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平成29年4月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
174号取締役に対する損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
取締役に対する損害賠償請求事件(以下「第2事件」という。)
平取締役に対する損害賠償請求事件(以下「第4事件」とい
う。)
口頭弁論終結日平成29年1月26日
判決
主文
1被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9は,会社原告に対し,連帯して,1
000万円,及びこれに対する,被告A6については平成24年2月2日から,被
告A7については同年1月30日から,被告A8については同月29日から,被告
A9については同月28日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2被告A6,被告A7及び被告A8は,会社原告に対し,連帯して,546億83
85万7848円,及び内金10億円に対する,被告A6については平成24年2
月2日から,被告A7については同年1月30日から,被告A8については同月2
9日から,内金536億8385万7848円に対する同年2月2日から,それぞ
れ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告A6,被告A7及び被告A8は,会社原告に対し,連帯して,39億921
1万1088円,及び内金1億円に対する,被告A6については平成24年2月2
日から,被告A7については同年1月30日から,被告A8については同月29日
から,内金38億9211万1088円に対する同年2月2日から,それぞれ支払
済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告A2は,会社原告に対し,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8と連
帯して,5000万円及びこれに対する平成26年7月2日から支払済みまで年5
分の割合による金員(ただし,1986万円及びこれに対する同月3日から支払済
みまで年5分の割合による金員の限度で被告A9と連帯して)を,被告A2が亡A
1より相続した財産の存する限度において支払え。
5被告A3及び被告A4は,それぞれ,会社原告に対し,被告A5,被告A6,被
告A7及び被告A8と連帯して,2500万円及びこれに対する平成26年7月2
日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,1986万円及びこれに対
する同月3日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告A9と連帯
して)を,被告A3及び被告A4が亡A1より相続した財産の存する限度において
支払え。
6被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8は,会社原告に対し,連帯して,1
億円及びこれに対する,被告A5,被告A6及び被告A8については平成26年7
月2日から,被告A7については同月4日から,それぞれ支払済みまで年5分の割
合による金員(ただし,5000万円及びこれに対する同月2日から支払済みまで
年5分の割合による金員の限度で被告A2と連帯して,2500万円及びこれに対
する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告A3及び被告A
4とそれぞれ連帯して,1986万円及びこれに対する同月3日から支払済みまで
年5分の割合による金員の限度で被告A9と連帯して)を支払え。
7被告A9は,会社原告に対し,被告A2,被告A3,被告A4,被告A5,被告
A6及び被告A8と連帯して,1986万円及びこれに対する平成26年7月3日
から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,1986万円及びこれに対す
る同月4日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で被告A7と連帯し
て)を支払え。
8会社原告の第1事件に係るその余の請求並びに株主原告の第4事件に係るその余
の請求及び第2事件に係る請求をいずれも棄却する。
9訴訟費用は,第1事件及び第4事件について生じた部分は,これを30分し,そ
の4を会社原告の,その5を株主原告の,その3を被告A2,被告A3及び被告A
4の,その2を被告A5の,その15を被告A6,被告A7及び被告A8の,その
1を被告A9のそれぞれ負担とし,第2事件について生じた部分は,これを全部株
主原告の負担とする。
10この判決は,第1項から第7項までに限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
別紙2「請求の趣旨目録」記載のとおり。
第2事案の概要
1第1事件及び第4事件
ア別紙2「請求の趣旨目録」第1の1及び同第3の1に係る請求(以下「第1
類型(金利・運用手数料関係)」という。)
第1類型(金利・運用手数料関係)は,会社原告が,金融資産の巨額の含み
損の計上を回避する目的で,当該金融資産を買い取らせることを主たる目的と
するファンド(以下「受け皿ファンド」という。)や受け皿ファンドに資金を
注入するために利用されるファンド(以下「通過用ファンド」といい,受け皿
ファンドと併せて「受け皿ファンド等」という。受け皿ファンド等を構成する
ファンドは,別紙3「ファンド等一覧」記載のとおりである。)に資金を供給
し,含み損を抱えていた金融資産を簿価で買い取らせるなどして,会社原告か
ら損失を分離するスキーム(以下「損失分離スキーム」という。)を構築し,
これを維持し続けたことにより,銀行に対する支払金利(以下「本件金利」と
いう。)及びファンド運用手数料等(以下「本件ファンド運用手数料等」とい
う。)の損害(本件金利29億3711万2411円,本件ファンド運用手数
料等78億8972万9208円)を被ったところ,承継前被告A1,被告A
5,被告A6,被告A7及び被告A8は,これを了承(黙認)し,又は中止の
ための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと主張して,会社法423条
に基づき,同被告ら(承継前被告A1については,同人を相続した被告A2,
被告A3及び被告A4(以下,これらの相続人3名を総称して「被告A2ら3
名」という。)を含む。以下「第2事案の概要」において同じ。)に対し,連
帯して(ただし,被告A2ら3名については,各相続分の限度での連帯。以下
「第2事案の概要」において同じ。),上記損害の一部として,別紙2「請求
の趣旨目録」第1の1記載の金額の支払を求めるとともに,共同訴訟参加した
株主原告が,上記損害の全部として,同目録第3の1記載の金額を会社原告に
対して支払うよう求めた事案である。なお,同目録第1の1及び同第3の1の
各の区分は,被告A7及び被告A8の取締役就任時点で区切った3
つの期間(①平成13年4月から平成15年6月まで,②同年7月から平成1
8年6月まで,③同年7月から平成23年3月まで)に対応するものである。
イ別紙2「請求の趣旨目録」第1の2及び同第3の2に係る請求(以下「第2
類型(ITX株式運用損関係)」という。)
第2類型(ITX株式運用損関係)は,会社原告が,損失分離スキームが維
持された状態で,受け皿ファンド等であるITVをして,注入された余剰金を
用いてITX株式会社(以下「ITX」という。)の株式取得を用いた新たな
資金運用をさせたことにより,運用損として91億6022万円の損害を被っ
たところ,承継前被告A1,被告A5及び被告A6はこれに関与し,これを了
承(黙認)し,又は中止のための措置若しくは是正措置を何ら採らなかったと
主張して,会社法423条に基づき,同被告らに対し,上記損害の一部として,
別紙2「請求の趣旨目録」第1の2記載の金額の支払を求めるとともに,株主
原告が,上記損害の全部として,同目録第3の2記載の金額を会社原告に対し
て支払うよう求めた事案である。
ウ別紙2「請求の趣旨目録」第1の3及び同第3の3に係る請求(以下「第3
類型(国内3社株式取得関係)」という。)
第3類型(国内3社株式取得関係)は,会社原告が,損失分離スキームの構
築により生じた損失分離状態(会社原告から損失が分離された状態)を解消す
ることを企図し,自ら又は完全子会社であるOlympusFinanceHongKong
Ltd.(以下「OFH」という。)をして,株式会社アルティス(以下「アルテ
ィス」という。),NEWSCHEF株式会社(以下「NEWSCHEF」という。)
及び株式会社ヒューマラボ(以下「ヒューマラボ」といい,アルティス,NEWS
CHEF及びヒューマラボを総称して「本件国内3社」という。)の株式取得名
目で受け皿ファンド等に多額の金員を流すことにより,実際の価値をはるかに
超える高額(合計で最大613億7900万円)で本件国内3社の株式を取得
して子会社化することを承認する旨の取締役会決議(以下「本件取得決議」と
いう。)を行い,これにより607億9500万円を会社原告の社外に流出さ
せて損害を被ったところ,被告A6,被告A7及び被告A8はこれに関与し,
又はこれを了承したと主張して,会社法423条に基づき,同被告らに対し,
連帯して,主位的に上記損害の一部として,予備的に本件国内3社の株式取得
に関して外部協力者に支払われた22億0925万円の損害の一部として,別
紙2「請求の趣旨目録」第1の3記載の金額の支払を求めるとともに,株主原
告が,上記22億0925万円の損害の全部として,同目録第3の3記載の金
額を会社原告に対して支払うよう求めた事案である。
エ別紙2「請求の趣旨目録」第1の4及び同第3の4に係る請求(以下「第4
類型(ジャイラス関係)」という。)
第4類型(ジャイラス関係)は,会社原告が,損失分離状態を解消すること
を企図し,英国医療機器メーカーであるGyrusGroupPLC(以下「ジャイラ
ス」という。)を買収する手続に関し,自ら又はその完全子会社であるOlympus
FinanceUKLtd.(以下「OFUK」という。)をして,フィナンシャルアド
バイザー(以下「FA」という。)に対する報酬名目で,AxesAmerica,LLC
(以下「AXES」という。)に対するワラント購入権及び株式オプションの
付与,AXAMInvestmentsLtd....(以下「AXAM」という。)からの500
0万ドルでのワラント購入権の買取り,AXAMに対する発行額面約1億77
00万ドルの優先株の付与及びAXAMからの6億2000万ドルでの優先
株の買取りを行うとともに,これら各行為に必要な取締役会決議への参加を始
めとする会社原告の社内手続及びFAとの契約締結等を行い,これにより,①
25億4400万円(AXAMからAXESへのワラント購入権及び株式オプ
ションの売買代金名目での支払額)及び②6億2000万ドル(ジャイラスの
優先株の買取り代金名目でのAXAMへの支払額。支払日の為替レートで56
9億4080万円。)を社外に流出させて損害を被ったところ,被告A6,被
告A7及び被告A8はこれに関与し,又はこれを了承したと主張して,会社法
423条に基づき,同被告らに対し,連帯して,上記①の損害の一部として別
紙2「請求の趣旨目録」第1,及び主位的に上記②
の損害の一部として,予備的に優先株買取りに関して外部協力者に支払われた
23億3517万0066円の損害の一部として,同目録第1
額の支払を求めるとともに,株主原告が,上記①の損害の全部として同目録第
3の4及び上記23億3517万0066円の損害の全部と
して,同目録第3の4記載の金額を会社原告に対して支払うよう求めた事案
である。
オ別紙2「請求の趣旨目録」第1の5及び同第3の5に係る請求(以下「第5
類型(疑惑発覚後の対応関係)」という。)
第5類型(疑惑発覚後の対応関係)は,会社原告が,損失分離スキームの構
築・維持及びその解消による一連の損失隠しを認識していた被告A6,被告A
7,被告A8及び被告A9が,会社原告の代表取締役であったBから違法行為
が行われているのではないかと疑惑を指摘されたにもかかわらず,問題は何も
ないと虚偽の説明を続け,同損失隠しの事実を隠蔽しようとしたことにより,
会社原告の信用が著しく毀損され,少なくとも1000万円の損害を被ったな
どと主張して,会社法423条に基づき,同被告らに対し,連帯して,別紙2
「請求の趣旨目録」第1の5記載の金額の支払を求めるとともに,株主原告が,
上記損害は10億円を下らないと主張して,同目録第3の5記載の金額を会社
原告に対して支払うよう求めた事案である。
カ別紙2「請求の趣旨目録」第1の6及び同第3の6に係る請求(以下「第6
類型(剰余金の配当等関係)」という。)
第6類型(剰余金の配当等関係)は,会社原告が,平成19年4月1日以降
に実施した剰余金の配当及び自己株式の取得がいずれも分配可能額を超えて
行われたものであるところ,①平成19年3月期~平成22年9月期の期末配
当額及び中間配当額並びに平成20年5月8日及び平成22年11月5日の
自己株式の取得額は合計546億8385万7848円,②平成23年3月期
の期末配当額は39億9211万1088円であると主張して,会社法462
条1項による金銭支払請求権に基づき,被告A6,被告A7及び被告A8に対
し,連帯して,上記①の金額の一部として,別紙2「請求の趣旨目録」第1の
の金額の支払を,被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9に対し,
連帯して,上記②の金額の一部として,同目録第1の支払を
求めるとともに,株主原告が,上記①及び②の全部として,同目録第3の6記
載の金額を会社原告に対して支払うよう求めた事案である。
キ別紙2「請求の趣旨目録」第1の7に係る請求(以下「第7類型(課徴金・
罰金関係)」という。)
第7類型(課徴金・罰金関係)は,会社原告が,①別紙4「課徴金納付命令
の内訳」の「虚偽記載に係る開示書類」欄記載の有価証券報告書,半期報告書
及び四半期報告書(以下,これらを総称して「本件有価証券報告書等」という。)
の重要な事実に虚偽の記載があったことを理由として,金融庁長官から課徴金
納付命令を受けるとともに(その後,刑事事件判決の確定に伴い,同命令の一
部は取り消され,納付すべき課徴金の額は1986万円となった。),②同別
紙の「番号」欄1,3,7,11及び15の各有価証券報告書が証券取引法な
いし金融商品取引法(以下「金商法」という。)に違反したとして,被告A6,
被告A7及び被告A8とともに起訴されて罰金7億円に処せられ,合計7億1
986万円の損害を被ったところ,承継前被告A1,被告A5,被告A6,被
告A7,被告A8及び被告A9にはこの点について善管注意義務違反があるな
どと主張して,会社法423条に基づき,同被告らに対し,連帯して,上記損
害の一部として,別紙2「請求の趣旨目録」第1の7記載の金額の支払を求め
た事案である。
第2事件
第2事件は,株主原告が,会社原告の取締役であった被告A10,被告A11,
被告A12,被告A13,被告A14,被告A15,被告A16,被告A17,
被告A18及び被告A19(以下「第2事件被告ら」という。)は,Bから,本
件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目での金銭支払
に関し,不正行為が存在するとの疑惑を指摘されるなどしていたにもかかわら
ず,これを調査し違法行為が行われたと判断される場合に公表その他必要な措置
を講ずる義務等を怠り,取締役会でBを代表取締役等から解職する旨の決議をし
て不祥事の隠蔽を図るなどしたことにより,会社原告に,①外部委員会の費用7
億1944万9555円,②信用失墜による損害10億円及び③Bに支払った和
解金12億7348万6900円の損害を与えたなどと主張して,会社法423
条に基づき,第2事件被告らに対し,連帯して,別紙2「請求の趣旨目録」第2
の1記載の金額(上記①及び②の合計額)及び同目録第2の2記載の金額(上記
③)を会社原告に対して支払うよう求める株主代表訴訟の事案である。
(なお,原告らは,会社原告の監査役であった者らに対しても,損失分離スキーム
を認識し,又は認識し得たにもかかわらず,適切な監査権限の行使を怠ったなど
として,会社法423条に基づく損害賠償訴訟を提起したが(1
038号(第3事件)及び同第8258号(第5事件)),これらはいずれも和
解により終了した。)
2前提事実(証拠等によって認定した事実は末尾に証拠等を掲げた。その余は当事
者間に争いがない。)
当事者等
会社原告は,顕微鏡,写真機,精密測定器,その他光学機械の製造販売並びに
修理及び賃貸業務等を行うことを目的とする株式会社である。
株主原告は,責任追及等の提訴請求書が会社原告に到達した日の6か月前から
同社の株式1単元以上を引き続き保有する株主である。
承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7,被告A8,被告A9,被告
A10,被告A11,被告A12,被告A13,被告A14,被告A15,被告
A16,被告A17,被告A18及び被告A19は,いずれも会社原告の取締役
であった者であり,その在任期間等は別紙5「被告A2ら3名を除く被告らの役
員在任期間等」記載のとおりである。このうち,承継前被告A1は,昭和59年
1月から平成5年6月まで会社原告の代表取締役社長,同月から平成13年6月
まで代表取締役会長の各地位にあり,被告A5は,平成5年6月から平成13年
6月まで同じく代表取締役社長,同月から平成17年6月まで代表取締役会長の
各地位にあり,被告A6は,平成13年6月から平成23年3月まで同じく代表
取締役社長,同年4月から同年10月26日まで代表取締役会長の各地位にあっ
た。
Bは,平成23年4月1日付けで会社原告の社長執行役員に就任し,同年6月
29日に代表取締役及び社長執行役員・COOに,同年9月30日にCEOに就
任したが,同年10月14日開催された取締役会(以下「10月14日取締役会」
という。)において,代表取締役及び社長執行役員・CEOを解職され,業務執
行権限のない取締役となった。
(甲Aア1の1・2,キの1の1・2,7,8の1,11の1,弁論の全趣旨)
剰余金の配当等
会社原告は,第139期事業年度(平成18年4月1日から平成19年3月3
1日まで)から第143期事業年度(平成22年4月1日から平成23年3月3
1日まで)にかけて,期末配当,中間配当及び自己株式の取得を実施し,以下の
金額を支出した(以下,これらを総称して,「本件剰余金の配当等」という。)(甲
Aカ4の1~4,6の1~8,8の1・2,9の1・2,10の1・2,11の
1・2,12の1・2,13の1・2,14の1・2,15の1・2,16)。
ア期末配当
平成19年3月期64億6483万4177円
平成20年3月期53億9087万6237円
平成22年3月期40億3690万8324円
平成23年3月期39億9211万1088円
イ中間配当
平成19年9月期53億9051万5530円
平成20年9月期53億3219万3453円
平成21年9月期40億3792万6015円
平成22年9月期40億3764万6712円
ウ自己株式の取得
平成20年5月8日決議99億9773万円
平成22年11月5日決議99億9522万7400円
(アないしウの合計額は,586億7596万8936円である。)
本件有価証券報告書等の提出と課徴金・罰金の支払
ア会社原告は,関東財務局長に対して本件有価証券報告書等を提出したところ,
本件有価証券報告書等のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄
1,3,7,11及び15の有価証券報告書並びに同16の四半期報告書(以
下「本件四半期報告書」という。)には以下の内容の虚偽記載がされていた(甲
Aキ2,弁論の全趣旨)。
同「番号」欄1の有価証券報告書
連結純資産額が約2324億5900万円であるところ,3448億71
00万円と記載した。
同「番号」欄3の有価証券報告書
連結純資産額が約2500億2900万円であるところ,3678億76
00万円と記載した。
同「番号」欄7の有価証券報告書
連結純資産額が約1208億5200万円であるところ,1687億84
00万円と記載した。
同「番号」欄11の有価証券報告書
連結純資産額が約1713億7100万円であるところ,2168億91
00万円と記載した。
同「番号」欄15の有価証券報告書
連結純資産額が約1252億2500万円であるところ,1668億36
00万円と記載した。
本件四半期報告書
連結純資産額が約1017億5100万円であるところ,1511億47
00万円と記載した。
イ会社原告は,平成24年7月11日,金融庁長官から,本件有価証券報告書
等には重要な事項に虚偽の記載があるとして,合計1億9181万9994円
の課徴金納付命令を受けた(甲Aク1の1)。
ウ会社原告,被告A6,被告A7及び被告A8は,平成25年7月3日,東京
地方裁判所において,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄1,3,
7,11及び15の有価証券報告書について,損失を抱えた金融商品を簿外処
理するなどの方法により,「連結純資産合計」欄に虚偽の記載をしたなどとし
て,証券取引法違反及び金商法違反を理由に,会社原告を罰金7億円(以下「本
件罰金」という。),被告A6及び被告A7を懲役3年(5年間の執行猶予),
被告A8を懲役2年6月(4年間の執行猶予)にそれぞれ処する旨の判決の宣
告を受けた(甲Aキ2)。
エ金融庁長官は,平成25年9月4日,本件罰金の支払を命ずる判決の確定に
伴い,前記イの課徴金納付命令のうち,別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番
号」欄1~15に係る部分を取り消した。これにより,会社原告が納付すべき
課徴金額は,本件四半期報告書に係る1986万円となった(以下「本件課徴
金」といい,「本件罰金」と併せて「本件罰金等」という。)。(甲Aク1の2)
オ会社原告は,平成24年7月31日,本件課徴金の支払として,1986万
円を国庫に納付した。また,会社原告は,平成25年8月9日,本件罰金の支
払として,7億円を国庫に納付した。(甲Aク2の1・2)
FACTAへの記事の掲載とBの解任
ア月間FACTA(以下「FACTA」という。)8月号(平成23年7月2
0日発行)に,「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題する記事(以
下「本件記事1」という。)が掲載された。同記事には,①会社原告が平成2
0年3月期に合計約700億円で買収した本件国内3社について,素人目にも
極めて不自然な利益計画であり,まともな投資とはいえないこと,②ジャイラ
スの買収に関して,ジャイラスが2700億円も出して買う会社ではなく,さ
らに,そののれん代を一括償却すれば連結自己資本がほとんど吹き飛んで会社
原告の屋台骨が大きく傾くこと,③会社原告のM&Aが不明朗で,貸借対照表
に計上されていない損失があるのではないかとアナリストが疑いの目を向け
ていること,④一連のM&Aで社外に流出した巨額の資金の流れも闇に閉ざさ
れていることなどが記載されていた。(甲Aオ1)
イFACTA10月号(平成23年9月20日発行)に,「オリンパスの『尻
尾』はJブリッジ巨額M&Aの闇を暴く調査報道第2弾。問題子会社の事業
計画書に,あっと驚くファンドの名。」と題する記事(以下「本件記事2」と
いい,本件記事1と併せて「本件各記事」という。)が掲載された。同記事に
は,①会社原告が平成20年に本件国内3社を子会社化した際に株式を買い取
ったのはNeo及びDDであること,②DDを立ち上げた投資ファンドはJブ
リッジから52パーセントの出資を受けた子会社であること,③Jブリッジは
反社会的勢力との関係が疑われて資本市場で爪弾きされる企業であること,④
本件国内3社の買収により総額350億円前後の資金がファンドに渡ったこ
とになること,⑤Jブリッジに巨額の資金が流れた疑いが出ていることについ
て,会社原告の広報・IR室は黙りを決め込んでいることなどが記載されてい
た。(甲Aオ2)
ウBは,10月14日取締役会において,議長である被告A6から,代表取締
役及び社長執行役員・CEOのいずれからも即時解職し,業務執行権限のない
取締役とすることが提案され,出席取締役の過半数の賛成により承認可決され
た(同取締役会には,B,被告A6,被告A8,被告A9,被告A10,被告
A11,被告A12,被告A13,被告A14,被告A15,被告A16,被
告A18及びCの各取締役,並びに,被告A7,D,E及びFの各監査役が出
席し,被告A17及び被告A19は欠席した。)。(甲Aオ4)
提訴請求
この間,株主原告は,平成23年11月7日,会社原告に対し,本件国内3社
の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬支払に関して,調査の上,取
締役らの善管注意義務違反が認められる場合には,被告A10,被告A11,被
告A12,被告A13,被告A14,被告A15,被告A16,被告A17及び
被告A18を含む取締役を被告として,前記取得額及び支払額を損害とする責任
追及等の訴えを提起するよう通知した。また,株主原告は,同月17日,会社原
告に対し,同社が国外投資ファンド等に支払った1394億1900万円は企業
買収の目的で支出されたものではなく,会社原告が保有していた金融商品の含み
損の穴埋め目的で支払われたものであって,関係役員らの善管注意義務違反は明
らかであること,不正行為の疑いを指摘していたBを解任したことなどによる信
用毀損等の損害は少なく見積もっても100億円を下回らないため,これらの損
害について第2事件被告らを含む役員に対して損害賠償請求をすべき旨の提訴
通知兼補充通知を送付した。(甲B1の1・2,2の1・2)
被告A2ら3名による訴訟承継
承継前被告A1は,平成25年6月30日に死亡し,その妻である被告A2並
びに子である被告A3及び被告A4が,本件訴訟における承継前被告A1の地位
を承継した。被告A2ら3名は,同年9月24日,東京家庭裁判所に対して限定
承認の申述をし,同裁判所は,同年10月15日,当該申述を受理するとともに,
被告A3を相続財産管理人に選任した。
被告A3は,同月28日,同月15日に限定承認をした旨及び一切の相続債権
者及び受遺者は2か月以内に請求の申出をすべき旨を公告した。
(乙A7~9)
3争点
第1類型(金利・運用手数料関係)
ア承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8の損失分離ス
キームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無
イ損害の発生の有無
第2類型(ITX株式運用損関係)
ア承継前被告A1,被告A5及び被告A6のITX株式の取得・保有に係る善
管注意義務違反の有無
イ損害の発生の有無
第3類型(国内3社株式取得関係)及び第4類型(ジャイラス関係)
ア被告A6,被告A7及び被告A8の本件国内3社の株式取得及びジャイラス
買収に係る善管注意義務違反の有無
イ損害の発生の有無
第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
ア被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の疑惑発覚後の対応に係る善管
注意義務違反の有無
イ損害の発生の有無
第6類型(剰余金の配当等関係)
被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の会社法462条1項の責任の有

第7類型(課徴金・罰金関係)
ア承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の
損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反の有無
イ被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の虚偽記載のある有価証券報告
書等の提出に係る善管注意義務違反の有無
ウ損害の発生及び因果関係の有無
第2事件
ア第2事件被告らの善管注意義務違反の有無
イ損害の発生及び因果関係の有無
抗弁
ア消滅時効の抗弁の成否(第1類型及び第2類型関係)
イ信義則ないし過失相殺の抗弁の成否(第1類型,第3類型,第4類型及び第
7類型関係)
ウ権利濫用の抗弁の成否(第6類型関係)
4争点に関する当事者の主張
第1類型(金利・運用手数料関係)
(原告らの主張)
ア承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8の損失分離ス
キームの構築・維持に係る善管注意義務違反
取締役は,受任者として会社法330条(民法644条)に定める善管注意
義務を負っており,具体的には,①有価証券報告書等を提出している株式会社
の取締役は,会社による適正な決算処理を困難にし,又は有価証券報告書等の
虚偽記載の原因となる行為をしてはならない義務を負うとともに,②取締役は,
正当な事業投資とはいえない目的の為に会社の財産を使用するなど,会社をし
て,無用な経済的負担の原因となる支出をさせてはならない義務を負い,③こ
れらの行為が行われることを認識した取締役は,これを中止するために対応す
べき義務を負う。
損失分離スキームの構築及びその維持は,それ自体,会社原告における適正
な決算処理を著しく困難にするとともに,有価証券報告書等の虚偽記載を発生
させる原因となるばかりか,会社原告においてその実行のための無用な負担を
発生させるものである。このため,損失分離スキームの構築及び維持に関与す
る行為が取締役の善管注意義務違反に該当することはもちろん,損失分離スキ
ームの構築及び維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,
これを了承(黙認)したり,当該行為を中止・是正させるための措置を採らな
かったりすることは,取締役の善管注意義務に違反するものである。
被告らの具体的な善管注意義務違反は以下のとおりである。
承継前被告A1及び被告A5について
承継前被告A1及び被告A5は,会社原告が行った資金運用において巨額
の含み損が発生したことを認識しており,現に,バブル経済崩壊後の平成4
年以降,継続的に行われてきた会社原告における損失計上回避策は,承継前
被告A1及び被告A5が被告A7及び被告A8に指示をすることで実施さ
れてきたものである。損失分離スキームの構築に関しても,承継前被告A1
及び被告A5は,その報告を受けて実行するよう指示した上,その後の損失
分離状態の維持に関しても,被告A7及び被告A8から「135PB運用報
告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期的に受け,これを認識して
いたにもかかわらず,何らの是正措置を採らなかった。
さらに,被告A5は,損失分離スキームの構築のための資金調達を目的と
してLGTBankinLiechtensteinAG(以下「LGT銀行」という。)の口
座を開設するに当たり,平成10年3月23日付け口座開設申請書に会社原
告の代表者として署名するなど,損失分離スキームの維持のための行為に積
極的に関与している。
したがって,承継前被告A1及び被告A5は,損失分離スキームの構築,
及び損失分離状態が達成された後である平成13年4月から損失分離状態
が解消される平成23年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役
としての善管注意義務違反が認められる。
被告A6について
被告A6は,平成11年6月に総務・財務部を担当する取締役に就任して
以降,被告A5や被告A7から,会社原告が簿外で抱えている多額の損失に
ついて説明を受けており,自らも損失分離スキームの構築に必要な議案を提
案するなど,その構築に積極的に関与していた(少なくとも,被告A7及び
被告A8が行おうとしている損失分離スキームの構築について認識してい
たにもかかわらず,当該行為を中止させるための措置を採らずにこれを了承
していた。)。また,損失分離状態の維持に関しても,被告A7及び被告A
8から「135PB運用報告」等を用いた損失分離状態に関する報告を定期
的に受け,中間決算や本決算の際に被告A7から会社原告の簿外の損失につ
いて報告や相談を持ちかけられるなどしており,これを認識していたにもか
かわらず,何らの是正措置も採らなかった。
したがって,被告A6は,損失分離スキームの構築及び損失分離状態が達
成された後である平成13年4月から損失分離状態が解消される平成23
年3月までの間の損失分離状態の維持につき,取締役としての善管注意義務
違反が認められる。
被告A7及び被告A8について
被告A7及び被告A8は,承継前被告A1,被告A5及び被告A6の了承
の下,損失分離スキームを策定して構築したのみならず,分離した損失を解
消するまでの間,損失分離状態の維持のための行為に積極的に関与した。
したがって,被告A7は,取締役に就任した平成15年6月29日以降,
また,被告A8は,取締役に就任した平成18年6月29日以降,いずれも
損失分離状態が解消される平成23年3月まで,それぞれ取締役としての善
管注意義務違反が認められる。
イ損害の発生
本件金利の損害
a前記アの承継前被告A1及び被告らの義務違反により,会社原告は,そ
の保有に係る預金債権(預託していた国債等を含む。以下,両者を併せて
「預金債権等」という。)を担保として銀行から資金を借り入れた受け皿
ファンド等が支払った金利分の損害を被ったものであり,その合計額は,
別紙6「本件金利」の合計欄記載のとおり,29億3711万2411円
である。
bこの損害の発生時期については,損失分離状態を是正するための措置を
採らずに放置し続けていた各時点ごとに,「放置」という不作為により金
利支出に係る損害が発生したと考えることができる。なぜなら,会社原告
が保有している預金債権等を担保として,①LGT銀行から資金を注入さ
れたCFC,②CommerzbankAG(以下「コメルツ銀行」という。)か
ら資金を注入されたHillmore,③SocieteGeneraleBank(以下「SG銀
行」という。)から資金を注入されたEastersideといった受け皿ファンド
等は,本件金利の支払時点において,いずれも銀行に対する全債務を完済
できるような状況にはなかった(すなわち,実質的に債務超過状態にあっ
た。)から,前記アの承継前被告A1及び被告らが放置したことにより受
け皿ファンド等から本件金利が支払われ,当該支払分だけ,将来において
銀行に返済できる金額が減少し,会社原告が担保として提供した預金債権
等の価値が毀損されるという損害が発生したと考えることができるため
である。
本件金利が支払われている期間中,CFCが実質的に債務超過状態であ
ったことは,CFCが受け皿ファンドそのものであること,平成12年3
月末時点においてCFCには638億2600万円の損失が発生してい
たこと,平成13年3月時点においてCFCの有する実質的な資産は「ゼ
ロ」とされていたこと,LGT銀行からCFCへの貸付けのために担保と
して提供されていた会社原告らの保有に係る国債(簿価349億9700
万円)は,貸付先であるCFCに注入された資金が損失分離状態の達成の
ために使用された結果,平成14年9月時点で298億3900万円,平
成15年3月時点で296億6600万円分だけ返還されない状態が生
じていたことなどから明らかである。同様に,その期間中,Hillmore及び
Eastersideが実質的に債務超過であったことは,これらが通過用ファンド
にすぎないこと,資金移動後は同じく無資力の通過用ファンドである21
Cが発行する債券を有していることを除きほとんど資産を有していなか
ったこと,SG銀行からEastersideへの貸付けのために担保として提供さ
れていた会社原告の保有に係るSG銀行宛債権(450億円)は,平成1
4年9月時点で388億4700万円,平成15年3月時点で378億4
000万円分だけ返還されない状態が生じていたことから明らかである。
c会社原告が,本件金利が支払われた時点で,金利相当額の損害を被った
というためには,同支払時点において,複数の受け皿ファンド等を全体と
してみたときに実質的に債務超過状態にあったといえれば足りるから,会
社原告において,受け皿ファンド等に資金が注入されて損失分離スキーム
の構築により損失分離状態が達成された時点,又は,その後に受け皿ファ
ンド等において本件金利を支払った時点において,具体的に会社原告が担
保として提供していた各々の預金債権等においてどの部分が返還されな
い状態になっていたのかを特定することまでは必要ないものというべき
である。損失分離スキームの構築・維持の過程においては,関与者・認識
者である被告らの指示又は了承の下で,ファンド間で資金を融通し合って
いたものであり,受け皿ファンド等が全体としてみて実質的に著しい債務
超過状態にあった以上,個別の受け皿ファンド等における財産状態を個別
に検討する意味はほとんどない。
本件ファンド運用手数料の損害
a前記アの承継前被告A1及び被告らの義務違反により,会社原告は,自
己が直接出資した受け皿ファンド等(LGT-GIM,SGボンド及びG
CNVV。なお,Neoは,会社原告が直接出資したファンドではない。)
の資産から支払われたファンド運用手数料分の損害を被った。
LGT-GIM,SGボンド及びNeoの各受け皿ファンド等が平成1
3年以降ファンド運用者に対して支払った本件ファンド運用手数料等は,
別紙7「本件ファンド運用手数料等」Fund,N
eo分」の表に記載のとおり,合計55億4408万8527円である(な
お,同表中,「GIM」及び「GIM(OT)」はLGT-GIMを,「S
GFund」はSGボンドをそれぞれ示している。)。
また,GCNVVがそのジェネラル・パートナーであるGCICayman
Limited(以下「GCICayman」という。)に対して支払った運用報酬等は,
合計34億2072万5993円である。GCNVVは,損失分離スキー
ムの構築及び維持に利用することを主たる目的として設立されたもので
あるが,付随的に新事業の創生等の目的も存在したことを踏まえれば,GCI
Caymanに支払われた報酬のうち,損失分離スキームの構築及び維持の目
的に用いられた資金の運用に係る部分が損害であると考えられる。そして,
GCNVVへの出資金350億円のうち少なくとも約240億円がQP
に対して送金されていることから,240/350に相当する割合が損失
分離スキームの構築及びその維持に基づく損害と考えられ,別紙7「本件
ファンド運用手数料等」の表に記載のとおり,上記
支払額のうち,23億4564万0681円が損害となる。
bこれらの損害の発生時期については,本件金利と同様,損失分離状態を
是正するための措置を講ずることなく放置し続けていた各時点ごとに,放
置という不作為により,ファンド運用手数料等の支払に係る損害が発生し
たと考えることができる。
会社原告が直接出資しているファンド(LGT-GIM,SGボンド及
びGCNVV)は,会社原告が実質的に100パーセント出資しているフ
ァンドであり,かつ,出資が返還される上限が定められているものではな
い(返還時点においてファンドが有する資産は全て返還される。)。その
ため,このようなファンドに出資している場合において,出資した状態を
放置したことにより運用手数料等の支払が発生したときは,後に会社原告
に返還されるべき金員がその支払分だけ減少することになる結果,上記支
払分だけ会社原告に対する出資債権の価値が毀損されるという損害が発
生すると考えることができる。
これに対して,会社原告が直接出資したファンドではない通過用ファン
ドであるNeoの資産から支払われた運用手数料については,Neoに対
する出資はほぼ100パーセントを通過用ファンドであるTEAOが行
っている。そのため,Neoの資産が目減りすると,TEAOの出資債権
の価値がそれとほぼ同額分毀損されることになる。そして,TEAOに対
してはLGT-GIMがTEAO発行の債券を買い取る形で貸付けを実
施しているところ,そもそもTEAOは,Neoと会社原告の関係をでき
るだけ離し,LGT-GIMからNeoへの資金移動が外部に分からない
ようにしつつ,LGT-GIMの資金をNeoに注入するためだけに設立
されたファンドであり,かつ,LGT-GIMが貸付けを実施している期
間中,実質的に何らかの運用により利益を得ている事実は見当たらず,実
質的な債務超過状態であったと評価される。したがって,Neoが運用手
数料を支払うことにより,TEAOのNeoに対する出資債権の価値が毀
損される都度,会社原告が直接出資するLGT-GIMのTEAOに対す
る貸付債権も同額分だけ価値が毀損され,会社原告のLGT-GIMに対
する出資債権の価値も毀損されるという損害が発生すると考えられる。
以上の本件金利及び本件ファンド運用手数料等の損害を,被告A7及び被
告A8の取締役選任時点(平成15年6月,平成18年6月)をもって区切
ると,以下の金額となる。
①平成13年4月から平成15年6月まで:29億3702万3056円
②平成15年7月から平成18年6月まで:38億1614万8682円
③平成18年7月から平成23年3月まで:40億7366万9881円
損害の填補に関する主張について
a実際に受け皿ファンド等から銀行に借入金を返済するべき弁済期が到
来し,会社原告が新たな負担をすることなくその弁済期に受け皿ファンド
等から弁済がされた結果として,会社原告が担保を設定していた預金債権
等が担保実行されることなく担保解除され,会社原告に返還された場合に
初めて,一旦発生した損害が填補されることになる。このため,一旦損害
が発生した後に受け皿ファンド等が収益を上げた事実があるとしても,新
たに会社原告に負担を生じさせることなく最終的に受け皿ファンド等か
ら弁済がされ,会社原告に担保が返還されない限り,一旦発生した損害が
填補されるものではない。そして,このように一旦発生した損害が後に填
補されたことについての主張立証責任は被告らが負うものである。
b注入された資金の受け皿ファンド等における運用益は存在しない。会社
原告が損失分離スキームの構築時点から解消に至る前までの間に受け皿
ファンド等に注入した資金は,合計2200億円(①平成13年3月期ま
での1450億円,②SG銀行追加分150億円,③SGボンド追加分6
00億円)である一方,受け皿ファンド等から戻ってきた資金は,合計約
691億円(①コメルツ銀行150億円,②SG銀行450億円,③GC
NVV中途償還60億円,④GCNVVの中途解約による償還約31億
円)である。また,会社原告(OlympusAssetManagementLtd...(以下
「OAM」という。),OFH及びOFUKを含む。)が,損失分離スキ
ームを解消する目的で,受け皿ファンド等に注入した資金は,合計約12
29億円(①本件国内3社株式の購入約471億円,②ジャイラスワラン
ト購入権代金約52億円,③OFHによる本件国内3社株式の購入約13
7億円,④ジャイラス優先株の取得約569億円)である一方,戻ってき
た資金は合計約1350億円(①LGT-GIMからの払戻し約368億
