弁護士法人ITJ法律事務所

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平成20年7月16日宣告
平成18年(わ)第1421号,第1532号,第1634号,平成19年(わ)
第86号,第503号
主文
被告人を懲役11年及び罰金300万円に処する。
未決勾留日数中440日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期
間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1Aらとともに,被告人をリーダーとし,その指揮命令に基づき,A,B,C
及びDらが携帯電話等の入手,電話等による欺罔行為及び金員の振込要求を,
E,F,G,Hらが預金口座からの払戻しを,Iらが詐取金の管理をするなど
の任務の分担をあらかじめ定めた組織により,反復して,不特定多数人から,
親族が保証債務等の返済に追われているかのように装って金員を詐取すること
により利益を図ることを共同の目的とする団体を形成していたものであるが,
上記団体の活動として,上記組織により,別表1(以下,別表省略)記載のと
おり,A,B,J,I及びEらと共謀の上,平成17年7月14日から平成1
8年5月17日までの間,47回にわたり,兵庫県内等において,東京都a市
b町c番地K方にいた同人及びその妻Lほか30名に対し,いずれも電話で,
同人らの息子や金融会社の担当者になりすまし,緊急に息子の保証債務等の返
済資金が必要であるなどとうその事実を言い,同人らをして,その旨誤信させ,
よって,被告人らが管理する他人名義の普通預金口座に現金合計1億1677
万6270円を入金させ,もって,団体の活動として,詐欺の罪に当たる行為
を実行するための組織により人を欺いて財物を交付させた,
第2財産上不法な利益を得る目的で犯した上記組織による詐欺の犯罪行為により
得た現金の帰属を仮装しようと企て,別表2記載のとおり,A,B及びEらと
共謀の上,平成17年7月14日から平成18年5月17日までの間,Kら多
数人に対し,その親族が保証人となった債務等の返済資金が緊急に必要である
などとうその事実を言って,上記Kら多数人をして,被告人らが管理する他人
名義の普通預金口座42口座に詐取金合計1億1677万6270円を振込送
金させて,同口座に預け入れ,もって,犯罪収益の取得につき事実を仮装した
ものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1弁護人は,被告人が振り込め詐欺グループの詐欺に加担し,詐取金を取得して
いたことは間違いないが,(1)①そのグループは,単なる友人の集まりに過ぎず,
組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」
という。)に規定する「団体」とはいえず,被告人は,同グループ員を指揮命令し
たことはなく,リーダーではなかった,②本件振り込め詐欺は,同法にいう「団
体の意思決定に基づくもの」ではなかったし,利益が団体に帰属していたものと
もいえないため,被告人は,組織的犯罪処罰法3条1項9号に規定する組織的詐
欺の罪責を負わない,(2)判示第1別表1番号6ないし47の各犯行における被告
人とD及びJとの間には,共犯関係はない旨主張するので,以下検討する。
2関係各証拠により,比較的容易に認定できる事実は,以下のとおりである。
(1)本件各犯行に至るまでの経緯
ア被告人は,A,C,J及びDとは小,中学校からの友人であったり,アル
バイト先で知り合うなどして,互いに友達となって,一緒に飲食をしたり,
遊興したりしていた。
イ被告人は,平成14,15年ころ,東京でヤミ金の店長として働いていた際,
その下にAが番頭を,C及びIが店員をしていたが,他方,Bも平成12年
ころから平成15年ころまで被告人とは別のヤミ金の店で店長として働いて
いたことがあり,地元千葉の知り合いであったIを通して,被告人と顔を合
わせたこともあった。また,被告人は,Eとも,同人が富裕者層の名前,住
所等が記載された名簿を売却するいわゆる名簿屋をしていた関係で顔見知り
であった。
ウところで,被告人は,平成17年4月ころ,Bから,Iを介して,1台で
色々な電話番号を使って発信できる機能を持っているので振り込め詐欺に都
合のよい携帯電話機があり,自分もこれで振り込め詐欺をして儲けていると
の売り込みを受け,それを信用してBに対しその電話機2台分の代金100
万円を支払ったものの,同人が同電話機を用意できず,上記100万円も全
額を返還できなかったため,同人を呼び出し,被った損害と迷惑料を含めて,
1500万円の借用書を無理やり書かせ,結局,同人はすぐに返済できるあ
てもなかったことから,振り込め詐欺をして返済することになった。
そして,被告人は,同じころ,名簿屋をしていたEを呼び出し,「ちょっ
と今回いろいろ頼みたいことがある。俺を助けてくれ。」などと頼み,被告
人が振り込め詐欺をしようとしているのではないかと感づいたEから,「名
簿と口座はそろいますし,出し子もいないこともありませんから。着物の名
簿だったらありますよ。」と言われたので,「うちの弟がおれおれで捕まっ
た。賠償金がいるんだ。被害者と示談しなきゃいけない。賠償金が1億円に
もなったら俺が弟に諦めえって言うしかないけど。」などと話をし,その後,
Eに,神戸に名簿を持ってきてもらったり,振り込まれた詐取金を引き出す
いわゆる出し子を紹介したりしてもらうようになった。
エBは,同年5月18日,被告人から言われたとおり,車に乗って神戸に来
