弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決および第一審判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役二年に処する。
     但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
         理    由
 弁護人樫田忠美の上告趣意第二点は、判例違反をいうが、引用の各判例は、事案
を異にし本件に適切でなく、同第三点は、違憲をいうが、実質は、単なる訴訟法違
反の主張に帰し、いずれも上告適法の理由とならない。
 同第一点および第四点について。旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正
前の関税法をいう。以下同じ。)八三条一項の規定による没収は、同項所定の犯罪
に関係ある船舶、貨物等で犯人の所有または占有するものにつき、その所有権を剥
奪して国庫に帰属せしめる処分であつて、被告人以外の第三者が所有者である場合
においても、被告人に対する附加刑としての没収の言渡により、当該第三者の所有
権剥奪の効果を生ずる趣旨であると解するのが相当である。
 しかし、第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者
に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、
著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。
けだし、憲法二九条一項は、財産権は、これを侵してはならないと規定し、また同
三一条は、何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪
われ、又はその他の刑罰を科せられないと規定しているが、前記第三者の所有物の
没収は、被告人に対する附加刑として言い渡され、その刑事処分の効果が第三者に
及ぶものであるから、所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦
の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収すること
は、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないか
らである。そして、このことは、右第三者に、事後においていかなる権利救済の方
法が認められるかということとは、別個の問題である。然るに、旧関税法八三条一
項は、同項所定の犯罪に関係ある船舶、貨物等が被告人以外の第三者の所有に属す
る場合においてもこれを没収する旨規定しながら、その所有者たる第三者に対し、
告知、弁解、防禦の機会を与えるべきことを定めておらず、また刑訴法その他の法
令においても、何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。従つて、前
記旧関税法八三条一項によつて第三者の所有物を没収することは、憲法三一条、二
九条に違反するものと断ぜざるをえない。
 そして、かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場
合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として
上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の
占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所
有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関
係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができる
ものと解すべきである。これと矛盾する昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年
(あ)第三六五五号、各同三五年一〇月一九日当裁判所大法廷言渡の判例は、これ
を変更するを相当と認める。
 本件につきこれを見るに、没収に係る船舶および貨物が被告人以外の第三者の所
有に係るものであることは、記録上明らかであるから、前述の理由により本件船舶
および貨物の換価代金の没収の言渡は違憲であつて、この点に関する論旨は、結局
理由あるに帰し、原判決および第一審判決は、この点において破棄を免れない。
 よつて刑訴四一〇条一項本文、四〇五条一号、四一三条但書により原判決および
第一審判決中被告人に関する部分を破棄し、被告事件につき更に判決する。
 原審の是認する第一審判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の同判示
第一の所為は、関税法附則一三項により従前の例によるものとされた旧関税法七六
条二項後段、一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、所定刑期範囲内で被
告人を懲役二年に処し、情状により刑法二五条一項を適用して本裁判確定の日から
三年間右刑の執行を猶予することとし、主文のとおり判決する。
 この判決は、論旨第一点および第四点につき、裁判官入江俊郎、同垂水克己、同
奥野健一の補足意見および裁判官藤田八郎、同下飯坂潤夫、同高木常七、同石坂修
一、同山田作之助の少数または反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官入江俊郎の補足意見は、次のとおりである。