円,②LGT銀行からの払戻し約351億円,③SGボンドからの出資金
返還約631億円)である。会社原告は,受け皿ファンド等に合計約34
29億円の資金を拠出したにもかかわらず,最終的に会社原告に戻ってき
た資金は,合計約2042億円にすぎない。損失分離スキームが構築され
た平成12年3月末時点において会社原告グループが保有していた金融
資産の含み損が約954億円であることに鑑みれば,損失分離スキームの
構築から解消されるまでの間に約433億円という資金が失われたこと
になる。ここから,①本件金利及び本件ファンド運用手数料等の合計10
8億2684万1619円,②ITX株式の運用損59億9040万円,
③損失分離スキームの解消時に受け皿ファンド等から流出した資金72
億0075万9788円の合計約240億円を控除したとしても,約19
3億円の資金が失われたことになる。そして,この約193億円が失われ
た原因は,ITX株式の運用損を除く,受け皿ファンド等における保有金
融資産の含み損の増大と判断されることからすれば,被告らが主張するよ
うな運用益が存在しなかったことは明らかである。
予備的主張
受け皿ファンド等は,いずれも会社原告に発生した金融資産の含み損の損
失計上を回避する目的のために設立されたものであり,会社原告の従業員や
役員の一部であった関与者・認識者のコントロール下にあった。そのような
ことから,会社原告及びOFH・OFUKから支払われた本件国内3社の株
式取得代金及び優先株買取代金に相当する金員が,関与者・認識者の策定し
た損失分離スキームの解消スキームに従って受け皿ファンド等を移動し,結
果として,関与者・認識者の企図したとおりに会社原告が預金の解放や出資
金の返還を受けていることや,受け皿ファンド等の大半は,会社原告が平成
23年12月に提出した有価証券報告書の訂正報告書において,事後的に会
社原告の連結対象子会社とされていることから,法的評価としても,受け皿
ファンド等が会社原告の支配下にあって会社原告と同一体であると考えら
れる可能性がある。仮に,法的評価として,CFC,Hillmore,Easterside,
LGT-GIM,SGボンド,Neo及びGCNVVが,会社原告の支配下
にあって会社原告と同一体であると考えられるとすれば,本件金利及び本件
ファンド運用手数料等の支払によりこれらのファンドからその他の受け皿
ファンド等の外部に資金が流出した時点で,同支払額と同額の損害が会社原
告に発生したと評価し得ることになる。したがって,会社原告は,本件金利
及び本件ファンド運用手数料等相当額が会社原告の損害となる理由として,
予備的にこれらの点を主張する。
(被告A2ら3名の主張)
ア善管注意義務違反について
会社原告における金融資産の運用は財務担当の被告A7及び被告A8が
中心となって行っており,承継前被告A1は,被告A7及び被告A8から会
社原告の含み損の状況について説明を受けた記憶がなく,損失分離スキーム
の構築について了承したこともない。承継前被告A1の供述調書においては,
同人が損失分離スキームへの関与を認める旨の供述をしたと記載されてい
るが,同人は自らの関与を認める供述になっていることを認識していなかっ
た。同供述調書は,供述当時87歳の老人が,概ね10年以上前の事実につ
いて詳細に供述している点で不自然であり,検事による相当な誘導があった
と考えざるを得ない。
大規模な事業会社の役員は広範な職掌事務を有しており,かつ,承継前被
告A1は必ずしも金融取引の専門家でもないから,その任務として,自らが
個別の取引の詳細を一から精査することまでは求められておらず,下部組織
等が適切に職務を遂行していることを前提として,そこから上がってくる報
告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうちょを覚えると
いうような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認すれば注意義
務を果たしたことになるというべきである。承継前被告A1は,損失分離ス
キームの構築について説明を受けた記憶がないことに加え,当時,75ない
し77歳と高齢で,代表取締役としての責務を主として被告A5が担ってい
たことをも併せ考えると,承継前被告A1に,代表取締役会長としての善管
注意義務違反は認められない。
イ損害の発生について
主位的な損害の主張について
a会社原告が損失分離スキームの構築・維持に基づく損害として主張する
本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,いずれも会社原告とは別の法
人格である受け皿ファンド等に生じたものであって,会社原告自身に生じ
たものではないから,会社原告の損害の主張はそれ自体失当である。
b仮に,会社原告の主張を前提としても,受け皿ファンド等の資産の減少
によって直ちに会社原告の預金債権や出資債権の価値が減少するもので
はなく,預金や出資が返還されないことが確定した時点で損害と認識する
ことが一般的であり,預金や出資が返還されないことが確定する前の時点
で損害が発生したとする会社原告の主張は特異である。また,会社原告の
有する預金債権や出資債権は,その債務者である受け皿ファンドの総資産
を引き当てとするものであるから,預金債権や出資債権の価値の減少を主
張するのであれば,受け皿ファンド等の支出の一部を掲げるだけでは不十
分であり,受け皿ファンド等による運用によって生じた利益もあるから,
ファンド運用による保有資産の増加額も含め,受け皿ファンド等の全体の
財務状況や収支が明らかにされなければならない。会社原告の出資が現実
に毀損されたことが主張立証されておらず,したがって,損失分離スキー
ムの解消により担保に提供された会社原告の預金は担保から解放され,会
社原告の出資も会社原告に戻ったものと考えられるから,会社原告の預金
債権及び出資債権が毀損したと評価することはできない。
損害とは,もし加害行為がなかったとしたならばあるべき利益状態と,
加害がなされた現在の利益状態との差であるから,受け皿ファンド等によ
る本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払前後における財産状態
を明らかにすべきであり,これがないまま,本件金利等の支払時点で損害
が発生するとはいえない。また,かかる差額説からすれば,会社原告が受
け皿ファンド等に生じた損害がその後填補されていないことまで主張立
証しなければならないはずである。会社原告は保有する全ての証拠にアク
セスできる立場にあるのに対し,被告A2ら3名は開示を受けた証拠しか
アクセスできないのであるから,公平上も,事案解明のためにも,会社原
告が主張立証責任を負うのが当然である。
c損失分離スキームの構築後,これを放置した善管注意義務違反が観念で
きるとしても,放置と相当因果関係のある損害は,取締役在任期間におけ
る取締役の行為と相当因果関係のある損害に限定されるはずである。承継
前被告A1は,平成16年4月に取締役を退任しているから,会社原告は,
その時点において,損害がいくらとなっていたかを明らかにすべきである。
予備的な損害の主張について
会社原告が,CFC,Hillmore,Easterside,LGT-GIM,SGボン
ド,Neo及びGCNVVが,「会社原告の支配下にあって会社原告と同一
体である」と主張する趣旨は不明確である。仮に,そのように考えられると
しても,CFC等の支出の一部のみを掲げ,それが会社原告の損害であると
主張するのみでは不十分であり,ファンド運用による保有資産の増加額を含
め,CFC等を含めた会社原告と「同一体」にある範囲全体の財務状況や収
支を明らかにすべきである。
(被告A5の主張)
ア善管注意義務違反について
被告A5は,1990年代,いわゆる特金の運用資産の残高及びその中に
含み損を抱えた金融商品が存在していたことは認識していたが,それを超え
て,会社原告が主張するような巨額の含み損が発生していたことは認識して
いなかった。被告A5が,巨額の損失が海外ファンドに隠されていることの
概要につき説明を受けたのは,代表取締役会長に就任した平成13年6月よ
り後の,平成14年から15年頃,被告A7より「135PB運用報告」(甲
Aイ8の1)と類似した書面を見せられた時が最初であり,その時点までは
損失隠しの全体像を知らなかった。この被告A5の事実認識は,「130P
B期運用計画」(平成9年10月12日付け)において,含み損の金額が1
40から160億円程度で推移していると報告されていること,「運用報告
(132P-4月~6月)」において,特金の含み損の金額が68億円と報
告されていることなどの客観的証拠からも裏付けられている。
原告らは,刑事事件における被告A5の供述調書を引用して,被告A5が
被告A7らに指示して損失分離スキームを実施してきた旨主張するが,当該
供述調書は,取調べ当時76歳という高齢であった被告A5が,長時間に及
ぶ取調べを受ける中で,決められたストーリーを執拗に押しつけてくる特捜
検事の取調べに無力感を覚え,少々のことは妥協してしまおうという心理状
態になったことなどの複数の要因が影響して作成されたものである。その供
述内容も,20年も前の出来事を明確に記憶しているものになっていて不自
然であるのみならず,客観的証拠により裏付けられた内容になっていないな
ど,信用性が極めて乏しい。
被告A5が,損失隠しの全体像の概要を認識した後に事実の調査の指示,
公表等の措置を講じなかったことは,当時の状況下ではやむを得ない事由が
あったというべきであり,被告A5の任務懈怠責任は否定されるべきである。
イ損害の発生について
主位的な損害の主張について
aLGT-GIMについてみれば,少なくとも平成12年12月15日か
ら平成19年12月31日までの間,会社原告が主張する本件ファンド運
用手数料等を控除した上でもなお一貫して利益を上げ続けており,LGT
-GIMに対する会社原告の出資債権の価値は何ら毀損されていない。L
GT-GIMにおいて収益が上がっている事実がある以上,他のファンド
においても同様に収益が上がっている可能性は十分にあり,この点の精査
なくして会社原告に損害が発生しているか否かを判断することはできな
い。
b損害とは,もし加害原因がなかったとしたならばあるべき利益状態と,
加害がなされた現在の利益状態の差であるとされており,このような差額
説を前提とすれば,本件の損害とは,「損失分離状態が維持されているこ
とを知りながら又は知り得たにもかかわらず当該状態を是正するための
措置を採らずにこれを放置した」という加害がなされた現在の利益状態と,
加害がなかったとしたならばあるべき利益状態との差と解することにな
る。会社原告が主張する本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,いず
れも過去のある時点における個々の支出の問題であり,差額説による損害
算定の前提となる「現在の利益状態」を構成する一要素にすぎない。本件
金利及び本件ファンド運用手数料等を支払った時点で損害が発生すると
の原告らの主張は,事実のレベルにおいても,損害概念に関する差額説か
らも理由がない。また,差額説を前提とすれば,加害行為がなされた現状
と,それがなされなかったと仮定した場合の原状との差額が損害である以
上,会社原告において「原状」と「現状」との差額を主張立証しなければ
ならない。
cLGT銀行とCFCとの間のローンアグリーメントにおいては,CFC
は,弁済期までは300億円を自由に利用できるとされているのであり,
弁済期が到来するまでの間は,金利を支払いさえすれば債務超過に陥って
いても構わないのである。CFCがたとえ本件金利支払時点において原告
らのいうところの実質的な債務超過状態であったとしても,弁済期に返済
資金を準備できれば,会社原告が担保に供した預金債権等の価値が毀損さ
れるという損害も発生しなかったと評価することが,金銭消費貸借契約の
法的性質からも妥当な結論であることは明らかである。さらに,会社原告
が担保に供した預金債権等や出資金は,最終的にその全額が会社原告に戻
ったものと考えられるから,これらが毀損されたことを前提とする損害の
主張は理由がない。
d原告らは,会社原告が担保を設定していた預金債権等が実際に担保実行
されることなく返還された場合にはじめて一旦発生した損害が填補され
ると主張するが,単純に考えて,金利や運用手数料の支払がされた後にフ
ァンドの運用による収益が発生した場合,過去の各支払時点において損害
が発生するとの原告らの論理に基づけば,収益発生の都度損害が填補され
て,預金債権や出資の価値の毀損も回復すると考えることになるはずであ
る。損害の発生を過去の各支出時点と考え,他方で損害の填補については,
過去の収益発生時点においてはこれを考慮せず,最終的に担保に供されて
いた預金債権やファンドへの出資金が会社原告に返還される時点におい
ても考慮する必要がないかのごとき原告らの主張は,論理的にも整合性の
ない独自の見解というほかない。
予備的な損害の主張について
受け皿ファンド等が,会社原告の支配下にあって会社原告と同一体である
との法的評価がされるという根拠が不明であり,そのように断じることがで
きる法理も不明である。
(被告A6の主張)
ア善管注意義務違反について
被告A6が含み損の存在について報告を受け,これを了承したのは,代表
取締役に就任した平成13年6月28日より後のことであり,常務取締役時
代には,含み損や損失分離スキームの存在について理解してなかった。これ
は,被告A6が,刑事手続の供述調書において,社長就任後に被告A7から
簿外の損失があることをはっきり教えられた旨を供述していることや,被告
A5が上記主張に沿う供述をしていることから明らかである。
有価証券報告書を提出している会社の取締役は,有価証券報告書等の虚偽
記載をしてはならない義務を負うのみであり,会社による適正な決算処理を
困難にし,又は有価証券報告書等の虚偽記載の原因となる行為をしてはなら
ないという義務を負うものではない。また,被告A6が損失分離スキームの
構築・維持に関与したとしても,そのことから直ちに,適正な決算処理が不
可能になったり,虚偽記載を発生させたりするものではない。
イ損害の発生について
損害論に関する相被告の主張は,全て有利に援用する。
(被告A7の主張)
本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,会社原告とは別法人である受け
皿ファンド等が支出したものであって,会社原告の損害ではない。また,LG
T銀行への預託については解約時に益金7億円が,SGボンドについては解約
時に31億円の益金が発生しているほか,預託していた資産に係る利息等を含
めれば相当の利益があったのであるから,これらの利益は損害から控除されな
ければならない。
(被告A8の主張)
ア善管注意義務違反について
会社原告が損失分離スキームの構築・維持の責任の発生根拠として主張する
行為は,いずれも被告A8が取締役に就任した平成18年6月29日以前の行
為である。被告A8は,一従業員としてそれらの行為に関与したにすぎず,取
締役として責任を負うべきものではない。
イ損害の発生について
被告A7の主張と同旨。
第2類型(ITX株式運用損関係)
(原告らの主張)
ア承継前被告A1,被告A5及び被告A6のITX株式の取得・保有に係る善
管注意義務違反
損失分離スキームの構築・維持の目的を認識した上で,①損失分離のために
ITVに資金が注入されていることを知り,又は知り得た取締役が,その資金
を用いたITX株式の取得に関与すること,②ITVが損失分離のために注入
された資金を用いて取得したITX株式を保有し続けていることを知り,又は
知り得た取締役が,これを了承(黙認)したり,是正のために何らの措置を採
らないこと,③ITVによるITX株式の保有により新たな含み損が発生して
いることを知り,又は知り得た取締役が,ITVによる保有状態を了承(黙認)
したり,是正のために何らの措置を採らないことは,善管注意義務に違反する
行為である。
被告らの具体的な善管注意義務違反は以下のとおりである。
承継前被告A1について
承継前被告A1は,平成12年3月31日以降,ITVが損失分離のため
に注入された資金の一部を用いてITX株式を取得したことや,その後も当
該ITX株式を保有し続けていることを認識していたのみならず,ITX株
式の保有により新たな含み損が発生し続けていることを認識していたにも
かかわらず,何らの是正措置を採らなかった。したがって,承継前被告A1
には,ITX株式の取得及び継続保有につき,取締役としての善管注意義務
違反が認められる。
これに対し,被告A2ら3名は,平成14年1月8日までに生じた債務に
ついては消滅時効を援用するところ(後記被告A2ら3名の主張)参
照),義務違反の起算点となる同月9日の時点では会社原告が既にITX株
式を取得していたから,その株式保有を前提として,何が会社原告にとって
有利であるかを検討すべきであった旨を主張するが,その時点に立って検討
したとしても,承継前被告A1は,ITVが損失分離のために注入された資
金の一部を用いてITX株式を取得したことや,その保有により新たな含み
損が発生し続けていることを認識していたにもかかわらず,何らの措置を採
らなかったのであるから,取締役としての善管注意義務違反が成立すること
は明らかである。
被告A5について
被告A5は,被告A7からITVがITX株式を購入することについて説
明を受けており,その説明に基づいてITX株式を購入することを決定した。
また,被告A5は,ITX株式の取得後も,ITVがこれを保有し続けてい
ることや,その保有により新たな含み損が発生し続けていることを認識して
いたにもかかわらず,何らの是正措置を採らなかった。
したがって,被告A5には,ITX株式の取得及び継続保有につき,取締
役としての善管注意義務違反が認められる。
被告A6について
被告A6は,ITXの事業内容について説明を受け,これを踏まえて「I
TXの株を150億円分買わせて欲しい。」旨を連絡しており,ITVが株
式100億円分を購入することを了承していた。また,被告A6は,ITX
株式の取得後も,ITVがこれを保有し続けていることや,その保有により
新たな含み損が発生し続けていることを認識していたにもかかわらず,何ら
の是正措置を採らなかった。
したがって,被告A6には,ITX株式の取得及び継続保有につき,取締
役としての善管注意義務違反が認められる。
イ損害の発生
通過用ファンドであるITVは,99億9929万円を投資してITXの
株式9323株を取得した(ITVは,その後,株式分割により,1万86
46株のITX株式を保有することになったが,直接又は会社原告の完全子
会社であるOFHを通じて会社原告に譲渡した。)が,ITX株式の株価は
下落し続けた。ITXは,平成22年に会社原告による株式公開買付けによ
り非公開会社となったため,現在のITX株式の時価は不明であるが,少な
くとも会社原告による公開買付け公表前の1株当たりの株価である4万5
000円より値下がりしていることは確実である。そこで,現在においても,
ITX株式は1株当たり4万5000円の価値があると仮定すると,1万8
646株の評価額は8億3907万円となるので,会社原告が投資した金額
との差額である91億6022万円の評価損が発生したことになり,それだ
けの損害が会社原告に生じたことになる。
なお,ITX株式は,ITVが購入代金を拠出して購入したものであるが,
ITX株式の株価の下落により評価損が発生すると,Neoを通じて出資し
ている会社原告の出資債権が下落することになることは,前
主張)イ記載のとおりであるから,結局,会社原告にも損害が発生すること
になる。また,法的評価として,ITVが,会社原告の支配下にあって会社
原告と同一体であると考えられるとすると,ITX株式の株価の下落により
発生した評価損は,会社原告の損害と評価し得ることになる。
被告A5は,平成24年9月28日にITXの全事業を新ITXに会社分
割し,会社原告が新ITXの全株式をアイジェイホールディングス株式会社
(以下「アイジェイホールディングス」という。)に530億円で譲渡した
ことをもって,このうちITVから譲り受けた1万8646株の対価に相当
する金額は損害から控除されるべき旨を主張するが,会社原告が実施したI
TX株式の公開買付け及び株式交換により,ITXが会社原告の完全子会社
となった後は,会社原告による経営支援等が実施され,ITXの株式価値自
体が上昇していることなどの事情からすれば,被告A5の主張が妥当するも
のではない。念のため付言すると,会社分割前に会社原告はITX株式を6
4万0240株保有していたのであり,本件訴訟で問題とされているITX
株式1万8646株に相当する譲渡金額は,15億4354万円にすぎない。
(被告A2ら3名の主張)
ア善管注意義務違反について
ITVによるITX株式の取得は,損失分離スキームに利用されたもので
はなく,会社原告の取締役会による経営判断として行われた投資・資金運用
の一つと考えられるから,被告A7及び被告A8によるITX株式の取得の
判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがないのであれば,
結果として値下がりによる損害が生じたとしても,役員に責任を問うことは
できない。ITX株式の取得は,「株式公開による値上益の獲得」だけでな
く,「迅速な事業化のノウハウの取得」や「情報機器事業拡大のための提携
の可能性」をも目的としたものであり,会社原告の取締役会において,取得
の必要性,財務上の負担,株式の取得を円滑に進める必要性の程度等を総合
考慮して決定されたものというべきであって,その決定の過程,内容に著し
く不合理な点はなく,取締役としての善管注意義務に違反するものではない。
取締役は,会社の保有する資産について,会社に利益を与えあるいは損失
を避けるよう,継続保有するか又は売却処分するかを決定すべきである。被
告A2ら3名は平成14年1月8日までに生じた債務については消滅時効
を援用するところ(後記(被告A2ら3名の主張)参照),義務違反の
存否の起算点である同月9日の時点に立ってみれば,ITVは既にITX株
式を取得していたのであるから,取締役としては,会社原告がその株式を保
有していることを所与の前提として,何が会社原告にとって有利かを検討す
べきであり,その株式が将来値下がりするか否かが分からないのであれば,
値上がりを期待して保有を継続することも許される(取締役の裁量の範囲内
である)というべきである。本件においては,ITX株式が将来値下がりす
ることの認識可能性が何ら証明されていないから,承継前被告A1がITX
株式を処分させなかったことが取締役の任務懈怠に当たるとはいえない。
イ損害の発生について
被告A2ら3名の主張)イ記載のとおりである。
(被告A5の主張)
ア善管注意義務違反について
被告A5が損失隠しの事実を知ったのが平成14年から15年頃である
ことは,前記(被告A5の主張)ア記載のとおりである。
ITXは,平成12年4月に日商岩井株式会社(以下「日商岩井」という。)
の情報通信部門の分社化により設立された会社である。ITXは,ベンチャ
ー企業への投資のほか,オフィスや人材の提供など総合支援事業を行う計画
であり,日商岩井の医療機器輸入部門がITXに移管され,バイオ,介護,
医療事業を新規事業として展開することにもなっていた。会社原告は,平成
12年1月28日の経営会議において,①ITXの価値及び株価の上昇によ
るキャピタルゲインの取得,②新規事業立上げや情報機器事業への事業拡大
の際の強力なパートナーシップの形成という二つの大きなメリットを見い
出して投資を決定した。その決定に当たっては,株価及び負債状況等につい
て銀行による精査を実施したほか,独自に類似企業における株価を根拠とし
た試算を実施するなど,慎重な検討を行っている。また,ITXが株式上場
を果たした後においては,上場後の株価が購入価格の約4分の1~3分の1
程度にとどまったことから,会社原告において減損処理をしている。株価低
迷によって当初意図したキャピタルゲインが短期的に得られる見通しはな
くなったものの,会社原告としては,直ちにITX株式を売却して手を引く
のではなく,もう一つの狙いである戦略的事業提携を継続的に推し進めてい
く戦略をとり,実際,ITXは,IT関連事業や医療関連事業をはじめとす
る各種新規事業の発掘・投資・育成等を精力的に行い,会社原告の子会社と
なった後にも,会社原告の事業部門の一つの柱として機能していた。これら
の事実からすれば,ITX株式の取得・保有は,会社原告による経営・投資
戦略の一環として行われたものにほかならず,損失分離スキームと無関係で
あることは明らかである。ITX株式の取得・保有により仮に損失が生じた
としても,それは経営戦略に基づく投資の失敗にすぎないのであって,原告
らの主張には理由がない。
イ損害の発生について
会社原告は,平成18年3月3日,ITVからその保有に係るITX株式を
全て譲り受けた後,公開買付けや株式交換を経て,ITXの全発行済株式(6
4万0240株)を取得した。さらに,会社原告は,平成24年9月28日,
ITXの全事業を新ITXに会社分割し,会社原告が剰余金の配当として取得
した吸収分割承継会社(新ITX)の全株式を,アイジェイホールディングス
に対して530億円で譲渡した。この譲渡代金530億円のうち,ITVから
譲り受けた1万8646株の対価に相当する金額は,会社原告の損害から控除
されるべきである。また,ITVがITX株式を保有していた平成12年3月
28日から平成18年3月3日までの間に,会社原告又はITVがITXから
取得した積極財産は,会社原告の損害から控除されるべきである。
(被告A6の主張)
ア善管注意義務違反について
損失分離スキームを構築・維持したことに係る善管注意義務違反や,投資判
断に係る善管注意義務違反と離れて,これらと別個に,損失分離スキームの構
築のために受け皿ファンド等に注入された資金を用いて新たな運用を行うこ
と自体が,その投資判断の内容如何にかかわらず,直ちに善管注意義務違反を
構成するとは考えられない。
イ損害の発生について
損害論に関する相被告の主張は,全て有利に援用する。
第3類型(国内3社株式取得関係)及び第4類型(ジャイラス関係)
(原告らの主張)
ア被告A6,被告A7及び被告A8の本件国内3社の株式取得及びジャイラス
買収に係る善管注意義務違反
損失分離スキームの構築によって作出された損失分離状態の解消のため,①
本件国内3社の株式取得を行うこと,及び②ジャイラスの買収に伴うFA報酬
名目で金員を支払うこと(①及び②を併せて,以下「損失分離解消行為」とい
う。)は,それ自体,正当でない目的のために会社の財産を使用するものであ
り,会社原告をして重要な事項について虚偽の記載内容を含む有価証券報告書
等の虚偽記載を助長する原因となり,会社原告において無用の負担(社外の協
力者への報酬等の支払)を発生させる。
したがって,損失分離解消行為を認識し,又は認識し得た取締役は,当該行
為を中止するための対応を採る義務を負い,この義務に違反して自ら損失分離
解消行為に関与し,又はこれらを承認(黙認)もしくは放置する行為は,取締
役の善管注意義務に違反する。
被告らの具体的な善管注意義務違反は以下のとおりである。
被告A6について
前記(原告らの主張)ア記載のとおり,被告A6は,損失分離スキーム
について認識し,かつ,これを了承していたため,損失分離状態の解消の必
要性についても当然に認識していた。被告A6は,かかる認識を前提として,
損失分離状態の解消スキーム(企業買収案件において他社の株式や資産を取
得する際に,分離した損失分を当該資産の価値に上乗せしたり,FAに対し
て多額の報酬を支払ったりすることにより,その上乗せ分や報酬額を「のれ
ん」等の資産に計上し,その後会計上の償却期間にわたって段階的に償却し
て費用計上するスキーム)の実行を了承した上,損失分離状態の一部を解消
する目的で(正当な事業投資目的によるものでないことを認識した上で),
代表取締役として,①平成20年2月22日の本件取得決議に参加し,当該
決議に基づく本件国内3社の株式取得(子会社化)に関する業務を行うとと
もに,②会社原告又はその完全子会社であるOFUKをして,FA報酬名目
での支払として,AXESに対する株式オプション及びワラント購入権の付
与,AXAMからのワラント購入権の買取り,AXAMに対する優先株の付
与及びその買取りを行わせ,また,これら各行為に必要な取締役会決議への
参加をはじめとする会社原告の社内手続及びFAとの契約締結等の職務執
行を行った。この①,②の行為が善管注意義務に違反することは明らかであ
る。
これに対し,被告A6は,本件国内3社の株式取得等が損失分離状態を解
消するための究極の選択であったなどと主張するが,取締役は,善管注意義
務の内容として,自ら法令を遵守するだけでなく,会社に法令を遵守させる
義務を負っており,かかる義務と被告A6が主張する「会社,従業員,取引
先,ひいては社会に対する影響」とを比較衡量して,前者の義務よりも後者
を優先すべきであるとの判断が正当化されるはずがない。
被告A7及び被告A8について
前記(原告らの主張)ア記載のとおり,被告A7及び被告A8は,損失
分離スキームの構築及び維持に積極的に関与したものであり,損失分離状態
の解消の必要性についても当然に認識していた。被告A7及び被告A8は,
かかる認識を前提として,損失分離状態の解消スキームの策定に積極的に関
与した上,損失分離状態の一部を解消する目的で(正当な事業投資目的によ
るものでないことを認識した上で),担当取締役として,①本件取得決議に
参加し,当該決議に基づく本件国内3社の株式取得(子会社化)に積極的に
関わるとともに,②会社原告又はOFUKをして,FA報酬名目での支払と
して,AXESに対する株式オプション及びワラント購入権の付与,AXA
Mからのワラント購入権の買取り,AXAMに対する優先株の付与及びその
買取りを行わせ,また,これら各行為に必要な取締役会決議への参加をはじ
めとする会社原告の社内手続及びFAとの契約締結等の職務執行を行った。
この①,②の行為が善管注意義務に違反することは明らかである。
これらの行為が取締役の善管注意義務違反に該当しない旨の被告A8の
主張については,被告A6の主張に対する反論と同様,犯罪の原因となる行
為が取締役の善管注意義務違反に該当することは明らかであって,理由がな
い。
イ損害の発生
主位的な主張
a本件国内3社の株式取得に係る損害
平成20年2月22日開催された取締役会における本件取得決議によ
り会社原告に生じた損害は,会社原告及び100パーセント子会社である
OFHから本件国内3社の株式取得代金として支払われた607億95
00万円であり(すなわち,本件国内3社の株式取得代金の支払そのもの
が損害である。),会社原告の支配下(OFHを含む。)からその支配の
及ばない受け皿ファンド等に前記金員が支払われた時点が損害の発生時
である。
bジャイラス買収に係る損害
①AXAMからAXESへのワラント購入権及び株式オプションの売
買代金名目での支払:25億4400万円
平成19年11月19日開催の取締役会決議を経て,会社原告をして
ワラント購入権及び株式オプションをAXESに付与させた結果,AX
ESはAXAMに対し,当該ワラント購入権及び株式オプションを譲渡
し,AXAMはAXESに対し,その対価として通過用ファンドから送
金を受けて2400万ドルを支払った。その支払額が損害であり,支払
の時点が損害の発生時である。
なお,25億4400万円は,上記2400万ドルを,平成20年6
月末時点の為替レートである106.42円/ドルの小数点以下を切り
捨て,106円/ドルで換算したものである。
②ジャイラスの優先株の買取代金名目でのAXAMへの支払額:569
億4080万円
平成20年9月26日開催された取締役会における優先株の発行承
認決議及び平成22年3月19日開催された取締役会におけるジャイ
ラスの優先株買取決議(以下,両決議を併せて「本件両決議」という。)
により会社原告に生じた損害は,100パーセント子会社のOFUKを
通じてAXAMに支払われた6億2000万ドルであり(すなわち,ジ
ャイラス優先株の買取代金の支払額が損害である。支払日の為替レート
で569億4080万円。),会社原告の支配下(OFUKを含む。)
からその支配の及ばない受け皿ファンド等に上記金員が支払われた時
点が損害の発生時である。
c資金環流の意味
別紙8「H20.2.22の取締役会決議に基づく国内3社株式代金流
出後の資金移動の概況」記載のとおり,本件取得決議に基づき,本件国内
3社の株式取得代金として,平成20年3月26日NeoないしITVに
対し合計470億8500万円が支払われ,同年4月25日DDないしG
Tに対し合計137億1000万円が支払われ,それ以降,同年10月2
4日までの間に受け皿ファンド等の間で資金移動を伴う取引が行われた。
そして,最終的には,同年6月4日LGT銀行から会社原告に対し351
億4233万3333円が払い戻され,同年8月26日及び10月24日
LGT-GIMから会社原告に対し,それぞれ159億0480万円及び
209億4620万円が払い戻された(会社原告に対する払戻額の合計は
719億9333万3333円である。)。これらはいずれも,会社原告が
LGT銀行に対して有していた預金債権や,LGT-GIMに対して有し
ていた出資金の払戻請求権の払戻しとして受領したものであって,会社原
告がもともと有していた債権の満足を受けたにすぎない。
また,別紙9「〈ワラント購入権・優先株買取代金支払後の資金移動の
概況〉」記載のとおり,AXAMに対し,本件取得決議に基づき平成20
年9月30日ワラント購入権買取代金5000万ドルが支払われたこと,
及び本件両決議に基づき平成22年3月23日から同月25日にかけて
優先株買取代金合計6億2000万ドルが支払われたことを契機として,
平成23年3月24日までの間にAXAM,GPAI,GPA,21C,
CD,Easterside及びSGボンドの間で資金移動を伴う取引が行われた。
そして,最終的に,会社原告は,SGボンドから,平成22年9月22日
及び平成23年3月24日の2回に分けて,出資金の返還として合計63
1億0545万7242円の支払を受けた。これは,会社原告がSGボン
ドに対して有していた出資金返還請求権の履行として受領したものであ
って,会社原告がもともと有していた債権の満足を得たにすぎない。
前記の資金移動がされた受け皿ファンド等は,違法な損失隠しの目的の
下に関与者・認識者によって事実上支配されていたにすぎない。すなわち,
これらの受け皿ファンド等は,会社原告の機関決定を経ずに設立され,資
金移動の当時,非連結対象であり会計監査人による監査からも免れ,会社
原告の取締役会においても把握されていなかったものであって,法的に会
社原告が支配していたとは到底評価できない。したがって,会社原告の資
金が,本件国内3社の株式取得代金及びジャイラスの優先株買取代金の名
目で,会社原告の支配下(OFH,OFUKを含む。)からその支配の及
ばない受け皿ファンド等に支払われた時点で,会社原告には損害が発生し,
その後の資金移動は,損害の填補ないし損益相殺の問題となる(これらは,
いずれも被告らが主張立証責任を負うべき事柄である。)。
そして,損益相殺の対象となるためには「財産上の利益」の要件(①加
害行為と相当因果関係があり,かつ,②損失を填補する性質(損失との同
質性,すなわち,損失に対する填補の目的・機能)を有すること)を充足
する必要があるところ,本件においては,①被告らの任務懈怠行為とLG
T銀行からの預金の払戻し等との間に相当因果関係はなく,②LGT銀行
からの預金の払戻し等はもともと会社原告が有していた債権の満足を受
けたにすぎないものであって,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買
収に係る損害を直接填補する目的もなければそのような機能も有してい
ないから,損益相殺の対象となるものではない。
予備的主張
(原告らの主張)イ仮に,受け皿ファンド等が会
社原告の支配下にあって会社原告と同一体であるとの法的評価がされる場
合には,本件国内3社の株式取得代金及びジャイラスの優先株買取代金支払
後の資金移動の過程において,受け皿ファンド等から外部協力者に対して報
酬名目で支払われた金員は,会社原告,OFH及びOFUKから流出したま
ま戻ってこないことが明らかである。そして,第3類型及び第4類型におい
て会社原告が主張する被告らの善管注意義務違反行為がなければ,このよう
な金員の流出はなかったのであるから,前記報酬名目で支払われた次の金員
は会社原告の損害となる。
a本件国内3社の株式取得代金名目での支払に伴う損害:22億0925万

①平成20年9月11日NeoからGurdonOverseasS.A(以下
「GurdonOverseas」という。)に支払われた12億5925万円,
②同年12月19日にTEAOからNaylandOverseasS.A(以下
「NaylandOverseas」という。)に支払われた9億5000万円(合
計22億0925万円)は,外部協力者に対して報酬名目で支払わ
れた金員であり,会社原告に環流されることはないから,それぞれ
の支払の時点で,会社原告には同額の損害が発生した。
bジャイラスの優先株の買取り代金名目でのAXAMへの支払に伴う損
害:23億3517万0066円
①平成22年5月18日及び同年9月2日,GPAIからPromoTech
InvestmentLimited(以下「PromoTech」という。)に支払われた合計
1148万1521.75ドル(各支払日の為替レートのうち,被告らに
有利な84.42円/ドルで換算すると9億6927万0066円),②
平成22年4月26日,EastersideからDRAGONSASSET
MANEGEMENTCO.LTD(以下「DRAGONSASSET」という。)に支
払われた1450万ドル(支払日の為替レートで13億6590万円)は,
いずれもファンドの解消に伴い外部協力者に対して報酬名目で支払われ
たものであり,会社原告に環流されることはないから,その支払の時点で,
会社原告には合計23億3517万0066円の損害が発生した。
(被告A6の主張)
ア善管注意義務違反について
本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係る行為を行ったとしても,
それ自体で,適正な決算処理が困難となったり,有価証券報告書等の虚偽記載
の原因となったりするものではない。また,会社に損失分離状態が発生してい
る状況において(特に,被告A6は損失分離スキームの構築には関与しておら
ず,構築後にこれを知ったものである。),これを解消するというのは,それ自
体は正当な目的である。当該目的を実現するための手段は,本来は,損失分離
状態を公表し,正当な含み損を織り込んで経理処理を行い,過去の決算の訂正
等を行うことであるが,既に損失分離状態が発生している状況において,後に
これを知った経営者が,会社,従業員,取引先,ひいては社会に対する影響を
極力低減しようと悩んだ末に含み損を公表せず,その間,本業で業績を上げ,
損失処理可能な体力を付けた上で(なお,会社原告の連結売上高は,被告A6
が社長に就任する直前の平成13年3月期は4667億円余りであったとこ
ろ,平成20年3月期には約1兆1288億円余りと2倍以上に拡大しており,
連結営業利益は同じく354億円余りから1126億円余りと約3倍に拡大
している。),本件のような損失分離状態の解消スキームを実施したことについ
ては,無理からぬ究極の選択であったというべきであり,それをもって安易に
取締役の善管注意義務違反ということはできない。
イ損害の発生について
本件国内3社の株式取得代金については,支出額607億9500万円に対
し,環流した金額が719億9333万3333円であるから,会社原告に損
害は認められない。
ジャイラス関係のワラント購入権及び株式オプション付与については,これ
らはジャイラス買収に関するFA報酬として支払われたものであって,AXA
Mに対する財産権の譲渡を前提とするものではなく,さらに,前記代金を支払
ったのも会社原告ではなくAXAMであり,何故,AXESに対するワラント
購入権及び株式オプション付与によって会社原告の損害と評価できるのか不
明である。また,優先株の付与及び優先株の買取りについては,支出額622
億4080万円に対し,環流した金額が631億0545万7242円である
から,会社原告に損害は認められない。
(被告A7の主張)
ア善管注意義務違反について
本件国内3社の株式取得には正当な事業投資目的も含まれていたのであり,
被告A7は,損失分離状態の一部を解消する目的で(すなわち,正当な事業投
資目的によるものでないことを認識した上で)本件取得決議に関わったもので
はない。
イ損害の発生について
被告A6の主張と同旨である。
(被告A8の主張)
ア善管注意義務違反について
本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係る行為は,いずれも私利私
欲に基づいて行われたものでないことはもちろん,専ら会社のために,損失分
離スキームを解消する目的で行われたものであるから,その目的は正当なもの
である。その解消の方法が,客観的に不相当であったことは否定できないもの
の,会社原告の信用が毀損することを危惧してこのような方法を採ったのであ
り,会社原告の代表取締役の指示によるものであったことをも踏まえると,被
告A8がこれらの行為に関与したことが著しく不合理とまではいえず,善管注
意義務違反には該当しない。
イ損害の発生について
被告A6の主張と同旨である。
第5類型(疑惑発覚後の対応関係)
(原告らの主張)
ア被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の疑惑発覚後の対応に係る善管
注意義務違反
取締役及び監査役は,善管注意義務の一つとして,違法行為が行われた疑い
が認められる場合にはこれを調査し,その結果違法行為が行われたと判断され
る場合にはそれについて公表その他必要な措置を講じる義務がある。さらに,
違法行為が行われていることを認識している取締役及び監査役は,違法行為が
行われたことを隠蔽せず,違法状態を是正すべき義務がある。
本件において,被告A6,被告A7及び被告A8が損失分離スキームの構
築・維持に関与した者であることは前記(原告らの主張)ア記載のとおりで
あり,被告A9も,損失分離スキームの構築及び維持の実務作業を行うなどし
て一連の損失隠しを認識していた。これらの被告4名は,損失隠しの存在を認
識しながら,平成23年9月にBが本件国内3社の株式取得等に係る疑惑を指
摘するようになって以降も,この問題を取締役会で取り上げて議論しようとせ
ず,損失隠しについて認識がない取締役に対し,損失隠しの存在を隠蔽し,ジ
ャイラスや本件国内3社のM&Aに関し違法と言われる問題は何もないとの
虚偽の説明を続け,さらにBを非難してその解職に賛成するよう働き掛けるな
ど,損失隠しについて認識がない取締役が疑問を持たないように仕向けて,違
法行為の発覚を避けようとした。これらの行為が,違法行為を隠蔽せず,違法
状態を是正すべき義務に違反することは明らかであり,これらの被告4名には
善管注意義務違反が認められる。
(なお,被告A7は,平成23年6月取締役を退任し監査役に就任しているの
で,Bによる疑惑指摘後は監査役として対応したことになるが,監査役も取締
役と同様,違法行為が行われたことを隠蔽せず違法状態を是正すべき善管注意
義務を負うことは,前記のとおりである。)
イ損害の発生