て,被告人,A,Jらと食事をしながら話し合った結果,翌日から,Bの車
にAとBが乗り込んで,振り込め詐欺を始めることになった。そして,予定
どおり,その日から振り込め詐欺を始めたが,Aは最初はBを監視するだけ
の予定であったものの,そのうち,自分も振り込め詐欺の電話をするように
なっていった。
その振り込め詐欺等の方法は,当初,車に乗った実行犯役が金持ちの名前や
住所,電話番号等の記載された富裕層退職者名簿等を元に,手当たり次第に
電話をかけて,電話の相手の親族がローンを組んだものの払えなくなったの
で代わりに金員を振り込んで欲しいなどと嘘を言って,指定の口座に金員を
振り込ませるとともに,相手が騙されたと気づく前に金員を引き出すため,
振り込んだらすぐに電話をするように伝えておき,その電話があるとすぐに
待機していた出し子に口座から現金を引き出させ,実行犯役が手配したバイ
ク便にその現金を運ばせるというものであり,電話をかけた相手が騙された
場合には,電話をかけている実行犯役とは別の実行犯役が出し子に連絡した
り,バイク便を手配したりするなど,1人の相手を騙して金員を詐取するま
での間に,実行犯役が互いに協力し合っていた。
(2)平成17年4月ころから同年7月ころまでの各犯行(判示第1別表1番号1
ないし4)について
ア振り込め詐欺を始めるに当たって必要な携帯電話機,名簿や口座等のうち,
携帯電話機については,最初は,Bが準備して神戸に持参してきたものを使
っていたが,その後は,被告人が,Aを介するなどして,EかIにレンタル
の携帯電話機を買わせたりし,口座と名簿等は,Eに手配を指示して用意さ
せていた。
そして,Aは,被告人から,必要経費として,1回当たり5万円から10
万円の経費を受け取り,その中から,毎日Bにホテル代として5000円を
渡していたほか,携帯電話の通話料金を支払っており,経費がなくなると,
被告人に頼んでもらっていた。
出し子については,当初は,上記のとおり,Eが手配した人物にやらせて
いたが,そのうちの1人が引き出した現金を持ったまま行方不明になってし
まったため,これに怒った被告人が関東にいたEを神戸のホテルまで呼び出
し,同人に対し,「お前この話つかなかったら,六甲の山ん中でもどこでも
連れて行くぞ。お前が紹介した出し子なんだから,お前が責任を取って払う
べきなんじゃないのか。150万作れよ。月曜日までに150万円を払わな
ければ神戸から帰さないぞ。ここで約束せえ。」などときつく要求をし,そ
の場にいたJも,「あんたにもいろいろ言い分があると思うけど,あんたが
責任とらなきゃいけねえ話だよ。」などと脅し,短時間に150万円全額を
用意できないEをして,嫌々ながらも出し子になることを承諾させ,以後,
同人に出し子をやらせることになり,同人は同年7月19日に逮捕されるま
での間,出し子をしていた。
ところで,出し子となったEは,上記のとおり,被害者が振り込んだ口座
から現金を引き出すと,その現金の中から,出し子の報酬(引き出し金額の
5パーセント)を抜いた上,同年5月30日ころから同年6月9日ころまで
は被告人にその金員を直接手渡していたが,一方,被告人は,同月上旬ころ,
Iに対し,「出し子が下ろしたお金を受け取って預かってくれへんか。6月
の末ころまででいいから。何とか頼むわ。」と電話連絡し,その後,同月9
日,同人を東京のホテルに呼び出し,「I,鷹匠のMを知ってるやろ。Mが
出し子をしてるから,これからMからお金を受け取ってくれ。」などと頼み,
携帯電話機をEとIにそれぞれ渡して,その携帯電話機で互いに連絡を取り
合い,バイク便を使ってEからIに送金するように指示し,同人に詐取金の
運び役及びトバシの携帯電話機の入手役をさせることになり,Eが引き出し
た詐取金をバイク便でIに送り,同人が,1週間か10日毎に,東京や神戸
で,被告人やAに約1000万円ないし約2000万円を手渡すことになっ
た。その後,Iは,被告人らに詐取金を合計四,五回手渡し,その都度,報
酬として10万円を受け取っていたが,Aは,毎日,夜,Iに対し,当日の
詐取金額を確かめ,間違いなく同人のところに現金が届いているかを確認し,
それを被告人にも報告していた。
欺罔文言については,上記のとおり,初めは,電話の相手の親族がローン
を組んだものの払えなくなったという設定で騙そうとしたが,うまくいかず,
その後,試行錯誤の結果,相手の親族がその友人の連帯保証人になり,友人
がいなくなったため自分が払わなければならなくなったという設定で電話を
かけて騙したところ,多額の振り込みに成功したので,以降,その方法を採
るようになった。
イ被告人らに届けられた詐取金の中から,同年6月下旬ころ,被告人は,A
に,監視役及び実行役として給料200万円を,Bに,実行役として100
万円の給料をそれぞれ渡した。
ウところで,同年春ころ,Jは,東京での生活に精神的に疲れて神戸に戻っ
て実家で生活していたが,先に神戸に帰っていた被告人らと一緒に食事をし
ていた時,それまで知らなかったBがいたことがあり,同人が被告人らと振
り込め詐欺の話をしていたことなどから,Bが神戸に来たのは,振り込め詐
欺をするためであると分かったが,同人らの羽振りが良かったため,うらや
ましく,自分も金もうけをしたくなり,振り込め詐欺の仲間に入ることにな
った。
エそのころ,Bの乗ってきていた車が手狭で蒸し暑く,2人で騙しの電話を
かけていると,一方の電話の声が他方の電話の相手方に聞こえるような状態
であったことなどから,車のオークションで黒色のエルグランドを約100
万円で購入し,その代金は一旦はAが立て替え,その後,被告人が管理して
いたこれまでの詐取金から代金を支払い,それからは,同車両で振り込め詐
