的に見直し解体し
て、採算の見通しのある少数の営業部門のみとすることが、唯一、支社が存続でき
る手段であるとの結論に達し、全空港業務、予約発券業務については外部委託化
し、名古屋・福岡の各事務所についてはこれを閉鎖し、営業・総務・経理について
は縮小するなど、組織を再編することとした。
4 本件合理化により、新しい組織における必要人員数は次のとおりの三四名であ
る(当初の提案の三二名に二名増員しているが、そのうちの一名は成田空港貨物課
の一名であり、もう一名は関西国際空港長代行である。)。
① 成田空港合計六名(旅客課四名、貨物課二名)
② 東京事務所合計一九名(経理総務部三名、営業開発部二名、旅客貨物営業部九
名、法人営業部二名、予約発券部三名)
③ 大阪事務所・関西国際空港合計九名(関西国際空港二名、旅客貨物営業部七
名)
5 会社が日本支社でとった本件合理化案は、①一四〇名の日本人従業員全員に対
し、優遇条件を定めて早期退職を募集する、②早期退職した従業員の中から、新た
に縮小した組織に必要な人員に限って再雇用する、③再雇用に当たっての労働条件
は、従来の条件を変更し、新労働条件とする、という三つの要素を一体として提案
したものである。
(一) 本件合理化案は、日本支社に雇用される地上職従業員に対し、三二名のみ
を新組織で雇用するという計画となったので、以前に実施したような五五歳以上を
対象とする限定的な早期退職募集では到底必要数の削減に足りず、全従業員を対象
として早期退職を行う必要があった。また、本件では、新組織の運営上、労働条件
の変更を合わせて提案せざるを得なかったものであり、労働条件変更の代償措置と
しても、全従業員に対して早期退職に応じる方法により従前の業務内容、勤務地を
特定した労働契約を解約し、全員退職という法的構成によって全員に退職金と早期
退職割増金を支払って、従業員間の公平を図ることが必要であった。
(二) 本件合理化案により、会社が新たな労働条件として提示したものは、賃金
体系の変更(年俸制の導入)、退職金制度の変更(従来の退職金規程を廃止し、新
たに退職金制度を導入する。)及び労働時間の変更(成田空港事務所については労
働時間の短縮、東京と大阪の事務所については労働時間の延長)である。
(1) 日本支社の賃金体系は完全な年功給であり、担当職務に関係なく、勤続年
数によって賃金が高騰し続けるものであった。これに対し、新労働条件の賃金は、
地上職の場合は他の類似企業(日本の旅行業者、外資系企業)の賃金実態を調査
し、職務内容に応じた相当賃金を算定してそれを年俸として支給するもので、職
務、職責と賃金の関係を明確にしたものである。また、エア・ホステスについて
は、会社において同一の業務を行う本国で採用されたエア・ホステスの賃金を日本
円に換算して日本での生活費分を日本手当として加算したものであって、同じ飛行
機内で同一の労働につきながら、日本人エア・ホステスの賃金がその他のエア・ホ
ステスの賃金の約三倍にもなるという不合理を解消することを目的とする提案であ
る。しかも、地上職の場合、新賃金の絶対額は、債権者らについて現行の賃金体系
による月例給と新組織への再雇用提案の際の提示額を比較しても明らかなように、
現行賃金を必ずしもすべてが下回るものではなく、それ自体不利益な提案とはいえ
ないものである。
 なお、会社においては、賞与は、毎年、組合との交渉妥結によりはじめて支給さ
れるものであり、賃金債権として就業規則上確定していたものではないから、これ
を加えた旧賃金体系と新賃金体系とを比較して、不利益性を判断するのは正しくな
い。
(2) 退職金制度については、会社は、従来、全額を適格退職年金として積み立
てる制度をとっており、しかも、その支給水準は高く、年功に応じて高騰し続ける
基本給に一定の勤続年数による係数を乗じて定められる金額であったため、いわば
青天井の負担となる。このような高額の退職年金制度を維持することは、一定数以
上の従業員が存在し、しかも高額の掛金を会社が負担する場合にはじめて可能であ
る。年金の特徴として、従業員数が減少すれば、従業員一名当たりに必要な拠出額
は増加する。一四〇名規模であっても維持が困難な退職金制度を、地上職とエア・
ホステス合わせて約六〇名程度の新組織で維持することはさらに困難である。しか
も、エア・ホステスは成田ベースの雇用から一年間の予告をもっていつでもスカン
ジナビア本国にベースが移行し、その際には日本での雇用契約は終了するから、そ
の後は三二名程度の地上職のみの年金となってしまう。人員が減少していった場
合、後に残る従業員ほど年金原資の不足が生じて退職金の確保ができなくなるので
ある。このような事態に備えるためには、むしろ全員一律に退職金年金を解約して
退職年金制度を終了し(全員退職の必要性の理由でもある。)、新たな退職金制度
を構築する方が全従業員の公平にも資するものである。
(3) 労働時間については、従来、東京・大阪の営業部門も成田空港も同一の一
週実働三六・五時間と定められていた。ただし、成田空港はシフト勤務であった。
新組織においては、東京・大阪の営業部門では人員が削減となったこと、営業の対
象である他社の勤務時間に対応する必要があることから、一日実働八時間、週四〇
時間の勤務とした。一日当たり三〇分の延長である。一方、成田空港では、業務内
容が自社での空港ハンドリング業務から全日空へ委託した業務の監督、指導、特別
な事態発生の際の判断対応業務へ変更になったため、その業務実態に合わせて実働
週三五時間のシフト勤務とすることにした。一週当たり一時間三〇分の短縮であ
る。
(三) このように、会社が日本支社において行った本件合理化案は、日本支社の
従業員との間の雇用契約の態様、日本支社の合理化による新組織の実態、労働条件
からして必要な合理化提案であり、その提案内容は極めて妥当なもので、従業員ら
に対して不合理な不利益を強いるものではない。
(四) 本件合理化案の雇用契約における法的構成は、従来の雇用契約の合意解約
の申込みと、新組織に勤務することが可能な人員について新労働条件での雇用契約
の申込みを同時に行ったもので、人員削減のための希望退職の申込みと労働条件変
更のための雇用契約解約の申込みとがなされたものである。
6 会社は、本件合理化案を円満に解決し、債権者らに対する解雇をできるだけ回
避するため、債権者らに対し、具体的解決案の提示を行い、積極的に交渉を行い、
団体交渉の回数は平成六年六月一三日から同年一一月二九日までの二二回に及んだ
が、債権者らは、交渉の前提条件、すなわち従来の雇用条件のままでの全員の雇用
継続にこだわって実質的交渉に応じようとせず、交渉拒否の態度を繰り返したので
ある。
7 債権者らのうち、債権者s、同n、同t、同o、同p、同a、同q、同d及び
同rの九名に対しては、日本支社の合理化のため従前の労働条件により従前の業務
内容、勤務地での雇用契約を維持することが不可能な状態となったので、早期退職
の募集とともに新しい労働条件を示して再雇用の申入れ、すなわち従来の労働契約
を変更することの申入れをしたが、同債権者らがこれに応じなかったので、解雇し
たものである。
(一) 労働契約で特定された職種や勤務場所等の労働条件を変更するために、労
働契約変更のための解約、すなわち新契約締結の申込みをともなった解約を行うこ
とを変更解約告知という。本件において、会社と従業員との雇用契約は、職務、勤
務場所とも契約により特定されたもので、本件合理化によって、従来一一一名の組
織であった地上職を三二名(その後二名増加して三四名。ただし、債権者らとの合
意により地上職の再雇用を行った場合は三八名)の組織に変更して、各従業員の職
務、勤務場所の変更を行うためには、従来の雇用契約の解約を行うことが必要であ
ったので、新契約締結のための解約、すなわち契約の変更解約告知がなされたので
ある。
(二) 変更解約告知は、雇用契約のように継続的債権関係にある当事者間で契約
の基礎となる事実の変動が生じ、従来の契約内容を維持することが困難となって契
約条件の変更が必要となった場合に行われるもので、新契約条件での契約か契約の
終了かの選択を労働者に任せるものである。変更解約告知の有効性は、新契約締結
の申込み(契約変更の内容)がそれに応じない場合の解雇を正当化するほど、業務
上の重大な必要性を有していたか否か、そしてその必要性が新契約締結の結果、労
働者の受ける不利益を相当に上回っていたか否かによって判定されるべきである。
(三) 本件の変更解約告知は、会社が航空産業の自由化にともなう競争激化に対
応して赤字経営から脱却するためのプラグラムの一環として、従来の日本支社の非
効率とインターコンチネンタルルートの収益の改善のための合理化にともなう業務
運営方式の変更(成田空港における航空機取扱業務の自社ハンドリングから全日空
への業務委託への変更)、組織の縮小と統合(東京及び大阪営業所)、全社的運用
と同一の本国での運航業務取扱いによる運航課の廃止という全面的な組織の新編成
をともなうものであって、従来の職場が縮小廃止され、職務、勤務場所の変更の必
要性が生じたために行われたもので、業務上の必要性は重大なものであった。ま
た、本件では、日本支社の賃金体系及び退職金の合理化を含む労働条件の変更を提
案しているが、その内容は前記のとおりであり、それ自体必ずしも不利益な内容と
いえないものであり、合わせて従来の労働条件の清算の代償として早期退職割増金
の提案も行っているのである。
(四) したがって、同債権者らに対して提案された変更解約告知は有効であり、
これに応じなかった同債権者らに対する解雇もまた有効である。
8 債権者u、同g、同v、同w、同c、同x及び同yの七名に対しては、新しい
労働契約への変更の申入れを行っていない。これらの債権者らが整理解雇の対象と
なった人選の理由は、年齢、扶養家族、従来の担当業務及び業務成績並びに新組織
の業務への適性等を勘案したものであり、いずれも合理的で妥当なものである。
(債権者ら)
1 整理解雇の必要性の不存在
(一) 本社の平成六年度上半期の業績は六億一七〇〇万スウェーデン・クローネ
(約七七億円)の黒字、第3四半期では六億二四〇〇万スウェーデン・クローネの
黒字であり、今後も拡張を計画している。
 また、日本支社の業績も特別に悪化しているわけではない。すなわち、経営の寄
与度を本社会計のスウェーデン・クローネに換算し直せば、円高による影響で、日
本支社の業績は向上しているのである。経営の寄与度の数字を各年度の為替レート
でスウェーデン・クローネに換算すると、平成二年を一〇〇とした場合、平成六年
度の日本支社の経営の寄与度は一〇四・八となっており、かえって増加しているの
である。
(二) 会社は、経費削減が一〇億円になった理由として、①乗客一名当たりの純
売上げが前年比一九パーセント減少したことにより、経費も二〇億円の一九パーセ
ント、すなわち四億円の削減が必要であること、②スイス航空の契約解除による収
入源が二億円あることをあげて、本社から指示されていた五億円に四億円と二億円
とを合わせて一一億円の経費削減額としたが、これは実現不可能なので、一〇億円
になったとする。
 しかし、①については、現実には旅客数が伸び、旅客純売上げは約五億円増加し
て九一億二九〇七万円になったのであり、会社の予測純売上げは七〇億円であった
のであるから、二一億円以上の収入見通しの誤りがあったのである。貨物の純売上
げは減少したが、合計すると、会社は平成六年について一九億円余の収入減を見込
んでいたが、実際には一億九六〇〇万円以上の収入増があったのであるから、大幅
な収入減を想定して追加された四億円の経費削減は不要だったのである。この四億
円は債権者らの総人件費をはるかに上回るものである。また、②については、会社
は、一〇億円が純経費からの削減であることを明らかにしているところ、そうであ
るとすれば、スイス航空の収入減とされている二億円は、その収入分、つまり会社
のいう「負の経費」がなくなる分、支社総経費からの削減額は増加しなければなら
なくなるが、純経費の削減目標額が増加される理由とはならない。加えて、五億円
についても、本社指示というだけで、根拠は説明されていない。
 純経費一〇億円を削減した場合、経営の寄与度の割合は七六・五パーセントにも
