弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士谷村唯一郎、同塚本重頼の上告理由第一点について。
 論旨は、地方自治法一四二条の「請負」の意味について、地方自治団体の土地建
物を占有し地方自治体のため事業を営むことを意味する旨を主張するのであるが、
所論は上告代理人等の独自の見解であり、原判決が許可を受けて砂利採取事業を行
う訴外D工業株式会社を地方自治法一四二条にいう「請負」をする法人に該当しな
いとしたのは正当であつて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決は訴外D工業株式会社が砂利採取許可を受けた日時を確定しない
違法があるというのである。
 河川法が昭和三三年一二月改正され、一七条の二が加えられたことは所論のとお
りであるが、右改正法の附則によれば、右改正前の一九条に基く命令による許可は
右一七条の二による許可とみなされるのであり、そして本訴の争点は、訴外Eが本
件選挙に当選した当時、同人が代表取締役であつたD工業株式会社が地方自治法一
四二条所定の法人にあたるかどうかであるから、当初の許可が右改正の以前であつ
ても右当選当時の法令によつて判断すべく、従つて、許可の日時は結果に影響はな
いのであつて論旨は理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、原判決が許可を受けてする砂利採取行為の性質について行政法上の特許
使用にあたると解したのを非難するのである。
 しかし、前述のように法律の改正によつて旧規定による許可は改正法一七条の二
による許可とみなされるのみならず、河川法上の砂利採取許可を所論のように禁止
の解除と解したからといつて、そのために、右会社が地方自治法一四二条所定の法
人であるとする論拠になるものではなく論旨は判決の結果に関係がないものといわ
なければならない。
 同第四点について。
 論旨は、原判決が砂利採取料を公物使用料と解したのを違法と主張するのである
が、砂利採取料の性質も本件当選決定の当時を標準として判断すべきであるのみな
らず、右採取料をかりに所論のように私法上の売払代金であると解しても、ために、
訴外会社が岐阜県またはその知事に対して請負をしているものということはできず、
所論は判決の結果に影響がないものといわなければならない。
 同第五点について。
 論旨は、原判決が本件砂利採取許可が岐阜県河川管理規則によつたものであると
したのを非難するのである。しかし、許可を受けて砂利を採取する行為の性質は法
律によつて定まつているのであつて、県令、規則の適用の当否は判決の結果に関係
がない。
 同第六点について。
 論旨は、原判決が、訴外会社が岐阜県から事務の委託を受けて砂利を採取してい
る旨の上告人の主張を斥けたのを非難するのである。
 しかし、砂利採取の許可は、前記河川法の改正前においても改正後においても、
採取しようとする者の出願に対して与えられるものであつて、河川を管理する行政
庁が管理の必要から委託する趣旨のものでないことは河川法の規定上からも明らか
である。具体的場合においては、管理上からも砂利採取を妥当とする場合もあるで
あろうが、かかる事実があつたからといつて、右許可に基く行為を請負に基く行為
ということはできない。論旨は理由がない。
 同第七点について。
 論旨は、原判決が、知事と砂利採取業者たる訴外会社の代表取締役とが同一人で
あつても、知事の処分が不公正になるおそれは少い旨を判示したのを非難するので
ある。
 知事が砂利採取業者たる営利法人の役員を兼ねることによつて全く弊害を生じな
いといい切れないことは所論のとおりであつて、この点に関する原判示は必ずしも
妥当ではない。しかしながら、地方自治法一四二条は、弊害のある私企業関与等を
全面的に禁止しているわけではなく、弊害の顕著な場合として、公共団体またはそ
の機関との請負関係を規定しているのである。従つて同条の規定に該当しない場合
には、長の私企業関与が弊害の可能性ありとしても、そのために、同条に該当する
ものとしその当選を失わしめることができないことは法律の関係条文上からも明白
である。前述のように、いかなる意味においても、訴外D工業株式会社が岐阜県ま
たはその機関に対し請負をするものといえない以上、同条所定の場合にあたらず、
訴外Eの当選を無効とすることはできないのである。論旨は結局理由がない。
 上告代理人弁護士大友要助の上告理由第一点について。
 論旨は、原判決は法令に違背する旨を主張するのであるが、要するに、訴外D工
業株式会社が地方自治法一四二条にいう請負をする法人にあたる旨を主張するに帰
する。しかし、この点に関する原判示が結局正当であることは、前記谷村、塚本両
代理人の上告理由に対する判断において説示するとおりであつて、論旨は到底採用
できない。
 同第二点について。
 論旨は、原判決が証人Fの証言を援用し公知の事実に反する事実を認定した違法
があるというのである。
 しかし、前記谷村、塚本両代理人上告理由第六点に対する判断で説明したように、
砂利採取許可による行為は、その性質上請負による行為とは解されないのであつて、
訴外D工業株式会社が許可を受けて砂利を採取している区域が、河川の掘さくを必
要とする区域であるとしても、訴外会社が知事の委託を受け請負による行為として
砂利を採取しているものとはいえないのである。所論の点は、原判決が不要の事実
を認定したに止まり、そして、原判決は結局本件の場合請負にあたらないとしてい
るのであるから、論旨は結局理由がないことに帰する。
 同第三点について。
 論旨は、原判決には経験則違反の認定があるというのであるが、要するに知事が
砂利採取会社の役員を兼ねることの弊害を主張するに帰する。
 しかし、所論の点については、谷村、塚本両代理人の上告理由第七点に関する判
断で説示するとおりであつて、論旨は採用できない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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