欺をするようになり,Jも,同年7月11日から,同車両に同乗して騙しの
電話をすることになった。
オしかし,Jは,用意されていた名簿を見て,何回か騙しの電話をかけたもの
の,「もしもし。」などと言えるぐらいで,会話が続かない状態であったの
で,実際に金員を騙し取れたことはなく,結局,実行犯役はやめ,車内で一
緒に行動し始めてから一,二日後からは,自動車の運転手役をしたり,出し
子に,どの口座にいくら振り込まれたので引き出すようにとの指示をしたり
していた。
カそのうち,当時出し子をしていたEと急に連絡が取れなくなったので,A
がすぐに被告人に電話をかけると,被告人から,「とりあえず,明日の朝,
JとBと3人で家まで来てくれ。」と言われ,そのとおり,翌日の同月20
日朝,当時の被告人の自宅付近で被告人らと落ち合い,被告人,A,B及び
Jの4人が喫茶店に集まって話し合った結果,被告人が,「とにかくMのお
っさんが捕まったかどうかは今すぐには分からんから,当分の間は様子を見
てみようか。」と言うなどしたことから,しばらく様子を見ることとなり,
振り込め詐欺を中断することとなった。そして,同日,Iが保管している現
金を全部持って来させることにして,同人に大阪まで現金を持参させたが,
その際,警察の尾行等を警戒して,主にJが電話でIと連絡を取り,大阪市
内を移動させ,路地裏で車に乗せて,Aが自分の所持金から10万円くらい
をIに報酬として渡し,Iが運んできた現金2000万円を受け取ると,A
とJとで,被告人の家に行った。被告人方では,被告人が,その2000万
円の中から,Aに1000万円を,Jに500万円をそれぞれ手渡し,その
後,車の中で,Bにも,被告人自身の所持金から足りない分を補った上で5
00万円を手渡した上,上記1500万円の借用書も「これ,お前に返すか
らな,お前の借金はチャラにしてやるからな。」などと言って返した。しか
し,次の日,被告人は,Bを神戸の喫茶店に呼び出し,1週間北海道に行っ
て,そこの者に振り込め詐欺を指導するように指示をし,そのことを同人に
しぶしぶ承諾させ,同年7月下旬ころ,同人を北海道に行かせ,約2週間振
り込め詐欺の指導をさせたが,うまくいかなかった。
(3)平成17年8月ころ以降の各犯行(判示第1別表1番号5以降)について
アAは,上記の経緯で,振り込め詐欺を一時中断していたものの,判示第1
別表1番号1ないし4の各犯行により得た利益も遊興費等に使い,所持金が
底をついてきたことから,被告人に相談して,振り込め詐欺を再開すること
にし,まず,関東に帰っているBに連絡して,同人に同年8月下旬ころまで
振り込め詐欺をするのを承諾させて神戸に戻らせた。また,Cは,Aの羽振
りの良さを見て,同年7月か8月ころ,同人に自分も振り込め詐欺をやりた
いと頼んだところ,同人から,自分1人では決められず,被告人に話をしな
いといけないと言われたため,その後,Aと一緒に被告人と会い,被告人に
も頼み込むと,被告人は,初めはCを実行犯役に加えることを渋ったものの,
最終的には了解し,Cの見つけてきた人物に出し子をやらせることにして,
A,B及びCを実行犯役として振り込め詐欺を再開した。
Aは,振り込め詐欺をするにあたって必要な携帯電話機について,判示第
1別表1番号1ないし4の各犯行時に携帯電話機を手配していたIから聞い
ていたレンタル電話の販売業者に電話をかけて用意をし,口座及び名簿等に
ついては,インターネットで見つけた口座屋・名簿屋から購入するなどした
上,A,Cらの実行犯役が判示第1別表1番号1ないし4の各犯行を行った
黒色のエルグランドを使用して,その中で欺罔の電話をかけることとした。
電話を相手方にかけてから詐取金を受け取るまでのシステムや欺罔文言,
実行犯役が互いに協力し合い,バイク便の手配や出し子への指示等を手分け
して行っていたことなどについては,判示第1別表1番号1ないし4の各犯
行当時とほぼ同様であった。
振り込め詐欺再開後,携帯電話機,口座及び名簿等は,新しい物が必要に
なる都度,実行犯役のうち手の空いた者が業者に電話をして入手していた。
もっとも,口座については,被告人が用意してくることもあり,1口座8万
円ということで,1口座使うたびに8万円を車の中にあった封筒の中に入れ,
後でまとめて被告人に渡したこともあった。
イ一方,Jは,被告人が,携帯電話機販売等を目的とする株式会社Nを設立
するにあたり,役員として働くことになり,同年9月1日,設立登記まで漕
ぎ着け,代表取締役に被告人の兄,取締役に被告人,Jらが就任したが,利
益が上がらなかったため,従業員には給料が支払われていたものの,Jに役
員報酬が支払われることはなかったので,時間が経つにつれ,同人は同社を
やめることを考えるようになっていた。
ウところで,振り込め詐欺におけるAとCの詐取金は,Dがグループに入っ
た同年12月5日ころまでの間は,当初,Cの分(Bが参加しているときは
Bの分も)も含めてAがすべてを預かって保管し,多くの場合,10日ごと
に,Aが被告人の下に現金を持って行き,被告人が経費を除いた純利益をA
及びCと3等分になるように分けていたが,このような分配方法とすること
は被告人が決めた。もっとも,Bの報酬については,被告人が持ち金の中か
ら支払っていた。そのうち,Cの詐取金がAの詐取金に比べて少ないのに取
り分を合わせて3等分していることにつき,Aが不満を持ち,それを被告人
に打ち明け,分配方法を変えるように頼んだため,被告人もその頼みを聞き
入れた結果,A及びCの詐取金合計から携帯電話機の購入代金や通話料,自
動車購入代金等の経費を差し引いた残りの純利益を,A又はCと被告人の2