会社原告の主張
被告A6,被告A8,被告A9及び被告A7は,Bの疑惑の指摘に対し,
違法行為の発覚を避けようとして,10月14日取締役会においてBを社長
から解職したが,これにより世間からの批判が強くなって,会社原告の株価
は下落した。結果的には,第三者委員会(以下「本件第三者委員会」という。)
の調査が始まった約1週間後である同年11月8日に損失先送りを公表す
ることになったが,Bによる疑惑の指摘後の対応が不適切であったことは,
違法行為を隠蔽するために疑惑を指摘するBを解職したのではないかとい
う印象を世間に与えるなど,会社原告のガバナンスに対する信頼を失墜させ,
その信用を著しく毀損することとなった。毀損された信用は,その後の回復
努力によってある程度回復される可能性はあるが,そのためには相応の費用
がかかるし,違法行為を行ってこれを隠し続けたことによる信用毀損を完全
に元に戻すことはできない。
こうした信用毀損により会社原告が被った損害は,少なくとも1000万
円を下回るものではない。
株主原告の主張
Bによる疑惑の指摘後の対応が不適切であったことは,違法行為を隠蔽す
るために同人を解職したという印象を社会に与えるなど,会社原告のガバナ
ンスに対する信用を失墜させ,その信用を著しく毀損した。こうした信用毀
損により会社原告が被った損害は,少なく見積もっても10億円を下回るも
のではない。
(被告A6の主張)
ア取締役に,違法行為を行わない義務や違法状態を是正する義務があることは
認めるが,公表等の措置が必要か否かは状況により異なるのであって,取締役
が一般的に公表等の措置を講じる義務を負うわけではない。
イBの社長としての執務ぶりには多大の問題があったのであり,Bの解職は一
連の疑惑発覚を避けることだけを目的としたものではない。
(被告A7の主張)
否認又は争う。被告A9の主張を援用する。
(被告A8の主張)
否認又は争う。
(被告A9の主張)
被告A9が一連の損失隠しの事実を隠蔽したり,虚偽の説明を続けたりした
ことはない。平成23年9月以降のBによる疑惑の指摘は,Bがもっぱら被告
A6らに対して質問や資料提出要請をする形で行われ,これに対しては同被告
らが応答していたものであり,被告A9は,他の取締役と同様,Bの指摘を取
締役会で取り上げなかったというにすぎない。
また,被告A9は,Bを除く会社原告の多くの取締役が集まった平成23年
10月13日の会合に参加したが,自ら取締役を招集したわけではないことは
もちろん,同会合で発言することもなく,Bを非難して他の取締役を解職に賛
成するよう導いたこともない。
したがって,被告A9に善管注意義務の違反はない。
第6類型(剰余金の配当等関係)
(原告らの主張)
ア本件有価証券報告書等の訂正報告書の貸借対照表を元に各期の分配可能額
を算定すると,別紙10「訂正後財務諸表における分配可能額」記載のとおり,
各期の分配可能額はいずれもマイナスであった。したがって,本件剰余金の配
当等は,いずれも分配可能額を超えてされたものである。
イ被告A6,被告A7及び被告A8の責任について
株式会社が分配可能額を超えて剰余金の配当を行った場合には,「会社法
454条1項の規定による決定に係る株主総会の決議があった場合におけ
る当該株主総会に係る総会議案提案取締役」が,当該株式会社に対し連帯し
て,分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定され
ており(会社法462条1項6号イ),この「総会議案提案取締役」とは,
株主総会における「議案の提案が取締役会の決議に基づいて行われたときは,
当該取締役会において当該取締役会の決議に賛成した取締役」がこれに当た
ると規定されている(同項1号イ,会社計算規則160条3号)。被告A6,
被告A7及び被告A8は,平成19年5月8日,平成20年5月8日,平成
22年5月11日及び平成23年5月11日に開催された各取締役会にお
いて,定時株主総会に剰余金配当議案を提案することに賛成しており,いず
れも総会議案提案取締役に該当する。
中間配当についても,会社「法454条1項の規定による決定に係る取締
役会において剰余金の配当に賛成した取締役」が,株式会社に対し連帯して,
分配可能額を超えて配当された剰余金額を支払う義務を負うと規定されて
いる(会社法462条1項柱書,会社計算規則159条8号ハ)。被告A6,
被告A7及び被告A8は,平成19年11月6日,平成20年11月6日,
平成21年11月6日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会
において,中間配当に関する議案に賛成しているから,いずれも分配可能額
を超えた剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者に該当する。
違法な自己株式の取得についても,会社「法156条1項の規定による決
定に係る取締役会において株式の取得に賛成した取締役」が,株式会社に対
し連帯して,分配可能額を超えて自己株式の取得の対価として交付された金
銭を支払う義務を負うと規定されている(会社法462条1項柱書,会社計
算規則159条2号ハ)。被告A6,被告A7及び被告A8は,平成20年
5月8日及び平成22年11月5日に開催された各取締役会において,審議
された自己株式取得議案に賛成しているから,いずれも分配可能額を超えた
自己株式の取得に関する職務を行った業務執行者に該当する。
損失分離スキームの構築・維持を認識していた被告A6,被告A7及び被
告A8がその職務を行うについて注意を怠らなかったとはいえないから,こ
れらの被告は,会社法426条1項に基づき,会社原告に対し連帯して,前
自己株式の各取得額の合計586億75
96万8936円を支払う義務を負う。
ウ被告A9の責任について
被告A9は,平成23年6月29日開催された株主総会において初めて取締
役に選任された者であるから,いずれの期末配当についても総会議案提案取締
役に該当しない。しかし,配当金領収書等の送付や配当金の振込みなどの事務
を担当するのは会社原告のコーポレートセンターに属する総務部及び財務部
であり,被告A9はこれを所轄するコーポレートセンター長として,平成23
年6月に実施された剰余金の配当につき配当金領収書等の送付や配当金の振
込み等の事務を行っているから,「剰余金の配当による金銭等の交付に関する
職務を行った取締役」(会社計算規則159条8号イ)に該当する。したがっ
て,被告A9は,会社原告に対し,平成23年3月期の期末配当として配当さ
れた39億9211万1088円を支払う義務を負う。
これに対し,被告A9は,当該剰余金の配当を取り止めさせることはできな
かったなどと主張するが,少なくとも,配当金領収書送付分(配当額の合計は
約1億2000万円)及び会社原告の大株主の上位10社程度(配当額の合計
は16億0464万2895円)については配当を実施しないことが可能であ
った。
(被告A6及び被告A8の主張)
否認又は争う。
(被告A7の主張)
違法な剰余金の配当に基づく責任については認めるが,違法な自己株式の取
得に基づく責任については争う。
(被告A9の主張)
被告A9が「総務部及び財務部を所轄する」コーポレートセンター長であっ
たことは否認する(当時,財務部を所轄していたのは被告A14である。)。そ
の余は否認又は争う。
配当金交付の事務手続は被告A9が取締役に就任する前に既に開始されて
いたのみならず,平成23年6月29日開催された株主総会においては,被告
A9の取締役選任決議より前に剰余金の配当に関する決議がされており,被告
A9が取締役に就任した翌日には,被告A9が具体的な手続に関与しないまま,
配当金領収書等の送付や配当金の振込みが行われた。したがって,被告A9は,
当該剰余金の配当を取り止めさせることができなかったのであり,「その職務
を行うについて注意を怠らなかった」(会社法462条2項)ものとして,あ
るいは被告A9の行為と損害の発生との間には因果関係がないものとして,金
銭支払義務を負わない。
第7類型(課徴金・罰金関係)
(会社原告の主張)
ア承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8の損失分離ス
キームの構築・維持に関する善管注意義務違反
承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8には,前記
(原告らの主張)ア記載のとおり,平成23年3月までの損失分離状態の構
築・維持につき取締役としての善管注意義務違反が認められる。
イ被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の虚偽記載のある有価証券報告
書等の提出に係る善管注意義務違反
有価証券報告書等を提出する会社の代表取締役及びその提出の業務に携わ
る取締役は,これを提出するに当たり,その記載事項につき,虚偽の記載をす
べきでないことはもちろん,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がさ
れることのないよう配慮すべき注意義務を負う。また,取締役は,取締役会に
上程された特定の業務執行に限らず,広く代表取締役ないし業務執行取締役に
つき一般的に監視する義務ないし任務を負う。
被告A6の注意義務違反
被告A6は,本件有価証券報告書等が提出された平成19年6月28日か
ら平成23年8月11日までの間,会社原告の代表取締役であり,かつ,損
失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産額
等の記載が虚偽であることを認識していたから,本件有価証券報告書等につ
き,事実に即して正確に記載し,又は虚偽の記載がされることのないよう配
慮すべき注意義務を怠った。
被告A7及び被告A8の注意義務違反
被告A7は,本件有価証券報告書等が提出された期間のうち,平成23年
6月29日まで会社原告の取締役を務めており,同日から同年11月24日
までは監査役を務めていた。また,被告A8は,本件有価証券報告書等が提
出された期間,会社原告の取締役を務めていた。これらの被告は,いずれも
損失分離スキームの維持により,本件有価証券報告書等における連結純資産
額等の記載が虚偽であることを認識していたから,被告A6による業務執行
を監視して虚偽記載のない有価証券報告書等を提出させるための措置を採
るべき注意義務を怠った。
被告A9の注意義務違反
被告A9は,損失分離スキームの構築・維持に深く関与しており,本件有
価証券報告書等における連結純資産額等の記載が虚偽であることを当然に
認識していたから,本件有価証券報告書等のうち,被告A9の取締役在任期
間中に提出された別紙4「課徴金納付命令の内訳」の「番号」欄15の有価
証券報告書(以下「本件有価証券報告書」という。)及び本件四半期報告書
について,被告A6による業務執行を監視して虚偽記載のない有価証券報告
書等を提出させるための措置を採るべき注意義務を怠った。
本件有価証券報告書は,被告A9が取締役に選任された平成23年6月2
9日の株主総会終了後に提出されたものであるところ,株主総会の終了時刻
は午前11時26分,本件有価証券報告書が提出時刻は午後3時46分であ
るから,被告A9が,株主総会終了直後に開催された取締役会において,巨
額の損失隠しが行われていることを明らかにし,本件有価証券報告書に虚偽
の内容が記載されていることを報告していれば,当然,取締役会に出席して
いた他の取締役がこれを容認するはずはなく,結果として本件有価証券報告
書も提出されなかったはずであるから,取締役就任後に本件有価証券報告書
の提出を阻止できたことは明らかである。
ウ損害の発生及び因果関係
会社原告は,課徴金納付命令及び刑事判決に従い,本件課徴金1986万円
及び本件罰金7億円を納付したところ,善管注意義務違反行為をした取締役が
賠償義務を負う損害には,本件罰金等も含まれる。課徴金や罰金を支払ったこ
とによって会社が受けた損害について取締役が賠償責任を負うか否かは,当該
善管注意義務違反の具体的行為と損害との間の相当因果関係の有無の問題で
あるところ,以下のとおり,被告らの行為と本件罰金等の納付との間には相当
因果関係があるというべきである。
損失分離状態の維持等に係る善管注意義務違反との間の因果関係
a承継前被告A1及び被告A5について
承継前被告A1及び被告A5の実行指示の下で行われた損失分離スキ
ームの構築は,有価証券報告書等の虚偽記載に直結する「含み損について
損失を計上しないこと」を目的として実行されたものであり,損失分離ス
キームの構築がなければ,これによる虚偽記載を含む本件有価証券報告書
等が提出されることもなかったのであるから,同人らによる損失分離スキ
ーム構築の実行指示と本件有価証券報告書等の虚偽記載との間に条件関
係が認められることは明らかである。会社原告における一連の損失隠しは,
極めて少数の役職員らの間でのみ共有され,実行されており,損失隠しを
継続することについての強固な運命共同体が形成された結果,承継前被告
A1や被告A5が取締役を退任した後も,残る運命共同体の構成員たる被
告A6らによって延々と継続されていくことになった。「含み損を計上し
ないこと」は,当然ながら有価証券報告書等の虚偽記載を行うことを意味
するのであるから,少なくとも承継前被告A1及び被告A5が取締役であ
った時期の有価証券報告書等の虚偽記載については,同人らの了解の下で
行われていたことは明白である。加えて,同人らは,被告A6をはじめと
する後任の取締役らに対して損失隠しについての是正の指示や要望をし
た形跡は一切なく,自らの指示によって実行され,損失隠しによる有価証
券報告書等の虚偽記載という結果発生を防止するための積極的な行為を
何らしていない。これらのことからすれば,承継前被告A1及び被告A5
が取締役であった時代に既にされていた有価証券報告書等の虚偽記載が,
同人らの退任後においても継続してされることは,当然の因果の流れとい
うべきであり,これにより会社原告に生じた本件罰金等相当額の損害は,
通常生ずべき損害に当たる。
仮に,これが通常損害とは認められないとしても,承継前被告A1及び
被告A5は,会社原告に生じた含み損を計上しないというスタンスを一貫
して採り続けているとともに,最後まで適正な方法により含み損が計上さ
れないままであろうと予想しており,かかる認識の下に損失分離スキーム
の構築の実行を指示していたのであって,自らが取締役を退任した後も,
被告A6らによって虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出され続
けるであろうことを予見し,又は予見し得たのであるから,前記損害は,
承継前被告A1及び被告A5の善管注意義務違反によって生じた特別損
害に当たる。
これに対し,承継前被告A1及び被告A5は,被告A6らの故意行為が
介在したことを理由に,自らの善管注意義務違反行為と損害との間の因果
関係を否定しているが,本件有価証券報告書等に虚偽記載がされる経緯に
鑑みれば,提出時点の代表取締役らの行為の介在は,客観的に見て,予期
せざる第三者の故意行為の介入ではない。むしろ,被告A6らによる本件
有価証券報告書等の提出行為は,前記運命共同体の損失隠しの継続という
目的の下において予定されていた必然的な成り行き(いわば共犯による続
行行為)であり,損失隠しの継続という目的から切り離された被告A6ら
による独立の意思決定と評価されるものではないから,これにより相当因
果関係が否定されることはない。
また,被告A5は,四半期報告書の虚偽記載が課徴金の対象になる旨の
改正がされたのは,平成18年6月14日に公布された「証券取引法等の
一部を改正する法律」(平成18年法律第65号)であることを理由とし
て,本件課徴金と平成17年6月29日会社原告の取締役を退任した被告
A5の行為との間に相当因果関係がない旨も主張する。しかしながら,既
に平成15年4月より証券取引所の適時開示ルールに基づき,上場会社に
おいては四半期業績の概況の開示が義務付けられていたところ,株式を上
場している会社の企業内容の適正な開示の要請は有価証券報告書のみな
らず四半期報告書にも等しく当てはまり,四半期報告書であっても,有価
証券報告書と同様,その内容に虚偽記載があってはならないことはいうま
でもない。そして,仮に,四半期報告書に虚偽記載があれば,これに起因
して会社原告に様々な経済的負担(損害)が生じることはいわば当然の事
態であるし,そうでないとしても,会社原告に,有価証券報告書に虚偽記
載があった場合と同様の経済的負担が生じることは予見し又は予見し得
たというべきであるから,本件四半期報告書の虚偽記載に係る本件課徴金
相当額の損害は,通常損害又は特別損害に当たる。
b被告A6,被告A7及び被告A8について
本件有価証券報告書等の虚偽記載は,損失分離状態の下で生じた会社原
告の会計の誤りに起因するものであるから,これらの被告らの損失分離状
態の維持等に係る善管注意義務違反と本件罰金等の支払との間に相当因
果関係があることは明らかである。
虚偽記載のある本件有価証券報告書等の提出に係る善管注意義務違反と
の間の因果関係
a被告A6,被告A7及び被告A8について
本件有価証券報告書等の提出に係る被告A6,被告A7及び被告A8の
善管注意義務違反により,会社原告は,本件罰金等合計7億1986万円
の支払を余儀なくされたのであるから,本件罰金等相当額が前記被告らの
善管注意義務違反と相当因果関係のある損害である。
b被告A9について
被告A9が提出を阻止すべき注意義務を怠った本件有価証券報告書は,
本件罰金の支払を命じる刑事判決における罪となるべき事実の一部と関
連し,本件罰金7億円は合計5通の虚偽記載のある有価証券報告書を提出
したことによるものであるから,被告A9の善管注意義務違反と相当因果
関係のある損害は,本件罰金額の5分の1に当たる1億4000万円であ
る。また,本件四半期報告書は,本件課徴金の支払を命じる納付命令のう
ち最終的に取り消されなかった部分と関連するため,本件課徴金1986
万円は被告A9の善管注意義務違反と相当因果関係のある損害である。
(被告A2ら3名の主張)
ア法人に対する罰金は,法人を名宛人として法人自体を罰するものである。金
商法上も,法人とその代表者等とでは罰金の上限額が異なり,法人に対する上
限額の方が多額となっており(同法207条),仮に法人に科された罰金につ
いても取締役が会社に対して損害賠償責任を負うとすると,その実質は二重処
罰であり,法人を個人とは別に罰した趣旨が全うされないことになるから,本
件罰金は取締役が賠償責任を負うべきものではない。
イ仮に,承継前被告A1が取締役であったときから損失分離状態があったとし
ても,本件有価証券報告書等の提出時において,会社原告の代表取締役やその
提出業務に携わる取締役は,損失分離状態があることを認識していたのである
から,虚偽記載のある本件有価証券報告書等が提出されたのは,当該代表取締
役や当該取締役の選択の結果である。したがって,承継前被告A1の在任中の
行為と損害との間には,道具とはいえない第三者の行為が介在しており,因果
関係は中断している。
株式会社の代表取締役や財務担当の取締役は,毎年の株主総会で取締役に選
任された上で取締役会で選定されるものであり,承継前被告A1は,退任から
3年ないし7年後における代表取締役,財務担当取締役ないし財務グループ従
業員を選ぶことに全く関与できない。また,損失分離スキームにより分離した
損失は,将来的に減少したり解消されたりすることがあり得たのであって,承
継前被告A1の退任時において,損失を隠し続けなければならないことが予定
されていたわけではない。損失分離スキームの維持については,関与者の間で
も公表する意見が出るほど考えが揺れていたのであり,同スキームの維持が不
動の方針ではなかった。さらには,承継前被告A1は,取締役退任後に,有価
証券報告書等の提出に関与したり指示をしたりするなどの行為をしていない。
これらのことからすれば,本件有価証券報告書等の提出は当然の因果の流れと
は到底いえず,会社原告が主張する承継前被告A1の善管注意義務違反と本件
有価証券報告書等の虚偽記載や提出に基づく本件罰金等の納付との間には,相
当因果関係がない。
(被告A5の主張)
ア刑事罰や課徴金制度は,法人を名宛人として法人自体を罰するものであり,
これらの罰金等を取締役の賠償責任額に含めるべきではない。本件罰金は,金
商法207条1項1号に基づくものであるところ,同規定はいわゆる両罰規定
であり,違法行為を行った自然人の刑事責任を問うとともに,業務主である法
人自身の過失を推定して法人固有の責任を問うものであるから,自己の責任に
基づいて科された刑罰を他者に転嫁することは,刑罰の一身専属性に反して許
されない。法人を自然人とは別に処罰するという立法者の意図は,本件罰金に
ついて定めた両罰規定が,平成4年改正(平成4年法律第73号)によって自
然人の罰金額との連動方式から法人重課へ変更された事実や同改正の経緯か
らも明らかである。また,本件課徴金について,金商法172条の4は,課徴
金額を600万円又は発行者が発行する算定基準有価証券の市場価格の総額
の10分の6のいずれか多い額と定めているところ,当該規定の立法趣旨は,
違法行為によって法人たる会社が得た利益を国家が剥奪するというものであ
り,自然人に対する制裁という目的はなく,専ら法人に対する制裁が意図され
ている。このような立法趣旨からすれば,本件罰金等は,会社原告に対し,法
人として現実に有する経済規模や社会的作用に相応しい制裁を社会の名にお
いて科したものであって,これによって被った損害につき相当因果関係が認め
られるのは法人たる会社原告のみである。
イ本件課徴金は,本件四半期報告書の虚偽記載に対して課されたものであると
ころ,四半期報告書の虚偽記載が課徴金の対象になる旨が定められたのは,平
成18年6月14日公布された「証券取引法等の一部を改正する法律」(平成
18年法律第65号)においてであるから,会社原告の取締役を退任した平成
17年6月29日以前の被告A5の行為と本件課徴金の支払との間には,相当
因果関係がない。
ウ本件有価証券報告書等は,被告A5が会社原告の取締役を退任した後約2年
間が経過した平成19年6月28日以降に提出されたものである。その内容は,
当該事業年度における会社の数々の意思決定を反映したものであり,その作
成・提出も,当該行為時に取締役等の地位にある者の経営判断ないし意思決定
に基づいて行われたものである。例えば,平成19年9月に被告A7及び被告
A8がGCNVVを中途解約して中途解約金を受領したことや,本件国内3社
の株式取得名目で合計607億9500万円を支出したことなどは,被告A5
の退任した後に,被告A5の与り知らぬところで,後任の役員らにおいてされ
たものであって,因果関係の切断を認めるに十分な事情というべきである。ま
た,後任の役員は被告A5の意思とは無関係に選任・解任されるため,被告A
5が退任後に就任した役員等の意思決定に影響を与えることはできず,強固な
運命共同体など存在し得ない。これらのことからすると,被告A5の在任中の
行為と,本件罰金等の支払によって生じた損害との間には,被告A5が関与す
ることのできない,本件有価証券報告書等の提出時の役員等による重大な経営
判断ないし意思決定が介在しているというべきであって,これにより両者の因
果関係は切断されたと評価すべきである。
(被告A6,被告A7及び被告A8の主張)
罰金及び課徴金を会社の損害として取締役個人に転嫁することは許されな
い旨の被告A2ら3名及び被告A5の主張を有利に援用する。
(被告A9の主張)
ア被告A9は,平成23年6月29日開催された株主総会において初めて会社
原告の取締役に選任されたものであり,本件有価証券報告書は,同株主総会当
日までに内容が確定して提出するだけの状態になっていた上,同株主総会が終
了した数時間後には提出されており,被告A9がその提出を阻止することは不
可能であった。
被告A9は,平成17年1月1日ITXに出向した後,平成20年5月31
日会社原告を退社し,同年6月から平成22年6月までの間ITXに専属して
同社代表取締役社長を務めており,同月末頃まで会社原告の従業員でなかった
ことなどから,本件有価証券報告書及び本件四半期報告書の連結純資産額等の
記載が間違っているという認識がなかった。被告A9には,「被告A6による
業務執行を監視して虚偽記載のない有価証券報告書等を提出させるための措
置を採るべき注意義務」の前提となる本件有価証券報告書の提出を回避する可
能性がないから,同被告が当該注意義務に違反したということはできない。
イ仮に,被告A9が虚偽記載のない本件有価証券報告書等を提出させるための
措置を採るべき注意義務を尽くしたとしても,本件有価証券報告書等の提出を
回避し得なかった蓋然性が認められることは否定できないから,当該注意義務
違反と本件有価証券報告書等の提出に係る損害との間に因果関係を認めるこ
とはできない。
ウ罰金及び課徴金を会社の損害として取締役個人に転嫁することは許されな
い旨の被告A2ら3名及び被告A5の主張を援用する。
第2事件
(株主原告の主張)
ア第2事件被告らの善管注意義務違反
取締役の一般的な善管注意義務の内容
取締役は,会社に対して善管注意義務を負っており,他の取締役の行為が
法令・定款を遵守し適正に行われているか否かを監視する義務を負うが,そ
の監視対象は取締役会に上程された事項にとどまらない。そして,取締役は,
他の取締役が関与する違法行為の存在が疑われる場合には,これを調査する
義務を負い,調査の結果違法行為が行われたと判断される場合には,それに
ついて公表その他必要な措置を講ずる義務等を負うと解するべきである。
平成23年9月30日開催の取締役会において第2事件被告らが負う善
管注意義務の内容及び善管注意義務違反行為
FACTA8月号には本件記事1が掲載され,FACTA10月号には本
件記事2が掲載されたところ,第2事件被告らは本件各記事の内容を把握し
ていた。
Bは,本件各記事を読んで,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収
に係るFAへの報酬名目の金銭支払につき疑念を抱き,平成23年9月23
日頃から同月28日頃までの間,被告A6及び被告A8に対して電子メール
のレター(以下,同月23日付けのレターを「本件レターⅠ」,同月24日
付けのレターを「本件レターⅡ」,同月25日付けのレターを「本件レター
Ⅲ」,同月26日付けのレターを「本件レターⅣ」,同月27日付けのレタ
ーを「本件レターⅤ」といい,Bが送付したレターを総称して「本件各レタ
ー」という。)を送付し,上記疑念に関する質問に対する回答と資料の提供
を要求し,被告A8から,回答を受領するとともに,平成21年5月17日
付けの第三者委員会報告書(以下「平成21年第三者委員会報告書」という。)
及びG公認会計士事務所作成に係る平成20年2月29日付け本件国内3
社の各株主価値算定報告書の送付を受けた。第2事件被告らは,平成23年
9月24日から同月30日までの間に,Bから本件レターⅠ~Ⅴの送付を受
けるとともに,Bと被告A6及び被告A8との間で交信されたメールの内容
も把握していた。
このように,第2事件被告らは,本件各記事において会社原告のM&A活
動に関して被告A6を初めとする経営陣による違法行為の疑いなどが指摘
されていることを知っていた上,Bから本件レター等の送付を受け,当時の
経営陣に重大な違法行為が存在するとの疑いを指摘されていたこと,本件各
記事やBが指摘する疑惑の内容が具体的かつ妥当なものであったことから
すると,平成23年9月30日開催された取締役会(以下「9月30日取締
役会」という。)までに,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係る
FAへの報酬名目の金銭支払に関し,被告A6ら経営陣による違法行為が存
在する疑いがあることは明確になっていた。また,当該違法行為の疑いの中
心的な行為者が被告A6であり,同人やその協力者が,疑惑の解明を妨害し,
違法行為等の隠蔽を行う可能性があることは,容易に想定される状況にあっ
た。このような状況からすれば,第2事件被告らは,遅くとも9月30日取
締役会の時点で,Bの指摘を真剣に受け止め,違法行為の有無について調査
すべき注意義務を負っていたというべきである。
それにもかかわらず,第2事件被告らは,9月30日取締役会において,
Bの指摘を真剣に受け止めず,Bによる調査が妨害されないよう配慮するど
ころか,かえって,Bが本件レターⅠ~Ⅴ等を守秘義務が課されている監査
法人に送付したことを執拗に非難し,会社原告がジャイラス買収に伴ってF
Aに多額の金銭支払をしたことを知らなかったとの虚偽の答弁を支持し,結
局,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金
銭支払に関してまともな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けるこ
とを次回の取締役会の議題とするとの提案もしなかったのであるから,Bの
指摘を事実上無視したものであり,違法行為の存在が疑われる場合に取締役
が行うべき調査義務を怠ったというべきである。
また,第2事件被告らは,違法行為の存在が認められる場合の調査義務に
反して,被告A6ら損失隠しに直接関与した役員らの違法行為はもとより,
杜撰な判断により善管注意義務に違反していた役員ら(被告A10,被告A
11,被告A12,被告A13及び被告A14(以下「被告A10ら5名」
という。)を含む。)の違法行為を黙認ないし放置したものであり,監視義
務にも違反したものである。
10月14日取締役会に出席した第2事件被告らが負う善管注意義務の
内容及び善管注意義務違反行為
Bは,平成23年10月12日,H弁護士に対し,①本件国内3社の株式
取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,会社原告
の顧問弁護士として,違法行為が疑われる役員個人との相談及びこれに対す
る助言は当然禁止されていることを指摘するとともに,②同年9月23日以
降会社原告の顧問弁護士として提供した全ての書類を早急に提出するよう
要請するとともに,書類は存在しないが,会合,電話その他の手段による交
信がされた場合には,その目的と内容を早急に報告するよう要請するメール
を送信した。
Bは,平成23年10月13日午前1時10分,第2事件被告らを含む会
社原告の取締役及び監査役並びにH弁護士に対し,平成23年10月11日
付けのプライスウォーターハウスLegalLLP.(以下「PwC」という。)作
成の中間報告書(以下「PwC中間報告書」という。)を添付したレター(以
下「本件レターⅥ」という。)を送付した。PwC中間報告書には,結論部
分において,「現在までに実施したレビューに基づくと,我々は不適切な行
為が行われたと確信することはできないが,支払われた総報酬金額と今まで
になされたいくつかの非通例的な意思決定を考慮すると,現段階では不適切
な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられる。」との記
載があり,Bは,本件レターⅥの中で被告A6及び被告A8の辞任を要求し
た。
前記の9月30日取締役会に至るまでの事情に加え,Bが,第2事件被
告らを含む会社原告の取締役及び監査役並びにH弁護士に対し,PwC中間
報告書が添付された本件レターⅥを送付し,被告A6及び被告A8に対し役
員から辞任するよう要求していることからすると,10月14日取締役会の
時点では,9月30日取締役会の時点に比して違法行為が存在する疑いは一
層明確になっており,もはや違法行為の存在はほぼ確実な状況にあった。
このような状況の下では,第2事件被告らは,10月14日取締役会にお
いて,①本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬名
目の金銭支払に関し,正式に議題として取り上げて真剣に議論し,未だBに
提供されていない関連資料の提出を要請し,同人が詳細な調査を実施できる
よう対応すべきであるとともに,②Bから違法行為の責任を問われて役員を
辞任するよう要求されている被告A6,被告A8及びその協力者が,今後の
調査を妨害し不祥事の隠蔽を図る危険性があることは明白であったから,被
告A6及び被告A8に対し,より詳細な調査結果が判明するまでは業務から
離れて自宅待機を勧告するなど,Bの調査に対する妨害を回避する方策を採
るべきであった。
それにもかかわらず,第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を除
く。)は,平成23年10月13日,被告A6の呼びかけに応じてH弁護士
の事務所に参集し,翌日開催される取締役会において,Bを,会社原告の代
表取締役及び社長執行役員,CEOその他関連子会社を含めた全ての役職か
ら即時解職すると同時に,被告A6を社長に復帰させることを確認し,その
手順等を打ち合わせた。
そして,第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を除く。)は,10
月14日取締役会において,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に係
るFAへの報酬名目の金銭支払につき一切議論することなく,不祥事の責任
を追及されていた被告A6や被告A8の意向に沿って,前日打ち合わせた手
順通り,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEO等から解職し,これに代
わって,被告A6に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議した。
これらのことからすれば,第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を
除く。)がBによる疑惑追及や調査を妨害するために前記一連の決議をした
ことは明白であり,同被告らは,損失隠しに直接関与した役員らの違法行為
を黙認ないし放置しただけでなく,被告A6らによる違法行為の隠蔽行為に
加担したものとして,善管注意義務及び監視義務に違反する。
10月14日取締役会に出席しなかった被告A17及び被告A19が負
う善管注意義務の内容及び善管注意義務違反行為
10月14日取締役会に出席しなかった被告A17及び被告A19も,9
月30日取締役会には出席し,その後,Bから,PwC中間報告書が添付さ
れた本件レターⅥの送付を受けている。そして,被告A17及び被告A19
は,被告A6から,平成23年10月13日,10月14日取締役会の開催
通知の電子メールを確認した時点で,自らは海外出張により同取締役会に出
席できないことが確定したのであるから,同取締役会において,本件国内3
社の株式取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払といっ
た問題を議題として取り上げるよう提案し,また,Bの解職や被告A6の社
長復帰等には絶対に反対であることを表明しておくべきであった。それにも
かかわらず,被告A17及び被告A19は,当該提案をせず,Bの解職や被
告A6の社長復帰等について何らの意見も表明しなかった。
このように,被告A17及び被告A19は,10月14日取締役会におい
てBが解職され,疑惑を指摘されていた被告A6を社長に復帰させるとの決
議がされたことを知った後も,何ら異議を表明することなくこれを追認して
いるのであるから,同取締役会に出席していたその余の第2事件被告らと同
様の責任を負う。
イ損害の発生及び因果関係
各外部委員会の費用合計7億1944万9555円
a会社原告は,第2事件被告らの善管注意義務違反行為により,本件第三
者委員会の設置を余儀なくされ,さらには,経営改革委員会,取締役責任
調査委員会及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなり,それ
らの費用として合計7億1944万9555円を出捐した。
b9月30日取締役会における第2事件被告らの善管注意義務違反行為
との相当因果関係
第2事件被告らが,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式
取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,
それぞれの判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会
等においてBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配
慮を怠らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋
然性が高く,Bの解職決議がされることもなく,会社原告が各外部委員会
費用を出捐することもなかった。したがって,9月30日取締役会におけ
る第2事件被告らの善管注意義務違反行為と上記出捐との間には,相当因
果関係がある。
c10月14日取締役に出席した第2事件被告らの善管注意義務違反行為
との因果関係
第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を除く。)が,10月14
日取締役会において,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEO等から解
職し,被告A6に社長執行役員を兼務させることを承認する旨決議したこ
とによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広
く行われ,会社原告に対する社会的批判が強まったため,会社原告は,前
記のとおり,本件第三者委員会,経営改革委員会,取締役責任調査委員会
及び監査役等責任調査委員会を設置せざるを得なくなった。前記被告らが
Bの解職や被告A6の社長執行役員への復帰をさせなければ,Bの指揮の
下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,会社原告が各外部
委員会費用を出捐することもなかったのであるから,前記被告らの善管注
意義務違反行為と前記出捐との間には,相当因果関係がある。
d被告A17及び被告A19の善管注意義務違反行為との間の相当因果関

被告A17及び被告A19が,10月14日取締役会に先立ち,同取締
役会においてBの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うよう提案し,B
の解職や被告A6の社長復帰等には絶対に反対であるとの意思を表明して
いれば,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が高く,
会社原告が各外部委員会費用を出捐することもなかったのであるから,被
告A17及び被告A19の善管注意義務違反行為と前記出捐との間には,
相当因果関係がある。
Bとの和解合意により同人に支払った和解金
12億7348万6900円
a会社原告は,Bが不当に解職等をされたことにより,同人に対し,12
億7348万6900円の和解金(以下「本件和解金」という。)を支払
わざるを得なくなった。
b9月30日取締役会における第2事件被告らの善管注意義務違反行為
との相当因果関係
9月30日取締役会において,被告らが,本件国内3社の株式取得やジ
ャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払の経緯や原因,それぞれ
の判断の妥当性等につき真剣に議論し,少なくとも後の取締役会等におい
てBから調査結果の報告を受けることを提案し決議するなどの配慮を怠
らなければ,Bの指揮の下で調査が継続され,真相究明がされた蓋然性が
高く,Bの解職決議がされることもなく,会社原告が本件和解金を支払う
こともなかった。したがって,9月30日取締役会における第2事件被告
らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相当因果関係がある。
c10月14日取締役に出席した被告らの善管注意義務違反行為との因
果関係
10月14日取締役会において,第2事件被告ら(被告A17及び被告
A19を除く。)が,Bの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うことを
決議し,Bの解職を決議することがなければ,会社原告が本件和解金を支
払うこともなかったのであるから,前記被告らの善管注意義務違反行為と
前記支払との間には,相当因果関係がある。
d被告A17及び被告A19の善管注意義務違反行為との間の相当因果
関係
被告A17及び被告A19が,10月14日取締役会に先立ち,同取締
役会においてBの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うよう提案し,B
の解職には絶対に反対であるとの意思を表明していれば,Bが解職されな
かった蓋然性が高く,会社原告が本件和解金を支払うこともなかったので
あるから,前記被告らの善管注意義務違反行為と前記支払との間には,相
当因果関係がある。
会社原告の信用失墜による損害10億円
a会社原告の株価は,Bの解職及び被告A6の社長復帰が発表された平成
23年10月14日から下落し始め,その後も下落が止まらず,会社原告
が一連の損失隠しの事実を公表した日の前日である同年11月7日の終
値は1034円であって,同年10月13日の終値(2482円)の半値
以下となった(この間の下落幅は1448円である。)。同年11月8日
以降の株価下落は,一連の損失隠しの事実の公表に起因するものであると
しても,それ以前の株価の下落は,第2事件被告らの善管注意義務違反行
為を原因として,会社原告の信用が毀損されたために生じたものである。
平成23年3月期の会社原告の発行済株式総数(自己株式を含む。)は2
億7128万3608株であるから,会社原告の時価総額は3928億1
866万4384円(=271,283,608株×1,448円)も減少したことに
なる。
このように,会社原告の信用が著しく毀損されたことは明らかであり,
その損害額は,どれほど少なく見積もっても10億円を下らない。
b9月30日取締役会における第2事件被告らの善管注意義務違反行為
との相当因果関係
第2事件被告らは,9月30日取締役会において,本件国内3社の株式
取得やジャイラス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関してまと
もな議論は一切せず,Bから調査結果の報告を受けることを次回の取締役
会の議題とするとの提案もしなかったため,その後,被告A6ら損失隠し
に直接関与した者の意向に沿って,Bが代表取締役及び社長執行役員を解
職され被告A6が社長執行役員に復帰するという過程を経て,Bを解職し
て不祥事を隠蔽したのではないかとの報道等が広く行われるに至り,会社
原告に対する社会的批判が強まり,結果として,会社原告の信用は著しく
失墜した。
したがって,9月30日取締役会における第2事件被告らの善管注意義
務違反行為と前記信用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
c10月14日取締役に出席した第2事件被告らの善管注意義務違反行
為との因果関係
第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を除く。)が,10月14
日取締役会において,Bを解職し被告A6を社長執行役員に復帰させるこ