なる。これは、会社が平成五年度(一月から一一月期)における経営の寄与度の上
位三番としているロンドン、フランクフルト、ニューヨークの経営の寄与度の割合
七〇・〇パーセントから七三・七パーセントをはるかに上回るものである。日本支
社のみがそれほど高い経営の寄与度を達成しなければならない理由はない。
2 業務の存在とそれに必要な人員
(一) 会社は、新体制においては三二名の従業員で十分であると主張するが、平
成六年九月当時、日本支社では確認されただけでも六二名、その他にも数名が就労
していたうえ、時間外労働をしなければならないほどの仕事量があった。
 なお、関西国際空港への週三便増便にともなう業務や予算編成業務等は、今後と
も必要なことであり、九月、一〇月で業務が終了し、人員が必要なくなるというも
のではない。また、関西国際空港は、平成七年度夏期スケジュールより週一便増便
し、週四便となる予定で、業務はさらに増加するのである。
(二) 本件合理化案は、各職場を従来の人員構成から一挙に三分の一以下にして
人件費を抑えようとしただけのものであり、計画そのものに無理がある。業務の実
情にまったくそぐわないコスト優先の机上の計算によって割り出された人員構成で
あるため、破綻をきたしている。各部署には、以下のとおり、業務に精通した従業
員の配置が必要であり、合計で五九名の人員が必要であるから、会社の人員削減は
合理性を欠く。
① 成田空港(旅客課八名、運航課二名、貨物課三名)
② 東京営業所(経理総務部五名、営業開発部二名、旅客貨物営業部<貨物営業三
名、旅客営業一二名>、法人営業部三名、予約発券部九名)
③ 大阪事務所・関西国際空港(関西国際空港三名以上、広報一名、旅客営業四
名、貨物営業二名、予約発券二名)
(1) 成田旅客課には、全日空に業務委託した後も、①到着便の準備、②出発業
務の準備、③チェック・イン・カウンターでの業務、④ゲートでの業務(構内のチ
ェック、沖泊めの場合の対処及びロードコントロールの監督)等の仕事が存在し、
成田旅客課の従業員として少なくとも八名の人員を必要とすべきである。
(2) 旧成田運航管理部は、成田出発便の飛行計画、出発後の運航状況の確認、
到着便の支援、運輸省等の諸官庁からの飛行情報等の整理分析を行っていたもの
で、飛行中における突発的な飛行機の不具合、天候の悪化、空港の閉鎖等の様々な
事象に対し、事態を正確に把握し、パイロットに適切な助言をすること、航空管制
等の関係機関との連絡及び調整をすることは重要な任務である。
 たとえコペンハーゲンで運航業務を集中して行うとしても、双発機のB七六七に
長距離を飛行させる場合は、離発着時に支援すべき運航管理者又はその知識を有す
る者を各空港に配置することが必要である。
(3) 成田貨物課では、全日空に業務委託した現在も、月に数十時間の時間外労
働をしている。したがって、最低でも毎日二名の人員が必要であり、毎日二名の労
働を確保するには、週七日で延ベ一四名が必要である。三名が週五日で延べ一五名
となるが、有給休暇その他の休暇の取得等を考えれば、三名の人員を必要とすべき
である。
(4) 東京総務経理部・人事部は、以前、合計一〇名の体制であったが、現在で
は、名目上再雇用者三名のみの体制となっており、業務量が莫大なものとなり、休
日出勤等の超過勤務を余儀なくされている。ネット精算システムを採用するにとも
ない、当初は総務経理業務でこの新システム業務を行う予定であったが、総務経理
業務の本来の業務自体が莫大なものであるため、とても三名では対応できず、ネッ
ト精算システム業務を営業部に再委譲している有様である。このように、東京総務
経理部・人事部では、パートタイマーの応援なしには、業務が回らないほど人手が
足りない現状であり、最低五名が人員として必要である。
(5) 東京営業開発部では、宣伝、FFP(常連顧客サービス)等の雇客管理・
開発に加え、クレーム処理業務を行っているため、業務量が多く、現状の一名では
足りず、二名が必要である。
(6) 東京旅客貨物営業部は、現在、そのほとんどすべてが従前と変わらぬ形態
で動いており、旅客営業部員は旅客代理店、貨物営業部員は貨物代理店と営業活動
をしている。旅客部門においては、営業マンを削減したため、以前から担当してい
た代理店との接触が少なくなって、個人旅客の落込みが激しくなっており、営業を
強化するのが急務である。
 会社が導入したコンピューターによる運賃値引精算システムは、システム自体が
特殊なため、代理店での入力ミスによるエラーが多発している。このエラーへの対
処は、従来同様のマニュアル精算方式で処理されるので、これらの事務処理に旅客
営業部員が専任で携わっているのが現状である。なお、新システムは、IATA代
理店のBSP発券分に適用範囲を広げているものの、営業売上げのうち、このシス
テムにより処理されているのは六割に過ぎない。また、旅客と貨物とは、取り扱う
商品の異質性、代理店の所在地の隔離等があり、一名の担当者が双方を担当するこ
とは無理である。
 弱体化した営業部門を強化するためには、旅客営業一二名、貨物営業三名の合計
一五名で営業を展開することが必要である。
(7) 東京法人営業部は、スカンジナビア諸国の各企業と頻繁に接触し、顧客と
の関係の維持、新たな顧客の開拓を図る部署であり、こうした業務を円滑に遂行す
るには、最低でも二名の人員が必要である。これに加え、現在、営業開発部が担当
しているFFPは、その七割が法人顧客であるから、法人営業部が担当するのが顧
客サービスの向上につながるし、効率的でもある。したがって、さらにFFP担当
者として、一名が必要であり、法人営業部は計三名の体制とすべきである。
(8) 東京予約発券部の必要人員は最低九名である。エイ・エス・アイの派遣社
員の業務に対しては、いわゆる労働者派遣法の違反の問題があるのみならず、顧客
から「業務知識に欠ける」などの苦情が寄せられている。本来、予約業務は、顧客
が安定して予約、問合わせができるように、専門知識、語学力、豊富な経験、判断
力が要求される業務であるところ、こうした資質を有する債権者らを解雇して、能
力のないエイ・エス・アイの派遣社員を採用することは、有害無益である。また、
団体予約業務を一名としたため、団体予約業務が回らず、時間外労働が慢性化して
いるうえ、こうした業務量過多のため、代理店からの問合わせに対処できず、代理
店からのクレームが多発している。
(9) 関西国際空港では、週三便の到着・出発があり、これらの便のある日の前
日に行う準備作業を含めると、週六日の勤務が必要となる。しかも、平成七年夏ス
ケジュールでは、現在の週三便に加え、さらに一便が増便となるうえ、この便はク
ルーの滞在日程の関係でオーバーナイトが予定されているから、クルーに対する業
務も増加する。したがって、少なくとも現在の人員一名より一名以上の人員が必要
となる。さらに、公団、諸官庁、航空会社間の会議等の総務業務に対応するための
人員が最低一名は必要である。
 したがって、関西国際空港では、三名以上の人員が必要である。また、大阪事務
所全体で九名の人員が必要である。
3 解雇回避努力の不存在
(一) 会社は、再雇用される場合の職務を具体的に示して早期退職と再雇用への
応募を促したことをもって、再雇用、労働条件変更の申入れと主張するが、会社
は、これまでに再雇用に応募すれば再雇用契約を締結することを債権者らに確約し
たことは一度もなく、再雇用される場合の職務を具体的に示して早期退職と再雇用
への応募を促したことは、変更解約告知における配置転換先の提示、整理解雇の用
件である解雇回避努力としての配転先の提示、そのいずれともいえないのである。
(二) 夏期三・五か月、年末三・五か月、年間七か月の一時金支給は、二〇年に
わたり景気の変動及び会社の事情にかかわりなく、労使慣行として確立した従業員
の権利である。したがって、会社が提案してきた新賃金が、従来の賃金と比べて従
業員にとって有利か不利かを検討するには、従来の賃金に年間七か月の一時金を加
えたものと比較しなければならないが、これによると年間賃金は大幅に低下するの
である。
 会社は、早期退職割増金をこうした労働条件変更の代償措置として位置づける
が、これは誤りである。なぜならば、早期退職割増金は、早期退職に応じた従業員
すべてに一定の基準で算出されたものであって、あくまで早期退職に応じたことへ
の代償で、労働条件変更の代償措置ではないからである。しかし、仮にこの割増金
を賃金の不利益変更の代償分であるとして新旧賃金を比較しても、生涯賃金におい
ては大幅な減収となる。また、仮に従来の賃金に一時金を含めず、さらに早期退職
割増金を賃金の不利益変更の代償分であるとして新旧賃金を比較しても、生涯賃金
においてはやはり大幅な減収となる。
 ところで、会社は、新賃金を算定するに当たり、地上職の場合は他の類似企業の
賃金実態を調査し、職務内容に応じた相当賃金にしたと主張する。しかし、右にい
う類似企業とは、旅行代理店であって航空業ではないし、旅行代理店のほかに、従
業員五〇〇名以上の日本企業、日本で営業を行っている外資系企業一五〇社も調査
されているが、今回の提案はそこで比較されている右の賃金額よりも低い。賃金を
比較すべき類似企業は、航空会社、それもヨーロッパ系の航空会社であり、それと
の比較においては、会社の提案する新賃金は著しく低水準である。
(三) 雇用契約期間を一年間と限定する点も重大な不利益要素である。契約更新
されることが当然の前提(従業員の権利)であるものと考えることはできない。な
ぜならば、契約を更新するか否かは、会社が必要と認めるか否かという会社の自由
な判断によるからである。従業員にとって、これほど不安定な契約はない。
(四) 会社が、配置転換・賃金・退職金・労働時間等の労働条件の変更を債権者
らあるいは組合に提案したいのであれば、それはそれで提案し、協議を尽くせばよ
いにもかかわらず、今回の提案の一番の問題は、このような提案をすべて早期退職
への応諾、すなわち雇用契約の終了を前提としてきたことにある。
 本件の場合、債権者らは、いったん自ら退職しなければ再雇用に応募することが
できず、合意で退職すれば、再雇用されなかったとしても、雇用関係の終了の効力
を争う途はないし、また、再雇用に応募すれば、変更された新たな労働条件に合意
したことになるから、新たな労働条件の合理性を争う途はない。結局、債権者らが
新たな労働条件を争おうとすれば、解雇されるほかなかったのである。債権者ら
は、解雇回避のための労働条件の変更の協議を拒んだから、あるいはこれを拒絶し
たから解雇されたのではなく、早期退職に応諾しなかったから、解雇されたのであ
る。
 したがって、会社において、解雇回避のための努力は尽くされていないことは明
らかである。
4 人選の合理性の欠如
 本件における人選の合理性の有無は、新組織に再雇用された者らとの対比でなさ
れるべきであるが、その対比でみれば、本件被解雇者の人選が不公平・不公正であ
ることは明白である。人選の不公平さの最たるものは、会社が新組織に再雇用した
者が、早期退職に応募し早期退職割増金を得た者であったことである。債権者らの
ように会社を退職することなく働きたいという従業員を解雇し、割増金を得て退職
した者を新組織に再雇用することが公平でないことは明らかである。
 また、債権者u、同g、同v、同w、同c、同x及び同yの七名は、従前の会社
の各組織にあって中堅・中核の地位にあった者たちであり、業務に対する適性・能
力が欠けているなどということはないし、年齢的にも再雇用者よりも若年の傾向に
ある。
 以上のように、右債権者らは、再雇用者と比べて職歴、職務の適性・能力、年齢
等いずれも優る者たちである。こうした債権者らが解雇され、自ら退職した者から
再雇用者を選ぶという会社の人選の理由は、会社が早期退職して従前よりも低い条
件での再雇用に応募するよう指示すれば、これに盾突くことなく従うような者のみ
で新組織を充足しようとしたからにほかならない。右債権者らは、最後までこうし
た会社の指示に従わなかったため、会社は、かような債権者らを嫌悪して最終的に
解雇する暴挙に出たのである。このような人選に合理的理由が存しないことは明白
である。
5 説明・協力義務違反