人でそれぞれ折半するという方法に変えることになり,AとCは,多くの場
合,1週間から10日,あるいは1か月ごとに詐取金をまとめて被告人のと
ころに持って行き,目の前で,被告人と折半していた。
エところで,平成17年11月ころ,Jが,Dに,被告人,A及びCらが振
り込め詐欺で儲けているということを話すなどしているうち,2人で被告人
らの振り込め詐欺のグループに入れてもらい,その稼ぎを元手に2人で事業
をしようという話になり,被告人の了解も得た上,同年12月初めころ,東
京からDが神戸に来て,もともと友人であったAやCと共に振り込め詐欺の
実行犯役をするようになった。
そして,Dは,Jから,車内で騙しの電話をかけるという程度の話は聞い
ていたが,電話による欺罔行為をする際の細かいやりとりなどは,AやCか
ら教わりながら,だんだんと身につけていき,神戸市d区にある公園等で車
をとめ,同車の中で,同人らと同様に,親族が友人の連帯保証人となったと
いう設定で電話をし,相手方から金員を騙し取れそうな時には,以前と同様,
他の実行犯役が出し子に連絡をし,その口座の確認や出金の指示をしたり,
バイク便の手配をするなど,実行犯役どうしが互いに連携を組んで振り込め
詐欺を続けていた。
その間,Aは,毎日,実行犯役による詐取金額等をノートに記載していた
が,それを見ていたCも,平成18年4月ころ,自分の詐取金額や経費等に
ついてノートに記載するようになった。
オDの詐取金については,Jは,被告人から,JとDが2人で分け合っても
よいと言われていたことなどから,Dの詐欺が成功すると,電話で話す機会
に同人から報告を受けるなどし,出し子が現金を振込口座から引き出し,出
し子の報酬を引いた詐取金が,バイク便で出し子から実行犯役であるDの下
に運ばれてくると,同人はすべていったんJの家に持って行き,多くの場合
Dがその4分の1程度の金員を取得し,残りは,2人で事業をしようという
話をしていたので,Jが自分の家で保管するなどしていた。
Dが本件振り込め詐欺のグループに加入してから,詐欺に使用する携帯電
話機,口座及び名簿等は,当初は,既に使用していたものをDにも使用させ
ていたが,その後,これらの道具を買い換える際には,実行犯役の手の空い
た者が業者に電話をして3人分合計6台を注文して入手し,その費用は各自
の詐取金から支出していた。そして,Dは,自動車を買い換えた時等のよう
に多額の費用を要する場合には,Jに数十万円ほど必要であると申し入れて,
Jが管理していたDの詐取金の中からそれを出して貰い,その他,必要経費
等が足りない時は,Jから申し出るように言われており,実際,所持金が足
りないときは,同人に申し入れて,現金を受け取るなどしていた。
カ被告人は,平成17年12月ころ,黒色のエルグランドが旧型であったこ
となどから,Aに対し,新型車の購入を依頼して白色のエルグランドを購入
し,株式会社N名義で登録したが,Aら実行犯役はこの車両を借りて振り込
め詐欺を続けていた。その後,Aは,平成18年1月中旬ころ,いつまでも
被告人から借りた車両を使っていると,警察等に発覚したときに車両の名義
人にも捜査が及ぶのは都合が悪いと考え,実行犯役3人が話し合って実行犯
役でお金を出し合って車を買うことにし,1人30万円くらいずつ出し合い,
使用者名義人には,Aの知人になってもらって,白色のホンダステップワゴ
ンを買った。また,同年5月ころ,県外で騙しの電話をかけることになった
後,車も替えた方が警察に発覚しにくいし,名義人になっている知人にも迷
惑がかからないだろうなどと考え,新たに車を購入することにし,借金のカ
タに取り上げられた車であれば,名義人に気を遣うことはないと思い,Aが
50万円,CとDが40万円ずつ出し合って,白色のトヨタボクシーを購入
した。
キところが,同年4月ころになって,実行犯役であるAの使用電話に警察から
電話がかかってきたため,すぐに実行犯役3人で話したが,その最中,Aは,
被告人に電話をかけ,その意見を求めたところ,被告人から,「とりあえず
県外でやったらどうや。」などと言われたので,実行犯役は,被告人の提案
に従い,警察の目につかないように,車で県外に移動して県外から騙しの電
話をかけることになった。そして,Dは,Aらと別れた後,Jと会い,警察
から電話があったことと被告人に相談したことなどを話し,Jの意見を聞く
と,心配そうな様子で,「もし,AやCがやばいからやめようというならば,
やめる方向に話を持っていってくれ。」などと言われたが,とりあえず,被告
人から言われたように,県外から騙しの電話をかけることにして,ためしに
岡山に行くことになっていると伝えた。そして,その日の夜,実行犯役の3
人は,車で岡山に行き,翌朝から騙しの電話をかけて振り込め詐欺を実行し,
その日のうちに神戸に戻り,被告人と落ち合った後,車内で,被告人が「警察
が捜査しているみたいやけど,これからどうする。」などと実行犯役3人に意
見を求めると,A,C及びDともに,県外でやれば捕まらないのではないか
という意見を言ったため,県外に車で出て行き,振り込め詐欺を継続すると
いうことになった。このことは,Dが,Jにも伝えたが,同人も特に反対は
しなかった。それ以降,実行犯役は,車で高松,岡山,徳島,京都,名古屋
等に移動し,適当な場所に車をとめて騙しの電話をかけていた。
以上のとおりである。
3ところで,Aは,Jの公判において,証人として「Bが神戸に来た日,被告人,
J及びBとガストで会い,Bと僕の2人でやってくれみたいな感じは言われたか
もしれない。言ったのは被告人と思うがはっきり言えない。」「Oで,被告人や
Bらと話をしていた際,誘拐とか女を雇って痴漢を装ってとかいう話が出たが,
