弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
一 被告は、「東日本旅客鉄道株式会社」の商号を使用してはならない。
二 被告は、その設立登記中の、「東日本旅客鉄道株式会社」の商号の抹消登記手
続をせよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七号。以下、「改革法」と
いう。)並びに旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六
一年法律第八八号。以下、「旅客会社法」という。)に基づき、昭和六二年四月一
日に成立し、主として従前日本国有鉄道(以下、「国鉄」という。)が経営してい
た東北及び関東地方における旅客鉄道事業等を引き継いだ株式会社である。
2 被告は、昭和六一年一〇月七日、「東日本旅客鉄道株式会社」の商号をもつ
て、東京法務局において設立登記をした株式会社である。
3「東日本旅客鉄道株式会社」なる商号(以下、「本件商号」という。)は、旅客
会社法二条により、原告以外の者の使用が禁止されており、これに違反した者は、
同法二一条により過料に処せられる。
 もつとも、昭和六一年一二月四日の同法施行時において、現にその商号中に本件
商号を使用している者については、同法附則一三条により、経過措置として同法施
行後六か月間は同法二条の適用が猶予されるが、右期間は昭和六二年六月四日をも
つてすでに経過している。したがつて、被告についても、右猶予期間経過後の昭和
六二年六月五日以降、本件商号の使用が禁止されることになる。
4 よつて、原告は、被告に対し、同法二条及び同法附則一三条に基づき、本件商
号の使用差止め並びに被告の設立登記中の、「東日本旅客鉄道株式会社」の商号の
抹消登記手続をそれぞれ求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1及び2はすべて認める。
2 同3のうち、旅客会社法二条により、
原告以外の者が本件商号を使用することが禁止されており、これに違反した者は、
同法二一条により過料に処せられること、昭和六一年一二月四日の同法施行時にお
いて、現にその商号中に本件商号を使用している者については、同法附則一三条に
より、経過措置として同法施行後六か月間は同法二条の適用が猶予されているこ
と、右猶予期間がすでに経過していることは認め、その余は争う。
三 被告の主張
1(一) 商号は、法律上は特定の営業につき特定の商人を表す名称であり、社会
的には当該営業の同一性を表示し、その信用の標的となる機能を営むものである。
また、商号権の内容は、いつたん他人が登記した商号は、同市町村内において同一
の営業のためにこれを登記することができないという点に中核的要素がある。した
がつて、商号権の性質は、財産権にほかならない。これは、商法二〇条、二一条、
二四条、不正競争防止法一条に照らし明らかである。
(二) 被告は、東京都千代田区において、本件商号をもつて、昭和六一年一〇月
七日設立登記された株式会社である。したがつて、被告は、少なくとも東京都千代
田区内においては本件商号について商号権を有している。
(三) 憲法二九条一項は、「財産権はこれを侵してはならない」と規定してお
り、公権力が公共的理由に基づいてする場合であつても、財産権を侵害することは
許されない。原告が本件請求の根拠としてあげる旅客会社法(二条、二一条、同法
附則一三条)は、昭和六一年一二月四日に公布施行されたものであるにもかかわら
ず、商法によつて保障された商号権(その性質は前記のとおり財産権である)を事
後において変更消滅させようというものであるから、憲法二九条一項に違反し、更
に憲法三九条にも違反する。したがつて、旅客会社法は無効であり原告の請求は理
由がない。
(四) 原告は、日本たばこ産業株式会社や、日本航空株式会社等の例をあげる
が、これらの場合は、たまたま類似商号を用いていた会社が存在しなかつたため、
問題が起きなかつただけである。現に、政府は、原告の商号を決定する際、「西日
本鉄道株式会社」なる既存法人の類似商号にならないよう配慮している。
2 旅客会社法二条は、単なる取締規定であり、原告に本件商号の使用差止請求権
や、本件商号の抹消登記手続請求権を付与するものではない。したがつて、同条に
基づく原告の請求は理由がない。