(一) 労働者に責任のない整理解雇に当たっては、労働組合や労働者に対し、十
分に説明し、誠実に協議・説明を尽くすことが使用者に信義則上求められている。
整理解雇に際して協議・説明すべき事項は、人員整理の必要性のみならず、整理方
針、手続き、規模、整理基準と具体的人選、解雇条件など広範囲にわたるべきであ
る。そして、求められる協議説得の程度として、使用者には同意に至るような誠意
をもって説得するという義務が課されているのである。
 ところが、本件では、これらのいずれの義務も果たされていない。会社がとった
協議・説明は、アリバイ的な団体交渉を繰り返し、時間を稼ぎつつ会社主張の新組
織体制なるものの既成事実を作り上げ、債権者らに押しつけていたのが実態なので
ある。
 債権者らは、業務委託する必要はないと主張してきたのであるが、会社の合理化
計画に最大限の協力を行う趣旨で、業務委託した場合でも、本件合理化案以上の人
員が必要となることを示すとともに、成田空港旅客課から東京事務所の営業及び予
約発券への配置転換を想定した五五名体制のプランも提示した。また、債権者ら
は、その後も雇用が確保されるのであれば、配置転換に協力する、会社が求めてい
る大阪への配置転換をする用意があることを表明し、解決へ向けて努力した。すな
わち、組合は、配置転換の必要が生じる配転先については、員数のすり合わせを前
提に、配置転換そのものには合意していた。ところが、会社は、員数のすり合わせ
をすることなく、具体的氏名の公表を求めるのみであったため、話合いが進展しな
かったのである。しかも、会社は、成田空港における全日空との業務委託契約書を
約二か月間秘匿し続け、同年一一月一四日にようやく組合が入手するまで十分に時
間を稼いだうえ、同月二九日には時間がないとして団体交渉を打ち切ってしまった
のである。
(二) 本件解雇は、コスト削減がその根拠となっているのであるから、会社に
は、整理解雇の必要性の中味としてのコスト削減の根拠を十分に説明する義務があ
るにもかかわらず、会社は、合理的な説明をまったく行っていない。
 さらに、人員整理の必要性についての説明は、経理資料等の客観的裏付けが必要
であり、客観的な裏付けを示すことは誠実説明義務の内容をなすものである。組合
及び債権者らは、団体交渉の場において、本社の四年連続赤字を原因とする日本支
社以外の一二支社のコスト削減計画、日本支社の損益計算書、日本ルートの損益計
算書、一〇億円削減額の理由及びその裏付け資料、新体制の明確な予算計算書、今
回の合理化による明確な削減額に関する資料の提示を求めた。これらは、いずれも
整理解雇に関連する会社の経営状況と人員整理の必要性の有無・程度を明らかにす
るために必要な資料であるが、会社は、これらの資料を提示しなかった。
(三) 債権者らを整理解雇の対象者として選定した基準及びその合理性の説明
は、誠実交渉の重要な中味である。したがって、会社は、早期退職割増金等を受領
し、自己の意思に基づいて会社を退職した者を改めて再雇用しながら、なぜ右割増
金等を受領せず雇用継続を望んでいる債権者らを解雇しなければならないのかにつ
いて、十分に分かりやすい説明を誠実になす義務があるが、会社は、これを尽くし
ていない。
 会社は、一貫して新組織体制なるものを大前提とし、債権者らには担当させる業
務がない、債権者らが求めている業務は組織が廃止されているので存在しないとの
一点張りであった。
(四) 以上のとおり、会社は、不誠実な交渉態度に固執し、当然に求められるべ
き説明・協議義務を果たさず、本件解雇を強行したのである。
6 変更解約告知
(一) 変更解約告知の法理は、日本法ではそのままでは認められないものであ
る。すなわち、同法理は、ドイツやフランスなどで発達したものであるが、これら
の国では我が国と解雇法制を異にしている。また、例えば、ドイツでは、変更解約
告知の場合、異議をとどめて新たな労働条件のもとで就労しながら、変更解約告知
の効力を争うことができるなど、手続上も手当てがなされている。
 本件の場合、債権者らは、自らいったん退職しない限り、再雇用に応募すること
ができない。合意で退職してしまえば、再雇用されなかったとしても、争うことが
できないし、また、再雇用に応募してしまえば、新しい労働条件に合意したことに
なるので、新しい労働条件を争うことができない。結局、新たな条件が不当である
ことを争おうとすると、解雇されるしかないことになってしまうのである。
 したがって、変更解約告知の法理は採用し難い。
(二) 仮に、変更解約告知が日本法で認められるとしても、本件解雇の効力を判
断するには、次の二段階の要件、すなわち①労働条件の変更それ自件の合理性(労
働条件切下げの必要性・合理性、配置転換の必要性・合理性)、②解雇の相当性
(整理解雇の四要件)を満たさなければならないことになるが、本件ではこれらの
要件は満たされていない。
(1) 会社が提案した労働条件切下げの程度は、賃金、退職金及び労働時間等の
労働条件の基本にかかわる大きなものであり、また、期間一年の有期限契約という
極めて不安定なものである。経営困難があろうとも、労働条件を一時的に切り下げ
ることはなし得ないのであるから、労働条件の切下げに応じないことを理由とした
解雇の効力は否定されるべきである。
 本件合理化により、高齢者が早期退職したため、現在では、債権者らの平均給与
は他の航空会社や外資系企業、日本の大企業と比較しても特別に高額ではない。
(2) 債権者s、同n、同t、同o、同p、同a、同q、同d及び同rの九名
は、配置転換の申出を拒否したものではない。会社からは、いったん退職し、再雇
用に応募することができると言われているだけであるから、再雇用は提案に過ぎ
ず、応募して退職しても、後は会社が決定するので、断る自由があるというのであ
る。
 各債権者については業務が残っており、成田旅客課に属する者のうちの六名を除
いては、配置転換の必要性そのものがない。
 右債権者h、同o、同p、同a及び同dに対しては、エア・ホステスについて再
雇用の提示がなされたが、エア・ホステスについては、地上職と採用・就労形態が
まったく異なるものであり、固有の採用条件がある。このため、地上職からエア・
ホステスへの職種変更については、一般公募者と同じ試験が実施されていたが、債
権者らは右条件を欠いており、条件を欠く者に配置転換の提案がなされた。
第三 当裁判所の判断
一 人員削減の必要性
 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実と、次の各項末尾掲
記の疎明資料を総合すれば、以下の事実が疎明される。
1 会社の経営悪化
 会社は、平成二年以降、ソビエト連邦崩壊を契機とした世界的不況、ヨーロッパ
域内の航空規制緩和等により、営業環境が激変し、特に航空部門の経営は加速的に
悪化して四年連続の赤字決算になり、その赤字額が年々増大した(甲第二号証、乙
第一号証の一、乙第四号証、乙第二〇号証、乙第三七号証の一、二、乙第四三ない
し四六号証、乙第七一号証)。
(一) 平成二年度
 ホームマーケット、特に最大のマーケットであるスウェーデンとデンマークの経
済成長の低下及びヨーロッパ内の競争激化による販売単価の低落が顕著になり、会
社は、航空部門が六三八MSEK(六億三八〇〇万スウェーデン・クローネ)の赤
字となった。内部的には、変化するマーケットへの対応の遅れや、他社と比べて会
社の生産性の低さと高コスト体質が認識されたことから、会社は、二年間で三〇〇
〇MSEK(三〇億スウェーデン・クローネ)のコスト削減を決定し、管理部門と
運航部門の縮小に重点を置くことにした。
(二) 平成三年度
 同年は、湾岸戦争と西側諸国の景気後退の影響が乗客数減となって表れ、売上増
加は前年比〇パーセントの状態であった。コスト削減の効果が年度後半から表れた
ことにより、その分だけ損失を縮小することができたが、赤字幅は前年よりさらに
拡大し、八二八MSEK(八億二八〇〇スウェーデン・クローネ)の赤字決算とな
った。採算のとれないインターコンチネンタルルートは縮小を余儀なくされ、トロ
ント線、サンパウロ線からは撤退し、シカゴ線はオーストリア航空との共同運行に
切り替えられることになった。
(三) 平成四年度
 同年は、会社全体としては業績改善傾向が見られたが、スウェーデン・クローネ
の切下げにより一二〇〇MSEK(一二億スウェーデン・クローネ)の為替差損と
外貨ローンの評価損により、赤字幅は大きく拡大し、一〇九四MSEK(一〇億九
四〇〇万スウェーデン・クローネ)の赤字となった。会社は、平成五年のEC内航
空自由化に備え、スウェーデン国内線の航空会社であるリンネフュー航空を吸収合
併し、また、平成七年末までに四〇パーセントのコストダウンを達成する目標を指
示した。コスト削減によりヨーロッパ路線は運航原価が損益分岐点まで下げる体制
ができあがったが、インターコンチネンタルルートは、会社に比べて企業規模、市
場規模も大きく競争力のあるアメリカやアジア各国の巨大な航空会社と競争しなが
ら、これを維持し続けることが、必ずしも有利とはいえないとの認識がなされるよ
うになった。
(四) 平成五年度
 同年は、最大ホームマーケットであるスウェーデン経済の低迷が続行し、ヨーロ
ッパ諸国の景気も同様に低迷したため、会社の旅客貨物総取扱量はヨーロッパ航空
会社連合の平均である八パーセントを下回る六パーセントの低成長となった。売上
げについては実勢価格の下落等により前年並みにとどまり、営業利益は高コスト体
質が十分に改善されず、スウェーデン国内線の合理化経費もあって、赤字額は一一
一四MSEK(一一億一四〇〇万スウェーデン・クローネ)にのぼり、前年をさら
に下回る業績に終わった。また、会社は、航空産業の自由化による規制緩和によっ
て生じる競争の激化を背景に、単独ではインターコンチネンタルルートを含む航空
運航組織を維持していくことは困難との認識から、平成四年一二月ころからKLM
オランダ航空、スイス航空及びオーストリア航空との合併を目指してアルカザー
ル・プロジェクトと呼ばれた交渉を開始したが、結局、このプロジェクトは平成五
年一一月に不調となった。この頓挫によって危機感を持った経営陣は、さらにコス
ト削減と合理化の進行を早めることになり、できる限り早期に二五億スウェーデ
ン・クローネのコスト削減をすることが目標として各部門の責任者に示され、平成
六年末までに合理化を実施することになった。その後、コスト削減額は二九億一四
〇〇万スウェーデン・クローネに増額され、この合理化により二九〇〇名の従業員
の職がなくなると発表された。インターコンチネンタルルートに関しては、機材を
B767一一機での運航から一〇機での運航へと機材を運航維持のぎりぎりの数に
削減して合理的運航を行うこと、ロサンゼルスルートを閉鎖すること、ニューヨー
ク・コペンハーゲン便を一日一便に削減すること、大阪便週三便を新設すること、
ニューヨーク・コペンハーゲン便の出発時間を早くすることなどが含まれていた。
 会社は、合理化に当たり、各業務ごとのコストを見直し、外部サービスに置き換
えることが可能な業務であれば、外部サービスとコスト競争を行い、外部サービス
を取り入れた方がコストが安い場合は、積極的に外部委託化を進めることを方針と
した。
2 会社のコスト削減の目標
(一) インターコンチネンタルルート廃止等
 会社は、平成二年以降、航空部門の収益が赤字に転落し、その改善のため度重な
る経営合理化を進めてきた。例えば、平成三年から平成四年にかけては、変動費の
二〇パーセント削減を目標として、従業員三五〇〇名の削減を含む大幅な合理化を
実施した。競争力のない業務部門は外注化することが決定され、例えば、ニューヨ
ークではJFケネディ空港で自社で行っていた空港業務を他社に委託して、一四〇
名の従業員が削減されたほか、ヨーロッパでもブラッセルとアムステルダムの空港
で、従来自社が行っていた空港業務がコスト削減のために外部委託となった。ま
た、前記のとおり、この間、採算のとれないインターコンチネンタルルートは廃止
になった。このような合理化によっても、会社は、赤字を毎年記録し、しかも日本
ルートを含むインターコンチネンタルルートが大幅な赤字で会社経営の困難度を高