やめとこうという話になった。」「Eと連絡が取れなくなったので,被告人に相
談して取りあえず様子を見ようとした。」などと供述しており,検察官に対して
も,「被告人の指示で,Bが逃げないように見張り役としてBと行動をともにし
た。」「被告人が,私の方を指さしながら,Bに,「明日からこいつとやってな。」
などと言って,私と一緒におれおれ詐欺をするよう指示していた。」「Oでは,
被告人が,なぜ振り込め詐欺がうまくいかないのか,良い方法はないのかと言い,
痴漢や誘拐名目での詐欺について話をしたが,最終的には被告人から,いろいろ
考えてうまくやるよう言われて終わった。」「被告人は,しばらくおれおれ詐欺
を休止して様子を見るように指示した。」「被告人に指示されて,J,Bと3人
で,大阪でIと落ち合い,約2000万円を受け取った。」「おれおれ詐欺を再
開する際は,被告人は弟が捕まって被害者に対する示談金が必要であったことや,
当時被告人が作っていた会社の運営資金が必要であったことから,私と利害関係
が一致した。」「被告人からDが仲間に入ることを聞いたかもしれない。」「被
告人も加えて4人で話をした際,被告人は,「A,正味どう思う。怖いか。」な
どと聞き,私,C,Dが大丈夫と思うなどと答えたところ,被告人が「そしたら,
気い付けてやれよ。」などと言って,最終的に県外でおれおれ詐欺を続けること
になった。」などと供述しているところ,被告人の公判廷においては,被告人の
具体的な関与について曖昧な供述をしたり,証言を避ける態度が明らかで,中高
生のころからの友人である被告人の面前で証言するのに遠慮をしているのが垣間
見えるのに対し,Jの公判廷や検察官に対する上記各供述は,いずれも,被告人
との会話内容等について具体的である上,本件振り込め詐欺における被告人とA
との関係について,一貫し,かつ自然な内容となっていること,Jの公判廷では,
Jに対する遠慮はあるものの,被告人に対するそれはあまり見受けられないし,
検察官に対する供述は,自ら逮捕された後,弁護人を選任して納得できない調書
には署名を拒否し,長期間被告人の存在を隠してきた後,隠しきれなくなって供
述したものであることなどに照らすと,それらの各供述の信用性を肯認できると
考えられる。
また,Dは,検察官に対し,「Jは被告人と話をして,Jと私の2人も仲間に
入れてもらえることになっているように話しており,被告人がグループに人を入
れるかどうか決められる立場にあるということは,被告人がリーダー的な存在で
あるからだろうと思った。」「Aの携帯電話に被告人から電話がかかってくるこ
とがあり,Aは,その電話で「今日はおれが○○万円,Cが○○万円」などとそ
の日のおれおれ詐欺の成果を報告していた。」「Jに報告すると,同人は,私に,
「おれら2人だけ抜けるわけにはいかない。被告人に頼んで入れてもらったのだ
から,おれからは被告人に言いにくい。DからAらと話をして被告人に頼んで止
める方向にもっていってくれないか。」と言ってきた。」「平成18年1月ころ,
Jから「上がりの中から幾らか被告人に渡しておいた方がいいか。被告人に頼ん
で2人で仲間に入れさせてもらったから筋として当然かな。」と相談されたので,
「それは任せます。」と答えた。」「被告人が了解したことで私とJがおれおれ
詐欺に加わることができたし,報酬もJと私で分けることができた。」などと供
述しているところ,これらの供述は,逮捕当初,被告人やJの関与を秘匿し,そ
の後,両親と面会したり,被害者の状況を聞くなどしたりして,皆でやってしま
ったことなので,皆でちゃんと更生してやり直したいと思い,被告人やJの関与
についても供述するに至ったという供述経過,Jや被告人らとの会話内容につい
て,具体的に供述し,その内容は,他の共犯者らの供述とも符合していることな
どにかんがみると,信用できるものである。
4以上の事実に対し,被告人は,「弟の裁判費用等で金銭が必要であったという
ことはない。」「Bに振り込め詐欺をするよう指示したり,AにBを監視するよ
う指示したことはなく,各人は自ら振り込め詐欺をする,あるいは監視すると言
ってきた。」「Bから言われて必要な名簿等の道具を用意した。」「Eは自分か
ら出し子を担当すると言った。」「平成17年6月下旬あるいは7月初旬に,B
に借用書を返し,本件振り込め詐欺グループから離脱していた。平成17年7月
20日にIに詐取金を持参するよう指示したことはない。」「平成17年8月以
降,Bが関与していたことは知らない。」「平成17年12月ころ,Jから本件
振り込め詐欺に参加したい旨言われた際,これを拒否し,AとCが使用している
車の空きスペースを使いたいのであれば,AとCに聞いて欲しいと伝えただけで
ある。」などと,実行犯役に対する指示をしたことはないとの趣旨の供述をする
が,これらの供述は,上記のとおり,Bに対し実際の損害よりも極端に大きい額
の借用書を無理やり書かせており,そのことは,同人に多額の金員を手に入れる
何らかの違法な行為を行わせ,返済させることを目論んでいたと推察されること,
Eに対し,同人が紹介した出し子の不始末の責任を取るよう執ように迫まり,嫌
がるEに出し子をさせていること,被告人は,平成17年7月に入ってからも,
Iから詐取金を受け取ったり,犯行使用車両の購入資金を支出したり,Eと連絡
を取れなくなった際,振り込め詐欺を中断するかどうかの話し合いにも参加して
いること,Iに持参させた詐取金2000万円を誰にいくら渡すか自ら決めた上
その金額を実行犯役に分配したりもしていること,平成18年4月ころに警察か
ら実行犯役の携帯電話に電話がかかってきた時,今後の対応を決めるに際して,