とを承認する旨決議したことによって,Bを解職して不祥事を隠蔽したの
ではないかとの報道等が広く行われるに至り,会社原告に対する社会的批
判が強まり,結果として,会社原告の信用は著しく失墜したのであるから,
前記被告らの善管注意義務違反行為と前記信用失墜による損害との間に
は,相当因果関係がある。
d被告A17及び被告A19の善管注意義務違反行為との間の相当因果
関係
被告A17及び被告A19が,10月14日取締役会に先立ち,同取締
役会においてBの指摘に真摯に対応して適切な調査を行うよう提案し,B
の解職には絶対に反対であるとの意思を表明していれば,Bが解職されな
かった蓋然性が高く,会社原告の信用が著しく失墜することもなかったの
であるから,被告A17及び被告A19の善管注意義務違反行為と前記信
用失墜による損害との間には,相当因果関係がある。
(被告A10ら5名の主張)
ア善管注意義務違反について
9月30日取締役会における善管注意義務違反について
①Bからの質問や資料提供の要請に対しては,被告A8が真摯かつ適時に
対応していたこと,②Bに提供された資料の中には,会社原告の取締役の善
管注意義務違反行為の存在を否定する平成21年第三者委員会報告書も含
まれていたこと,③Bは,9月30日取締役会において,問題とされる取引
の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分確信できたので,
今後は前向きに未来に目を向けるつもりであるとの趣旨の発言をしたこと
からすると,9月30日取締役会の時点で,本件各記事やBが役員全員に送
付した本件レターⅠ~Ⅴにより,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収
に係るFAへの報酬名目の金銭支払に関し,被告A6らによる違法行為が存
在することが明確になっていたとはいえない。
10月14日取締役会における善管注意義務違反について
PwC中間報告書の結論部分の記載は違法行為が存在したと結論付ける
ものではないから,Bが被告A10ら5名に送付した本件レターⅥ及びPw
C中間報告書によっても,10月14日取締役会の時点で,違法行為の存在
がほぼ確実な状況になったとはいえない。したがって,被告A6らによる違
法行為を認識していない被告A10ら5名が,Bから送られてきたPwC中
間報告書等を見て直ちに違法行為の存在を明確に認識しなかったとしても,
不合理とはいえない。
被告A10ら5名は,10月14日取締役会の時点で,Bによる疑惑の追
及や調査を妨害するために同人の解職等の決議をしたことはない。被告A1
0ら5名がBの解職に賛成したのは,同人が,ヨーロッパに滞在してほとん
ど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,会社原告の総務部か
らの報告も十分行えないとの状況の中,突如として,PwC中間報告書を送
付して被告A6及び被告A8の辞任を要求する行為に出たことを考慮し,他
の経営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定
に支障を来す状態に陥っていると判断したためである。同月13日の集まり
についても,被告A6から,Bは社長として問題があるから翌日の取締役会
で解職したい旨を告げられ,H弁護士からも,本日集まってもらったのはB
解職の段取りを確認するためであるという趣旨の説明をされた上で解職の
手続の指導を受けたのであって,十分に信頼できる顧問弁護士たるH弁護士
に相談し,同弁護士から助言を得ていることに鑑みれば,Bを解職すること
は,自らの取締役としての善管注意義務に違反するものではないと考えるの
が通常である。
被告A10ら5名を含む会社原告の取締役は,B解職の7日後である平成
23年10月21日には本件第三者委員会の設置を準備している旨のプレ
スリリースを行い,同年11月1日には実際にこれを設置して調査を開始し,
同月8日には損失隠しを公表し,同年12月6日には本件第三者委員会から
調査報告書の提出を受けていることからすると,まさに調査義務を尽くして
いるものである。会社原告の株価が急落し,不正会計疑惑等に関する報道が
過熱して収拾がつかなくなったために,本件第三者委員会の設置が決定され
たといった事実や,同年11月8日発売の週刊朝日に損失隠しに係る疑惑の
真相を詳細に記載した記事が掲載されたため,これを知った被告A6が,同
日,損失隠しを公表したといった事実はなく,被告A10ら5名は,本件第
三者委員会は公正な調査を行って説明責任を果たすためのものという認識
であった。
以上によれば,被告A10ら5名に,株主原告が主張するような善管注意
義務違反はない。
イ損害の発生及び因果関係について
本件において,各外部委員会による調査は必要不可欠であり,9月30日
取締役会及び10月14日取締役会において被告A10ら5名がいかなる
対応をしたかにかかわらず,各外部委員会への費用の支払はされたのである
から,被告A10ら5名の善管注意義務違反行為と前記費用の出捐との間に
は条件関係を欠き,相当因果関係も認められない。
外部の専門家により構成された本件第三者委員会の設置は,まさに取締役
による調査義務の履行であって,調査義務の履行により生じた費用をもって,
調査義務違反により生じた費用と解する余地はない。
10月14日取締役会におけるBの解職決議は,同人が,他の取締役と十
分意思疎通することができていない上,9月30日取締役会の後,突如とし
て,PwC中間報告書を送付して被告A6及び被告A8の辞任を要求するな
ど,独断的な行動を採ったことを理由とするものであり,9月30日取締役
会における被告A10ら5名の対応如何にかかわらず,同取締役会の後に発
生した事由に起因して,適法にされたものである。したがって,①9月30
日取締役会における被告A10ら5名の対応,②10月14日取締役会にお
けるBの解職決議,③これを前提とする本件和解金の支払のそれぞれの間に
は条件関係を欠く。
また,本件和解金の支払は,9月30日取締役会及び10月14日取締役
会における被告A10ら5名の対応から通常生ずべき損害ではない。また,
Bが9月30日取締役会の時点で「私は安心したのです。」などと発言して
いることからすれば,その後,Bを解職するという事態が生じることを予見
できず,予見可能な特別損害にも当たらない。
会社原告の信用失墜による損害額が10億円を下らないことにつき,具体
的な主張・立証はない。時価総額の喪失,すなわち,株価の下落をもって,
当該会社に信用失墜による損害があったと認めるべき合理的理由はない。
会社原告の信用失墜及びそれに伴う株価の下落は,被告A6らによる会社
原告の損失隠しや,暴力団や反社会的勢力に資金が流れているとの誤った報
道によって生じたものであり,被告A10ら5名の行為によるものではなく,
相当因果関係は認められない。
(被告A15の主張)
ア善管注意義務違反について
9月30日取締役会における善管注意義務違反について
被告A15が9月30日取締役会までに受領した資料は,本件レターⅠ~
Ⅲの英文部分と被告A8が平成23年9月24日及び同月25日にBに宛
てて送信した英文の電子メールを印刷したもののみである。上記レターの日
本語訳は受け取っておらず,本件レターⅣ及びⅤについては,英文部分及び
日本語訳ともに受け取っていない。Bからは,9月30日取締役会までに上
記英文部分の確認を求めるとの説明はなく,これらの資料が送付されてきた
のも9月30日取締役会の直前である同月27日であったため,社外取締役
であり会社原告以外にも職務を有する被告A15は,9月30日取締役会の
時点において,本件レターⅠ~Ⅴの内容を把握していなかった。
9月30日取締役会の時点で,被告A15において関与者らによる違法行
為の存在が明確になっていたとはいえず,被告A15に善管注意義務違反行
為があるとする株主原告の主張は,その前提を欠く。
10月14日取締役会における善管注意義務違反について
被告A15は,PwC中間報告書を受領していない。被告A15は,平成
23年10月13日にH弁護士の事務所に赴いた際,PwC中間報告書の存
在を認識したが,現物を見せられたわけではなく,何ら不適切な行為の存在
を認めるものでないことを教示されたにすぎない。また,被告A15は,H
弁護士がBの解職に関与し,その解職手続を指導していたため,同解職につ
いて法的な問題が生じることはあり得ないと考えていた。
イ損害の発生及び因果関係について
会社原告において,被告A6らにより,長年にわたって巨額の損失隠しが
行われていた以上,これについて適切に真相究明を行い,かつ,第三者に対
して説明責任を果たすためには,単なる内部調査では足りず,外部の委員会
による調査を行うことは不可欠である。各外部委員会はB解職の有無にかか
わらず設置されるべきものであるから,被告A15の善管注意義務違反行為
と各外部委員会の費用の出捐との間には条件関係を欠き,相当因果関係も認
められない。
本件和解金の支払につき,Bによる英国労働審判の申立内容,同審判の審
理及び和解協議の内容や経過等が明らかにならない限り,被告A15の善管
注意義務違反行為と本件和解金の支払との間に相当因果関係があるという
ことはできない。
会社原告の株価の下落を含む信用失墜は,被告A6らによる長年の巨額な
損失隠しが原因であるから,被告A15の善管注意義務違反行為との間に相
当因果関係は認められない。
(被告A16,被告A17及び被告A18の主張)
ア善管注意義務違反について
9月30日取締役会における善管注意義務違反について
本件各記事は月刊誌に掲載されたものであり,裏付けとなる客観的資料の
記載もないなど,経営陣による違法行為の疑いを明確にするような内容では
なかった。また,Bからの本件各レターに対しては,被告A8がメールを受
領する都度回答し,添付資料も送付するなどの対応をしており,その対応に
不自然又は不合理な点があったわけでもなく,事情に詳しい被告A8とのや
り取りの中でBが指摘する疑惑が解消される可能性もあった。これらを踏ま
えれば,9月30日取締役会の時点で,被告A16,被告A17及び被告A
18(以下「被告A16ら3名」という。)にとって,経営判断に基づいて
行われた本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に係るFAへの報酬
名目の金銭支払について,被告A6ら経営陣による違法行為が存在する疑い
があることが明確になっていたとはいえない。疑惑を指摘していたB自身,
9月30日取締役会において,被告A6や被告A8と話し合った結果,本件
各記事で指摘された内容に係る疑問が解消され,相互に建設的な理解に達し
たこと,今後は前向きに未来に目を向けていきたいことを述べていたのであ
るから,被告A6らの違法行為を全く認識していない被告A16ら3名にと
っては,当該疑惑について,直ちに調査を進めなくてはならない状況ではな
かったのであり,株主原告が主張するような義務が認められないことは明ら
かである。
10月14日取締役会における善管注意義務違反について
10月14日取締役会に出席した被告らが負う善管注意義務については,
そのような調査義務自体の発生根拠が不明確である上,なぜ10月14日取
締役会の時点を問題とするのか,なぜ被告A6や被告A8が今後の調査を妨
害し不祥事の隠蔽を図る危険性があることが明白であるのかも不明確であ
る。PwC中間報告書はあくまで中間報告書にすぎず,その結論についても
「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと
考えられる。」と記載されているにすぎないから,PwC中間報告書やそれ
に基づくBの電子メールによる指摘をもって,10月14日取締役会の時点
で,違法行為が存在する疑いが一層明確になったとか,違法行為の存在がほ
ぼ確実な状況になったとはいえず,被告A16ら3名が不祥事の隠蔽を図る
危険性を認識する前提を欠いている。
被告A16及び被告A18がBの解職に賛成したのは,同人が,ヨーロッ
パに滞在してほとんど来日せず,他の取締役との意思疎通も不十分であり,
その経営等の進め方が独断専行的で,本件についても,独断でPwCに対し
て社内秘の資料を送付するなどした上,役員全員に対し,外部機関による中
間報告書を一方的に送付して被告A6や被告A8の辞任を迫るなど,他の経
営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離を生じ,経営の意思決定に支
障を来す状態に陥っていると判断したためである。
被告A16ら3名は,Bが指摘する疑惑について,違法行為が存在すると
までは考えなかったものの,その解明のために何らかの調査等を行う必要が
あるとは認識しており,現に,平成23年10月21日に本件第三者委員会
を立ち上げることを公表し,同年11月1日には本件第三者委員会を設置し
て疑惑についての調査を委託し全容を明らかにしたのであるから,被告A6
らによる違法行為を黙認ないし放置したことにはならないし,これに加担し
たことにもならない。
以上によれば,被告A16ら3名に善管注意義務違反行為が認められない
ことは明らかである。
被告A17の善管注意義務違反について
平成23年10月13日に電子メールで送付された10月14日取締役
会の開催通知には,Bの解職や被告A6の社長復帰といった議題は記載され
ていなかったのであるから,被告A17が,同電子メールの記載からBの解
職を事前に認識することはできず,Bの解職や被告A6の社長復帰に反対で
ある旨を表明することはそもそも不可能であった。
また,被告A17は,被告A6の違法行為について全く認識しておらず,
10月14日取締役会の時点で違法行為の存在がほぼ確実な状況でもなか
ったのであるから,同取締役会において承認可決されたBの解職について,
事後的に異議を表明する義務がないことは明らかである。
イ損害の発生及び因果関係について
本件第三者委員会,取締役責任調査委員会及び監査役等責任調査委員会は,
被告A6らが損失隠しのために違法行為を行ったことを原因又は契機とし
て設置されたものであるから,被告A16ら3名の善管注意義務違反行為と
これらの委員会費用の出捐との間には,相当因果関係がない。また,経営改
革委員会は,被告A6らの違法行為を受けて再発防止策の策定等を目的とし
て設置されたものであり,株主原告が主張する善管注意義務違反行為とは全
く関係がない。
本件和解の合意は,Bが不当に役職から解職されたことを認めた上でされ
たものではなく,また,英国の裁判所が,同人が不当に役職から解職された
と認定したわけでもないから,株主原告が主張する善管注意義務違反行為と
本件和解金の支払との間には相当因果関係がない。
株主原告が主張する信用失墜による損害は,極めて抽象的・多義的な主観
的評価(印象論)に過ぎない。また,株価の下落は株主に発生した損害であ
って,会社原告に発生した損害ではない。
(被告A19の主張)
ア善管注意義務違反について
9月30日取締役会における善管注意義務違反について
被告A8が,Bからの質問や資料提供の要請に対し,資料等を添付して迅
速かつ合理的な回答を行うなどしていたことからすると,平成23年6月2
9日に社外取締役に就任したばかりの被告A19が,同年9月30日の時点
で,被告A6らによる違法行為の存在や違法行為等の不祥事の隠蔽を行う危
険性を認識することは不可能であり,被告A6らによる違法行為の疑いが明
確になったことを根拠とする善管注意義務違反に係る株主原告の主張は理
由がない。
また,9月30日取締役会において,B自身が,被告A6らの違法行為に
ついては全て解決した旨の発言をしていることからすると,被告A19に,
被告A6らの違法行為の有無を調査すべき義務(疑惑を解明しようとするB
が妨害されないようにする義務)は生じることはあり得ない。
10月14日取締役会における善管注意義務違反について
PwC中間報告書は,「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除
することはできないと考えられる。」と述べるにとどまり,結論として,違
法行為があったと断定するものではない。また,被告A19は,平成23年
10月5日から同月18日までの間オーストリアに出張しており,電子メー
ルを閲覧できる電子機器を出張に携行しなかったため,この期間に電子メー
ル(PwC中間報告書が添付されたものを含む。)を確認できる状況になか
った。被告A19が同電子メールの正確な内容を把握したのは,日本に帰国
した後の同月19日である。
したがって,10月14日取締役会の時点で,9月30日取締役会の時点
に比して違法行為が存在する疑いが一層明確になっていたとはいえず,善管
注意義務違反に係る株主原告の主張はその前提事実を欠いており,理由がな
い。
被告A19は,平成23年10月17日出張先のニュースでBの解職や被
告A6の社長復帰等の事実を知り,直ちに帰国の途について同月18日に帰
国するや,同月19日から,会社原告の疑惑に係る説明責任を果たすための
本件第三者委員会の立ち上げに関与し,本件国内3社の株式取得やジャイラ
ス買収に係るFAへの報酬名目の金銭支払時に在籍していなかった社外取
締役として,本件第三者委員会のメンバー選定等の役割を果たした。その後
も,被告A19は,経営改革委員会に関与し,また,同様の目的のために発
足した指名委員会委員としても活動するなど,会社原告の疑惑解明の原動力
となった。
したがって,被告A19が,10月14日取締役会におけるBの解職等の
決議後,何ら異議を表明することなくこれを追認したことを前提とする株主
原告の主張は,理由がない。
イ損害の発生及び因果関係について
被告A19の善管注意義務違反行為と損害との間の相当因果関係に関する
株主原告の主張は,いずれもその前提事実を欠いており,理由がないことは明
らかである。
抗弁
ア消滅時効の抗弁の成否(第1類型及び第2類型関係)
(被告A2ら3名の主張)
会社原告の承継前被告A1に対する本件訴訟提起は,平成24年1月8日付
けでされているため,承継前被告A1は,本件口頭弁論期日において,平成1
4年1月8日より前の取締役としての行為を理由とする善管注意義務違反に
よる損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(被告A5の主張)
本件金利及び本件ファンド運用手数料等について
被告A5は,本件口頭弁論期日において,支払日から10年を経過してい
る損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
ITX株式運用損について
ITVがITX株式9323株を購入したのは平成12年3月であり,会
社原告が本件訴訟を提起した平成24年1月8日時点において既に10年
を経過しているから,前記株式購入に係る損害賠償請求権は時効により消滅
している。被告A5は,本件口頭弁論期日において,この消滅時効を援用す
る旨の意思表示をした。
仮にそうでないとしても,ITVがITX株式を取得した目的は,ITX
株式を上場してキャピタルゲインを取得することにあるところ,上場日のI
TXの株価は高値が29万円,安値及び終値が26万5000円であり,い
ずれもITVがITX株式を取得した際の株価の半値以下であった。平成1
3年12月14日にITX株式を上場したことにより,同株式によりキャピ
タルゲインを取得することは絶望的となり,会社原告がITX株式を取得し
たことによる損害が確定した。第2類型に係る会社原告の請求は,損害が確
定した同日から10年以上経過した後にされたものである。被告A5は,本
件口頭弁論期日において,この消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
(原告らの主張)
いずれも争う。
イ信義則ないし過失相殺の抗弁の成否(第1類型,第3類型,第4類型及び第
7類型関係)
(被告A7の主張)
会社原告に損害が発生したとしても,かかる損害を発生・拡大させたことは
専ら会社原告の社長及び会長を長年にわたって務めていた承継前被告A1,被
告A5及び被告A6の指示及び決定によるものであった。被告A7は,承継前
被告A1,被告A5及び被告A6に対し,損失を開示するよう度々進言したが,
同人らからいずれも却下された(例えば,被告A7は,①平成4年1月頃,会
社原告の実現損及び含み損が合わせて約480億円に達していたことから,承
継前被告A1及び被告A5に対し,損失を開示すべきことを進言したが,承継
前被告A1から,開示することは不可能であるなどと言われ,損失を開示しな
い方針が維持され,②その後も,承継前被告A1の指示で損失を開示しない方
針が採られたが,積極的な資金運用を行って損失を取り戻そうとする承継前被
告A1の方針が損失を増大させるのみであったことから,総務・財務部長に就
任した平成9年4月頃,承継前被告A1及び被告A5に対し,積極的な資金運
用を停止すべき旨を進言したところ,同人らがこれを容れて,積極的な資金運
用は停止されることとなったが,損失を開示することについては拒絶され,③
平成12年3月期の決算時にも承継前被告A1及び被告A5に対し,損失を全
部開示すべき旨を進言し,④被告A6が代表取締役に就任した後には,同人に
対しても損失の開示について第三者に相談するよう進言したが,被告A6らか
ら拒絶された。会社原告が平成23年11月に損失を開示したのも,被告A7
が被告A6を強く説得してようやくこれに踏み切らせたためである。)。被告A
7は,承継前被告A1らの意向に従わざるを得なかったのであり,当時は内部
告発者を保護する法的環境も未整備で,仮に内部告発を行えば会社原告を倒産
させるのみならず,被告A7自身も職を失って家族を路頭に迷わせるおそれが
高かったために内部告発をすることも困難であった。会社原告の請求は,自ら
損失隠しを決定し,そのための対応を被告A7に指示しておきながら,いざ損
失隠しが露見するや,そのことによって被ったとする損害を被告A7に請求す
るものであり,クリーンハンズの原則に反する。
仮にそうでないとしても,公平の観点から,過失相殺規定の類推適用により,
賠償額は大幅に減額されるべきである。
(被告A8の主張)
使用者が,その事業の執行につきされた被用者の加害行為により損害を被っ
た場合においては,使用者は,損害の公平な分担という見地から信義則上相当
と認められる限度において,被用者に対して損害賠償請求を行い得ると解され
ている。このように,使用者に故意・過失がない場合においても,使用者の被
用者に対する損害賠償請求が制限されていることからすると,被用者が使用者
の違法な指示に従った行為について,使用者が損害賠償請求をすることは,そ
れ自体信義則に反し,許されないというべきである。被告A8は,会社原告と
しての意思決定に基づく指示に従って,損失分離スキームの構築・維持等に関
与したのであるから,会社原告あるいは同原告に代位する株主原告が損害賠償
請求をすること自体,信義則に反し,許されない。
仮に,被告A8に何らかの責任が認められるとしても,被告A8の責任原因
とされる行為は,いずれも承継前被告A1ら会社原告の代表取締役の意思決定
や指示に基づいて行われたものであり,歴代の経営者がしてきたことを継承す
る以上に,会社側の体質に起因するところが大きい。したがって,原告らの被
告A8に対する請求は,過失相殺規定の類推適用により,賠償すべき損害額は
大幅に減額されるべきである。
(被告A9の主張)
被告A7及び被告A8の主張を援用する。
(原告らの主張)
信義則ないしクリーンハンズの原則に関する主張について
損失分離スキームの構築・維持等に始まる一連の行為は,会社原告の限ら
れた取締役や従業員のみによって計画・実行されたものであり,正式な機関
決定の上でされたものではないし,仮に歴代の代表取締役の決定や指示があ
ったとしても,会社原告の決定・指示と同視し得るものでもない。被告A7
及び被告A8は,単に承継前被告A1らの決定・指示に従っていただけの消
極的な立場にあったのではなく,むしろ,これらの歴代の代表取締役の了承
の下,損失分離スキームの構築から解消に至るまで極めて長期間にわたり,
様々な方策を策定・実行するなどして,一連の行為に積極的に関与し続けて
きた者である。取締役は自ら法令を遵守するだけでなく,代表取締役の決
定・指示が取締役としての善管注意義務に違反するようなものである場合に
は,これを是正するための措置を採るべきことは当然である。被告A7及び
被告A8は,およそクリーンハンズの原則に反するなどと主張できる立場に
はなく,また,同人らに対する請求が信義則上制限されることもない。
過失相殺規定が類推適用されるべきとの主張について
前記のとおり,被告A7及び被告A8は,歴代の代表取締役の了承の下,
損失分離スキームの構築から解消に至るまでの極めて長期間にわたり,積極
的に関与し続けた者である。被告A7及び被告A8は,損失隠しという違法
行為を行うことについて明確な目的を持って一連の善管注意義務違反行為
を行ったのであり,そのような被告らが過失相殺規定の類推適用を主張する
ことこそ,公平の観点から許されないというべきである。
ウ権利濫用の抗弁の成否(第6類型関係)
(被告A8の主張)
会社原告は,本件剰余金の配当等の後も破綻することはなく,現在では訂正
後の決算内容を前提として単体での分配可能額はゼロを上回り,剰余金の配当
も行っている。現在の分配可能額の状況からみれば,分配可能額の範囲内で剰
余金の配当等が行われたのと同じ結果になっているにすぎず,これによって債
権者にも会社原告にも実質的な不利益を与えるものではない。それにもかかわ
らず,本件剰余金の配当等によって流出した金銭を役員に弁済させた場合には,
会社原告が不当に利得することになる。
また,企業の実質的な財産状態は連結ベースの財産状態であるところ,本件
剰余金の配当等が行われた当時,連結貸借対照表に基づいて分配可能額を計算
すると分配可能額は十分にあった。仮に,当時,虚偽記載のない決算をしてい
た場合には,子会社から配当金を受領して単体ベースでの分配可能額を十分な
額にした上で,剰余金の配当等をしていたはずであって,いずれにせよ剰余金
の配当等は行われていたはずである。本件剰余金の配当等は,会社の実質的な
財産状態を不当に悪化させたものではなく,単に,子会社からの配当受領額の
増加のための手続を履践しなかったという手続的な瑕疵にすぎない。
以上によれば,原告らの会社法462条に基づく請求は,権利の濫用として
許されないというべきである。
(被告A7及び被告A9の主張)
被告A8の主張を援用する。
(原告らの主張)
会社法462条の金銭支払義務は,「剰余金の配当が効力を生ずる日におけ
る分配可能額」を超えた配当がなされたことについての責任であって,仮に事
後的に分配可能額が回復したとしても,前記責任の消長とは全く関係がないし,
その責任を追及することが権利濫用になるわけでもない。また,同条は,分配
可能額の算定を単体ベースで行うことを前提としており,連結に関する調整は,
会社計算規則158条4号の定める限りに留めているのであって,連結貸借対
照表に基づいて分配可能額を計算すると分配可能額は十分にあったという被
告A8,被告A7及び被告A9の主張自体,失当である。
第3当裁判所の判断
1第1類型(金利・運用手数料関係)及び第2類型(ITX株式運用損関係)につ
いて
認定事実
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合
すると,次の事実が認められる。
ア積極的な資金運用等による損失(含み損)の拡大
昭和60年当時,為替相場は急速に円高が進んでいたところ,会社原告に
おいては,国内で製造したカメラ,顕微鏡及び内視鏡等を欧米に輸出してい
たことから,円高による収益圧迫が深刻な状況となっていた。そのような中,
昭和59年に会社原告の社長に就任した承継前被告A1は,営業外収益を獲
得するために証券投資等を積極的に行っていく方針を打ち立て,国債や公社
債等による資金運用に加え,特定金銭信託(投資家が信託銀行に対して金銭
を信託し,運用指図をして有価証券への運用等を行わせ,信託契約終了時に
金銭で信託財産の償還を受けるもの。)及び特定金外信託(信託で運用を行
う点は特定金銭信託と同様だが,信託契約終了時の信託財産の償還を現状で
受け取るもの。以下,特定金銭信託と併せて「特金等」という。)等の運用
割合が多くを占めるようになった。(甲Aキ9の1,12の1,13の1)
平成2年には,株式相場の大幅な下落によって会社原告が特金等で運用し
ていた株式等が多額の含み損を抱えることとなったが,承継前被告A1は,
決算において当該損失を表沙汰にしない旨の判断をし,会社原告の経理部財
務グループに対してその旨を指示した。
これを受けて,会社原告は,①バスケット方式原価法(特金等内の財産を
まとめて1つとみなし,その期末時点の時価が取得価格の50パーセントを
下回る場合には時価で評価しなければならないものの,これを下回らない場
合には簿価たる取得価格で評価できる方法)を採用して特金等に現金を預け
入れることで,特金等内の資産の簿価が50パーセントを上回るようにする
方法や,②決算期末前に,含み損を抱えた金融商品を会社原告が買い戻す合
意をして証券会社等に購入させ,期末後に買い戻すなどの方法(いわゆる「飛
ばし」行為)を用いて,含み損の全てを表沙汰にせず,過小に計上する処理
を行った。
(甲Aキ7,12の1,13の1)
承継前被告A1及び当時専務取締役であった被告A5は,平成4年1月頃,
経理部財務グループに対し,当期の決算数値のまとめ方と損失の回復方法を
検討するよう指示し,これを受けて,平成元年から経理部財務グループのグ
ループリーダーを務めていた被告A7は,部下であった被告A8及び被告A
9とともに,平成4年1月20日付け「運用状況と決算数値について」と題
する文書を作成し,承継前被告A1らに提出・報告した。当該文書には,会
社原告の抱える損失が480億円(実現損250億円,評価・含み損230
億円)であること,長期保有株の一部を海外へ移管し,表向きは将来的にア
ジア地区の資金・為替コントロールの中枢を担うことを理由として,金融子
会社(OAM)を設立すべきことなどが記載されていた。(甲Aキ12の1
(特に,添付資料2を参照。以下,同様の意味で「〈添付資料2〉」などとと
表記する。),13の1,被告A7本人)
会社原告は,平成4年以降,決算において利益を計上するとともに損失の
回復を狙うため,購入時点で利益を受け取ることができる仕組債やスワップ
等を購入したものの,これらの資金運用による損失額は拡大の一途を辿り,
平成8年夏頃には資金運用による含み損が約900億円に達していた。
同年頃会社原告の社長であった被告A5は,経理部財務グループに対して
損失回復のための方策を検討するよう指示したところ,被告A7は,被告A
8及び被告A9とともに,同年8月5日付け「運用ポートフォリオ回復案」
と題する文書を作成し,被告A5及びその頃会社原告の会長であった承継前
被告A1に対して報告した。当該文書には,会社原告の抱える損失が902
億円であること,そのうち450億円を回復目標額として具体的な損失解消
案を実行することなどが記載されていた。
(甲Aキ12の2〈添付資料1〉,13の2,被告A7本人)
イCFC及びQPの設立と損失の計上
会社原告は,前記ア記載のとおり,含み損を抱えた金融商品を期末に証券
会社等に一時的に買い取らせ,その後買い戻す手法等を用いて損失を隠して
いたが,平成7年頃には,そのような手法に協力してくれる証券会社が徐々
に減少する状況となっていた。
そこで,被告A7は,ペインウェーバー証券のI及びJに対し,決算対策
商品による損失を会社原告の決算に反映させずに損失を回復する方法を相
談したところ,同人らから,ケイマン諸島籍の簿外のファンドを作り,そこ
に含み損を抱えた金融商品を移す方法を提案された。被告A7は,被告A5
の了承を得て,Iらの協力の下,メディアトラストと称するケイマン諸島籍
の多数のファンドを設立するとともに,平成8年1月25日には,被告A7,
被告A8及び被告A9を役員とするCFCを設立した上,会社原告ないしそ
の子会社であるOAMが特金等内で保有していた債券をCFCに貸し付け,
それをCFCが売却して作った資金を使用して,会社原告がペインウェーバ
ー証券から購入した決算対策商品をメディアトラストに組み替えた。
被告A7は,メディアトラスト内の資産の運用をI及びJが設立したAX
ESグループに委託して損失の解消を図ったが,結局,これを実現すること
ができず,メディアトラストが抱えていた含み損をCFCに付け替え,CF
Cにおいて損失を計上した。
(甲Aキ9の3・4,12の2〈添付資料2〉,13の2)
また,被告A7は,平成9年3月頃,330億円の含み損を抱えていたパ
リバ証券の仕組債を簿外のファンドに簿価で買い取らせてそこで損失を計
上させるため,被告A5の了承を得た上,被告A8とともにQPを設立し,
会社原告からQPに対して流した資金により,QPが当該仕組債を簿価で買
い取り,これをパリバ証券に対して時価で売却することにより,QPにおい
て損失を計上した(甲Aキ10,12の2,13の4)。
ウLGT銀行を介した損失分離スキームの構築等
被告A7は,平成9年4月会社原告の総務・財務部長に就任し,秘密保持
の徹底している外国の銀行に会社原告の口座を開設し,当該銀行に預け入れ
た預金を担保にCFC等に融資をしてもらうことにより,会社原告とCFC
等との関係を切り離すことが望ましいと考え,被告A5に対してその旨を説
明して,その了承を得た。
被告A7は,野村證券株式会社(以下「野村證券」という。)に勤務して
いたKから,リヒテンシュタインに本店を置くLGT銀行のLの紹介を受け,
平成10年3月23日,LGT銀行に会社原告及びOAMの名義の各預金口
座を開設した。その際,会社原告の預金口座開設申請書には被告A5が会社
原告の代表者として署名し,同時に,当該口座に関する署名権者を,被告A
7,被告A8及び被告A9と定めてLGT銀行に通知した。また,会社原告
及びOAMは,同日,会社原告及びOAMの名義の各預金口座内の資産全て
について,CFCのために担保権を設定する旨の契約を締結したが,当該担
保権設定契約において署名権者として署名したのは,会社原告については被
告A7であり,OAMについては被告A9であった。
LGT銀行は,その後,上記担保権設定契約が締結されたことを受けて,
CFCに対し,平成10年3月27日180億円,同年8月6日120億円
をそれぞれ貸し付けた。
(甲Aキ3の7〈添付資料4,同5〉,8の3〈添付資料1-1~3〉,12
の3〈添付資料2,3〉,13の10,被告A7本人,被告A8本人)
会社原告及びOAMは,LGT銀行による融資を延長してもらうため,平
成15年7月14日,LGT銀行との間で包括的な担保権設定契約を締結し
たが,これらの契約においては,被告A5が会社原告の代表者として,被告
A7がOAMの代表者として,それぞれ署名した。その際,LGT銀行から,
会社原告及びOAMの取締役会議事録の提出を求められたが,LGT銀行と
の取引は損失分離スキームの構築・維持のための預金取引であって取締役会
に諮ることができなかったことから,これに代わるものとして,会社原告は
同社の取締役会の意思と一致する旨が記載された被告A5及び被告A6の
署名のある宣誓書を提出し,OAMも,同旨の記載がある被告A7の署名の
ある宣誓書を提出した。(甲Aキ13の10〈添付資料4~7〉,被告A7本
人,被告A8本人)
エコメルツ銀行を介した損失分離スキームの構築等
a会社原告は,平成9年頃,同社の監査を担当していた朝日監査法人から,
近い将来,時価会計制度が導入される旨の情報提供を受けていたところ,
平成10年5月29日,同監査法人から,同年3月期の監査概要報告書に
おいて,バスケット方式原価法を採用している特定金外信託について,今
後の金融商品に対する時価会計導入の影響を含めて対処を検討する必要
がある旨の指摘を受けた。また,同年6月頃,会社原告が財テクの失敗で
巨額の損失を抱えている旨が新聞で報じられて会社原告の株価が急落し
たことを契機として,同年7月,同監査法人から,会社原告の資金運用に
特化して行われた監査の結果として,時価会計導入を踏まえて特金等の解
約を検討するよう要請された。
そこで,被告A7は,被告A8及び被告A9とともに,朝日監査法人か
らの上記要請への対処方針を検討し,同要請を受け入れて平成13年3月
期までに特金等を解約する(朝日監査法人に対しては,特金等の解約を目
指す旨回答した。)とともに,それまでの間に新たな資金注入のためのス
キームとして,LGT銀行以外の金融機関を介した損失分離スキームの手
法を開拓することとした。
そして,被告A7は,被告A5に報告してその了承を得た上で,Iを介
してコメルツ銀行のMと面会し,平成11年9月頃,コメルツ銀行シンガ
ポール支店との間で,会社原告名義の預金口座を開設する契約を締結し,
被告A8とともに,当該預金口座に,同年10月6日2億0100万ドル,
同年12月27日1億0100万ドルをそれぞれ入金し,この預金を担保
にして,Mが設立したファンドであるHillmoreに対して約300億円の
融資を受け,この資金をI及びJが設立した21C等の受け皿ファンド等
に送金した。
さらに,被告A7及び被告A8は,平成12年6月22日,コメルツ銀
行の預金口座に150億円を入金し,この預金を担保にして,Hillmore
に対して149億円の融資を受け,これも受け皿ファンド等に送金した。
(甲Aキ3の8〈添付資料1,3,6,7〉,9の4,9の10,9の1
2,9の13,12の5〈添付資料1,3,6の1・2〉,13の3〈添
付資料1,2〉)
b会社原告の決算内訳書におけるコメルツ銀行への定期預金額は,第13
2期事業年度(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)が3
06億1825万円,第133期事業年度(平成12年4月1日から平成
13年3月31日まで)が150億0001万2778円であった
(甲Aイ14の1・2)。
aMは,平成12年秋頃,勤務先をコメルツ銀行からSG銀行シンガポー
ル支店に変えたため,被告A7及び被告A8は,コメルツ銀行を介した損
失分離スキームをSG銀行に移すことを企図し,Hillmoreにおいてコメル
ツ銀行に対して借入金を返済し,会社原告において預金の担保解除及びそ
の払戻しを受け,当該資金を原資として,SG銀行の会社原告名義の預金
口座に,平成12年12月4日200億円,平成13年2月21日100
億円,同年6月11日150億円をそれぞれ入金した。さらに,被告A7
及び被告A8は,平成15年10月22日,同預金口座に100億円を入
金した。
Mが設立したEastersideは,これらの預金を担保として,預金額とほぼ
同額の約550億円の融資を受け,21C等の受け皿ファンド等に当該資
金を送金した。
(甲Aキ3の8,13の17〈添付資料6,7〉)
b会社原告の決算内訳書におけるSG銀行への預金額は,①第133期
(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)が
300億0005万5556円,②第134期(平成13年4月1日から
平成14年3月31日まで)が450億円,③第135期(平成14年4
月1日から平成15年3月31日まで)が450億円,④第136期(平
成15年4月1日から平成16年3月31日まで)が450億円であった
(甲Aイ14の2~5)。
Mは,平成17年,SG銀行を退職して投資顧問会社を経営することにな
ったため,被告A7及び被告A8は,Mの会社が運営するSGボンドに対し
て資金を出資し,これを通じて受け皿ファンド等に資金を流す方法に切り替
えることを企図し,SGボンドにおいて会社原告から出資を受けた資金で債
券を購入し,Eastersideにおいて,当該債券を借り受けて売却により資金化
し,SG銀行に対して借入金を返済した。
その過程で,会社原告は,SGボンドに対し,平成17年2月4日100
億円,同月15日50億円,同月17日200億円,同月18日100億
円,同月22日150億円(合計600億円)をそれぞれ出資した(甲Aキ
3の8,13の17〈添付資料9〉)。
オGCNVVを介した損失分離スキームの構築等
会社原告は,平成11年9月頃,特金等の口座の中で保有していたシュロ
ーダー証券取扱いの仕組債を一時的に「飛ばす」ため,買戻しの合意をした
上で金融機関に簿価で買い取らせたが,これが朝日監査法人に発覚し,同監
査法人から当該仕組債を買い戻すよう要求された。さらに,会社原告は,朝
日監査法人から,平成11年9月期中間決算において,特金等内の金融資産
を時価評価し,損失相当額を引当金計上するとともに,(従前の要請を1年
前倒しして)平成12年3月期までに特金等を解約するよう指導を受けた。
被告A7は,被告A8及び被告A9と相談の上,被告A5に対し,この機
会に会社原告が簿外に抱えている全ての損失を公表することを提案したが,
被告A5から,監査法人に把握されて指導を受けた限度で損失を公表し引当
金を計上するようにとの指示を受けたため,結局,会社原告は,被告A5の
方針に従い,平成11年9月期中間決算において,朝日監査法人が把握した
金融資産に限定して時価評価を行い,約168億円の引当金を計上した。
(甲Aキ9の10,9の13,12の6〈添付資料1の1・2〉,13の1
1,被告A7本人,被告A8本人)
会社原告は,既にCFC及びQPを設立してこれに資金を送金する損失分
離スキームを構築・維持していたが,監査法人の指導に従い平成12年3月
期に前倒しして特金等を解約するためには,これまでのスキームに加えて,
受け皿ファンド等に資金を流すルートを設ける必要が生じた。
被告A7は,被告A8及び被告A9とともに,既に野村證券を退職して株
式会社グローバルカンパニー(以下「グローバルカンパニー」という。)を
設立していたKに相談したところ,同人から,会社原告において,①LGT
銀行が設定するファンドであるPSGlobalInvestableMarketsを購入し,こ
れを担保にLGT銀行から資金を借りてCFCに送金する方法や,②資金を
出資して事業投資ファンドを組成し,グローバルカンパニーがファンドマネ
ージャーとなって,新規事業の発掘・育成等を行う方法が提案された。Kは,
②の方法を用いれば,資金を受け皿ファンド等に回すことが容易となるだけ
でなく,新たなベンチャー企業を発掘して上場させることでキャピタルゲイ
ンを取得して損失を取り戻すこともできるなどと説明した。
被告A7,被告A8及び被告A9らは,Kと協議を重ねた結果,平成12
年1月,LGT銀行の設定するファンドの購入及び事業投資ファンド設立の
スキームの大枠が固まったことから,会社原告の経営会議及び取締役会に諮
るべく,承継前被告A1に対しては被告A7において,被告A5及び被告A
6に対しては被告A7及び被告A8において,会社原告が抱えている簿外の
損失の状況や,LGT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を
損失分離スキームに利用することなどを説明した。
(甲Aキ9の13,9の14,12の6,13の14,13の15,被告A
7本人,被告A8本人)
会社原告の第787回取締役会は,平成12年1月28日,承継前被告A
1,被告A5及び被告A6を始めとする会社原告の取締役らが出席して開催
され,LGT銀行のファンドの購入及び新規の事業投資ファンドの設定が議
案として上程されて,被告A6及び被告A8が投資の必要性や事業投資ファ
ンド設立の目的を説明し,全員異議なく了承された。。
その後,会社原告は,LGT銀行との交渉の結果,PSGlobalInvestable
Marketsではなく,会社原告の英語の頭文字を名称に冠した会社原告独自の