3 原告は、「被告が、本件商号登記申請当時、すでにこれが国鉄の分割・民営化
にともなつて設立される新企業体の商号として予定されており、その商号登記が原
告の設立とともに許されなくなることを熟知しながらあえて登記申請したものであ
り、被告は既得権なるものを正当に主張することができない。」と主張するが、こ
れは、原告の旅客会社法に基づく請求とは何ら関係のない事情である。
四 被告の主張に対する原告の反論
1 憲法二九条において保障される財産権の内容は、同条二項において「公共の福
祉に適合するやうに、法律でこれを定める」とされている。
2 原告は、公共企業体たる国鉄により全国一元的経営体制の下において運営され
てきた鉄道事業をより効率的に運営するという国家的要請に対応するため、改革法
等関係法令に基づき、全国を六地域に分割して設立された新企業体の一つたる旅客
鉄道株式会社であつて、その公共的性格は否定すべくもないが、その商号について
も、その実態に即し、かつ各地域において設立された同種の新企業体との間におい
て整合性を有するように配慮されているのであつて、これと同一の商号の存在を認
めるにおいては公共の利益が害されるべきことを考慮し、旅客会社法二条により、
原告以外の者に対し、「東日本旅客鉄道株式会社」なる文字をその商号中に使用す
ることが制限されているのである。そして、このような例は、原告の商号のみなら
ず、日本たばこ産業株式会社法四条、同法附則一四条や、日本航空株式会社法一五
条、同法附則一九条等により、日本たばこ産業株式会社、日本航空株式会社等の公
共的性格を有する事業を営む法人の商号についても認められている。このように、
公共的性格を有する法人の商号について法律により独占的使用を認めることは、憲
法二九条の許容するところであり、同規定に違反するものではない。
3 被告は、本件商号登記が旅客会社法の公布施行以前に了されている点を指摘す
るが、憲法二九条二項に基づく財産権の制限が既存の権利に及びうることは、判例
学説の認めるところである。更に本件においては、被告は、本件商号登記申請当
時、すでにこれが国鉄の分割・民営化にともなつて設立される新企業体の商号とし
て予定されており、その商号登記が原告の設立とともに許されなくなることを熟知
しながらあえて登記申請したものであり、被告は、既得権なるものを正当に主張す
ることはできない。
4 以上要するに、本件請求の基礎となる旅客会社法二条等の諸規定が合憲有効で
あることは明らかである。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 請求の原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、同3のうち、旅客会社法二
条により、原告以外の者が本件商号を使用することが禁止されており、これに違反
した者は、同法二一条により過料に処せられること、昭和六一年一二月四日の同法
施行時において、現にその商号中に本件商号を使用している者については、同法附
則一三条により、経過措置として同法施行後六か月間は同法二条の適用が猶予され
ていること。右猶予期間が昭和六二年六月四日をもつてすでに経過していることは
明らかである。
 また、同法二条及び同法附則一三条の規定を合わせ考えると、右規定上は、昭和
六一年一二月四日の同法施行時において現にその商号中に本件商号を使用している
者についても、同法附則一三条による猶予期間(同法施行後六か月間)の経過後
は、本件商号の使用を禁止されることになると解される。
二 被告は、旅客会社法二条等が、憲法二九条、三九条に違反し、無効であると主
張するので、この点について判断する。
1(一) 憲法二九条一項は、「財産権は、これを侵してはならない」と規定して
私有財産制を制度的に保障するとともに、同条二項において、「財産権の内容は、
公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める」と規定し、財産権の内容が公
共の福祉の要請により法律で制限されることがあることを認めている。そして、法
律でいつたん定められた財産権の内容を事後の法律で変更しても、それが公共の福
祉に適合するものである限り、これをもつて違憲の立法ということはできないとい
うべきである(最高裁判所昭和五三年七月一二日判決・民集三二巻五号九四六