被告人はDにも意見を求めていることなどと全く整合せず,信用性は乏しいとい
わざるを得ない。
5以上の事実を前提に,上記1のの点について検討する。
(1)組織的犯罪処罰法2条は「団体」の定義として,「共同の目的を有する多数
人の継続的結合体であって,その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部
が組織(指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員
が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われ
るものをいう」と規定しているところ,判示第1別表1番号1ないし4の各犯行
当時,被告人は,弟が振り込め詐欺で捕まり,その被害弁償金を用意する必要
があったことなどから,購入した携帯電話機の代金を使い込んだBを脅して,
振り込め詐欺でもやらないと被告人の取り立てから逃れられないと思わせて無
理やり実行犯役をさせた上,Eに頼んで,名簿や口座,出し子を用意させ,同
人の紹介した出し子が使い込みをしたとしてEを脅して出し子になることを了
解させたり,以前に被告人が店長をしていたヤミ金で従業員をしていたIが東
京に住んでいたことから,Eから詐取金を受け取って保管させ,神戸に住む被
告人に現金が確実に渡るようにしたりして,各人を振り込め詐欺グループに入
れ,実行犯役,出し子役,現金を運搬する役等を担当させるなどして同グルー
プを結成し,振り込め詐欺がうまくいくようにはっぱをかけるなどして,被告
人がリーダーとして,その指示の下,実行犯役,出し子,現金運搬役等の任務
分担に従って,遊興費等の金員を得るために,組織的に振り込め詐欺を繰り返
していたもので,判示第1別表1番号1ないし4の各犯行当時,同グループは
被告人をリーダーとする組織的犯罪処罰法上の「団体」であったことは明らか
である。
また,平成17年7月下旬ころ,同グループが活動を一時停止した後,被告
人が,Aと相談の上,振り込め詐欺を再開することになったところ,確かに,
その後の出し子の段取りや,携帯電話,名簿,口座の調達は,AやCらの実行
犯役らが行っており,被告人が具体的に指示したりすることはなかったとはい
え,
ア相手を騙すやり方から口座に振り込まれた金員を引き出して実行犯役の下
に持ってくる方法は,判示第1別表1番号1ないし4の各犯行当時と,判示
第1別表1番号5以降の各犯行当時とはほとんど変わっていなかったもので,
被告人の具体的な指示がなかったのも,これまでのやり方が確立していたこ
とから,被告人が幼なじみであり,かつヤミ金時代の従業員でもあったAら
を信頼して任せていたものと見られること,
イAは,逮捕される平成18年5月30日まで,毎日,実行犯役の詐取金額
や諸経費額について,ノートに記載し,電話でも被告人に詐取金額を口頭で
報告したりしていたのであって,被告人は,本件振り込め詐欺グループの活
動を経費等も含めて大体把握していたといえること,
ウ実行犯役の下に警察から電話がかかってきて,振り込め詐欺を続行するか
否かが問題になった時の対応など,現場にいるAだけでは判断しかねる事項
については,同人が必ず被告人に連絡して意見を求め,被告人を含めた話し
合いの機会を持ち,その場などで出された被告人の意見には,他の者がほと
んど従っていること,
エA,C及びDらの詐取金は,いずれも,分配方法を決める際,いずれも被
告人が関与しており,AとCの詐取金については,多くの場合,被告人の下
に全額が持って行かれ,その上で被告人がその3分の1あるいは半分をも取
得しておりBへの報酬支払いも被告人が行っていること,
以上の諸事実に照らすと,被告人は,本件振り込め詐欺グループの中で上位
にあり,被告人には,自らあるいはAを通して他の者に指示できる立場にあっ
たと認めることができ,判示第1別表1番号5ないし47の各犯行についても,
被告人がリーダーとして,その指揮命令に基いて行われたものであると評価で
き,やはり,同グループは組織的犯罪処罰法上の「団体」に該当すると認めら
れる。
(2)次に,本件振り込め詐欺が,組織的犯罪処罰法3条1項にいう「団体の活動
として」行われたものであるかを見るに,「団体の活動」とは,「団体の意思
決定に基づく行為であって,その効果又はこれによる利益が団体に帰属するも
のをいう。」と規定されている。
そこで,まず,「団体の意思決定に基づく行為」であるかについては判示第
1別表1番号1ないし4の各犯行は,振り込め詐欺計画に関わる被告人,A及
びBが集まり,どういう設定で欺罔すると,口座引き出し限度額に近い額を被
害者に振り込ませることができるのか話し合い,これをきっかけに実行犯役が
試行錯誤して,親族が連帯保証債務の返済に追われているという設定で欺罔す
るという一定の手口を確立し,その手口で詐欺行為を繰り返したというもので
あり,このような犯行態様等に照らすと,実行犯役が欺罔行為を行う架電先等
については,逐一組織的な決定はないものの,実行犯役の詐欺行為が団体の意
思決定によるものであるといえる。次に,判示第1別表1番号5以降の各犯行
についても,詐取金の中から経費を出し合って入手した名簿に掲載された者に
対して,上記手口により詐欺を行うことがグループ内での共通の了解事項にな
っているのであるから,実行犯役の各詐欺行為も団体の意思決定に基づくもの
であることは明らかである。
また,犯罪の利益の帰属についてみると,判示第1別表1番号1ないし4の
各犯行については,詐取金が,Eら出し子及びIらを通して,出し子の報酬等