クラスファンドであるPSGlobalInvestableMarkets-O(GIM)に出資す
ることとなり,平成12年3月17日,会社原告が150億円,OAMが2
00億円(合計350億円)をLGT銀行に出資してこれを購入した。
(甲Aキ3の10〈添付資料6,7〉,9の14,12の6〈添付資料2-
1・2〉,13の15,被告A7本人,被告A8本人)
会社原告は,平成12年3月1日,I及びJが設立したGenesisVenture
CapitalSeriesLtd.(以下「GV」という。),及びKが設立したGCICayman
との間で,会社原告及びGVをリミテッドパートナー,GCICaymanをジェ
ネラルパートナーとする事業投資ファンド組成契約を締結し,会社原告が3
00億円,GVが50億円,GCICaymanが1億円をそれぞれ出資して,G
CNVVを設立した(なお,GVの出資金50億円は,会社原告がCFCを
経由してGVに送金した資金であり,GCICaymanの出資金1億円は,同社
に対する運用報酬と相殺したため,GCICaymanから現実に拠出された資金
はなかった。)。
(甲Aキ9の13,9の14,13の15〈添付資料5〉,被告A7本人,
被告A8本人)
被告A7,被告A8及び被告A9は,Kらと相談の上,LGT-GIMに
出資した350億円のうち,310億円を平成12年3月12日に受け皿フ
ァンド等であるTEAOに貸し付けるとともに,そこから300億円を出資
してNeoを設立する(GCICaymanがNeoの資金移動権限を持つジェネ
ラルパートナーに就任する。)こととし,その旨実行された。Neoに出資
された資金は,同月23日ITVに対して101億1515万円が送金され,
同月24日QPに対し194億円が送金された。(甲Aキ3の10〈添付資
料8,9〉,12の7)
被告A8は,QPの債券を購入する名目で,ジェネラルパートナーである
GCICaymanのK,N及びOに依頼して,GCNVVにおいて,平成12年
3月17日出資された金銭のうち320億円をQPに送金するとともに,同
月28日QPの債券を購入し,QPにおいて,会社原告から借り受けていた
国債を会社原告に返還した。その後,平成17年まで,GCNVVの決算期
に向けた監査法人対策としてQPからGCNVVへ債券の償還名目で資金
を戻し,その目的を達成するとGCNVVからQPに再び資金を移動すると
いう行為を繰り返した。
その後,平成18年3月頃,本件国内3社の株式を実際の価値よりも高値
で取得することを利用してGCNVVとQPとの間の債権債務関係を解消
することとし,QPがGCNVVに対し,その当時の残債務である240億
円を全て返済してこれを解消した。
(甲Aキ3の13〈添付資料1~8〉)。
カ損失分離状態の報告
会社原告においては,金融商品への投資により損失を抱えるようになった平
成2年頃以降,承継前被告A1及び被告A5に対し(被告A6に対しても,遅
くとも同人が会社原告の社長に就任した平成13年6月以降),概ね半期に一
度,定期的に,会社原告の抱えていた簿外の損失の額やその対策等についての
報告が行われていた。当該報告は,被告A8,被告A9ないし損失分離スキー
ムの構築・維持等に必要な事務作業を行っていたPが作成した資料に基づいて,
被告A7が行うのが通例であり,必要に応じて,被告A8,被告A9及びPが
立ち会って補足説明をしていた(例えば,平成15年9月12日付けで財務部
が作成した平成15年9月12日付け「135PB運用報告」と題する資料(甲
Aイ8の1)には,宛先として「A1取締役殿」,「A5会長殿」,「A6社長殿」
等とされており,135期下期(平成14年10月から平成15年3月まで)
の期末である平成15年3月末時点における会社原告の損失額が1176億
6000万円であること,対前期比で損失が8億0600万円増加したことな
どが記載されていたが,被告A7は,被告A8及び被告A9とともに,当該資
料を用いて,承継前被告A1,被告A5及び被告A6に対し,その記載に沿っ
た説明をした。)。
(甲Aイ8の1,キ3の11〈添付資料3〉,3の17,12の8,13の1
8,証人P,被告A7本人,被告A8本人)
キ損失分離スキームの維持に伴う本件金利及び本件ファンド運用手数料等の
支払
CFCは,LGT銀行から300億円の融資を受
け,平成13年7月以降,利息等の名目で,別紙11「①CFCのLGT銀
行への本件金利の支払」表の各「日付」欄記載の日に,各「支払額」欄記載
の金員を支払った(甲Aキ3の18の1,3の18の2〈添付資料5〉)。
SG銀行がEastersideに宛てて送付した契約条件の確認書面によれば,S
G銀行のEastersideに対する貸付けの利率は,別紙11「②Eastersideに
対する貸付けの利率」表の記載のとおりであった(甲Aイ15の1~5)。
LGT-GIMが,その資産を運用することに伴い,同資産からLGT銀
行に対して支払う年間のファンド運用手数料は,各年末のファンドの総資産
価値の1.5パーセントと約定されていた。そして,LGT-GIMの各年
末における総資産価値は,①平成13年末が355億8318万9504円,
②平成14年末が358億0870万9552円,③平成15年末が360
億3974万8379円,④平成16年末が362億7438万4959円,
⑤平成17年末が365億5933万6382円,⑥平成18年末が368
億2679万4646円,⑦平成19年末が370億6305万5830円
であった。(甲Aキ3の18の1〈添付資料2〉,3の18の2〈添付資料4〉)。
SGボンドは,そのファンド運用手数料等として,Mの経営する会社に対
し,別紙12「①SGボンド運用手数料等」表の記載のとおり,合計6億7
656万1796円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料6〉)。
Neoは,GCICaymanに対し,報酬として,別紙12「②Neoから支
払われた報酬」表の記載のとおり,合計12億8768万5775円を支払
った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
GCNVVは,GCICaymanに対し,報酬として,別紙12「③GCNV
Vから支払われた報酬」表の記載のとおり,合計41億3095万3226
円を支払った(甲Aキ3の18の1〈添付資料1〉)。
クITX株式の取得
被告A7,被告A8及び被告A9は,平成11年12月頃,Kから,日商
岩井が情報産業部門を独立・分社化させてITXを設立するに当たり,発行
する株式のうち30パーセントを戦略的パートナーとして位置付ける企業
に保有してもらう意向を有していることを明かされるとともに,同人の兄で
あるQが日商岩井の情報産業部門に勤務していること,ITXは1年前後に
株式を上場させる予定であること,IT関連企業の株式は軒並み高値を付け
ており,ITX株式も上場後高値が付くことは間違いなく,大きなキャピタ
ルゲインを取得して会社原告の抱える損失の解消に利用できることなどと
いった説明を受けた。
被告A7らは,ITX株式を購入しておけば同社の上場後に株価が上がっ
て売却益を得られ,これによって会社原告の損失の解消に役立てられる上,
同株式の購入によってIT関連のノウハウを取得すれば会社原告の事業の
改善にも活かせるなどと考え,被告A5にその旨を報告したところ,被告A
5もITX株式への投資に前向きであったため,会社原告においてITX株
式を150億円分購入することとして,その旨を日商岩井に連絡した。
もっとも,被告A7は,その後,被告A5から,会社原告が150億円を
ITX株式に投資するのでは社内の合意が得にくいため,そのうち50億円
は会社原告が投資し,残りの100億円は受け皿ファンド等に流している資
金を活用するよう指示を受けたため,その旨を日商岩井に告げた。
(甲Aキ8の4,9の15,12の7,13の17)。
会社原告の経営会議は,平成12年1月28日開催され,ITX株式購入
の可否が審議された。被告A6及び被告A7は,同経営会議において,提案
理由,ITXの企業価値及び概要等を説明したが,被告A7らが説明に用い
た資料には,日商岩井が,情報産業部門を独立会社化し,成長分野である同
部門のより迅速な事業展開を図っていること,当該独立会社化に当たって資
本持分の30パーセントを600億円で戦略的パートナーへ開放すること
が記載されており,また,提案理由には,①日商岩井の情報産業部門は,他
の商社と比較しても投資対象がマルチメディア全般にわたっており,かつ,
個別事業の立ち上げ,成長が順調であること,②連結の株主価値が保守的に
みて約2250億円と想定され,購入価格が割安であること(1株当たりの
株主価値112万円に対して,1株当たりの購入価格は100万円であり,
三和銀行が株価や資産負債状況等について精査を実施したこと),③日商岩
井は2年から3年後にITXの株式公開を考えており,大きな株式含み益が
期待できること,④広い範囲での迅速な事業立上げのノウハウがあり,今後
の会社原告の新規事業立上げの強力なパートナーになり得,また,情報機器
事業への事業拡大を狙う会社原告にとってサービス事業を始め広い範囲で
の提携協力の可能性があることが記載されていた。さらに,会社原告におい
て作成されたITXの時価総額想定資料には,ITXの企業価値は,事業内
容の類似する企業から類推すると1兆4155億7200万円であり,現在
の資産・収益内容で公開したと想定すると,株主価値は約5.7倍程度に増
えると想定できる旨が記載されていた。
会社原告の第787回取締役会は,同日,経営会議に引き続いて開催され,
議長役である被告A5から,①株式公開による値上益の獲得,②迅速な事業
化のノウハウの獲得,③情報機器事業拡大のための提携の可能性を目的とし
て,ITX株式を50億円で取得する旨が説明され,全員異議なく承認可決
された。
(甲Aキ8の4〈添付資料1-1・2,2〉,9の15〈添付資料2〉,13
の16,乙B3)
被告A7は,ITX株式の残りの100億円分について,被告A8及び被
告A9らと相談の上,LGT銀行のクラスファンドを用いて購入することと
し,Kに依頼して,平成12年3月頃,ITVを組成させた上,グローバル
カンパニーがLGT銀行のアドバイザーに就任して,ITVの実質的な運用
者となった。ITX株式をITV名義で購入することについては,日商岩井
との間で,ITVが会社原告に対して白紙委任状を提出し,ITVの議決権
を会社原告が行使することで調整した。
このようにして,会社原告は,日商岩井との間で,平成12年3月31日,
ITX株式4662株を50億0018万1480円で譲り受ける旨の契
約を締結し,ITVは,同月28日,日商岩井との間で,ITX株式932
3株を99億9929万0420円で譲り受ける旨の契約を締結した。IT
Vによる当該株式取得資金は,LGT銀行のNeo名義の口座からITVに
出資した101億円を原資とするものであった。
(甲Aキ9の15〈添付資料3~5〉,12の7〈添付資料8〉,13の16)
ITXは,平成13年9月15日,株主の所有株数1株を2株とする株式
分割を実施したため,ITVの保有するITX株式数は1万8646株とな
った。ITVは,平成18年2月28日,会社原告に対し,保有するITX
株式全株を1株当たり21万5000円で譲渡した。
会社原告は,平成22年11月11日から同年12月27日にかけて,
ITX株式の公開買付けを実施し,その結果,会社原告のITXの株券等所
有割合は92.54パーセントとなった。また,会社原告は,平成23年3
月23日,ITXを完全子会社とする株式交換を実施し,これに先立つ同月
17日ITXは上場廃止となった。
ITXが株式を上場した平成13年12月から上記上場廃止の前日まで
のITXの株価の推移は,別紙13「ITXの株価の推移」表の記載のとお
りである。
(甲Aイ11,16の1・2,17~21)
会社原告は,平成24年8月24日,アイ・ティー・エックス株式会社(以
下「新ITX」という。)を設立し,同年9月28日を効力発生日として,
ITXの営む情報通信事業を含む全事業を新ITXに引き継いだ上で会社
分割する旨を公表した。また,会社原告は,同日付けで,新ITXの発行済
株式の全てをアイジェイホールディングスに530億円で譲渡する旨の契
約を締結したことを公表した。(甲Aイ22)
被告A9は,平成17年1月1日から平成20年5月30日まで,会社原
告からITXに出向して勤務し,同年6月には会社原告を退職して,平成2
2年6月までITXの代表取締役社長を務めていた。その後,同月末にIT
Xの代表取締役会長に就任し,平成23年6月に会社原告の取締役に就任し
て以降も,同年12月7日までITXの代表取締役会長を務めていた。(甲
Aキ9の15)
承継前被告A1,被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8の損
失分離スキームの構築・維持に係る善管注意義務違反の有無)について
ア取締役は,善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う(会
社法330条,民法644条)とともに,法令及び定款並びに株主総会の決議
を遵守し,株式会社のために忠実にその職務を行わなければならず(会社法3
55条),これらの義務を怠ったときは,会社に対して,当該義務違反により生
じた損害を賠償する責任を負う(同法423条1項)。
会社の抱える損失が表沙汰にならないように当該会社から損失を分離するス
キームを実行し,その状態を維持することは,それ自体,適正に処理すべき会
社の決算を困難にさせ,財務諸表の虚偽記載を発生させる原因になるとともに,
その実行に伴って本来支払う必要のない負担を会社に生じさせ得るものである
から,取締役が,自ら損失分離スキームの構築・維持を行うことが善管注意義
務及び忠実義務に違反するものであることはもちろん,損失分離スキームの構
築・維持が行われていることを知り,又は知り得たにもかかわらず,これを中
止ないし是正させることを怠ることも,取締役としての善管注意義務及び忠実
義務に違反するものというべきである。
イ承継前被告A1について
原告は,LGT銀行等を介した損失分離
スキームを構築する以前から,証券会社に対して決算期末に買戻しの特約を
付して損失を抱えた金融商品を売却する(いわゆる「飛ばし」行為)などの
損失計上回避策を行っていたところ,それらの措置は,承継前被告A1が,
積極的な証券投資等を行った結果生じた会社原告の損失を表沙汰にしない
旨の判断を下し,経理部財務グループに指示するなどして実施したものであ
ること,承継前被告A1は,LGT銀行を介した損失分離スキームが構築さ
れた平成10年頃には,既に会社原告の社長を退任して会長となっていたも
のの,概ね半期に一度の割合で,被告A7らから会社原告の抱える簿外の損
失の額やその対策等について報告を受けていたこと,承継前被告A1は,平
成12年1月,被告A7らがLGT銀行の設定するファンドであるLGT-
GIMを購入したり事業投資ファンドであるGCNVVを組成したりする
に当たり,被告A7から,その時点における会社原告の簿外の損失の状況や,
上記ファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキームに利
用する旨の説明を受けたことが認められるから,これらの事情によれば,承
継前被告A1は,会社原告が簿外の損失を表沙汰にしないために損失分離ス
キームを構築し,これを維持していることを知っていたと認められる。
承継前被告A1は,会社原告の簿
外の損失を公表する機会があったにもかかわらずこれを公表することをせず,
前記損失分離スキームの構築・維持について,中止ないし是正させるための
措置を何ら講じていないというのであるから,取締役としての善管注意義務
ないし忠実義務に違反するものとして,会社原告に対する任務懈怠の責任を
負う。
これに対し,被告A2ら3名は,承継前被告A1が会社原告の含み損の状
況について説明を受けた記憶はなく,損失分離スキームの構築について了承
したこともない旨主張するが,証拠(甲Aキ7,乙D1,2,4,被告A7
本人,被告A8本人)に照らし,採用することができない。被告A2ら3名
は,承継前被告A1の供述調書が検事による相当な誘導によって作成された
と考えられる旨主張するが,これを的確に裏付ける証拠はなく,採用するこ
とができない。
また,被告A2ら3名は,大規模な事業会社の役員は,下部組織等から上
がってくる報告に明らかな不備不足があり,これに依拠することにちゅうち
ょを覚えるというような特段の事情がない限り,その報告を基に調査・確認
すれば注意義務を果たしたことになるなどとも主張する。しかしながら,そ
の主張自体の当否はともかく,承継前被告A1は,前記の
とおり,会社原告において発生した損失を表沙汰にしない措置を自ら指示し
て実行させていたのであって,単に下部組織等から上がってくる報告に基づ
いて対応策を了承・是認していたにとどまるものではないから,被告A2ら
3名の上記主張とは前提を異にするというべきであって,被告A2ら3名の
上記主張は採用することができない。
ウ被告A5について
被告A5は,平成2年頃以降,概ね半期に一
度の割合で,被告A7らから,会社原告の抱える簿外の損失の額やその対策
等について報告を受けていたこと,被告A5は,被告A7らにおいて,CF
C・QPの設立,LGT銀行を介した損失分離スキームの構築,コメルツ銀
行を介した損失分離スキームの構築及びGCNVVを介した損失分離スキ
ームの構築等,新たな損失分離スキームの方策を策定する際には,その都度
被告A7らからその旨の報告を受けてこれを了承していたことが認められ
るから,被告A5は,当初から損失分離スキームの構築・維持を知っていた
というべきである。
これに対し,被告A5は,巨額の損失が海外ファンドに隠されていること
の概要につき説明を受けたのは,平成14年から15年頃である旨を主張し,
本人尋問の結果及び陳述書(乙B79)中にはこれに沿うかの如き供述・陳
述記載がある。
被告A5は,会社原告が平成
10年3月23日LGT銀行の預金口座を開設した際,預金口座開設申請書
に会社原告の代表者として署名していることが認められるところ,会社原告
の取締役会に諮らずに実行された当該預金取引について,被告A5が何ら事
情を知らずに署名したとは考え難い。また,会社原告の第132期事業年度
(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)の決算内訳表(甲A
イ14の1)によれば,会社原告はコメルツ銀行に306億1825万円の
定期預金をしていること,同決算期における会社原告の有する定期預金の中
では,コメルツ銀行に対する上記預金額が最高額であることが認められるが,
会社原告のメインバンクでもないコメルツ銀行に対しこのような高額の定
期預金を実行するに当たり,当時の代表取締役社長である被告A5に対して
何らの説明がされなかったとも考え難い。さらに,会社原告が監査法人から
指摘を受け,平成11年9月期中間決算において損失を公表し引当金を計上
被告A5は,本
人尋問において,これにより金融商品の含み損の問題は済んだと認識した旨
供述する一方で,平成12年3月にITX株式100億円分を追加購入した
際には含み損があることを知っていたかのような供述をするなど,一貫性が
ない。そして,被告A5の主張を前提とすれば,被告A5は会長となった後
である平成14年ないし15年頃に損失分離スキームの全体像を知ったこ
とになるが,当該全体像を知ることとなった契機は不明確である上,被告A
7らは被告A5に秘して損失隠しを実行し継続していたことになるにもか
かわらず,被告A5は損失隠しの全体像を知った後も被告A7らに対して何
らの処分していないことなど,被告A5の主張自体,不明確,不自然・不合
理な点があることは否定できない。
のみならず,証拠(乙B44,45)によれば,たしかに,平成9年10
月12日付け「130PB期運用計画」においては,特金等の残高が430
億円と記載され,平成10年4月3日付け「130PB決算速報」において
は,有価証券評価損益が「-1064」(百万円)と記載されるなど,平成
8年の時点で既に会社原告の抱える金融商品の含み損が900億円に達し
が認められるが,他方,上記「130PB運用計画」の上部には,「社長」,
「常務」,「経理部長」等の決裁印欄が設けられ,事情を知らないR常務取締
役も押印していること,上記「130PB決算速報」の上部には,名宛人と
して,「A5社長」及び「S部長」のほかに「R常務」が記載されているこ
とが認められ,被告A7らが会社原告の実際の損失の状況を説明する際に用
いた資料とみられる「135PB運用報告」(甲Aイ8の1)の名宛人が,
事情を知る「A1取締役」,「A5会長」,「A6社長」及び「S監査役」とさ
れていることとは体裁が異なっているものというべきである。これらの事情
に徴すると,上記「130PB運用計画」及び「130PB決算速報」はい
わば「表の書面」であって,含み損の実態を反映した資料ではない旨の証人
Pの証言は十分信用することができ,上記各資料は,会社原告において,監
査法人等の会社外部の者に提示することを念頭において作成されたものと
みるべきであって,被告A5に対する説明内容が上記各資料の記載内容にと
どまっていたとの被告A5の主張を裏付けるものとはいえない。
被告A5は,同人の供述調書は長時間の取調べを受ける中で,検事から決
められたストーリーを執拗に押しつけられたものであるなどとも主張する
が,これを的確に裏付ける証拠はなく(被告A5の作成に係る地検メモ(乙
B65~74)にもこれを直接裏付ける記載はない。),採用することができ
ない。
以上によれば,被告A5は当初から損失分離スキームの構築・維持を知っ
被告A5は,自ら
指示し又は被告A7らの提案を了承して損失分離スキームの構築・維持を行
ったというべきであり,取締役としての善管注意義務ないし忠実義務に違反
するものとして,会社原告に対する任務懈怠の責任を免れない。
エ被告A6について
被告A6は,GCNVVを介した損失分離ス
キームを構築するに際し,平成12年1月28日に開催された取締役会に先
立ち,被告A7及び被告A8から,会社原告が抱える簿外の損失の状況やL
GT銀行のファンドの購入及び事業投資ファンドの設定を損失分離スキー
ムに利用することなどの説明を受けていることが認められるから,遅くとも
この時点までには,会社原告が簿外の損失を表沙汰にしないために損失分離
スキームを構築及び維持していることを知ったものというべきである。
それにもかかわらず,被告A6は,会社原告
の簿外の損失を公表する機会があったにもかかわらずこれを公表すること
をせず,前記損失分離スキームの構築についてこれを中止ないし是正させる
ための措置を何ら講じておらず,かえって平成12年1月28日に開催され
た取締役会において,被告A7とともに投資の必要性や事業投資ファンド設
立の目的を説明したことなどが認められるから,損失分離スキームの構築・
維持を積極的に容認したといえ,取締役としての善管注意義務ないし忠実義
務に違反するものとして,会社原告に対する任務懈怠の責任を負う。
これに対し,被告A6は,含み損の存在について報告を受けこれを了承し
たのは,自らが代表取締役に就任した平成13年6月28日より後のことで
ある旨を主張するが,前掲各証拠に照らし採用することができない。
オ被告A7について
被告A7は,被告A5の指示ないし了承の下,
会社原告の外部の者であるJやKの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,
コメルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキームを構築するための
実務作業を担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両
名に受け皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが
認められるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということがで
きる。
被告A7は,取締役に就
任した平成15年6月27日以降,取締役として,自ら構築した損失分離スキ
ームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認められ
るから,善管注意義務ないし忠実義務に違反するものとして,会社原告に対し
て任務懈怠の責任を負う。
カ被告A8について
被告A8は,被告A5の指示ないし了承の下,
被告A7とともに,JやKの協力・助言を受けるなどして,LGT銀行,コ
メルツ銀行及びGCNVV等を介した損失分離スキーム構築の実務作業を
担い,その構築後には,損失分離スキームを維持するため,上記両名に受け
皿ファンド等の運営を任せて本件金利を支払うなどしていたことが認めら
れるから,自ら損失分離スキームの構築・維持を行ったということができる。
被告A8は,取締役に
就任した平成18年6月29日以降,取締役として,自ら構築した損失分離
スキームを中止ないし是正させるための措置を何ら講じていないことが認
められるから,善管注意義務ないし忠実義務に違反するものとして,会社原
告に対して任務懈怠の責任を負う。
これに対し,被告A8は,会社原告が損失分離スキームの構築・維持の発
生根拠と主張する行為はいずれも被告A8が取締役に就任する以前のもの
であるから,取締役としての責任を負わない旨を主張する。しかしながら,
被告A8は,被告A7とともに,外部の者の協
力・助言を受けるなどして損失分離スキームの具体的な方策を検討したばか
りか,その構築・維持に関与したことが認められるから,このような事実関
係の下では,損失分離スキームの構築・維持に係る具体的な行為をした当時
従業員であったとしても,取締役に就任した以降,自ら構築した損失分離ス
キームを中止ないし是正させるための措置を講ずべき義務を負うことは明
らかであって,被告A8の上記主張は採用することができない。
争点イ(損害の発生の有無)について
ア本件金利の支払について,CFCがLGT銀行に対し,利息等の名目で,合
Eastersideは会社原告の預金
を担保としてSG銀行から約550億円の融資を受けたこと,SG銀行の
Eastersideに対する貸付けの利率は,別紙11「②Eastersideに対する貸付け
の利率」表に記載されたとおりであることが認められるから,Eastersideは,
SG銀行に対して,当該利率に従った利息を支払ったものと推認される。
本件ファンド運用手数料等の支払についても,SGボンドが,別紙12「①
SGボンド運用手数料等」表の記載のとおりの運用手数料等合計6億7656
万1796円を支払ったこと,Neoが,同別紙「②Neoから支払われた報
酬」表の記載のとおりの報酬合計12億8768万5775円を支払ったこと,
GCNVVが,同別紙「③GCNVVから支払われた報酬」表の記載のとおり
の報酬合計41
記載のとおりであり,さらに同認定事実によれば,LGT-GIMは,その資
産を運用することに伴い,同資産からLGT銀行に対し,各年末の総資産価値
の1.5パーセントに相当するファンド運用手数料を支払う約定となっていた
末の総資産価値に1.5パーセントを乗じたファンド運用手数料を支払ったこ
とが推認される。
これらの本件金利及び本件ファンド運用手数料等は,損失分離スキームの構
築・維持に伴って支出されたものというべきであるが,その支出の主体は,そ
れぞれ,CFC,Easterside,SGボンド,Neo,GCNVV及びLGT-
GIMであって,会社原告ではない。原告らは,これらのファンドから支払わ
れた本件金利及び本件ファンド運用手数料等が会社原告の損害に当たる根拠
として,それらの金員の支払によって会社原告の預金債権ないし出資債権の価
値が毀損された旨主張し(主位的主張),あるいは,これらのファンドと会社
原告とを一体と捉えることができる旨を主張する(予備的主張)ことから,こ
れらの主張の当否について判断を加える。
イ原告らの主位的な損害の主張について
本件金利について
a原告らは,会社原告が保有している預金債権等を担保として,LGT銀
行から資金を注入されたCFCやSG銀行から資金を注入された
Eastersideといった受け皿ファンド等は,本件金利の支払時点において,
いずれも銀行に対する全債務を完済できるような状況にはなかった(すな
わち,全体として実質的に債務超過の状態にあった。)から,これらの受
け皿ファンド等から本件金利が支払われると,当該支払分だけ,将来にお
いて銀行に返済できる金額が減少し,その分,会社原告が担保として提供
した上記預金債権等の価値が毀損されるという損害が発生したと考える
ことができる旨主張する。
b会社原告及びその子会社であるOAMは,CFCの債務を担保するため,
LGT銀行に開設した預金口座内の資産全てについて担保権を設定した
こと,会社原告は,Eastersideの債務を担保するため,SG銀行への預金
に担保権を設定したことは,前記の認定事実記載のとおりである。
しかしながら,受け皿ファンド等の資産状況は日々変動するものであり,
支払によって資産が減少することがある反面,新たな資金の注入や収益等
があればその分資産が増加することになるのであって,実際にも,後記2
の認定事実記載のとおり,CFC及びEastersideは,本件国内3社の株
式取得及びジャイラスの配当優先株の買取りに伴う資金移動の中継点と
して用いられており,その資金が入金された時点では,当該入金分だけ資
産は増加していることになる。また,受け皿ファンド等が,本件金利の支
払後に保有資産の運用等により収益を得る可能性も否定できないところ,
原告らの主張によれば,当該可能性は考慮されないことになるが,当該可
能性を否定ないし無視してよい理由は不明である。
このように,CFC及びEastersideの資産状況が変動するものである以
上,その返済能力も変動しているのであって,最終的にCFC及び
Eastersideが返済不能となって会社原告の預金債権等の全部又は一部に
係る担保が実行されたというのであればともかく,そのような事情の認め
られない本件において,本件金利の支払があった一時点を捉え,その後の
入金や保有資産の運用等による収益の可能性を否定し又は考慮せず,CF
C及びEastersideの返済能力が本件金利の支払分だけ減少し,その減少分
だけ会社原告の預金債権の価値が毀損され,その毀損分相当の損害が生じ
たということはできない。
cまた,原告らは,会社原告が,本件金利が支払われた時点で金利相当額
の損害を被ったというためには,同支払時点において,複数の受け皿ファ
ンド等を全体としてみたときに実質的に債務超過状態にあったといえれ
ば足りるなどと主張するが,「実質的に」債務超過状態にあるとの意味は
必ずしも明らかではない上,全体として債務超過状態にあっても,個々の
受け皿ファンド等の中に債務超過状態にないものが含まれている可能性
が否定できないのに,個別の本件金利の支払をもって当該受け皿ファンド
等が直ちに損害を被ったと認めてよい理由は不明であり,結局,会社原告
の預金債権の価値が毀損されたと認定してよい理由も不明である。
dしたがって,本件金利に関する原告らの主位的な主張は,採用すること
ができない。
本件ファンド運用手数料等について
原告らは,会社原告が直接出資しているファンド(LGT-GIM,SG
ボンド及びGCNVV)は,会社原告が実質的に100パーセント出資して
いるファンドであり,かつ,出資が返還される上限が定められているもので
はないから,出資した状態を放置したことにより運用手数料等の支払が発生
したときは,当該支払分だけ,後に会社原告に返還されるべき金員が減少し,
その分,会社原告の出資債権の価値が毀損されるという損害が発生したと考
えることができる旨主張する。
SGボンド,LGT-GIM及びGCNVVは会社原告ないしOAMが出
資していること,NeoはLGT-GIMからの資金を注入されたTEAO
が出資していることは,前記の認定事実記載のとおりである(もっとも,
GCNVVに対しては,会社原告のほかにGV及びGCICaymanが出資し
ており,Neoに対しては,TEAOのほかにGCICaymanが資金を注入
している。また,資金を出資した会社原告及びOAMとLGT―GIMとの
関係,同じく会社原告とSGボンドとの関係は,証拠上,必ずしも明らかで
はない。)。
しかしながら,Neoについては会社原告が直接出資したものではないと
いう点をひとまず措くとしても,これらのファンドの資産状況は日々変動し
ているのであって,本件ファンド運用手数料等の支払があった一時点を捉え,
その後の入金や保有資産の運用等による収益の可能性を否定し又は考慮し
ないまま,会社原告の出資債権の価値が毀損され,その毀損分相当の損害が
生じたということができないことは,前記において認定・説示したとおり
である。
したがって,本件ファンド運用手数料等に関する原告らの主位的な主張も
採用することができない。
ウ原告らの予備的な損害の主張について
原告らは,予備的に,本件金利及び本件ファンド運用手数料等を支払った前
記ファンドが会社原告と一体として評価される可能性がある旨主張し,その根
拠として,①受け皿ファンド等が,いずれも会社原告に発生した金融資産の含
み損の損失計上を回避する目的のために設立されたものであり,会社原告の従
業員や役員の一部であった関与者・認識者のコントロール下にあったこと,②
会社原告及びOFH・OFUKから支払われた本件国内3社の株式取得代金及
び優先株買取代金に相当する金員は,関与者・認識者の策定した損失分離スキ
ームの解消スキームに従って受け皿ファンド等を移動し,結果として,関与
者・認識者の企図したとおり,会社原告が預金の解放や出資金の返還を受けて
いること,③受け皿ファンド等の大半は,会社原告が平成23年12月に提出
した有価証券報告書の訂正報告書において,事後的に会社原告の連結対象子会
社とされていることなどを挙げる。
しかしながら,会社原告と上記ファンドはあくまでも別個の法人ないし法主
体であるところ,会社原告が挙げる上記の諸事情を考慮しても,両者を一体で
あるとまで断ずることはできず,上記ファンドに生じた損害を会社原告の損害
と評価することはできない。
したがって,原告らの予備的主張も採用することができない。
エ以上によれば,本件金利及び本件ファンド運用手数料等の支払をもって会社
原告の損害と認めることはできない。
⑷争点ア(承継前被告A1,被告A5及び被告A6のITX株式の取得・保有
に係る善管注意義務違反の有無)について
ア原告らは,損失分離スキームの構築・維持の目的を認識した上で,①損失分
離のためにITVに資金が注入されていることを知り,又は知り得た取締役が,
その資金を用いたITX株式の取得に関与すること,②ITVが損失分離のた
めに注入された資金を用いて取得したITX株式を保有し続けていることを
知り,又は知り得た取締役が,これを了承(黙認)したり,是正のために何ら
の措置を採らないこと,③ITVによるITX株式の保有により新たな含み損
が発生していることを知り,又は知り得た取締役が,ITVによる保有状態を
了承(黙認)したり,是正のために何らの措置を採らないことは,善管注意義
務に違反する旨主張する。
イ前記の認定事実によれば,会社原告は,一旦は150億円分のITX株式
を購入することを決め,その旨を日商岩井に連絡したが,その後,被告A5の
指示により,会社原告がそのうちの50億円を投資し,残りの100億円は受
け皿ファンド等に流している資金を活用することとしたこと,そのために,被
告A7は,Kに依頼して,LGT銀行のクラスファンドであるITVを組成さ
せたこと,グローバルカンパニーは,LGT銀行のアドバイザーに就任して,
ITVの実質的な運用者になったこと,ITVによるITX株式の取得資金は,
会社原告及びOAMがLGT-GIMに対して出資した350億円のうち3
10億円がTEAOに対して貸し付けられ,そのうち300億円がNeoに対
して出資され,そのうちのITVに送金された101億1515万円が原資と
なっていることが認められる。このように,ITX株式を取得するための新た
なファンドを,もともと損失分離スキームに利用するために取引関係を有する
に至ったLGT銀行のクラスファンドとして組成したこと,その手続を損失分
離スキームの策定に当たって協力・助言を得ていたKに依頼したこと,ITV
によるITX株式の取得資金は,損失分離スキームによって受け皿ファンド等
に注入した資金が原資になったといえることからすれば,ITVによるITX
株式の取得は,同株式の値上益をもって会社原告の抱える損失の穴埋めをする
ことを目的の一つとして行ったものというべきである。
ウしかしながら,株式の値上益を会社原告の抱える損失の穴埋めに利用するこ
とが株式投資の目的に含まれていたとしても,そのことから直ちに,当該株式
取得行為自体を損失分離スキームの一環とみることはできないから,上記目的
が存在するだけで,取締役が,当該株式投資に関与する行為,又はそのように
して取得した当該株式を保有することや当該保有により新たな含み損が発生
することを了承(黙認)若しくは放置する行為が,取締役としての任務懈怠に
当たるということはできない。これらの行為が取締役の善管注意義務に違反す
るというためには,上記の目的に加え,取締役がITX株式の取得を決定した
時点において,その代金額が当該株式の価値に比して著しく高額であった場合
など,当該株式を取得するという決定が会社原告にとって不合理であったとい
えることを要するものと解するのが相当である。
エこれを本件についてみるに,前記の認定事実によれば,ITX株式の取得
が審議された平成12年1月28日の会社原告の経営会議においては,ITX
は,日商岩井が,成長分野である情報産業部門のより迅速な事業展開を図るこ
とを目指して,同部門を独立・分社化する結果設立される会社であり,当該独
立・分社化に当たり,資本持分の30パーセントを戦略的パートナーに開放す
ることとした結果,ITX株式を保有する者を募っていること,ITXの連結
の株主価値が約2250億円と想定され,1株当たりの株主価値が112万円
と算定されるため,1株当たりの購入価額100万円は割安であること(当該
算定に当たっては,三和銀行が株価や資産負債状況等について精査を実施した
こと),日商岩井は,2年後から3年後にITXの株式公開を考えており,大
きな株式含み益が期待できること,会社原告が作成した資料によっても,IT
Xの企業価値は高く,現在の資産・収益内容で公開したと仮定すると,株主価
値は約5.7倍程度に増えることが想定できることなどが説明されたことが認
められる(当該説明が虚偽であることをうかがわせる証拠はない。)のである
から,ITX株式の購入代金額が当該株式の価値に比して著しく高額であった
とは認められない。のみならず,前記の認定事実によれば,当該経営会議に
おいては,上記説明に加え,日商岩井は,広い範囲での迅速な事業立上げのノ
ウハウがあり,今後の会社原告の新規事業立上げの強力なパートナーとなり得
ること,情報機器事業への事業拡大を狙う会社原告にとってサービス事業を始
め広い範囲での提携協力の可能性があることなども説明されており,証拠(乙
B18の1・2)によれば,実際にも,ITX株式を取得した後,次世代半導
体関連分野及び医療デバイス分野等において共同で事業を行い,会社原告から
ITXへ役員及び従業員の派遣を行って両者の戦略的強化を実施しているこ
とが認められるから,ITX株式の取得は,会社原告にとって,戦略的業務提
携という事業投資の側面があったことも否定できない。
これらの事情を総合すれば,ITX株式を取得するという決定が会社原告に
とって不合理であったということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠も
ないから,結局,ITX株式の取得に関与する行為,又はそのようにして取得
したITX株式を保有することや当該保有により新たな含み損が発生するこ
とを了承(黙認)若しくは放置した行為が,承継前被告A1,被告A5及び被
告A6の善管注意義務違反に当たるということはできない。
オしたがって,争点アに係る原告らの主張も採用することができない。
以上より,第1類型(金利・運用手数料関係)及び第2類型(ITX株式運
用損関係)に係る原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由
がない。
2第3類型(国内3社株式取得関係)及び第4類型(ジャイラス関係)について
認定事実
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合
すると,次の事実が認められる。
ア本件国内3社の株式取得に向けての準備
アルティスは,医療施設から排出される感染性廃棄物並びに事業所及び工
場から排出される廃プラスチックを油化プラントで再生油等にリサイクル
する事業を行う会社であり,NEWSCHEFは,電子レンジ専用調理容器や
健康食・食材キットの販売等を行う会社であり,ヒューマラボは,健康食品
及び化粧品の販売,担子菌及びその他の菌類の培養・研究・開発等を行う会
社であった(甲Aウ1~3)。
被告A7,被告A8及び被告A9は,Kから紹介を受けるなどして本件国
内3社の存在を知り,これらの株式を会社原告の新事業のためと称して相場
より高値で取得することにより,受け皿ファンド等に資金を注入し,これを
損失分離状態の解消に用いることを計画した。
そこで,被告A7らは,まず,GCNVV等をして,本件国内3社がいず
れも増資により発行した株式を,それぞれ以下のとおり取得させた(1株当
たりの単価は,アルティス及びヒューマラボが各5万円,NEWSCHEFが
20万円である。)。
(甲Aウ4~7,甲Aキ9の16,13の19)
aアルティス
日付取得者取得株数取得金額
平成17年12月13日GCNVV720株3600万円
同日Neo2880株1億4400万円
bNEWSCHEF
日付取得者取得株数取得金額
平成16年4月16日ITV1000株2億円
平成16年8月6日ITV500株1億円
平成17年3月11日GCNVV1000株2億円
同日ITV500株1億円
cヒューマラボ
日付取得者取得株数取得金額
平成17年7月20日GCNVV200株1000万円
同日Neo1200株6000万円
被告A7らは,Mの設立したファンドであるDDやGTにも本件国内3社の
株式を購入させることとし,平成18年3月9日,DDがNeoからNEWS
CHEFの株式450株を1株当たり445万円で,同日,DDがNeoからア
ルティスの株式530株を1株当たり557万円で,同月10日,GTがNe
oからヒューマラボの株式210株を1株当たり1410万円で,それぞれ購
入した(甲Aキ9の16)。
会社原告の事業投資委員会は,平成18年3月9日開催され,会社原告から
被告A7,被告A8及び被告A9等が,GCICaymanからK,N及びOが出席
した。同委員会において,Kは,①本件国内3社が事業価値の非常に大きい企
業であること,②既に会社原告から技術支援や人員の派遣を受けており,子会
社化して会社原告が主導して事業運営をすることで更にスピーディーな事業
価値の実現が見込めることを理由に,会社原告において重点的に投資すること
を提案し,会社原告は,新事業の創生と事業の成功を目的として前向きに検討
するものの,持分ファンドによる追加取得等の保有の仕方や事業価値について
独自に精査して判断し,返答することを約束した。(甲Aウ8,キ9の16)
被告A7らは,その後,Kの作成に係る事業計画を元に,平成18年3月時
点における本件国内3社の売上高,営業利益及び当期純利益を別紙14の「1.
