弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人小野清一郎、同原博義同上田四郎および被告人の各上告趣意は、末尾に添
えた書面記載のとおりである。
 弁護人小野清一郎、同原博義の上告趣意第一点について
 所論省令第一條は、「塩酸ヂアセチルモルヒネ及ビ其ノ一切ノ製剤ハ之ヲ所有、
使用、破棄、販賣、購入、贈與、受贈、分配又ハ輸送スルコトヲ得ズ」と規定して
いるのであるから、同條は右藥品およびその一切の製剤の所有や使用ばかりでなく、
すべての処分行為をも禁止している趣旨であること明らかである。されば、その処
分行為は有償であると無償であると、営利の目的があると否と、不特定人に対する
ものであると否と、多数人に対するものであると否とを問わず、禁止するものと解
すべきである。ぞれゆえ、被告人の所為がたとえ所論のように営利の目的がなく、
また特定の友人を相手とするものであつたとしても、判示所為は、まさに同省令第
一條所定の「販賣」に該当するものであることは明らかであり、原判示事実もまた
その趣旨であること疑いない。よつて、被告人の判示所爲に対して同條を適用して
処断した原判決には、所論のような違法はない。所論は、法令に使用されている「
販賣」の意義を一律に定めた上その意義を本省令の場合にも適用しようとするもの
であるが、かかる語の意義は、この語を用いた法令の目的乃至精神によつて夫々異
るものであつて、これを一律に解すべきものではないから、採用することができな
い。
 同第二点および被告人の上告趣意について
 違法の認識が犯意成立の要件でないことについては、従來一般に大審院の判決と
したところであつたが、新憲法施行後においても当裁判所は、有毒飲食物等取締令
違反被告事件につき、犯罪の構成に必要な事実の認識に欠くるところがなければ、
その事実が法律上禁ぜられていることを知らなかつたとしても、犯意の成立を妨げ
るものでない旨説示して従前の判例を維持したのである(昭和二三年(れ)第二〇
二号同年七月一四日大法廷判決)。そして、その後当裁判所は、右判例の趣旨に従
つて判決をしているのであつて(昭和二四年(れ)第三一六五号同二五年四月一八
日第三小法廷判決、昭和二四年新(れ)第一五〇号同二五年六月六日第三小法廷判
決、昭和二四年(れ)第二二七六号同二五年一一月二八日第三小法廷判決、昭和二
五年(れ)第一三三九号同年一二月二六日第三小法廷判決)、今にわかに右判例を
変更しなければならない理由を見出すことはできない。以上のように、違法の認識
は犯意成立の要件ではないのであるから、刑罰法令が公布施行されたにかヽわらず
被告人においてその法令を知らなかつたとしても、犯罪の成立を妨げるものではな
い。されば、被告人が昭和二〇年一一月二〇日厚生省令第四四号「塩酸ヂアセチル
モルヒネ及其ノ製剤ノ所有等ノ禁止及没收ニ関スル件」が公布され、同日以降施行
されていたことについてたまたま医師会の会員でなかつたためこれを知らなかつた
としても、かかる法令の不知は、未だ犯意の成立を妨げるものではないから、被告
人の判示所為に対して右省令を適用して処断した原判決は正当であつて、論旨は珊
由がない。
 同第三点について論旨中、本件は過失犯を以て論ずべき事件であり、過失犯とす
れば罰金刑を以て処断するのが適当であるとの主張は、既に原審が故意犯として適
法に犯罪事実を認定している以上、原判示に副わない主張であり、また右主張が原
審の事実認定に対する非難であるとすれば、上告の適法な理由とならない。さらに、
論旨は「原判決は刑法第一〇條に規定する刑罰の軽重と犯罪の軽重との段階性を無
視したものであるという意味において法令の違反である」といつているが、法定刑
中選択刑の定めある場合にいづれを選択するかは、事実審たる裁判所が犯情によつ
て定めるところであり、この点について原審の量刑に違法があるとは認められない。
なお、憲法第三六條に違反するとの主張の理由ないことについては、弁護人上田四
郎の上告趣意第四点および第五点に対する後記の説明において明らかにするとおり
である。論旨はいづれも理由がない。その他の論旨は原判決の量刑不当を非難する
に帰するので上告の適法な理由ではないから採用することができない。
 弁護人上田四郎の上告趣意第一点について
 論旨は、原審の公判調書中証人Aの供述記載が、同証人の供述したとおりに記載
されていないと非難するのであるが、このような主張は、原審の手続にいかなる違
法があり、それが原判決にいかに影響するかの主張を欠くので、未だ上告の適法な
理由とはならないから採用することができない。
 同第二点について
 論旨は、原審が犯情を十分に調べずに被告人に刑の量定をした違法があるという
のであるが、量刑不当の主張は、上告の適法な理由とはならないし、また所論審理
不盡の主張は、畢竟原審の自由裁量に委ねられている証拠調の限度を非難するに帰
し、その理由がない。
 同第三点について
 有罪判決をするには、罪となるべき事実および証拠によりこれを認めた理由を説
明し、法令の適用を示せば是りるのである。そして被告人が当該禁止規定のあるこ
とを知りながら犯行をしたか否かは、罪となるべき事実に属しないから、特にこれ
を判示する必要はない。されば、原判決が右事実を判示しなかつたからといつて、
所論のような理由不備の違法はない。また、第二審判決が第一審判決と同様な犯罪
事実を認定していながら、刑の量定において異るところがあつたとしても、その相
違のよつて來た理由までをも判決に示す必要はなく、新憲法下における旧刑訴法の
解釈としてもかかることは要求されていないから、論旨は理由がない。
 同第四点および第五点について
 論旨中、原審の量刑不当の主張は、上告の適法な理由とはならないから、採用す
ることはできない。なお、憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」とは、人道上残
酷と認められる刑罰という意味であつて、事実審の裁判官が普通の刑を法令におい
て許された範囲内で量定した場合においては、それが被告人の側から観て「過酷」
と思われるものであつても、憲法にいわゆる「残虐な刑」にあたらないことは、す
でに当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三二三号同二三年六月二三日大法廷判決、
昭和二三年(れ)第三四八号同年九月二二日大法廷判決)の示すとおりである。論
旨は理由がない。
 よつて、本件上告を理由ないものと認め、旧刑訴法第四四六條に從い、主文のと
おり判決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 田中已代治関與
  昭和二六年一月三〇日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
 裁判官穗積重遠は差支えのため署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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