を除いてすべてリーダーである被告人の下に集約され,その中から,被告人が,
実行犯役やIの報酬及び経費を支出していたのであって,実行犯役の詐欺行為
の利益が団体に帰属することは明らかである。次に,判示第1別表1番号5以
降の各犯行についても,A及びCの2名の実行犯役の各詐取金は最初のころは
被告人を入れて3等分されていたが,その後,Aの詐取金もCのそれも,被告
人とそれぞれ折半されていたのであり,いずれの時点でも,詐取金は各実行犯
によって被告人の下に持って行かれ,そこで上記の割合で分配されていたので
あるから,犯罪の収益は当初から実行犯役に帰属していたのではなく,いった
ん団体に帰属して,リーダーである被告人を通じて各実行犯役に報酬が支払わ
れていたと見ることができるのである。これに対して,Dの詐取金は,直接被
告人の下に届けられるということはなく,Jの下に持って行かれ,概ねその4
分の1程度をDが受け取り,残りはJが保管していたが,それは,被告人がD
の詐取金の分配についてはJとDに任せていたことによるものであると推察さ
れるのである(そのことは,Aらも,Dの詐取金が被告人の下に行っておらず,
DとJの2人で分配されているように感じていながらも,そのことにつき不満
を述べていなかったことからも裏付けられている。)。そもそも,Dの詐取金
も,同人の用意した口座に振り込まれたものであっても,その口座の通帳等は
本件振り込め詐欺グループの構成員である出し子が管理しており,その出し子
が自己の管理する口座に振り込まれた金員を引き出した後は自分の報酬の5パ
ーセント分を差し引いた残りをDの下に持って行っていることなどにかんがみ
ると,Dの詐取金は騙された相手から上記口座に振り込まれたことによって直
ちにDに帰属するのではなく,その時点では,その金員はいったんは本件振り
込め詐欺グループに帰属し,そこから出し子の報酬を差し引いた分がDの下に
持って行かれることによって同人及びJに帰属すると見ることもできるのであ
る。さらに,本件振り込め詐欺において実行犯役が使用する名簿及び口座,携
帯電話や実行犯役が同乗して欺罔行為を行う車両等の入手費用については,D
を含む各実行犯役の詐取金の中から経費として支出されており,これにより,
振り込め詐欺に必要な物が確保され,詐欺を続行できていたのであるから,少
なくとも犯罪収益の一部は団体に帰属し,その運営費用に使用されていたと認
められる。そして,犯罪の収益によって団体が維持されているのであれば,犯
罪の収益が団体のため蓄積されていなくても,犯罪による収益が組織的な犯罪
を助長する効果を持つことは明らかであり,犯罪の利益の一部だけが団体に帰
属し,大半は最終的には実行犯役やそれを指示しているリーダー等に帰属して
いても,「これにより利益が団体に帰属するもの」という要件を満たしている
と解すべきである。
したがって,判示第1の各犯行は,団体の活動として行われたものと認めら
れる。
(3)そうすると,被告人らのグループによる本件振り込め詐欺行為は,組織的犯
罪処罰法3条1項9号に規定する組織的詐欺に該当する。
6次に,上記1の(2)の点について検討する。
判示第1別表1番号6ないし47の各犯行につき,Dは,単に,詐欺使用車両
の空きスペースを利用して独自に詐欺を行っていたものではなく,①実行犯役と
なった当初は,Aらが用意した名簿や口座等を利用し,②その後は,振り込め詐
欺に必要な携帯電話等の道具の入手費用を,Dを含めた実行犯役が互いに経費と
して現金を出し合い,③Dを含めた各実行犯役は同じ車に同乗して各自が名簿に
記載された人物に電話をかけるなどして欺罔行為を行い,騙すことができそうな
人物が出てくると,他の実行犯役が電話をかけている実行犯役に協力し,バイク
便の手配や出し子への指示等を手分けして行っていたのであって,これらの事実
に照らすと,DとAら各実行犯役は,互いに共同正犯が成立するといえる。
次に,被告人は実行行為には関与していないが,
ア実行犯役の意見を聴取しながら,必要な指示・意見表明を行っていること,
イ一部の振込口座を用意していること,
ウA及びCとの関係で,自らは一部口座を用意することはあっても,詐欺自
体に直接関与していないのに,同人らの詐取金の3分の1,あるいは半分と
いった大金を取得していること,
これらの事実にかんがみると,被告人は,本件振り込め詐欺のグループを設立
したリーダーとして,被告人とAら実行犯役とも共同正犯の関係に立つものであ
る。
さらに,Jも,実行行為には関与していないが,
ア判示第1別表1番号1ないし4の各犯行に関与して,本件振り込め詐欺の
手法を知っていたJが,再び振り込め詐欺行為により金員を得ようと考えた
が,同人自身は実行犯役に向かないことから,友人のDを実行犯役にしよう
とし,同じく金員を得たいと考えていたものの以前に誘いを断り自分からは
一緒に振り込め詐欺をやらせてほしいと頼みづらいというDに代わって,被
告人に,DをAやCとともに振り込め詐欺の実行犯役にしたいと依頼して,
それを可能にしたこと,
イJは,Dが本件振り込め詐欺に実行犯役として参加するに際し,その手法
をある程度伝え,Dが参加後は,毎日,同人から振り込め詐欺による詐取金
等の報告を受け,同人の詐欺の状況を把握するとともに,同人から詐取金を
受け取り,その4分の1程度を同人に渡し,その残りを自宅で管理し,その
金員の一部をJの遊興や高級車を購入することなどにも費消するなどし,他
方,Dには振り込め詐欺に使う道具の入手等のために経費が必要になれば申
し出るように言っていたこと,
ウJは,平成18年4月ころに実行犯役の下に警察から電話がかかってきた
時,今後も振り込め詐欺を続けていくかどうかにつきDから意見を求められ,