平成18年3月時点における事業計画」表記載のとおり見積もり,これに基づ
いて,投資に当たってのアルティスの事業価値を220億円(1株当たり57
9万円),NEWSCHEFの事業価値を160億円(1株当たり445万円),
ヒューマラボの事業価値を230億円(1株当たり1437万5000円)と
するのが妥当である旨を記載した投資提案審議資料を作成した。また,被告A
7らは,事業投資審査委員長名義で,上記投資提案審議資料と整合する内容の
同月16日付け「審査結果の報告」と題する書面(甲Aキ9の17〈添付資料
8〉)を作成したが,同書面には,①アルティス株式760株を,取得金額4
4億0040万円(1株当たり579万円)で,②NEWSCHEF株式40
0株を,取得金額17億8000万円(1株当たり445万円)で,③ヒュー
マラボ株式320株を,取得金額46億円(1株当たり1437万5000円)
でそれぞれ取得することを承認する旨が記載されていた。(甲Aウ9,甲Aキ
9の16・17,13の19〈添付資料3~5〉)
これを受けて,GCNVVは,①平成18年3月17日,ITVからNEWS
CHEF株式400株を取得金額17億8000万円で買い受け,②同月23日,
Neoからアルティス株式760株を取得金額44億0040万円で買い受
け,③同日,Neoからヒューマラボ株式320株を取得金額46億円で買い
受けた。(甲Aウ10,甲Aキ9の16)
平成19年3月期から事業投資ファンドに関する会計処理が変更となり,G
CNVV及びその主要な投資先については持分法を適用して連結決算に組み
込まれるようになったことを契機として,会社原告は,同年9月21日付けで
GCICaymanとの間で,GCNVVに係るリミテッド・パートナーシップ契約
を期限前解約する旨を合意し,GCNVVの終了契約書及び終了契約に関する
覚書を作成した。会社原告は,当該合意に基づき,GCNVVの保有する本件
国内3社の株式を簿価で取得した。(甲Aウ15の1・2,甲Aキ9の20〈添
付資料2〉,12の11)
被告A7,被告A8及び被告A9は,会社原告が,平成18年10月から平
成19年6月頃にかけて東京国税局からLGT銀行との取引等について税務
調査を受けたことを契機として,平成20年3月までに会社原告が本件国内3
社の株式を買い取って受け皿ファンド等に資金を流し,当該資金を用いて,C
FCがLGT銀行から借り入れた300億円及びTEAOがLGT-GIM
から借り入れた310億円を返済してこれらの損失分離スキームを解消する
ことを企図し,被告A6に対してその旨を報告して了承を得た(甲Aキ9の2
0)。
イ会社原告による本件国内3社の株式の取得
会社原告の経営執行会議は,平成20年2月8日開催され,新事業関連会社
である本件国内3社の株式買い増しの可否が議題となり,具体的には,本件国
内3社の株式を取得後持株比率が67パーセント超になるまで買い増し,本件
国内3社を子会社とすることが提案された。同会議において,被告A8は,会
社原告の本件国内3社の株式保有比率が40パーセント前後にとどまってお
り,それぞれの事業領域で会社原告が確固たる地位を確立するため,本件国内
3社の株式を67パーセント超まで買い増して子会社化する必要があること,
同日時点における本件国内3社の売上高,営業利益及び当期純利益は,別紙1
4の「2.平成20年2月時点における事業計画」表記載のとおりであること
などを説明し,上記提案は承認された。(甲Aウ16の1・2,甲Aキ9の2
0,12の11)
会社原告の第999回取締役会は,平成20年2月22日,被告A6,被告
A7,被告A8,被告A10,被告A11,被告A12及び被告A13が出席
して開催され,①アルティス株式について,取得株数を1030~2180株,
取得想定額を59億6400万円~209億6300万円の範囲内で,②
NEWSCHEF株式について,取得株数を1001~2050株,取得想定額
を44億5400万円~198億5000万円の範囲内で,③ヒューマラボ株
式について,取得株数を570~880株,取得想定額を81億9400万円
~205億6600万円の範囲内で,それぞれ追加取得することが承認可決さ
れた。
(甲Aウ17の1・2,甲Aキ9の20,12の11)
会社原告は,上記取締役会決議に基づき,平成20年3月21日,以下の表
に記載のとおり,本件国内3社の株式の売買契約を締結した(甲Aウ19の1
~3,甲Aキ9の20)。
株式名売主取得株数総額
アルティスNeo1650株181億5000万円
(1株当たり1100万円)
NEWSCHEFITV1600株152億円
(1株当たり950万円)
ヒューマラボNeo670株137億3500万円
(1株当たり2050万円)
OFHは,平成20年4月25日,以下の表に記載のとおり,本件国内3社
の株式の売買契約を締結した。その後,OFHは,同年9月19日,同月25
日の時点で,会社原告の取締役会における譲渡承認決議が得られることを条件
として,会社原告に対し,取得した本件国内3社の株式を取得価額と同額で譲
り渡し,会社原告がこれを譲り受ける旨の売買契約を締結した。(甲Aウ20
の1・2,21の1・2,22の1~3,甲Aキ9の20)
株式名売主取得株数総額
アルティスDD530株55億6500万円
(1株当たり1050万円)
NEWSCHEFDD450株40億5000万円
(1株当たり900万円)
ヒューマラボGT210株40億9500万円
(1株当たり1950万円)
ウその後の金銭の流れ
会社原告からの金銭の流れ
a会社原告は,平成20年3月26日,前記イ記載の売買契約に基づく代
金として,Neoに対し318億8500万円を,ITVに対し152億円
をそれぞれ振込送金した(甲Aキ3の14〈添付資料7〉)。
bその後,会社原告から送金された金員については,別紙16の「Ⅰ本件
国内3社の株式取得に関する預金移動(会社原告)」表の各「日付」欄記載
の日に,各「送金元」欄記載のファンドから各「送金先」欄記載の送金先に
対し,各「金額」欄記載の金員が振込送金された。もっとも,同表番号①の
送金は,もともとITVにあった資金を併せてされたものであり,同番号③
の送金は,もともとQPにあった資金を併せてされたものであり,同番号⑤
の送金は,もともとNeoにあった資金を併せてされたものである。(甲A
キ3の14〈添付資料8~11,13,14〉)
c会社原告は,①平成20年6月4日,LGT銀行から351億4233万
3333円の預金の払戻しを受け,②同年8月26日,LGT-GIMから,
同ファンドに出資した150億円及びその運用益として,159億0480
万円の払戻しを受けた(甲Aキ3の14〈添付資料12,15〉)。
OFHからの金銭の流れ
aOFHは,平成20年4月25日,前記イ記載の売買契約に基づく代金
として,DDに対し96億1500万円を,GTに対し40億9500万円
をそれぞれ振込送金した(甲Aキ3の14〈添付資料16〉)。
bその後,OFHから送金された金員については,別紙16の「Ⅱ本件国
内3社の株式取得に関する預金移動(OFH)」表の各「日付」欄記載の日
に,各「送金元」欄記載のファンドから各「送金先」欄記載の送金先に対し,
各「金額」欄記載の金員が振込送金された。もっとも,同表番号⑦の送金は,
もともとDDにあった資金を併せてされたものであり,同番号⑧の送金は,
もともとGTにあった資金を併せてされたものであり,同番号⑩の送金は,
もともとEastersideにあった資金を併せてされたものであり,同番号⑯の送
金は,もともとTEAOにあった資金を併せてされたものである。(甲Aキ
3の14〈添付資料17~23〉)
cOAMからLGT-GIMに関する事業を承継したOFHは,平成20年
10月24日,LGT-GIMへの出資金及び運用益として,209億46
20万円の払戻しを受けた。
被告A7は,その後,被告A6に対し,600億円が会社原告及びOFH
に戻ってきたこと,LGT銀行と会社原告との関係が解消したことを報告し
た。
(甲Aキ3の14〈添付資料24〉,12の11)
外部協力者への報酬
aNeoは,平成20年9月11日,その預金口座からGurdonOverseas
の預金口座に対し,12億5925万円を振込送金した。同金員は,被告A
7及び被告A8が,被告A6と相談の上,LGT銀行の行員であったTらが
損失分離スキームに協力したことへの報酬とする趣旨で,同人らが経営する
GurdonOverseasに対して支払ったものであった。(甲Aウ27,甲Aキ1
1の5,12の12,13の21)
bTEAOは,平成20年12月19日,その預金口座からNayland
Overseasの預金口座に対し,9億5000万円を振込送金した。同金員は,
被告A7及び被告A8が,被告A6との相談の上,LGT銀行の行員であっ
たLが損失分離スキームに協力したことへの報酬等とする趣旨で支払った
ものであった。(甲Aウ28,甲Aキ11の5,12の12,13の22)
エ本件国内3社の各事業からの会社原告の撤退
会社原告は,平成24年4月27日,本件国内3社の採算性の観点から事業継
続は不可能であるとの結論に達し,会社原告が本件国内3社の各事業から撤退す
ること,会社原告グループ外部への事業譲渡及び資産譲渡の目途がつき次第,速
やかに本件国内3社を解散すること,本件国内3社に対する貸付金等債権合計1
71億円について,取立不能となるおそれが生じたことから貸倒引当金156億
円を計上したことを公表した(甲Aウ23)。
オジャイラス買収に伴うFA報酬の支払に至る経緯等
会社原告は,平成18年6月5日,AXESとの間で,以下の内容のフィナ
ンシャルアドバイザー契約(以下「本件FA契約」という。)を締結した。本件
FA契約の締結に先立って作成された会社原告の決裁文書においては,医療市
場への事業拡大のためのM&Aの活用も検討すべきオプションの1つであり,
M&Aの検討及び実施に際しての準備を進める上で,本件FA契約の締結を提
案する旨が記載されていた。(甲Aエ1,2)
aAXESの提供する業務内容
①適切な買収ターゲットの特定における会社原告への支援,②各取引を
成立させるために必要又は適切な各専門家(法律家,独立会計士,投資銀行
を含む。)を構成員とする作業部会の運営管理,③各取引のスキームの立案,
④各取引に関して,通常フィナンシャルアドバイザー兼代理人が提供する分
析,評価,交渉及び文書作成その他の支援
b報酬
(a)基本報酬
契約締結時に前払金として300万ドルを支払い,契約締結日から1年
後に更に200万ドルを支払う。
(b)成功報酬
買収が完了した場合,会社原告グループは,該当する買収に関して,そ
の完了後3か月以内に,買収額の1パーセントに相当する成功報酬を支払
う。成功報酬の支払については,以下のとおりとする。
・現金による報酬額
成功報酬の20パーセントを米ドルで現金にて支払う。
・現物支払による報酬額
成功報酬の80パーセントを,買収の条件に基づいてターゲットの事
業資産,持分又は類似の資産を取得する法人(以下「買収ビークル」と
いう。)が発行した株式オプションで支払うものとし,その額について
は,成功報酬の当該割合に相当する米ドル換算額として,以下のとおり
算出する。
ⅰ買収ビークルの普通株資本における株式オプションは,買収ビーク
ルの完全希薄化後の発行済社外株式総数の4.9パーセントを構成す
る株式に関するものを対象とする。
ⅱ株式オプションの権利行使価格は,次の計算式を用いて算出する。
(本取引に基づいて支払われた買収額×80%÷買収ビークルの完
全希薄化後の発行済普通株式総数)-(現物支払による報酬額÷株
式オプションが認められた株式に関する,買収ビークルの資本にお
ける普通株式数)
会社原告は,平成19年6月21日,AXESとの間で,本件FA契約で
定めた成功報酬を以下のとおり変更する旨の契約(以下「本件修正FA契約」
という。)を締結した。本件修正FA契約の締結に係る会社原告の決裁文書に
は,M&Aの積極的推進に当たり,本件FA契約を修正して展開のスピード
アップを図ることが記載されていた。(甲Aエ3,4)
a現金による報酬額
以下の表に基づき算出した割合で,成功報酬を米ドル通貨で現金にて支払
う。
買収金額成功報酬現金補償額最低現金補償額最高現金補償額
50億ドル超2.5%10%1500万ドル2000万ドル
25億ドル~
50億ドル
3.75%12.5%1200万ドル1500万ドル
10億ドル~
25億ドル
5%15%1000万ドル1200万ドル
10億ドル未満6.25%17.5%500万ドル1000万ドル
b現物支払による報酬額
AXAMを受益者として発行された株式オ
プションで成功報酬を支払うものとし,その額については,成功報酬の当該
割合に相当する米ドル換算額として次のとおり算出する。
(a)発行人の資本における完全希薄化後の発行済株式総数の価額の9.9パ
ーセント分とする。
(b)株式オプションの権利行使価格は,次の計算式を用いて算出した額とす
る。
(①ターゲットが公開会社の場合は,買収を発表した日の直近30日間の株
価の平均値の80%,②ターゲットが非公開会社の場合は,買収額の7
0%相当額を発行人の発行済株式総数で除した値)-(現物支払による報
酬額÷発行人の資本における発行済株式総数の9.9%)
cワラント購入権
会社原告は,次のいずれかのうち,額が少ない方を上限とした額に相当す
るワラントを与える。
(a)発行人の資本における完全希薄化後の発行済株式総数の20パーセント
(b)発行価格が2億ドルに相当するものに関するワラント
会社原告の第994回取締役会は,平成19年11月19日開催され,英国
の医療機器会社であるジャイラスを約9億3500万ポンドで買収すること,
この買収資金として銀行から上限2500億円の資金借入れを実施すること,
ジャイラス買収に関する投資顧問として,AXESと業務委託契約を締結する
ことなどが提案され,承認可決された(甲Aエ5の1・2)。
会社原告は,平成20年2月14日,AXESとの間で,本件修正FA契約
における義務に従い,AXESに対してジャイラス発行の株式オプションを付
与すること,当該合意に基づくAXESの権利義務はAXESと第三者との間
で合意された対価ないし条件で自由に譲渡できることなどを内容とするコー
ル・オプション契約を締結した(甲Aエ7)。
会社原告の第999回取締役会は,平成20年2月22日開催され,会社原
告は平成19年11月26日AXESに対し,本件修正FA契約に基づく報酬
として,1200万ドルを支払ったこと,平成20年2月14日までにジャイ
ラスの買収が完了したことが報告された(甲Aエ6の1・2)。
会社原告は,平成20年3月31日,AXESとの間で,前記のコール・
オプション契約に関し,相手方当事者に書面で通知することにより,残余の株
式オプションの全てについて現金での精算を選択できること,現金精算を行う
場合には,その対価は残余の株式オプションにつき11.645米ドルとする
ことなどを合意した(甲Aエ12)。
会社原告は,ジャイラス買収完了後から,医療事業分野において会社原告と
ジャイラスがそれぞれの強みを最大限発揮することができるよう,ジャイラス
との間で協議を行って資本再編を進めていたところ,ジャイラスに生じる売却
益について,一連の再編手続がグループ内再編と認められなければ米国や英国
で課税対象となる可能性があり,これを回避するためには,AXESに発行し
た株式オプションを会社原告側で買い取る必要があることが判明した。
被告A8は,株式オプションを買い取る方法として,現金による精算,ジャ
イラス発行の配当優先株による精算及びジャイラス発行の債券による精算等
の複数の方法を検討し,配当優先株による精算の方法であれば,これを額面額
以上の高値で買い取って損失分離状態の解消のための資金に充てることがで
きると判断し,被告A7とともに,AXES及びAXAMの代表者であったJ
と協議し,株式オプションの代わりにジャイラスの配当優先株を発行する方法
で精算することで調整した。また,被告A8及びJは,本件修正FA契約に基
づく報酬としてAXESに付与したワラント購入権についても,会社原告側が
現金で買い取り,その代金を損失分離状態の解消のための資金に充てることと
して,その買取価格を5000万ドルとした。
被告A8は,被告A7とともに,被告A6に対し,ワラント購入権及びAX
AMに付与するジャイラスの配当優先株を会社原告側が買い取り,その代金を
損失分離状態の解消のための資金に充てることにより,SGボンドを介した損
失分離スキームの600億円の損失を解消する方針を説明し,同被告の了承を
得た。
(甲Aエ8の1・2,9の1・2,甲Aキ11の6,13の26)
会社原告の第1009回取締役会は,平成20年9月26日開催され,本件
FA契約及び本件修正FA契約に基づくAXESへの投資顧問料の支払につ
いて,現物報酬として,ジャイラスの配当優先株式(発行額面1億7698万
1106ドル)を同月30日に発行すること,会社原告が本件修正FA契約に
基づくワラント購入権を5000万ドルで買い取ること(支払日は同月30
日)が提案され,承認可決された。
会社原告は,平成20年9月30日,上記取締役会決議に基づき,ジャイラ
ス,AXES及びAXAMとの間で,ジャイラスがAXAMに配当優先株式を
発行すること,AXES及びAXAMが本件修正FA契約に基づくワラント購
入権の発行に関する義務を会社原告から解放する代わりに,会社原告がAXA
Mに5000万ドルを支払うことなどを内容とする株式引受契約を締結した。
なお,AXESは,これに先立つ平成20年6月9日,AXAMに対し,本件
修正FA契約に基づく株式オプション及びワラント購入権を2400万ドル
で譲渡していた。
(甲Aエ13,14の1・2,16,甲Aキ5の3,13の24〈添付資料5〉)
会社原告の第1012回取締役会は,平成20年11月28日開催され,ジ
ャイラス配当優先株の配当条件に基づく今後のキャッシュの外部流出を防止
すること,今後のグループ内再編を容易にすることなどを理由として,OFH
がAXAMからジャイラスの配当優先株(発行額面1億7698万1106ド
ル)を5億3000万ドル~5億9000万ドルで購入すること,その実施の
ための資金を調達することを目的として,OFHが増資を行うことが提案され,
承認可決された(甲Aエ18の1・2)。
会社原告は,平成20年12月から平成21年4月にかけて監査に当たって
いたあずさ監査法人から,ジャイラスの買収について,本件FA契約及び本件
修正FA契約に基づく報酬が異常に高い上,AXESの役割も十分理解できな
いこと,また,本件国内3社の買収について,投資した金額が事業に投資され
ておらず,ほとんどファンドに渡ってしまっていることなどを繰り返し指摘さ
れ,取得価額や取引先の妥当性について懸念を表明する監査役会宛ての文書を
受領した。
これを受けて,会社原告の監査役会は,平成21年5月9日,本件国内3社
の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支払について,①取引自体に
不正・違法行為がなかったか,②取締役の善管注意義務違反及び手続的瑕疵が
なかったかにつき調査・検討を行うことを目的として,独立性の高い弁護士及
び公認会計士らによって構成される第三者委員会を組織することを可決した。
このようにして,同監査役会から調査・検討の依頼を受けた第三者委員会は,
同月17日,本件国内3社の株式取得及びジャイラス買収に伴うFA報酬の支
払について,いずれも違法もしくは不正な点があった又は善管注意義務違反が
あったとまで評価できるほどの事情は認識できなかったとする平成21年第
三者委員会報告書を提出した。
あずさ監査法人は,平成21年5月20日,会社原告の連結計算書類が,一
般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして適正に表示しているも
のと認める旨の仮の意見を表明したが,会社原告に対し,ジャイラスの配当優
先株を買い取ることを白紙に戻すなどの条件をクリアしなければ,真正の監査
報告書は出せない旨を伝達した。
(甲Aエ22~35,36の1・2,38,甲B15〈添付資料3〉)
会社原告の第1022回取締役会は,平成21年6月5日開催され,第10
12回取締役会で承認されたジャイラスの配当優先株の取得決議を取り消す
ことが提案され,承認可決された。その際,被告A8は,買取金額を配当優先
株の簿価(約1億7700万ドル)に近づけるため,契約内容の見直し等を行
い,再交渉の結果に基づいて再提案を行いたい旨を説明した。(甲Aエ39の
1・2)
会社原告は,あずさ監査法人との監査契約を更新しないこととし,平成21
年6月開催の株主総会において,新日本有限責任監査法人を新たな会計監査人
に選任した。
被告A7及び被告A8は,あずさ監査法人からの指摘を受けて一旦頓挫した
ジャイラスの配当優先株の買取りによる損失分離状態の解消を実現するため,
新日本有限責任監査法人所属の公認会計士に対し,当該優先株の買取価格と簿
価との差額をのれん代として計上する方法を相談したところ,平成22年2月
頃,同公認会計士から,配当優先株に議決権を認めるなどの方法により固定負
債を少数株主持分へと振り替え,簿価をのれんとして認識することができる旨
の回答を受けた。そこで,被告A7及び被告A8は,被告A6にも報告した上,
平成22年3月期中に,再度,AXAMからジャイラスの配当優先株を買い取
る方針を固めた。
(甲Aキ11の6,12の13,13の27,弁論の全趣旨)
会社原告の第1033回取締役会は,平成22年2月26日開催され,ジャ
イラスの配当優先株評価額に配当未払額を加えた金額を買取価格の上限とし,
同年3月までにAXAMから買い取ることを条件として交渉することが提案
され,承認可決された(甲Aエ40の1・2)。
また,会社原告の第1034回取締役会は,平成22年3月19日開催され,
ジャイラスの配当優先株を以下のとおりの内容で取得すること,取得者である
OFUKに対して会社原告から増資及び貸付けを行うことなどが提案され,承
認可決された。被告A6,被告A7,被告A8,被告A11,被告A10,被
告A12,被告A13,被告A14及び被告A15は,当該取締役会に出席し,
上記配当優先株買取りの議案に賛成した。(甲Aエ41の1~3)
a売主:AXAM
b取得者:OFUK
c取得株数:1億7698万1106株
d取得価額:6億2000万ドル(約558億円)
OFUKは,平成22年3月22日,AXAMとの間で,ジャイラスの配当
優先株1億7698万1106株を6億2000万ドルで買い受ける旨の契
約を締結した(甲Aエ42,43)。
カその後の金銭の流れ
ワラント購入権買取代金の資金移動
a会社原告は,平成20年9月30日,AXAMに対し,ワラント購入権の
買取代金として,5000万ドルを支払った(甲Aキ3の15〈添付資料1〉)。
bその後,別紙16「Ⅲジャイラス買収に関する預金移動(会社原告)」
表の各「送金元」欄記載のファンドから「送金先」欄記載の送金先に対して,
各「日付」欄記載の日に,各「金額」欄記載の金員が振込送金された(甲A
キ3の15〈添付資料2~5〉)。
配当優先株買取代金の資金移動
aOFUKは,AXAMに対し,ジャイラスの配当優先株買取代金として,
平成22年3月23日に2億ドル,同月24日に2億1000万ドル,同月
25日に2億1000万ドルの合計6億2000万ドル(同月25日の為替
レートである91.84円/ドル(甲Aエ44の2)で換算すると569億
4080万円)を支払った(甲Aキ3の15〈添付資料6〉)。
bその後,別紙16「Ⅳジャイラス買収に関する預金移動(OFUK)」表
の「日付」欄記載の日に,「送金元」欄記載のファンドから「送金先」欄記載
の送金先に対し,「金額」欄記載の金員が振込送金された(甲Aキ3の15〈添
付資料7~10〉)。
cCDは,平成22年4月12日から同月27日にかけて,Eastersideに対
し,合計243億3124万8150円分の債券を交付した。また,Easterside
は,同月30日までの間に,SGボンドに対し,257億6846万550
0円分の債券を返還した。
会社原告は,SGボンドの出資金の返還として,平成22年9月22日に3
15億6910万9673円,平成23年3月24日に315億3634万7
569円の各支払を受けた。
(甲Aキ3の15〈添付資料9,11,13〉)
外部協力者へ支払われた報酬
aIは,GPAIの預金口座から,自身が設立したPromoTechの預金口座
に対し,平成22年5月18日に250万ドル,同日に2億3180万円,
同年9月2日に633万0775.58ドル,同日に6億3000万円を振
込送金した。これは,被告A7及び被告A8が,被告A6と相談の上,損失
分離スキームに協力したJ及びIへの報酬とする趣旨で,同人らに支払うこ
ととしたものであった。(甲Aキ5の3〈添付資料14の1・2,15の1・
2〉,11の5,12の13,13の24)
b平成22年4月26日,Eastersideの預金口座からDRAGONSASSET
の預金口座へ,1450万ドル(同日の為替レートである94.20円/ド
ル(甲Aエ44の5)で換算すると13億6590万円)が振込送金された。
これは,被告A7及び被告A8が,被告A6と相談の上,損失分離スキーム
に協力したMへの報酬とする趣旨で,同人の会社に支払うこととしたもので
あった。(甲Aキ3の15〈添付資料12〉,11の5,12の13,13の
23)
争点ア(被告A6,被告A7及び被告A8の本件国内3社の株式取得及びジ
ャイラス買収に係る善管注意義務違反の有無)について
ア原告らは,損失分離スキームの構築によって作出された損失分離状態の解消
のため,本件国内3社の株式取得を行うこと,及びジャイラスの買収に伴うF
A報酬名目で金員を支払うことは,それ自体正当でない目的のために会社の財
産を使用するものであり,こうした損失分離解消行為を認識し,又は認識し得
た取締役は,当該行為を中止するための対応を採る義務を負い,この義務に違
反して自ら損失分離解消行為に関与し,又はこれらを承認(黙認)もしくは放
置する行為は,取締役の善管注意義務に違反するなどと主張する。
損失分離状態を解消するためには,当該事実を公表して正しい内容に訂正し
た財務諸表を提出するなどの法律に定められた適正な手続を履践すべきであり,
損失を付け替えたファンドに資金を流すことを意図して事業買収を行うことは,
法律に定められた適正な手続による損失分離状態の解消を更に困難にさせるも
のであるばかりか,当該事業の価値を不当に高く評価することなどにより,会
社に本来不要な財産的支出をさせるものであって,取締役としての善管注意義
務及び忠実義務に違反するものというべきである。
イ本件国内3社の株式取得
前記の認定事実によれば,たしかに,本件国内3社は,それぞれ,廃プラ
スチックのリサイクル等(アルティス),電子レンジ専用調理容器の販売等
(NEWSCHEF),健康食品の検討及び開発等(ヒューマラボ)の事業を行う
ものであり,当初は,事業投資委員会において,会社原告における新事業の創
生等の観点から本件国内3社の株式取得の適否が審議されたことが認められる。
の株式を取得するに先立って,NeoやITVといった損失分離スキームによ
る資金を注入したファンドや,Mの設立したファンドであるDDやGTに本件
国内3社の株式を取得させたこと,NeoやITV等が本件国内3社の株式を
取得した際の1株当たりの取得価額は,アルティス及びヒューマラボにつき5
万円,NEWSCHEFにつき20万円であったこと,それにもかかわらず,平成
18年3月にGCNVVが本件国内3社の株式を取得した際の1株当たりの取
得価額は,アルティスにつき579万円,NEWSCHEFにつき445万円,ヒ
ューマラボにつき1437万5000円であり,平成20年3月に会社原告が
本件国内3社の株式を取得した際の1株当たりの取得価額は,アルティスにつ
き1100万円,NEWSCHEFにつき950万円,ヒューマラボにつき205
0万円であったことがそれぞれ認められる。さらに,これらの株式取得価額は,
被告A7らが作成した別紙14「本件国内3社の事業計画」記載のとおりの売
上高,営業利益及び営業純利益に基づいて算出されたものであることは,前記
Aキ17
の1〈添付資料1の1~6〉,NEWSCHEFにつき甲Aキ22の1〈添付資料
1の3~8〉,ヒューマラボにつき甲Aウ18の3,甲Aキ21〈添付資料10〉)
によれば,本件国内3社の売上高等の実績値は別紙15「本件国内3社の財務
諸表」記載のとおりであり,本件国内3社の当期純損失額は事業年度を重ねる
度に概ね拡大の一途を辿っているから,前記事業計画はこれらの実績値と明ら
かに乖離するものであって,被告A7らが,本件国内3社の株式取得資金を受
け皿ファンド等に注入するために,その事業価値を実際よりも過大に評価して
株式取得価額をつり上げたものというべきである。
の代金として売主であるNeo及びITV等に支払われた資金が,その支払直
後から様々なファンドに流れ,少なくともその一部は,会社原告及びOFHが
LGT銀行に担保に供していた預金等の払戻しを受けるのに用いられたことを
も併せ考慮すると,本件国内3社の株式取得は,専ら損失分離スキームによっ
て作出された損失分離状態を解消する意図で実施されたものというべきである。
ウジャイラスの買収に伴うFA報酬名目での金員支払
ジャイラスのワラント購入権及び配当優先株の買取りについても,前記の
認定事実によれば,会社原告は,取締役会において,発行額面1億7698万
1106ドルを大幅に上回る5億3000万ドル~5億9000万ドルでの
ジャイラスの配当優先株の買取りを決議したものの,あずさ監査法人から,本
件FA契約及び本件修正FA契約に基づく報酬が異常に高いなどの指摘を受
け,これを白紙に戻さなければ真正の監査報告書は出せない旨の意見を受けて,
平成21年6月5日開催された取締役会において,一旦は上記買取りを取り消
すことを決議したものの,その後,あずさ監査法人との監査契約を更新しない
こととしたこと,会社原告は,新たに選任した新日本有限責任監査法人との間
で,配当優先株の買取価格と簿価との差額をのれん代として計上する方法を相
談した上で,平成22年2月26日に開催された取締役会において,再度,上
記買取りの金額を更に上回る6億2000万ドルでジャイラスの配当優先株
とおり,その取得資金はAXAMに支払われた後,GPAI及びCD等の様々
なファンドに流れ,少なくともその一部は会社原告がSGボンドから出資金の
返還を受けるための債務の返済に充てられたことをも併せ考慮すると,ジャイ
ラスのワラント購入権及び配当優先株の買取りについても,本件国内3社の株
式取得と同様,専ら損失分離スキームによって作出された損失分離状態を解消
する意図で実施されたものというべきである。
エ被告A6について
被告A6は,本件国内3社の株式取得及びジャ
イラス買収に伴うFA報酬の支払を利用した損失分離スキームの解消につい
て,被告A7から報告を受けたにもかかわらず,これを阻止せずに了承し,実
行させたのであるから,善管注意義務及び忠実義務に反するものとして,会社
原告に対する任務懈怠の責任を負う。
これに対し,被告A6は,会社,従業員,取引先等に対する影響を極力低減
するために本件のような手段を採ったことは無理からぬ究極的な選択であっ
たなどと主張するが,そのような理由により上記の行為が正当化される余地は
なく,採用することができない。
オ被告A7及び被告A8について
被告A7及び被告A8は,損失分離スキームの
解消を図るため,本件国内3社の株式取得やジャイラス買収に伴う具体的な手
法を策定し,被告A6の了解を得てこれを実行に移したのであるから,善管注
意義務及び忠実義務に違反するものとして,会社原告に対する任務懈怠の責任
を免れない。
これに対し,被告A8は,損失分離スキームの解消という正当な目的の下で,
会社原告の信用が毀損することを危惧して上記のような行為に及んだのであ
るから,取締役としての善管注意義務に違反するものではないなどと主張する
が,そのような理由により上記の行為が正当化される余地はないから,被告A
8の上記主張を採用することはできない。
争点イ(損害の発生の有無)について
ア本件国内3社の株式取得に係る損害について
前記の認定事実によれば,前記の被告A6,被告A7及び被告A8の
任務懈怠により,会社原告は,本件国内3社の株式売買契約に基づく代金と
して,Neoに対し318億8500万円,ITVに対し152億円をそれ
ぞれ支払い,また,OFHは,DDに対し96億1500万円,GTに対し
40億9500万円をそれぞれ支払ったものと認められる。
もっとも,会社原告が支払った318億8500万円及び152億円のそ
の後の帰趨についてみると,当該金銭の支払の直後から,別紙16「Ⅰ本
件国内3社の株式取得に関する預金移動(会社原告)」表のとおり,ファン
ド間の預金の移動が行われており,各預金取引の日付及び金額の近接性に鑑
みれば,会社原告からITVに支払われた152億円は,(もともとITV
にあった資金を併せて)同表番号①のとおりNeoに送金され,同番号②の
とおりそこから304億円がQPに送金された後,同番号③のとおり(もと
もとQPにあった資金を併せて)CFCに送金され,同番号④のとおりLG
T銀行に303億6844万1667円が支払われたものと認められる。他
方,同番号①によってNeoに集約され,同番号②によってQPに送金され
た残余の金員については,同番号⑤のとおり(もともとNeoにあった資金
を併せて)TEAOに送金され,同番号⑥のとおりLGT-GIMに161
億5000万円が支払われたものと認められる。
そして,前記の認定事実記載のとおり,会社原告は,平成20年6月2
4日,LGT銀行から351億4233万3333円の預金の払戻しを受け,
同年8月26日,LGT-GIMから159億0480万円の出資金等の返
還を受けているところ,それらの払戻しの時期や金額に照らすと,LGT銀
行からの払戻しは,CFCによる同番号④の返済を原因として,LGT-G
IMからの出資金等の変換は,TEAOによる同番号⑥の支払を原因として,
それぞれ行われたものというべきである。
OFHが支払った96億1500万円及び40億9500万円の帰趨に
ついても,別紙16「Ⅱ本件国内3社の株式取得に関する預金移動(OF
H)」表のとおり,その支払後に預金の移動が行われており,その支払時期
や金額に鑑みれば,前者については,同表番号⑦のとおり(もともとあった
DDの資金を併せて)Eastersideに送金され,後者については,同番号⑧の
とおり(もともとあったGTの資金を併せて)Eastersideに送金されたもの
と認められる。その後,当該金員は,CD,GPAI,CFCを経由して(同
番号⑨~⑭),TEAOに送金され(同番号⑮),同番号⑯のとおり(もとも
とTEAOにあった資金を併せて)LGT-GIMに送金されたものと認め
られる。
前記の認定事実によれば,OFHは,平成20年10月24日,LGT
-GIMから209億4620万円の出資金等の返還を受けていることが
認められるところ,その返還時期が同番号⑯の支払の1週間後であること等
に鑑みれば,当該出資金等の返還は,TEAOによる同番号⑯の支払を原因
として行われたものというべきである。
会社原告の主位的な損害の主張について
前記及びの認定・説示のとおり,会社原告及びOFHは,LGT銀行
及びLGT-GIMから,損失分離スキームの構築に当たって担保に供した
預金及び出資金の返還として,前記金員を受領したところ,これらの預金及
び出資金は,債務者であるCFCやTEAOがその債務を返済しなければ会
社原告及びOFHが返還を受けることができなかったものであり,従前のC
FC及びTEAOが当該債務を返済するだけの十分な資力を有していたこ
とを認めるに足りる証拠はないから,会社原告及びOFHが本件国内3社の
株式取得に際してCFC及びTEAOに新たに資金を注入しなければ,これ
らのファンドはその債務を返済することができず,したがって会社原告及び
OFHも前記預金及び出資金の返還を受けることができなかったものと認
められる。このような本件国内3社の株式取得に係る資金の流れとLGT銀
行等から返還を受けた金員の関係に加え,前記及びの認定・説示のとお
り,実際にも,本件国内3社の株式取得に係る資金がNeoやITV等に支
払われた後,受け皿ファンド等の間で預金の移動を経た上で,CFC及びT
EAOのLGT銀行及びLGT-GIMに対する返済が行われており,本件
国内3社の株式取得資金の少なくとも一部がLGT銀行等への返済に充て
られたことは明らかであることも併せ考慮すれば,会社原告及びOFHが払
戻しを受けた前記金員は,本件国内3社の株式取得に関する任務懈怠に起因
して得た利益に当たるというべきである。
そして,本件国内3社の株式取得に当たって会社原告及びOFHから支払
われた金額は合計607億9500万円(=318億8500万円+152
億円+96億1500万円+40億9500万円)であるのに対し,払戻し
を受けた金額は合計719億9333万3333円(=351億4233万
3333円+159億0480万円+209億4620万円)であるから,
本件国内3社の株式取得に係る任務懈怠によって,会社原告に607億95
00万円の損害が生じたと認めることはできない。
したがって,会社原告の主位的な損害の主張は採用することができない。
原告らの予備的な損害の主張について
前記の認定事実によれば,外部協力者に対する報酬として,Gurdon
Overseasに対し12億5925万円,NaylandOverseasに対し9億500
0万円がそれぞれ支払われたものと認められる。
そして,前記及びで認定・説示したとおり,本件国内3社の株式取得
による資金の拠出後に各資金の移動が行われているが,その金額は完全に一
致するものではなく,もともと,ITV,QP,Neo,DD,GT,TE
AOといった受け皿ファンド等にあった資金を併せて送金しているもので
あること,会社原告が本件株式取得代金として支払った金額が607億95
00万円であるのに対し,CFC及びTEAOが返済として支払った合計額
は637億3549万1667円(=別紙16の各表の番号④303億68
44万1667円+同番号⑥161億5000万円+同番号⑯172億1
705万円)であって,支払額を上回っていることからすると,その差額は,
本件国内3社の株式取得に関する預金移動の以前から受け皿ファンド等の
預金口座に存在した金銭や運用益に当たるものと推認するのが相当であり,
前記報酬の全額が本件国内3社の株式取得資金から支払われたことを認め
ることはできない。
加えて,前記認定・説示によれば,外部協力者に支払われた報酬は,損失
分離スキームの構築・維持に協力したことに対する報酬であって,本件国内
3社の株式取得のみに関する報酬ではないとみられるところであり,本件国
内3社の株式取得に当たって,当初から前記報酬の支払を企図していたこと
を認めるに足りる証拠はないことも併せ考慮すれば,NeoからGurdon
Overseasに対して支払われた12億5925万円及びTEAOから
NaylandOverseasに対して支払われた9億5000万円については,本件
国内3社の株式取得に係る任務懈怠との相当因果関係を認めることはでき
ず,少なくともこれらの支払に係る損害は填補されていない旨の原告らの主
張はその前提を欠くというほかない。
したがって,原告らの予備的な損害の主張も採用することができない。
イジャイラス買収に係る損害について
株式オプション及びワラント購入権の譲渡代金2400万ドル(25億4
400万円)について
前記の認定事実によれば,AXAMは,平成20年6月9日にAXES
から,本件修正FA契約に基づく報酬としての株式オプション及びワラント
購入権を2400万ドルで譲り受けたことが認められるが,AXAMは会社
原告とは別の法人であるから,AXAMが2400万ドルを支払ったこと自
体をもって,直ちに会社原告に損害が生じたということはできない。当該譲
渡代金は,平成20年5月28日にGPAIからAXAMに送金された30
00万ドル(甲Aキ5の3〈添付資料4-2〉)が原資になったことがうか
がわれるが,会社原告からGPAIに対して,いつ,いくらの金銭が支払わ
れたかを確定するに足りる具体的な主張立証はない。
したがって,AXAMの上記2400万ドルの支払をもって会社原告の損
害と認めることはできない。
ジャイラス優先株の買取代金名目で支払った6億2000万ドルについ

a前記の認定事実によれば,前記の被告A6,被告A7及び被告A8
の任務懈怠により,OFUKは,ジャイラスの配当優先株の買取代金とし
て,AXAMに6億2000万ドルを支払ったものと認められる。
bもっとも,別紙16「Ⅳジャイラス買収に関する預金移動(OFUK)」
表の番号㉑ないし㉓記載のとおり,6億2000万ドルがAXAMに支払
われた直後に,AXAMからGPAIに対し合計6億1999万9946.