めたため、平成四年度には、四〇パーセントのコスト削減を平成七年末までに実施
するとの目標を打ち出した。(乙第四三号証、乙第四六号証、乙第五五号証)
(二) 平成四年四月に就任した新代表者zは、従来の多角経営路線から航空部門
中心の経営へと方針を変え、従来グループ企業となっていたSASレジャー(チャ
ーター便及び旅行業の会社)、SSP(機内食を提供する会社)及びノルウェー・
ダイナース・クラブ(クレジットカード発行会社)等の関係会社を売却し、関係会
社としてグループに残るのはSASインターナショナルホテルのみとした。また、
資産売却益を得るため、インターコンチネンタルルートに使用するB767は平成
五年に六機売却してリースを受けている。会社が平成五年一二月に発表し平成六年
から本格化している合理化は、同年七月時点で一二億二四〇〇万スウェーデン・ク
ローネを削減するまでに進行しているが、目標の二九億一四〇〇スウェーデン・ク
ローネを削減するまでさらに進められている。(乙第四三号証、乙第四六号証、乙
第五七号証)
3 日本支社の経営の寄与度
(一) 会社は、全支社を合わせて一つの経済単位であり、日本支社単独の損益計
算書、貸借対照表を作成しておらず、会社の決算はすべて本社が取りまとめを行っ
ており、日本支社では、残高試算表までを経理処理し、本社に報告している。た
だ、支社の経営指標である経営の寄与度というものがあり、各支社は、これを取り
まとめ、本国に報告している。もっとも、日本支社は、営業部門と空港業務部門の
みで組織されており、航空機の運航、整備等については、一切の経費負担をしてい
ない。したがって、平成六年六月一〇日当時、日本支社に雇用されていた日本人従
業員一四〇名のうち、エア・ホステス二九名、運航三名、メンテナンス三名の人件
費等は、日本支社の経費としては計上されず、経営の寄与度にも反映されていな
い。また、飛行機の運航のための経費(飛行機の減価償却費、乗務員の人件費、航
空燃料代等)は日本支社の経費とはならず、別の部門で経費として計上されるもの
であるから、経営の寄与度が日本支社の利益を意味するものでもなかった。(乙第
四号証、乙第四六号証、乙第五九号証)
(二) 日本支社は、昭和二六年の発足以降、拡大する海外旅行の需要増を背景に
順調に業績を伸ばしてきたが、平成三年以降の全世界的な景気の後退、格安航空券
の市場への出回りにより、乗客数減と航空券の販売単価の低落が急速に進み、日本
地区の業績悪化が進んだ。すなわち、まず第一には、世界的な不況による旅客数の
減少があげられる。日本支社で販売した旅客数は、平成二年をピークとして平成三
年に大幅に減少し、ビジネスクラスについては、その後も減少し続け、平成五年は
平成三年を一〇〇として五八にまで減少した。エコノミークラスは、平成三年に大
幅な減少をした後、次第に旅客数が戻りつつあるが、日本ルートについては平成五
年で平成二年を一〇〇として八八に過ぎない。そして第二に、格安航空券の乱売に
よる実勢航空運賃の下落があげられる。日本では、長く航空運賃の規制が厳しく行
われ、世界の中でも高い運賃が設定され維持されていたので、航空会社の経営の安
定が得られていたが、世界中の規制緩和の動きと販売競争の激化から、いわゆる格
安航空券と呼ばれる航空券が乱売されるようになり、実勢航空運賃は下がり続けて
いた。特に、エコノミークラスは、正規運賃も実勢運賃もともに値下がりしてお
り、平成六年の運賃額一二万一〇〇〇円は平成二年の運賃額の四六パーセントに過
ぎず、同じ乗客一名から得られる売上げが五四パーセント減となっている。各航空
会社とも、航空券の販売を行う代理店に対し、正規手数料の支払のほかに、MSと
略称される値引きを大幅に行うことにより、少しでも航空会社間の販売競争に打ち
勝つ必要があり、結局、純売上げが減少していた。
 具体的に、日本支社の経営指標である経営の寄与度の昭和六三年から平成五年ま
での推移をみると、別紙4のとおりである。これによれば、日本支社では、平成二
年度を頂点に、総純売上げが同年の約一五一億七五〇〇万円から、平成五年度には
約一〇〇億一八五〇万円へと五一億五六五〇万円も減少し、その間、経費合計は約
二〇億円前後しか削減ができなかったものであり、経営効率が悪化し続けていた。
 また、平成六年度の日本支社の経営状態をみると、旅客運賃純収入は前年比六パ
ーセント向上したが、貨物運賃純収入は前年比二二パーセント落ち込み、その合計
である運賃純収入は前年比二パーセント向上した一〇二億一四七〇万円(一〇〇〇
円以下四捨五入した金額、以下同じ)となった。一方、代理店に支払う販売手数料
は前年比六パーセント増加の一二億二八四〇万円となり、純収入の伸びよりも支払
手数料の伸びの方が上回った。また、日本支社の経費は、年度の途中で大幅な合理
化があったにもかかわらず、昨年比一三パーセントも増加して二二億三二六七万円
となった。運賃純収入から販売手数料と経費を差し引いた経営の寄与度は、前年比
二パーセント減の六七億五三六五万円にとどまり、収入に対する割合も六六・一パ
ーセントと最低を記録した。(乙第一号証の一、乙第二〇号証、乙第四六号証、乙
第一三〇号証)
4 日本支社のコスト削減対策
(一) 日本支社は、平成三年度以降、以下のとおり、コスト削減対策をとってき
た(乙第一四号証)。
(1) 希望退職募集
 会社は、日本支社のコストの六〇パーセントを占める人件費の削減のため、平成
三年九月から同年一一月までの間、五五歳以上の従業員三三名を対象として希望退
職募集を行ったが、希望退職応募者は六名にとどまり、これによる経費削減効果
は、平成三年度が五〇〇万円、平成四年度が八四〇万円に過ぎなかった。日本人従
業員の総人件費に対して約四パーセントの削減であったが、他方で希望退職実施の
ための上乗せ退職金等として一億一七〇〇万円の経費負担を余儀なくされ、これは
本社の負担となった。また、希望退職に応じた六名の平均年齢が五七・一歳である
ので、平成七年度以降は希望退職による経費削減効果は失われることになった。
(2) 宣伝・広報費
 宣言・広報費は、平成三年度に一億二一四二万円であったが、その後平成四年度
は一億円、平成五年度は一億〇二〇〇万円と削減し、平成六年度予算では八九〇〇
万円となった。平成六年度予算額は、平成三年度実績額の七三パーセントであり、
二七パーセントの大幅な削減となった。
(3) コンピューター経費
 日本支社は、会社のデンマークにおける子会社であるデータデンマークA/Sに
対し、コンピューター及び通信回線の使用料を支払っているが、このコンピュータ
ー経費についても、平成三年度に比べ、平成四年度は二四〇〇万円、平成五年度は
二六三〇万円の大幅削減を実施した。平成六年度も平成五年度と同額を維持してお
り、平成四年度以降の三年間で七六〇〇万円の経費削減を実施した。
(4) 消耗品費
 平成三年度の消耗品費は一九五五万円の支出であったが、平成四年度は一三七七
万円、平成五年度は一一二七万円にまで削減した。
(5) 交通費
 平成三年度の交通費(出張費を含む。)は二九〇〇万円にのぼっており、平成四
年度は平成三年度の約半分の一五一〇万円、平成五年度は約三分の一の九九〇万円
まで削減した。
(二) 以上のとおり、日本支社は、平成三年以降、経費削減に努めたが、結果と
して、平成三年度に対する平成五年度の経費合計の削減額は一億三九〇〇万円、削
減率にして約六・六パーセントに過ぎなかった。このように経費削減の効果が芳し
くない原因としては、日本支社の経費構造が、人件費が約六〇パーセント、施設費
が約一五パーセント、空港外注費が約一三・三パーセント、これらの合計が約八
八・三パーセントにも上るという硬直化した状況であることにあった。そこで、日
本支社の経費の大幅削減のためには右人件費、施設費及び空港外注費の経費を見直
す対策をとらざるを得なかった。(乙第一四号証)
5 日本支社の五億円の経費節減計画(8ポイント・アクション・プラン)
(一) 8ポイント・アクション・プランの作成
 平成五年一一月一二日、会社の経営陣は、二九億一四〇〇万SEK(三六〇億
円)の経費節減計画を発表し、日本支社のコスト削減目標は、セールス部門一億八
七五〇万円、空港部門三億一二五〇万円の合計五億円とされた。これを受け、日本
支社は、①平成六年から平成一一年までに定年退職する三四名の補充をしない、②
すべての部門間の統合、すなわち旅客営業、貨物営業、経理、空港旅客業務、整
備、運航、貨物取扱い、客室乗務員で、日本における営業及びサービスチームを構
成する。目指すところは、大多数の従業員が訓練後数種の仕事を遂行し、全従業員
が最大限有効利用できるようにすることである、③東京及び大阪の営業所を空港又
はその付近に移転する。この目的は、可能であれば、賃料の削減のみならず、異部
門従業員同士の十分な有効活用を生み出すためである、④組織の再編による旅客販
売部門の強化、営業業務の明確な定義づけ、対話の改善。すべてのセールス・スタ
ッフは、近代的方法と技術による強化トレーニングを受けることになる、⑤業務遂
行上、不必要なスペースを含め、すべての賃貸借契約を解約する、⑥従業員が遂行
できる仕事の外注契約を解約する。この目的は、第三者に支払う余計な経費を削減
することであり、必要とあれば業務規則等を見直す、⑦事務をすべてコンピュータ
ー化する。必要な機器、ソフトウェアの購入及び訓練を遅滞なく行う、⑧早期退職
制度を実施する。これは、会社及び従業員双方にとって満足のいく手配ができ、労
働効率を高めることを目的とする、という内容の8ポイント・アクション・プラン
を作成した。(甲第八号証、乙第二〇号証)
(二) 8ポイント・アクション・プランの見直し
 しかし、同プランの実施によって平成六年末に予想された結果は、合計二億七〇
〇〇万円のコスト削減であり、五億円のコスト削減目標に達しないため、本社から
了解が得られなかったが、日本支社の業績分析が保留されていたうえに、これに代
わるプランもなかったため、日本支社は、とりあえずコスト削減を開始するべく8
ポイント・アクション・プランの実施に取りかかるよう本社から指示され、平成六
年一月に組合に対してこれを伝えた。
 その後、日本支社は、本社からの要求によりさらに詳しい日本支社の状況分析を
した結果、①空港業務については、毎日の飛行機の空港滞在時間が二時間と短いこ
と及び従業員がフルタイムの労働者であることから、従業員の効率は三五パーセン
トに過ぎない、換言すれば、就業時間のうち三五パーセントしか仕事がない。一時
間当たりの従業員の人件費は七〇〇〇円であり、外注会社に対して支払う一名当た
りの人件費は二五〇〇円であるから、従業員の効率を考慮に入れれば、会社の生産
時間一時間当たりの人件費は二万円に相当することになる結果、会社の人件費コス
トは、外注で行う場合の八倍に相当する負担となっている。よって、空港業務部門
は閉鎖されなければならない、②客室乗務員については、日本で雇用されている客
室乗務員の平均人件費は一二五〇万円であるのに対して、コペンハーゲンで雇用さ
れている客室乗務員の人件費は四六〇万円である。また、同じ生産性を上げるため
に必要な客室乗務員の数はより少数で足り、コペンハーゲンで雇用されている客室
乗務員は日本の場合より多くの時間を飛行している結果、日本の客室乗務員はコペ
ンハーゲンの客室乗務員に比べて三倍の人件費がかかっていることになる。よっ
て、客室乗務員はスカンジナビアに移行されなければならない、③セールス及び管
理については、必要な人員の二倍が雇用されていることが明らかとなり、しかも一
名当たりの人件費は市場価格より四〇パーセント高いと見積もられた。よって、日
本支社は、必要なコストの二・八倍ものコストを負担していることになり、他と競
争可能なレベルにまで合理化することが必要である、と判断された。(乙第二〇号
証)
(三) 8ポイント・アクション・プランの効果
 さらに、本社は、独自に8ポイント・アクション・プランによるコスト削減効果
を検討した結果、①定年退職不補充によって平成六年度に削減されるコストは約二
〇〇〇万円である、②業務の統合再編による直接のコスト削減効果はない、③東京
及び大阪の事務所には、現在それぞれ年間約一億二〇〇〇万円及び約一五〇〇万円
