弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破毀する。
     被告人を懲役四月及び罰金弐万円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金弐百円を一日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
         理    由
 弁護人山根静人の上告趣意は、末尾に添えた別紙記載の通りである。
 (一)論旨第一点は、原判決には旧刑訴法第四〇三条の規定に違反して第一審判
決より重い刑を言渡した違法がある。というのである。よつて両判決の主文をくら
べて見ると、第一審は「被告人Aを懲役四月及罰金弐万円に処する。右罰金を完納
することができないときは被告人を百日間労役場に留置する」と判決し、第二審は
「被告人を懲役四月及罰金弐万円に処する。右罰金を完納することが出来ないとき
は百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」と判決したのであつて、
この原審判決主文の換刑処分の部分を第一審判決の書き方に直して見ると、労役場
留置期間が「弐百日」ということになつて、第一審判決の留置期間より長いのであ
る。元来労役場留置はいわゆる換刑処分であつて、その本刑に準ずべき性質のもの
であり、その期間の長短が被告人の利害に直接の関係があることは、自由刑が科せ
られる場合と何ら異なるところがないから、罰金不完納の場合の労役場留置の言渡
についてもいわゆる不利益変更禁止の規定の適用があり、そして本件においては検
察官の控訴または附帯控訴はなかつたのであるから原判決は違法である。
 (二)論旨第二点は、原判決が第一審判決の言渡した労役場留置期間を変更しな
がらその変更の理由を明示しなかつたのは、判決に理由を附しない違法がある、と
主張する。しかし、右の変更が違法であることは(一)に述べた通りであるから、
結局この点は問題にならないが、元来労役場留置の理由の判示は法律の要求すると
ころでない。
 (三)論旨第三点は、「刑事訴訟法の応急的措置に関する法律は昭和二三年七月
一五日から其の効力を失つて居り、本件は昭和二三年九月六日起訴に係る事件であ
るから」という前提で、量刑不当の主張をするのであるが、刑訴応急措置法は昭和
二三年七月六日法律第一〇二号により同年末まで効力があることになつたのである
から、同年中に起訴された本件については、量刑不当の主張は上告の適法な理由に
ならない。
 (四)かくして原判決は前記(一)の論旨を理由ありとして破毀をまぬかれない
が、(二)(三)の論旨は理由なく、かつ審理は充分に尽されていると認めるから、
換刑処分の点を第一審判決程度に変更して、当審において自判するのを適当とする。
たゞし換刑処分の表示は、第一審判決のごとく全期間であらわすよりも、原審のご
とく「何円を一日に換算した期間」と表示するを適当と考える。
 よつて、旧刑訴法第四四七条第四四八条に従い、原判決を破毀した上更に本件に
ついて自ら判決することとし、原判決の確定した事実に対して法令を適用すると、
被告人の原判示第一の(一)(イ)及び(ロ)の各所為中米麦生産者からその生産
にかゝる小麦を買受けた点はいずれも食糧管理法(昭和二四年法律第二一八号によ
る改正前)第三一条第九条同法施行令第六条(同年政令第三八〇号による改正前)
(なお共謀の点については刑法第六〇条を適用する。以下同じ。)に、統制額を超
えた価格で小麦を買受けた点及び原判示第一の(二)の各所為はいずれも物価統制
令(同年政令第三六号による改正前)第三三条本文第一号第三条第四条同二二年一
二月一〇日物価庁告示第一、一〇九号同年九月二三日同庁告示第七〇九号に、原判
示第二の(一)の各所為はいずれも同令第三三条本文第一号第三条第四条同年一一
月一日同庁告示第九六二号に、原判示第二の(二)の各所為はいずれも同令第三三
条本文第一号第三条第四条同二三年七月一一日同庁告示第四六四号にそれぞれ該当
するとところ、右第一の(一)(イ)及び(ロ)の各所為中、米麦生産者からその
生産にかかる小麦を買受けた点と統制額を超えた価格で小麦を買受けた点とはそれ
ぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、各刑法第五四条第一項前段
第一〇条により重い後者の罪の刑に従い、なお各罪につき物価統制令第三六条を適
用して懲役及び罰金を併科することとし、以上は刑法第四五条前段の併合罪である
から、懲役刑については同法第四七条本文第一〇条により犯情が最も重いと認めら
れる右第一(一)の(イ)の物価統制令違反罪につき定めた刑に法定の加重を為し
た刑期の範囲内で、また罰金刑については同法第四八条第二項により各罪につき定
めた罰金(食糧管理法第三一条物価統制令第三三条の罰金額の寡額については、本
件犯罪後昭和二三年法律第二五一号罰金等臨時措置法が施行され、その変更があつ
たので刑法第六条第一〇条によりいずれも新旧両法比照の上結局軽い行為時法の罰
金額によることとなる)の合算額以下で被告人を懲役四月及び罰金弐万円に処し、
なお同法第一八条を適用して被告人が右罰金を完納することができないときは金弐
百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、主文の通り判決す
る。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
 検察官 茂見義勝関与
  昭和二五年四月二五日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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