頁)。
(二) 成立に争いのない甲第一号証によると、原告は、「日本国有鉄道による鉄
道事業その他の事業について、現行の公共企業体による全国一元的経営体制の下に
おいてはその事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となつている事態に
対処して、新たな経営体制の下において我が国の基幹的輸送機関として果たすべき
機能を効率的に発揮させること……に即応した効率的な経営体制を確立するための
日本国有鉄道の経営形態の抜本的な改革」を目的とし、「日本国有鉄道が経営して
いる旅客鉄道事業について、……適正な経営規模の下において効率的な輸送が提供
されるようその事業の経営を分割するとともに、その事業が明確な経営責任の下に
自主的に運営されるよう経営組織を株式会社とすることとし」て、他の五社ととも
に設立された株式会社である(改革法一条、六条)ことが認められる。右事実によ
ると、原告の存在ないしその設立目的には強い公共性があるというべきところ、原
告以外の者が本件商号を用いて鉄道事業を営めば、原告との誤認混同が生じ、原告
の事業の遂行、ひいては公益を阻害する事態が発生することも推認するに難くない
から、他の者が本件商号を使用することを制限することには十分な合理性があり、
旅客会社法二条が本件商号の使用を制限していることも、公共の福祉の観点からみ
て、これを是認することができる。
 また、旅客会社法二条により、被告は、いつたん取得した登記商号を失うことに
なり、同法の制限により特別な犠牲を被ることになるが、仮に被告の登記商号が法
律上正当なものであるとすれば、憲法二九条三項により損失補償を受ける余地がな
いわけではない(最高裁判所昭和四三年一一月二七日判決・刑集二二巻一二号一四
〇二頁)。のみならず、成立に争いのない甲第四号証、第六号証の一ないし六によ
ると、旅客会社法の立法に当たつては、新たに成立する予定の六社の商号と既存の
会社の商号とが同一又は類似にならないよう調査をし、右立法によつて第三者が不
測の損害を被ることがないように配慮していること、また、原告の商号が決定し、
これが新聞等で公にされたのは昭和六一年二月二一日であり、一方、被告が本件商
号登記をしたのは、右法律案が国会で審議されていた昭和六一年一〇月七日であつ
て、被告は、右登記申請当時、右法律が成立し、施行されると、本件商号の使用を
禁止されるに至ることを十分認識していたことが認められ、したがつて、被告の登
記商号が法律上保護に値するものであるか否かは、甚だ疑問である。
(三) 以上の点を合わせ考えると、旅客会社法二条の規定自体若しくはその本件
への適用が憲法二九条に違反するとは到底いえない。
2 被告は、旅客会社法二条が憲法三九条にも違反すると主張するが、憲法三九条
の規定は刑事処罰に関するものであり、これが本件のような財産権の制限の場合に
直接適用されることはないので、この点での被告の主張は理由がない。
3 そうすると、旅客会社法二条、したがつてまた、同法二一条、同法附則一三条
は、憲法二九条、三九条に違反せず、有効であると認められる。
三 被告は、旅客会社法二条は単なる取締規定であり、原告に商号の使用差止め請
求権又は商号の抹消登記手続請求権を付与したものではない旨主張する。
 しかしながら、同条項は原告以外の第三者に対し、商号中に「東日本旅客鉄道株
式会社」なる文字を使用してはならないとの不作為を命じているばかりでなく、
「東日本旅客鉄道株式会社」なる文字を使用した商号が誤つて登記され、あるい
は、昭和六一年一二月四日の同法施行時において、現にその商号中に本件商号を使
用している者が、同法附則一三条による猶予期間を経過した昭和六二年六月五日以
降においてもその使用を継続している場合には、これに最も大きな利害関係を有す
る原告に、その商号の使用差止め又は商号の抹消登記手続を請求する権利を付与し
た規定であると解すべきである。
五 以上のとおりであつて、被告の主張はいずれも失当であり、原告の請求はすべ
て理由がある。
 よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し
て、主文のとおり判決する。
(裁判官 安倉孝弘 小林正 若林辰繁)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