の賃料が支払われているが、事務所移転によってもこの賃料全額が削減されるもの
ではなく、コスト削減効果は小さい、④営業部員に対する再教育、営業強化は、コ
スト削減に直接関係しない、⑤東京の一階オフィスの事務所解約によって平成六年
度に削減されるコストは約二〇〇〇万円である、⑥外部委託と自社による業務遂行
を比較した場合、外部委託化の方がはるかにコストが低いことが明らかであり、方
針は見直されるべきである、⑦コンピューター化による直接のコスト削減効果はな
い、⑧部分的な早期退職制度の導入によっては、コスト削減と健全な経営体質への
転換は不可能である、とみられたため、8ポイント・アクション・プランの効果に
は疑問が呈されるに至った。
 前記のとおり、会社全体の合理化計画のなかで日本支社に割り当てられたコスト
削減要求は当初五億円であったが、その後、平成六年五月にスイス航空の業務終了
等が明らかになったことを契機に、①スイス航空との空港業務委託契約解約による
コストへの影響、②予想以上の旅客と貨物の実勢販売価格の低下、③8ポイント・
アクション・プランによる五億円のコスト削減の効果、といった疑問が考慮され
た。
 すなわち、①については、スイス航空の業務終了による年間受取額の減収は二億
八七〇〇万円であり、これからスイス航空業務のために発生するコストを差し引く
と、コストへの影響額は二億二〇〇〇万円となる。また、②については、平成六年
一月から同年四月までの乗客一名当たりの純売上げは、一月が一四・三万円で対前
年同月比六パーセント増、二月が一五・三万円で同八パーセント増、三月が一七・
一万円で同一〇パーセント減、四月が一六・九万円で同一八パーセント減であり、
また同年五月の速報値によると、乗客一名当たりの純売上げが一六・七万円で対前
年同月比一九パーセントの減少を示しており、同年四月の傾向を確認するものとな
った。その結果、平成六年末においては、乗客キロメートル当たりの売上げは前年
比一九パーセントの減少と予測され、平成五年の八六億円の売上げが一六億円余減
少することが予測された。同様に、貨物についても、同程度の売上げの減少が予測
されたが、五億円のコスト削減が本社から伝達された際には、売上げについては、
平成五年と同程度を維持することを前提としていた。日本支社のこれ以上の収益性
の悪化を防ぐためには、売上げの一九パーセント減少に対し、必然的にコストも一
九パーセント削減されなければならず、約二〇億円のコストに対する一九パーセン
トの削減のためには、約四億円のコスト削減が必要であった。(乙第七、八号証)
6 日本支社の一〇億円経費削減計画
(一) 全従業員の早期退職実施による一〇億円のコスト削減案
 日本支社の経営状況の変化により、日本支社の経費削減計画は、当初の目標五億
円、収入減収に対応するコスト削減追加額四億円、スイス航空との空港業務委託契
約解約によるコスト削減追加額二億円の合計一一億円となった。本社では、この極
めて厳しい日本支社の状況について話合いが行われ、日本支社の平成五年のコスト
実績は約二〇億円であり、8ポイント・アクション・プランによっても、その他の
通常行われるコスト削減案によっても、日本支社の一一億円のコスト削減は不可能
であると判断された。そこで、全面的な合理化によってどの程度のコスト削減が実
現できるかを検討した結果、全従業員の早期退職実施による一〇億円のコスト削減
案が出された。
 かくして、平成六年六月一日、8ポイント・アクション・プランは正式に廃止さ
れ、本社から日本支社に対し、一〇億円のコスト削減を実施する合理化実行が指示
されるとともに、早期退職に当たっては一六億円の資金を提供することも決定され
た。(乙第四号証、乙第八号証、乙第一〇号証、乙第二〇号証)
(二) 一〇億円のコスト削減案の根拠
 ところで、日本支社の経費を比較検討すると、平成六年度は期の途中で合理化が
実施されたこと及び長期間のストライキがあったことなどの特殊事情があり、同年
度実績予想を参考にすることは相当でないため、合理化実施前である平成五年度実
績と合理化実施後である平成七年度予算とを比較すると、以下のとおりとなる。
(乙第八八号証)
① 人件費の圧縮
 平成五年度実績が一四億〇九二四万円、平成七年度予算が四億六〇九八万円であ
り、圧縮費は九億四八二六万円となる。
 平成五年度実績人件費は、日本人従業員のうちエア・ホステス、運航課及び整備
課を除く一一〇名と外人二名分である。また、平成七年度予算人件費は、日本人地
上職三二名の再雇用者、外人四名及び日本人嘱託四名のうち三名について六か月
分、一名について二か月分の合計である。
② 外注費
 平成五年度実績が二億九三六一万円、平成七年度予算が四億一九四三万円であ
り、増加額は一億二五八二万円となる。
 平成七年度予算外注費には、成田空港に関する全日空委託費、成田空港における
VIPルーム使用料及びエイ・エス・アイ委託費を含み、関西国際空港関係の費用
を含まない。
③ 施設費の圧縮
 平成五年度実績が二億九七〇二万円、平成七年度予算が一億三八五六万円であ
り、圧縮額は一億五八四六万円となる。
④ その他の費用の圧縮
 平成五年度実績が二億八一七三万円、平成七年度予算が二億三九八〇万円であ
り、圧縮額は四一九三万円となる。
(三) 地上職三二名体制
 以上の結果、日本支社は合理化の効果として、平成五年度実績に対し、総コスト
で約一〇億円を削減できたが、地上職三二名の再雇用者で日本支社を運営する体制
となっても、当初の目標であった純コストからの一〇億円削減は達成できず、約七
億円の削減にとどまった。したがって、合理化目標の達成に当たっては、日本支社
の全従業員が早期退職に応じ、地上職三二名を再雇用する新組織によって日本支社
を運営することが不可欠であった。(乙第八八号証)
二 日本支社の新組織で必要となる人員数
 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実と、次の各項末尾掲
記の疎明資料によれば、以下の事実が疎明される。
1 従来の組織形態の再編
 平成六年六月一〇日当時の日本支社の組織は、別紙2のとおり、地上職従業員が
一一〇名であったが、目標とされた一〇億円のコスト削減は、それまでの約二分の
一のコストによって日本支社を運営していくことを意味することから、従来の組織
形態をそのまま引き継ぐのでは、これを達成することは不可能であった。そこで、
日本支社は以下のとおり、組織を抜本的に見直し、採算の見通しのある少数の営業
部門を中心とする三二名の組織とし、外注化が可能な空港業務及び予約・発券業務
は外部委託によって運営するというまったく新たな組織とすることが必要不可欠に
なった。(乙第一号証の一、乙第一四号証)
(一) 全空港業務
 成田空港における現在の一日一便、週七便の運航体制では到底現有人員の労務費
及び施設経費等の負担を維持していくことは不可能となるため、全職場を閉鎖して
業務を外部委託する。外部委託後は、新たな条件により新たに雇用することを前提
として、委託業務の監督等の業務のため、成田地区に五名で再編する(その後、九
月に開港する関西国際空港での委託業務の監督等の業務のため、関西国際空港にも
一名の従業員を置くことにした。)。
(二) 予約発券業務
 原則として、外部委託する。
(三) 名古屋・福岡
 自社便が乗り入れていないこれらの都市においては、事務所を閉鎖し、すべて総
代理店に業務委託する。
(四) 営業・総務・経理
 今後の日本市場の環境を考えると、営業員の人数が多ければ売上増となるという
ことは期待できないため、少数精鋭の営業人員とし、最新技術を駆使したセールス
テクニックの実行によって販売単価の向上につなげる営業方針とする。再編後は、
新たに雇用することを前提とし、具体的には、東京一九名、大阪七名とする。
(五) 日本人エア・ホステス
 日本人エア・ホステスの雇用はすべて終了し、新たに日本人エア・ホステスを採
用する場合は、スカンジナビアにおいて期間を定めた雇用契約とする。
2 日本支社の必要人員
 その後、成田空港貨物課で一名、関西国際空港長代行の一名が増員となったた
め、結局、日本支社の新組織における必要人員数は次のとおり三四名とされた(乙
第九号証、乙第一七号証の一)。
① 成田空港合計六名(旅客課四名、貨物課二名)
② 東京事務所合計一九名(経理総務部三名、営業開発部二名、旅客貨物営業部九
名、法人営業部二名、予約発券部三名)
③ 大阪事務所・関西国際空港合計九名(関西国際空港二名、旅客貨物営業部七
名)
3 空港業務の要員
(一) 全日空への空港業務委託
 会社は、平成六年七月、全日空との間で空港業務委託契約を締結した。これは、
基本的にはすべての旅客及び貨物業務を全日空が行うことを内容とするもので、こ
れにより会社の従業員が直接空港業務を担当することは基本的に必要なくなり、会
社は、全日空の行う業務の監督や指導、本件との連絡等の業務だけを行えば足りる
ことになった。会社から全日空へ業務が移行するしばらくの間は、会社の側でも臨
時に人手が必要となるが、完全に全日空への業務委託が行われれば、会社は、旅客
課四名及び貨物課二名に空港長一名を加えることによって、空港での業務が遂行で
きる体制となった。(乙第六〇号証、乙第八九、九〇号証)
(二) 成田空港旅客課の業務内容と要員
 成田空港旅客課の業務は、大別して出発業務、出発後の整理業務、発券業務、到
着業務、子供・病人及び要人等の特殊旅客対応業務・ロード・コントロール業務、
手荷物トラブル処理業務に分けられるが、全日空への業務委託により会社に残され
た業務は、オーバーブッキングや欠航、遅延等のトラブルが生じたときの業務の指
示や判断、会社の営業統計上必要な情報のコンピューターシステムへの入力及び営
業との連絡、特殊なチケットの発券、パスポートの期限切れ等特殊な入国不許可者
の処理への対応、ごく一部の要人への応対及びごく一部の手荷物トラブルの解決の
業務のみで、あとは全日空の行う業務の監督や指示を行うこととなった。こうした
業務内容からして、旅客課の必要人員は、通常であれば、一便に対して二名、週末
等の繁忙日で三名いれば対応可能であり、実際にもそのようなシフトで業務を遂行
している。当初は、第二ターミナルへの移動及び全日空への業務委託への移行が重
なり、引継ぎ等のために一時的に、退職者に手伝いを依頼したり、スカンジナビア
から派遣員が来日したりしたが、現在では業務が安定したため、そのような人手は
不要となっている。
 なお、ロード・コントロールは、業務委託契約により全日空が担当する業務であ
り、全日空は、六名の従業員に会社での訓練を受けさせ、ロード・コントロールを
行うに必要な会社内の免許を取得させており、しかも右六名のうち五名は、全日空
で従来からロード・コントロール業務を担当していた経験者である。そのうえ、同
人らは、すでに実地訓練も終了しているため、ロード・コントロールには会社の従
業員は不要である。また、手荷物破損処理については、全日空が行う業務となって
いるし、手荷物の紛失の場合も、紛失後五日以内に調査等の処理であれば全日空が
担当するため、現場に会社の従業員を到着責任者として置く必要はない。さらに、
チェックインカウンターには出発旅客への応対のため会社の従業員が一名配置され
るが、出発旅客が多いときや遅延が生じたときなどは、あらかじめ二名の従業員を
配置して対応することができる。以上のとおり。旅客課の業務は、四名の従業員を
配置することによって十分行うことができる見込となった。(乙第六一号証、乙第
六三号証)
(三) スイス航空から全日空への業務委託変更
 平成六年九月一日にスイス航空の業務委託が終了し、会社の業務については全日
空に委託することになった。業務委託の内容は、基本的にはすべての貨物業務を全
日空で行うことであり、会社の従業員は、監督等の仕事の他はほとんど行わない。
したがって貨物課は、対外的なミーティング、本社、各支社との連絡及び問合わせ
に対応する業務を主とする責任者一名で足りる。同月末日までは、同年八月中に会
社が取り扱ってきた貨物の残務が残っていたこと、空港貨物ターミナル移転にとも
なう諸手続きがあったこと等により、臨時に貨物課に長年勤務していた元従業員を
採用したが、同人は同年九月末日に退社した。