78ドルが送金され,更にそれから間もない時期にGPAIからCDに対
し合計6億2199万7457.63ドルが送金されたこと(同表番号㉔,
㉕)からすれば,上記の6億2000万ドルは,AXAMからGPAIを
経由してCDに送金されたものというべきである。そして,CDへの預金
移動から間もなく,CDからEastersideへ322億8137万4597円
が送金される(同表番号
CDからEastersideに対し243億3124万8150円の債券交付が
行われたことからすれば,CDに送金された前記金銭がこれらの送金及び
債券交付に充てられたものといえる。
会社原告からワラント購入権の買取
代金としてAXAMに支払われた5000万ドルについては,当該支払か
ら近接した時期において,別紙16「Ⅲジャイラス買収に関する預金移
動(会社原告)」表記載のとおりの預金移動が行われたことが認められる
から,当該金銭は,AXAMからGPAI及びGPAを経由して21Cに
送金され(同表番号⑰~⑲),前記6億2000万ドルに関する預金移動
と併せて,Eastersideに集約された(同表番号⑳)ものと認めるのが相当
である。
そして,前記の認定事実によれば,Eastersideは,平成22年4月2
8日,SGボンドに対して362億4177万9322円を送金する(別
紙16の「Ⅳジャイラス買収に関する預金移動(OFUK)」表の番号
㉗)とともに,同月30日までの間に257億6846万5500円分の
債券を返還したこと,会社原告が,SGボンドの出資金の返還として,同
年9月22日に315億6910万9673円,平成23年3月24日に
315億3634万7569円をそれぞれ受領したことが認められるこ
とからすれば,これらの出資金の返還は,EastersideからSGボンドへの
同番号㉗の支払及び上記債券の返還を原因とするものというべきである。
c会社原告の主位的な損害の主張について
上記認定・説示のとおり,会社原告は,SGボンドへの出資金の返還と
して,315億6910万9673円及び315億3634万7569円
をそれぞれ受領したところ,これらは債務者であるEastersideがその債務
を返済しなければ会社原告が返還を受けることができなかったものであ
り,従前のEastersideが当該債務を返済するだけの十分な資力を有してい
たことを認めるに足りる証拠はないから,会社原告及びOFUKがジャイ
ラスの配当優先株等の買取りに際してEastersideに新たに資金を注入し
なければEastersideはその債務を返済することはできず,したがって,会
社原告も前記出資金の返還を受けることができなかったといえる。このよ
うなジャイラスの配当優先株等の買取りに係る資金の拠出とSGボンド
から返還を受けた金員の関係に加え,前記bでみたとおり,実際に,ジャ
イラスの配当優先株買取りに係る資金がAXAMに支払われた後,受け皿
ファンド等の間で預金の移動を経た上で,EastersideのSGボンドに対す
る返済が行われており,ジャイラスの配当優先株買取りに係る資金の少な
くとも一部がSGボンドへの返済に充てられたことは明らかであること
も併せ考慮すれば,会社原告が出資金の返還として受領した前記金員は,
ジャイラス買収に関する任務懈怠によって得た利益に当たるというべき
である。
そして,ジャイラスのワラント購入権及び配当優先株の買取りとして会
社原告及びOFUKから支払われた金額は5000万ドル(支払日の為替
レートである103.57円/ドル(弁論の全趣旨)で換算すると51億
7850万円)及び6億2000万ドル(569億4080万円)の合計
621億1930万円であるのに対し,会社原告が返還を受けた金額は合
計631億0545万7242円(=315億6910万9673円+3
15億3634万7569円)であることからすると,ジャイラス買収に
係る任務懈怠によって会社原告に6億2000万ドルの損害が生じたと
認めることはできない。
したがって,会社原告の主位的な損害の主張は採用することができない。
d原告らの予備的な損害の主張について
前記の認定事実によれば,外部協力者に対する報酬として,Promo
Techに対し合計8億6180万円及び883万0775.58ドル,
DRAGONSASSETに対し1450万ドル(13億6590万円)が,そ
れぞれ支払われたことが認められるところ,原告らは,PromoTechに支
払われた報酬のうちの1148万1521.75ドル及び1450万ドル
はジャイラス買収に係る任務懈怠から生じた損害であり,少なくとも同額
の損害は填補されていない旨を主張する。
前記bで認定・説示したとおり,ジャイラスのワラント購入権及び配当
優先株買取りに係る資金が拠出された後,各預金の移動が行われているが,
その金額は完全に一致するものではないから,本件国内3社の株式取得と
同様,ジャイラスのワラント購入権及び配当優先株買取りに関する預金移
動が行われる以前から受け皿ファンド等に残存していた金銭や運用によ
って生じた利益も併せて環流したとみるべきであって,前記報酬がジャイ
ラスの配当優先株買取り資金から支出されたということはできない。
加えて,外部協力者に支払われた報酬は,損失分離スキームの構築・維
持に協力したことに対する報酬であって,ジャイラスの配当優先株の買取
り等に関する固有の報酬ではないとみられるところであり,ジャイラスの
配当優先株の買取り等に当たって,当初から前記報酬の支払を企図してい
たことを認めるに足りる証拠はないことも併せ考慮すれば,PromoTech
に対する1148万1521.75ドルの支払及びDRAGONSASSETに
対する1450万ドルの支払について,ジャイラス買収に係る任務懈怠と
の相当因果関係を認めることはできず,少なくともこの部分に係る損害は
填補されていない旨の原告らの主張はその前提を欠くというほかはない。
したがって,原告らの予備的な損害の主張も採用することができない。
3第5類型(疑惑発覚後の対応関係)について
認定事実
前記前提事実,証拠(後記認定事実末尾記載の証拠)及び弁論の全趣旨を総合
すると,次の事実が認められる。
アBによる本件各レターの送付とこれに対する被告A8の回答等
Bは,本件各記事がFACTAに掲載されたことを受けて,平成23年9
月24日午前2時31分,被告A8に対し,同月23日付け本件レターⅠを
電子メールで送付した。
本件レターⅠは,表題として「当社のM&A(合併・買収)活動に関する
深刻なガバナンスの問題」と記載され,本文部分には,本件記事1のコンテ
ンツに対し深い疑念を抱いていたが,本件記事2は不安を一層高めるもので
あること,自分には会社原告の社長として全ての関連問題を理解する責任が
あること,本件各記事に記載されている懸念に加え,会社原告のM&A活動
に関する他の分野で何が実際に起こったのかや,それに伴うリスクを理解す
るために,説明を希望する分野が数多くあること,具体的には,本件国内3
社の株式取得に係る取引の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等につ
いて説明を希望することなどが記載されており,末尾には,取締役会役員各
自は,会社原告の活動に対する法的責任を共有しており,電子メールのカー
ボン・コピー(以下「CC」という。)に記載されていない社外役員,監査
役及び新日本有限責任監査法人のシニア・パートナーにも本件レターⅠのコ
ピーが確実に送られるように手配してほしい旨が記載されていた。
(甲B17の1・2)
被告A8は,本件レターⅠを受領し,平成23年9月24日午前10時5
8分,Bに対し,本件レターⅠに対する回答の電子メールを送信した。同回
答メールには,Bが本件レターⅠで指摘している点は,ほとんど,あずさ監
査法人から新日本有限責任監査法人に会計監査人を変更する前に,監査役会
とあずさ監査法人によって指摘されている事項であること,これについては,
既に会計事務所,法律事務所,学術的な専門家からなる第三者によって構成
された調査委員会を組織し,調査報告(平成21年第三者委員会報告書)を
受けたこと,あずさ監査法人は,当該調査報告に基づき,第141期事業年
度(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の会計報告書を承
認してサインしたこと,新日本有限責任監査法人もこの調査を認識した上で,
会社原告の会計監査人を引き受けたこと,平成23年9月28日の会議でこ
の調査について説明することが記載されていた。(甲B28)
Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月24日午後8時2分,被
告A8に対し,同日付け本件レターⅡを送付した。本件レターⅡには,被告
A8からの回答が不十分であること,自分が提起した各問題に対して十分な
回答が得られない場合,著名な会社の独立会計士を入れて,様々な取引の調
査を行い,会社原告取締役会に正式に報告書を提出することを主張すること,
自分が懸念している事柄の1つがジャイラスの買収に関して外部のアドバ
イザーに6億ドルを支払った理由であること,要求している回答が書面によ
って得られるまで(自分が被告A8から詳細な報告書を受領するまで),訪
日を延期し,それに合わせてスケジュールを変更することなどが記載されて
いた。(甲B18の1・2)
被告A8は,本件レターⅡを受領し,平成23年9月25日午後5時8分,
Bに対し,本件レターⅡに対する回答の電子メールを送信した。同回答メー
ルには,Bの質問に対する回答のほとんどは平成21年第三者委員会報告書
や過去の取締役会の提案書にあること,同月28日のBとの会議までにはほ
とんどの資料を提供できると確信しているが,その翻訳にどれほど時間がか
かるか明言できないことなどが記載されていた。(甲B29)
Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月26日午前5時25分,
被告A8に対し,同月25日付け本件レターⅢを送付した。本件レターⅢに
は,懸念事項は取引の合法性であり,取締役会がその取引を承認したか否か
ではないこと,もっとも,ジャイラス買収に関する取締役会の出席者が,①
AXAM側にいる個人宛てに支払われた金額とその個人の氏名,②優先株の
発行が「関連当事者取引」か否かを決定できるだけの十分な開示がされなか
ったため,あずさ監査法人と新日本有限責任監査法人がジャイラスグループ
の決算を承認した事実について知っていたかを確認してほしいことが記載
されており,これに加えて,当該取締役会に提出された資料のコピーと議事
録の送付,及び本件レターⅠの質問事項のうち,本件国内3社及びジャイラ
ス買収に関する質問に対し直ちに回答することを要望する旨が記載されて
いた。(甲B19の1・2)
被告A8は,本件レターⅢを受領し,平成23年9月26日午後9時14
分,Bに対し,本件レターⅢに対する回答の電子メールを送信した。同回答
メールには,自分らが資料を集め,翻訳する作業を続けているが,関係資料
(特に,平成21年第三者委員会報告書)の量が多いため,明日中に回答及
び根拠書類を送付できると明確には言えないこと,明日,再度進捗状況を報
告すること,本件レターⅠ~Ⅲを被告A15や新日本有限責任監査法人のパ
ートナー等に送付する手配をしたことが記載されていた。(甲B30の1~
3)
Bは,上記回答メールを受領し,平成23年9月27日午前1時40分,
被告A6に対し,同月26日付け本件レターⅣを送付した。本件レターⅣに
は,本件各記事で取り上げられた問題と疑惑は最も深刻な類いのものである
こと,まずは本件レターⅠの本件国内3社及びジャイラスに関する質問に対
する明確な回答を同月27日午後8時までにしていただきたく,その後,そ
の他の質問に対する回答や第三者による調査報告その他の資料を送付して
ほしいこと,これらに対する納得できる回答がない限り日本には戻らないと
いう自らのスタンスは,極めて適切なものであることなどが記載されていた。
(甲B21の1・2)
さらに,Bは,平成23年9月27日午前9時13分,被告A6に対し,
被告A8から,同月28日午後8時までに本件レターⅠの本件国内3社及び
ジャイラスに対する質問に対する回答ができる旨を伝えられて安心してい
ること,これらが自分の心配を和らげるものであれば,同月29日に互いの
顔を見ながら議論でき,同月30日の取締役会においても隠し立てすること
なく議論できることを記載した電子メールを送信した(甲B22)。
被告A8は,平成23年9月27日午後7時50分,Bに対し,平成21
年第三者委員会報告書の英訳及び本件国内3社への投資手続の説明を添付
した上で,本件レターⅠの質問のうち,本件国内3社の株式取得に係る取引
の詳細やジャイラス買収に係る取引の詳細等に関するものに対し,例えば,
本件国内3社に対する投資はそれぞれ投資目標を持っており,会社原告の投
資戦略と一致していたこと,それぞれの買収手続において,独立した会計事
務所による評価等を参考にして交渉を行ったことなど,個別に,一通りの回
答を記載した電子メールを送信した。また,被告A8は,同日午後7時57
分,Bに対し,上記回答の添付資料として,G公認会計士事務所作成に係る
本件国内3社それぞれの株主価値算定報告書の英訳を添付した電子メール
を送信した。(甲B31の1~5,32の1~7)
Bは,平成23年9月28日午前4時17分,被告A8に対し,同月27
日付け本件レターⅤを送付した。本件レターⅤには,被告A8からのメール
の返信や資料の送付に礼を述べた後,さらに追加の書類として,①本件国内
3社の買収に係るデューディリジェンス報告に関し,調査を行ったファンド
マネージャーの報告書の写し,②会社原告の取締役会において第141期事
業年度決算のために提示された関連書類,③本件国内3社の第144期事業
年度の予算,4月から8月までの予算及び実績の資料,④ジャイラス優先株
の価値を算定した際の計算基準及び計算過程の詳細を示した別表,⑤AXE
Sとの間の本件FA契約書及び本件修正FA契約書の写し,⑥平成20年1
1月28日開催された会社原告の取締役会の議事録,特に優先株再購入につ
いての会社の承認に関する文書を,同月28日午後3時30分までにメール
で送付してほしいことが記載されており,これに加えて,自分が依然として,
あらゆる点を考慮しても完全に過度と思われるAXESに対する6億ドル
支払の理由や,本件国内3社買収の商業的な論理的根拠について大変懸念し
ており,同月29日に被告A6及び被告A8と面談し,同月30日の取締役
会において十分な話合いをしたいと考えていること,同年10月7日までに
は自分の考えをまとめて取締役会に正式に報告するつもりであることも記
載されていた。(甲B23の1~6)
被告A8は,本件レターⅤを受領し,平成23年9月28日午前8時55
分,Bに対し,本件レターⅤに対する回答として,依頼された資料を収集し
ようとしており,本日午後3時30分までにメールで送付するが,要求され
た資料の英訳が間に合うかどうかは定かではない旨の記載のある電子メー
ルを送信した(甲B33)。
上記ないしの各電子メールは,いずれもCCとして取締役会メンバーの
メールアドレス(メンバーは,被告A6,被告A7,被告A8,被告A9,
被告A10,被告A11,被告A12,被告A13,被告A14,被告A1
8,被告A16,被告A17及びD)及び被告A19に対し送信された(甲
B17の1~3,18の1・2,19の1・2,21の1・2,22,23
の1~6,28,29,30の1~3,31の1~5,32の1~7,33,
乙M3)。
Bは,平成23年9月29日午前3時58分取締役会メンバーのメールアド
レス及び被告A19に対し,本件レターⅠ~Ⅴの日本語訳を添付した上で,
自分と被告A6及び被告A8との間で会社原告のM&A活動に関するコー
ポレート・ガバナンス上の重大な懸念事項についてやり取りが交わされたこ
と,取締役会メンバー全員が内容を完全に理解できるよう,交信内容を日本
語に翻訳したものを添付して送付すること,同日被告A6及び被告A8と面
談し,同月30日開催される取締役会においてこの件を議論したいと考えて
いることなどを記載した電子メールを送信した。また,Bは,同月30日午
前1時48分,上記宛先及び被告A19に対し,上記電子メールに添付した
本件レターⅤが判読不能となってしまったため,再度これを添付して送る旨
を記載した電子メールを送信した。
これらの電子メールは,CCとして,H弁護士及び新日本有限責任監査法
人にも送信された。
(甲B24の1~6,25の1・2)
イ被告A6及び被告A8とBとの面談
この間,被告A6及び被告A8は,平成23年9月29日,会社原告の会議
室において,Bと面談し,同人に対し,FACTAは無名のタブロイド誌であ
るから本件各記事には取り合う必要がないこと,Bの疑問に対しては被告A8
が全て回答することなどを説明した。被告A6は,その話合いの中で,Bに対
し,同人が映像事業のトップである被告A12に相談しないまま,中南米地域
の映像販売子会社を独立させようとしたことを注意したところ,Bは激高し,
自分が社長なのに従業員は被告A6の意見ばかり聞いて自分の言うことを聞
かないなどと述べ,被告A6が退任するか,さもなければCEOの地位をBに
移譲することを要求した。被告A6は,会社原告のCEOの地位が単なる肩書
に過ぎず,それに付随する権限もなかったため,これをBに与えることとし,
同人に対し,その旨を伝えるとともに,今後経営執行会議に出席しないことを
約束した。(甲B11の1,被告A6本人,被告A8本人)
ウ9月30日取締役会の開催
会社原告の第1062回取締役会(9月30日取締役会)は,平成23年9
月30日午前9時から,議長である被告A6のほか,B,被告A8,被告A9,
被告A10,被告A11,被告A12,被告A13,被告A14,被告A15,
被告A16,被告A17,被告A18,被告A19及びCの各取締役,並びに,
被告A7,D,E及びFの各監査役が出席して開催された。同取締役会におい
ては,最初に,同年10月1日付けでBをCEOに任命すること(ただし,取
締役会の議長は従前どおり被告A6が務める。),被告A6は,同日以降,経営
執行会議のメンバーから外れ,同会議に出席しないことなどが提案され,全員
異議なく承認可決された。
その後,Bは,発言の機会を得て,要旨,「私が懸念していることについて,
私自身,A8さん,A6さんとの間で連絡を取り合っていました。その懸念と
いうのは,部分的には『FACTA』誌の記事によるものであり,またイギリ
スのジャイラス社の会計を調べた時に感じたものでもあります。」,「昨日,会
長とA8さんと私はしばらく話し合いました。非常に正直かつ率直な話合いで
した。最終的に私たちは非常に建設的な理解に達したと思います。」,「ここで,
話し合いの結果,個人的な利害関係や利益の証拠はないと断言できます。」,「も
う一度言いますが,私たちは昨日議論しました。非常に単刀直入な議論をし,
意思決定を行いました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は
誰もいないことを十分に確信できました。」,「社長として私は代表で公衆の前
に出て,決算書に署名し,陳述書にも署名します。それが,私が例のメールの
やり取りを行った理由です。(中略)メールの中にはこの会社内のどの役員も
個人的な利益を得ていると私に思わせるような事実はなく,今は前向きに未来
に目を向けるつもりであることをはっきり表明します。」などと発言した。
(甲Aオ3,乙M1,2)
エPwC中間報告書の入手と本件レターⅥの送付等
Bは,外部の会計事務所であるPwCに対し,被告A8との電子メールの
やり取りにより入手した資料を提供して調査を依頼していたところ,同事務
所から,平成23年10月11日付けでPwC中間報告書の提出を受けた。
同報告書は,本件修正FA契約の報酬が,経験上,類似しているサービスと
比較して,①買収取引の規模及び性質から鑑みて,買収総額の1パーセント
程度を報酬として期待するのが通常であり,その6.25パーセントを報酬
としているのは明らかに高いこと,②専門のアドバイザーは,通常,取得す
るビジネスの株式オプションやワラントといった形態で報酬をもらうこと
は期待しないこと,③専門のアドバイザーは,一旦アドバイザーとして指名
されて以降,特に業務範囲が大きく変更されていないのに自分たちの都合の
いいように報酬スキームを変更することは期待しないことといった理由か
ら異常であり,本件修正FA契約に至る手続も,AXAMに対してどのよう
な財務デューディリジェンスが実施されたか不明瞭であること,成功報酬の
増額について外部からどのようなアドバイスがあったのか及びどのように
アドバイスに準拠したのかについて調査する必要があることなどの問題点
があって,結論として,「現在までに実施したレビューに基づくと,我々は
不適切な行為が行われたと確信することはできないが,支払われた総報酬金
額と今までになされたいくつかの非通例的な意思決定を考慮すると,現段階
では不適切な行為が行われた可能性を排除することはできないと考えられ
る。」などと記載したものであった。
(甲B27の3・5)
Bは,被告A6に対し,平成23年10月11日付け本件レターⅥを送付
した。本件レターⅥには,PwC中間報告書の一部が添付され,本件国内3
社及びジャイラスの買収に関するBの検討内容が記載された上で,「PwC
の報告書に明らかな通り,非常に多くの悲惨な誤り,そして並外れてお粗末
な判断力,これが重なってアルティス,ヒューマラボ,NewChefの
買収は,13億米ドルというショッキングな額に上る株主への損失となりま
した。」,「PwCからの報告は関係者の行為を完全に糾弾したものであり,
当社の役員を一新しない限りこの先前進していくことは不可能であること
が,はっきりしました。」,「会社の利益を優先し,名誉ある前途を歩むため
には,いかなる局面から考慮しても恥ずべき事件であるこれまでの経過に対
する結果に,あなたとA8さんが直面することが必要です。現状に至っては
もはや擁護できない事態であることが明白であり,これから前向きに進む上
での対策として,あなた方両者が役員会から辞任することが必要です。」な
どと記載されていた。(甲B27の2・4,弁論の全趣旨)
Bは,平成23年10月13日午前1時10分取締役会メンバーのメールア
ドレス及び被告A19(CCとしてH弁護士)に対し,本件レターⅥ及びP
wC中間報告書を添付した上で,これらに記載されている出来事は尋常では
なく,ここから前進を試みるためには当事者の責任が明確にされなければな
らないこと,「じっとして嵐が過ぎ去るのを待つ」という試みは論外であり,
「都合の悪い事実を隠し通せるのでは」という態度は通用しないこと,取締
役会メンバーの長期間にわたる個人的な忠誠心等が本件に関するロジック
をゆがめることなく,対象となる個別案件の詳細を捉えてもらえることを願
っていることなどを記載した電子メールを送信した(甲B27の1~5)。
オ平成23年10月13日の打合せ
被告A7,被告A8,被告A9,被告A10,被告A11,被告A12,被
告A13,被告A14,被告A15及び被告A18は,平成23年10月13
日,被告A6から招集を受け,H弁護士の所属する法律事務所に参集した。被
告A6は,上記被告らに対し,Bは経営者としての資質に問題があるため10
月14日取締役会で解職したい旨を告げ,それに引き続き,H弁護士がBを代
表取締役から解職するための手続について説明したところ,上記被告らから異
論が出ることはなく,また,9月30日取締役会においてBをCEOに任命し
たこととの整合性やBが指摘していた疑惑の存否等について説明を求める意
見も出なかった。
(被告A6本人,被告A12本人,被告A15本人)
カ10月14日取締役会の開催
会社原告の第1063回取締役会(10月14日取締役会)は,平成23年
10月14日午前9時に開催され,Bを代表取締役及び社長執行役員・CEO
のいずれからも即時解職し,業務執行権限のない取締役とすることが,(Bを
除く)出席取締役全員の賛成により承認可決され,さらに,被告A6を社長執
行役員・CEOに選定し,代表取締役会長兼社長執行役員・CEOとすること
が承認可決された(甲Aオ4)。
キその後の経緯
会社原告は,平成23年10月14日,適時開示情報として,Bと他の経
営陣との間で経営の方向性や手法に大きな乖離が生じ,経営の意思決定に支
障を来す状況になったため,10月14日取締役会において,代表取締役及
び社長執行役員であったBを解職すること(代表取締役及び社長執行役員の
いずれからも解職し,業務執行権のない取締役とすること),及び,これに
伴い代表取締役会長であった被告A6が社長執行役員を兼任することを決
議したことを公表した(甲B4)。
平成23年10月中旬,Bが海外でのM&Aを巡る会社原告内部の不透明
な資金の流れについて調査を進めており,トップの立場から内部告発を行っ
たために解任に繋がったとの見方を示す記事が英紙フィナンシャル・タイム
ズ電子版等に掲載されたことを受け,市場での会社原告の企業統治への不信
感が高まっている旨の記事が同月17日の日本経済新聞電子版に掲載され
た。また,同月18日には,Bが,複数の海外メディアに対し,過去の企業
買収での不明朗な支出を追及したのが解職の理由だったと主張しており,新
旧トップ同士の泥仕合が経営の混乱を拡大させることになりそうである旨
の記事が読売新聞に掲載された。(甲B37の8・13)
これらの報道を受けて,会社原告は,平成23年10月19日,「一連の
報道に対する当社の見解について」と題する文書を公表し,Bの解職につい
て一部報道機関において不正確又は誤解を招く内容が報道されているが,当
該解職の理由は既に適時開示等で公表したとおりであり,本件国内3社及び
ジャイラス買収に不正・違法行為は認められないなどと説明した(甲B10
〈資料2〉)。
会社原告は,平成23年10月21日,会社原告の過去の買収案件につい
て,弁護士及び会計士等の有識者によって構成される第三者委員会の設立を
準備している旨を公表した(甲B10〈資料4〉)。
被告A6は,平成23年10月26日,代表取締役会長及び社長執行役員
の役職を返上して取締役となり,同日開催された取締役会において,後任と
して,取締役専務執行役員であった被告A12を代表取締役及び社長執行役
員に選任した(甲B10〈資料6〉)。
会社原告は,平成23年11月1日,①会社原告によるジャイラス買収に
関する一切の取引(FAの選定,報酬の支払等を含む。),②本件国内3社の
買収に関する一切の取引(買収額の決定及び買収後の減損処理に至った経緯
等を含む。)に関し,会社原告に不正ないし不適切な取引等があったか否か
につき検証することなどを目的として,会社原告と利害関係のない弁護士5
人及び公認会計士1人により構成される本件第三者委員会を設置し,その旨
を公表した(甲B10〈資料8〉)。
被告A6及び被告A8は,平成23年11月24日付けで会社原告の取締
役を辞任し,被告A7は,同日付けで会社原告の監査役を辞任した。また,
被告A9は,同年12月7日付けで会社原告の取締役を辞任した。他方,
Bも,同月1日付けで会社原告の取締役を辞任した。(甲B10〈資料14,
18,22〉)
本件第三者委員会は,平成23年12月6日,会社原告に対し,調査報告
書を提出した。これを受けて,会社原告は,同月7日,①会社原告及び同グ
ループ全体の経営体制の刷新,ガバナンス体制等の抜本的な見直し等に関す
る指導・勧告等をすることを目的とする経営改革委員会(以下「本件経営改
革委員会」という。)を設置すること,②損失計上先送り等の一連の問題に
つき,現旧取締役に善管注意義務違反行為があったか否かを調査してその責
任を明らかにするため,取締役責任調査委員会(以下「本件取締役責任調査
委員会」という。)を設置すること,及び③現旧監査役に取締役の職務執行
の監査に関する善管注意義務違反行為がなかったか,現旧監査法人に不当又
は不適正な監査がなかったか等を調査してその責任を明らかにするため,監
査役等責任調査委員会(以下「本件監査役等責任調査委員会」といい,本件
第三者委員会,本件経営改革委員会,本件取締役責任調査委員会及び本件監
査役等責任調査委員会を併せて「本件各外部委員会」という。)を設置する
ことを決定し,各委員会に対し指導・勧告等や調査を委託した。その後,会
社原告は,平成24年1月7日本件取締役責任調査委員会から,同月16日
本件監査役等責任調査委員会から,それぞれ調査報告書を受領した。(甲B
10〈資料19・21・27・28〉)
会社原告は,①本件第三者委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費
等として,合計4億6402万1835円を(甲B6の1~13),②本件
経営改革委員会の各委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計30
05万6770円を(甲B7の1~4),③本件取締役責任調査委員会の各
委員及び補助者に対する報酬,実費等として,合計1億4070万7350
円を(甲B8の1~5),④本件監査役等責任調査委員会の各委員及び補助
者に対する報酬,実費等として,合計8466万3600円を(甲B9の1・
2)それぞれ支払い,さらに,⑤平成24年1月21日,東京証券取引所か
ら,上場契約違約金として1000万円を支払うよう通知を受け,同年2月
20日これを支払った(甲B10〈資料31〉)。
会社原告は,平成24年6月8日,「和解に関するお知らせ」を公表し,
①同年1月,Bから,同人の解職等が英国の1996年雇用権利法に違反す
るなどとして,英国労働審判所に対して労働審判を申し立てられたが,同年
5月29日付けで和解の合意に至ったこと,②これにより,Bは前記労働審
判の申立てを取り下げ,会社原告はBに対し,本件和解金1000万英ポン
ド(約12億4500万円)を支払うことになることを明らかにした(甲B
5)。
会社原告は,平成24年7月4日,Bに対し,本件和解金として1000
万英ポンド(支払時の為替レートで換算すると12億7348万6900
円)を支払った(弁論の全趣旨)。
ク会社原告の株価の推移等
会社原告の平成23年10月11日から同年12月30日までの株価の推
移は,別紙17「会社原告の株価の推移」記載のとおりである(甲B10〈資
料3〉)。
また,Bの解任が報じられた平成23年10月14日以降,連日のように新
聞紙上等において,会社原告の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企
業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の記事が掲載された
(甲B37の1~114)。
争点ア(被告A6,被告A7,被告A8及び被告A9の疑惑発覚後の対応に
係る善管注意義務違反の有無)について
ア被告A6について
原告らは,被告A6は,損失分離スキームの構築・維持に関与した者であり,
損失隠しについて認識のない取締役に対し,Bを非難してその解職に賛成する
よう働き掛けるなど,違法行為の発覚を避けようとしたのであるから,善管注
意義務違反が認められるなどと主張し,被告A6は,Bの社長としての執務ぶ
りには多大の問題があったのであり,Bの解職は一連の疑惑発覚を避けること
だけを目的としたものではないなどと主張する。
たしかに,証拠(被告A6本人,被告A8本人,被告A12本人)によれば,
Bについては,会社原告のカンパニー制を採る各事業体の長に相談せずに独断
で人事等を決めたり,1か月の大半を欧米で過ごしていて日本を不在にする期
間が長いといった行動が見られ,激高しやすく建設的な話合いができないとの
印象を抱かれていたことが認められ(実際,被告A6がBに対し,中南米地域
の映像販売子会社の独立につき注意したところ,同人が激高して,被告A6の
退任やCEOの地位の委譲を求めたことは,前記の認定事実記載のとおりで
ある。),少なからぬ会社原告の取締役が,Bの代表取締役及び社長執行役員・
CEOとしての適格性に問題があると認識していたことがうかがわれるから,
Bは,このような会社の役員としての適格性の問題から解職されるに至った面
があることは否定できない。
しかしながら,他方,被告A6自身,本人尋問において,損失隠しが公表さ
れることになれば,会社原告は倒産し,従業員やその家族が路頭に迷い,利害
関係人にも大変な迷惑を掛けるから,損失隠しがされたことが発覚することは
絶対避けようと思っていた旨供述していることに加え,前記の認定事実によ
れば,被告A6は,Bから,本件各レターにおいて,会社原告における本件国
内3社等の買収案件に関し,深刻なガバナンス上の問題がある旨の指摘を受け
た際,被告A8とともに,平成21年第三者委員会報告書等の資料を示しつつ,
本件国内3社について完全な調査を行い,独立した会計事務所による評価を行
ったなどと回答するなど,一貫して,上記の各買収について何らの疑念も存在
しないという態度を表明し,損失分離スキームの解消を目的として上記の各買
収を行ったことが露見しないように対処したこと,被告A6は,Bが,被告A
6及び被告A8に対し,「現段階では不適切な行為が行われた可能性を排除する
ことはできないと考えられる。」と結論付けたPwC中間報告書及び平成23年
10月11日付け本件レターⅥを送付して辞任を要求したのに対し,会社原告
の取締役らが当該レターを受信した日である同月13日に当該取締役らをH弁
護士の法律事務所に招集し,Bの解職を取締役らに告知した上で,翌14日開
催された10月14日取締役会においてBを代表取締役及び社長執行役員・C
EOから解職する旨の決議を成立させるなどしたことが認められる。
このように,被告A6は会社原告の倒産を避けるため,損失隠しの存在が公
表されることを何としても避けたいと思っていたというのであり,9月30日
取締役会でBをCEOに選任してからわずか2週間後,同人がPwC中間報告
書を示して被告A6の辞任を求めた直後に上記解職が行われたのであるから,
これらの事情によれば,被告A6は,Bの追及による損失分離スキームの発覚
を防ぐことを主たる目的として同人の解職を主導したものと認定するのが相当
である。
このような被告A6の行為が会社原告に対する善管注意義務及び忠実義務に
違反することは明らかであり,被告A6は会社原告に対する任務懈怠の責任を
免れない。
イ被告A8について
前記の認定事実によれば,被告A8は,被告A7らとともに損失分離スキ
ームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実務作業を
担っており,これによって会社原告は簿外の損失を保有し続けることができた
ことや,被告A8は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優先株の
買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを知悉し
ていたこと,それにもかかわらず,被告A8は,Bが送付した本件各レターに
対し,同人の指摘する疑念は存在しないとの回答を送付し続け,同人がPwC
中間報告書を示して被告A6及び被告A8の辞任を求めるようになった後は,
被告A6が招集したH弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の1
0月14日取締役会における同人の解職に異論を述べず,同取締役会において
解職決議にも賛成したことが認められるから,前記アで認定したとおり,少な
からぬ会社原告の取締役がBの代表取締役及び社長執行役員・CEOとしての
適格性に問題があると認識していたことがうかがわれることを考慮しても,被
告A8は,被告A6とともに,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐ
ことを主たる目的として,Bの解職に向けた上記の一連の行動を採ったと認定
するのが相当である。
このような被告A8の行為は会社原告に対する善管注意義務及び忠実義務に
違反するから,被告A8は会社原告に対する任務懈怠の責任を免れない。
ウ被告A9について
前記の認定事実記載のとおり,被告A9は,被告A7及び被告A8ととも
に損失分離スキームの構築・維持に関する具体的な実務作業を担っており,損
失分離スキームによって会社原告が簿外の損失を抱えていたことや,本件国内
3社の株式取得が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを
知悉していたこと,Bが被告A6及び被告A8に対して送付した本件各レター
並びにこれに対する被告A8の回答等は被告A9にも送付されていたから,被
告A9は,Bが本件国内3社等に関する買収案件について疑惑を指摘していた
のに対し,当該買収案件の目的が損失分離スキームの解消であるにもかかわら
ず,被告A8が事実に反して何らの疑惑はないとの立場で応対していることを
認識していたこと,被告A9は,Bが本件レターⅥによって被告A6及び被告
A8の辞任を求めた直後に,被告A6が会社原告の取締役らを招集したH弁護
士の法律事務所における集まりに参加し,その場で,被告A6から10月14
日取締役会においてBを解職する意向である旨を告げられたことからすれば,
被告A9は,被告A6が,Bの追及による損失分離スキームの発覚を防ぐこと
を主たる目的として同人を解職する旨の議案を提案したことを認識していたと
推認するのが相当である。
そうであるとすれば,被告A9は,そのような被告A6の違法行為を阻止す
るため,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負って
いたというべきであるにもかかわらず,実際には何らの措置を採らなかったば
かりか,10月14日取締役会においてBの解職に賛成することによって被告
A6の違法行為に加担したのであるから,会社原告に対する善管注意義務及び
忠実義務に違反するものとして,任務懈怠の責任を免れない。
エ被告A7について
前記前提事実によれば,被告A7は,別紙5「被告A2ら3名を除く被告ら
の役員在任期間等」記載のとおり,平成23年6月から監査役に就任していた
ことが認められるが,監査役も取締役と同様,会社に対する善管注意義務を負
っており(会社法330条,民法644条),取締役が不正行為をし,若しくは
当該行為をするおそれがあるときは,遅滞なく取締役会に報告しなければなら
ない義務(会社法382条)等を負っているものと解される。
そして,前記の認定事実によれば,被告A7は,被告A8らとともに損失
分離スキームを構築・維持するために具体的な手法を策定・実施するなどの実
務作業を担っており,これによって会社原告は簿外の損失を保有し続けること
ができたこと,被告A7は,本件国内3社の株式取得及びジャイラスの配当優
先株の買取り等が損失分離状態を解消するために実行されたものであることを
知悉していたこと,被告A7は,Bと被告A8との間の本件各レターその他の
メールのやり取りを認識し,被告A8が事実に反して何らの疑惑はないという
立場で応対していることも認識していたこと,それにもかかわらず,被告A7
は,Bが本件レターⅥによって被告A6及び被告A8の辞任を求めた直後,被
告A6が招集したH弁護士の法律事務所における集まりに参加し,翌日の10
月14日取締役会における同人の解職に異論を述べず,解職決議にも賛成した
ことが認められるから,被告A7は,被告A6が,Bの追求による損失分離ス
キームの発覚を防ぐことを主たる目的として同人を解職する旨の議案を10月
14日取締役会に提案したことを認識していたと推認するのが相当である。
そうであるとすれば,被告A7は,そのような被告A6の違法行為を阻止す