後から本件振り込め詐欺グループに入れてもらったのに自分とDだけが抜け
るというのは言いにくいが,何とか皆で振り込め詐欺を止める方向にもって
いってほしいなどと,本件振り込め詐欺をやめるか否かについて,Dに自分
の意見を述べていること,
エ上記警察からの電話の後,被告人と実行犯役3人が話し合った結果,振り
込め詐欺を続行することになり,Dがその旨Jに報告すると,同人はそれに
反対することもなく,その結論に従い,その後も,Dの詐取金の分配を受け,
振り込め詐欺との関わりを絶っていないこと,
これらの事実にかんがみると,Jは,Dとの間で,判示第1別表1番号6な
いし47の各振り込め詐欺という犯罪を行うため,共同意思の下に一体となっ
て互いに他人の行為を利用し,各自の意思を相通じて実行に移すことを内容と
する謀議を遂げていたといえる。
したがって,被告人は,A及びC,次いで,D,Jと順次共謀したものと解
されるから,判示第1別表1番号6ないし47の各犯行について,これらの者
との間で共同正犯が成立するといえる。
7よって,上記弁護人の主張は,いずれも採用することはできず,被告人は,上
記(罪となるべき事実)記載のとおりの共犯者らとともに,組織的犯罪処罰法3
条1項9号に該当する組織的詐欺の罪責を負うものと判断した次第である。
(量刑の理由)
本件は,いわゆる振り込め詐欺を組織的に行って利益を図ることを目的とする団
体のリーダーであった被告人が,他の構成員らと共謀の上,多数回にわたって,同
団体の活動として,詐欺罪に当たる行為を実行するための組織により,平成17年
7月から平成18年5月までの間に47回にわたり,合計32人(うち2組は夫婦)
の相手方の息子等になりすまして電話をかけ,債務の返済資金等が必要であると告
げてその旨誤信させ,電話の相手方らから金員合計1億1677万6270円を組
織的に詐取し,その際,詐取にかかる犯罪収益の仮装をしたという組織的犯罪処罰
法違反の事案である。
被告人は,弟が振り込め詐欺で捕まったため,その被害弁償金を用意しようとし
たり,自らの遊興費等も得たりするために,本件各犯行に及んだもので,振り込め
詐欺の弁償金を振り込め詐欺をして用意することにしたなどという犯行に至る経緯
及び動機は,安易,かつ利欲的であって,酌量の余地はない。
本件団体は,リーダーの被告人を中心に,平成17年5月ころ設立され,一時中
断していたものの,平成18年5月までの間,詐欺の実行行為役,詐取金の引出役,
引き出した詐取金の保管役等の役割分担の下,顧客名簿等を元にして無差別に携帯
電話で被害者の息子等親族を名乗って電話をかけ,被害者の親族が債務を抱えて自
殺しかねない状況にあることを装うなどして言葉巧みに債務の返済資金が早急に必
要であると誤信させ,不正に入手した他人名義の銀行口座に金を振り込ませるとい
う手法で,組織的・職業的に詐欺を反復し,各被害者に対し百万円単位の現金の振
り込みを要求できる手口を練り,子を思う親心を利用し,1度騙された被害者に対
しては,更なる振り込みの要求する「かぶせ」という手法を採るなど,多額の現金
を騙し取る巧妙かつ狡猾な犯行でもあり,犯情は悪質である。
被害者らには,何らの落ち度もないにもかかわらず,少なくとも数百万円もの多
額の金額を騙し取られ,各被害者からの詐取金の合計額は1億円を超える極めて多
額なものである上,被害者らの多くは高齢であり,老後の蓄えを瞬く間に騙し取ら
れ,3日間で6回にわたって合計2000万円以上の被害にあい,心労等で体調を
崩して病死した者もいるなど,経済的被害だけではなく精神的被害も大きかったと
推察されるのであって,その処罰感情が厳しいのも当然である。
加えて,本件組織的詐欺に付随してなされた犯罪収益の仮装の点も,犯行発覚を
免れるために共犯者らを通じて第三者名義の預金口座を不正に入手するという手口
で行われた組織的で巧妙に計画された悪質なものである。
そして,被告人は,本件振り込め詐欺グループのリーダーとして関与し,本件各
犯行を主導しており,その利得額も数千万円を超える極めて多額なものである。し
かも,被告人らは,本件以外にも多数の振り込め詐欺を行い,それらにより億単位
の金を得ていることがうかがわれ,規範意識の希薄さは顕著である。さらに,この
種の犯罪が多発している現状においては,厳罰に処するべきであるとの一般予防の
見地も尊重せねばならない。
以上の事情に照らせば,被告人の刑事責任は重大である。
他方で,被告人は,詐欺行為を行ったことについては認めた上,被害者らに謝罪
の手紙を書いて送付するなど反省の態度も示していること,各被害者のうち2名は,
被害額のほぼ全額(約300万円と約200万円)の還付を受けている他,被告人
は,共犯者らとともに,上記被害者のうち1名を除くその余の各被害者に対し合計
約3300万円余りを各被害額で按分して被害弁償しており,それらの合計金額は
約3800万円余りとなっていること,実母が,被告人の社会復帰後の監督を約束
していること,被告人が既に長期間身柄拘束を受けていることなど,被告人のため
に酌むべき事情も認められる。
そこで,これらの事情も考慮して,主文の刑に処するのが相当であると考えた。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役15年及び罰金300万円)
平成20年8月18日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官東尾龍一
裁判官佐藤建
裁判官高橋浩美

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