 なお、全日空の従業員が業務に習熟してくれば、会社の従業員一名で輸出部と輸
入部との監督ができるようになり、責任者が休日、休暇に入るときは、旅客課の従
業員のうち一名が手伝うことも考えられ、仮に、旅客課との兼任を避けるとして
も、貨物課には二名の従業員がいれば十分で、三名を配置する必要はなくなった。
(乙第六二号証)
(四) 運航管理業務の見直し
 運航管理業務については、平成六年九月一日からコペンハーゲンの運航管理部に
おいて、ニューヨークを除くすべての空港の運航管理業務が二四時間体制で集中的
に処理されており、成田空港においてのみ運航業務を存続させる必要性はなくなっ
た。具体的に、成田空港での運航業務をみると、飛行計画は、コペンハーゲンの運
航管理部で作成され、会社と業務委託契約を締結した全日空の運航管理課へ通知さ
れる。会社の乗務員は、全日空の運航管理課へ出向いて飛行計画を受け取り、その
場で飛行前の打合わせを実施する。打合わせは、コックピットキャプテンが中心に
なって行い、必要に応じてその場で全日空の運航管理課から気象関係等の情報を得
ることができる。また、コックピットキャプテンが必要と認めた場合には、直接コ
ペンハーゲンの運航管理部に電話連絡をして問合わせをすることもできる。ちなみ
に、同月四日に新しく就航した関西国際空港の運航業務もコペンハーゲンで行われ
ている。したがって、成田空港に運航管理課を置く必要はなくなった。(乙第一六
五号証)
4 予約発券業務の要員
 予約発券業務は、株式会社エイ・エス・アイに大部分を業務委託し、再雇用され
た従業員四名が業務委託の対象になっていない団体予約業務と予約発券に関する業
務委託先に対する監督指導業務を行っている。右エイ・エス・アイは、名古屋と福
岡で会社の総代理店として営業業務全般を受託して行っており、東京事務所では予
約発券業務のみが委託された。右エイ・エス・アイの従業員は、英語力も十分あ
り、仕事に対する能力及び意欲も十分で、代理店等の顧客から苦情を受けたことは
なく、むしろ従来よりも丁寧に応対しており、予約部門の業務効率を示す指標とし
て、ロストコール率(顧客からの電話に応答しないうちに電話が切れてしまった割
合)統計がとられているが、平成六年九月は事務所の移動、新しく就航した大阪か
らの転送電話の増加等により、芳しくない結果であったものの、同年一一月以降
は、非常に改善され、合理化以前の従業員が担当していたときよりもよい成績を残
している。また、団体予約業務については、営業部門とも協力して、代理店が直接
会社の予約システムにアクセスできるシステムを作り、会社の従業員の業務を軽減
するなどの工夫が重ねられている。さらに、平成七年二月には、予約・団体予約の
双方に使用されるソフトウェアシステムが導入されたことにより、効率性が二五パ
ーセントから三〇パーセント増加するものとみられている。(乙第六七号証、乙第
一四八号証)
5 東京事務所の総務・経理関係業務の外部委託)
 東京事務所の総務・経理部には、部長、経理課長及び経理課員の三名が勤務する
ほかに、経理仕訳・経理入力専門のアルバイトが一名(時給一五〇〇円)、またメ
ッセンジャー等の雑務を行うため、一日四時間ずつ高齢者雇用事業団から派遣を受
けており(時給一〇〇〇円)、さらに臨時の人手がいる場合には退職した元従業員
に臨時アルバイトをしてもらったこともあったが、常時勤務している者はいない。
平成六年一二月末まで日比谷事務所でリストラ関係の事務を専門に行うため嘱託で
勤務していた三名は、いずれも嘱託が終了して退職した。
 このように、東京事務所の総務・経理関係事務は、一部専門分野を外部委託する
ことにより現在の人員で十分に勤務を行うことができる。(乙第一三〇号証)
 右1ないし5の事実によれば、日本支社の組織再編によって必要な人員を三四名
とする会社の本件合理化案は、不合理なものであるということはできず、これによ
って業務の円滑な運営上その実現に支障が生ずるということはできないというべき
である。
三 労働条件の変更
 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実と、次の各項末尾記
載の疎明資料を総合すれば、以下の事実が疎明される。
1 早期退職実施要領
 会社は、平成六年六月一〇日、前記のとおり、少数の営業を中心とするまったく
新たな組織を再編する合理化案を発表したが、その場合、以前実施したような限定
的な早期退職募集では到底必要数の削減には至らないうえ、新組織の運営上、賃金
および退職金等の労働条件の変更を合わせて提案せざるを得なかったことから、全
従業員を対象とした早期退職の募集を行うこととし、別紙5の早期退職実施要領に
従い、従来の勤務に対しては退職金を支払っていったん精算し、全従業員が同様に
退職割増金による優遇措置を受けることにより、今後の賃金等の条件改定への補償
措置とするのが公平であり、かつ最も妥当な方法であるとの結論に達した(甲第二
号証、甲第四号証、乙第一号証の二、乙第一四号証)。
2 各債権者らの規定退職金及び早期退職割増金
 債権者らが平成六年八月末日をもって会社を退職した場合に支給される規定退職
金び早期退職割増金の額は、別紙1記載のとおりであった。
3 新しい雇用条件の提示
 会社は、平成六年七月八日、新組織における日本支社の地上職及びエア・ホステ
スの新しい雇用条件を提示した。それは、賃金体系の変更(年俸制の導入)、退職
金制度の変更(従来の退職金規定を廃止し、新たに退職金制度を導入する。)及び
労働時間の変更(成田空港事務所については労働時間の短縮、東京と大阪の事務所
については労働時間の延長)を内容とするものであって、具体的には、次のとおり
であった。(甲第三号証、乙第一七号証の一)。
(一) 地上職
① 労働時間及び休日については、総務、営業及び予約発券部門は、一日八時間、
一週四〇時間(拘束四五時間)、土曜日、日曜日、国民の休日及び年末年始(一二
月三〇日から一月四日)とし、空港部門は、実務の実態に応じて各人ごとに勤務形
態を決定する。
② 時間外勤務手当については、非管理職に対し支給する。支給率は、労働基準法
の定めに従い、時間外勤務手当二五パーセント、法定休日勤務手当三五パーセン
ト、深夜勤務手当二五パーセントとする。
③ 有給休暇は、労働基準法の定めに従い、初年度一〇日、以後一年に一日ずつ増
加し、最大二〇日とする。ただし、前年一年間の所定勤務日の八割以上の出勤を要
件とする。
④ 賃金は、各人の職務内容及び責任に応じて各人ごとに年俸契約とする。
⑤ 契約期間は、一年間。ただし、会社が必要と認めた場合は更新することがあ
る。
⑥ 退職については、新しい制度を設ける。
(二) エア・ホステス
① 乗務は、スカンジナビアの規制に従ったマキシマム・デューティとする。
② 賃金は、デンマークベースの賃金を日本円に換算したものに見合う賃金に日本
での生活手当を加算するものとし、個別に決定する。日本国内で日本円で支払う。
③ 有給休暇は、年間一〇日とする。
④ 契約期間は、一年間とする。
⑤ 退職金については、新しい制度を設ける。
4 賃金体系の変更
(一) 従前の賃金体系の問題点
 会社においては、従来、地上職の営業、予約発券部門、空港部門及び管理部門の
各賃金体系が同一であって、業務の違いが賃金には何ら反映されていなかった。基
本的には、勤続年数に応じて、賃金が上昇し続ける年功賃金体系であり、いわゆる
ベースアップを除く定期昇給部分だけで平均二パーセント以上の賃金上昇が定めら
れていた。定期昇給とベースアップにより、昭和六三年を一〇〇としてその後の賃
金を比較すると、平成五年は一二三・五となった。このような賃金体系は、①全体
の賃金水準が高い、すなわち平均勤続年数の上昇にともなって一名当たりの人件費
負担が重い、②年功賃金で各自の貢献が反映されないため、若い従業員が意欲をそ
ぐことになる、③逆に、高齢の勤続年数の長い従業員は、仕事での貢献度のいかん
にかかわらず、高い賃金が保証されるなどの問題点があった。例えば、平成六年六
月に定年退職したある従業員の場合、退職時の職務は成田空港貨物課の一般職員で
あったが、前年の平成五年の賞与を含む年間の支払賃金は一一三〇万円余りにも上
っており、しかも、全従業員の平均はこれをさらに上回るものであった。
 このような賃金体系は、航空運賃が世界一高いといわれる水準で規制され、適宜
上昇も期待できていた時代には可能なものであったが、不況のうえに、世界的な航
空産業の規制緩和が影響し、競争が激化して実質航空運賃が下落している時代には
到底負担できるものではなくなった。しかも、会社全体が四年連続で赤字となり、
大幅なコスト削減を求められていたので、日本支社においてのみ賃金が上昇し続け
る賃金体系を維持することは不可能であった。(甲第七五、七六号証、乙第一六四
号証)
(二) 新しい賃金体系(年俸制)
 そこで、新しい賃金体系は、各業務に対応して年俸制をとることとし、年俸は、
職務内容と各自の業績によって毎年見直し、従業員と合意して決定されることにな
った。年俸の決定に当たって、会社は、地上職の場合は他の類似企業(特に、日本
支社が営業と空港地上業務のみの営業所であることから、この業態に類似する日本
の旅行業者)の賃金実態を調査して、決定した。
 債権者らの平成五年度(一九九三年度)の年収及び月例給は、別紙1のとおりで
あり、会社が予定した新組織における年俸は、営業職が七七〇万円、営業補助職が
六四〇万円、空港長代理が六九〇万円、空港監督職が五八〇万円であり、具体的に
は、職務内容及び責任に応じて会社が債権者らに提案した新賃金(年俸)は、別紙
1の「再雇用提案時提示額」欄に各記載のとおりで、地上職の場合、新賃金の絶対
額は、現行賃金を必ずしもすべてが下回るものではなかった。(乙第四九号証、乙
第一六三、一六四号証)
5 退職金制度の変更
(一) 従前の退職年金制度の問題点
 会社は、退職金については、従来、全額を適格退職年金として積み立てる制度を
とっていたが、年功に応じて高騰し続ける基本給に一定の勤続年数による係数を乗
じて定められる金額であったため、その支給水準は著しく高いものであった。例え
ば、前記の成田空港貨物課の一般職員であった従業員の場合、退職年金を一時金に
計算した場合の支給額は二八〇〇万円を超えるものであった。
 また、この退職年金制度は、平成元年四月当時の従業員数約一八〇名の企業規模
を前提とした設計になっており、このような退職年金制度を維持することは、一定
数以上の従業員が存在し、しかも高額の掛金を会社が負担する場合にはじめて可能
となるものであった。ところが、本件合理化案によって従業員数が地上職とエア・
ホステスを合わせてもその約三分の一以下になった場合、これまでの退職金制度を
維持するためには、従業員一名当たりに必要な拠出額は極めて増加し、後に残る従
業員ほど年金原資の不足が生じて退職金の確保ができなくなることから、制度の基
盤が失われ、これを運用し続けることが極めて困難となった。(甲第七五、七六号
証、乙第一六四号証)
(二) 新しい退職年金制度の導入
 そこで、会社は、新しい退職年金制度を導入することとし、年功差による不公平
を解消し、退職年金を合理的に設計するために、年俸制の新しい賃金体系のもと
で、職務に応じた退職金基準給を決め、退職金と賃金の関係を切断した。これによ
り、新しい退職年金の水準は、モデルケースでは、大卒二三歳で入社して定年まで
三八年間勤続し、退職時課長であった従業員に対して二六〇〇万円程度の退職金が
支給されることになっており、大企業並みの退職金水準が確保されることになっ
た。(乙第一六三、一六四号証)
6 労働時間の変更
 従来、地上職の労働時間は、営業、予約発券部門、空券部門及び管理部門のいず
れも一週間当たり三六・五時間と定められていた。
 これに対し、新組織においては、営業、予約発券部門、空港部門及び管理部門は
一日八時間、一週四〇時間に延長し、一方、空港部門は一週三五時間に短縮され
た。営業、予約発券部門、空港部門及び管理部門では、少ない人数で業務を処理
し、特に営業、予約発券部門について顧客に対するサービス水準を維持向上する必
要があったが、会社の顧客の大半が旅行代理店であることから、顧客の八時間勤務