るため,取締役会や監査役会にその旨報告するなどの措置を採る義務を負って
いたというべきであるにもかかわらず,実際には何らの措置を採らなかったの
であるから,会社原告に対する善管注意義務に違反するものとして,任務懈怠
の責任を免れない。
争点イ(損害の発生の有無)について
ア前記認定事実によれば,会社原告は,平成23年10月14日,Bを代
表取締役及び社長執行役員・CEOから解職したことを公表したこと,会社原
告の株価は,当該公表前には概ね2400円前後で推移していたものの,公表
当日の終値は2045円に下落し,翌週にはさらに,終値が1555円,14
17円,1389円などと下落した上,本件第三者委員会の設立を準備してい
る旨を公表した同月21日には終値が1231円となり,更にその翌週の同月
24日には終値が1099円に下落していることが認められる。
このような株価の下落をもって,直ちに会社原告に損害が生じたものという
ことはできないものの,Bの解職前後における上記の株価の下落状況に加え,
Bを代表取締役及び社長執行役員・CEOから解
職することは,同人が指摘していた疑惑を隠蔽するためになされたとの見方を
されてもやむを得ないものであること(B自身,対外的に,過去の企業買収に
おける不明朗な支出を追及したのが解職の理由であったと主張した。),実際に,
Bの解職を受けて,会社原告の経営の混乱や迷走,コーポレートガバナンス(企
業統治)の体制や法令遵守の姿勢の欠如を指摘する多数の新聞報道がされ,会
社原告は,その後,各種プレスリリースや本件第三者委員会の設置等の対応を
強いられたことなどが認められるから,これらの事情を総合すれば,会社原告
には,Bの解職によって,信用毀損による損害が生じたものというべきである。
そして,当該損害の性質上,その額を立証することは極めて困難であるとい
えるから,民事訴訟法248条により,その損害額は,会社原告主張の100
0万円であると認定するのが相当である。
イこれに対し,株主原告は,当該損害額が10億円を下回らない旨を主張する。
Bの解職によって会社原告に信用毀損による損害が生じたというべきである
ことは,前記認定・説示のとおりであるが,前記のような事情を総合しても,
Bの解職により会社原告に生じた損害が10億円を下回らないとまで断ずる
ことはできず,他に株主原告の主張を的確に裏付ける証拠はないから,上記主
張は採用することができない。
4第6類型(剰余金の配当等関係)について
認定事実
ア第139期事業年度から第140事業年度までの間の期末配当の実施
平成19年3月期
会社原告の第983回取締役会は,平成19年5月8日開催され,配当総
額を64億8772万3272円,効力発生日を同年6月29日とする剰余
金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。被告A6,被告
A7及び被告A8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲Aカ
6の1)
当該配当議案は,平成19年6月28日開催された会社原告の定時株主総
483万4177円)が当該定時株主総会で決議された配当額よりも低額で
Aカ7の1,
8の1・2,16)
平成20年3月期
会社原告の第1002回取締役会は,平成20年5月8日開催され,配当
総額を54億0478万3360円,効力発生日を同年6月30日とする剰
余金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。被告A6,被
告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲A
カ6の2)
当該配当議案は,平成20年6月27日開催された会社原告の定時株主総
当が実施された(甲Aカ7の2,9の1・2,16)。
平成22年3月期
会社原告の第1037回取締役会は,平成22年5月11日開催され,配
当総額を40億4952万7545円,効力発生日を同年6月30日とする
剰余金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。被告A6,
被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲
Aカ6の3)
当該配当議案は,平成22年6月29日開催された会社原告の定時株主総
当が実施された(甲Aカ7の3,10の1・2,16)。
平成23年3月期
会社原告の第1055回取締役会は,平成23年5月11日開催され,配
当総額を40億0401万9900円,効力発生日を同年6月30日とする
剰余金の配当を定時株主総会に上程する議案が承認可決された。被告A6,
被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲
Aカ6の4)
当該配当議案は,平成23年6月29日開催された会社原告の定時株主総
当が実施された。また,同株主総会においては,被告A9を取締役に選任す
る議案も承認可決され,同株主総会は,同日午前11時26分に閉会した。
会社原告は,同日午後3時46分に,本件有価証券報告書を提出した。
(甲Aカ7の4,11の1・2,16,甲Aク4,弁論の全趣旨)
イ第139期事業年度から第143期事業年度までの間の中間配当の実施
平成19年9月期
会社原告の第993回取締役会は,平成19年11月6日開催され,配当
総額を54億0545万4740円,効力発生日を同年12月7日とする中
が実施された。被告A6,被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席し,
同議案に賛成した。(甲Aカ6の5,12の1・2)
平成20年9月期
会社原告の第1011回取締役会は,平成20年11月6日開催され,配
当総額を53億4455万7880円,効力発生日を同年12月5日とする
当が実施された。被告A6,被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席
し,同議案に賛成した。(甲Aカ6の6,13の1・2)
平成21年9月期
会社原告の第1028回取締役会は,平成21年11月6日開催され,配
当総額を40億4955万5925円,効力発生日を同年12月4日とする
当が実施された。被告A6,被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出席
し,同議案に賛成した。(甲Aカ6の7,14の1・2)
平成22年9月期
会社原告の第1046回取締役会は,平成22年11月5日に開催され,
配当総額を40億4950万9830円,効力発生日を同年12月3日とす
配当が実施された。被告A6,被告A7及び被告A8は,当該取締役会に出
席し,同議案に賛成した。(甲Aカ6の8,15の1・2)
ウ自己株式取得の実施
会社原告の第1002回取締役会は,平成20年5月8日開催され,会社
原告の普通株式350万株(上限)を100億円(上限)で取得する旨の自
己株式取得に関する議案が承認可決された。被告A6,被告A7及び被告A
8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲Aカ6の2)
り,平成20年5月9日から同年6月20日にかけて,会社原告の株式29
5万8000株を総額99億9773万円で取得した(甲Aカ4の1・2)。
会社原告の第1046回取締役会は,平成22年11月5日開催され,会
社原告の普通株式500万株(上限)を100億円(上限)で取得する旨の
自己株式取得に関する議案が承認可決された。被告A6,被告A7及び被告
A8は,当該取締役会に出席し,同議案に賛成した。(甲Aカ6の8)
り,平成22年11月8日から同年12月20日にかけて,会社原告の株式
422万2700株を総額99億9522万7400円で取得した(甲Aカ
4の3・4)。
エ会社原告における剰余金配当の事務等
会社原告においては,総務部企業法務グループが剰余金の配当等の事務を
担当しており,総務部を所轄するのはコーポレートセンター長であった。被告
A9は,平成23年3月期の期末配当の事務手続が行われた当時,コーポレー
トセンター長の地位にあった。
会社原告においては,期末配当を実施する方法には,配当金領収書により
配当を受領する方法と振込みにより配当を受領する方法とが存在したところ,
会社原告は,いずれの方法による場合においても,株主への配当金領収書の送
付や金融機関への振込手続を株主名簿管理人であった中央三井信託銀行(現三
井住友信託銀行。以下「中央三井信託」という。)に依頼していた。同依頼は,
株主総会において配当決議がされる前に行われており,中央三井信託の担当者
が株主総会に立ち会って配当決議がされたことを確認し次第,依頼された事務
手続を実行してすることとされており,配当決議がされた後に会社原告の担当
者が何らかの行為をすることは予定されていなかった。
(甲Aカ2,甲Aキ45,乙F1,証人U)
争点(被告A6,被告A7及び被告A8の会社法462条1項の責任の有無)
について
ア証拠(甲Aカ1の1~5,3の1~5)によれば,本件剰余金の配当等につ
いて,会社原告の提出した訂正後の有価証券報告書に従って分配可能額を算出
すると,別紙10「訂正後の財務諸表における分配可能額」記載のとおり,本
件剰余金の配当等は,いずれもその効力を生ずる日における分配可能額を超え
て行われたものと認められる。
イ被告A6,被告A7及び被告A8は,
本件剰余金の配当等のうち,平成19年3月期,平成20年3月期,平成22
年3月期及び平成23年3月期の各期末配当を定時株主総会に上程する議案
について,各取締役会において決議に賛成しているから,「当該株主総会に係
る総会議案提案取締役」(会社法461条1項8号,462条1項6号イ)に
該当する。
ウ被告A6,被告A7及び被告A8は,本
件剰余金の配当等のうち,平成19年9月期,平成20年9月期,平成21年
9月期及び平成22年9月期の各中間配当について,これらの議案が審議され
た各取締役会において剰余金の配当に賛成しているから,「当該行為に関する
職務を行った業務執行者」(会社法461条1項8号,462条1項柱書,会
社計算規則159条8号ハ)に該当する。
エ,被告A6,被告A7及び被告A8は,
本件剰余金の配当等のうち,平成20年5月及び平成22年11月の自己株式
の取得について,これらの議案が審議された各取締役会において同株式の取得
に賛成しているから,「当該行為に関する職務を行った業務執行者」(会社法4
61条1項2号,462条1項柱書,会社計算規則159条2号ハ)に該当す
る。
オしたがって,被告A6,被告A7及び被告A8は,会社法462条1項に基
づき,会社原告に対し,連帯して,本件剰余金の配当等により,株主に対して
交付された金銭合計586億7596万8936円(平成23年3月期の期末
配当に係る金額:39億9211万1088円,その余の本件剰余金の配当等
に係る金額:合計546億8385万7848円)を支払う義務を負う。
争点(被告A9の会社法462条1項の責任の有無)について
ア被告A9は,平成23年3月期の期
末配当の議案が承認可決された平成23年6月29日開催の定時株主総会で
取締役に選任されたこと,会社原告において,剰余金の配当の事務手続を担当
するのは総務部企業法務グループであり,被告A9は,当該期末配当の事務手
続が実施された当時,総務部を所轄するコーポレートセンター長の地位にあっ
たことが認められるが,他方,会社原告における期末配当の事務手続は,配当
金領収書を株主に送付する方法による場合と振込みによる方法を用いる場合
のいずれであっても,株主総会前に必要な事務手続は完了しており,株主総会
に立ち会った株主名簿管理人である中央三井信託の担当者が配当決議がされ
たことを確認し次第,依頼された事務手続を実行することとなっていたのであ
って,株主総会後に,配当実施のため,コーポレートセンター長であった被告
A9が指示ないし決裁するなど,会社原告側の手続がされることは予定されて
いなかったことが認められる。
そうすると,被告A9が,取締役として選任された後に作為によって剰余金
の配当による金銭の交付に関する職務を行ったということはできないから,こ
の点から,被告A9が「剰余金の配当による金銭等の交付に関する職務を行っ
た取締役」(会社計算規則159条8号イ)に当たるということはできない。
イまた,本件全証拠に照らしても,被告A9が,取締役として選任された後に,
前記配当を中止するための措置を採ったことはうかがわれないが,前記
定事実によれば,被告A9は平成20年6月から平成22年6月まで,会社原
告を退職する形でITXに勤務していたことが認められ,証拠(被告A9本人)
によれば,損失分離スキームの実行を裏付ける資料等を所持していなかったこ
とが認められるから,これらの事情によれば,前記配当が実施されるまでの限
られた時間で,違法配当の前提となる分配可能額の有無及び額を確認し,被告
A6や他の取締役等に進言するなどの行為を行う時間的猶予があったというこ
とはできず,取締役就任後に平成23年3月期の期末配当を中止させることは
極めて困難であったというべきである(原告らは,被告A9は,少なくとも,
配当金領収証送付分及び会社原告の大株主の上位10社程度については,配当
を実施しないことが可能であったと主張するが,これを認めるに足りる的確か
つ客観的な証拠はない。)。
そうすると,被告A9は,不作為によって剰余金の配当による金銭の交付に
関する職務を行ったと評価することもできないから,この点からも,被告A9
が「剰余金の配当による金銭等の交付に関する職務を行った取締役」(会社計
算規則159条8号イ)に当たるということはできない。
ウしたがって,被告A9は,平成23年3月期の期末配当に関して,取締役と
しての責任を負わないものというべきである。
5第7類型(課徴金・罰金関係)について
承継前被告A1及び被告A5について
ア争点ア(善管注意義務違反の有無)について
承継前被告A1及び被告A5が,損失分離スキームの構築・維持に関して取
締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,会社原告に対
する任務懈怠の責任を負うと認められることは,前記1
したとおりである。
イ争点イ(損害の発生及び因果関係の有無)について
前記前提事実及び前記1の認定事実によれば,承継前被告A1及び被告
A5の上記任務懈怠がなければ,損失分離スキームの構築・維持の状態は作
出されず,当該状態を前提とする虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提
出されることはなく,したがって,会社原告が本件罰金等の支払を余儀なく
されることもなかったと認定するのが相当であるから,被告A2ら3名及び
被告A5は,当該支払により会社原告が被った損害(合計7億1986万円)
を賠償する責任を負うものというべきである。
これに対し,被告A2ら3名及び被告A5は,まず,法人の受けた罰金や
課徴金について取締役個人に賠償責任を課すべきでない旨主張する。しかし
ながら,被告A5が指摘する金商法207条1項1号及び同法172条の4
の各規定の内容や沿革等を考慮しても,取締役の任務懈怠により会社が罰金
や課徴金を支払うことを余儀なくされた場合において,会社が当該取締役に
対して当該支払額の賠償請求をすることを認めることをもって,上記各規定
の趣旨・目的に反するものとは解されない。また,法人である会社に科され
た罰金について,取締役に当該会社に対する損害賠償責任を課したとしても,
そのこと自体をもって,二重処罰に当たるということはできないし,法人を
個人とは別に罰した趣旨が全うされないことになるということもできない。
したがって,上記主張は採用することができない。
また,被告A2ら3名及び被告A5は,本件有価証券報告書等の提出は,
承継前被告A1及び被告A5の退任後に,後任の代表取締役等の選択ないし
意思決定によって行われたものであるから,両名の上記任務懈怠と本件有価
証券報告書等の提出との間には相当因果関係がない旨主張する。しかしなが
ら,前記1の認定事実によれば,承継前被告A1及び被告A5は,会社原
告の社長等として,会社原告の抱える証券投資等の含み損を表沙汰にしない
方針を決定し,被告A7らの策定した損失分離スキームに関する具体的な手
法を了承するなど,損失分離スキームの構築・維持に関して主導的な役割を
果たしたこと,承継前被告A1及び被告A5は,その後,上記行為の影響を
排除するための措置を講じたことは全くうかがわれないこと,承継前被告A
1及び被告A5の部下として両名の指揮の下で同スキームの維持等に当た
った被告A6,被告A7及び被告A8は,承継前被告A1及び被告A5の退
任後も,同スキームにより既に形成されていた損失分離状態を維持すること
とし,そのために虚偽記載のある本件有価証券報告書等を提出するとの判断
等をしたことが認められるから,これらの事情によれば,承継前被告A1及
び被告A5の在任中の任務懈怠と本件罰金等の支払との間の相当因果関係
を否定することはできないものというべきである。
さらに,被告A5は,四半期報告書の虚偽記載が課徴金の対象とする法律
改正がされたのは被告A5が退任した後であるから,被告A5の在任中の行
為と本件課徴金の支払との間には相当因果関係がない旨も主張するが,その
ような事情によって相当因果関係を否定すべきものとは解されない。
ウしたがって,被告A2ら3名及び被告A5は,本件罰金等に係る7億198
6万円の損害について,これを会社原告に賠償する責任を負う。
被告A6,被告A7及び被告A8について
ア争点ア(善管注意義務違反の有無)について
被告A6,被告A7及び被告A8が,損失分離スキームの構築・維持に関し
て取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,会社原告
に対する任務懈怠の責任を負うと認められることは,前記1
説示したとおりである。
また,会社原告が虚偽記載のある有価証券報告書及び本件四半期報告書を提
出したことは,前記前提事実ア記載のとおりであるところ,被告A6,被告
A7及び被告A8は,当該有価証券報告書等の作成及び提出を行い又はこれに
加功したものであり,取締役としての善管注意義務及び忠実義務に違反するも
のとして会社原告に対する任務懈怠の責任を負うことは明らかである。
イ争点イ(損害の発生及び因果関係の有無)について
前記前提事実及び前記1の認定事実によれば,被告A6,被告A7及び被
告A8の上記任務懈怠がなければ,損失分離スキームが維持されることはなく,
これを前提とする虚偽記載を含む本件有価証券報告書等が提出されることは
なく,したがって,会社原告が本件罰金等の支払を余儀なくされることはなか
ったと認定するのが相当であるから,被告A6,被告A7及び被告A8は,当
該支払により会社原告が被った損害(合計7億1986万円)を賠償する責任
を負うものというべきである。
これに対し,被告A6,被告A7及び被告A8は,被告A2ら3名及び被告
A5の主張を援用して,法人に課せられた罰金や課徴金について取締役個人に
賠償責任を課すべきでない旨主張するが,かかる主張を採用することができな
被告A9について
ア争点ア(善管注意義務違反の有無)について
前記のとおり,被告A9は,平成23年6月29日に開催された定時株主
総会において,取締役に選任されたものであり,被告A9が取締役に選任さ
れた以降に提出された開示書類は,本件有価証券報告書等のうち,本件有価
証券報告書及び本件四半期報告書のみである。
前記1の認定事実並びに4及びの認定事実によれば,本件有価証券
報告書は,平成23年6月29日午後3時46分に提出されたこと,被告A
9が同日開催された定時株主総会において取締役に選任されたところ,同株
主総会は同日午前11時26分に閉会したこと,被告A9は,その当時損失
分離スキームの実行を裏付ける資料等を所持していなかったことが認めら
れるから,被告A9が,取締役に選任された後,本件有価証券報告書が提出
されるまでの約4時間のうちに,虚偽記載の前提となる事実関係を確認し,
被告A6に進言するなどして本件有価証券報告書の提出を中止させること
は極めて困難であったというべきである。
そうすると,被告A9は,本件有価証券報告書の提出に関し,被告A6に
よる業務執行を監視して虚偽記載のない有価証券報告書を提出させるため
の措置を採るべき注意義務を怠ったとは認められない。
これに対し,本件四半期報告書は,平成23年8月11日に提出されたこ
とが認められる(弁論の全趣旨)ところ,被告A9が取締役に就任した同年
6月29日から本件四半期報告書が提出された同年8月11日までには1
か月以上の十分な時間があり,被告A9は,その間,本件四半期報告書の虚
偽記載の前提となる事実関係を確認し,被告A6に進言するなどして本件四
半期報告書の提出を阻止することは可能であったというべきであるから,被
告A9は,虚偽記載のない本件四半期報告書を提出させるための措置を採る
べき注意義務を怠ったものと認められる。
この点に関し,被告A9は,本件四半期報告書の連結純資産額等の記載が
間違っているという認識はなかったなどと主張する。しかし,前記1の認
定事実によれば,会社原告は,長年にわたり損失分離スキームを構築・維持
して含み損を有価証券報告書等に計上しない処理を行っていた上,これを解
消するために本件国内3社の株式取得等を利用したこと,被告A9は,損失
分離スキームの構築・維持並びに本件国内3社の株式取得に関する実務作業
に従事していたことが認められるから,上記のとおり1か月以上の調査・確
認期間があれば,本件四半期報告書の記載に虚偽があるか否かを調査し認識
することは容易であったといえるのであって,被告A9の上記主張は採用す
ることができない。
したがって,被告A9は,本件四半期報告書の提出に関してのみ,取締役
としての善管注意義務及び忠実義務に違反するものとして,会社原告に対す
る任務懈怠の責任を負う。
イ争点イ(損害の発生及び因果関係の有無)について
前記前提事実及び上記アの認定・説示によれば,被告A9の上記任務懈怠が
なければ,会社原告が本件四半期報告書の提出に係る本件課徴金1986万円
の支払を余儀なくされることはなかったと認定するのが相当であるから,被告
A9は,当該支払により会社原告が被った損害(1986万円)を賠償する責
任を負うものというべきである。
6第2事件について
9月30日取締役会における第2事件被告らの善管注意義務違反の有無につ
いて
アACTAに
掲載された本件各記事は,会社原告の違法行為の存在に関して客観的な根拠
を示したものではなく,推測の域を出ない内容であったこと,②Bは,平成
23年9月24日から同月28日にかけて,第2事件被告ら(被告A15を
除く。)を含む会社原告の取締役等に対し,本件国内3社の株式取得及びジャ
イラス買収に関する金銭の支払について,「深刻なガバナンスの問題」と記載
した本件各レターを送付したところ,被告A8は,本件各レターを受領した
当日ないし翌日にはBに対し電子メールを返信するなどして対応していたこ
と,③その際,被告A8は,Bから回答を求められた本件国内3社の株式取
得及びジャイラス買収に関する全ての質問に対して個別に回答しており,そ
の回答内容も一応合理的なものであって,損失分離スキームに関する事情を
知らない第2事件被告らが何らかの疑念を抱くものではなかったこと,④被
告A8は,Bが提出を求めた資料について,平成21年第三者委員会報告書
及びG公認会計士事務所作成に係る本件国内3社の株主価値算定報告書等の
英訳を準備するなどして送付したこと,⑤本件国内3社の株式取得及びジャ
イラス買収については,平成21年第三者委員会報告書において,取引に不
正・違法行為があったとの事情は認識できなかったと結論付けられているこ
と,⑥Bは,9月30日取締役会において,「最終的に私たちは非常に建設的
な理解に達したと思います。」,「非常に単刀直入な議論をし,意思決定を行い
ました。私はこれらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないこ
とを十分に確信できました。」,「今は前向きに未来に目を向けるつもりである
ことをはっきりと表明します。」など,本件国内3社の株式取得及びジャイラ
ス買収に関する自身の疑問点が解消したことを明らかにする発言をしている
ことが認められる。
これらの事情に徴すると,9月30日取締役会の時点で,損失分離スキー
ムに関する事情を知らない第2事件被告らにおいて,Bの指摘を踏まえて違
法行為の有無について調査するなどの対応を要するほどに違法行為の疑いが
強まっていたとはいえないから,同時点で,第2事件被告らに善管注意義務
違反があったとはいうことはできない。
イなお,第2事件被告らのうち一部の者が,本件国内3社の株式取得に係る
議案が審議された第999回取締役会及びジャイラスの配当優先株の買取り
に係る議案が審議された第1034回取締役会に出席し,これらの議案に賛
成していることは,前記2記載のとおりであるが,当該被告らは,これら
の議案提出の動機である損失分離スキームの解消についての認識を有してい
なかったのであるから,上記事実をもって,前記認定を左右するに足りるも
のではない。
ウまた,被告A15は,本件レターⅠ~Ⅲの日本語訳並びに本件レターⅣ及
びⅤの英文部分及び日本語訳を受領した事実を否認するところ,仮に被告A
15がこれらを受領していたとしても,9月30日取締役会の時点において
義務違反が認められないことは,前記認定・説示のとおりであるから,いず
れにせよ被告A15に善管注意義務の違反があったということはできない。
10月14日取締役会における第2事件被告ら(被告A17及び被告A19を
除く。)の善管注意義務違反の有無について
アBは,9月30日取締役会の後,第2事件
被告ら(被告A15を除く。)を含む会社原告の取締役等に対し,PwC中間
報告書を添付した本件レターⅥを送付したこと,②PwC中間報告書は,会社
原告と利害関係のない第三者の立場から,ジャイラス買収等に係る金銭支払の
適法性を検証したものであるところ,「現段階では不適切な行為が行われた可
能性を排除することはできないと考えられる。」と結論付けるものであったこ
と,③PwC中間報告書がそのように結論付けた根拠についても,FA報酬
が買収総額の6.25パーセントと設定されているのは明らかに高額であるこ
と,AXAMに対してどのような財務デューディリジェンスが実施されたか
不明瞭であることなど,ある程度具体的に示していることが認められるから,
10月14日取締役会の時点においては,9月30日取締役会の時点に比して,
違法行為の存在に関する疑いは一定程度強まっていたというべきである。この
ような状況において,疑惑を追及していた本人であるBを解職することは,疑
惑の解明という観点からは最善の選択とはいい難い。
イの認定事実によれば,Bについては,
各事業体の長に相談せずに独断で人事等を決めたり日本を不在にする期間が
長いといった行動等が見られ,少なからぬ会社原告の取締役が,Bの代表取締
役及び社長執行役員・CEOとしての適格性に問題があると認識していたこと
がうかがわれること,9月30日取締役会に至るまでの被告A8の対応は,損
失分離スキームに関する事情を知らない第2事件被告らにとって,一見して不
合理なものではなかったこと,Bが,9月30日取締役会において,「私はこ
れらの取引の関係者で個人的な利益を得た人は誰もいないことを十分に確信
できました。」などと発言し,自身の追求していた疑問が解消した旨の態度を
一旦は表明していたこと,Bが入手したPwC中間報告書も,上記結論部分に
先立ち,「不適切な行為が行われたと確信することはできない」と記載して,
会社原告の過去の買収案件に関する違法ないし不適切行為の存在を断言した
ものではないことが認められ,これらの事情に徴すると,10月14日取締役
会の時点においても,Bの指摘する違法行為の存在が,株主原告の主張するよ
うにほぼ確実な程度にまで明確になっていたとはいうことはできない。
さらに,前記310月13日のH弁護士
の法律事務所における打合せにおいても,被告A6が資質上の問題からBを解
職する意向を有している旨を明らかにし,H弁護士がそのための手続を説明し
たにすぎないことが認められ,損失分離スキームの認識を有していなかった第
2事件被告らが,疑惑の追及を免れるという被告A6の意図を認識し得るよう
なやり取りがあったわけではないことをも併せ考慮すれば,10月14日取締
役会の時点において,当該取締役会に出席した第2事件被告らに,被告A6及
び被告A8に対し,より詳細な調査結果が判明するまで自宅待機を勧告し,あ
るいは,Bの解職に反対するなど,Bの調査に対する妨害を回避するための方
策等を採るべき義務があったとまでいうことはできない。
ウなお,被告A15は,PwC中間報告書を受領した事実を否認するところ,
仮に被告A15がこれを受領していたとしても,10月14日取締役会の時点
において義務違反が認められないことは前記認定・説示のとおりであるから,
いずれにせよ被告A15に善管注意義務の違反があったということはできな
い。
エしたがって,10月14日取締役会に出席した第2事件被告らに善管注意義
務の違反があったと認めることはできない。
10月14日取締役会に出席しなかった被告A17及び被告A19の善管注意
義務違反の有無について
ア前記前提事実及び被告A17及び被告A19
は,10月14日取締役会に出席しておらず,被告A6がBを解職する意向で
ある旨を明らかにした平成23年10月13日のH弁護士の法律事務所におけ
る打合せにも参加していなかったこと,Bは,被告A17及び被告A19宛て
にも本件レターⅥ及びPwC中間報告書を添付した電子メールを送付している
ことが認められるが,本件レターⅥ及びPwC中間報告書の内容から,10月
14日取締役会においてBの解職議案が提出されることが直ちに判明しあるい
はこれを推測することができたということはできず,他に,被告A17及び被
告A19が,10月14日取締役会においてBの解職議案が提出されることを
覚知することができたことを認めるに足りる証拠はないから,同被告らがあら
かじめBの解職に反対である旨を表明すべきであったとの株主原告の主張は,
その前提を欠くものである。
イBの代表
取締役及び社長執行役員・CEOとしての資質が問題であるとして,議論の対
象となり得る状況にあったことが認められることに加え,会社原告は,平成2
3年10月21日には,本件第三者委員会の設置を準備している旨を公表し,
同年11月1日には同委員会を設置するとともにその旨を公表したこと,その
間,同年10月26日には,被告A6が会社原告の代表取締役会長及び社長執
行役員の役職を返上して取締役になり,さらに同年11月24日付けで,被告
A6及び被告A8が会社原告の取締役を辞任し,被告A7が監査役を辞任した
ことが認められ,10月14日取締役会の1週間後以降は,会社原告自身によ
る疑惑の解明に向けての動きが進んだというのであるから,被告A17及び被
告A19が,10月14日取締役会の後において,Bの解職決議がされたこと
に異議を述べるなどの義務があったということもできない。
ウしたがって,被告A17及び被告A19にBの解職に係る善管注意義務違反
があったということはできない。
7抗弁について
争点ア(消滅時効の抗弁の成否(第1類型及び第2類型関係))について
前記1で認定・説示したとおり,第1類型(金利・運用手数料関係)について
は,任務懈怠との相当因果関係のある損害の発生が認められず,また,第2類型
(ITX株式運用損関係)については,承継前被告A1,被告A5及び被告A6
の任務懈怠が認められず,いずれも損害賠償請求権が認められないため,消滅時
効の抗弁について判断することを要しない。
争点イ(信義則ないし過失相殺の抗弁の成否(第1類型,第3類型,第4類
型及び第7類型関係))について
被告A7,被告A8及び被告A9は,会社原告の指示に従って損失分離スキー
ムに関する実務作業等に従事していたにすぎないとして,会社原告による損害賠
償請求は信義則に反する旨や過失相殺の規定を類推適用すべきである旨を主張
する。
たしかに,証拠(乙D4,E1,被告A7本人,被告A8本人,被告A9本人)
によれば,被告A7,被告A8及び被告A9は,程度の差はあるものの,会社原
告の上司であった承継前被告A1,被告A5又は被告A6の指示により,損失分
離スキームに実行等の作業に従事していたことが認められる。しかしながら,本
件の損失分離スキームの構築,維持等が社会的に容認されない行為であることは
当時から明らかであったところ,これらを行うことについて会社原告の正式な機
関決定はなかったものであり(たとえ会社原告の歴代の社長や会長の指示があっ
たとしても,そのことをもって,会社原告の指示があった場合と同視することは
できない。),そのことを被告A7,被告A8及び被告A9は知悉していたことは,
前記認定・説示のとおりである。本件において,被告A7,被告A8及び被告A
9は,同被告らが会社原告の取締役又は監査役の地位にあった期間中の任務懈怠
の責任が問われているところ,そのような地位に就いた同被告らは,使用人であ
った時とは異なり,代表取締役等の職務執行を監視・監督し,違法行為等があれ
ばこれを是正する義務を負っていたのであるから,たとえ会社原告の歴代の社長
や会長(承継前被告A1,被告A5及び被告A6)の強い指示等があったとして
も,そのことをもって,会社原告による損害賠償請求が信義則に反し,あるいは
過失相殺の法理により損害額を減額しなければならない事情があるということ
はできない。このことは,被告A7や被告A9が歴代の社長や会長に対して損失
の開示を進言したことがあったとしても,異なるものではない。
したがって,被告A7,被告A8及び被告A9の上記主張は採用することがで
きない。
争点ウ(権利濫用の抗弁の成否(第6類型関係))について
仮に,本件剰余金の配当等の当時の会社原告について,連結会計上は分配可能
額があり,子会社からの配当金を受領して配当を実施することが可能であったと
しても,あるいは,現時点において会社原告単体の分配可能額がゼロを上回って
おり,剰余金の配当も行われているとしても,これらの事情をもって,原告らの
会社法462条に基づく請求が権利濫用に当たると断ずることはできない。
したがって,被告A7,被告A8及び被告A9の主張は採用することができな
い。
8各請求のまとめ
第1事件及び第4事件
ア第1類型(金利・運用手数料関係)について
前記1で認定・説示したとおり,本件金利及び本件ファンド運用手数料等に
関して会社原告に損害が生じたとは認められないから,原告らの第1類型に係
る請求は理由がない。
イ第2類型(ITX株式運用損関係)について
前記1で認定・説示したとおり,ITX株式の取得に関して承継前被告A1,
被告A5及び被告A6に任務懈怠は認められないから,原告らの第2類型に係
る請求は理由がない。
ウ第3類型(国内3社株式取得関係)について
前記2アで認定・説示したとおり,本件国内3社の株式取得に関して会社
原告に損害が生じたとは認められないため,原告らの第3類型に係る請求は理
由がない。
エ第4類型(ジャイラス関係)について
前記2イで認定・説示したとおり,ジャイラス買収に関して会社原告に損
害が生じたとは認められないから,原告らの第4類型に係る請求は理由がない。
オ第5類型(疑惑発覚後の対応関係)について
前記3で認定・説示したとおり,被告A6,被告A7,被告A8及び被告A
9は,疑惑発覚後の対応に係る任務懈怠により,会社原告に1000万円の損
害を与えたと認められるから,会社原告の第5類型に係る請求は全部理由があ
る。株主原告の第5類型に係る請求は,上記の限度で理由があるが,その余は
理由がない。
カ第6類型(剰余金の配当等関係)について
被告A6,被告A7及び被告A8について
前記4で認定・説示したとおり,被告A6,被告A7及び被告A8は,分
配可能額を超える本件剰余金の配当等合計586億7596万8936円
(①546億8385万7848円,②39億9211万1088円)につ
いて会社法462条1項の金銭支払義務を負うから,原告らの同被告らに対
する請求は全部理由がある。
なお,遅延損害金の起算日については,会社原告は,上記被告ら各人につ
いてそれぞれに対する訴状送達日の翌日とし,株主原告は,上記被告ら全員
について(前記被告らのうち訴状送達日の最も遅い)被告A6に対する訴状
送達日の翌日としているため,原告らの請求は,上記①のうち10億円に対
しては,被告A6については平成24年2月2日から,被告A7については
同年1月30日から,被告A8については同月29日から,上記①の残額5
36億8385万7848円に対しては,いずれの上記被告らについても同
年2月2日から,また,上記②のうち1億円に対しては,被告A6について
は同日から,被告A7については同年1月30日から,被告A8については
同月29日から,上記②の残額38億9211万1088円に対しては,い
ずれの上記被告らについても同年2月2日から,それぞれ支払済みまで民法
所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があることとな
る。
被告A9について
前記4で認定・説示したとおり,被告A9は本件剰余金の配当等に関して
会社法462条1項の責任を負わないため,原告らの被告A9に対する請求
は理由がない。
キ第7類型(課徴金・罰金関係)について
被告A2ら3名について
前記5で認定・説示したとおり,承継前被告A1は,その任務懈怠により,
会社原告に,本件罰金等に係る7億1986万円の損害を与えたものであり,
会社原告に対して同額の損害賠償債務を負っていたところ,被告A2ら3名
は承継前被告A1の地位を相続したため,会社原告の被告A2ら3名に対す
る第7類型に係る請求(一部請求)は全部理由がある。ただし,前記前提事
実記載のとおり,被告A2ら3名は,東京家庭裁判所に対して限定承認の申
述をし,同裁判所によりこれが受理されているから,限定承認の抗弁が認め
られ,承継前被告A1から相続した財産の存する限度でのみ責任を負う。
被告A5,被告A6,被告A7及び被告A8について
前記5で認定・説示したとおり,被告A5,被告A6,被告A7及び被告
A8は,その任務懈怠により,会社原告に,本件罰金等に係る7億1986
万円の損害を与えたのであるから,会社原告の同被告らに対する第7類型に
係る請求(一部請求)は全部理由がある。
被告A9について
前記5で認定・説示したとおり,被告A9は,本件四半期報告書に係る本
件課徴金1986万円についてのみ責任が認められるため,会社原告の被告
A9に対する第7類型に係る請求は,1986万円及びこれに対する訴えの
変更申立書送達日の翌日である平成26年7月3日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,
その余は理由がない。
第2事件
前記6で認定・説示したとおり,第2事件被告らの任務懈怠は認められないか
ら,株主原告の第2事件に係る請求は理由がない。
第4結論
以上によれば,原告らの請求は,前記第3の8において理由があると記載した限
度でこれを認容し,その余は理由がないのでこれを棄却することとして,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第8部
裁判長裁判官大竹昭彦
裁判官小川惠輔
裁判官秋吉信彦は転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官大竹昭彦

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