一 (一)旧関税法八三条一項の規定による没収の法意、(二)被告人以外の第三
者が所有者である場合その所有物につき被告人に対してなされた没収の言渡の効果、
(三)第三者没収の言渡を受けた被告人がその没収の裁判の違憲を理由として上告
をなしうべきことおよび(四)右第三者を、被告人に対する場合に準じて、訴訟手
続に参加せしめ、これに告知、弁解、防禦の機会を与えることが憲法三一条、二九
条の要請であつて、単に右第三者を証人として尋問し、その機会にこれに告知、弁
解、防禦をなさしめる程度では、未だ憲法三一条にいう適正な法律手続によるもの
とはいい得ないと解するを相当とすべく、この見解については、さきに昭和二八年
(あ)第三〇二六号、同三五年一〇月一九日大法廷判決におけるわたくしの反対意
見でこの点につき示したわたくしのこれと異つた意見を、今回改めるに至つたもの
であることの四点については、わたくしは、昭和三〇年(あ)第二九六一号、関税
法違反未遂被告事件の大法廷判決に附したわたくしの補足意見の趣旨を援用する。
二 なお、この場合、旧関税法の前記法条所定の船舶、貨物等が犯人以外の第三者
の所有に属し、犯人は単にこれを占有しているに過ぎない場合には、右所有者たる
第三者において、貨物について同条所定の犯罪行為が行なわれること、または船舶
が同条所定の犯罪行為の用に供せられることを予め知つており、その犯罪が行なわ
れた時から引続き右貨物または船舶を所有していた場合に限り、右貨物または船舶
につき没収のなされるものであると解すべきものであることについては、昭和二六
年(あ)第一八九七号、同三二年一一月二七日大法廷判決における多数意見を援用
する。そして、右第三者が右のように悪意であつて、実体法上没収をするものとさ
れている場合において、その所有物件の没収の言渡をするには、その者を被告人に
対する場合に準じて訴訟手続に参加せしめ、これに告知、弁解、防禦の機会を与え
ることが、憲法二九条、三一条の要請となるのである。
 裁判官垂水克己の補足意見は、次のとおりである。
 弁護人の上告趣意第一点および第四点についてのわたくしの補足意見は、昭和三
〇年(あ)第二九六一号、同三七年一一月二八日言渡大法廷判決におけるわたくし
の補足意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 裁判官奥野健一の補足意見は、次のとおりである。
 弁護人の上告趣意第一点および第四点についてのわたくしの補足意見は、昭和三
〇年(あ)第二九六一号、同三七年一一月二日言渡大法廷判決におけるわたくしの
補足意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 弁護人樫田忠美の上告趣意第一点および第四点に関する裁判官藤田八郎の少数意
見は、次のとおりである。
 所論は原判決が没收言渡をした物件は、被告人以外の第三者の所有に属するもの
であつて、右没収の言渡は第三者の権利侵害するが故に違憲達法であるというに帰
着するのであるが、被告人は、第三者の所有権を対象として、第三者の権利が害さ
れることを理由として上告を申立てることは許されないものと解すべきであるから
(昭和二八年(あ)第三〇二六号、同二九年(あ)第三六五五号事件、同三五年一
〇月一九日大法廷判決参照)、所論はこれを採用すべきでない。
 裁判官下飯坂潤夫の反対意見は、次のとおりである。
 弁護人の上告趣意第一点および第四点についてのわたくしの反対意見は、昭和三
〇年(あ)第二九六一号、同三七年一一月二日言渡大法廷判決におけるわたくしの
反対意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 裁判官高木常七の少数意見は、次のとおりである。
 弁護人樫田忠美の上告趣意第一点および第四点についてのわたくしの意見は、昭
和二八年(あ)第三〇二六号、同三五年一〇一九日大法廷判決(刑集一四巻一二号
一五七四頁)におけるわたくしの補足意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 裁判官石坂修一の反対意見は、次の通りである。
 わたくしは、本件につき示された多数意見に反対である。その理由とするところ
は、昭和三〇年(あ)第二九六一号、同三七一一月二八日言渡大法廷判決における
裁判官下飯坂潤夫の反対意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 裁判官山田作之助の少数意見は、次のとおりである。
 弁護人の上告趣意第一点および第四点についてのわたくしの少数意見は、昭和三
〇年(あ)第二九六一号、同三七年一一月二日言渡大法廷判決におけるわたくしの
少数意見)関税法一一八条とあるのは、旧関税法八三条と改める。)と同趣旨であ
るから、これを引用する。
 裁判官斎藤悠輔は退官につき本件評議に関与しない。
 検察官村上朝一、同羽中田金一公判出席
  昭和三七年一一月二八日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    高   木   常   七
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    横   田   正   俊
 裁判官藤田八郎は退官につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    横   田   喜 三 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