の体制に合わせるため、労働時間の延長が定められた。一方、空港部門について
は、もともと飛行機の空港滞在時間が短いうえに、業務内容が自社での空港ハンド
リング業務から全日空への業務委託へ変更になったため、従来よりも短い勤務時間
で十分であることから、時間短縮がはかられることになった。(甲第七五、七六号
証、乙第一六三、一六四号証)
 以上1ないし6の事実によれば、賃金体系、退職年金制度、労働時間等の労働条
件の変更は、従来、高騰し過ぎていた賃金を生産性に見合う適正なコストに是正す
ること、人員の大幅減少によって必然的に生じる退職金制度維持の困難さを解消す
ること、そして業務の合理的運用の必要性から行われたものであったということが
でき、その内容は社会的相当性を有する範囲内のものであり、企業経営上一つの選
択として許容されるものというべきである。
四 いわゆる変更解約告知について
 債権者s、同n、同t、同o、同p、同a、同q、同d及び同rに対する解雇に
ついて検討する。
1 本件解雇の性質
(一) 会社においては、平成六年八月一五日の時点で新組織に必要となる地上職
三二名ののうち二五名がすでに再雇用されており、本件合理化案に基づいて残り七
名を補充する必要があったところ、会社は、同日付で債権者q、同r、b、e、
k、f及びlの七名に対し、地上職のポジション及び賃金等の新労働条件を明示し
たうえ、早期退職及び同ポジションへの再雇用を申し入れ、また、債権者n、同
o、同p、同a及び同dの五名に対し、エア・ホステスのポジション及び賃金等の
新労働条件を明示したうえ、早期退職及び同ポジションへの再雇用を申し入れ、さ
らに同月三〇日には従来の地上職三二名の提案に加えて六名を追加することを提案
するとともに、債権者s、同t、h、i、j及びmの六名に対し、新組織における
ポジション及び賃金等の新労働条件を明示したうえ、早期退職及び同ポジションへ
の再雇用を申し入れ、これと同時に、同日付で同年九月三〇日をもって解雇する旨
の(その後、解雇予告期間を同年一一月三〇日まで延長した。)解雇予告の意思表
示をした。
 この解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変
更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の
解約であって、いわゆる変更解約告知といわれるものである。
(二) なお、債権者らは、右の再雇用への申入れを捉えて、仮に債権者らが会社
の早期退職に応諾し再雇用に応募したとしても、再雇用契約が締結されるか否かは
不確実であるから、会社が行ったのは、再雇用への申込みの誘因に過ぎないと主張
するけれども、前記のとおり、会社は、補充する業務を念頭に置きつつ、各債権者
に対してポジション及び賃金等の新労働条件を具体的に明示して提案しているので
あって、会社がこのように具体的ポジションをあげて再雇用の提案を行いながら、
その債権者を再雇用しないことがあるとは到底考えられないから、会社の右提案
は、新雇用契約締結の申込みであるというべきである。
2 本件変更解約告知
(一) 会社と債権者ら従業員との間の雇用契約においては、職務及び勤務場所が
特定されており、また、賃金及び労働時間等が重要な雇用条件となっていたのであ
るから、本件合理化案の実施により各人の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の
変更を行うためには、これらの点について債権者らの同意を得ることが必要であ
り、これが得られない以上、一方的にこれらを不利益に変更することはできない事
情にあったというべきである。
 しかしながら、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更
が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によっ
て労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更をともなう新契約締結の
申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認め
られ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新
契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当
である。
(二) 前記一、二の疎明事実によれば、会社は、平成二年以降、世界的不況及び
ヨーロッバ域内の航空規制緩和等により、航空部門の経営悪化が激しく、年々赤字
が増大していく一方、日本支社も平成三年以降の全世界的な景気の後退及び格安航
空券の市場への出回りにより、乗客数減と航空券の販売単価の低落が急速に進み、
部分的なコスト削減策では到底合理化目標を達成できないことから、日本支社につ
いて抜本的な合理化案を早急に実施する必要に迫られていたところ、空港業務及び
予約発券業務については業務運営方式を変更して外部委託化する、自社便が乗り入
れていない二事務所については事務所を閉鎖する、営業等については組織を縮小す
る、ついては一一一名の組織であった地上職を三二名程度の組織に変更するなど、
全面的な人員整理、組織再編が必要不可欠となり、その計画が図られた結果、雇用
契約により特定されていた各労働者の職務及び勤務場所の変更が必要不可欠なもの
となったということができる。
 その間、前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実並びに前記
一、二の疎明事実のとおり、日本支社は、経営の悪化が始まった平成三年度以降、
希望退職募集、宣伝広報費の削減等の様々なコスト削減策をとってきたが、その削
減効果は芳しくなく、このような部分的はコスト削減策ではもはや健全な経営体質
への転換は不可能となり、本件合理化にともなう業務運営方式の変更、組織の縮
小、統合等の全面的な組織再編を前提とする必要合計人員数は三四名となったもの
である。
(三) 加えて、前記三の疎明事実によれば、本件労働条件の変更には、賃金体系
の変更、退職金制度の変更及び労働時間等の変更も含まれるが、本件合理化案を実
現するためには、右変更の必要性が大きいものといえるところ、日本支社のコスト
の約六〇パーセントを人件費が占めるという実状に鑑み、①従来の賃金体系は、勤
続年数に応じて賃金が上昇し続ける年功賃金体系であって、業務の違いが賃金に反
映されなかった結果、全体の賃金水準が高過ぎる、各自の貢献が反映されないため
に熱意のある従業員の意欲をそぐなどの問題点を有しており、他の類似企業の賃金
実態も加味しつつ、是正する必要があった、②また退職金制度については、従来の
退職金が年功に応じて高騰し続ける基本給に一定の勤続年数による係数を乗じて定
められるものであったため、その支給水準は著しく高いものであったうえ、従前の
従業員数が本件合理化により約三分の一に激減した状態では、従前の退職年金制度
では整合がとれなくなり、新しい退職金制度を設ける必要があった、③さらに労働
時間については、新組織における業務内容の変化に応じ、労働時間も一部で延長、
一部で短縮する必要があったのであり、いずれもその変更には高度の必要性が認め
られる。
(四) 一方、新雇用契約締結の結果、労働者が受ける不利益について検討する
と、前記三の疎明事実のとおり、右賃金体系の変更は、従業員の賃金が総体的に切
り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、地上職の場合、会社により提
案された新賃金(年俸)と従来の賃金体系による月例給とを比較すると、新賃金
(年俸)は従来の賃金体系による月例給に一二(月)を乗じることにより得られる
金額を必ずしもすべて下回るものではないし、債権者らが新労働条件での雇用契約
を締結する場合には、会社は、従来の雇用契約終了にともなう代償措置として、規
定退職金に加算して、相当額の早期退職割増金支給の提案を行ったことをも合わせ
考えると、前記の業務上の高度の必要性を上回る不利益があったとは認められな
い。
(五) 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実によれば、平
成六年六月一〇日に発表された本件合理化案は、これが全従業員に対し文書で配布
され、またこれを発表した後の会社の組合に対する態度は、本件合理化案に対する
組合の理解を得るため、合計二二回の団体交渉に応じ、会社の経営状況、コスト削
減の必要性及び新組織の人員構成等、組合から質問のあった事項については、団体
交渉の席上、書面をもって回答したうえ、本件合理化の解決策をさぐるため、組合
に対し、誰をどの部署で就業させるのか具体的に提案するよう申し入れるなどの対
応をとったが、組合は、債権者ら全員の従前の雇用条件での雇用継続を終始一貫前
提とし、会社がこれに応じないのであれば、配置転換先について具体的に債権者の
氏名を明らかにしないという硬直した態度をとったため、実質的な交渉に至らなか
ったものということができる。
(六) 前記「事案の概要」の中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実によれば、
会社が債権者q、同r、同n、同o、同p、同a、同d、同s、同t、b、e、
k、f、l、h、i、j及びmに対して新労働条件を示して早期退職及び新ポジシ
ョン(地上職一三名、エアホステス五名)への再雇用を申し入れた時点では、地上
職の募集人員は新たに追加した分も含めて残り一三名に過ぎなかったのであり、こ
の事態は、本件合理化案に基づいて任意に退職したうえで再雇用を申し入れた従業
員から会社が再雇用を受け入れた結果によるものであって、その過程になんら違法
不当な事実は認められないのである。
 してみれば、債権者q、同r、同n、同o、同p、同a、同d、同s、同tの九
名は職種の変更なくして新組織で就業する余地がなくなったものというほかないと
ころ、前記のとおり、会社は、右債権者の解雇の効力が発生する前に、職種・勤務
場所の変更をしないで新組織への再雇用が可能なb、k、f、l、h、i及びjに
対する解雇予告を撤回した結果、当初予定した地上職要員を充足したこととなった
のであって、右解雇撤回が恣意的で不公平であるとの疎明はない。
(七) 以上によれば、会社が、債権者q、同r、同n、同o、同p、同a、同
d、同s、同tに対し、職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更を
ともなう再雇用契約の締結を申し入れたことは、会社業務の運営にとって必要不可
欠であり、その必要性は右変更によって右各債権者が受ける不利益を上回っている
ものということができるのであって、この変更解約告知のされた当時及びこれによ
る解雇の効力が発生した当時の事情のもとにおいては、右再雇用の申入れをしなか
った右各債権者を解雇することはやむを得ないものであり、かつ解雇を回避するた
めの努力が十分に尽くされていたものと認めるのが相当である。
3 よって、本件変更解約告知は有効であると解するのが相当であり、債権者s、
同n、同t、同o、同p、同a、同q、同d及び同rに対する解雇は有効であると
いうべきである。
五 整理解雇について
 債権者u、同g、同v、同w、同c、同x及び同yに対する解雇について検討す
る。
 企業の業績不振にともなう人員削減としての解雇が肯定されるためには、その解
雇時点において人員削減の必要性について使用者側に合理的かつ客観的な理由があ
り、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていることを要するものというべ
きであり、業績不振にともない一定の職種の労働者の労働力が不要になった場合、
企業の規模、人員削減の必要性の程度、その労働者の職種転換の能力などを総合考
慮して、その者を雇用し続けることが企業経営上困難であり、その者を解雇するこ
とが雇用契約上の信義則に照してやむを得ないものと認められる場合、当該労働者
の解雇は有効なものであると解するのが相当である。
1 人員削減の必要性
(一) 会社は、平成二年以降、世界的不況及びヨーロッパ域内の航空規制緩和等
により、会社をとりまく環境が激変し、特に航空部門の経営悪化が激しく、年々赤
字が増大し、平成五年度には、一一億一四〇〇万スウェーデン・クローネの赤字に
達したこと、そのため、会社は、平成二年以降度重なる経営合理化を進めており、
平成六年七月時点で一二億二四〇〇万スウェーデン・クローネを削減するまでに進
行していたが、目標の二九億一四〇〇万スウェーデン・クローネを削減するまでさ
らに合理化を推進する必要があること、本支社も平成三年以降の全世界的な景気の
後退及び格安航空券の市場への出回りにより、乗客数減と航空券の販売単価の低落
が急速に進んだところ、日本支社単独の損益計算書及び貸借対照表はないが、日本
支社の経営指標である経営の寄与度をみると、平成二年度を頂点として純総売上げ
が同年の約一五一億円から平成五年度には約一〇〇億円へと五〇億円余りも減少し
たこと、また平成六年度にはさらに悪化し、日本支社の経営の寄与度は前年比二パ
ーセント減の約六七億円にとどまり、会社の全地域の中で最も悪い成績を記録した
前年をさらに下回るものであったこと、日本支社の経費の約六〇パーセントを人件
費が占めており、日本支社の経営効率化に当たっては人件費の削減を行わざるを得
ない状況にあったことは、前記一のとおりである。
(二) 債権者らは、経営の寄与度を本社会計のスウェーデン・クローネに換算し
直せば、円高による影響で、日本支社の業績は向上しており、経営の寄与度の数字
を各年度の為替レートでスウェーデン・クローネに換算すると、平成二年を一〇〇
とした場合、平成六年度の日本支社の経営の寄与度は一〇四・八と却って増加して
いると主張する。
 しかし、経営の寄与度は、支社の経営の効率度を図る経営指標であって、日本支
社で販売した旅客及び貨物の売上げ(総純売上げ)から、日本支社が右売上げを行
うために代理店に支払うIATA規定の販売手数料(総手数料)、日本支社の組織
運営上の経費(経費合計)を差し引いたもので、売上げ、手数料及び経費のいずれ
もが円で受領し、支払われるものであるから、経営の寄与度も円で表示されるこ
と、日本支社においては、売上げ、経費のいずれもが円で支払われているのである
から、その差額だけをスウェーデン・クローネに換算して毎年の比較を行うことに
は合理性がないこと、本社においては、スウェーデン・クローネに換算して、各地
域の比較をするが、その場合でも、為替による受益又は差損はすべて営業外の特別
損益として本社が取りまとめていたのであるから、日本支社が本国に対して報告す
る経営の寄与度の中に為替の損益が関係することはないといえるのであって(乙第
四六号証)、債権者らの右主張は採用できない。
(三) そうしてみれば、本件においては、人員整理をすることが企業の合理的運
営上やむを得ない必要に基づくものであったというべきである。
2 解雇回避措置
 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実並びに前記一及び二
の疎明事実によれば、日本支社は、経営の悪化が始まった平成三年度以降、希望退
職募集、宣伝広報費の削減、コンピューター経費の削減、消耗品費の削減及び交通
費の削減等の様々なコスト削減策をとってきたが、その削減効果は芳しくなく、こ
のような部分的なコスト削減策ではもはや健全な経営体質への転換は不可能であっ
たこと、どの部門の人員をどの程度整理するのかは、絶対的な基準があるわけでは
なく、本件合理化にともなう業務運営方式の変更、組織の縮小・統合等の全面的な
組織再編を前提とすると、会社が主張する各部門の必要人員数には格別不合理な点
が認められないから、必要合計人員数は三四名というべきであり、その余の従業員
は本来余剰人員となること、しかし、会社は、平成六年六月一〇日の本件合理化案
発表後、組合と解決策について交渉をしながら、当初の早期退職募集期限であった
同年七月二九日を最終的には同年一一月三〇日まで四度にわたり延長し、債権者ら
の応募を促したこと、また会社は、この間、一八のポジション及び年俸とこれに対
応する債権者らの氏名を特定し、さらに一つのポジションについては氏名を特定せ
ずに再雇用の提案を行うなど、具体的な解決策を提示したことなどが認められ、こ
れらに鑑みると、会社は、解雇を回避するための相当な努力をしたものというべき
である。
3 解雇手続
(一) 前記「事案の概要」中の「本件紛争に至る経緯」記載の事実によれば、平
成六年六月一〇日に発表された本件合理化案は、それまでの組合との団体交渉の経
緯及び合理化案の内容に照らして、やや唐突の感は否めないものの、これを全従業
員に対し文書で配布し、またこれを発表した後の会社の組合に対する態度は、本件
合理化案に対する組合の理解を得るため、自ら積極的に団体交渉の開催を申し入
れ、最終の再雇用応募期限の同年一一月末日までの間に合計二二回の団体交渉が開
催されたこと、特に会社が解雇予告手当通知をした同年八月三〇日までの二か月余
りの間、会社は、組合と団体交渉を断続的に行ったこと、そして会社は、会社の経
営状況、コスト削減の必要性及び新組織の人員構成等、組合から質問のあった事項
については、団体交渉の席上、書面をもって回答したうえ、組合が開示を要求した
資料についても、可能な限り提出したこと、本件合理化の解決策をさぐるため、組
合に対し、配置転換を含めた話合いに応ずる用意があるのであれば、誰をどの部署
で就業させるのか具体的に提案するよう申し入れるなどの対応をとったこと、それ
にもかかわらず、組合は、債権者ら全員の従前の雇用条件での雇用継続を終始一貫
前提とし、会社がこれに応じないのであれば、配置転換先について具体的に債権者
の氏名を明らかにしないという硬直した態度をとったため、実質的な交渉に至らな
かったことが認められるのであり、これらの事実に鑑みれば、会社は信義則上要求
される協議を尽くしたというべきである。
(二) なお、債権者らは、会社はコスト削減額の根拠について合理的な説明をま
ったく行っておらず、会社が主張するコスト削減額が二億円、五億円、六億円、八
億円、一〇億円、一一億円と変転したことをみても、コスト削減額の根拠が薄弱で
あったことを如実に物語るものであると主張する。
 しかし、コスト削減額がこのように変転したことを的確に疎明する資料はなく、
むしろ前記一のとおり、コスト削減額は当初の五億円から一〇億円に増額されたこ
とはあったものの、これはスイス航空の委託業務終了や当初予想された以上の旅客
及び貨物の実勢販売価格の低下といったその後の事情によるものであって、十分理
解し得るところであるし、かつ、会社は、この増額の理由を組合に対して書面で説
明しているのであるから、債権者らの主張は採用することができない。
4 被解雇者の選定
(一) いかなる整理基準を設け、これをいかなる範囲の従業員に適用して被解雇
者を人選するかは、第一次的には使用者自らが自己の判断と責任のもとにおいて諸
般の事情を考慮して決定すべきものであり、右基準及び適用の方法等が人員整理の
本来の目的に違背して恣意的であると認められる場合でない限り、当該整理基準・
人選に合理性があると認めるのが相当である。
(二) 前記のとおり、会社が債権者q、同r、同n、同o、同p、同a、同d、
同s、同t、b、e、k、f、l、h、i、j及びmの一八名に対して新労働条件
を示して早期退職及び新ポジションへの再雇用を申し入れた時点では、地上職の募
集人員は新たに追加した分も含めて残り一三名に過ぎなかったのであり、この事態
は、本件合理化案に基づいて任意に退職したうえで再雇用を申し入れた従業員から
会社が再雇用を受け入れた結果によるものであって、その過程になんら違法不当な
事情はないのである。
 してみれば、債権者u、同g、同v、同w、同c、同x及び同yの七名は職種の
変更なくして新組織で就業する余地がなくなったものというほかないところ、前記
のとおり、会社は、右各債権者の解雇の効力が発生する前に、職種・勤務場所の変
更をしないで新組織への再雇用が可能なb、k、f、l、h、i及びjの七名に対
する解雇予告を撤回した結果、当初予定した地上職要員を充足したこととなったの
であって、右解雇撤回が恣意的で不公平であると断ずる資料はない。
(三) 疎明資料、審尋の結果によれば、以下の債権者らに対し、会社が新労働条
件を提示した再雇用の申込みをせず、整理解雇の対象とした理由は、それぞれ次の
とおりであることが疎明される。(甲第四四号証、甲第五二号証、甲第五四号証、
甲第五七、五八号証、甲第六〇号証、甲第六二号証、甲第一四二ないし一四四号
証、甲第一四九号証ないし一五一号証、甲第一五八号証、乙第一〇七号証)
(1) 債権者uは、すでに住宅ローンの負担もなく、扶養家族はパートタイマー
として働く妻のみである。同債権者は、昭和一四年一一月七日生まれで、六〇歳の
定年まで約五年を残すのみであり、また、従来、旅客課でロードコントロールを中
心とした業務を担当していたが、同業務が全日空に対する業務委託により処理され
ることとなったところ、同債権者には判断業務が主体になる新組織での空港旅客業
務には適性がないと判断された。
(2) 債権者gは、その扶養家族のうち、子供二人はすでに就職して自活してい
る。同債権者も、債権者uと同様の業務を担当していたもので、そのロードコント
ロール業務は会社の従業員では行われなくなったところ、判断業務が主体になる新
組織での空港旅客業務には適性がないと判断された。
(3) 債権者vは、会社に入社する以前に家業の酒類販売業に関与していたこと
があるが、現在もその営業は長兄が家業として継いでいる。同債権者も債権者uや
同gと同様の業務を担当していたもので、そのロードコントロール業務は会社の従
業員では行われなくなったところ、判断業務が主体になる新組織での空港旅客業務
には適性がないと判断されるうえ、成田空港近くにアパートを借り、家賃の一部を
会社が負担している事情もあり、会社にとって人件費負担が重いものであったた
め、再雇用の提案をするに至らなかった。
(4) 債権者wは、英語能力に劣り、貨物課においてもみるべき業績はなく、判
断業務が主体になる新組織での空港旅客業務には適性がないと判断された。
(5) 債権者cは、住宅ローンの負担もなく、また、妻は職業をもっており、同
債権者が扶養を要する家族等はいない。同債権者は、昭和一六年二月二五日生まれ
であり、六〇歳の定年まで約六年を残すのみであり、また、これまで旅客営業の業
務についていが、新組織における営業担当者として少人数で効率的な営業を行う能
力はないと判断された。
(6) 債権者xは、旅客営業の職務を担当していたが、営業活動において自分勝
手な行動が多く、上司の指示を守らない行動が多かったうえ、最近においても注意
処分を受けるなど、少人数で運営される新組織における営業担当者として不適格で
あると判断された。
(7) 債権者yは、住宅ローンの負担もなく、また扶養を要する家族もいない。
同債権者は、団体予約業務を担当していたが、予約発券業務については、当初より
外注化をする予定であり、同債権者には管理的業務が中心となる新組織での予約業
務についての適性はないと判断された。
(四) 右事実によれば、会社が整理解雇の対象者として右債権者らを選択した理
由には相応の合理性が認められ。この人選が不合理で恣意的であるとの的確な疎明
はない。
5 よって、債権者u、同g、同v、同w、同c、同x及び同yに対する本件整理
解雇は有効であると解するのが相当である。
六 結論
 以上によれば、債権者らに対する本件解雇はいずれも有効であり、被保全権利の
疎明がないことに帰するから、その余の点を判断するまでもなく、本件申立てはい
ずれも却下を免れない。
 よって主文のとおり決定する。
(裁判官 遠藤賢治 飯塚宏 塩田直也)
<29393-001>
<29393-002>
<29393-003>
<29393-004>
<29393-005>
<29393-006>
<29393-007>

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